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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第9章 元勇者、少々無謀な挑戦をする
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第51話 4つの守護~その2~

 水の神殿には、3つのドラゴニュート、ズメヴ兄弟、ニズベック、ドラスクが中心となって進む。

 その後ろには、イサーシュ、ムッツェリ、そしてマサムネがいる。


「しかし、なんという男だ。

 いきなりかけ込んで、閉まりかけた扉をすれすれで入り込むなんて、信じがたいな」


 マサムネを横目でいぶかしげに見やるムッツェリに、イサーシュが話しかけた。


「いやいや、彼はもともと3ドラゴンと同じこちらの主力メンバーだ。

 危うく締め出されかけたのは、ひとえにドラスクの落ち度だろう」


 前で全身白ずくめの男が舌打ちをする。

 ポケットに両手をつっこみ、相変わらず機嫌が悪そうだ。

 ドラスクは態度そのままに毒つく。


「にしてもよぉ、なんでこっちのメンバーはみんな物静かそうな奴らばっかりなんだ?

 ただでさえ薄暗い雰囲気なのに、よけいにしんみりしてくるぜ」


 上半身が裸に近い、腕がつながったシャム双生児が肩に手をかける。


「まあまあ、こっちにおしゃべりが2人もいるんだから、いい話相手になってやるよ。

 もちろんお前がそうやってぶつくさと文句ばかり言ってるのはたまらないがな」

「首領であるファブニーズ様がいないと、まとまりがなくなりそうですね」


 ムッツェリが問いかけると、ズメヴの白髪のほうがこちらを向いた。


「言うことを聞かないのはこのドラスクだけだよ。

 安心したまえ、君たちの身はこのズメヴ兄弟が保証する。

 せいぜい足手まといにならないように気をつけたまえ」

「自分としては、ここにいるサムライのほうが気にかかるのですが。

 彼、思っていたより相当な実力者のようです」


 イサーシュが横目で相手を見ると、ズメヴの黒髪が首をひねった。


「こちら側の言葉を話せないのが惜しまれるな。

 戦力バランス上こちらにまわったのは仕方ないが、コミュニケーションがとりづらいのが大きな不安要素だ」

「そんなに頼りになるのか?

 俺からしたら、そこにいるバカップルと同じくらい足手まといにしか見えないぞ」


 ドラスクの声にムッツェリが赤面しながらも顔をしかめる。

 イサーシュも顔が赤くなるが、首を振って呼び掛けた。


「もう少し、気合いを入れましょう。

 相手は弱点属性さえもはねのける者たちです。気を引き()めてかからねば」


 すると突然、前方をいくニズベックが立ち止まった。

 前方を指差すと、やたらと壁がギザギザに折れまがっている八角形の広間が現れる。


 ニズベック達は警戒しながら前に進む。

 こちらには地属性と水属性の精鋭がいるが、敵はどのような手段に打って出るかわからない。


 全員が広間中央に足を踏み入れたところで、異変が起こった。

 部屋中のあちらこちらからすさまじい水流が流れ込んでくる。


「水を操る力だなっ!? だがこっちもそれはお手の物だっ!」


 ズメヴ兄弟は2人とも口を大きく開けた。

 黒髪が思い切り口から水を吸い込み、もう一方が廊下に向かってそれを同じ勢いで吐きだした。

 おかげで足元の水量が増えない。


「上のほうを見ろっ!

 魔法で造られた巨大な水の球がいくつもあるっ!」


 ムッツェリが指差す方向に全員がそれを見ると、突然ニズベックが小さい靴を脱ぎだした。

 裸足になった彼女は両手をそちらの方に向け、突然黄金色のスプレーを放出した。

 巨大な水球のひとつが砂まみれになり、動かなくなっていく。

 ドラスクもまた口から白いブレスを吐きだし、水球のひとつを氷漬けにする。


「水の玉はまだ残っているっ!

 あとの3人はそちらを警戒してっ!」


 ニズベックの指示に、人間3人はドラゴニュートに1体ずつ張り付いた。

 砂や氷に包まれていない水球から、何かが飛び出してくる。

 水の槍だ。

 3人はそれぞれの武器を手にとり、向かってきたそれらをたたきつける作業にかかる。


 イサーシュとムラマサは華麗な剣さばきで、ものの見事に水の刃を2つに切り裂いていく。

 しかしムッツェリは少し苦労しているようだ。

 彼女がガードするのはズメヴ兄弟で、防ぎきれなかった水の槍を彼ら自身が素手でつかみ、口から水を放射したままムッツェリにうなずく。

 本来弓矢を本領とする狩人は苦笑いせざるを得なかった。


 そうしている間に、2つの水球が完全に固まった。

 すると状況に変化が起こる。残った水球はすべて1つに固まり動かない球をも飲み込んで、天井に張り付いた。


 なんとも不思議な光景である。

 まるで頭上に、逆さになった水槽があるかのようだった。

 重力を無視した水の塊から、突然何かが水しぶきをあげて落ちてきた。

 イサーシュ達は素早く飛びすさると、高価そうな衣服をまとったニンフが現れた。

 身体じゅうにジャバラ状のからくりヘビをからませている。


「なるほど、魔王軍の精鋭に、勇者の仲間ですか。

 1人見慣れぬ者がいるようですが、かなりの使い手のようですね」


 ニンフの後ろから仲間が舞い降りてくるが、彼女は「身を隠しなさいっ!」と叱責(しっせき)すると、ふたたび頭上の水槽に消えた。

 ドラスクがポケットに手を突っこんだまま、ゆっくりと前に詰め寄る。


「ニンフの女王、カブラだな。

 使えそうなのはお前だけだ。

 これだけの数がそろえば勝ち目はないだろ? おとなしく降伏(こうふく)しろ」

「降伏? 残念ながらそれはできません。

 この戦いには我らニンフ族の存亡がかかっているのです。

 勝たねばなりません……たとえどのような手段に出ようともっっ!」


 カブラが持つ蛇の頭が、ムッツェリを向いた。

 彼女はすぐに身をかわそうとするが、急に飛び出した水の柱が迫る。

 とっさにイサーシュがムッツェリをかばうが、2人とも水の柱に身体をたたかれそのまま奥の壁に押し付けられそうになった。


 ムラマサが動いた。

 すばやい動きで円柱を真っ二つにし、壁に叩きつけられた2人が押しつぶされるのを防いだ。


 ムラマサが駆け寄り、床に倒れた2人を見やる。

 ドラゴニュート3人のほうを見て、ゆっくりと首を振る。

 ドラスクが舌打ちをした。「ったくだらしねえ」


「いや、先ほどの攻撃、すさまじかった。

 あのような強力な水魔法、見たことがない」


 ズメヴ兄弟の言葉をニズベックが引き継いだ。


「あの魔導具の力です。

 ただでさえ高等な水属性種族なのに、魔導具の力を使ってさらに増強を図ってる」

「なるほど、たしかにこれはやっかいだ。

 俺たちも魔導具を持つべきかな?」


 そう言って楽しげにアゴをさすっているドラスク。

 突然誰かがそのわきを通り抜けた。


 マサムネが人間とは思えない速さで彼の前に出ると、抜き打ちざまにカブラに斬りかかった。

 横に(なぎ)いた鋭い一閃(いっせん)を彼女はかわすが、鎖骨の下あたりから血がほとばしる。


「ぐぅっっ! なんて速さっ! しかし……」


 そう言って彼女は倒れているイサーシュ達に手を向けた。


「彼らをねらえっっ!」


 水槽から、いくつもの槍が飛び出した。

 そこへいつの間にか戻っていたマサムネが、ジャンプしながら槍を切断していく。

 しかも自身はイサーシュのほうを向いており、敵の攻撃が見えていないにもかかわらず。

 周囲が心底おどろいた。


「なんという芸当っ! 彼を集中的に狙いなさいっ!

 ドラゴニュートたちはわたしがなんとしても片づけるっ!」


 カブラのヘビが、ズメヴ兄弟たちを向いた。

 大きく開かれた口から水の柱が飛び出すと、ズメヴ兄弟も大口を開き、息を吹きかけた。

 水の柱は2人分の力によって勢いを弱める。


 ズメヴの横に立つニズベックとドラスクも、砂と氷を噴射する。

 ニズベックの足を見ると床がバリバリとはじけていき、彼女の小さな両足には血管が浮かび上がっているのが見える。

 水の柱は固まっていくが、カブラがドラスクに向かって片手を振り下ろした。


 そこから水の刃がはなたれる。

 ドラスクはあわててかわすが、よけきれず肩を斬り裂かれ赤い色をした氷のしぶきが舞った。

 床に倒れ込んだドラスクが上を見ると、すさまじい量の水の槍を軽々と払いのけていくマサムネの姿があった。

 ドラスクは顔をしかめる。


 作業がいそがしいにもかかわらずマサムネは片手を離し、上空の水槽を指差した。


「……はいはい、そうですね」


 カブラが再び水の刃を放ってきたのをドラスクは転がってかわし、上空に向かって氷のブレスを吐きかけた。

 巨大な水槽はなかなか固まらないが、時間をかけて凍らせていくしかない。

 ドラスクは氷を吐きかけるのをやめた。


「ニズベック! 俺を手伝えっ!

 そいつの足止めはズメヴに任せろっ!」


 ニズベックは作業をやめ、ドラスクのそばにかけよってともに上空に向かって両手から砂を放った。

 怒りの仮面をかぶったマサムネの目が、血管だらけの彼女の両足に向けられる。


 その頃、イサーシュとムッツェリが起き上がった。

 たがいに無事を呼びかけながら、ゆっくりと起き上がる。


「2人とも、ズメヴの援護(えんご)に向かいなさいっ!」


 ニズベックの声にイサーシュ達はうなずき、兄弟のほうに向かった。

 そちらではカブラが片手で、カーブを描く水の刃を兄弟に投げつけていた。

 ズメヴは同じ属性のためか耐え抜いているが、少しずつ身体が傷付いている。


 イサーシュは素早く斬りかかるが、カブラは素早くそれをかわした。

 後ろからムッツェリが矢を放つ。

 水の女王はそれをかわしきれず、手で受け止めるがそこから血がほとばしる。


 カブラはヘビから水の円柱を切り離した。

 円柱はしぶきをあげてもとの水に戻る。

 そのかわりにヘビの大口が形の整った水球を吐きだした。

 すぐにはイサーシュ達には向かわず、周囲をぐるりと回って横から狙う。

 2人は動揺している。よけきれそうにない。


「あぶないっっ!」ズメヴの黒髪が大口を広げ、水球を吸いこんだ。

 しかし高圧圧縮された水球はズメヴの眼前をおおったまま消えそうにない。

 それを見たカブラはもう1つの水球を放った。

 これも白髪の顔に覆いかぶさると、兄弟は視界と攻撃を両方ふさがれた。


 カブラは開いた手で水の刃を放つ。

 イサーシュとムッツェリを狙うが、これには2人は対応できるようで素早く身をかわす。

 カブラは頭上を向いた。「こちらの援護をっっ!」


 上から水の槍が落ちてくる。

 見上げた2人はそれをかわしていくが、槍が飛び出してきた場所に砂と氷が吐きかけられる。

 水槽(すいそう)は着々と固まりつつあるようだ。


 しかし、ここでカブラがニヤリと笑った。

 彼女が放った水の刃は、ドラスクの胴に吸い込まれた。

「ぐふぉっっ!」正面から攻撃を受けた白服はあおむけに倒れた。


「ドラスクッッ!」かけよったムッツェリに、水の刃が迫る。

 イサーシュがかけつけようとするが、その前に黒い鎧の男が前に出た。


 水の刃が、まったく同じ方向から切り裂かれて、真っ二つになる。

 ムッツェリが目を見開いている間に、マサムネは上の方を指差した。


 ムッツェリは上から向かってきた水の槍を、急いで取り出したククリナイフで斬りつける。

 後ろからイサーシュがかけつけ、2人は背中合わせにおそいかかる水の槍をはじいていく。


 マサムネと、カブラが向かいあう。

 上からはマサムネに対しても槍が襲ってくるが、それはニズベックがはなった砂によって固まり下に落ちる。

 これでマサムネは正面の敵に集中できる。


 カブラは魔導具をズメヴ兄弟の牽制(けんせい)に使わざるを得ないため、仕える手段は水の刃しかない。

 あきらめずに放ち続ける彼女に対し、マサムネはまったく同じ方向に斬りつけることで真っ二つにしていく。


「なんて……芸当……」


 カブラがつぶやいた時、マサムネの姿が消えた。

 向ける手のひらに赤い線が入り、血がほとばしった。


「ぐぅぅぅっっ!」


 彼女はジャバラヘビを落とし、血を流す片手を押さえた。

 これによりズメヴ兄弟は自由になるが、その時にはすでにマサムネがひざまずいたカブラのうなじに刃を当てていた。

 頭上からの攻撃が、いっせいに消えた。

 カブラは横目でサムライをにらみつける。


「……殺しなさい」

「……拙者(せっしゃ)、お主の矜持(きょうじ)が手にとるようにわかり申す。

 わが国でも家の存続は最大の(つと)め。後生(ごしょう)大事とされる」


 誰もがおどろいた。

 かたくるしいながらも、マサムネははっきりとこちら側の言葉をしゃべったのだ。

 ズメヴが思わず「「……しゃべれるんかいっっ!」」と声を合わせた。


「しかしながら、お主の申すところは多いに誤りである。

 『ひろす』神の命ずるままに動けば、地上の多くの者たちが命を落とす。

 種の存続は一大事なれど、多くの犠牲(ぎせい)を払ってまで、守り通すべきほどのものか」


 カブラの目から、力が抜けた。

 それをさとったマサムネは、剣についた血を(ぬぐ)いながら(さや)の中に剣をおさめる。


「案ずることなかれ。

 我ら、必ず全身全霊を持って悪神を打ち果たそう。

 拙者の見込み正しければ、『はるしす』殿は天下無双の勇士なり」

「……そうですね。あなた言う通りです。

 お望みどおり、わらわが封じる力は解除しましょう」


 カブラが前を見ると、一命を取り留めたドラスクが、ニズベックに抱き起こされていた。





 広場では、天高くそびえる巨大門の4つの光のうち、青色が消えた。

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