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第1話 旅立ちっぽい展開~その5~

 一方村入り口では、相当大変なことになっていた。


「なんだこいつ……ムダにでかいだけかと思ったら、つ、強すぎる……」

「お、おれたちの攻撃が、ほとんど通用しないなんて……」


 あたりは一面倒れた兵士や剣士たちであふれかえっていた。一方の魔物たちは1匹もやられていない。

 しかし彼らのほとんどは誰も手を出していない。

 彼らは一様に巨大な身体を持ったリーダーの後ろで遠巻きにながめているだけだ。


「よしっ! これであらかた片付いたな!

 お前ら、今から村じゅうおそってこい!」


 のどかな田園風景を指差すそいつは、確かにトロールと同じくらい巨大だった。

 ただ見た目はトロールというよりはオークのビックサイズ版と言った感じだった。

 しかしそれだけならまだいい。

 兵士たちがビビっているのは、こいつは全身が真っ赤で、持っている武器がただの棍棒ではなく、幾何学的な造形をした鉄のカタマリだったからだ。

 自信たっぷりにボスキャラは部下たちに告げる。


「村じゅうの奴らを捕まえて来い!

 男はミンチにしてスタッフがおいしくいただいてやる! 女はペットにして一日中全身をペロペロしてやる! ……この表現はキワどいか?」

「いや、どうせ魔物なんだから誰も気にしないと思うけど……」


 それをこっそり眺めていた兵士がつぶやいた。


「そんなこと言ってる場合か。

 あいつ、背が高いから足のあたりを斬りつけるしかなかったけど、かすり傷程度で何の効果もなかったぞ」

「それでもあんまりダメージを負うとまずそうだから途中で反撃してたけど、あの鉄のカタマリ、こちらが防御しても身体ごと吹っ飛ばされるぞ。

 一体どんだけの重量があるんだよ」

「あれじゃ先生やイサーシュでもまともに立ち向かえるかどうかわからないぞ。

 どっちかって言うと魔導師の相手だ」

「ええい! シウロ先生とロヒインの奴はまだか!」


 兵士たちが口々にしゃべっていると、ボスキャラが巨大なメイスを彼らに突きつけた。


「だまってろこのザコ兵士どもめ!

 しゃべる元気があるんならもっと痛い目にあわせてやるぞ! 物語の都合上すぐに殺すのは問題があるが、逆にいえばずっといたぶられることになるんだから覚悟しとけよ!」

「お、鬼だ……」


 兵士の1人がうんざりしてつぶやくと、村の奥からようやく2人組が現れた。


「お待たせっ!」


 ロヒインの横には、けっこう背中が曲がっているよぼよぼの老人の姿があった。

 この人物こそロヒインの師であるシウロであることは言うまでもない。


「待たせたなみなの衆。

 この老体ではなにげに道を急ぐのも大変でな、時間を食ってしもうた。ていうか物語の設定上あまり早く登場すると時間軸的にマズいからわざとそう言う設定になっとる」

「お、鬼だ……」


 兵士たちがグチをこぼしているあいだに、巨大なオークが棍棒を魔導師たちに向けた。


「ようやく魔法使いどもの登場か。

 退屈まぎれに兵士どもをいたぶろうとしたところを、邪魔しよって。すぐに料理してくれるわ!」

「言ってくれるな。悪いがワシらは師弟そろって一流じゃ。

 そんな魔導師を2人も相手にするからには覚悟せい!」


 となりにいる弟子のロヒインが叫ぶ。


「先生! 相手はオークリーダーです!

 普通に炎攻撃が有効ですよ!」

「わかっとるわ!」


 そう言うなり2人はステッキを前に突き出し(師匠のほうが何気に高価そう)、ブツブツと呪文をつぶやき始めた。

 しかしボスキャラは高らかに笑う。


「はははっ! 魔法使いの弱点は呪文詠唱(えいしょう)に時間がかかることだ!

 そうやって小言をつぶやいているあいだにこのメイスでぶん殴ってやるわ!」

「「ファイヤーッッッ!」」

「詠唱はやっっ!」


 さすが一流は出来がちがう。

 2人がステッキを同時に突き出し、そこからおびただしいほどの炎が飛び出す。

 オークリーダーはあっという間に赤い光に巻かれる。


「おお、すげぇっ!

 てこっちにも飛び火するんでカンベンしてもらっていいですかっ!?」


 兵士の1人が叫んでいるあいだに、炎は止んでしまった。

 オークリーダーのいた場所は煙だらけになっている。


「相手を甘く見過ぎたようじゃな。

 2人同時に強力な火炎魔法をくらえば、さすがに黒コゲじゃ」

「……ククククク……」


 ところが、モクモクと上がる煙の中から、あまりダメージを負ってなさそうなオークリーダーの声が聞こえてくる。


「なにっっ!?」

 ロヒインが叫ぶと、煙が晴れてオークの姿が現れた。


「フンッッ!」

 とさけぶと棍棒を素早く振り回して一気に煙を払いのけてしまった。

 そこには少々黒ずんではいるものの、真っ赤に染まった肉体そのままの巨大なオークの姿があった。


「ガハハハハハハハッッ! オレ様を普通のオークロードと一緒にされてしまったら困る!

 この『ギンガメッシュ』様は、特殊な訓練を受けることによって物理と魔法に強い耐性ができた特別な肉体をほこるのだ!

 このオレ様を倒すためには、RPGで言うならそれこそ長期戦を覚悟しなきゃいけないほどの忍耐力が必要になるぞ!」

「なんてこった。それで剣で斬ってもほとんど傷を負わなかったのか!」

「しかも魔法も効かないなんて」


 兵士に続いてロヒインもつぶやく。


「やはり勇者つぶしにやってきた刺客(しかく)は一味違うか。

 我々はよほど警戒されていると見える」


 シウロがつぶやくと、なぜか後ずさりし始める。


「先生! なんで後ろ下がるんですか!?」

「当然じゃろがっ! ワシもう70こえてるよ!? 足遅いよ!?

 ましてやあのでっかい武器よけようと思ったら素早いローリングが必要になるよ!?

 魔導師でもそれなりのフィジカルが必要になるよ!? へたなRPGと一緒にされちゃ困るよ!?」

「うっ、こうなると1人でやらざるを得ないか……」


 そう言ってロヒインは再びオークリーダーと対峙(たいじ)する。


「ククク、しかしさすがに今のは熱いと思ったがな。

 いいだろう、あのジジイはほっといて、お前一人を相手にしてやる。

 普通の戦士と違って女の子のお前はどこまで持つのかな?」


 すると、なぜか突然ギンガメッシュはロヒインの顔をのぞきこんだ。


「……ていうかお前意外と可愛いじゃん!

 すぐに殺しちゃったらもったいなくね!?」

「い、いや、そいつは……」

「よしっ! おまえは殺さずにペットにしてやろう。

 魔界に連れ帰って一日中ペロペロしてやろうか! ていかオレのサイズって……」


 そのあととてもここでは書ききれないような超セクハラ発言を連発しているあいだに兵士がこっそりつぶやく。


「……よし、相手はロヒインのことをカン違いしているあいだに一発ぶちかませば、クリティカルヒットくらうかもしんねえぞ!」

「ていうかあいついつの間に変身してたんだ?」


 何も知らない巨大なオークに対し、ロヒインはローブのすそを持ってちょこんとヒザを曲げる。


「お、お手柔らかにお願いしますわ。

 あまり無体な扱いをされると困ります」

「もちろんだ。オレ様の言うことさえ聞いておけば、悪いようにはしねえよ」


 完全に調子に乗っているギンガメッシュだが、後ろからシウロが声をかける。


「ロヒイン。

 お主、その魔法使ってからどんぐらいになる?」

「ちょ、話しかけないでくれませんか?

 この魔法は場合によれば半日以上もつんです。ぜ、絶対大丈夫ですよ……」

「なんぜわざわざ『絶対』なんてつける必要があるじゃだよ。

 ていうかおぬしさっきからなんで妙に汗タラタラなんじゃ?

 その、まさかまさかなんてことは、ないよねえ……」

「ま、まさかねえ……」

「おい、ジジイさっきから会話に踏み込んでんじゃねえ。

 魔物は老人に優しくねえってこと知ってんだろ。わかってんならだまってろよ」


 そう言ってギンガメッシュが巨大なメイスを突きつけているあいだに、ロヒインのいたあたりに「ボンッ!」という音が響き渡った。

 驚いてギンガメッシュがそちらに目を向けると、なぜかそこには先ほどの美少女ではなく、お世辞にも頭がよさそうに見えない間抜けヅラの男が立っている。


「あれ? さっきの子、どこ行った? お前知らない?」


 ギンガメッシュは首をかしげる。

 おかしいな、あんな短いあいだであっという間に入れ替わってるし。

 ていうかこいつさっきの子とおんなじローブ着てるし。


「あん? ああ? ……ああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 ギンガメッシュは目を見開いた。ロヒインはつい叫んでしまった。


「気付くのはやっっ!」

「しまった! 今日の魔法は簡易魔法じゃったか!」


 シイロのつぶやきを聞いたギンガメッシュが、すぐに顔を伏せる。

 やがて低い笑い声がもれだした。


「クククククククク……」

「ああ、コワイコワイコワイコワイ……」


 兵士の1人がつぶやく。

 するとオークロードがおもむろに顔を上げた。ただでさえコワモテなのに、怒り心頭となるとなおさら怖い。


「てめぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!

 ダマしやがったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!」


 そう言ってギンガメッシュはすぐに巨大な鉄のカタマリを振りかぶった。

 ロヒインは覚悟を決め、ギュッと両目を閉じた。

 その時、ギンガメッシュの真後ろを素早く影が横切った。その一瞬で巨大な肉体が動きを止める。

 ギンガメッシュが自分の足元に目を向けると、オオカミのようにヒザの下が折れ曲がっている部分の一部が裂けて、そこから血が(したた)り落ちていた。


「……げっ! いてえっ! いてえぞこれっ!

 オレの足逆関節だから細いんだよっ! 肉薄いんだよっ!」


 そうやって足をおさえながら、同時に自分に斬りつけてきた奴は誰かと見回す。

 そいつはすぐに見つかった。

 ギンガメッシュに背を向けているが、伸びた髪を後ろで束ねているので村の者は誰だかすぐにわかる。


「イサーシュッッ!」


 目を開いたロヒインはすぐに喜びの声を上げる。

 それを聞いてようやく彼は振り向いて自分の武器に目を降ろした。


「さすがは当代一の名剣。

 物理耐性がある化け物でもけっこうな傷を負わせることができるな」

「それだけじゃないよ。

 使い手がイサーシュだからこそ、それだけのダメージを負わせることができるんだよ」


 それを耳にしたギンガメッシュが、すぐにイサーシュのほうに振り返った。


「……てめぇぇぇぇぇっっ! 調子づきやがってぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」


 すぐにオークロードは巨大なメイスを盾に振りかぶった。


「おっと危ない」


 イサーシュは片手間で延長線上に倒れていた兵士を蹴ってどかしたあと、余裕を持って敵の攻撃をかわした。ただ地面に当たった時の衝撃(しょうげき)が強かったのでちょっとよろけた。


「なんてこった!

 片手間で仲間の身を守るほど余裕があるとはなっ!」


 ギンガメッシュが顔をしかめているあいだ、真横方向から先ほどよりは勢いが弱い炎攻撃が飛んできた。


「てめえ横からちょっかい出して来やがって!」


 獣の顔がロヒインのほうを向いているあいだに、イサーシュは素早くその場を駆けだして、先ほどとは反対側の足を斬りつけた。


「あっ、だっ! だからいてぇんだってっっっ!」


 そう言って足をおさえるギンガメッシュ。


「すげえ連携」

「あの2人にしかできんな。

 おれらや下手な魔導師じゃこうはいかない」


 兵士たちがつぶやいていると、今度は別方向に目を向けた。

 そこにいたのは別の人物だが、どうも自分が知っている雰囲気(ふんいき)とは全く違う。


「あれは、まさかコシンジュか?」

「そんな、まさか、まるで見違えたようじゃねえか」


 彼らがつぶやくのも無理はない。

 いつもの不満げな様子は消えて、落ち着いて巨大な怪物の方向に向かっている。

 そしてその片手には、何やら武器のようなものをたずさえている。

 鈍い光を放つ、無骨な造形をした棍棒。


「え? 棍棒っ!? キミとうとうメインの武器変えたのっ!?」

「うるさいっっ!

 これでもこいつが例の伝説の武器なんだってばよっっ!」


 そう言ってコシンジュは遠慮(えんりょ)なくロヒインに文句たれる。

 こういうところはいつものコシンジュで、村の仲間たちはほっと胸をなでおろした。


「ぷぷぷぷぷ……」

「何笑ってんだよロヒイン。ていうかいつの間にかもとの姿に戻ってるし」

「いやいや、それが伝説の神々の武器ですか。

 まあ、確かにコシンジュには向いているかもしれませんね」

「うるさいっ! うるさいっ!」


 それを遠巻きに聞いていた奴がいた。ギンガメッシュだ。


「なんだよ。

 先遣隊(せんけんたい)の奴ら、間に合わなかったのかよ。まったく使えねえ連中だなオイ」


 そして巨大な獣は振り返った。


「ていうかお前みたいなガキンチョが新しい勇者っ!?

 しかも伝説の武器って、装飾とかでやたら着飾ってるけど、それってどう見ても木製の棍棒じゃねっ!?

 ていうかオレ様と武器カブりってふざけんなよっ!」

「うるせえお前には言われたかねえんだよっ!」


 そう言ってコシンジュは光り輝く棍棒を突きだす。

 しかしそれを見ても、巨大な怪物は全く動じない。それどころか怒っているようにも見える。


「こんなもんが、あの伝説の勇者の武器だってんのかよ。

 しかも使い手はまだガキじゃねえか。ナメるのもたいがいにしやがれ」


 そう言ってギンガメッシュはコシンジュの前に立ちふさがる。

 はたから見ると、その体格差は絶望的なくらいに大きい。

 それなのに、対する小さな勇者は全くと言っていいほど動じていない。

 そんなことも意に介さず、ギンガメッシュはゆっくりと大柄な武器を振りかぶる。


「てめえのような奴にゃっ! このオレ様でも役不足なんだよっっ!」


 しかしすばやく振り下ろした。

 まっすぐやってきた強烈な一撃を、コシンジュは素早く後ろに飛び退ってかわす。

 地面が大きく揺れるが、コシンジュはすぐにその場を飛びあがり、鉄のかたまりの上に乗った。

 それだけではなく、すばやく棍棒の上を渡りはじめさえする。


「なにっっ!?」


 ギンガメッシュが驚くのも無理はない。

 たしかに剣の腕では父やイサーシュには(おと)るものの、コシンジュだってかなり腕のある戦士なのだ。

 ギンガメッシュはあわてて棍棒から彼を振り落とそうとするが、そうなる前にコシンジュは小さく棍棒を横に振りかぶった。

 一瞬で光がはじける。


「ぐうっっっ!」


 巨大な獣は小さくうめき、とうとう巨大な武器を落としてしまった。

 指のつけ根あたりを反対の手で押さえ、顔を苦痛にゆがめる。


「くそっ! これが伝説の武器の威力……」

「役不足だって? それはこっちのセリフなんだよ」


 そう言って降り立ったコシンジュは巨体に向かって棍棒を突きつける。

 ギンガメッシュは顔をしかめ続けるが、やがて首を小さく振り始めた。


「こんな、こんなバカなことが、あるかよ……」


 そしてすぐに前のめりになってコシンジュに迫る。


「こんなバカなことがあるかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」


 言いつつ獣は巨大な口を開いた。このままコシンジュの小さな体にかみつくつもりだ。

 しかし相手は落ち着いて棍棒を構えた。

 そして鋭い歯がならぶ口がやってくる直前まで待って、思いきり武器を振りかぶった。


「……えぼらっっっっっっ!」


 小さく叫んだギンガメッシュは頭を不自然な方向をむいて、そのまま地面に倒れた。

 それきり全く動かなくなってしまう。

 その前には棍棒を振り切ったままの姿勢のコシンジュの姿があった。


「バカなことだって? 不謹慎(ふきんしん)だけど、オレだってそう思ってるよ」

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