第11話 ケバい城の頭の悪い人々~その4~
城が近づくと、4人はまたしても深いため息をついた。
遠景からも異様な造形をしていたが、付近につくとよりそのけばけばしさが明らかになる。
まず、遠くから見るとカラフルどころではない。壁ひとつとっても一色ではなく、ありとあらゆるカラーに塗りたくられている。
まるで極彩色の曼陀羅でも見せつけられているかのようだった(コシンジュ達の世界には存在しないが)。とにかく目に痛い。
城全体のデザインも統一されておらず、建て替えに次ぐ建て替えでただひたすら雑然としている。
やたらと塔と渡り廊下が乱立しており、フライングバットレスと呼ばれる斜めの支柱(教えてくれたのはロヒイン)があちらこちらにある。
城を支えているというより、ただ単にカッコイイからという理由でつけられているような気がする。
そしてとにかく庭が広い。
城と同じ規模を誇る大庭園は、それこそありとあらゆる草花が咲き乱れ、あちらこちらに迷路のような生け垣が設けられている。ただこちらの方はきちんと区画整理されていて、それなりに見栄えはいい。
中に入ると、やたらと広い大広間の赤い絨毯を歩かされた。
広い階段を上り、上階の渡り廊下を進み、いったん空中回廊を渡るとそこからさらに長い廊下が続く。
右手には巨大な窓、左手には両開きの扉と丸い鏡のコンボ。等間隔に置かれたロウソク台も含め、あちらこちらで派手に装飾されているのが、とにかく目に痛い。
扉は大きく開かれ、そこからこれまたやたらと広い舞踏場のような部屋が見えている。
「これ、どう考えてもアピられてるよな」
「言われなくてもすぐに王に面会させる気はないことぐらいわかってる」
コシンジュとイサーシュが言い合っているあいだ、タークゼはやたらと城の自慢話ばかり繰り広げている。こむずかしい内容もあるが、コシンジュ達の耳に入らないのはやたらと退屈だからだ。もちろん4人の誰も相手にしていない。
「ようこそ我が城へ。ワシがこの国のある時、『キネッド13世』であ~る」
そこからさらに場内を歩かされてクタクタになっていた4人だったが、ようやく現れた王を目の前にしてまたしてもあ然とさせられてしまった。
これまただだっ広い謁見の間の、これまた金装飾のおびただしい巨大な玉座の下半分をおおうように、大柄な体形の男がどっかりと座っている。
大柄といっても、もちろん背丈が高くがっちりとしているのではない。
もちろん身体全体をおおう分厚い脂肪のせいだ。つまり太っているということである。
それはもうはしたないくらいに太っている。太りすぎてかなり大きいはずの玉座からもはみ出しそうなくらいである。これまたラメがかった豪華な衣装は体形に合わせて作られているが、これまたうっとうしいくらいにクルクル巻きの金髪に乗せられた王冠は、今にもずり落ちそうである。
「ええと、つまりはあなた様がヴィーシャさまのお父様、ということでよろしいので?」
コシンジュは恐縮ぎみに答える。
相手はギロリとコシンジュをにらみつけた。思わず小さく悲鳴を上げる。
そして横のロヒインにしか聞こえない声でつぶやく。
「ヴィーシャのかわいさはお母さんの遺伝だな」
「静かに。やたら太っているだけでブ○○クと決まったわけじゃないでしょ」
「オホン!」タークゼのわざとらしいせきで、一同は姿勢を正す。
王は気を取り直したように再び口を開いた。
「いかにも。ワシの娘を無事こちらまで連れてきたことには感謝する。ホメてつかわそう」
「報酬をくれる気は……なさそうだな」
コシンジュはぼそっと独り言をつぶやいた。キネッド王は若干めんどくさそうに言う。
「ところで勇者よ。お主は神々から『美しい』棍棒を授かったということだが、それをぜひワシに見せてくれんか?」
美しいというキーワードをわざわざ強調したということは、目的が明らかに珍しいもの見たさであるとバレバレである。
コシンジュは死ぬほど見せたくなかったが、いくらなんでも断るわけにもいかず、しぶしぶ背中から武器を取り出す。
キッドネ王とタークゼはその細やかな銀細工を見るなり「おおっ!」と歓声をあげた。
タークゼのほうがいそいそと近寄ってくる。
「もっと近くで見せてくれ!」
両手をおもむろに近づけたところへコシンジュは棍棒を遠ざける。相手は「なんでっ!?」と不満たっぷりにこぼす。
「これは神々から預かった神聖なものなんです! 王族といえども下手にさわることなんかできません!」
「そう言わずに。ワシにもそれに触れさせてくれんか」
口からよだれがたれそうになっている下品な王様に、コシンジュは意地悪な笑みを向ける。
「いいですけど、神に選ばれた勇者以外が手に取るとヤケドしますよ」
言われて2人はあからさまにガッカリした顔つきになる。横の仲間たちは感心しながらも心配そうな顔つきになった。
「結局棍棒目当てかよ。旅の話もまったく聞く気なかったし、早々に退出してホントに良かったぜ」
コシンジュは深いため息をつきながらも、振り返ってケバケバしい城を見上げる。
ロヒインが同じように振り返りながらも、すぐに心配げな目をコシンジュに向ける。
「でもよかったんですか?
ランドンの陛下には触れさせたのに、もしウソがバレたらいったいなんて言われるか」
「いいんだよ。どうせ2度と会うこともない人だからよっ!」
そこへイサーシュが思いだしたかのようにこう切り出した。
「しかしあれだな。
早々に立ち去るためにホスティ団長の名前を出したはいいが、彼の言われようはさんざんだったな……」
「あの、すみません。実は今日、騎士団長のホスティさんの邸宅に呼ばれてまして」
棍棒を拝見するのをあきらめた後も、さんざん王とタークゼは城の自慢をしようとするが、いい加減うんざりしたコシンジュはちょうどいい言い訳を思い出した。
と思ったのだが、タークゼはいきなり鼻息を荒くした。
「フン、あんな奴の約束なんぞ破ってしまえ」
「なんですか、いきなり」
「あやつはわが軍のトップであることをいいことに、我々貴族にあれこれ指図したりしておった。
だから私が『大将』として上に立つことで、しっかりと抑えつけてやったのだよ」
「ああ、それで大将、という肩書きが付いているわけですか」
ロヒインの言葉にはあきらかに含みがあったが、さりげない言い方と相手の鈍感さのおかげでそれがさとられることはなかった。
「そこからあれこれとホスティの悪口が続いたが、あそこまで言われる彼の気持ちがわからんでもないな。
どおりで革命などという大それた考えをするわけだ」
イサーシュは腕を組んで何度もうなずく。コシンジュはここぞとばかりに呼び掛ける。
「だろ? やっぱりこの国には革命が必要なんだよ。
イサーシュには悪いけど、たとえ貴族制度を廃止したとしても現状を許すわけにはいかないだろ」
「だからと言って俺たちが奴らに手を貸すのは反対だぞ」
「あれだけの腐敗ぶりを見ても、ですか?」
ロヒインが問いかけても、イサーシュは首を振るばかりだ。
「それでも寄り道するのは問題だと思うし、失敗すれば無傷では済まない。
協力するにはあまりにリスクがありすぎる。俺の個人的な感情を抜きにしても、正直やめておいた方がいい」
「でもオレは、やっぱりほっとけないな。
たとえ危険がともなおうが、時間がかかろうが手伝ってあげるべきだと思う。それが勇者ってことだと思う」
イサーシュは立ち止まった。
そしてなにも言わず、無言でコシンジュの顔をにらみつける。
コシンジュは少したじろぐが、すぐに首を振ってはっきりと告げた。
「イサーシュ。お前がうんと言わなくても、オレは勝手にやらせてもらうぜ。
いやなら1人で好き勝手にやればいい」
「コシンジュッ! さすがに言いすぎだよ!」
ロヒインがすぐに止めに入る。そして割って入るように真ん中に立った。
「イサーシュ。もしかして本当に手伝わないつもり?
言っとくけどコシンジュなしではこの先何もできないよ?」
「だったら今からでも遅くない。勝負しろ。俺がお前の武器を奪って先に進む」
「い~さ~あ~しゅ~っっ!」
もはや崩壊寸前の勇者一行。
そこへ異変が起こった。
ちょうどイサーシュとロヒインの間のほんの小さなすき間を、ヒュンッと何かが飛び交っていった。
そこでコシンジュは飛んで行った方向を、イサーシュとロヒインは飛んできた方向にそれぞれ目を向ける。
メウノだけが何が起こったかわからず目をパチパチさせている。
他の3人は見覚えのある存在に少し眉をひそめる。
あれはたしか、真っ黒な封筒のようなものだ。
封筒、ここでようやくコシンジュがロヒインとイサーシュと同じ方向を向いた。
豪華な建物と建物の合間に、こっそりと隠れるようにして小さな影がこちらを見つめている。
どことなく見覚えのある姿に、思わずコシンジュはメウノの肩をポンポンと叩いた。彼女は振り返るが、心当たりがないのか首をかしげる。
「ほらっ! あれだよっ! 前にヴィーシャと一緒にいた!」
思わずコシンジュが指をさすと相手は消えてしまったが、メウノは思い出したように手をポンと叩いた。
「あっ! フラッシュ盗賊団の……!」
ロヒインが「しっ!」と口に人差し指を当てる。メウノはしまったと思ったのか回りを見回すが、どうやら周りの人々は気付いていないようだ。
「とりあえず移動しよう。相手は向こう側に消えた、同じ方向に行けば奴が現れるかもしれん」
イサーシュの発言で、コシンジュ達はあたりを警戒しながら人影が消えていった方向へと向かった。
町の郊外にある農村。一面を田畑がおおっているが、その光景はどこかわびしい。
土は異常なほど乾いていて、あちらこちらに小ぶりの石が散乱している。そこから生える農作物もやせ細っていて、虫食いのあとがおびただしい。
その一角、完全に干からびてしまったレタスに手を触れ、1人のくたびれた農夫が深いため息をつく。
「今年もダメけ。やっぱり危険をおかしてでもランドンに行ぐか。いつまでもここでがんばっててもしがたね」
言いつつも、この国の軍隊が密入国にきびしいことはいやでもわかっている。
捕まった連中の中には2度と帰ってこなかった者も少なくない。それを思い出し、農夫は力なく上空を見上げ、ぼう然と青空を見つめた。
すみきった空は美しいのに、どうして地上とこうも違うのだろう。
ふと、農夫は前方に目を戻した。どこからか聞いたこともないような重低音がひびいていたからだ。
彼はあたりをキョロキョロと見回す。そしてとある一点に視線が向けられる。
自分が座っている位置から遠くない場所に、空中に浮かび上がるように黒々とした玉が現れた。
最初は何かの見間違いかと思ったが、ひょっとしたら通常では起こり得ない力が働いたのかもしれないと思い、農夫は立ち上がった。
そして近づこうとした瞬間、目の前でバチバチッとすさまじい光がはじけた。
とっさに目をおおった農夫は、警戒するようにゆっくりと両手を下ろした。
黒い玉はいつの間にか消え、辺り一帯が黒コゲに焼け焦げていた。小さな炎があちこちでくすぶっているなか、農夫は中央に何か小さな影が現れていることに気づいた。
その影が少し上へと伸びたので、思わずビクリとしてしまった。
しかし目をこらしてみてみると、それはどうやら人の姿をしているらしい。
もっとよく確認しようとして、農夫はじりじりと詰め寄る。
どうやら男のようだ。額から奇妙なものが伸びている以外は、明らかにごく普通の人間のように見える。
そう思った瞬間、農夫の中で突然何かがはじけた。
「お前っ! 魔術師のたぐいけっ!」
とまどいとおびえはいつの間にか怒りへと変わっていた。
男が立っている場所はよりによって自分の畑である。それがあっという間に黒コゲにされたのだから、たまったものではない。
「ふざけんなやっ! 一体何のつもりだか知らねっが、こんなことしでかしてただで済むと思ってるんけっ!」
相手は魔術師のようだが、生きるか死ぬかの瀬戸際にある自分にとってはもはやどうでもいい。
とにかく何でもいいから日ごろため込んでいるうっぷんを相手にぶつけてやりたかった。
「おいっ! 聞いでんのかっ! 絶対ただでは済まさんけんねっ!」
すると、目の前の男がギロリとこちらをにらみつけた。その瞬間に農夫の動きは止まる。
なんなのだ、この異様な気配は。明らかに相手は普通の人間とは違う。
異様なのはそれだけではない。
この男、全体は普通の人間だが、その瞳は今にも光を放ちそうな黄色をしている。
そして瞳孔はひどく尖っている。よく見ると額からのびている角も作りものではなく、正真正銘の角のようだ。
「ひ……ひぃ……」
農夫はまったく動くことができなかった。
身体全体が震えはじめている。見つめられると何が何だかわからなくなってくるが、これだけは感じ取れる。
怖い、ただひたすら怖い。
ようやく自分の体が動き始めた。いや、自分の腰だけがまっすぐ地面に向かって落ちているのだ。
ドスンと腰を抜かすと、農夫はありったけの声を絞り出した。
「ひ、ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
あっという間に農夫の股間が色濃くなる。
とうとう失禁してしまった農夫を見て、人の姿をした魔物は小さく笑う。
「フフフ、他愛ない」
そしてまるで興味を無くしたようにその場を歩きはじめた。
あたりをゆっくり見まわしながら、竜王ファブニーズはつぶやく。
「さて、勇者どもがいる街は、いったいどこにある?」
その視線がある方向でと止まる。
目的地は容易に見定まった。それほどベロンの街のランドマークは無様な様相をしている。
「ほらっ! あそこっ!」
ロヒインが上空を指差す。コシンジュ達がそちらを見ると、屋根の上に小さな人影が見えた。
メウノがつぶやく。
「間違いありません。あれはラナク村に現れた、ヴィーシャさまの盗賊仲間です」
前回見たときは黒光りの目立つ装束を身につけていたが、今はごく普通の町人姿である。
それでもヒョロリと長い体型は、一度見たら忘れられるものではない。盗賊としては問題ある気もするが。
屋根の上の人物は一瞬で向こう側に姿を消した。
見失えばどこへ行けば分からなくなってしまうが、進んでいくたびにいつの間にか現れて、コシンジュ達をどこかへ導こうとしている。
それを続けているあいだに、あたりはさびれきった裏街道へと変わっていった。
同時になにか異様な気配がする。
「……ていうかクサッ! なにこのニオイっ! これあきらかにトイレのニオイしないっ!?」
「コシンジュ、そんなていねいな言い方はらしくないぞ。はっきりと『ウ○コ』のニオイがすると言え」
「なんでだよイサーシュっ! これ絶対おかしいじゃねえか!
ていうかこのあたり地面がおかしいくらい赤茶けているんですけどっ!?」
すると、前方の上空の窓が突然開け放立て、中からバケツを持った手が現れた。
「下の人気ぃつけろ~っ!」
威勢のいい掛け声とともにバケツがひっくり返されると、そこからなんとも言えない色をした何かが地面に向かって放出される。
「おいっ! 今なに捨てたっ!
すみませ~んっ! いまなにを捨てたのか教えてもらっていいですかぁ~っ!?」
半ばパニックになっていたコシンジュ。すると突然、背後で異様な気配がした。
気がつくと、自分の喉もとにヒヤリとした感覚がある。
目だけを下に向けると、そこにはするどい光を放つかたい質感の何かがあった。
「さわぐな。殺されたくなかったら静かにしていろ」
コシンジュはコクコクとうなずくと、喉もとのナイフはゆっくりと離れていった。
コシンジュは恐る恐る振り返ると、真後ろに先ほどの細身の男が立っていた。相手は無表情のままつぶやく。
「まったく、勇者が聞いてあきれる。少々気配を消したところでまったく気付かれずに忍び寄れるとはな」
「いいえ、あなたの腕がかなりのものなんですよ。
ヴィーシャ姫の身のこなしにもビックリしましたが、あなたはそれ以上かもしれません」
ロヒインが告げると、男はギロリと視線だけを向けた。
それなりに整っているが、ほおがこけているせいで病人のようにも見える。
「フラッシュ盗賊団のクラブジョーカーだ。本名は聞かないでもらおう。
話はスペードから聞いている、ハートを助けてくれたことには感謝している」
するとジョーカーはコシンジュ達を通り抜けて例の汚物まみれの道へと向かおうとする。
ところが、あり得ないほどの素早さでコシンジュがジョーカーの袖を引っ張った。
「待て待て待て待てぇぇぇぇぇっっ!」
ジョーカーは少しびっくりした顔で振り返った。
「おどろいたな。今の動きは見事だったぞ」
「そうじゃなくてっ! なんでよりによってあんなムチャクチャな場所を歩かなきゃいけないんだよっ!」
「そうか、ランドンは衛生管理がしっかりしている国のようだな。
首都に至っては下水道まで完備されているそうじゃないか」
「そんなの当たり前じゃないかっ!
うらびれた田舎町でさえ出したものは畑の肥料にするのに、この町ではよりによって窓からポイッと捨てるんだっ!?」
するとジョーカーは素早くナイフを取り出し、「だから静かにしろと言ってるだろ」とつぶやいた。
コシンジュはあわてて袖から手を離した。ロヒインは同情しながらも告げる。
「コシンジュ。キミは知らないだろうけど、きちんと排泄物の後始末をするのはランドンだけなんだよ。
都市部の下水インフラが整っているのはあそこぐらいで、人口が密集してる地域はどこもこんな感じだよ?」
「だからってポイはないだろポイはっ!」
反論されたロヒインは頭を抱えながらも、痩せこけた男に向かって申し訳なさげな顔を向けた。
「ジョーカー。信じられないかもしれないけれど、我らが勇者は3日も身体を洗えないと発狂するくらいのひどい潔癖症なんだよ。
悪いけどもう少しいい道を行けないかな?」
「悪いがどこもかしこもこんな状況だ。
貴族どもが残りの水道を噴水に使っているせいで、この街の水資源は常に枯渇状態にある。悪いが我慢してくれ」
「そ、そこをなんとか……」
必死で食い下がるコシンジュを無視し、ジョーカーはさっさと先に進んでしまった。
コシンジュだけでなく、他の3人も顔を見合わせる。
「さすがにきれい好きの国に住んでいると、こういった文化には抵抗がありますね」
「ここまで生まれた国に感謝するのは初めてです」
ロヒインとメウノが言うと、イサーシュがゆっくりと首を振った。
「ここまでして、奴は俺たちと何の話がしたいんだ? よほど重要なことなのか?」
イサーシュが前方に目を向けると、ジョーカーは道の向こう側でじっとこちらを見つめている。
イサーシュは意を決したようにコシンジュの肩を叩いた。
「コシンジュ、ムリはするな。ここは俺だけでも行こう。
何の話をしたいのかは知らんが、どうしても聞いておく必要があるようだ」
「わたしも行きます。ここまで来てきびすを返すのも失礼な気がしますから」
ロヒインも力強くうなずく一方で、メウノは力なく首を振った。
「私はホスティさんの家に向かいます。コシンジュさんはついていきますか?」
「うぅ、そうする……」
「そう言うことです。じゃあ2手に分かれることになりますが、連絡はどうしますか?」
メウノがロヒインを見ると、相手はふところから何かを取り出した。
よくわからない紋章の形をした円形の小物のようだ。
「これで連絡が取れます。とはいってもこちらからしか念を送れませんが。
時間が取れたら必ず連絡します」
メウノがうなずくと、ロヒインはイサーシュとともに汚物まみれの道路へと足を踏み入れた。
最初はちゅうちょしながらも、しだいに歩を速めていく。
歩くたびにネチョネチョと嫌な音が聞こえてくる。それを見たコシンジュは露骨に嫌な顔をする。
「うわぁ、絶対ムリムリ。こんなの正気の沙汰じゃないって」
「だから無理していくことないですって。私たちはさっさとホスティさんの家に向かいましょう」
そう言ってメウノは来た道を戻ろうとするが、コシンジュはもう一度振り返って小さくなっていく2人をながめた。
そして全身をブルッとさせてメウノのあとを追った。




