第7話 森の木かげのボランティア活動~その3~
イサーシュはロヒインとともに、再び立ち上がったルーガルと対峙する。
「……ちっ! 足止めもまともにできないとは、使えないザコどもね。
まあいいわ、勇者に深手を負わせることができたから、そのあいだにお前らを片づけちまえばいいだけのことよ」
「気をつけろロヒイン。こいつのスピードは俺でさえついて行けん。
お前でもうまく避けれるよう、なにか対策を考えておいた方がいい」
「あの形態、さっきと変わってますね。なるほど、変形能力というわけか」
ロヒインがつぶやいたとき、よりによってそちらのほうに敵の視線が向いた。
「まずは呪文に時間がかかる魔導師っ! お前からだっ!」
さっそく敵が突進してくる。イサーシュがしまったという顔でロヒインを見るが、彼はあわてるそぶりも見せず杖を前に構えた。
「エアバリアっっっ!」
すると、敵の突進が当たる前にロヒインがはね飛ばされる。
イサーシュは肝を冷やしたが、ロヒインは魔導師とは思えないほどの身のこなしで着地する。
「ほんの軽いバリアです。私ほどなら詠唱の必要がありません。すぐに破られかねませんが、敵の攻撃が当たる前に飛び跳ねれば、足元のバリアがクッションになって空中にバウンドします」
「ちっ! 記憶力だけでなく発想力もあるのかよっ!」
ルーガルはロヒインをにらみつけ皮肉まじりに叫んだあと前足を宙に浮かせ、クルリとこちらに回転して体勢を直した。
「だったらこっちから先にやってくれるわっ!」
「ロヒインっっ!」
イサーシュが裏返った声で叫ぶと、ロヒインは杖をこちらに向けた。
「クイックモーションッッ!」
すると、ロヒインの杖から素早く風が吹き抜け、自らの身体にまとわりついた。
ルーガルの顔面が目前に現れたので真横にかわすと、思った以上にジャンプしてあっという間に敵から離れた。
着地し損ね、バランスを崩して転倒する。しかし体勢を立て直すのもあっという間だった。重力というものを全く感じさせない。
「ほう、これはいいな。たまには魔法で援護を受けて戦うのも悪くない」
イサーシュは笑みを浮かべて異常な速さでルーガルに斬りこむ。
相手もそれを察して素早くかわすが、避けきれずに前足の太い部分を切り裂かれた。
「ちきしょうっ!」
ルーガルは残った前足でイサーシュを払うが、これももちろん素早くかわし、ロヒインの近くまで下がった。2人は顔を合わせてニヤリとする。
ルーガルは取り乱した様子でわめいた。
「ちっ! やっぱり魔導師ってやつは本当に厄介だっ!」
そしてまわりをきょろきょろと見回し、鼻を鳴らした。
「しかしこっちも少しは頭が働くところを見せつけてやるっ!」
のたまわったルーガルだったが、なぜか2人とは後ろの方向へと駆けだす。
お互い首をかしげていると、巨大な獣は向かいの木にぶつかる寸前で後ろ脚をはねだし、クルリと回転してその木を蹴りつけた。そしてそのままこちらのほうに駆けこんでくる。
「ああっ! その手があったかっ!」
ロヒインの言葉を合図に2人は正反対にかわす。
2人の間を抜けたルーガルはその向こうの木まで突進し、同じようにして木を蹴りつけて反転した。
「これなら体勢をすぐに立て直せる! いつか不意をつかれるぞっ!」
「待ってくださいっ! 今何とかしますからっ!」
ロヒインは言うが、同時にルーガルの巨体が迫ってかわさざるを得ない。ふたたび姿を現したロヒインはイサーシュに叫ぶ。
「私ばかりがねらわれれば集中できません! イサーシュは奴を引きつけてくださいっ!」
イサーシュはうなずき、自らルーガルの近くに迫る。
相手はちょうど向こうを向いていたが、前足をはねてこちらを向いた。少しそばに寄っていたイサーシュはバックステップしてかわす。
そしてそのまま敵は突進してこようとする。イサーシュは自分の後ろにいるのがコシンジュとメウノだと言うことに気付き、立ち止まって切っ先を向ける。
もしものときは正面から斬りつけるしかない。
しかしそれは相手にとっても危険なはずだ。それがわかっていたのかルーガルは真横に飛びすさり、位置をずらして突進を再開した。
イサーシュはその場を回転しながらジャンプ。少しだけかわして回転斬りを繰り出した。
この一撃でルーガルの肩の部分が裂かれる。顔だけ振り返った獣は怒り心頭のようである。
「ちきしょう! たいていの相手ならとっととやれてるのにっ!」
イサーシュは剣を振りまわしながら言った。
「俺も素早さが取り得でな。だが俺以上に素早く立ちまわれる相手はお前が初めてだ」
「ホメてもなんもうれしくねぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」
「イサーシュさんっ! どいてっっ!」
ルーガルが突進してくる前にロヒインの声が飛ぶ。
イサーシュは早目にかわすと、元いた場所に白い何かが吹きつけられた。
「フリーズブラストッッ!」
吹きつけられて行くうちに、あたりは真っ白に染まった。
そこを通過したルーガルは、なぜか突然足をすべらせて4つ足をふんばる。
そしてロヒインをにらみつけるが、そうしているあいだにも白いしぶきが噴射され、それをもろにかぶったルーガルはその場をかわさざるを得なかった。
「なるほどっ! 氷結魔法かっ!」
白い噴射はなおも続く。ロヒインは素早く駆け回るルーガルは狙わず、草が引き抜かれた地面に向かって噴射し続ける。
するとそこらじゅうが白く染まってしまい、ルーガルはそれに見事に足をすべらせ、横倒しになった状態で地面をスライド、近くの巨木に激突する。
「よしっっ!」
イサーシュは剣を握る手に力を込め、素早く詰め寄ろうとした。
しかしルーガルもすぐに立ちあがったと思いきや、またしても大口を開けて咆哮した。イサーシュはすぐに耳をおさえ、同じく耳をふさぐロヒインに叫ぶ。
「くそっっ! こいつは変身する時のための時間稼ぎだっ! ロヒイン、遠距離攻撃だっ!」
「ダメですっ! この咆哮には多少の魔力が含まれています! 叫び終えてもすぐには動けません!」
ロヒインの言うとおり、イサーシュもまたすぐに動けなかった。体中を縛られていると言うよりは、恐怖に足がすくんでいるという感覚。
ここ最近はあまり感じていなかった思いに、イサーシュはため息がもれた。
2人が動けない間に、ルーガルは全身をポキポキと言わせながらふたたび2本足で立ちあがった。
元の人もどきに戻ったと思いきや、その肉体にさらなる変化が現れた。
上半身の筋肉がどんどん盛り上がっていき、異常なほど筋骨隆々になっていた。女性時の際にはふくらんだ胸も平らになり、小さな服も破れる一歩手前まで引き延ばされる。
「くそっ! まさかこの『ビルドモード』まで引き出されるとはねっ!」
吐き捨てるルーガルにロヒインも言い返す。
「2段階変身じゃなかったのかよっ!」
「あれぇ? そんなことひっとことも言ってませんですけどぉ!? アタクシ『変わり身』のほかに、
『3段変わり』のルーガルって異名もついてるんですけどぉ!?」
言うなりルーガルは真後ろをむき、先ほどアニマルモードの際にけりつけて倒れかけた巨木にしがみついた。
「ぬぅぅぅぅぅぅおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
そしてつんのめりながらも上体をあげると、根元から引き抜いてしまい、たくましいわきに抱え込んだ。
「いっくぞぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
ルーガルは巨木を抱えたままこちらに向かって歩き出した。
そして緑色の葉で生い茂る枝で、草むらを払いはじめた。
「わぁっ! わぁっっっ!」
突風が吹き、イサーシュとロヒインは立っていられなくなる。
ルーガルは巨木を左右に振りながら近寄り、ロヒインを枝で振り払った。バリアをしていたのでダメージはなかったが、バランスを崩して転倒したところに、ルーガルが詰め寄る。
「イサーシュッッ!」
ロヒインに助けを求められ、イサーシュは急いで駆け付けようとするが、ルーガルが巨木を払ったさいに生まれた突風にあおられる。
一度だけでなく何度もそれを繰り返すうちに、イサーシュはあえなく地面に倒れ込んでしまった。
それを見計らって、ルーガルは巨木を思い切り頭の上に抱えあげた。
「ロッ、ロヒインッッ!」
心臓が止まりそうになった。ロヒインの頭上に、引き抜かれた巨木の根元が迫る。
ロヒインが杖を持つ手で顔をおおった時、けたたましい轟音がひびきわたった。
「……あいだぁぁぁぁぁぁっっ!」
瞬時にルーガルの動きが止まる。
巨大な獣はゆっくりと後ろを振り向くと、ちょうど引き抜いた巨木があった位置に両手に鉄砲を構える金髪美少女の姿があった。
「コイツの威力を十分に味わいな……!」
「ヴィーシャッッッ!」
ロヒインはうれしそうに叫ぶが、ルーガルがバランスをくずしそうになっている。
イサーシュは急いで立ち上がり、風の力を加えて瞬時にロヒインのもとへ駆け寄ると、すぐにその腕を引っ張り彼とともにその場をすり抜けた。
同時にもとの場所に巨木を落とすルーガル。すさまじい震動とともに敵自身もその場にヒザをついた。イサーシュが思わずため息まじりにつぶやく。
「危なかった……」
ロヒインが感謝をこめるように彼の肩に手を置いた。
「ありがとうイサーシュ。それにしても姫さまっ! 今までどこをほっつき歩いてたんですかっ!
まさかずっとコボルトの相手してたんじゃないでしょうねっ!」
ロヒインが攻め立てるような視線を向けると、ヴィーシャはなんとでもないとばかりに首をすくめた。
「まさか、あんなザコ相手に苦戦なんかしないわよ。さっきまでコイツ、異常なスピードで走り続けてたから狙いが定めにくかっただけよ。
でも今は筋肉ムキムキだから、射撃のターゲットにはちょうどいい状態だったわね。ていうか今あんたどさくさまぎれに呼び捨てにしたでしょ」
そのあいだに3人の視線はルーガルのほうへ向いていた。
巨大な魔物はこちらを振り向き、腹のあたりをおさえて苦しそうに方を上下させている。ヴィーシャは不敵に笑う。
「致命傷ね。もう観念なさい」
しかし獣の視線はヴィーシャではなくイサーシュのほうに向かった。
「あんた、少しは疑問に思わなかった?
先ほどからあたしの身体に斬りつけているのに、いまだにガンガン動けるのって、どう見てもおかしくない?」
イサーシュは目をむいた。奴の言うとおりだ。たしかに戦いを始めた当初から、ルーガルの巨体に何度も深い傷を負わせている。
しかし敵の勢いはいまだにおとろえていない。そう言えば前に与えた傷はどこにも見当たらない。
どちらかというとカン働きの悪いイサーシュだが、これにはさすがにハッとする。
「まずいっ! 早く攻撃しろっ!」
時すでに遅く、ルーガルは再び大口を開けて咆哮した。
すさまじい絶叫にその場にいる全員が耳をおさえる。魔力により足がふるえる。そうして全員が動けなくなっているうちに、ルーガルの巨体がメキメキと変形していき、最初に見た(かろうじて)女性らしい外見に戻っていた。ルーガルは高らかに笑う。
「ハハハハハッッ! 変身には傷を治す効果もあるのさっ!
こいつさえ使えばいくらでも戦うことができるっ!」
「言ってくれるなっ! しかしもう俺たちを倒す手段はないぞっ! この先どうやってこの状況を切り抜けるつもりだっ!」
それを言ったのがまずかったのか。イサーシュの言葉に反応するように、ルーガルはあらぬ方向に視線を向けた。
そこにはいまだにメウノの手かざしを受けているコシンジュの姿があった。ロヒインが思わず叫ぶ。
「ああっ! まずいっっ!」
「メウノっ! 傷の状況はどうなんだっ!」
イサーシュは言ってからしまったと思った。
自分に問いかけられたと気づいたメウノはこちらを見るが、その表情はあきらかにあせっていた。
ルーガルはそれを見て一瞬笑みを浮かべるが、しかしすぐに顔をしかめる。
「こうなったら手段を選んではいられないねっ!
さっさと勇者を始末して棍棒を手に入れてくれるわっ!」
「させるかっ!」
イサーシュは剣を手に斬りこむ。しかし魔法の効果が切れたのか足が速く動かない。
そうしているうちにふりむいたルーガルがこちらに向かって爪をなぎ払った。仕方なくイサーシュは後ろへとバックステップしてかわす。
「くそっ! フレイムボールッ! フレイムボールッ! フレイムボールッ!」
ロヒインの連続攻撃、避けることもできずルーガルは顔をしかめるが、炎による痛みを無視するかのようにコシンジュ達に向かって身構えた。
「あぁっ! ダメぇっ! 2人とも逃げてぇぇぇぇぇっっ!」
ヴィーシャは叫ぶが、メウノはそちらのほうを向いてかぶりを振る。コシンジュは万全ではないらしい。
そのタイミングに合わせてルーガルが思いきり大地をゆすぶって駆け込んだ。
瞬間、コシンジュは意を決したようにメウノの身体をはね飛ばした。
転がるメウノは無視し、コシンジュは棍棒を手にとって構える。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇっっ!」
ルーガルは言いながらコシンジュにかみつこうとした。
コシンジュは顔をしかめながらも、タイミング良く棍棒を振る。閃光がおどる。
「ふぉんでゅっっっっ!」
真横に殴りつけられたルーガルは、ねじれたアゴに手を触れ、がく然とする。
しかしすぐに別の方向に目を向ける。そのさきにいたのは、ようやく身を起こしたメウノ。メウノは上空の視線に気づき目を見開く。
「ああっ! クソッっ!」
コシンジュは立ち上がろうとするが、傷が治りきっていないのか顔をしかめて草むらに手をついた。
そのあいだにルーガルがメウノに勢いよく迫る。
「オアエカラリャァァァァァァァァァッッッ!」
ろれつが回らない口調で巨大な獣は爪を振りかぶる。
メウノはとっさにふところからピンク色のダガーを取り出した。しかしこれだけで身を守りきれるものか。
「メウノォォーーーーーーーーーーッッッ!」
ヴィーシャとロヒインが声をあげられずに両手で口をおさえるなか、イサーシュだけが悲痛な叫びをあげた。
メウノは意を決してダガーを敵の爪に向かって突きあげた。
息が止まるかと思った瞬間。メウノが突きあげたダガーの先から、すさまじいほどの赤い光を帯びたオーラが現れ、ルーガルの爪を飲みこんだ。途端にルーガルの腕が反対方向に弾き飛ばされる。
「グワァァァァァァァァァァッッッ!」
ルーガルはそのままバランスをくずした。土ぼこりを発生させながら大地に倒れ込む。
イサーシュはその瞬間を見逃さなかった。またたく間に横倒しの巨体まで駆け寄り、あおむけになった胴体にひょいと飛び乗る。
そして剣を逆手に持ち、大きく上へと持ち上げた。それに気づいたルーガルが目を丸くする。
「ヤッ! ヤベロッッ! ヤベッ……!」
イサーシュはおびえる敵に向かって、するどい視線を向けながら思いきり敵の胸板へと剣を突き下ろした。
後はもう無我夢中だった。
敵が最後の力を振り絞って攻撃してくるのではないかと警戒していたが、そうすることもなく相手はとうとう力尽きた。
ふと真横を見ると、力なく投げ出された巨大な腕のそばに、うずくまるコシンジュの姿があった。
すぐにメウノの姿が現れ、彼の身体をゆさぶろうとしてやめ、そして手かざしを再開した。
イサーシュは巨体をおりて、コシンジュのもとへと駆け寄る。
「大丈夫かっ!?」
言われてコシンジュは顔をゆっくり上げ、顔をしかめながらもつぶやく。
「だ、だいじょうぶ……」
全然大丈夫には見えないコシンジュに、泣きそうなメウノの叱咤が飛ぶ。
「大丈夫なわけありますかっ! 今動いたおかげで治りかけていた骨が再び痛み出しましたよっ!」
「す、すまねえ……オレ、あんた助け損ねた……」
「言わないでっ! 万全じゃない状態で敵に殴りかかっても効果なんてありませんよっっ!」
しかしそんなメウノの言葉にも、コシンジュは首を振って地面に向かってつぶやき始める。
「オレ、今回なにもできなかった。奴の顔が目前に迫っても、動くことができずに一方的にやられちまった。まったく、なんてザマだよ……」
コシンジュの様子がどうもおかしいと言うことに気付き、イサーシュはヒザをついた。
「コシンジュ、俺だって認めたくはないが、1人じゃ何もできなかった。
他のみんなと協力して、ようやくあいつの息の根を止められた。それほど相手は強かったんだ」
ところがここで、コシンジュは顔をあげてイサーシュを見た。
「違う、違うよイサーシュ……」
今にも壊れてしまいそうな表情だ、イサーシュはそう思った。
「オレ、完全にビビってた。化け物が巨大な口を開いた時、どんなことになってしまうんだろうって気持ちで頭がいっぱいになってた。
どうすれば今の攻撃を避けられるか、そんな想像頭の中にまったく浮かんでこなかった……!」
急にうつむき、コシンジュは小さなうめき声をもらした。イサーシュはすぐに肩に手を置いた。
「バカ野郎っ! 言うなっ! もう何も言うなっっ!」
イサーシュ自身も声が震えている。しかし絶対に泣くまいと懸命にこらえた。
すぐそばにロヒインとヴィーシャが近寄ってくる気配がした。しかしそちらには視線を向けない。
「まさか、魔物1体に5人がかりだなんて……」
ヴィーシャは信じられないと言わんばかりの声をあげる。ロヒインが返答した。
「おそってくる刺客がどんどん強くなっていきます。この先には、どんな奴らが待っているのか……」
ヴィーシャが動く気配がした。ふと見上げると、彼女はロヒインのローブを強くつかんでいる。
「そんなこと言ってる場合なのっ!? あんたら、本当にこれからもこんな化け物どもと戦い続けるつもりっ!? いつか本当に死ぬわよっ!?」
「そんなこと言われても、前例がありますから……」
ロヒインは淡々(たんたん)と言う。イサーシュも視線を戻してつぶやいた。
「その通りだ。先達の勇者はもっと状況が悪かった。
先の展開が全く見えてこず、神のお告げだけを頼りに、強大な化け物連中と戦い続けることを強いられてたんだからな」
「だけど、オレのご先祖さまはそれをやり遂げたんだ」
コシンジュが顔をあげた。そのわずかな笑みの中に、先ほどまで見えていなかった強い光が見て取れる。
「そうだ。ここで立ち止まってちゃいけない。今のは防げるミスだったんだ。
あそこで怖気づかずにちゃんと攻撃していれば、状況はもっと変わっていたかもしれない。
オレ、もっと強くならなきゃ。そしてもっとたくさんの敵を倒して、学ばなくちゃ」
いつの間にか立ち直っているコシンジュを見て、ヴィーシャは額をおさえて深くため息をつく。
「あんたら、いったいどういう神経してんのよ……」




