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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第3章 勇者、本格的登山にチャレンジ
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第15話 コシンジュの意地とプライド~その5~

「う……う、うぅ……」


 顔をあげると、あたりは白い(もや)につつまれていた。

 一瞬現実を忘れていたが、ヒポカンポスとともに空中に投げだされてから、相当な時間が経っているらしい。


 コシンジュは無理心中を図った相手を見回そうとしたが、とたんに「ぐうっ!」とうめいた。

 全身が痛い。両腕に目を向けると、あちこちが血で(にじ)んでいる。岩山に体中をぶつけたらしい。

 思い返すと、ヒポカンポスのやわらかな毛なみにしがみついていなければとっくに死んでいるところだった。


「ていうかなんだよあのさわり心地のよさ、魔物のくせに……」


 そう言って例のふかふか毛皮を探す。

 体中の痛みに耐えながら、やっとのことで後ろを向くと、ワシの頭をした巨大な毛のかたまりを確認できた。

 案の定全く動かない。


「こっ! コシンジュさんっっ!」


 突然腰の袋からマドラゴーラが現れ、コシンジュの目の前までやってきた。


「大丈夫なんですかっ!? すごいケガですけどっっ!」


 あわてふためくマドラゴーラに、コシンジュは力なくつぶやく。


「ていうかお前本当に黙ってるとき多いよな。とくに魔物と戦ってるときは」

「しょうがないじゃないですか! 俺は相手の寝首をかくしか能がないんですから!

 頑丈な袋の中でビクビクしてるしかないんですよっ! ホントそこんとこ頼みますよ!」

「気をつけるよ……

 って言いたいところなんだけど、ここどこなんだ?」


 するとマドラゴーラはあたりを見回し始める。


「わかりません!

 だいぶ下の方だとはわかってるんですが、こうモヤだらけの状態だと何が何だか……」


 言いつつマドラゴーラは両側の長い葉を花の位置までもっていき、「ロヒインさ~~~~んっ! メウノさ~~~~~~~~んっ!」と叫び始めた。


 相手が目を離したとたんに意識が遠のき始めた。

 しかし、マドラゴーラとは別に付近に何かが近づいてくるような気配がする。


「あ、あんた誰だっっ!? おいっっっ!」


 コシンジュは前方の気配に視線をこらした。

 見上げると、ゆうにヒポカンポスと同じくらいの巨大な影がある。


「げっ! まさか新手の魔物っっ!?」


 マドラゴーラは叫んだ。

 しかしコシンジュにはどうしても、それが敵意のある存在には思えなかった。

 明らかに人ではないのに。


「ちょっ! 待ってくださいよっ!

 死にかけてる人にとどめをさそうだなんて、卑怯(ひきょう)すぎますよっ!

 ちょっと待ってマジこっち来ないでっっ!」


 マドラゴーラの反論むなしく、コシンジュの身体はその巨大な影に軽々と持ち上げられた。

 しかしその身体は何かをされるわけでもなく、ポンと肩らしき場所に乗せられる。

 目の前にはくすんだ灰色の毛並みが広がっている。ヒポカンポスとは違い、少しゴワゴワしている。


「あれ? 攻撃とか、してこないの……?」


 マドラゴーラの声が小さくなる。

 視線の先に、あり得ないほど巨大な手に握られ、小さくなってしまった棍棒があった。





「いや、だから本当だったんですって!

 あれは本当に山の守り神だったんですってっ!」

「本当か?

 獣の毛皮をまとった、大柄な人間だったんじゃないのか?」


 コシンジュが目を覚ます。

 マドラゴーラとムッツェリがやり取りしている声が聞こえ、あたりに目をこらそうとする。

 すると左右にロヒインとメウノの姿があった。


「……ここは?」

「コシンジュ? コシンジュっっっ!?」


 とたんにロヒインが泣きそうになり、いきなりこちらにしがみついてきた。

 ほとんど抵抗することもできず、軽く手をあげるだけであきらめた。


「よかっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!

 もうダメかとおもっだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」


 くぐもった声をあげるロヒインの声を耳にし、コシンジュはメウノのほうに目を向ける。

 そちらの方も泣きそうな顔でこちらを見つめる。


「よかった、心配したんですよ?

 あなたが敵とともに断崖の先に消えてから、ずいぶん探しました。

 マドラゴーラが助けに来てくれなければ、私たちはあなたを見つけることもできませんでした。

 いやそれよりも……」


 メウノがあらぬほうを向くと、マドラゴーラがいいあっているのはどうやらムッツェリのようだ。


「……まったく不愉快な話だ。

 お前がやってきているあいだにコシンジュを置いていなくなってしまうなんて。

 礼のひとことぐらい聞いてくれてもいいのに」

「それどころじゃないでしょうっ!

 ほとんど時間もかけてなかったのに、あっという間に消えてしまうだなんてあり得ませんよっ!

 ありゃ絶対人間じゃないですっ!」


 遠くの声はいまだに不毛なやり取りを続けている。

 コシンジュはそれを聞いて額を手でおおった。

 あれは本当に、いったい何者だったんだろう。





 テントを出ると、そこは昨晩止まるはずだったふもとのキャンプ場だったことに気づいた。


「コシンジュッ! 大丈夫かっ!?」


 イサーシュ、ムッツェリ、マドラゴーラがこちらに駆け寄ってくる。

 コシンジュは不敵な笑みで大きくうなずいた。


「メウノが傷を治してくれた。もう大丈夫だ。みんな、心配かけてごめんな」

「なにが心配かけてゴメンななんだっ! てめえそれで反省したつもりかっ!」


 とたんにイサーシュがコシンジュのみぞおちを殴りつける。

 コシンジュは大きくのけぞった。


「ぐぉぉぉぉっ! や、病み上がりぃぃぃぃぃぃぃぃ……」

「そんぐらいガマンしやがれ。

 こっちはみんなお前のせいで一睡(いっすい)もしてねえんだ」


 そういうとイサーシュはそっぽを向いて腕を組んだ。

 その向こうにはムッツェリの姿が見える。

 同じように腕を組んでいるが、するどい目つきでこちらをまっすぐ見つめる。


「ムッツェリ、本当にすまん……」


 とたんに相手は「なにも言うな」とだけ言った。コシンジュはうつむいた。


「オレ、何もできなかった。

 相手が最初から生かすつもりがなかったと知ってれば、こんなこと……」


 するとムッツェリは頭をポリポリとかきむしり、グチをこぼすように告げた。


「コシンジュ、お前はバカだ。どうしようもないバカだ。

 おかげでお前自身だけでなく、仲間まで危険にさらした」


「ムッツェリ……」と言ってコシンジュは申し訳なさそうに顔をあげる。

 するとムッツェリは、とたんに鼻を鳴らして居丈高(いたけだか)にコシンジュを見返した。


「だが、なぜか放ってはおけん。くやしいが放っておけん。

 お前を見ていると、なぜだか胸が熱くなる。

 どうしようもなく助けたいという気持ちを押さえられなくなる」


 コシンジュは声に出さずに名前を呼んだ。

 すると相手はびしっと人差し指を突きつけてきた。


「だがな、これだけは覚えておけ!

 これからは一切、1人きりで行動しようとするな!

 もっと仲間を信用しろ! かなしいかな、わたしたちがお前を放っておくことはないんだからな!」

「そうだよ。結局のところ、なんだかんだ言って今回も敵の誘いに乗ってしまった。

 連中はこれからも同じ手を使ってくるかもしれないけど、コシンジュがそうしたいと思った以上、わたしたちもそれに乗っかるしかないんだよ」


 コシンジュが振り返ると、ロヒインとメウノは仕方ないと言わんばかりの表情をしている。

 イサーシュのほうも同様だ。見降ろすとマドラゴーラは両方の葉をあげて首をすくめている。


 そして最後に、目の前に広がる巨大な山を見上げた。

 雲ひとつない巨大なジョルジョ山は、するどい切っ先を青空に向かって真っすぐつきつけている。


「ババールの奴、最期に自分の人生を後悔するようなことを言ってた。

 オレはそれを見て思った。一件どうしようもない悪党に見える奴でも、心の底では何を考えているかわからない。

 オレはやっぱり、自分が悪いことをしたとはどうしても思えない」

「山の守り神にも、感謝をささげなければなりませんね。

 やはりあの山は、私たちに旅の成功を望んでおられるようです」


 メウノの言葉にうなずいて、コシンジュ達はもう一度祈りをささげた。

 今は亡き山賊たちと、勇者の前途を願う山の守り神のために。


「さて、さっそくテントを片づけて、次の場所まで進みますか」


 コシンジュは意気揚々という。

 すると突然仲間たちが散り散りになって適当に腰をおろし始めた。コシンジュはあ然とした。


「あれ? みなさん何をされてらっしゃるんですか?

 みんなで協力してテントを片づける手はずでは?」

「なにを言っているコシンジュ。俺たちは一睡もしてねえって言っただろ。

 ピンピンしてるのはお前だけだ。少しぐらい休ませろ。

 テントは昨日も含めてずっと寝てばっかりいたお前が1人で片づけろ」


 イサーシュがだるそうに片手を振り上げ、それ以来自分のリュックを背にして動かなくなってしまった。他の仲間たちも同様だ。


「え? だってオレ、テントの片づけかた知らねえよ?

 昨日は気絶してたからテントも設置してなかったし、どうやってやったらいいの?」

「大丈夫ですよ。設置するのとは違って適当にやるだけでいいんですから……」

「いや、ムリですよメウノさん。

 オレあれがどういう構造してるのかまったくわかんない、ってメウノさん本気で寝ないでくださいよ。ああ、本当に寝てるし。みんな~、起きてくれよ~、ロヒインも自分に睡眠魔法かけんなよ~。オレ1人でこんなん片づけられないってぇ~」


 コシンジュだけがあわてふためくなか、聖なるジョルジョ山は静かに勇者たち一行を見下ろしていた。





 山の中腹。壮絶な戦闘が行われていた場所に、山賊たちの無残な亡骸(なきがら)はない。

 代わりにいくつもの盛り土があたりを()め尽くしている。グリフォンの遺体はそのままにされているところを見ると、下はすべて山賊のものなのだろう。


 その中のひとつ、ひときわ大きな盛り土の前には、遠く投げ捨てられたままになっていたはずの巨大なオノが、朝日を受けてにぶく光を放っている。

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