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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第3章 勇者、本格的登山にチャレンジ
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第13話 新しい仲間~その3~

 オランジ村は巨大な(がけ)と崖のあいだにはさまれた渓谷の村になっている。


 左右の崖に張り付くようにして家々が建ちならび、その上には必ずと言っていいほど斜め上に突き出した巨大な「へり」が突き出している。

 木製だがかなり頑丈(がんじょう)に組み立てられているようだ。コシンジュは思わず指をさす。


「なんだありゃあ」

「おそらく落石対策でしょう。崖の上は常に風雨にさらされた岩石が転がっています。

 それがいつ落ちても被害が出ないよう、あのようにして食い止めているのでしょう」


 博識のロヒインに対して、メウノが首をかしげる。


「そこまでして、なぜいまだにここに多くの人々が住んでいるのでしょう?」

「伝え聞いた話なんですけど、この村はもともと南の都市国家群へと侵攻(しんこう)するための拠点として築かれたようです。

 大昔ベロンはこれらの国とかなり険悪な状態だったそうですから、わざわざこの山脈を南下して奇襲(きしゅう)を仕掛けていたようです。

 今は当然軍関係の施設は残っていませんが、開拓されたルートを目当てにたびたび登山家が訪れるようです。いわばこの村はそのための宿場町としての機能を果たしているんですね」

「へえ、知れば知るほど面白いもんだな」


 言いながらコシンジュは興味しんしんといった感じであたりを見回す。

 しかし、突然ある一点で目がとまった。


「……このまんまじゃこの国もおしめえかもしんねえな」

「どうする? そうしたら山の中に逃げ込むか?」


 コシンジュは思わず足を止める。仲間たちもそれに気付いて同じ方向に顔を向けた。

 コシンジュの目の先には、一軒家の前で2人の中年が話をしている。先に声を発したほうがくたびれた見た目をしている。


「山の中? そっちの方から魔物の軍団がやってきたらどうする?」

「バカ言え、大群なんだぞ?

 この先のような険しい山道を抜けるより、街道を進んだほうがずっと楽じゃねえか」

「相手によるだろ。ドラゴンや巨人みたいなのには絶対関係ねえ。

 真っ先にこっちが狙われるに決まってるって……」「おい」


 割と賢そうな中年のほうがこちらに気づいた。コシンジュは意を決して、彼らのほうに近寄る。


「わりい、いったい何の話をしていたんだ? よかったら聞かせてくれよ」

「おうボウズ。お前ら旅のものか? だったら気をつけた方がいい」


 コシンジュがまじまじと彼を見つめると、まともな中年は相方と目を合わせた。

 そして少しうなずいたあと、手招きをして少年を引き寄せる。


「あまり大きな声じゃ言えないんだが、南の帝国がどうやら大変なことになっているらしい」

「……どゆこと?」


 仲間たちが寄ってくるのを確認してから、コシンジュは続きをうながす。


「大陸のほぼ南にある、魔界の門から魔王の軍団が攻めてきたらしい」

「「「「なんだって(ですって)っっっっっ!?」」」」


 4人がいっせいに声を立てる。まとも中年はあわてた様子であたりを見回す。


「声を立てるなって!

 あわてるな。帝国軍はなんとか連中を退けたらしいが、門の前に気づかれた(とりで)は大打撃を受けたらしい。

 次は必ず砦を超えてくるそうだ」

「誰からその話を聞いたんだ?」


 イサーシュが問いかけると、今度はくたびれた中年が応えた。


「山脈を渡ってきた登山家の情報だ。

 南の大陸と貿易(ぼうえき)してる商人からのたしかな情報だそうだ」


 それを聞いて4人は顔を見合わせる。最初にイサーシュが口を開く。


「思ったより侵攻が早い。急がなければまずいことになるぞ」

(あせ)るのはまだ早いでしょう。帝国軍も決して弱くはありません、

 もっともいつまでもつかはわかりませんが」


 ロヒインの回答にメウノもうなずく。


「前回の侵攻では、南の大陸は完全に乗っ取られて海戦となりました。

 伝承(でんしょう)では相当な被害をこうむったとか。水属性の魔物を多く抱える魔王軍が相手となれば当然の結果でしょう」

「相当まずいじゃねえか。

 こりゃ迂回(うかい)してる場合じゃねえ、なんとかしてここの山脈を渡らないと」


 コシンジュが言いきったところで、2人の中年がまじまじとこちらを見ていることに気づいた。

 くたびれた中年が先に口を開く。


「お前ら、いったい何の話をしてるんだ?」

「相当の事情通だな。一体お前ら何者だ?」


 かなりいぶかんでいる2人に対し、イサーシュがその問いに応じる。


「ランドン王国の使いのものだ。急いで南の大陸に渡り、帝国軍に協力を仰がなければならない」


 それを聞いて、相手はむしろよりうたぐり深くなった様子だ。


「お前らが? みんな(わけ)えじゃねえか。しかもそのうちの2人は女みてえだし」


 くたびれた中年はロヒインに気づくと、なめまわすようにまじまじと見つめる。


「じ、実力さえあれば、年齢も性別も関係ないですから……」


 たじろぐロヒインを見て、周りの3人は必死で笑いをこらえる。

 その正体を知れば中年は烈火のごとく怒るに違いない。


「バカなことをしやがる。帝国は自力で魔王軍を退けるつもりだ。

 今回は勝ったが、連中は数百年前よりずっと状況が有利だと思ってやがる。

 それに北の連合とは犬猿の仲だ。こころよく協力してくれるとはとても思えねえがな」


 言いながら賢そうな中年はアゴに手を触れて考え込む。


「いや。ひょっとしたらウワサに聞いた勇者の連中なら、さすがに帝国軍も協力せざるを得ねえか。

 たしか前のと違ってずいぶん若い連中だと聞いていたんだが……」


 中年ははっとした。

 目の前にいるのは、まさにウワサに聞いた通りの一行だったからだ。


「ま、まま、まさか……お前らが……」


 2人の中年がおどろいてもたれていた壁に張り付く。


「「で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」」

「おどろくのもムリねえけどまるでお化けが出たみたいなリアクションはやめろよなっっ!」


 コシンジュがツッコむとまとも中年は気を取り直すように首を振った。


「す、すまねえ。

 予測はしてたんだが、いざ本当に来られるとやっぱりビックリするもんなんだな……」

「て、てめえらっ! いったい何しに来やがったっっっ!」


 誠実な対応をするまとも中年とは対照的に、くたびれた中年はおびえた表情でこちらをまっすぐ指差す。

 コシンジュはあわてて問いかける。


「お、おい。いったいどうしたんだ?」

「どうしたもこうもねえっ!

 お前ら一体何のつもりでこんなヘンピな村までやってきたんだっ!」

「おい落ち着けよ。

 魔王をやっつけに行く連中にいくらなんでもその態度はないんじゃねえのか?」


 これにはさすがにまとも中年もあわててくたびれ中年をなだめようとする。

 しかし相手は矛先を変えた。


「わからねえのかっ!? こいつらが現れた先でいったい何が起こったのかっ!

 行く先々で魔物が現れて、実際に人間が(おそ)われたそうじゃねえかっっ!」

「なんでこんなに情報が早いの?

 あちこちの村で伝書バトを飛ばしまくってるとしか思えない……」

「事前に情報交換とは、どうやら俺たち相当評判が悪いらしいな」


 ロヒインとイサーシュのやり取りを見て、くたびれ中年がギロリと目を向いた。


「お前らなにブツブツ言ってやがるっ!

 わかってんのかっ!? お前らはこの村に災いを持ち込んできたんだぞっ!?

 帰れっ! 今すぐ帰れっ!」


 相手の中年が見かねて声をあげる。


「なに言ってんだっ! ここがダメなら街道しかないんだぞっ!?

 しょっちゅう人がいきかう場所を通ったらそここそ危険な状況になる。

 こいつらがここにやってくるのはわかりきってたことじゃねえか!」

「うるせぇっ! だとしてもこっちが狙ねらわれるだけじゃねえか!

 ちきしょう! 魔物どもは絶対この村を狙ってくるにちがいねえっ!」


 まとも中年の制止も聞かず、くたびれ中年はかがんで地面の砂をつかみ、それをコシンジュ達に投げつけた。

 4人全員があわててのけぞる。


「帰れっ! てめえらにさずけるほどこしはねえっ!

 さっさとどっかにすっ飛んで行けっ!」


 見るに見かねたまとも中年はくたびれ中年を羽交い絞めにした。


「すまえねぇっ!

 こいつ不安にかられてるだけなんだ、許してやってくれ!」

「くそっ! なんて熱烈な歓迎(かんげい)なんだっ!」


 イサーシュは明らかに不機嫌な様子だ。対するコシンジュは不安げな表情を浮かべる。


「コシンジュ……」


 悲痛そうなロヒインの声に振り向くと、コシンジュはさみしげな笑みを浮かべた。

 まわりを見ると、村の人々が物珍しそうにこちらをうかがっている。

 どうやら自体を察していないようだ。


「なにをよそ見してやがる! 人ごとみてえな顔してんじゃねぇっ!

 みなさ~んっ! 聞いてくださ~いっ! こいつらはあの伝説の……」


 くたびれ中年が盛大なカミングアウトをしようとしていると、まとも中年がその口を無理やり押さえた。


「バカっ! なにどさくさにまぎれてとんでもないことしでかそうとしてんだっ!」


 するとくたびれ中年は相手を振りほどき、怒りの矛先をそちらに向けた。


「てめえこそ何考えてやがるっ! そっちは俺と違って妻子持ちじゃねえかっ!

 わかんねえのか? こいつらをこのまま村に止めたら村全体があぶねえんだぞ!? それをわかってて言ってんのか?」

「なに言ってんだっ! 先に言っただろ?

 帝国軍が負けることになれば魔物の連中はどのみちやってくる! そしたら結果は同じことだろうが!」

「はん、だから仕方ねえと言わんばかりだよなっ!

 てめえも結局勇者どもの気持ちなんて考えてねえってことだっ! つまんねえこと言ってねえで本音を言ったらどうだ本音ってやつをっ!」

「……てめぇっ!」


 すると2人の中年がとうとう取っ組み合いのケンカを始めた。

 それを見たコシンジュが両手を出してオロオロする。


「お、お前ら、やめろって。どのみち長居をするつもりはねえから落ち着けって……」


 ケンカをやめる様子はない2人を見て、ロヒインはコシンジュの肩をつかんだ。


「行こう。これ以上彼らを不安にさせちゃダメだ。

 話によると酒場に行けってことだから、すぐにそっちに向かえばいい」


 それでも納得がいかないとばかりにコシンジュは首を振る。


「お前らっ! なにケンカしてやがるっ! つまんねえことはやめろっ!」


 声がして4人が振り返った。ケンカしていた2人も動きを止める。

 見ると頭にバンダナを巻き、前掛けをした大柄な男が鋭い剣幕でこちらを見ている。


「ある程度予想はしていたが案の定だったな……」


 どうやらこの村でそれなりの地位があるらしい。

 男はコシンジュ達に振り返った。


「お前らの話はすでに聞いている。

 勇者諸君、これからはつまらない寄り道をしてないでまっすぐ目的地に向かったらどうだ?」


 すると男の表情が打って変わってニッコリとした表情になった。

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