第51話 4つの守護~その5~
エドキナは不機嫌な顔でファルシスのあとを追った。
横からアーミラが問いかける。
「ね~、まだ怒ってんのぉ?
いいかげん機嫌直しなよぉ~」
「直すものか!
殿下にだまされたのだ、怒って当然だろう!」
「はははは、さすがはエドキナ嬢。
相手が殿下であっても容赦ないな。さすがプライドが高いだけはある」
「だまれヴェルゼック。
狂った貴様を信じた、このわたしがおろかだった」
突然、前方をいくファルシスが立ち止まる。
前方を見ると、巨大な空間に浮かんだ円形の広場があり、中央に白い翼を生やした黄金騎士が赤い照明の中に浮かび上がっている。
「複数の敵を相手に、たった1人か?
ミゲル、そのうちの1人が魔王だというのに無謀きわまりないではないか」
ファルシスが告げる途中でミゲルは手のひらを向けた。
「魔王、お前の人柄をこちらは熟知している。
たった1人を前に、全員で襲いかかる性分ではないだろう。
どうだ、ここは1体1で、正々堂々と渡り合おうではないか」
「最近は部下から不満があがっている。
余がお前の申し出に答えるとは限らんぞ」
「対策は講じている。安心するがいい」
ファルシスは首を振りながらも、広場へと進み出た。
対する黄金騎士は構えをとり、羽根と剣を赤い炎に包む。
「どうした、なんなら獣化したお前とも戦ってもよいのだぞ?
はやく変身するがいい」
「いいや、お前の相手など、これで十分だ」
ファルシスが剣を素早くふるうと、黄金の柄から先が黒いオーラに包まれた。
「……この最強の天使を侮るとは、おろかなり。
魔王、慢心したか」
「いいや、お前の立ち振る舞いを見て、少々安心しただけだ。
遠慮せずかかってくるがいい」
黄金騎士は「ぬかせっっ!」と叫び、すばやく斬りかかった。
対するファルシスは余裕たっぷりに、相手の剣を払いのける。
通り抜けたミゲルが「なにぃっ!?」と振り返った。
「なかなかいい腕だが、しょせん余ほどではないな。
長らく平穏を謳歌し続けたゆえに、命のやり取りの経験はないか」
「剣の腕は未熟でも、私には炎の力があるっ!」
ミゲルが炎の翼をはためかせると、動きがより速くなった。
あらゆる角度から斬りかかるが、ファルシスはまるで戯れているかのように相手の剣を受け止める。
やがて真上からミゲルが剣を突きつけると、ファルシスはよりによってするどい切っ先を刃の腹で受け止めた。
きわどい角度を受け止められたミゲルの兜が、カクカクと動いて鎧の中に格納される。
その端整な顔が仰天している。
「なんだとっ!?
貴様、いったいどれだけ強いというのだっっ!」
床に降り立ったミゲルに対し、ファルシスはオーラを消した剣の切っ先を向ける。
「どうした?
この程度か、エンジェル族の力はしょせんこの程度なのか」
「な、なにこれ……めっちゃめちゃ強いんですけど……」
がく然とするアーミラに対し、エドキナも目を見開く。
「殿下の腕前は知っていたつもりだが、まさかここまでとは……」
ヴェルゼックだけが、平然と笑みを浮かべて腕を組んでいる。
エドキナは横目でそれを見て不信感を強めた。
対して狼狽するミゲルの後方で、細長い光が現れた。
「まだだ。対策は講じていると言っただろう。
奥の間でお前の仲間ごと片づけてやる」
そう言ってミゲルは後ろ向きに飛んで逃げた。
ファルシスが「行くぞっ!」と呼びかけ、エドキナ達とともに奥に進んだ。
奥の広間は、うっすらとした緑色の円柱がたち並ぶ大伽藍だった。
ミゲルはその中央で待ちかまえる。
「私が、最近ある計画にまい進している話は聞いているだろう。
早くもそれをお見せする機会がやってきたようだ」
周囲の円柱が、突然光を放った。
透明になっているガラスの中から、人型の何かが現れる。
身体じゅうがチューブにつながれた、裸の人間のようにも見える。
エドキナがそれらを見回し、「これはっっ!?」と叫んだ。
ミゲルは答える。
「古代文明のテクノロジーを用いて、プロメテルや雷鳴の3姉妹の手を借りて進めていた。
フィロスが地上の人間を滅ぼしたあと、
集めた魂を作り替え、別の生物をつくりだす」
「これは……人間ではない、と言うのか?」
エドキナが円柱の前に立つと、それは若々しい女性の肉体だった。
「『ホムンクルス』。私はそう名付けた。
素体は人間だが、知恵を働かせる脳をいじくっている。
感情や知性の一部を奪い、絶対にフィロスに逆らえない知的生命体を生み出す」
エドキナが、すぐにミゲルのほうを向いた。
ミゲルは眉をひそめる。
「ほう、お前がおどろくとは。
これはお前にとっても喜ばしいことではないか。
決して逆らわず、命令に忠実な下僕たちを得ることになるのだぞ?」
「やりすぎだ……
これは、いくらなんでもやりすぎだ……」
思わずファルシスのほうを向いた。表情はうかがえない。
じっとミゲルの様子をうかがっているようだ。
「おどろいたな。お前は人間を憎んでいるんだろう?
お前にとって、人間をつくりかえるのは喜ばしいことではないのか?」
「違う、これは……
違うっっ! これは決して許されない所業だっ!
あまりに非道が過ぎるっっ!」
叫んでから、エドキナは自身の動揺に気づいた。
だがもう止められない。
「人間は、あるがままの形だから人間なのだっっ!
不可解で従順でないからこそ、人間は人間らしいとも呼べる!
そんな人間から感情や理性を奪って、どうなるというのだっっ!」
「あるがままの人間をいたぶって楽しむ、お前のほうは非道ではないのか?」
エドキナは「それは……」と口ごもった。
うつむいた彼女を見て、ミゲルは高らかに笑う。
「ハハハハッッ! 己の感情に矛盾が生じたかっ!
だったらやりやすくなるなっ! であえっっ!」
ミゲルが手を振り仰ぐと、左右の円柱から何者かが現れた。
全身裸の男女ようだが、黒いラインのようなものが引かれ、胸や股間はツルツルとしている。
目は瞳孔がなく青一色で、整えられた髪の下からほほえみを浮かべている。
「記念すべき、プロトタイプと呼べるものだ。
身体能力を強化し、魔導具に対する適性を調整している。
『アーダン』、『イーヴァ』、構えよ」
ミゲルが言うと、短髪の男性はいくつもの銃口がついた筒を、ボブショートの女性は光を放つ巨大な槍を構えた。
顔は変わらぬほほえみを浮かべたまま。
同時に広間中の円柱から、チューブにつながれた人間たちが見えなくなっていく。
「ふざけるなっっ! 人間を、自分の道具のように扱うとはっっ!
このような命をもてあそぶような所業、許されんっっっ!」
「まだそんなことを言っているのか。
エドキナとやら、お前の言うことはすべて自身を否定するようなことなのだぞ」
冷徹にミゲルに言われ、エドキナはうつむいた。
「わたしは、わたしは……」
「エドキナッッ! 敵が来るぞっっ!
気落ちている場合かっっ!」
前を見てイーヴァが向かって来ても、エドキナは動けなかった。
しかし光る刃を向けおそいかかるイーヴァに、黒い影が飛び蹴りをかます。
無様な格好で倒れたホムンクルスを、ヴェルゼックがひきつった笑みで見下ろす。
すぐに両手を広げた。
「エェーーーーークセレントッッッ!
素晴らしいっ! 実に見事な計画だっっ!
このヴェルゼック、いたく感銘を受けましたぞっっっ!」
ミゲルが眉をひそめる。
そんな彼を黒い貴族は手の先を向けた。
「そしてそれを迷うことなく実行した、あなたの神経は素晴らしいっっ!
実にイカれたセンスをしているっ!
出来ればその方向性を、破壊と破滅のほうに向けていただければよりグレイトなのですがねぇぇぇぇっっ!」
「ヴェルゼック、私は狂ってなどいない。
お前のような狂人と一緒にされては困るな」
ヴェルゼックの身体が、なにかにはじかれた。
立ちあがったイーヴァが飛び蹴りをかましたのだ。
転がっていく姿をながめるその表情に、痛みを感じている様子はない。
ファルシスが黒いオーラをまとった剣で斬りかかる。
イーヴァは身体を不自然なくらいにひねって、それをかわす。
その間にミゲルが炎の剣で斬りかかる。ファルシスはあっという間に2体1の状況に追い込まれた。
ファルシスが襲われているにもかかわらず、エドキナはただぼう然としているだけだ。
横からアーミラが肩に手をかける。
「エドキナちゃんっっ!
ぼうっとしていないで、早く助けに行こうよっっ!
いくら殿下でもあの状況はヤバいよっっ!」
言われても、エドキナはわなわなと唇を震わせ、動けない。
アーミラは幼げな顔をしかめた。
「もういいっ!
あたしだけでも、殿下を助けに行くっっ!」
前に出ようとしたアーミラを、エドキナは急いで腕をつかんだ。
振り返った彼女は明らかに不機嫌だが、エドキナは冷静に首を振る。
「ダメだ、相手は両方とも強い。
お前だけ加勢しても勝ち目はない」
「だったらエドキナちゃんも戦ってっっ!」
横を見れば、ヴェルゼックはアーダンを相手にしている。
こちらはうまく渡りあっているようだ。
「出来ない、わたしには、できない……」
「なんで今さらそんなこと言うのっ!
相手に同情してくれたのはうれしいけど、いきなりそんなこと言いだすのはおかしいよっ!?」
「あのホムンクルス、自分の意思で戦っていない。
戦いを強要されたわけでもなく、ただ命令に従って人形のように動いているだけ。
あれが、フィロス達の目指す、新しい世界……」
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッッッッ!」
横を見ると、ヴェルゼックではなくアーダンのほうが笑い狂っていた。
しかし動きは全く変わらず、筒の中からおびただしい弾丸を放ち続ける。
その一部が飛び火し、エドキナとアーミラは身を伏せてかわした。
「ああもうっっ! こんなところにいたらあたしたちのほうがやられるよっ!
エドキナちゃんいい加減動いて……」
「ハハハハハハッッッ! 素晴らしいっっ!
この俺の笑気ガスを吸っても、平然と動けるとはっっ!
あのミゲルと言う奴、センスが素晴らしすぎるぞっっ!」
とび跳ねまわるヴェルゼックを見て、背筋が凍った。
「何てことだ、どうやら痛覚や恐怖をも、完全に取り払っているらしい。
手足を斬り落とされても平然と向かってくるはずだぞ」
真後ろでさわぎが起こった。
ファルシスは懸命に剣をふるうが、さすがに敵2人の巧みな剣さばきについていくのがやっとのようだ。
エドキナは叫ぶ。
「殿下っっっ! 変身してくださいっっ!
出来なくばせめて魔剣をっっっ!」
「無理だエドキナっっ! 身体に魔力を注入するには構えをとらねばならぬっ!
この状況ではそれもかなわん!
エドキナ、早く援護をっっ!」
「ほら、殿下も言ってんだから早くしないとっっ!
エドキナちゃんっっ!」
エドキナはアーミラとともに進み出たが、明らかに動きに躊躇が出た。
その時、イーヴァが渾身の一撃をファルシスに叩きつけた。
ファルシスの身体はありえないくらいに吹き飛ばされ、奥の壁に激突する。
壁の中にファルシスの身体がめり込んでいる。
ミゲルとイーヴァが、こちらの方を向いた。
いまだ身体がうまく動かない。アーミラが進み出た。
口を大きく開き、イーヴァに向かってブレスを吐きかける。
イーヴァの動きが、止まった。
ホムンクルスといえどもマヒ攻撃は効果があったようだ。
2匹のナーガが、炎の天使と向かい合う。
「ほう、2体1か。だが貴様らはしょせん格下。
よかろう、相手になっている」
エドキナは遠慮なく魔眼を光らせた。
しかしミゲルは目を伏せる。その間にアーミラがブレスを吹きかけた。
しかし相手の身体は急速に旋回する。
ミゲルがアーミラの後ろに回り込んだところを、エドキナはその背中を突き飛ばし、相手の目を凝視した。
「ぬぐぅぅぅっ!」ミゲルの身体が、動きを止めた。
エドキナは倒れ込んだ身体を持ち上げようとするアーミラを一瞥しつつ、ミゲルをにらみつけた。
「確かにわたしも、人間をぞんざいに扱う者だ。
だがお前の所業は度を超えている。決して許されることではない」
「ほう、ならば、お前には心が残っているということだな」
「わたしを言いくるめるつもりか? 残念ながらムダなことだ。
お前をいたぶってもよいが、その前に身体の自由を奪ってやる。
魔力効果が切れても抵抗できないようにな」
エドキナは爪を振りかぶった。
ミゲルの顔に、笑みが浮かぶ。
「なぜこの私を許せないと思う?
それは、お前には良心というものがあるからだ」
エドキナは動きを止めた。
まずいと思っていても、話が気になってしまう。
「お前の父親は、フィロスの命を受けた勇者ロトロの手に討たれた。
お前の父親は他の魔族とは違い、人間をぞんざいには扱わなかった。
しかしロトロは相手が魔族と言うだけで、命乞いしたにもかかわらず、無残に叩き殺したのだ」
「話を……聞くはずはないぞ……」
「いいや、気になって仕方がないはずだ。
当時のお前はまだ幼かった。その様子をよく覚えていないはずだからな。
父親はお前たち兄弟の身を隠した。
そして自分には家族がいると告げ、助けてほしいと願い出た。
だが勇者は容赦しなかった」
ミゲルの笑みが、ゆがんだものになった。
「お前は、父を殺されてもなお勇者の前に出ることができなかった。
お前は子どもゆえ、勇気が出なかった」
「それは違う!
わたしは父の言いつけを破って、勇者に立ち向かった。
まだ子供だったわたしの姿を見て、勇者は狼狽した。
そして逃げ去った。
あの時の出来事は勇者が自分の国に一時逃げ帰った理由の1つと聞いている!
お前はわたしのことをよく知らないではないかっっ!」
「ほう、そうだったのか。
だがお前はわたしの話を聞いて、躊躇している。
おかげでいい時間稼ぎになったぞ」
エドキナは振り返った。
いつの間にか立ち上がったイーヴァが、アーミラのわき腹に光る槍を突き刺していた。
「……アーミラッッッ!」
イーヴァが槍を引き抜くと、アーミラは力なく崩れ落ちた。
エドキナが急いでその身体を抱き上げると、アーミラは力ない表情で彼女を見上げた。
「ご、ゴメン、話聞いてたから、全然気付かなかった……」
「違う、違う……わたしのせいだっっ!
わたしが迷うことなくとどめをさしていれば……!」
首を振り続けるエドキナのほおを、アーミラの手がそっと触れる。
その指先に水滴がとどまる。
「エドキナちゃん、そんなことがあったんだね。
あたし、知らなかったよ」
「アーミラ、もういいっっ! しゃべるなっっっ!」
「勇者さん、エドキナちゃんのこと知って、苦しんだんだね。
もうわかったでしょ?
憎むべきなのは、人間自体じゃないって……
魔界にいい奴がいれば、天界に悪い奴もいる……
人間、に、だって……」
それを言ったきり、アーミラが瞳を閉じた。
同時にエドキナのほおから手もさらりと落ちた。
エドキナの後方で、ミゲルが立ち上がる。炎の剣を振りかぶった。
「反省しているなら、その場を動くな。
このミゲルが神に変わり天罰を下す」
エドキナが振り返るが、ミゲルの身体が一瞬消えた。
壁に押し付けられた天使が、ファルシスとつばぜり合いを繰り広げる。
「お前の……相手は余だっっっ!
エドキナ、イーヴァと早く決着をっっっ!」
エドキナは強くうなずき、アーミラの身体をそっと下ろした。
「たとえ操り人形でも、容赦はしない。
せめて楽に殺してやるから、そこを動くなっっっ!」
立ち上がったエドキナの身体が、すさまじいオーラにおおわれる。
ピンク色のオーラが全身を光かがやかせると、エドキナの身体が一瞬にして変わった。
長い尾は美しい人間の両足となり、全身のうろこが消え、白いやわ肌に変わった。
頭部は大きく様変わりし、それまで鎌首を横に伸ばしたヘビの頭から、頭に小さなヘビが無数に生えた、人に似た姿になった。
黄色い瞳は変わらぬまま、エドキナは変わり果てた全身をながめた。
「このわたしが……最上級の、魔族に……」
すぐに前を見据えると、イーヴァはぎこちない動きでこちらに向かって身構える。
「哀れな。
与えられた命令を愚直に信じ、無理やり動いているのか。今すぐ楽にしてやる」
エドキナの目の色が変わった。
片側はあざやかな青、片側が、血に染まったような赤。
赤いほうの瞳が、かがやいた。
それにつられて、イーヴァの動きも止まっていく。
下半身から徐々に体表に変化が起こる。
土気色の石のようなものに変貌し、微動だにしない。
全身が、そうなった。
エドキナはそっと彼女に歩み寄り、ほおをなでた。
それを拳に切り替え思い切り殴りつけると、石の彫刻はバラバラに砕け散った。
振り返ると、ミゲルは固い床にたたきつけられた。
持っていた剣は根元が砕かれ、炎は消えている。
別のほうから何かが叩きつけられる音がひびいた。
ミゲルがそちらを振り向くと、手足のなくなったアーダンが全身黒コゲになってうつぶせになっている。
その後ろから若干傷ついた模様のヴェルゼックが向かってくる。
「いや~、苦労したぁ~~~~!
全身真っ黒になっても襲いかかってくるんだもん、手足を引きちぎってやっと動かなくなりましたよ!
ってあれ? エドキナちゃんいつの間に進化したの?」
ミゲルが狼狽して立ち上がろうとするが、そんな彼の前に、エドキナはたちふさがった。
「もう逃げられんぞミゲル。
命を思うがままにもてあそんだ罪、じっくり味わうがいい」
エドキナの赤い瞳がかがやくと、ミゲルの黄金の鎧は足元から土気色に変わっていく。
動けなくなっていることを悟った天使の長は必死にジタバタもがく。
「やめろっっ! やめろっっっ!
お前だって、こっちのことは言えないじゃないかっっっ!」
「ああ、そうかもしれないな。
だがわたしは反省した。もう人間への恨みは捨てる。
皮肉にも、お前が教えてくれた。
あの勇者にも、きちんと人の心が宿っていたことをな」
「やめろっっ! やめろ俺は死にたくないっっ!
俺はこの世界を自分の思い通りに作り替えたかっただけなんだっ!
あのアホ丸出しの神は関係ないっっっ!」
「ほう、やはり、お前に神への忠節はなかったか。
ますます許しがたいな」
エドキナの青い瞳が、一瞬光を放った。
それでミゲルの石化が止まる。
「え? あれ? 助けてくれるの?」
「違う。
お前を生きたまま責めたてるためだ。完全に石化すれば意識もなくなるからな」
ミゲルが声にならない悲鳴をあげた。
その後ろからファルシスが声をかける。
「アーミラの敵だ。
遠慮はいらん、好きにやるがいい」
言いながらファルシスは背中を向けた。
ヴェルゼックが首をすくめるなか、エドキナは振り上げる爪をさらに高くかかげた。
ミゲルの両目が思い切り見開かれる。
「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁめぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
守護の大門から、赤い光が消えたのは一番最後だった。




