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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第3章 勇者、本格的登山にチャレンジ
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第13話 新しい仲間~その2~

「じゃあアタシは行くわね。

 いつまでもここにいたら有名人だってバレるかもしれないし」


 外に出たいっこうに見送られ、ヴィーシャは馬にまたがる。


「本当にいいんですか?

 元王女として、この国の情勢が気になったりはしないんですか?」


 ロヒインが心配げな顔を向けると、相手はアハハ、と笑った。


「心配したってしょうがないわよ。とにかくこの国の未来にアタシのような奴はジャマ。

 それよりも、これからは自分の生きたいように生きるの」


 するとヴィーシャは馬の首筋をなでながら、少し真面目な口調になる。


「これは誰かに要求されたことじゃない。不満があってやってることじゃない。

 なによりアタシがそうしたいの。アタシの心が、そうしろってささやきかけてる……」

「ヴィーシャ……」


 少し気恥ずかしそうにしている彼女を見て、コシンジュは声をかけた。


「行くあてはあるのかよ」


 ヴィーシャは姿勢を直し、ふたたびコシンジュに笑いかけた。


「とりあえずこっちに向かってるはずのノイベッドと合流するわ。

 あいつだったらいい場所知ってるだろうし。

 よ~し、ガッポリもうけてやるぞ~! ウシシシシシシ……」

「出たな最後にガチの本音っ!

 しんみりした雰囲気が台無しっ!」

「いいじゃない、晴れの門出(かどで)なんだし。

 じゃあねみんな。これからも道中お気をつけて」


 そう言って軽く手を振ると、「はっ!」と言って勢いよく馬を走らせた。

 彼女の姿はあっという間に小さくなっていく。


 コシンジュは最後に見せたかがやくような笑顔を思い出し、しんみりとつぶやく。


「行っちまった。

 道中はうっとおしいと思ったこともあったのに、今になるととってもさみしい気分……」


 続くロヒインもさみしそうにほほ笑む。


「姫さま、とっても幸せそうだった。

 最初会ったときはずいぶん自分勝手な方だと思ってたけど、あそこまでになられるとは。

 わたしたちが、あの方を変えたんですね」

「よかったじゃないですか。

 あの方の本当の人生が、これから幕を開けるんですから」


 メウノの感慨(かんがい)深げなつぶやきとは対照的に、イサーシュは不満げな目を向ける。


「そういえばお前、姫に対してさんざん言いたい放題だったな。

 今はもう立場を失われたが、これまでの粗相(そそう)、俺は許さんぞ」

「はぁっ!?

 お前だって姫にさんざんタメ口聞いてきたじゃねえかっ!」

「本人がそれを望んだからだ!

 それをお前はあの方がおられないところでも悪口をたたきやがって」

「出たっ! 貴族のお坊っちゃんらしい超保守的な考え方!

 民主化の流れの時代にそこまで気を使ってどうすんだよっ!」


 さっそく言い合いを始めた2人をしり目に、ロヒインは別の方向に目を向けた。


「どうしたんですか?」


 メウノが同じ方向に目を向けると、そこには見渡す限りの壮大なパノラマが広がっていた。


 きり立つ白い山々は、まるで超巨大な魔物が見せる鋭い歯の列のように、一行の前に立ちはだかっている。

 ロヒインはそれを感動と不安が入り混じった目で見つめる。


「さて、続いてはあの山脈越えですか。

 いったいどうやって乗り越えればいいんでしょう」

「普通なら迂回(うかい)するルートを選びますね。

 ですけどこの山脈は果てしなく長い。それでは直進するより相当の時間がかかってしまいます。

 登山が苦にならなければ、直進をするのが手っ取り早いでしょう」

「我々だけでは手が足りませんね。

 優秀な登山ガイドが必要です。ですが大きな問題が」


 メウノの言葉にロヒインはうなずく。


「身を守れる(すべ)に長けた、戦士タイプのガイドであること、ですね」

「山脈は足場が不安定です。当然魔物もそこを狙ってくる。

 これまで以上に厳しい戦いになるでしょう。我々自身も乗り越えられるかどうかの瀬戸際(せとぎわ)ですが、案内する者も相当の手だれでなくては」

「また、期間限定の仲間が必要になるわけですね。

 まあヴィーシャさまが抜けてさびしくなってたところですから、ちょうどいいです」


 するともはや意味不明なまでに無意味な口ゲンカをしていたコシンジュが振り向く。


「お、新しい仲間か。いいな」


 するとコシンジュが腰にぶら下げている袋から、ひょいと赤い花びらが現れた。


「……うんしょ。新しい仲間かいいなじゃありませんよ。

 どうしてくれるんです。俺、あんな寒いところいけませんよ?」


 魔物ガイドを務めるマドラゴーラが、不満げに黒い瞳をゆがめる。


「対策は考えてくれたんですか?

 あーだこーだ言って気合いで乗り切れなんて言おうもんなら、俺すぐにどっかにフケちまいますよ?」

「ああ、それなら……」


 そう言ってロヒインはカバンから小さな包み紙を取り出した。マドラゴーラは首をかしげる。


「カイロ、というものです。

 これを表の袋を破いて空気にさらすと、火を使わなくても自然と温かくなるんです」

「魔法のたぐいですか?」

「物理に即したものですよ。

 特別な鉱物を一緒に混ぜて、空気に反応させる科学的な効果を引き起こさせるんです」


 イサーシュはケンカを中断されて不機嫌になっていたが、カイロには興味深げな表情を見せた。


「というかロヒイン、知っているのは魔法だけじゃないんだな」

「ヴィーシャさん、さっきわたしのこと意外と無知とかおっしゃいましたけど、いちおう学者なんですからね?」

「……私も医療関係者ですから、こういった薬品のことくらい知ってますよ」


 何やら妙に不機嫌なロヒインとメウノ。コシンジュが問いただす。


「なんだよ。お前らさっきのこと気にしてんのか?」

「そんなことより!」


 突然ロヒインがコシンジュの前まで進み出ると、その顔に向かっていきなり指を突き出してきた。


「さっきから何ニヤニヤしてるんだよっ!」

「えっ? オレ別にニヤニヤなんかしてないけど?」


 そうは言うものの、言われて顔をペタペタしている時点で認めているようなものだ。

 ロヒインは深いため息をつく。


「あれでしょ。

 どうせだったらきれいな女性がいいなとか、そんなこと考えてるんでしょ?」

「え? いけない?」


 すると普段はとぼけたような顔つきのロヒインがぱっと目を見開いた。


「いけないかどうかの前にまずあり得ないっ!

 いい!? まず山岳ガイドなんだよっ!? 風呂とか入らないんだよっ!?」

「ふ、風呂入らない……」


 意外と怖いロヒインの顔を見ながらコシンジュは心の底の不安をつぶやいた。


「そうっ! そんなの若いキレイな子がやりたがるはずないでしょっ!

 それにしょっちゅう山登りするんだよっ!? すっごいハードだよっ!?

 体力いるんだから女の子じゃムリに決まってんでしょっ!」

「十中八九ヒゲ面のむさくるしいおっさんだな」


 イサーシュのつぶやきに「そんな~……」と悲観的な声をあげるコシンジュ。

 メウノがジト目を向けながら問いかける。


「ていうか、なんでそんなに女性にこだわるんですか。

 コシンジュさんって、本当に目移りが激しいんですね」

「だってさぁ~、山登りっつったらあんまし風呂に入れないんでしょ?

 きっと山登り自体もハードだろうし、ちょっとは気分の晴れるような要素がないとやってらんないよ。

 ねえ、いいでしょぉ?」

「そう、そうなんだ……」

「おい、ロヒインそんな怖い顔すんなよ。

 っていうか何? 明らかに例のフラグが立ってるんだけど?」


 案の定、ロヒインは杖をかかげてブツブツと唱え始めた。

「あっ! コラッ!」と言って止めようとするが、そこへメウノがコシンジュの肩をがっちりと捕まえる。


「おいっ! 離せメウノっ!」

「ダメですっ! 今回はロヒインさんの好きにさせてもらいますよっ!」

「よく考えるんだっ! 変身したロヒイン美人だぞっ!? 超美人だぞっ!?

 お前そんな奴が現れて嫉妬(しっと)とかしないのかっ!?」

「関係ありません!

 ロヒインさんの気持ちもわからないで鼻の下を伸ばすコシンジュが悪いんですっ!」

「ああっ! これフル呪文じゃねえかっ!

 そんなもん完成されたら確実に次の目的地までもっちまうじゃねえか、何考えてんだよっ!」


 言っているうちにボンっ! と音がはじけた。

 モクモクと煙が上がるなか、あらわれた超絶美少女が黒いローブのすそを持ってヒザをちょいと下げる。


「お待たせいたしました勇者さま。ここからはわたくしが同行させていただきます」


 可憐(かれん)な姿をしていてもそれが偽りだと知っているコシンジュは、もうわかりやすいくらいガッカリしている。


「なんだよ~。これじゃ彼女だと思われちまうじゃんか~」


 後ろでそのやり取りを見ていたイサーシュは、先ほどからゲラゲラと笑い続けている。





 夕刻前に次の目的地「オランジ村」の前に立つと、4人が一斉に上の方を見上げた。


「うわぁ~。なんじゃこりゃぁ」


 近寄れば近寄るほど、その壮大な景色が4人を圧倒する。

 荒々しい岩肌をさらす切り立った山々は、侵入するものを拒むかのように立ちふさがる。

 まるで巨大な黒い巨人が群れをなしているかのようだ。


「まさかこれほどとは。こんな山々、わが国には存在しません」


 あ然とするメウノの横でロヒインがつぶやく。


「『マンプス山脈』は大陸の南部を分断する大山脈。

 横の長さは大陸の両端にまで及び、山稜(さんりょう)はひとつひとつが険しく踏破(とうは)するのは困難。

 侵入するルートはごくわずかしかなく、ましてや安全なルートはここからずっと東にある街道たった1つしかありません」

「南北交流を(へだ)てていた要因になっているな。

 ここから南は海に面した小規模の都市国家ばかりだ。環境も大きく異なり、亜熱帯になっていると聞く」


 イサーシュまで豆知識を披露(ひろう)するなか、コシンジュが関心ぶかげに顔を向ける。


「へえ。そいつは楽しみだけど、まずはここを抜けなきゃいけないんだろ? 大丈夫かな?」

「わたしもそう思ったんだけど、これを見て不安になってきた。

 すべては案内してくれるガイドさん次第だね」


 ロヒインの言葉にコシンジュは首をかしげる。


「引き受けてくれるかな?」

「そこのあたりは大丈夫だと思います。

 ベロンの人たちが書状を送ってくれてますから、適切な方を紹介してくれるでしょう。

 現われなかったら、あきらめて街道ルートを進めということです」

「いや、俺たちは前進しないといけない。

 国交の少ない南の大陸の状況はわかってないが、きっとまずい状況になっているはずだ。

 それに街道に進めばそこには一般人が大勢いる。出来るだけ巻き込むのは避けたい」


 イサーシュの指摘にメウノはうなずいた。


「とりあえず、中に入ってみましょう。話はそれからでも遅くはありません」

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