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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第3章 勇者、本格的登山にチャレンジ
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第18話 魔族たちの饗宴~その1~

 コシンジュがそこに入ると、そこはただっぴろい円形の広間だった。

 ヴァルトの後のように天井の一部が(くず)れ、青紫(あおむらさき)に染まった空は早くも星をまたたかせている。


 コシンジュはあたりを見回し、叫んだ。


「おいっ! 隠れてないで出て来いよっ! 正々堂々と勝負するんじゃなかったのかっ!?」


 妙齢(みょうれい)の男性の声が暗闇からこだまする。


「おっとすまないね。別に隠れるつもりはないんだ。

 ただわがはいが戦う前に、どうしてもお相手したいという連中がいてね」


 すると、暗がりから何かが現れた。1つじゃなく、いくつも……


 コシンジュは眉をひそめた。

 それはくたびれた鎖かたびらを身にまとった、赤茶けたガイコツの集団だった。

 持っている武器は刃物、鈍器ともにサビついている。


「やめてくれよこんなマネは。

 こんなんでオレに勝てるわけがないし、だいいち死んだ人たちを(なぐ)るなんて不謹慎(ふきんしん)きわまりない!」

「確かにね。だけど精神的には深く傷つくだろう?

 コシンジュ君は誰に対しても優しいからね」


 コシンジュは歯がみした。

 まったく魔物ってやつは、なんでどいつもこいつもやることが薄汚(うすぎたな)いんだ!


「……ふざけんなっ!

 っていうかごめんなさいっっ!」


 コシンジュは(あやま)りながらガイコツを殴りつける。

 光を放ってガイコツはバラバラに(くだ)け散る。


 何度も何度も殴りつけているうちに、周りにいたガイコツは1体もいなくなってきた。


「いい加減出て来いよっ!

 下手な小細工はうんざりだぞっっ!」

「そう声を荒げないでくれたまえよ。今きちんと出てくるから」


 パチンと指を鳴らす音が聞こえると、突然周りのたいまつが燃え盛った。

 もうあたりも見えなくなってきているのでこれはありがたい。

 と言っても敵にとっても視界が良好になるわけなのだが。


 現れた中年男性は、口の片方を吊りあげて不敵に笑う。


「ククククク……わがはいは一介の人間から魔界の頭目にまでのし上がった。

 どうだい? 君も我々と契約(けいやく)を結べば強大な力を手に入れられるぞ」

「強大な力なんてのはもうもらってる。と言っても借りもんだけどな」


 そう言ってコシンジュは棍棒の先を突きつけた。

 すると相手は顔を下げ、声を低くして笑いはじめた。


「なにがおかしいんだよ」

「クククク……わかっていないねコシンジュ君は。

 魔物というものは君が考えるような、単なる魔力のかたまりではないのだよっっ!」


 言うとブラッドラキュラーは大きくマントを広げた。

 とたんにそのまわりから砂嵐が舞い上がり、コシンジュは身を伏せずにはいられなかった。


「魔族の寿命(じゅみょう)を知っているかねっ!

 それは君が想像するよりもずっとずっと長い、永遠とすら言えるものだっ!

 身体能力は大きく上昇し、生命力も格段に強くなる! 頭部や心臓と言った急所を直接狙わなければ死ぬこともないっ! 手足を斬り落としても数カ月で再生するっ!

 魔物になればいいことずくめだっ!」

「それだけが特典かっ!? まだ化け物になる気はしないねっ!」


 コシンジュは言いながら目線を向けると、その身体がどこか変形しているようにも見える。


「もちろん違うともっ!

 上級魔物となれば、簡単な魔法なら無条件で発動することができるっ!

 特に属性魔物となれば強力な属性魔法を呪文の詠唱(えいしょう)をせずに発動することが可能だっ!

 しかも魔力は無尽蔵(むじんぞう)っ! 精神力切れでバテる心配もないっ!」


 砂嵐がやんだ。顔をあげると、そこには先ほどとは別の姿が現れていた。

 顔は完全に人間のものではなく、コウモリのような不気味なものになっている。

 背中のマントは羽根のようなものになり、紳士服のようなものから長い手足が伸びて鋭い爪を見せつける。


「どうだね。これがわがはいの真の姿だ。

『ヴァンパイア』と呼ばれる、魔界でも特に珍しいアンデッドだ」

「ダメだ。その姿を見てまったく魅力(みりょく)がなくなった」


 コシンジュがいやいやすると、ヴァンパイアはニィッと笑って鋭いキバを見せつけた。


「わがはいの大好物は人間の血だ。

 もちろん女性のものが最高だが、君は若い男の子だな。

 はっきり言って好みの対象内だ」

「ロヒインみたいなことを言うんじゃねえっ!」


 コシンジュが正面に構えると、ブラッドは下から爪を振りかぶり、そこから砂を巻き上げた。

 勢いよく飛ばされたそれをコシンジュは横にローリングしてかわす。


「なかなかいい動きだっ! ヒポカンポスから学んだようだなっ!

 散発的な攻撃は棍棒で防ぐよりもかわすほうがたやすい!」

「砂を飛ばすだけが能じゃないんだろお前っ!」


 コウモリ人間は「もちろんだとも!」と叫びながら、羽根を大きくはばたかせ宙に舞い上がった。

 両手を広げ、大きく(かか)げた。


「いでよっ! 魔界の鋼鉄(こうてつ)の剣っ!

 地の底より姿を現し、わが敵を突きさせっっ!」


 すると床のあちこちが大きくひび割れ、上に向かって赤い光を放った。

 やがてその下から何かが現れると、にぶい光を放つ複数の剣だった。


「うわっ、まいったな。

 こんなにたくさんの武器を使うのかよ……」


 ざっと数本の剣がコシンジュの周りを取り囲むと、その切っ先がコシンジュのほうに向き、一気にこちらへと迫った。

 コシンジュは「くそっ!」と叫びながら身を伏せ、鉄の剣が通り過ぎるのを待つ。


 やがて時間をおいて剣がこちらに振り返り、コシンジュのもとへ向かう。

 コシンジュはそれらのひとつを棍棒で弾いたが、激しい光を放ったにもかかわらず折れる感触はない。


「くそっ! 神様の武器でも壊れないってかっ!」

「魔法の武器だぞっ!?

 もちろん魔界の物質の中でも最も強度を(ほこ)る! 君の棍棒でもたたき折るのは難しいぞっ!」


 ランダムでおそってくる剣の数々は、クルクルと回転したり、上空からおそってきたり、あらゆるアプローチでコシンジュを斬り裂こうとする。


「なんだよもうっ! このまんまだとひと思いに殺しちまうぜっ!

 血の抜けたオレの死体なんて面白くもないだろっ!」

「なにを言っているっ!

 我々は復讐のためにここに来たのだっ!

 君の血をいただくなんぞおまけ程度にしか期待していないっ!」


 まったく手加減するつもりはないって言うことか。

 仕方ない、いいアイディアが思い浮かぶまで付き合うしかないか。

 と言っても妙案は浮かびそうにない。休みなくやってくる攻撃にひたすら対処するだけ。

 空中を飛んでいる奴に反撃するためには、棍棒で何かをたたき投げする必要がある。

 しかし床のガレキを拾っている余裕はない。


 そうしているうちに足元から鉄の剣がやってきた。

 コシンジュが思わずジャンプすると、うまいことに両足が剣の上に乗っかり、コシンジュの身体は上の方にもっていかれる。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 バランスをくずし落ちそうになると、あわてて剣の柄を持ってぶら下がる形になった。

 まさかの空中飛行でコシンジュは動転するが、これはむしろチャンスだと思い返し棍棒を刀身に叩きつける。

 一発ではもちろん折れないので、同じ場所を何度も叩く。


「こしゃくなっ!」


 何かが向かってくる感じがしたので見回すと、別の剣がこちらに向かってやってくる。

 あわてて身をかわそうとするが、空中ではそれも難しく背中の一部が斬られた。

 顔をしかめながらも作業を再開する。しかし今度は持っている剣自体が壁へと押し迫る。


 壁に思い切りたたきつけられると同時に、剣をにぎる指も壁にめり込む。

「あいだぁぁぁぁぁぁっっっ!」痛みをぐっとこらえながら、渾身(こんしん)の力で棍棒を叩きつけた。


 バリイィィン、という甲高い音をたてながら剣は真っ二つに折れた。

 壁に固定されたために棍棒の威力が増したらしい。

 とたんに身体が下へ落ちると、受け身を取りきれずに尻もちをついた。


「ぐへぇっっ! いててててて……」


 尻をなでながらもコシンジュは剣の破片を拾い、立ち上がる。

 そうしているうちに複数の剣がこちらへと向かってくる。

 コシンジュはあわてず、破片を宙に放り投げると、下に落ちたタイミングで思い切り棍棒を叩きつけた。


 光をまとった薄い物体はまっすぐブラッドの身体に向かい、わき腹の位置に吸い込まれた。

 血吹雪(ふぶき)とともにコウモリ男の身体がぐっと折れる。


「ぐふぉぉぉっっ!」


 ヴァンパイアは空を舞うことができず、そのまま地面にスタッと降りた。

 同時に魔法の剣も次々と床にカランと落ちる。

 コシンジュは使い手のほうには向かわず、落ちた剣のほうに向かった。


 大きく棍棒を振り上げ、床にたたきつける。

 激しい光をまとって剣は真っ二つに折れた。1本だけではなく、そばに落ちている別の剣にも同じ攻撃を見舞った。そうやって相手の武器を次から次へと破壊する。

 4本目に達したところで、ブラットが片手をあげた。

 離れたところに落ちていた剣がすさまじい勢いでやってくるが、コシンジュはあわてずに身を伏せる。

 剣は反対側の壁に深々と突き刺さった。


「そろそろボスをぶっ飛ばしますかっっ!」


 そう言って棍棒を振りかぶりながらブラッドのほうに向かうと、相手が突然こちらに向かって手のひらを向けた。


 突然、息が苦しくなった。

 それだけでなく、なんだか身体が急激に熱くなったような感覚を覚える。

 なにが起こった?


 ブラッドは鋭いキバを見せつけながら、こちらに笑いかける。


「無機物を操るだけが、わがはいの能力だとでも思っているのかね?

 わがはいの能力は、正確には『金属を操る』ものだ。知っていたかね?

 人間の血には少量の鉄が(ふく)まれているということを」

「な、なんだよそれ。オレ勉強苦手だけどそんなことはまったく聞いたことねえぞ」

「もっとも一部の科学者と錬金術師(れんきんじゅつし)しか知らないことだがね。

 人間が呼吸するのは、空気の中にある成分を血の中にある鉄分で化学反応を起こさせ、熱を生じさせるためだ。もちろん血の中には流れをよくするために水分がたっぷり含まれている。

 つまり人間は歩く地水火風(ちすいかふう)のかたまりなのだよ」


 話は理解できるが、その頃には頭をしっかり働かせることができなくなっていた。

 コシンジュが床にヒザをつくのとは対象的に、ブラッドは立ち上がってゆっくりとこちらへと向かってくる。


「最初からこの力を使えばよかったな。

 とはいっても相手を正面から引きつけなければならんが。

 どちらにしろわがはいは血を多く流した。君から補給(ほきゅう)しなければ……」


 なにを言っているのかもわからなくなりそうだ。ブラッドは口を大きく広げた。


「さあ、君はどんな味がするのかな? とても楽しみだ……」


 ふと、わき腹から(したた)り落ちる血に目が向いた。

 意識がもうろうとしていても、何をすればいいのかはっきりとわかる。


「……かあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 ブラッドのキバがカッと向いて、その顔がコシンジュの首筋に向かう。

 コシンジュは棍棒を持つ手を一瞬で持ち替えて、その先をブラッドのわき腹に叩きつけた。

 とたんに激しい光がそこをおおう。


「ねくろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」


 ブラッドの身体が大きくのけぞり、わき腹を押さえながら必死に後ずさりする。

 呼吸が楽になったコシンジュは、フラフラとしながら立ち上がり、よろけながら敵のほうまで向かう。


 あまりの痛さに立ち上がることができず顔をしかめるブラッドは、途中でもう片方の手をあげた。

 しかしコシンジュの棍棒の先がぶち当たり、おかしな方向にねじ曲げられる。


「グオォォォォォォォォォォォォォッッッ!」


 ブラッドは上体を伏せたあと、顔だけをこちらへと向けた。


「……フ、フンッ!

 たしかにわがはいはひどい魔物だ。だから、君も躊躇(ちゅうちょ)なく傷つけることができるだろう」

「どんな悪党でも傷つかないことなんてないさ。

 だけどそれでも、この世界を(おそ)おうとする奴に容赦(ようしゃ)なんてできない」


 次第に頭がすっきりしてきた。まだボウッとするが、受け答えができる程度には回復している。

 ブラッドは顔をしかめながらも笑いかけた。


「ククククク……。だとしたらよけい気をつけねばならんな。

 魔界は心身ともに異形の者どもの巣窟(そうくつ)だが、なかにはまともな神経をしている者も少ないながら存在する」


 コシンジュが返事をせずに棍棒の先を向けると、それにおびえながらも話を続ける。


「くっ! それでも君は戦い続けることができるかっ!?

 のっぴきならない状況、そして魔王への忠誠心(ちゅうせいしん)、向こうもそれなりの大義名分をかかげてお前に挑みにかかるぞ!

 それでも君はそんな相手に戦いを挑めるとでも言うのかっ!?」

「覚悟はできてるさ。

 オレの仲間は守りたいもののためなら躊躇(ちゅうちょ)しない。オレだってそういう気持ちでのぞまなくちゃな」


 するとコウモリ男は覚悟を決めたかのように、大きく両手を広げた。


「ならばこのつまらない悪党に容赦(ようしゃ)などするなっ!

 わがはいは吸血鬼! 見逃せば常に生きている獲物を求め続けるぞっ!

 人々がもだえ苦しみながら死んでいくのを阻止(そし)したいのならば、ひと思いにやってくれたまえっ!」


 コシンジュは真横に大きく棍棒を振りかぶった。しかしそこで動きが止まる。

 それをスキと思ったのか、ブラッドの身体が突如動いた。


「……シャアァァァァァァァァァァッッッッ!」

「……ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!」


 ほんの少しだけの良心の痛みを感じながら、コシンジュは相手のキバが向かう前に棍棒を叩きつけた。


 相手は一言も発せず、軽々と吹っ飛ばされた壁に叩きつけられる。

 そのままズルズルと下へ下がると、突然バタっと床に倒れ、そのまま動かなくなった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 コシンジュは自分の息が荒くなっていることにようやく気付いた。

 おもむろに棍棒に目をやりながら、これから後どれだけの命を奪えばいいのだろう、そして奴の言うとおり、本当に戦いたくない魔物を相手にしなければならないのだろうかと考えた。


 そのうち、またしても頭がクラクラしてきた。

 ヒザをつき、もう意識を保てないことを自覚する。ひょっとしたら新たな敵が寝首をかきに来るかもしれないが、その心配をしている余裕はなかった。


 コシンジュは倒れた。自分自身と、そして仲間の安全を祈りながら。

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