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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第9章 元勇者、少々無謀な挑戦をする
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第52話 卑劣な妨害~その4~

 ファルシスたちが階段を上り続けると、またしても踊り場に出た。

 しかしこちらは道が3方向に続いていて、左右は大規模な宮殿らしき建物へと伸びている。

 前方の階段前に、またしても神の姿があった。

 こちらは短めの髪に十字型の槍を手にしている。


「アミス、お前が2番手か。

 お前も過ちと知っていて余に刃を向けるか」

「どうしても、お前を止めなければならぬ理由がある。

 引き返さねば、この槍で貫くっっ!」


 アミスは一瞬で槍を構えた。

 ところが、ここで意外な人物が進み出た。


「ほっほう!

 やはりあの愚鈍(ぐどん)な兄に従うのには、特別な理由があったのかっ!」


 両手を広げた黒い貴族が、ぶぜんとした態度で前に進み出る。


「ヴェルゼック、よけいなマネはするな。

 不審(ふしん)な行動をとればお前から先に片づけるぞ」


 おどしつけるファルシスの声に、ヴェルゼックはクルリと振り返り頭を下げた。


「これはこれは、ぶしつけなマネをいたしました。

 ですが彼にはどうしても問いかけたいことがございまして」


 ヴェルゼックの頭だけが、アミスのほうを向いた。


「アミスどの。この言葉はご存知ですかな?

 『世界の枢軸』と言うものを……」


 言われた瞬間、アミスが目を見開いた。

 ファルシスの横にいたルキフールとロヒインも同じ目をする。

 アミスは明らかに狼狽(ろうばい)している。


「き、貴様っっ!

 どこでその言葉を聞いたっっっっ!」

「情報源は、あなたの弟君です。

 彼はメウノ女史を再起させるための条件として、やむなく白状したようです」

「……ヴィクトルめっっ!

 なにがなんでも口外してはならぬと、あれほど言い聞かせてやったのにっっっ!」


 見かねて、ルキフールが首を振り続ける。


「いいや、彼を責めるな。

 そのメウノから無理やり話を聞きだしたのはこの私だ。

 うかつにも、それをこのヴェルゼックに盗み聞きされてしまった。

 責めるならこのルキフールを責められよ」

「と、いうわけです。

 なのでせっかくだからお聞かせ願いませんかねぇ?」


 挑発気味に問いかけるヴェルゼックに、アミスは首を振った。


「お前のような(やから)に、絶対に聞かせるわけにはいかん!」

「知れば、絶対に欲しがるということですか?

 まあ、こちらとしては詳細を聞かなくとも、だいたい見当はついてますがねぇ」


 言うとすっくと姿勢を伸ばしたヴェルゼックは、人差し指をたてた。


「元来破壊神と言うのは、地上に様々な災いを引き起こすとともに、様々な恩恵を(ほどこ)す表裏一体の存在でもある。

 あなた方神々は地上における人間社会の発展のために、その破壊神を封じなければならなかったが、同時にそれは彼らの本来の役目を奪うことにもなった。

 自然を守護し、規則通りに動かす力を」


 言うなり、ヴェルゼックは優雅(ゆうが)なしぐさで踊り始めた。

 周囲の者は眉をひそめる。


「そこで、彼らの力を引き出すための魔導具をつくることになった。

 大自然の力を自在にコントロールし、世に調和をもたらすための魔導具を」


 立ち止まるとヴェルゼックの姿勢は両手を広げ、足を交差させる形となった。


「それを一手に担うことになったのが、神々の長兄であるフィロス。

 しかしこの神とてもガンコな性格で、独りよがりで兄弟の進言をまったく聞き届けようとしない。

 その上魔導具の力を借りて、兄弟たちの意見を強引におさめ込んだ。

 地上の覇権(はけん)はすべて彼自身の手に収められることになるわけだ」


 そして彼は片手を、逆さにしてアミスのほうへと向けた。


「もし彼が、極度に追い詰められたらどうなる?

 例の魔導具を使って、世界を徹底的に破壊する手に出るかもしれない。

 あなた方弟たちは、絶対にフィロスを追い詰めてはいけないわけだ。

 どうですか? このわたくしの推理は」


 ここでヴェルゼックはクルリと振り返り、おもむろに両手を広げた。

 対面するファルシスが、がく然とした表情になっている。


「まさか、まさかナグファルの力以外に、世界を破壊することができるものがあるとは……」


 ファルシスは一歩前に進み出て、懇願(こんがん)するように問いかける。


「答えろアミスッ!

 奴がその世界の枢軸とやらを使って、破壊行為に出ればどうなるっ!?

 被害は人間界だけで済むのかっ! それとも……」


 言葉が続かなかった。

 もしファルシスの問いの先が正しければ……


「兄が世界の地軸を破壊すれば、人間界だけでなく、魔界やこの天界ですらも、完全に荒廃させることができるだろう。

 ファルシス、お前は兄者と戦ってはならん。今すぐ引き返せ」


 言われ、ファルシスの足が後方へとしりぞく。

 横にいるルキフールとロヒインが、思わず「殿下っっ!」と呼びかけた。


「……知らなんだ。

 ナグファル以外にも、世界を滅ぼしうる絶大な力が、存在するとは。

 余はそれを知りもせずに、のうのうとこの階段を駆け上がっていたとは」


 大きく迷うように、ファルシスはうつむいて首を振り続ける。


「どうすればよい?

 余が奴を追い詰めれば、血迷って魔導具の破壊に打って出るかもしれん。

 そんな危険な状況で、余は前に進み出てよいのか……」


 ここで、黒い死神がそっとファルシスに近寄った。


「殿下、躊躇(ちゅうちょ)している場合ではございません。

 地上には、エンウィー様がおられるのですぞ。

 あなたの勝利を待ち望んでいる、多くの臣下たちも」

「わかっている。しかし、余には……」


 ロヒインも意を決したような表情で、ファルシスに呼び掛けた。


「殿下、わたくしは信じております。

 殿下ならフィロスに世界の枢軸を破壊させることなく、確実な勝利を手にされると、信じております」


 そしてロヒインは、そっとファルシスの手を両手で包み込んだ。

 ファルシスが自信なさげに、美しい側近を見やる。


「余に、それができるのか……?」

「お進みください。殿下なら、きっとできます」


 後ろからは、ルキフールが肩に手をかけてくる。

 そちらを見ると、不気味な風貌(ふうぼう)をした死神はふさわしくない笑みを浮かべてうなずいた。

 ファルシスの顔から不安は消えていないものの、


「……わかった、やってみよう。

 このファルシス、必ずや相手に凶行の(いとま)を与えず、確固たる勝利を手に入れて見せよう」


 ロヒインとルキフールがほっと胸をなでおろした、その時……


「クククククク……フフフフフフフフ……」


 ヴェルゼック刃いつの間にか背を向けていて、うつむいたまま肩をふるわせ笑い続けている。


「……ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャァァァァッッッッ!」


 突然両手を広げ、狂ったような笑い声を立てた。


「そおかぁぁっっ! そうだったかぁぁぁっっっ!

 やはりナグファルさまは、そのためにこの俺をここに送りこんだのかぁぁぁぁぁぁっっ!」


 裏返った声でまくし立てるヴェルゼックに、ルキフールが不気味な杖を構えて進み出る。


「貴様っ! やはりナグファルの徒弟だったかっっ!」


 振り返ったヴェルゼックは赤い両目を見開いて、思い切り口の端をゆがめた。


「フィロスが勝つにしろ、ファルシスが勝つにしろ、どちらにしても弱りきるには間違いないっっ!

 そこを俺が引導を渡せば、いずれにしても世界を破滅し尽くす力が、この俺の手に握られるわけだぁぁぁぁぁっっ!」

「させるかぁっ!

 そうなる前にこのルキフールがお前を打ち倒すっっ!」


 ところがヴェルゼックはアミスのほうに人差し指を突き出した。


「さあ、お前らぁぁっ!

 世界を滅ぼす力を、この俺にヨコセェェェェェェェッッッッ!」

「……ぬおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」


 アミスが両手を広げ、胸からすさまじい光を放った。

 後ろにいるファルシス達は左右に素早く散らばった。

 しかしヴェルゼックは真正面から、まばゆい光を受け止めた。

 太い光の柱が、ヴェルゼックの全身を貫く。

 このまま焼き溶かされると思われたが……


「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャァァァァァァァァァッッッッッ!」


 両腕を前に交差させながらも、ヴェルゼックは笑い続ける。

 まるで痛みを感じていないばかりだ。

 その全身が、光に照らされているにもかかわらず。

 黒いオーラがヴェルゼックを包み込んだ。


「ばかなっ! 全身全霊を込めた光の力だぞっ!?

 闇に守られるはずがないっっっ!」


 アミスが光の力を止めた。

 全身が黒コゲになったヴェルゼックの身体が、もぞもぞと動きだす。

 ボロボロになった衣服が、あり得ないほどうごめいている。

 

 やがて突然服の下から、何かが勢いよく飛び出した。

 それは昆虫のような節足がついた両腕であり、完全に飛び出したとたん腹のあたりで腕を組んだ。


 元の腕も節がつき、昆虫のような(から)におおわれ、だらりと垂れ下がる。

 両脚も下に向かって突き出た。

 逆関節になり大きく伸び、するどい爪が生えた足先が地に突き刺さる。


 顔もまた大きな変化が起こった。

 見開かれた赤い両目が大きく前に飛び出し、(ふく)れ上がっていく。

 片方は昆虫らしい複眼だが、もう1つは赤い瞳孔を持つ巨大な瞳へと変わっていき、するどい視線を投げかけた。

 アゴは大きく左右に割れ、食らいつく者をすべて引きちぎらんとするほどの、おびただしい数の鋭い歯が現れる。

 最後に、背中から4つの巨大な羽根が飛び出し、それを目にもとまらぬ速さではばたかせる。

 そしてヴェルゼックは宙に浮いた。


(ハエ)の……王……」見上げたロヒインが、そうつぶやいた。


「貴様っっ! グレムリン上がりだったかっっ!」


 クルリと振り返った空中のヴェルゼックは、上の方の片手を胸に当て、ルキフールに向かってぺこりと頭を下げた。


「そう、あなた様と同じく、卑小(ひしょう)なる下級魔族からの大出世でございます。

 もっとも叩き上げであるあなたとは違い、わたくしはナグファル様直々(じきじき)の生え抜きでありますがね」


 ルキフールがすばやく進み出ると、胎児の頭部を持つ不気味な杖を前に構えヴェルゼックの横に立った。


「殿下っっっ!

 こやつはわたくしが引きとめますゆえ、先にお進みくださいっっ!」


 ファルシスとロヒインが、ルキフールの後ろをまわりこんで前へと進む。

 そこへアミスが立ちはだかろうとするが、ファルシスが手のひらを向けると足を止める。


(けい)はいざと言う時にルキフールを援護(えんご)しろっ!

 こいつは余と違って、絶対にフィロスのもとに行かせてはならん!」


 さすがにアミスは引き留めることはできず、だまって階段をのぼりはじめたファルシス達を見送った。

 振りかえると、床に降り立ったヴェルゼックがルキフールと向かい合う。


「ククククク、案の定、お前が俺の前に立ったか。

 いつかお前とは本気でやり合うだろうとは思っていたぜ」

「本性を現しよったなヴェルゼック。

 もはや我らに対する敬意などかけらほどもあるまい」

「敬意などとっ!

 俺はただ世界の破壊を楽しむために、絶大な力が欲しいだけよっっっ!」


 言えばヴェルゼックは握りこぶしを胸の位置にかかげ、ぶるぶるとふるわせる。


「楽しむ、か! やはり狂気の輩だな!

 ナグファルへの忠誠(ちゅうせい)とはいっても、しょせんは己が破壊を楽しむためにつき従うかっ!」

「いいやぁ? いちおう感謝はしてますよぉ~?

 なんつったって、この俺に特殊な力をくれた方ですからねぇ~」


 言うと、ヴェルゼックは組んでいた方の腕を大きく広げた。

 するとどこからともなく紫色のオーブが現れ、ヴェルゼックの全身を取り巻いている。

 オーブの1つ1つは、ドクロだったり人の顔のようなものだったりする。

 ルキフールは、それを見て黒い瞳を大きくさせた。


「なんということだっ!

 貴様も、死霊を扱う術を心得ているのかっっ!」

「なにを言う。

 ハエはもともと死者が好きだろう? 当然じゃないか」


 ルキフールは横に杖を構えた。

 すると杖の先の胎児の頭が、大きく口を開いた。


「ギャアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!」


 つんざくような叫びがこだまする。

 するとルキフールの周囲の地面が、ボコボコと隆起(りゅうき)し始めた。

 大きく盛り上がったかと思えば突然土がはじけて、土気色のガイコツ、同じ色のミイラ、そして同じ色の死者が飛び出した。


 ヴェルゼックも下の両手を開き地面に向けると、おびただしい数のオーブが地面に降りるや否や、人の形をとってルキフールの死霊たちと向かい合う。

 ハエの王は笑う。


「ネクロマンサー同士の、死霊を使った戦いか。

 これは面白い!」

「おのれけがれた死霊使いどもめっ!

 この神聖なる土地を不浄なる魂でけがすなっっ!」


 アミスが叫ぶと、ルキフールはそちらを向いた。


「止むをえぬではないかっ! それよりそちらは大きな声をたてるなっ!

 死霊は主人以外の者以外を見境なく(おそ)う!

 貴公は自分の身を守ることのみを考えよっ!」


 ルキフールが杖を大きくふるうと、死霊たちはいっせいに前に飛び出した。

 ヴェルゼックも下の両腕を前に振り、死霊たちを向かわせる。

 土気色の軍勢と、紫色の軍勢がごちゃ混ぜになり、(みにく)い争いを繰り広げだした。

 その間にルキフールとヴェルゼックが横に進み出て、ふたたび向かい合った。


「死を扱う者同士、雌雄(しゆう)は大将が戦って決めようではないか」


 ヴェルゼックの人の瞳に近い、しかしあまりに大きな片目が笑うように細められる。


「いいねぇ。

 言っておくけど、俺は素手でも強いよ?」


 ヴェルゼックは下の両腕をふたたび組み、もとからあった上の両腕を前に構えた。

 そこから服を突き破り、おびただしい数の突起がつき出る。

 ルキフールもまた杖を構え胎児の口から鎌を出し、脊椎の柄を長く伸ばした。


「『苦悶(くもん)錫杖(しゃくじょう)』……受けよ」

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