第8話 森の中の追いかけっこ~その4~
森の中を徒歩で進む。
枯れ葉や木の根がそこら中に散らばっていて少し歩きにくいが、前を進むのにそれほど支障はない。
「それにしても、とんでもないことになったわね」
ヴィーシャが呆れたかのような声でつぶやく。コシンジュが反応した。
「なにが? 馬を失って歩いて次の場所に行く羽目になったことが?」
「違うわよ! いやそれもあるんだけど……それより、あんたの背中の奴」
するとコシンジュが背負う棍棒用の袋に入っていた小さな魔物がはいあがって一気に肩まで飛び乗った。
「……俺のことですか?」
するとヴィーシャは思い切り相手をにらみつけた。マドラゴーラは少しビクリとする。
「コシンジュ、あんたとんでもない厄介者を抱えたわね。そんな奴連れて行ってあとでどんなことになっても知らないわよ」
「なに言ってんだよヴィーシャ。こいつの正体は割れちまったんだ。今さらオレたちをどうこうできるわけがねえだろ?
それよりもこいつがある程度魔界についてくわしいことのほうがよっぽど重要だ。そうだよな?」
「あっ、はいっ! そうですっ! おっしゃるとおりでございます!」
ヴィーシャは思い切りしらけた表情になった。
「……なんて腰の低さ。そんなこと言ってあんた裏では『このクソ勇者めっ!』とか思ってるんでしょどうせ」
「お、思ってないと言ったらウソになりますけどそれを口にするのははばかられますんで」
「普通に言ってるじゃねえか!」
コシンジュはマドラゴーラの花びらにデコピンした。「あいたっ!」と言いながら花びらの間にある瞳を閉じて葉で花びらをさする。
「いてて、俺結構デリケートにできてんですからお手柔らかにお願いしますよぉ」
そこで花びらははっとしたように頭をあげた。
「あ、でもこちらのお嬢さんはちょっと生意気がすぎるなとは普通に思いますけどね」
「言ったわねこのドチビっっ!」
ヴィーシャが血相を変えてマドラゴーラをにらむが、魔物は「おーこわこわ」と言いながらも動じる気配はない。コシンジュは小さく笑った。
「あははは、お手柔らかにしろよ。コイツにはこれからいろいろ役に立ってもらわなきゃいけなんだからさ」
「雑談している場合か」
イサーシュが前に進み出てマドラゴーラに顔を向ける。
「マドラゴーラと言ったな。さっそくだが魔王軍の基本構成について教えてもらおうか。
いやその前に、例の魔王とやらの素性を教えてもらおう」
「えっ? いや、それは困りますよ。いくら人質にとられたからと言って、一応故郷のことなんですからなんでもあっさりと応えるっていうわけにはいかないので」
「お前魔法攻撃は得意のようだが防御力は皆無のようだな。頭の下からのびる一本線みたいな奴を真っ二つにするとどうなるんだ?」
「やっ、やめてくださいよぉぉぉっっ! まったくホント容赦ないんだから……」
するとマドラゴーラはしぶしぶ魔界の現状について語りだした。
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魔王軍はその名の通り、魔王と呼ばれる広大な魔界を統一した君主に率いられています。
前回こっちの世界に侵攻した魔王は「タンサ」という名前でして、この方は自分にもしものことがあった場合に備えて、新しい体制をきちんと準備していました。
現在2代目となる魔王は「ファルシス」。もちろん先代魔王のご子息になります。
現魔王様は魔族で言えばまだ若い方ですが、実質的な年齢は皆さんよりずっと年上になります。物事の判別はかなりついていると考えていいでしょう。
そんな若き魔王に仕える補佐役が、先代魔王のころから務めている「ルキフール」と呼ばれる宰相様です。この方は全軍の総指揮と、ならびに具体的な作戦の提案、総括を担当しておられます。
さらにはみなさん勇者一行の討伐作戦の最終責任者でもあり、常に地上を監視してみなさんの動向を探ってらっしゃいます。
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「ああ聞いてる。奴の力があればこっちの世界をのぞき見するのもお手のものなんだろ?」
「なんだ知ってたんだ。よけいなことまでしゃべっちまったなと思ったらみなさんの耳が早い……」
「じゃあ今こうやって話してんのも聞かれてるってことっ!?
いやそれだけじゃなくって、あんなことやこんなことしてんのもちくいち見られてるってことっ!? プライベートまったくねえじゃねえかっっ! イヤだ~~~~~~~~~~~~~~っっ!」
コシンジュが頭をかかえた。ヴィーシャはしらけ気味に手をふりあおぐ。
「森ん中でいちいち叫ばないでよ……」
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……おほん。そんなベテラン補佐役に支えられた若い2代目を頂点として、膨大な数に及ぶ魔王軍が編成されています。
その大多数が「魔界大隊」と呼ばれる大部隊に編入されています。大まかにゴブリンやオークなどの各種族別に分かれ、そこからさらに細かい部隊編成をされていて、それらすべてを1人の総帥がしきっています。
「ファブニーズ」と呼ばれる魔王殿下と親しい大魔族がそれを拝命しております。こちらも魔族としては若い方ですが、彼もなかなかのやり手です。
俺も魔界大隊の特別チームに所属していて、今までこっちに送られてきた刺客のだいたいが同じ所属になっているはずですよ?
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「で、残りの少数派はどんな部隊に所属しているんだ?」
イサーシュの質問にマドラゴーラは振り向く。
「その前に、先ほど『ガルグール』という名前が出てきませんでしたか? みなさんあいつとも戦ったんで」
横でロヒインが「霧が出てきたな」とつぶやく。コシンジュは肩を回しながらマドラゴーラに答えた。
「あああいつ? けっこうキツかったな。まともにケガをさせられたのはあいつが初めてだった」
「なるほど、奴は地属性の契約をして一気に上位種になったために魔界でもけっこう嫌われてたんですよ。
奴が所属していたのは『幻魔兵団』と呼ばれる特殊部隊です」
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幻魔兵団は主に4つの部隊に分かれています。
みなさん「地水火風」はご存知ですよね。魔法の属性を大まかに分けたやつです。
同じようにして各兵団も地、水、火、風の4つの属性に分かれているんです。
ですけど油断しないでください。各属性の魔物たちはもちろん弱点属性がありますが、それぞれ思い思いの対策をとってそれをきちんとカバーしています。
単純に魔導師が対応する魔法で反撃すればいいと言うわけじゃないんで、みなさん絶対に気をつけてください。
魔界大隊とは違い、幻魔兵団は属性ごとにそれぞれ総帥がついています。
もちろん各属性における最高の指導者です。比較的少人数構成である各兵団の総帥が表だって出てくる機会は少ないかもしれませんが、もし出てくることになったら最大限警戒してください。
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「このように魔王軍は主に5つの部隊で構成されています。
ルキフール様はその中から選りすぐりの精鋭を選び、この地上に送りこんでいるわけです。
みなさんはそんな奴らをもう何隊も返り討ちにしているわけですから、これからさらに厄介な連中が送りこまれてくるわけです。俺が言うのもなんですが、果たしていつまでもつのやら」
「お前はそんないつ死ぬかもしれない連中に協力しているんだ。しっかり頼むぜ」
コシンジュがおどしつけるようにして言うとマドラゴーラは精いっぱいおどけた。
「やめてくださいよぉっ! こっちだって成り行きでいろいろ協力しちまってますけど、いざという時は全速力で逃げますからねっ!」
「ああそうしてくれ。ちなみにそうなったら世界中にお前の人相書きが配られることになるんでよろしく」
「でもそれをするためにはまずヴァルトの街にたどり着かないとね」
そう言いながらロヒインは振り返ってマドラゴーラの姿をながめた。
「それにしても、見聞きしたことのない魔物だね。
前の戦争の記録にこんな姿をした奴は載っていなかった。だからわたしもどうしていいかわからなかったんだね」
「おっしゃる通りです。俺は魔界植物の突然変異。こんな能力を持っている魔物は広い魔界の中でも俺ぐらいしかいません。だからこなせる任務と言えば、暗殺くらいしかなかったんです」
「なるほど、気をつけないと。魔王軍にはまだまだそんな連中がゴロゴロしているのかもしれない」
「突然変異と言えば、さっきのバックベアーもその1人です。あんなメチャクチャなことをする奴はほかにはいませんから」
「……だから言っただろ? オレたちには魔界からの情報源が必要なんだって。
お前がどう思おうが、マドラゴーラには今後ともついてってもらうからな」
コシンジュの呼びかけにヴィーシャは「う~ん」といいながら髪を小さくかきむしった。
彼女の言うとおりマドラゴーラの言動には注意するべきかもしれないが、彼を引きいれたメリットはパーティにとって非常に大きい。いや、それ以上に……
「本当のところを言うと実はここらあたりでマスコット的なキャラがほしかっただけだけどな……」
「いきなりのメタフィクションボケッ!?」
ヴィーシャのつっこみにマドラゴーラが否定するように葉っぱをゆらゆらさせる。
「いやいやいや、俺なんて別にかわいくもなんともないですって。精神年齢かなり高めだし。
それを言うんだったら、ええっとロヒインさんだっけ? そちらの方のほうのマヌケづ……もといチャーミングな顔のほうがよっぽどマスコット的な気も……」
「おいおいおいっ! そんなこと言ったら本人が傷付くかもしれねえだろっ!? ほら見ろよ……」
言いつつコシンジュは当の本人を指差しそうになったが、その動きが途中で止まる。
たしかにロヒインは突然足を止めたが、その顔はあきらかに先ほどの発言に苦しんでいる様子ではない。
しきりに当たりをきょろきょろしつつ「おかしい……」とつぶやくだけだ。
コシンジュがいぶかしげにたずねる。
「なにがおかしいんだよ?」
「よく見てよ。いつの間にか、あたりは霧だらけになってるじゃない?」
ロヒインが指でなぞる通り、目の前の光景はいつの間にか真っ白な霧ばかりになっていた。
コシンジュは首をかしげながらも、なんとでもないと言わんばかりに首を振る。
「ここは森の中だろ? 急に天候が悪くなって霧のひとつやふたつ現れてもおかしくなんかないはずだけど?」
「条件がおかしすぎるよ。先ほどバックベアーを倒したときまではカラッカラの陽気だったのに、急に湿気が発生するなんて。
それに今は昼すぎだよ? こんな時間に肌寒い気温になるなんてどうもおかしくない?」
「確かに考えるとおかしい、ていうかうすらざむっっ!」
「おい、そんなこと言ってる場合か。もしロヒインの言うとおりなら、これはあきらかに敵のワナだぞ」
イサーシュの声に全員が振り向いた。イサーシュはどの顔にも目を向けずに、一度は収めた剣を背中から引き抜いた。
それを合図に全員が武器を構えた。そして円を囲むように森の向こうをうかがう。
「やられた! こんな視界不明の中どこからやってくるかなんてわかんねえぞ!」
「調べます!」
そう言ってロヒインがブツブツつぶやいた。ところが、そこへ赤く光る矢のようなものが現れ、ロヒインが身を伏せた。
反対側にいたヴィーシャをメウノが無理やり押し下げる。
「……おのれっ! だがこれで敵の位置が分かりましたっ!」
言うなりメウノはふところからナイフを取り出して矢が飛んできた方向に向かって投げつける。
ナイフはまっすぐ白い霧の中に吸い込まれた。なにかに当たった様子はない。
「くっ! 手ごたえがまったくありません!」
そう言っているうちにまたしても炎の矢がやってきた。5人はそれぞれ手近な木のそばに隠れてあたりをうかがう。
「保護色か!? それとも透明魔法を使って身を隠しているのかっ!?」
「この霧の中だぞっ!? わざわざそこまでして姿を消す必要があるのかっ!?」
イサーシュの声にコシンジュは否定的な発言で返す。そして背中の生き物に問いかける。
「マドラゴーラッ! どんな敵ならこの中で身を隠せるっ!?」
そのあいだにも炎の矢が次々やってくる。だいたいは樹に当たってくすぶりながら消えるが、ときおり標的の間をすり抜ける。
延長線上に仲間がいる場合は名前を呼んで警告する。相手はぎりぎりでそれをかわしていく。
「おそらくこの霧、詠唱による通常魔法ですっ!
俺が知ってる水属性の魔物では、ここまで姿をまったく見えなくすることなんかできません!
むしろ自分の姿を隠すためにこいつを利用してる可能性があるなら、おそらく敵は霧に溶け込めるような姿をしているはずです!」
「くそっ! だったらこっちから攻撃を仕掛けるのは難しそうだな!」
コシンジュの叫びにロヒインも続く。
「相手の位置を確認しようにも、これだけの猛攻のなかじゃ詠唱ができませんっ!」
「こんな具合に取り囲まれちゃどうしようもないわよっ! とりあえず少しでも有利になれる場所に移動しないとっっ!」
ヴィーシャの呼びかけにイサーシュは若干声が裏返りながら言い返す。
「この状況の中でかっ!? 逃げれば相手に都合のいい的だぞっ!?」
「じゃあこのままずっと籠城するつもりっ!? これじゃいつまでももたないわよっ!?
っていうかメウノふせてっ!」
ヴィーシャは通り過ぎた火の矢をにらみつけ、メウノがそれをかわすのを確認しながら「ほら言わんこっちゃないっ!」とこぼす。イサーシュはまわりを見回しながら言った。
「仕方がないっ! しかしやみくもに逃げると言うわけにもいかんぞっ!」
それを聞いたロヒインが4人全員に呼びかける。
「それぞれ散らばりましょうっ! 木の間をジグザグに行き来すれば相手の攻撃は当たりません!
それでもダメならお互いフォローしましょう!」
「くそっ! この状況じゃ魔法は頼りにならないかっ!」
グチをこぼしながらコシンジュが最初に飛びだした。他の4人がそれを追いかけて森の中をやみくもに進み始める。
5人は必死に走りながら木々の中を走り抜け、どこにあるのかもわからない安全地帯を目指す。
コシンジュの背中にいたマドラゴーラがそっと顔だけを出す。
「心配いらないですっ! 後ろのほうは俺のほうが見ときますから、みなさん全速力で逃げてください!」
「任せたっ! マドラゴーラ、頼りにしてるぜっ!」
コシンジュの呼びかけにすぐさまマドラゴーラはあたりをそっとうかがう。
ロヒインの提案がよかったのか、次々とやってくる火の矢はなかなか仲間たちには当たらない。
しかし、そのうちの1つがイサーシュのすぐ真後ろへと迫っていた。
「剣士の人っ!」
呼びかけられた彼はなぜか背中の剣に手をかける。
マドラゴーラが理解しかねていると、イサーシュはいきなりその場を回転ジャンプしだす。
それまで確認もしなかったのに、引き抜いた剣で飛んでくる火の矢を真横になぎ払った。
「うわっ! うそぉっっ! うそでしょっっ!」
マドラゴーラはすっとんきょうな声をあげる。コシンジュがウザそうに呼び掛ける。
「なんだよマドラゴーラっ! 変なものでも見たのかよっ!?」
そんな呼び掛けにもマドラゴーラは「見たっ!? いまの見たっ!?」と言うばかりだ。
コシンジュは首を振りながら「前しか見てねえからわかるねえだろ!」と毒ついた。
「ていうかよそ見すんなっ! 他の連中もしっかり見とけっ!」
「あっ! はいっ! ていうかっ、あのっ、白いっ、白いのっっ!」
メウノは自分が呼びかけられたと思ってなかったらしい。
一歩かわすのが遅れ、肩のあたりにまんまと火の矢を受けた。一瞬にして彼女の背中が炎まみれになる。
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
メウノの叫びに全員が振り向いた。
ロヒインが「ヴィーシャとイサーシュは先に行ってっ!」と呼び掛け、続いてジタバタするメウノに向かって杖を向けた。
「ウォーターボトムッッ!」
するとメウノの上空に巨大な水の弾が現れ、一直線に彼女の背中に落ちる。
火は消えたもののメウノはその場にしゃがみこんでしまった。ロヒインはすぐにそちらへと向かう。
「コシンジュっ! 援護っっ!」
言われるまでもなくコシンジュは2人のもとへ向かう。途中火の矢がやってきたのを棍棒でなぎ払いながら全速力で駆けた。
「メウノっ! 大丈夫っ!?」
しゃがんで肩に手をかけたロヒインにメウノはうんうんうなずいた。
「な、なんとか。ありがとうございます」
その途中にも火の矢が飛んできたので、メウノはそちらに向かって「バリアッ!」と叫ぶ。
現れた半透明の壁でも火の矢は防ぎきれず、勢いが弱くなったそれをロヒインは杖で振り払う。
「コシンジュっ! 早くっ!」
ロヒインが言う前にコシンジュは2人のもとにたどり着き、ロヒインと呼吸があったかのように2人がかりでメウノの両脇を抱えて彼女を立ち上がらせる。
メウノは軽く手をあげると、ゆっくりと自分で走り始めた。
「コシンジュっ! 彼女を守ってあげてっ! わたしは先に行った2人の位置を確かめるっ!」
そう言ってブツブツ唱えるロヒインにうなずき、コシンジュは飛んでくる火の矢を次から次へとなぎ払う。
すぐ後ろからマドラゴーラが呼びかけた。
「大丈夫ですかっ!?」
「うるさいっっ! あとで教えるから次はちゃんと仲間の名前覚えろっ! お前はそれでも暗殺者かっ!」
マドラゴーラの「ごめんなさい!」というつぶやきを聞きながら、コシンジュはメウノの様子を確かめる。彼女はだんだん調子を取り戻したらしく、徐々に足を速めていく。
「メウノっ! 急ぐぞっ! 大丈夫かっ!?」
「はいっ! また何かあったらお願いしますっ!」
メウノは少しうめきながらも、渾身の力を込めて全力疾走した。
コシンジュもそれを確かめて彼女の真横へとかけだした。
「2人ともっ! 早くっ! こっちに来てっっ!」
ロヒインの声だ。2人はうなずいてさらに足のスピードをあげていく。
真後ろから飛んでくる火の矢はだんだん数が少なくなってくる。敵の魔力が切れてきたのだろう。
目の前にうっすらと人影が見えてきた。近づくとロヒインがこちらに手招きしている。
「こっちに建物のようなものがあるっ! 2人は先に入ったっ!」
コシンジュとメウノは顔を見合せながら、ふたたびかけだしたロヒインのあとを追いかける。チラリとメウノをうかがうと、彼女は息も絶え絶えのようだった。
「がんばれっ! あともう少しだっ!」
「はっ、はいっ!」
「返事なんかしなくていいっ! とにかく全力で走れっ!」
すると目の前にうっすらと巨大な影が現れた。
一瞬イヤな予感が走ったが、立ち止まっていたほうがよっぽど危険だ。だから全力で進む。
巨大な影のほうから3人の声がさわぎたてる。さすがにコシンジュも疲れてきたが、疲れた足にムチをうつように力を込める。
メウノが一瞬こけそうになる。コシンジュはすぐに彼女のもとへ駆け寄り、そのスキにやってきた火の矢を振り払いながら背中を押す。
そうして息も絶え絶えになりながらも、ようやく見えてきた3人のもとへと向かう。
迎えに来た3人がメウノの身体を抱え、コシンジュは振り向いて火の矢を振り払い、後ろ向きに走った。
仲間たちは小さな洞穴へと入ったらしく、コシンジュはちらりと視線を向けてその中へと入った。




