第12話 ドラゴン・リアリティショック~その5~
城外に出たコシンジュ達の前に、無数の鉄のかたまりが現れる。
「今だっ! 包囲しろっ!」
言われるなり鎧騎士たちは整然と両サイドに広がり、統率された動きであっという間にコシンジュの目の前を扇形で取り囲んだ。
「ひっ、ひぃぃっっ!」
それまでコシンジュ達に取り囲まれていた肥満の王様が、突然コシンジュを押しのけて騎士たちの前まで駆け寄った。
そして振り返りこちらに向かって指をさす。
「奴らをっ! 奴らを捕えろっっ!」
「なにをおっしゃいます!? 彼らは我が国を救ってくれたのです! なのに勇者たちを捕えろなどと!」
騎士たちの中には納得できない様子の者も多く、その1人が思わず声をあげる。
しかし王様は意に反さない。
「奴らがここに来たせいであのドラゴンが現れたっ!
奴らはこのワシの城を破壊したっ! 全部奴らのせいだっっ!」
別の兵士も声をあげる。
「バカなっっ! 勇者ですよっ!? 彼らをとらえて、この世界はどうなるっていうんですっ!?」
「うるさいっ! 早く捕えろっ! これは命令じゃっ! ワシの命令が聞けんのかっ!?」
意を決したように騎士たちが前へと進む。コシンジュはかぶりを振った。
「こうなることは、こうなることはわかってたけどよ……」
しかし、その声を口にしたとたん、突然あらぬところから金属音がひびいた。
目をやると騎士たちの1人が持っていた剣を地面に放り投げていた。
「……やってられるかっ! もうこんなバカな王様の下で働くのはごめんだ!」
その言葉で、他の騎士たちも次から次へと剣や盾、槍を地面に放り投げていく。
「オレは門の守りを任された!
本当なら市民を避難させるべきなのに、バカな命令のせいで危うく死にかけたっ!」
「城を守れだってっ!? あんなブサイクな城に命をかけたって、何の得にもなりゃしねえよっっ!」
騎士たちが口々に吐き捨てる。王様はあわてふためいた様子で右往左往する。
「き、きききっ、貴様たちっ! なにをしておるっっ!」
必死に見まわしていると、騎士たちの中にタークゼ大将の姿を発見した。
キネッド王はすぐに詰め寄り騎士たちに向かって指をさす。
「タークゼッ! 命令しろっ!
今すぐ兵士どもに捨てた武器をとり上げて、あの小僧どもを捕えるように言えっっ!」
しかしなぜかタークゼは微動だにしない。それどころか突然王様の胸倉を思い切りつかみあげた。
「ふざけるなこの野郎っっ! 我々貴族の命よりも自分の城がそんなに大事かっ!
我々をないがしろにするような奴の命令など聞いてられんっっ!
そんなんならまだ愚民どもに政治を任せた方がまだましだっっ!」
それを呆然と眺めていたコシンジュは、思わず口を開いた。
「……なんだこりゃぁ」
後ろにいたヴィーシャが、となりにいるロヒインの肩にヒジを乗せる。
「これ、あれじゃない? ケガの巧妙ってやつ」
ロヒインはにっこりとしてヴィーシャに顔を向けた。
「ホスティさんの出る幕もありませんね」
~こぼれ話~
青白く光っていた夜空を、突然まぶしい光が照らしだす。
それとともに鋭く切り立った山々の姿があらわになり、一部はまだ白い雪が残っている斜面をのぞかせている。
そんな中、とある山のするどい頂に小さな人影の姿が現れる。
両手に弓矢をたずさえ、背中には無数の矢を詰め込んだ筒を背負った人物は、なんと顔立ちの整った女性だった。
彼女は弓に矢をつがえると、それを目いっぱいに引き絞り、とあるほうへと向ける。
矢じりの先にあるのは、ほぼ肉眼捕えるのが難しいほんの小さな点。しかも上空を少しずつ動いている。
それでも彼女は動じる様子もなく、だまってあまりに小さな標的に狙いを定める。
そして突然片手を離した。放たれた矢はあっという間に小さくなって消えた。
すると前方にあった小さな点が、少しずつ真下へと落下していく。
女性は弓を降ろし、落下していく点に向かって小さくつぶやいた。
「朝食、確保……」
凛とした表情からのびる茶髪が、ゆるやかな風に乗って少しだけなびいた。




