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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第3章 勇者、本格的登山にチャレンジ
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第15話 コシンジュの意地とプライド~その4~

 コシンジュは険しい道を手探りで進む。

 いくら満月が照らしているとはいえ、こう言った荒れた地面を歩くのは容易なことではない。


 それだけではない。上空からは、ひっきりなしに風を切り裂く音がひびき続けている。

 コシンジュが棍棒を上空に構えると、それはガラスが割れるような音を響かせてはじけた。

 散らばったそれは氷のかたまりであり、明らかに人間がつくったものではない。


「てっきり風属性は真空波しか能がないと思ってたぜっ!」


 立て続けにやってくる氷のかたまりを棍棒で防ぎながら、コシンジュは必死にジョルジョの中腹を目指す。

 疲労が蓄積(ちくせき)されているのだろうが、死に物狂いになっているためにそれを自覚している余裕はない。


「おらっ! 来てみろよっ!

 遠くからものを投げてくるしかないような能なしどもめっっ!」


 敵の猛攻に耐えながら、コシンジュはなんとか中腹にある高台のような場所にやってきた。

 登山ルートの正面を登ってきたので、恐らくここが約束の場所であると確信した。


 それ以前から嫌な予感がしていたが、案の定それは現実となった。

 人の気配が一切しないからだまされたのかと思ったが、悪い意味でそれは裏切られた。

 昼間に見る光景であったなら、それはとても正視できるものではなかったかもしれない。

 あたり一面が真っ赤に染められ、そこらじゅうに山賊の変わり果てた姿が転がっていた。


「……くそっ!」


 うめき声のようなものが聞こえ、コシンジュはあわてて駆け寄る。

 その巨体はひと目であの男だとわかった。


「ババールッッ!」


 体重が重いため、抱き起すことができない。

 しょうがなく血まみれになった顔をペチペチと叩いた。


「……ぐ、ぐぅぅ。てめぇ、いったい何しに来やがった。

 ヘマをしたオレたちを笑いに来やがったのか?」

「なに言ってんだよっ! 助けに来たんだっ!

 そら、立てるかっ!?」


 暗くてよくわからないが、ババールはくやしそうな顔を浮かべている。


「くっっ! なんてバカだっ!

 俺みたいな人殺しをわざわざ助けに来ることもねえだろうに……」

「ふざけるな、助けを求めておいて今さら何言ってんだよっ!」


 ババールは立ち上がろうとするが、少し起きただけで再び倒れてしまった。


「どのみちムリな話だった。

 連中は最初からオレたちを皆殺しにするつもりだったんだ。

 お前らなんかにどうこうできる話なんかじゃねえよ」


 なんだかどんどん力が抜けているかのように感じられる。コシンジュはあせった。


「おいっ! しっかりしろっ!

 しっかりしろって言ってるんだバカヤロウッッ!」

「うぅ、勇者のガキ、今さらこんなことをって思うかもしれないが、聞いてくれ……」

「見え透いた死亡フラグ立てんじゃねえよっ!」

「オレはなぁ、別に好きで山賊になったわけじゃねえんだぜ?

 ちょっと前までのベロンじゃ、貴族のブタどもに骨までしゃぶられてもガマンするか、少ない食い物を無理やり奪い取るか、そのどちらかしかなかったんだ。

 オレはただ、下に住んでる連中のようにガマンがきかなかった、ただそれだけのことよ」

「わかった、わかったからもうしゃべるなっ!」

「ただ、人を殺しちまったのはまずかったかもしれねえなぁ。

 おかげでヤケクソになっちまって、気付いたらおたずね者のリーダーよ」


 そしてババールは、あらぬ方向を力なく指差した。

 コシンジュはそちらに目を向ける。


「あいつらだって、だいたい似たようなもんよ。

 だからって、その(むく)いがこれじゃ、正直、やって……られん……ぜ……」


 コシンジュが視線を戻すと、うっすらとしか見えないババールの表情は完全に力を失ってしまった。


「おいっ! ババールっ! ババーーーーールッッッ!」

「……お別れはすんだかね?」


 あらぬ方向から声が聞こえた。

 誰だかすぐにわかったので、いちいち振り返らない。


「おい、お前はこいつが救う価値のない奴だって言ったよな?

 だけど最期の最期で、自分の人生を後悔するようなこと言ってたぞ。

 こんな風になぶり殺しにしなきゃいけないような奴だったのか?」

「今さら何を言っている。

 我々は魔族、人間どもの心情など興味はない。

 ただ足手まといになるのは困るから、ひと思いにやった、ただそれだけのことよ」

「立場が逆だったら、お前は同じようなことを言って納得できたか?」

「関係ない。

 勇者よ、我々はお前を倒すためにもはや手段を選んでられんのだ。

 それほどお前は我々の同胞(どうほう)を殺し過ぎた」


 コシンジュは全身に怒りをみなぎらせ、棍棒をたたきつけながら振り返った。

 そして現れた青白い飛翔獣に向かい、棍棒の先を突きつける。


「だったらてめえも! 死んだ連中の仲間に入って文句は言えねえよなぁぁっっ!」


 すると、突然ヒポカンポスが背中の羽根をバタつかせた。

 とたんに突風が吹く。風の魔法が付加されているせいか、あり得ないほど威力が高い。

 コシンジュはヒザをついてこらえる。


「これを食らって無事でいられるかなっ!?」


 ヒポカンポスがくちばしを大きく開くと、そこがまばゆい光を放ち、あっという間に巨大なつららが現れた。

 それはものすごい速さでコシンジュのほうへと飛んでくる。


 コシンジュはあわてて棍棒を前に突きつけた。

 巨大なつららはよりまぶしい光を放ちながら、またたく間に散らばった。


「そう、まさにそれだっ!

 天空の支配者どもの力が付与されたそれは、どのような強力な魔法をも弾き返す!

 竜王ファブニーズ様の地獄の猛火さえ退けたその威力、まさしく脅威(きょうい)そのものっ!」


 するとヒポカンポスは翼をはためかせ、あっという間に夜空へと舞い上がった。


「だがそれ以外の力は持たん!

 たとえばこのワシのように、空中を飛翔し距離をとることができる相手に対しては、貴様のその恐ろしい武器が届くことはないっ!」


 そして空中を舞いながら、次から次へと氷の巨大槍を放つ。

 コシンジュは相手を注視しつつ、敵の遠距離攻撃を次から次へと地面にたたきつけていく。


「今ひとつ! 威力は脅威なれど、その力を発揮するのは使い手の腕次第!

 すなわち勇者に力なくば、手段によっては身を防ぐこともかなわんっ!」


 そして突然飛びまわるのをやめ、とある一点でホバリングすると、より大きく羽ばたき始めた。

 とたんにヒポカンポスの全身から、無数の何かがやってくる。


「げっ! それはまさかっっ!」


 言いながらコシンジュは身を伏せて棍棒を構えるが、細かい点のような無数のつらら攻撃には棍棒で全身を守ることはできず、肩や足を切り裂かれる。


「……ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

「見たかっ! これがワシの真の力よっ!

 いかに防備に優れた武器とはいえ、かばうことができなければ無力も同然っっ!」


 痛みのあまり倒れそうになるが、気力を振り絞り、必死に立ちあがる。


「クククク、あと何回この攻撃を受け続けられるかな?

 それよりも……」


 すると、なぜかヒポカンポスはその場を旋回(せんかい)し始めた。


「ものどもぉぉぉぉぉぉぉっっっ! であえぇぇぇぇぇぇいっっ!」


 とたんにあちらこちらから(つばさ)のような音がひびく。

 コシンジュが苦痛に顔をしかめながらもあたりを見回すと、黒々としたグリフォンのシルエットが無数に空を飛び交っていた。


「さて、四方八方囲まれたぞ?

 仲間がいない孤独な状態で、いったいどこまでもつというのかね?」


 してやられた。コシンジュは一瞬で理解した。

 いくらなんでもこの状況をたった1人で打破するのは不可能だ。

 敵の作戦は見事的中したと言っていいだろう。

 完全に自分が悪い。

 今さら死ぬのをビビっていても仕方がないが、どうしても気になることがひとつだけある。


 オレはたとえどんな悪党でも、ピンチになれば助けずにはいられない性格だ。

 天空の神様たちはそれをわかって、オレを勇者にしたんだろうか?

 わかってる。親父やイサーシュだったら、絶対にこんなバカな真似なんかしないだろうに。

 それをわかっていたとしたら、あまりに無謀(むぼう)なことをしたもんだ。敵のワナにまんまとはまって、わざわざ命を落とすのだから。


 コシンジュはもはや無駄な抵抗をあきらめて、目を閉じた。

 この際だからできるだけ楽に死ねることを祈ろう。


 ところが、突然後ろで爆発音がひびいた。

 振り向くと、グリフォンのうちの1体が全身火だるまになり、まっさかさまに落下していく。

 あわてたグリフォン達がそちらを振り向くと、今度はそいつらが立て続けに矢の一撃を受けた。

 1体は見事急所に命中したが、もう1体は翼に当たっただけだった。


「くそっ! 外したかっ!」

「十分だっ! あとはわたしが仕留(しと)めればいいっ!」


 現れたムッツェリが弓矢を構え、すばやく一撃を放った。

 翼を傷つけられたグリフォンはすぐに胸を打たれ力尽きる。


「くっ! しばし遊びが過ぎたかっ! 者どもっ、まずは奴らを片づけろっっ!」


 グリフォン達が一斉に現れた仲間たちのほうを向く。

 そして一斉に光を放ち氷の球体を発生させると、瞬く間に彼らの方向へと向かっていった。


 そこへ現れたメウノが真上にピンク色のダガーを構える。

 すると巨大なオーラにつつまれ氷の弾は次から次へとはじけ飛んでいく。


「後ろにまわれっ! 奴らを取り囲んで四方から攻撃するのだっ!」


 言われたとおりに仲間たちの周りに群がっていくグリフォン達だが、ロヒインのフレイムボールやムッツェリの矢に撃たれ、次から次へと夜空の向こうへと消えていく。


「くそっ! ザコどもめっ、いとも簡単にやられおって……」

「おいっ! てめえの相手はオレだろっっ!」


 コシンジュが石を持って投げつけると、ヒポカンポスはすぐにこちらを向いた。


「その通りだったなっ!

 手下どもが奴らを相手しているあいだに、ワシが貴様の命を落としてやればそれで済むことっっ!」


 ヒポカンポスは言うなりより高い位置に舞い上がった。

 来る。先ほどはかわしきれなかったあのつららストームを食らえば、今度は立ち上がるのも難しいだろう。


 しかしコシンジュはあきらめなかった。

 目線を下げると、目の前にちょうどよさそうなものが転がっていたからだ。

 ヒポカンポスは再びつららストームを飛ばしてきた。

 今度は防御せずにその場をかけだす。すると思ったより簡単にかわせた。


「くそっ! 意外とすばしっこいなっ!」


 飛翔獣がくやしがっているあいだに、コシンジュは地面に転がっていた氷のかたまりを拾い上げた。

 思ったよりも大きい。


「おどろくのはまだ早いぜっ!」

「それを投げつけるのかっ!? そんなことをしてもムダだっ!

 だいいち我々は風属性であるし、万一当てられたとしても効き目はない!」

「やり方によるっ!」


 そういうとコシンジュは氷の弾を放り投げ、それに向かって棍棒を横に振った。

 ぶち当たったとたんにまぶしい光を発して氷の弾は無痛に砕け散るが、それらの一部がヒポカンポスの身体に飛んだ。


「だからそんなものを当てても……グアァァッッッ!」


 氷のかたまりが相手の体中に突き刺さる。

 本来なら効果のないはずのそれは、ヒポカンポスの身体に傷をつけ、巨大な影は地面へと叩きつけられた。


 飛翔獣はワシのような頭を振ると、フラフラと立ち上がりコシンジュをにらみつけた。


「なぜだっ! このワシに、氷の一撃が通用するとはっ!?」

「氷じゃない。

 氷のカスは棍棒の光を受け取って、一瞬だけ光属性になった。

 そいつがお前の身体にぶち当たって、見事傷つけることに成功したってことさ」

「バカなっ! 貴様、いつの間にそんなことを覚えたっ!?」


 言われてコシンジュは棍棒の先で地面をついた。


「オレにはわかるのさ。こいつの使い手だからな」


 ヒポカンポスは「ぐっ!」とうめきつつ、あわてて翼をバタつかせ上空に舞い上がった。


「しかし同じ手は通用せんっ! どうだっ!

 もはや空中を舞う敵に対抗手段は残っておらんだろうっ!」


 コシンジュはあたりに目をこらし、適当な大きさの石ころを拾い上げてもう一度空中に放り投げた。

 それに思い切り棍棒をぶち当てる。


 すると今度はほとんど欠けることなく、光をまといながらものすごい速さでヒポカンポスの胴に吸い込まれた。


「クヌギィィィッッッ!」


 どんもりを打って力を失い、ヒポカンポスはドシンと振動(しんどう)させて大地に倒れた。

 コシンジュはわざとらしく目の上に手をかざす。


「おお、オレのバッティング力もなかなかじゃねえか。

 思わぬのところで新技覚えちまった。

 これで空飛ぶ敵への対策もバッチシ。やったね!」


 後ろの方を見ると、仲間たちは残り少なくなったグリフォンを相手にいまだ奮闘(ふんとう)している。

 コシンジュはあわてて前に出た。


「お前ら、大丈夫かっ!?」


 その時、弓を構えるイサーシュの真後ろからグリフォンの鋭い牙が迫る。

 ムッツェリが「後ろっ!」と叫ぶと、少しだけ振り返った彼はその場をローリングしてかわし、通り過ぎた瞬間に矢を放つ。

 胸に矢を受けたグリフォンは滑空(かっくう)したまま大地に叩きつけられた。


「弓を習ったのは正解だったな! 精度は低いが体さばきを応用すれば敵に対処できる!」

「よかったぁ……」


 声をかけ損ねたコシンジュはそっと胸をなでおろす。

 空中の敵も4人総出なら大した問題にはならなかったようだ。


 ところが、コシンジュは真後ろから妙な気配を察した。

 振り返ると、ヒポカンポスがぎこちない動きながらも猛スピードでこちらへと迫ってくる。


「ぐらぇぇっっ!

 岩石を裂くとも言われるワジの一撃をぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」


 巨大な体躯(たいく)が大きくジャンプした。

 そして大きく前足の爪を振りかぶる。月光に照らされキラリと光るそれは確かに危険に違いない。


 だがコシンジュはあわてずに、その爪に向かって棍棒を振り上げた。


「甘いってんだよっっ!」


 棍棒の一撃は見事相手の前足にぶち当たり、あり得ない方向に捻じ曲げられる。

 渾身(こんしん)の一撃を払いのけられたヒポカンポスは身をかばうように着地した。


 ところが、巨獣は一瞬動きを止めると、あり得ない速さで頭をこちらに持ち上げた。


 とたんに相手のくちばしがコシンジュの肩に食い込む。

 (よろい)ごしだったので鋭い痛みはなかったが、すさまじい圧力に今にも骨が砕かれそうだ。


「ぐあぁっっ! くそっっ! 放せっっっ!」


 コシンジュは棍棒でヒポカンポスの背中をたたくが、それなりの威力があるにもかかわらず相手は執念(しゅうねん)を感じさせるほどの勢いで、無理やりコシンジュの身体を引っ張り上げる。


「コシンジュッッ!」


 ロヒインの叫びが聞こえるなか、コシンジュは真後ろを向いた。

 その先は途中で見えなくなっていた。


「あっ! バカッッ! やめろっっっ!」


 しかし相手の勢いは止まらない。

 なすすべなくコシンジュは巨大な獣とともに空中に投げだされた。


「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!」

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