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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第9章 元勇者、少々無謀な挑戦をする
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第51話 4つの守護~その3~

 両側を土壁で挟まれた狭い路地では、マルシアスとマーファ、ファブニーズそしてネヴァダとチチガムが、迫り来る岩のブロックを必死にかわしていた。

 ネヴァダは叫ぶ。


「だあぁ~~~っ! なんだよこれっっ!

 避けにくいったらありゃしないっ!」


 頭上からは、絶えず岩のかたまりが降り注ぐ。

 それは手持ちの武器で弾き飛ばせるが、おそいかかる左右の攻撃はさすがに破壊することができない。


「いつまでもかわしきれないぞっ! そのうち身体を挟み込まれる!」


 そう言っている当のチチガムの真横から、四角いブロックが迫る。

 あわてて押し返そうとするが、あまりに強い力のため押しつぶされそうになる。

 そこへ両側から誰かが現れた。

 左にはネヴァダ、右にはファブニーズ。

 3人がブロックを押すと、かろうじてではあるが圧倒的な圧力に耐えることができた。


「ぐおぉぉぉぉぉぉぉっ! こんなの力比べするもんじゃないわよっ!」

「あきらめるなっ!

 先に進んでいるルキフール様が、なんとかしてくださるはずだっ!」


 ファブニーズは言うが当のルキフールもまた、眼前にブロックが迫っていた。

 両脇でマルシアスとマーファが必死にそれを押さえつけ、本人は平然と呪文を唱えている。


 突然、前方の力がなくなった。

 見るとブロックに大きなひび割れができ、左右からは大量のガレキが崩れ落ちている。


 とたんに圧力がなくなったので急いでルキフールのほうまで駆け寄ると、迫ってくるブロックにルキフールが杖を向け、そこから衝撃波が放たれブロックの一部が大きくはじけ飛ぶ。

 ガレキから身をかばいながら、チチガム達は彼の前にたどり着いた。


「何て力だっ!

 こっちは3人がかりで押さえるのがやっとだってのに!」

「年季のなせるものだ。

 マルシアスとマーファもいずれはこれくらいの芸当ができるようにならねばな」


 言われたダークエルフ2人はあきれ果てる。


「なにをおっしゃいなさって?

 わたしたちが必死でブロックを押さえつけなければ、今ごろ3人そろってペシャンコになってましたのよ?」

「そうそう、こっちは2人だけでジイさんを支えたんだ。

 感謝はされても説教されるいわれはないぜ」


 ルキフールはそれを意に介すでもなく、上空を見上げた。


「地の攻撃が止んだ。

 どうやらここでは決着をつけられないと見たらしい。奥に進むぞ」


 首を振り続ける仲間たちを扇動しルキフールは進むと、前方が一気に開けた。

 円形の広場で、床には魔法陣が描かれている。

 ルキフールは入る直前で立ち止まった。


「先に進むのは気が引けるな。

 これはワナだ。おそらくは重力を操る力なのだろう」

「だとしても、進む以外に手はありますか?

 俺たちはここの守護を倒さなきゃなんないんです。進まない手はないでしょう」

「待て、戻るとは言っとらん。

 しばし待たれよ」


 ルキフールは短い呪文を唱え、杖を下に構えた。

 すると床一面がぼんやりとした光に包まれる。

 奥の暗がりから声が聞こえてきた。


「なんと、こんな短時間で重力の力を押さえるとは。

 さすがは魔界一の老練な使い手じゃな」


 やってきたのは背が低い割に体格のいい、老人たちの集団だ。

 中央の白ヒゲはあごひげが長く、地面に近いほうをヒモで(しば)っている。


「ドワーフの長、ウールだな。

 お互い老練な者同士、話し合いで決着をつけることはできんか」


 するとウールと呼ばれたドワーフは豪快(ごうかい)に笑った。


「ぐわっはっはっはっっ!

 老獪(ろうかい)そうな見た目に合わず、平和的なことをほざく者じゃわいっ!」


 そしてウールは皮肉まじりのしたり顔を向けた。


「しかしそうはならん。

 こちらとしては種族の存亡がかかるゆえ、平和にことをおさめるわけにもいかんぞ。

 もっとも魔界一の策士と言われるお前の力が、どれほどのものなのか試してみたいという気持にもかられるがな。ぐははははは」


 ルキフールは前に進み出て、杖を横に振った。


「者ども、お前たちは後ろの手下どもを片づけろ。

 人数は多いが、お前たちの力ならできなくもないだろう」


 後ろにいた者たちが動いた。

 あっという間にドワーフたちのもとにたどり着くと、それぞれの武器で戦いを始めた。

 早くも乱戦模様をていする後方をよそに、ウールは巨大な槌を担ぎ、前に進みでる。


「さて、ご老体。

 こちらは年老いてなおも堅強(けんきょう)じゃ。

 対するお主は足腰が弱っているようじゃが、そんな状態で戦えるのかな?」

「心配無用。

 私は自らの力をすべて魔力に還元しているため、このような姿をとっている。

 スターロッドとは生き様がちがうゆえ、若々しい肉体には頼らん」


 ウールは楽しげに白い長ひげに手をやる。


「ほっほう! 言うではないかっ!

 ならばこの力、受け止められるかっ!」


 そう言ってウールが巨大な槌を上からたたきつけてきた。

「アンナグサメンッッ!」ルキフールは短く発し、杖からオーラを出現させてそれを受け止めた。


「なんと! わずかな時間でそれほどの力を引き出すとは。

 さすがは魔導の力を極めただけはあるな!」

「極めただけではないぞ! イグナスドッッ!」


 それだけでウールの大槌をはじいた。

 はね飛ばされそうになりながらも、ウールは体勢を立て直した。


「直接攻撃してはかなわんか。

 ならば、いたしかたあるまい!」


 ウールがあらぬ方向に、大槌を叩きつけた。

 すると地面が大きく震動し、ルキフールはよろめいた。


「大地を揺り動かす魔導具かっ!」


 前方を見ると、ドワーフたちと戦う仲間たちもそれに巻き込まれ、体勢をくずしていた。

 それまではやや優位に立っていたのだが、地震の力に動じないドワーフたちに押し返されている。


「『クウェイクハンマー』と言えば、ベアールの娘ピモンも手にしているな。

 しかしワシが手にするのは別の力じゃ。

 ワシは剛腕ゆえ、この土の圧倒的な重量に耐えることができる。

 それゆえこの魔導具を別の力に変換することができるのじゃ。それっっっ!」


 もう一度、ウールが床に大槌を叩きつけた。

 新たな震動に、背後の仲間たちは立っていられなくなる。


「ぬぅぅぅ! させんぞっっっ!」


 ルキフールは進み出た。

 しかし相手の方が身軽のようで、ルキフールが振りかぶる杖は簡単にかわされてしまう。

 何度も試すが、当たらない。


「ぐわっはっはっはっっ!

 どうやらその老体では、まともに攻撃することもかなわんようだなっ!」

「ならば別の方法を試すまでだっっ! アンギドサナムンッッ!」


 ルキフールの杖から、オーラが飛んだ。

 ところがウールはハンマーを前に構えると、衝撃波は見事に吸い込まれてしまった。

 ルキフールは思わず「ぐむぅ!」と口ごもる。


 そうしている間に、ウールが真横から大槌を振りかぶった。

 杖を構えるのが間に合わず、ルキフールは後ろに倒れ込んだ。


 そこに何者かがのしかかった。

 重さに思わず「ぐうっ!」とうめきながらも目を向けると、女性ながら背の高いマーファが上に乗っていた。


「バカモノッ! わたしの上に乗っかるなっ!」

「そんなこと言われましたって、こっちはピンチなんですのよっっ!」


 彼女の言う通り、両手に握るムチが対するドワーフの持つ巨大メイスを絡めとるが、相手は全く動じない様子でぐいぐいと引っ張っている。

 マーファは「むうん、むうん」とうなりながら引っ張り上げるが、あきらかに彼女のムチに負担がかかっている。


 ウールが動いた。

 マーファが引っ張るムチの上に、大槌を振り下ろした。

 張りつめたムチはあっけなく引きちぎられた。


「まあっ! アタクシの得物が、いとも簡単に!

 やっぱりやわらかい武器では限界がありますわっ!」


 2人のドワーフが、床に倒れる2人におそいかかる。

 ルキフールは若いドワーフに杖を向けた。


「アングサナムンッッ!」


 ドワーフの身体が、大きく弾き飛ばされた。

「邪魔だっ!」と言ってマーファの身体を押すと、彼女はすぐに転がってどいた。

 振り下ろされた大槌をルキフールはなんとかわす。

 ほんの数センチ先を、巨大な武器が叩きつけられる。

 老魔族は少し動揺する。

 震動とともに、わずかにマーファがよろめく姿が見える。


「あ、あたくしもう戦えませんわっ! どうしたらいいですのっ!?」

「とりあえず身を守ることを優先して考えろっ!

 余裕があれば仲間たちを魔法か徒手空拳で援護すればよいっ!」


 ルキフールはなんとか立ち上がると、土を持ち上げたウールと向き合った。

 相手はニヤニヤとこちらを見やる。


「どうしたんじゃ。その姿では限界じゃろう。

 わかっておるぞ、最上級の魔族は、自在に姿を変えられるということをな」


 ルキフールは顔をしかめ、うんざりしたように首を振った。


「……私は知恵を使い、策をめぐらせるのが好みだ。

 本来はこうして前線に立つのは好まぬところ。

 しかしながら、もうこだわっている場合ではないな」


 視線の先に、苦戦している仲間たちの姿がある。

 マーファが拳や蹴りを使って援護するが、うまくいかない。


 ルキフールは片手で杖を構えた。

 そして相手をにらみつける。


「肉を使うのは心底嫌いだが、受け入れよう。

 よく刮目(かつもく)するがよい」


 ルキフールの全身が、すさまじいオーラにおおわれた。

 あまりの勢いにウールはつい一歩退いた。

 黒いオーラが止みウールが目をこらすと、すでに元のルキフールの姿はなかった。


 死神。

 ひとことでいえばとそんな様相をしていた。

 小柄だったはずの老体は、青年のような体格のいいものになっている。

 しかし、スキンヘッドの肌は青白い。

 目は落ちくぼみ、黒いクマにおおわれた瞳も、瞳孔がなく真っ黒に染まっている。

 まるでドクロのようだ。


 鼻から下を黒いマスクでおおいそこから同じ色の(くだ)が伸び、肋骨(ろっこつ)を模した胸のプレートにつながっている。

 衣装は光沢を帯びる肋骨(ろっこつ)のようなプレートも含め、すべて黒い。

 ロングコートにロングブーツ、グローブに至るまで真っ黒で、手にする杖さえも黒く染まっている。


 杖は、プレートと同じく光沢を帯びている。

 脊椎(せきつい)のような形状の柄の上に、丸みを帯びた何かが乗っている。

 よくよく見れば、胎児(たいじ)の頭のような形をしている。

 苦しげにゆがむ造形を見て、ウールは内心ふるえあがった。


「……禍々(まがまが)しい、風貌(ふうぼう)じゃな。

 まさしく死の神と言って差し支えなかろう」

()しいかな。

 私の真の姿は『ネクロマンサー』と言う。

 いわゆる死霊使いだ。

 しかしわが手勢は、敵味方の区別なく(おそ)う。

 ゆえにここではわが魔導具のみを使おう」


 そう言ってルキフールは杖を握る手に力を込めた。

 すると胎児の口から鋭い刃が飛び出した。

 心なしか、胎児の口がツバを吐きだして「グボェッ!」と叫んだような気がする。


「『苦悶の錫杖(くもんのしゃくじょう)』……受けよ」


 黒い眼孔(がんこう)でにらみつけるルキフールに戦慄(せんりつ)しつつも、ウールは大槌を構えた。

 ルキフールは胎児の口から飛び出た(かま)を上から突き出した。

 ウールがハンマーの側面でその攻撃をはじくと、ルキフールの漆黒(しっこく)の腕が激しく震動する。


「ぐっ! 側面にも魔法効果があるのかっ!」


 ルキフールは反対の手を柄にやりその先を引っ張ると、脊椎のような形状がずっと先に伸びた。

 なぜか「オオオオオオオオオオオオォォォッッ!」と言う叫び声が聞こえる。


 長く伸びた脊椎はまるでムチのようにしなる。

 それを逆手のままふるい、ウールの身体を直接狙った。

 ウールは大槌ではたき落そうとする。

 が、生き物のように自在に動くそれをとらえることができず、2,3回身体に軽く受ける。


「ぐむぅっっ!」


 しかし頑強(がんきょう)なドワーフゆえに深い傷は負っていないようだったが。


 杖の形状がまた変化を遂げた。

 退治の頭が「オボォォッッ!」とツバを吐きだし、上に思い切りのけぞった。

 鎌が一瞬にして槍の形状となった。

 使い手はそれをまっすぐ突きつける。

 体勢をくずしていたウールはかわしきれず、片腕にそれを受けた。

「ぐおっ!」とウールが叫んでいるうちに、ルキフールは脊椎のムチを逆手に振りあげた。

 大槌に脊椎が当たると勝手に絡みついていき、がっちりと(しば)りあげた。

 ルキフールは両腕を使ってそれを引っ張り上げる。


「オオオオオオオオオオオオオオオ……」


 胎児の口から不気味な声が聞こえてくる。

 片腕をケガしているとはいえ、強健なドワーフは必死に抵抗する。

 しかし、結局は根負けした。

 もぎ取られた大槌がルキフールのすぐ後ろの床にたたきつけられる。


 つんのめって床に両手をついたウール。

 気がつけば、すぐ真横で鋭利な刃を突き立てる黒い死神の姿があった。


「もはやこれまでじゃ。

 遠慮(えんりょ)はいらん、この魂を狩り取れ、死神」


 しかしルキフールは錫杖を上にもっていくと、鎌と伸びた脊椎の両方をしまった。


「死神は刈り取る魂を選ぶ。

 お前はまだその時ではない」

「なぜ命を助けるんじゃ?

 だからといって門の封印を解除するとは限らんぞ?」

「ならばもう一度戦うだけだ。

 思ったより、この姿で戦うのは心地よいのでな」


 ウールがルキフールを見ると、黒い眼孔は目を細めた。

 ドワーフの長はなぜか泣きたくなった。


 その時敵を殴り倒したチチガムとネヴァダが、ルキフールに顔を向けた。

 ネヴァダが「えっ、誰っっっ!?」と叫ぶと、ルキフールはゆっくりと首を振った。





 守護の広間の門。黄色の封印、解除。

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