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第10話 壊れかけのダンジョン~その3~

 入口はごく小さなもので、それでいて近寄るとまるで吸い込まれそうな威圧感を放っている。

 細い通路は完全に照明が消えており、ロヒインの杖がなければまったく中が見えない。


 しかしそれも途中までだった。うっすらと光が差している場所に出たと思いきや、そこは息をのまんばかりの巨大な洞穴だった。


「うほぉぉ、すげ~~~~……」


 コシンジュ達はその光景を見回す。

 奥のひとすじの光芒(こうぼう)に照らされるようにして、あたり一面が無数の円錐状のつららのような物体でびっしりと敷き詰められている。

 水でぬらされたそれらのほとんどが、光の反射できらきらとかがやいていた。


「話で聞いた以上に、素晴らしい光景ですね。

 これがもう少しで崩壊というのはもったいない話ですが、崩壊していく今だからこそ見られる絶景です。私たちは運がいい時に巡り合わせましたね」


 メウノが感慨深げにつぶやく横で、ロヒインがなぜかしきりに首をかしげている。コシンジュはすぐにそれに気づいた。


「どうしたんだよ。お前ももっと素直に感動しろよ。

 なにこんな大絶景を見てガッカリしたような顔になってんだよ」

「う~ん、おかしい。なにかがおかしい……」

「おかしくなんかないだろ。どう見たってごく普通につくりだされた大自然の絶景じゃねえか。

 勇者の村の近くにある洞窟よりずっとずっとグレードが上だぞこれ」


 言いながらコシンジュはイサーシュまで感動するのをやめて、ふに落ちない顔をしているのに気づいた。思わず「お前もかよ」ともらしてしまう。


「いや、俺にはよくわからんが、言われると確かに……」

「わからない? 天然の大洞窟にしては、なんだか形がととのい過ぎてる……」


 ロヒインが指で洞窟全体をなぞる。たしかに全体的に四角形の空間に見えないこともないが……


「偶然じゃないかな? たまたまこの洞窟ができた時に、そんなふうに形作られただけじゃないのか?」


「みなさんおしゃべりはけっこうですけど早く先に進んだほうがよくないですか?

 また崩壊したら怖いですし。ほらヴィーシャさんもいつまでも見とれてないで」


 両手を胸で組んでぼう然としているヴィーシャを無理やり現実に引き戻し、一行は秘密の通路があるという右側のほうを進んでいった。

 床に木枠が組んであるとはいえ湿気の多さでぬれており、慎重に進まなければならない。


 しかし途中でロヒインの足が止まった。すると突然木枠からピョンと飛び降りた。


「おいっ! 危ないだろっ!」


 コシンジュが叫んだ途端着地したロヒインは、ツルっと足が滑って腰からツルツルとした地面に倒れた。

「あいだっ!」全員があっと息をのむが、ロヒインは片手をあげて無事を伝える。


「いてててて……思った以上にすべりやすいなここ。ですけど大丈夫です」


 するともう一方の手でおもむろに何かをとり上げた。4人がそれに食い入るように見入った。

 その手には小さな何かが握られていた。

 ドロドロになってよくわからないが、何やら人型の物体のように見える。


「人形……?」


 メウノが思わずつぶやくと、ロヒインはニッコリと笑った。


「ええ、恐らく人形に間違いないでしょう。裏を見てください」


 そう言って裏を向けると、何やら表面の物質がはがれて別の質感を持った何かがうっすらと見えている。

 全体的に赤く見える。


「おそらく大昔のものです。

 この洞窟に放置されているあいだに、この洞窟を構成している物質が付着して固まってしまったんでしょう」

「ちょっと待ってください? 私が聞いたところによれば、鍾乳石を構成する物質は流れる水の中のほんのごく一部で、生成されるには気の遠くなるほどの時間がかかるはずですが?」


 メウノの疑問にロヒインは落ち着いた笑みを浮かべる。


「それはそうなんですけど、どうにもふに落ちなくて。

 はっきりとさせるにはもう少し物証が必要になりますね。すみませんけどどなたか手を」


 コシンジュが手を伸ばし、ロヒインはがっちりとつかみ返す。少し難儀したようだがなんとか木の通路まで登り、ローブの尻部分を引っ張った。濡れたためかぐっしょりしている。


「うわぁ、ひんやりしてて気持ち悪い。そのままにしとくと風邪ひきそうだな……えい!」


 すると杖の先から小さな炎を出現させてそっと尻のあたりに向けた。


「オカマのくせにけっこう大胆なことするのね……」


 ヴィーシャが少し引きぎみにつぶやいていた。





 洞窟の奥に進むと、そこには再び黒い穴が待ち受けていた。

 入ってきた場所とは違って少し大きめであるが、奥に光のようなものは全く見えない。


「ここからが、例の立ち入り禁止区域のようです」


 ロヒインの言うとおり、穴の前には立て看板が立てられており、ばっちり「関係者以外立ち入り禁止!」と書かれていた。

 これだけじゃ足りないようで木枠の通路の両脇に杭が立てらえており、それらをがっちりとしたロープでつないである。


 5人は遠慮なくロープをくぐり、杖の先を照らしているロヒインを先頭に奥へと進んだ。

 ぽっかりと開いている穴は得体の知れない恐怖を感じさせたが、これくらいで動じるような5人ではない。


 木枠は途中でなくなっていた。にもかかわらず、地面は割と平坦で非常に歩きやすかった。

 ぽつぽつと現れている鍾乳石もかわしやすく、5人は光で照らしてもなお薄暗い通路を黙々と進んだ。


 途中で数人が首をかしげる。あまりにととのい過ぎているからだ。

 洞窟はゆるやかなカーブを描きながら、一直線にどこかに向かって続いている。


 やがて穴がただ一直線になった。ここでようやくコシンジュが口を開く。


「これ、本当に天然の洞窟なのか? こんなまっすぐな道なんてあり得ないだろ」


 ロヒインが洞窟の奥を見つめたまま大きくうなずいた。


「うん、だいぶ崩れているけど、ここは間違いなく人の手で造り出された遺跡だよ」


 すると突然メウノが叫び声をあげた。


「やっぱりっ! でもそれにしてはおかしくないですか?

 鍾乳石というものは本来気の遠くなるほどの長い時間をかけて生成されるものではないですか。

 なのに人口の洞穴にこれだけの数の鍾乳石がある。古代魔法文明以前に人類が栄えたという記録は残っていないはずですが?」

「ええ、たしかにその通りです。ですけどこれを見てください」


 するとロヒインはその場にひざまずくと、おもむろに鍾乳石に手をかけた。


「おい、お前いったい何を考えてるんだ? 下手なマネはよ……」


 思わず呼び止めたコシンジュに耳も貸さず、ロヒインはためらうことなくポッキリと鍾乳石をもぎ取った。


「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! お前いきなり何やってんだよぉぉっ!」

「えっ!? 鍾乳石ってそんなにポッキリ折れてしまうものなの?」


 ヴィーシャのつぶやきに頭を抱えるコシンジュの動きも止まる。

 ロヒインは振り返った。


「ええ、普通の鍾乳石でしたらね。ですけどこれは一般的な鉱物とは違うんです」

「そうか! ここ、魔法科学文明の遺跡なんだっ!

 この遺跡を生成している素材は水に溶けやすいんですね!? だから比較的短い期間でこれほどの景色が出来上がったんだ!」


 メウノと同じように、全員がアーチ型の天井を見上げた。

 確かに天井がドロドロに溶けてそれらがつらら状になっているように見える。イサーシュがぼそっとつぶやいた。


「それにしたところでおかしい。もし古代人の頭が聡明なら、短時間でこのような状態になってしまう素材を、地下施設に使用してしまうのは早計に思えるが?」

「きっと加工が容易だったんでしょう。耐久性を重んじるより、量産できる石材を定期的に入れ替えたほうが効率は良かったのかも。定期的に入れ替えをしなければいけなかったようですが」


 ロヒインの推測(すいそく)に、ヴィーシャが疑問を投げかけた。


「で、その入れ替えからずいぶん放置されているみたいだけど? ってことはつまり……」

「急いで抜けたほうがいいってことです」


 全員が顔を見合わせると、その場を逃げ去るようにいそいそと先を進み続けた。


「な、なあ。ひょっとして、この奥は手遅れとか。もう崩れて通れなくなってたらどうする?」


 コシンジュが少々震える声になってロヒインにそっとささやく。相手はすぐに返事した。


「う~ん、入ってきた場所と違い、穴自体は小さいですから比較的安定していると思いますが……」

「その逆は? 小さいからこそ上部の圧力を大きく受けるという可能性はないか?」


 イサーシュがよけいなことを口にしたせいで、全員がほぼ駆け足状態になった。


「ちょっと待ってよっ! 仮に前が崩れたとして、いつ崩壊が進んでもおかしくないってことでしょっ!?

 あまり前に進み過ぎるともし万が一のことが起こったらどうしようもなくなるわよ!?」

「おいヴィーシャっ! 一体何のことを言ってるんだっ!

 ひょっとして後ろの方まで崩落してオレたち完全に閉じ込められるってことかっ!?」

「言わないでよコシンジュっ! なんでアタシたちがこんな真っ暗な場所で死ななくちゃいけないのよっ! これならまだ魔物に殺された方がマシだわっ!」

「とにかく行って決めましょうっ!

 前が完全に通れなくなっていたら一刻も早く戻るだけのことですっっ!」


 ロヒインのひとことで全員が走り状態になる。全力疾走なので誰も口を開かない。

 そのうちにお互いの荒い息だけが洞窟内(と言っていいのかわからないが)にひびき始めた。

 ひょっとしてロヒインかメウノが息切れするのではないかという心配が出てきたが、誰もそれを口にする勇気がなかった。


 すると、いつの間にか前方がロヒインの杖の光も届かないくらい真っ黒な空間に覆われた。コシンジュは鼻息荒く叫ぶ。


「いっ、行きどまりかぁぁっ!?」


 するとまわりがいっせいに足をゆるめた。コシンジュもつられるようにしてその場に立ちつくした。


「これは、別の大空間に出たみたいだよ」


 ロヒインがつぶやくと、コシンジュ達は上を見上げた。

 ロヒインの杖から放たれる光は、暗闇に飲み込まれその先が見えない。


「杖の光を強くしてみましょう」


 そう言ってブツブツとつぶやき始めると、杖から放たれる光は一層強烈になった。

 まぶしさに視線を追いやられると、コシンジュは目を丸くした。


 そこは最初に入った大洞窟と同じく、見渡す限りの巨大な空間だった。

 ただ先ほどのものとは違い鍾乳石は少なく、あちらこちらが大きく崩れている。


 しかし細部をよく見ると、とても自然の造形とは思えなかった。

 直線にしろ曲線にしろ、空間の至る所にどう見ても人の手が加えられたらしきあとが残されている。


「こりゃ完全に遺跡だな」


 デザインはよくわからないが、どうやら効率性を重視したシンプルな造形のようだ。

 コシンジュが知っているような豪華(ごうか)な装飾はどこにも見られない。こんなのでよく退屈してられないものだ。


 ただ、遺跡の各所には複雑な造形のものが混じっている。なにを()したのかかよくわからない単なる装飾なのか、それとも構造が複雑になりすぎた機械なのか、コシンジュにはさっぱりわからなかった。


「先ほどとは違ってまだ当時の名残が残っているようですね。

 これを調べれば文明崩壊時に何が起こったのかよくわかるかも」

「それはノイベッドのようなプロに任せておけ。探索(たんさく)するのは俺たちの仕事じゃない。

 話にあった出口を探して、さっさと外に出てベロンの連中に報告すればいいだけの話じゃないか」

「それはそうだけど、ベロンの連中ねぇ。

 あいつらがこの光景を見たら、単なるお宝の山だとしか思わないかも……」


 ヴィーシャが腕を組みながらため息まじりに言うと、コシンジュはジト目を向けた。


「お前にはこいつらがお宝の山には見えないのか?」

「トーゼンッ! アタシはキラキラひかりかがやく宝石にしか興味がないのよ!

 後はせいぜい黄金かしら。頭でっかちの学者さんしか好まないようなこむずかしい骨董品(こっとうひん)にはサッパリッ!」


 なぜか意気揚々と言うヴィーシャにコシンジュは「わっかりやすい奴!」と吐いた。ヴィーシャがすぐににらみつける。


「で、あなたの言う頭でっかちな学者としての意見なんですけど、ここに興味深い物がありますよ」


 ロヒインがかがんで床に落ちている何かを拾うと、それをコシンジュ達に見せつけた。


「これは……古文書のたぐいですか?」


 のぞき込むメウノの言うとおり、ロヒインが拾い上げたのはボロボロになった紙で、しかもびっしりと文字のようなものが書き込まれている。

 しかしあまりにボロボロ過ぎて何が書かれているのかさっぱりわからない。


「我々が知っている古文書よりも、材質が相当悪いようです。

 強いて言うならかわら版(昔風で言う新聞)のようなものでしょうか」


 そして学者肌の魔導師はあたりをきょろきょろと見回す。


「探せばきちんとした材質の古文書が見つかるかもしれません。

 あとから入ってくる探検隊に荒らされなければいいのですが……」


 そう言ってあたりを物色し始める。イサーシュがすぐに声をかけた。


「おい、時間がないんだ。いつ崩れるかもわからない場所に、特別な対策もなしで長時間い続けるわけにはいかないんだ。さっさとここを出るぞ」

「ダメです。ひょっとしたら一般人にはわからない貴重な遺物があるかもしれない。

 ベロンの人間たちがそれを大切にする保証がないというのならわたしが預からないと……」

「お前いい加減にしないと……」


 イサーシュが声を荒げようとした時、突然轟音(ごうおん)が鳴りひびいた。

 またたく間にコシンジュ達の立っている地面が大きく()れはじめ、5人は立っているのがやっとの状態になる。


「いったい何が起こったのっ!?」


 ヴィーシャがふらつきながらもあたりを見回す。コシンジュが振り返ると、その背後に何やら違和感のようなものがあった。


「あっ! 入口がふさがれてるっ!」


 それを考える間もなく、ロヒインが入ってきた通路を指差した。

 彼の言うとおり、そこはくずれたガレキの山でものの見事にふさがれていた。


 コシンジュはイヤな予感がして視線を戻す。すると確かにヴィーシャの背後に、何かが動く気配がした。


「ヴィーシャッ! そこから逃げろっ!」


 あせるコシンジュが手を振り払うと、彼女もさすがに何かを察したのかその場を飛びすさった。

 とたんにもといた場所に巨大な何かが叩きつけられる。


「いったい何よっ!」と叫ぶヴィーシャに応えるためコシンジュは視線をこらす。

 しかしそこには何かがいるようには思えなかった。ただガレキの山が動いているように見えるという点をのぞいては……


「気をつけてっ! どこかに敵が潜んでるっ!」


 ロヒインの言葉に全員があたりを見回す。コシンジュもそれに従いながらも大声で叫んだ。


「岩だっ! 岩自体に気をつけろっ!」


 そう言ったとたん、コシンジュに向かって巨大なかたまりが迫ってきた。

 コシンジュは急いで棍棒を取り出し、それに向かって振りかぶった。

 閃光とともに巨大な何かは弾かれるが、反動で自分自身も軽く吹っ飛ばされ、床にたたきつけられる。


「コシンジュッ!」


 叫ぶロヒインの声にコシンジュはすぐに起き上がった。少しクラクラして軽く首をブンブンさせる。

 腰に会った袋から小さな魔物が顔を出した。


「いててて、気をつけてくださいよコシンジュさん。俺がつぶれてしまうところだったじゃないですか」


 言いつつマドラゴーラはあたりをうかがう。


「敵の奇襲は失敗したようですね。あれだけの巨体だと簡易ゲートを通れるのはせいぜい2,3体が限界です」

「で? その正体は?」

「まずは目をこらしてごらんなさい。すぐわかると思いますよ」


 マドラゴーラの言うとおり、ロヒインの杖に照らされた岩のかたまりは何やら人をデフォルメしたような形をしていた。

 その胸のあたりと目のあたりがうっすらと青色に輝いているように見える。ロヒインが杖を向けて叫んだ。


「岩の魔物かっ! 名前は確か『ゴーレム』とか言ったなっ!」

「そうです! 地属性の魔物ゴーレムは自ら意志をもった鉱物のかたまりっ!

 そんじょそこらの武器は奴には通用しませんよっ! それなりの対策をしなければ奴らは片づけられませんっっ!」


 マドラゴーラの言う通り、巨大な岩の人形2体はゆっくりとしたペースながら仲間たちのもとへと迫る。

 ここでなぜかイサーシュが叫び声をあげた。


「お前の後ろだコシンジュッ! 真後ろにまだ控えてる奴がいるっ!」


 コシンジュはその場を飛びあがるようにして跳ね起きた。

 そしてすぐに後ろに振り返る。

 おどろいたことに、そこにいた巨大な人型は体中が光っている。

 ただしこちらは自ら光っているのではなく、ロヒインの杖に照らされるようにしてキラキラと反射している。


「うおぁぁぁっっ! お前がボス敵かよっ!」

「クククク……勇者よ。お前の命運も尽きたな。

 この『(うごめ)く防壁プリガン』さまに狙われてしまった以上、確実な死がお前を待っている」


 巨大なゴーレムが軽く大地を震動させながらやってくる。そのたびに体表をおおう赤、青、緑などの光がキラキラと反射光をまたたかせる。なにかと思いコシンジュはよく目をこらした。


「……なんだこりゃっ!? お前の体表に浮かんでるやつ、宝石かっ!?」

「えっ!? 宝石っ!?」


 なぜか離れているはずのヴィーシャが反応した。


「なんでお前が反応するんだよっ! ていうかお前の近くにも敵がいるんだから気をつけろよっ!」


 言ってるあいだにそばにいたゴーレムが拳を叩きつけてくる。ヴィーシャは少し気付くのが遅れながらもなんとか攻撃をかわした。ここぞとばかりにコシンジュは「ほら言わんこっちゃない!」とどなった。


「よそ見している場合か。お前の相手はこっちだ!」

「うぅ、2重の意味でやりづらい……」


 正面を向いたコシンジュが露骨に顔をしかめると、プリガンは大量の宝石を張り付けた胸をゴンゴンと叩いた。


「我らゴーレム族は魔界の鉱物が地底よりわき出でる魔力により意志をもったもの。

 オレ様は数百年の時を経て上位種となった。その(あかし)として、俺の体表は再生成されこのような姿になったのだ」

「そのかわりお前の仲間みてえに普通の岩に化けることはできねえみてえだな。

 奇襲(きしゅう)ができずに奥に引っ込んでおいて、ぶっちゃけつまんなくねえか?」

「クククク……それならためしにそのせいなるとかいう棍棒でオレ様をぶったたいてみたらどうだ?

 強力だっていうんだろ?」

「どうせたいしたことないって思ってんだろ? だけど思い出してみろよ。

 お前と同族の鉄壁防御が売りのガルグールですら、コイツの威力に負けちまったんだぞ?」


 棍棒を振りかぶりながら告げるコシンジュに、プリガンはただ胸をゴンゴンと叩くだけで応える。

 コシンジュは若干不敵な笑みを浮かべて、前に進み出ながら思いっきり棍棒をプリガンの太くて短い足に叩きつけた。


 ゴオォォォン! 広い空間内全体にエコーががった重低音がひびき渡る。

 これには手ごたえありとコシンジュはニヤリとした。


 ところが、その前足がいきなり後ろに下がり、すぐにこちらに向かってきた。コシンジュはおどろきながらも棍棒で防御する。

 それでも閃光とともに前から強い圧力がかかり、コシンジュの身体は軽く吹っ飛ばされた。


 尻もちを突きながらもコシンジュはすぐに立ちあがった。

 少し首を振りながらも前方を見上げると、巨大な敵がダメージを負ったようには見えない。


「そんなっ! ガルグールが食らったダメージとそんな大差はないはずだぞっ!

 しかも特殊能力を使ってるわけでもないのに!」

「クククク。お前はこの体じゅうの宝石がただの飾りだとでも思ったのかよ」

「怪しいとは思ってたけど考えたくなかったっ!」


 コシンジュの腰からマドラゴーラが顔を出す。


「コシンジュさんの棍棒と同じです!

 あれらの宝石は一見無造作に見えますけど、複雑な呪文体系がほどこされているんです! つまり魔法陣と一緒ですよ!」


 プリガンが両側の腰に拳をやりながら胸を張る。


「その通り! この魔法陣さえあれば、いかなる攻撃もオレ様には無効よっ!

 その効果、ブラッドスキンや通常の防御魔法よりも約10倍っ!」

「どうするんですかっ! このままだと一方的にやられちまうだけですよ!?」


 マドラゴーラのあせる声にも、コシンジュは動じなかった。ただ自らの武器をちらりとながめるだけだ。

 この棍棒はやり方次第でいくらでも威力を発揮することができる。そう思えば方法なんてなん通りでも思い浮かぶ。

 そしてあるアイディアを頭に浮かべ、コシンジュは再び巨大な光る石像に向かって棍棒を構えた。

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