第12話 ドラゴン・リアリティショック~その2~
「ゴメンッ! 遅くなったっ!」
邸宅の入り口で、ロヒインがこちらに向かって駆け込んできた。
「お前今まで何やってたんだよっ! 説得係のお前がいないおかげでこっちは大変だったんだぞっっ!」
コシンジュがどなりつけると、横のイサーシュがそっけない口調で言った。
「そのことならジョーカーたちが捕まったさいにあわてて飛びだして見事に転んだだけだ。
おかげでウ○コまみれになってその洗浄に時間がかかっただけだ」
言った瞬間コシンジュがありえないスピードでゆうに5メートル以上離れる。
「イサ~シュ~っっ! なんてことをっ! 大丈夫だよコシンジュッ!
ちょうどいい浄化魔法を使ったから、ほらっ、今はさっぱりっ!」
それでもコシンジュは首をブンブンと振ってこちらに戻ってこようとはしない。
「あれ? そう言えばイサーシュさんも同じ場所に行かれたんですよね。
その靴はちゃんと洗ったんですか?」
メウノが言いつつ足元を見る。すると彼女もまた素早い動きでコシンジュのとなりまで下がった。
「あきれている場合か。どうせこの街は見えない汚れであふれかえってる。貴族どもが鈍感過ぎて気がついていないだけだ。変な寸劇をやってないで早く行くぞ。
ロヒイン、場所はどこだ?」
イサーシュがそっけない態度で言うと、ロヒインは振り返って街を行く人々を指差した。
「日暮れも近いのに、街の人たちが城へと向かっています。
みんな裕福層ですから、恐らく処刑が目当てだと」
言われるなりイサーシュは人々につられてそちらの方へと向かってしまった。
ロヒインは残りの2人に目を向けるが、オドオドとゆっくり歩くばかりだ。
「あの2人が殺されてもいいのっ!?」
その言葉に意を決して、コシンジュ達は小走り始めた。目指す場所はここから近いらしい。
日暮れを迎え、暗くなった城のあちこちにたいまつの光がともり始める。
特に鉄格子の門の前にはおびただしい数のかがり火がたかれ、あたりは昼間同然の明るさにつつまれている。
そこには無数の人だかりができており、すべての視線が前方の開けた場所に向けられている。
奥では木製の大きな足場が置かれている。足場の上には細い木組みの装置が置かれ、そこから複数のロープがくくりつけられ、下の部分はゆったりと円形で結びつけられている。
しかし数本あるうちの2本に何かがくくりつけられている。
言うまでもなく、人の首がロープにくくられているのだ。
2人は小さなイスの上に立たされ、ロープにはまだ若干のゆとりが保たれているが、もし下のイスがなくなればロープはまっすぐ下に張りつめられ、壇上の2人はもがき苦しみながら無残な死を遂げることになる。
それにもかかわらず観衆は2人の罪人、ダイヤジャックとクラブジョーカーの最後を今か今かと待ちわびていた。対するジャックは後ろ手に縛られたロープを、なんとかほどこうと必死にもがいている。
それに比べジョーカーのほうはと言えば、もはやあきらめたと言わんばかりに瞳を閉じ静かにその時を待ち続けているかのようだ。
すると、木製の足場をキシキシ言わせながら何者かが小さな階段を上った。
青と緑のけばけばしい衣装をまとった、ベロン軍大将のタークゼである。
彼は罪人2人に勝ち誇ったような笑みを浮かべたあと、観衆に向かって大きく両手を広げた。
「偉大なるベロンの誇り高き市民の皆さん、お忙しいところよくぞ参られたっ!
本日はこの記念すべき日に大勢の人々に集まっていただき、光栄しごくのことと存じ上げるっ!」
観衆たちはこぞって歓声をあげた。集まってきたものの大半が丘の上に住む裕福な者たちであり、みな思い思いに着飾っている。
みずぼらしい格好をした一般市民も少々いるが、彼らは甲冑姿の兵士たちに退けられ、奥の光景を目にすることができないでいる。
彼らの中には「英雄を殺すなっ!」とののしる者もいる。
「大変ながらくお待たせした!
これより長きにわたって我が国を荒らしてきた、ロイヤルフラッシュ盗賊団の処刑の儀を開始するっ!」
ここでタークゼは少し意気消沈した顔をする。
「残念ながら、4人いるメンバーのうちの2人は捕縛中に抵抗され死亡した。
しかし我々は残りの2人を無事捕獲し、ついにこの処刑台にあげることに成功したのである! ご覧になられよっ!」
そしてタークゼが片手を2人の盗賊に向けると、一同から大きな歓声が上がった。
大将は満足げにうなずくと、ジャックのほうへと近寄る。
詰め寄られた瞬間ジャックは思い切り相手をののしった。
「ふざけるなっ! ランドンの連中と取引して都合よくほかの2人を見逃したくせに、今さら皮の厚いツラをこっちに向けるなっ!」
そう言ってジャックはツバを吐きかける。
まんまと顔にそれをかぶってしまったタークゼは、ハンカチを取り出していまいましげにそれをぬぐうと、そのまま思いきり彼の顔をはたいた。
バチィンという甲高い音がひびいて顔を向こう側へ向けられるも、ジャックはすぐににらみつけ直した。タークゼはいまいましく吐き捨てた。
「けがらわしいっ! 貴様のような分際でこの高貴な私に体液を吐きかけるなっっ!」
タークゼはもう一度ジャックをはたく。そして相手が振り返らないうちに、もう1人の罪人のほうへと向かう。
「貴様のほうはずいぶんおとなしいようだな。すべてをあきらめて死を受け入れる気になったか?」
ジョーカーのほうはと言えば、ただタークゼを冷淡に見つめ返すばかりだ。
相手からの返事は期待できないと見るや、すぐさま観衆のほうへと振り返る。
「では皆さまお待たせした! それではこれより、この2人を死へといざなう処刑人をご紹介しよう!」
タークゼがあらぬ方向に手を向けると、自身が壇上に上がった時よりもより重々しい足取りで階段がきしむ。
現れたのは3人よりも、一回り体格が大きい男だった。
頭には目の部分だけが開いた黒い頭巾をかぶり、両手に常人では持ち上げることもできないだろう巨大な斧をたずさえている。
「おい、『ヴルタス』。今日は絞首刑だ。そんなものは必要ないぞ」
頭巾から目だけを出した処刑人はククク、と低く笑う。
「そんなことはありません。せっかくですから演出を派手にしてやろうと思いまして」
そしてヴルタスは2人の罪人に目を向け、斧を軽く持ち上げた。
「こいつでてめえらの足場を破壊してやる。間違えて足をぶった切っても悪く思うなよ」
ここで初めてジョーカーが鼻で笑った。そして冷笑まじりに告げる。
「ちょいとこの足場をどかすだけで済むだけなのに、ご自慢の斧を持ってくるとはな。
さすが、人を殺したいがためにわざわざ処刑人になっただけのことはある」
「オレがこの仕事を選んだのは金のためだ」
少し気分を害したらしく、ヴルタスは冷たい声で言い放つ。そこへジャックの罵声が飛んだ。
「なにを言ってやがるっ!
公式の処刑人が罪のない連中を殺すことに嫌気がさして逃げ出したのを、わざわざ自分から立候補しやがって!
てめえの手際の悪さがどれだけ評判が悪いのか知ってんのかっ!?」
「おもしれえじゃねえか。それじゃてめえらも楽に死ねねえってこった」
「ええいっ! さっきから好き放題言いよって!
ヴルタス! かまわん、さっさとやってしまえっ!」
いらだたしげなタークゼにヴルタスはうなずくと、足場をミシミシ言わせながら大きく後ろに回り込み、ジョーカーの真後ろに立った。
「お前のほうがリアクション薄そうだからな。こっちから片づけさせてもらうぜ」
「よしっ! では合図とともに斧を振り回せっ!」
タークゼが大きく手をあげると、ヴルタスも巨大な斧を真横に大きく振り上げる。
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁっっ!」
若者らしき声がその場に響き渡り、タークゼとヴルタスの両方がいったん肩の力を抜いた。
壇上のすべての視線が観衆の中央に注がれる。
「すみませんっ! ちょっとどいてくださいっっ!」
観衆たちを押しのけながら、数人の男女が前へ前へと進んでいく。
それを見てタークゼは深いため息をついた。
「これはこれは、勇者一行殿。
ちょうどいい頃あいのところに、いったいどういう了見で水を差すつもりなのかね」
言われるなり中央のコシンジュが、すぐさま棍棒を背中から取り出した。
それを見た観衆たちから一斉にどよめきが上がる。
「処刑は中止だ。首にロープをくくられてる2人をさっさと解放しろ!」
タークゼは一瞬目を丸くしたが、すぐにあきれたかのような顔つきで首を振る。
「いったい何を言い出すのかと思えば。
君たちは自分がなにをしようとしているのかわかっているのかね?」
「そいつらに罪なんかない!
ただお前たち貴族が根こそぎ奪った、人々の財産を取り返しただけのことだっ!」
「なにを言っているのかね?
はて、我々が愚民どもから金を奪い取った? 君たちが言うことは私にはまったく理解できんよ」
コシンジュ達はあたりを見回す。言っていることを理解しているような顔をしている者もいるが、大半は声をひそめてこちらをバカにしているようにも見える。
「ダメだ。奴らは自分たちの行いを根本的に理解していないんだ。
民から重い税をとるのは貴族として当然の権利だと思い込んでやがる」
イサーシュのあきれっぷりにコシンジュは顔をしかめたままタークゼに振り返った。
「わからないのか? オレは勇者だ。
つまり神の代理人だ。神に選ばれた人間の言うことが聞けないのか? いいからさっさと2人を降ろせっ!」
そう言った瞬間、タークゼは一気に頭に血がのぼってしまったようだ。
「頭が高いっ! たかが勇者に選ばれたくらいで調子に乗りおってっ!
貴様のような平民の分際で、この高貴な我々にえらそうな口をたたくでないっ!」
「一応オレも貴族の身分なんですけど?」
コシンジュのひとことにタークゼははっとする。
コシンジュはもともと勇者の家系。身分上はランドンの貴族に当たる。これなら文句は言えないはずなのだが。
「フンッ! ランドンの落ちた貴族ごときに言われたくないわっ!
ヴルタス! かまわん、やってしまえっ!」
振り返ってタークゼが手を振り下ろすと、ヴルタスはすぐさま巨大な斧を振りかぶって、ジョーカーの足元にあった椅子に向かって一気に振り回した。
椅子はこっぱみじんに砕け散り、ジョーカーの真上のロープがまっすぐピンと張り詰める。
「ぐぅぅぅっっ!」
一瞬でジョーカーの顔が苦しみにゆがんだ。それを見たコシンジュはすぐにメウノに振り返った。
「任せてくださいっ!」
言うなりメウノはふところからナイフを取り出すと、すぐさま壇上に向かってそれを投げつけた。
ナイフは吸い込まれるようにまっすぐロープへと向かっていくと、あっけなくプチンと切れてジョーカーの身体が落下する。
その身体が下の板に激突するのを見届ける間もなく、メウノはもう1つナイフを投げつけた。
またしても細いロープを真っ二つにすると、自由になったジャックの身体がよろめいた。
「わっ! わあぁぁっっ!」メウノは彼の立つイスにもナイフを突き刺す。
転倒しかけながらもジャックはなんとかバランスを保ち、ピョンとイスを飛び降りると、突き刺さったナイフを素早く手にとって両手の縄をちぎった。
すぐにジョーカーのもとへ駆けつける。そして息を吹き返した彼を立ちあがせると、コシンジュ達に向かって軽く手を振った。
「恩にきるぜっ! さすがは勇者だなっ! この借りはいつか必ず返すぜっ!」
そこへヴルタスの影が迫る。その巨大な肉体が巨大な斧を振り回す前に、メウノがもう一本ナイフを投げた。
盗賊たちに目を向けていた処刑人の腕に深々と突き刺さり、低いうめき声があがる。
その間に2人は素早い動きで壇上を駆け降りてすぐに群衆の中へと消えてしまった。
一同が騒然となるなか、タークゼがひときわ甲高い悲鳴をあげた。
「ええいっっ! なにをやっておるっ! 騎士どもっ! 早くこの狼藉者を片づけろっ!」
言うなり群衆をかき分けて、重々しい甲冑を着た騎士たちが次々と現れた。
コシンジュ達はお互い背中を合わせながら現れる騎士たちに目を向ける。ロヒインが後ろ向きに話しかけてきた。
「コシンジュ。ここはわたしたちに任せて。その棍棒は人間相手にふるうには危険すぎる」
「そのことなんだけど、どうやら人間相手には通用しないらしい」
ロヒインが「どういうこと?」とたずねると、イサーシュが首を振った。
「ホスティが俺たちを無理やり止めようとしておそってきた。
コシンジュが身を守ろうとしたんだが、棍棒が全く反応せずに押し倒されたんだ」
ロヒインは思わず振り返った。
「それじゃ危ないじゃないっ! コシンジュ、ますます引き下がってた方が……」
「むしろ好都合だ。オレだって素人じゃねえ。鎧相手には棍棒のほうがよく効く」
言っているあいだにも鎧騎士たちがじりじりと迫ってくる。
彼らもコシンジュ達に対して戦いを挑むことにとまどっているようだ。彼らは密かにクーデターを企てており、コシンジュ達はその陽動役を買っていると聞かされているはず。
その意外な行動にどうしていいのかわからなくなっているのかもしれない。
「ええいっ! なにをしている! さっさとそいつらを片づけてしまえっ!」
タークゼがヒステリックに叫んだ、その時だった。
「ぬふおぉぉぉぉっっ!」
こちらににじり寄ってくる騎士たち、うちの1人が重々しい甲冑をきているにもかかわらず、突然軽々と吹っ飛ばされた。
金属が地面にたたきつけられる音がひびき、コシンジュ達は思わずビクリとした。
何が起こっているのかわからず一同が同じ方向に目を向けると、飛ばされた騎士が立っていた場所に、別の人影が現れた。
「どこを探せばお前たちに会えるかと心配になっていたが、まさかこのような騒ぎを引き起こしてくれるとは、お前たちにはつくづくおどろかされるな」
それは後ろにいる貴族たちとは一味違った豪華なローブをまとう、人間の姿をしていた。
しかし額には巨大な角のようなものをつけている。普通の人間が見れば飾り物かと思うかもしれないが、コシンジュ達からすればそれは違う。
「おまえっ! 魔物だなっ!?」
コシンジュが言うと、人型の魔物は口を大きく開き、そこから赤く光る何かが飛び出した。
コシンジュはすぐに棍棒を向け、すさまじい勢いで飛んできた火の玉を弾いた。
閃光とともに、それまで呆然としていた観衆たちが徐々にパニックに陥る。一部は一目散に逃げ出したが、大半はもつれ合いながらゆっくりとその場を引きさがっていく。
一本角の魔物は少しだけそちらを振りかえったが、やがて無意味と思ったのかすぐにこちらに視線を戻した。
「お前1人なのか? 何やらただ者じゃないみてえだけど、いったい誰なんだっ!」
コシンジュに問いかけられた魔物は少し驚いた顔になっていたが、すぐに真顔に戻った。
「私か? わが名はファブニーズ。栄えある魔王様の大軍勢、魔界大隊を指揮するものだ」
「ふぁ、ふぁぶりー……」
「なんか聞き覚えのあるネーミングで拍子抜けしますね」
コシンジュとロヒインの反応にメウノが「ツッコむとこそこですかっ!?」と思わず言ってしまった。
「トボけている場合かっ!? いま言ったことが正しければ、こいつは魔界の大幹部だぞっ!?」
イサーシュの言葉に全員が反応する。
横一列に並び、それぞれの武器を構えながらファブニーズの前に立ちはだかる。
「……はぁっ!? 魔界の大幹部っ!?
バカ言いやがれっ! どっからどう見てもケンカもまともにできなさそうな普通のニーチャンじゃねえかっ!」
なぜか見当違いのリアクションをしているものがいた。
先ほどまで壇上にいたはずのヴルタスが、こちらまで重い足取りで迫ってきた。
「そこをどきやがれっ!」
かなり重量があるはずの斧を軽々と振り回したあとで、ヴルタルは勢いよくこちらに向かって駆け込んできた。
コシンジュ達は思わずその進路を避けざるを得ない。
「やめろっ! そいつはただ者じゃないぞっ!」
コシンジュの制止も聞かず、ヴルタスは走りながらも大きく斧を振り上げる。
対するファブニーズはそれを鼻で笑いつつ、大きく息を吸った。
「危ないっ! 避けてっ!」
ロヒインが声を張り上げるが時すでに遅く。
ファブニーズが息を吐いたとたんに前方が炎に包まれる。
一瞬にして全身にそれを浴びたヴルタルはあっけなく巨大な斧を手から離した。
「……のわっ! あちぃっ、あちいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃっっっ!」
全身火だるまになったヴルタルは、もがきながら地面に倒れ、そしてバタついているうちにまったく動かなくなった。
「くそっ! あの火炎攻撃は強烈だぞ!」
「ですがあまり攻撃範囲は広くないようです。むやみに近付かなければ直撃を受けることはないでしょう。
わたしが奴を引きつけますので、みなさんは背後から奴に迫ってください」
同じ方向を向いたままのコシンジュとロヒインのやり取りに、単独の敵はすぐにこちらを向いた。
「ほう、私がたった1人しかいないことをいいことに、よってたかってのリンチときたか」
それなりに声をひそめていたはずのロヒインは目を見開いた。
「聞こえてたっ!? なんて地獄耳……」
するとファブニーズは正面に向き直って、爪を立てるように開いた両手を胸の位置でクロスさせる。
そしてうつむきぎみににらみつけながら告げる。
「なぜ私がたった1人でここまで来たのか、その理由を考えていないようだな……」
すると、ファブニーズの足元に巨大な紋章が浮かび上がる。背後にも巨大な炎のようなオーラが浮かび上がり、人並みのサイズにはあきらかにふさわしくないほどの圧倒的な魔力が解き放たれようとしていることが感じられる。
コシンジュは声にあせりを含ませた。
「なっ! なにをしようとしてやがるんだっ!?」
「まずいっ! よくわからんがとにかくまずいっ! みんな後ろに下がれっ!」
イサーシュの声に全員がしりぞく。
紋章から浮かぶ光とオーラにつつまれ、もはやファブニーズの姿はほとんど見えていない。
「ぬぅぅぅぅぅぅぅおあああアァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!」
1人の人間が発するにはあまりに大きな咆哮をあげ、巨大な炎が数度またたいた。
その瞬間、目の前にはありえない光景が広がっていた。
光が徐々に消えていくにつれ、ファブニーズの姿はどこにもなかった。
そのかわり、そこには先ほどまでは全く存在しなかった、見上げんばかりのあまりにも巨大な物体があった。
「で、デカい。これはいったい……」
最初は丸みを帯びていたと思われた巨大物体が、一瞬にして姿を変えた。
それは誰もが知っている、しかし実際には誰も目にしたことがない存在だった。




