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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第9章 元勇者、少々無謀な挑戦をする
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第50話 美女と醜女~その3~

 先遣隊(せんけんたい)全滅(ぜんめつ)

 しかし密室であるため、魔王たちはそれを知ることができない。


 もっともそれどころではなかった。

 宮殿の外では、別の異常事態が発生していた。


「……ダメですっっ!

 街のあちこちで、兵士たちが次々と倒れていま……す……」


 報告した兵士もまた、言い終わったとたんその場に倒れ込んだ。

 スターロッドがすぐにその身体を支える。


「ダメじゃ。街じゅうで同じことが起こっとる。

 きっとどこかで、何者かが街に強力な呪いをかけておるのじゃ」


 そばでヒザをつくロヒインもファルシスのほうを見上げる。


「街にかけられた呪いには、徐々に体力を奪っていく効果がある。

 体力の少ない人間から危険な状態にさらされます」

「メウノはどうしたのだ?」


 ルキフールが問いかけると、現れたマルシアスが首を振る。


「そのメウノちゃんが呪いにかかって倒れちゃったんだって!

 彼女のお友達も同様だ!」


 同時に現れたマーファも首をすくめる。


「魔族たちや街の住人たちにも、被害が出始めている。

 今のところ元気なのはわたくしたちしかいなくってよ」


 そこへベアールがかけ込むようにして現れた。


「み、みんな来てくれっっ!」


 ベアールが案内すると、街のとある一角に奇妙な紋章がかがやいていた。

 赤騎士はすぐに指をさすと、スターロッドがあごに手を触れてつぶやく。


「なるほど、この紋章、街じゅうで見かけるが先日まで光を帯びてはいなかったな」

「だろっ!? ならこいつを斬りつけたら、どうだ!?」


 ベアールは腰の剣を抜き打ちざまに斬りつけた。

 紋章が2つに割れると、その光が徐々に薄らいでいく。

 それと同時に身体が少し軽くなった。

 ズメヴ兄弟が叫んだ。


「これが街じゅうにあるということか!

 しらみつぶしにあたってみれば、安全な場所が増えるかもしれんな!」

「だがすべての紋章を破壊するには時間がかかる。

 倒れてる連中をここに運んでもいいが、すべてを救えるかどうか……」


 疲れたようなベアールの声に、ルキフールが答えた。


「敵の目的は、少しでもこちらの戦力を減らすことだ。

 出来れば呪いの根元を探り、一気に解決を(はか)りたい」

「ここにきてさんざん常識が(くつがえ)されたが、まさかここまでやるとはな。

 まったく天界の住人のクセに呪いに頼るだなんて、サイテーだっっ!」


 マルシアスがいまいましく叫ぶと、スターロッドが手を振った。


「とりあえず街じゅうをしらみつぶしに探そう!

 紋章を破壊しつつ、呪いを操る敵を探し出せっ!

 町の外からは術をかけられんからな!」


 だまって聞いていたヴェルが、初めて口を開いた。


「あれ? ドゥシアス君と、ピモンちゃんは?」


 それを聞き、ベアールは兜を手でおおい、首を振った。


「あいつらも呪いにやられてる。

 高等魔族でも子供と老人は危険だ。バアサン、ジイサン、あんたらも危ないぞ」

「わらわなら大丈夫じゃ。

 若い肉体を使っておるからな。老いたままのルキフールのほうが危ない」


 そう言ってスターロッドは、小柄な老魔族の肩に手をかけた。


「いざとなったら、お主も変身するのじゃ。

 身体を動かすのが嫌いだという言い訳は通らんぞ」

「えっ!?

 ルキおじいちゃんって、やっぱり変身できるの?」


 おどろくヴェルに首を振り、ルキフールは周囲に呼びかけた。


「さあ、早く手分けして探せ!

 仲間は自由に選んでよいが、必ず3名以上だぞっ!」





 スターロッドが選んだのは、ロヒインとヴェル。

 どちらも自分の個人的感情でチョイスしたメンバーだ。

 見かけた紋章を破壊していくが、徐々に体が重くなっている気がする。


「おばあちゃん、紋章は見える所だけじゃないかもよ?

 建物の屋上とか、入り組んだ路地の片すみとか、細かいところまで探せばきりがないよ!」


 ヴェルに言われ、スターロッドは首を振った。


「魔法を使って探す案も考えたが、ムダじゃろうな。

 相手も自分の所在を隠す術を使っているに違いあるまい」


 ロヒインが剣を持っていない手であごに触れる。


推理(すいり)して、検討をつけた場所をしらみつぶしにあたるしかないですね。

 だけど街の情報が少ないなか、いったいどうやったら……」


 そこへ曲がり角の先から何者かが現れ、3人は身構えた。

 しかし現れたのは翼を生やした神官らしき男で、現れるなりその場にヒザをついた。

 ロヒインはすぐに「大丈夫ですか!?」と男を抱き起こす。


「よ、よかった……

 ずっと探してたんですよ。神殿を抜けてから……」


 スターロッドもそばにひざまずき、相手の肩に手をかける。


「お主は誰じゃ。

 その身なりからすると、高位の神官らしいが……」


 相手は疲れ切った表情ながらも、にっこりとほほ笑んだ。


「ヴィクトル様の書記官、『メタロン』と申します。

 魔王軍の幹部ならだれでもよかったのですが、出会ったのがロヒインさんで、よかった……」


 メタロンはがっくりとうなだれた。

 それを見てロヒインは「しっかりしてっっ!」と身体を支える。

 メタロンはうなずいて続ける。


「こ、この街には、『雷鳴の3姉妹』と言う巫女(みこ)たちの呪いがかけられています。

 彼女たちの力があれば、少しずつではありますが、ここにいるすべての人たちの力を奪うことが、できるはずです」

「なるほど、雷鳴の3姉妹じゃな?

 それで、まさかお主はその居場所を知っているとでも?」


 スターロッドの問いかけに、相手ははっきりとうなずいた。


「ええ。隠れ場所を、知っています。

 ここから先、入り組んだ路地を下に下にくだった場所に、彼女たちの秘密の研究施設があるのです」

「秘密の、研究施設?

 また何やら怪しい陰謀(いんぼう)(くわだ)てられているようじゃが……」

「スターロッド様、今はそんなことを気にしている場合じゃありません。

 一刻も早く敵の隠れ家にいかないと……」


 ロヒインの発言に、そばで見ていたヴェルが両手を上に向けた。


「でも、入り組んだ場所にあるんでしょ?

 この人の案内がなけりゃ、たどり着けないよ」

「だがメタロンを連れていくのは危険じゃ。

 大丈夫、魔法を使ってこやつから記憶を取り出そう」


 そう言ってスターロッドは呪文を唱え始めた。

 ふとヴェルが上のほうを見ると、相変わらずの(くも)り空から何かが舞い降りてきた。

 彼女は目を見開く。


「おばあちゃんっ! 危ない、上っっ!」


 ヴェルの声で危機を悟ったスターロッドが、片手に持った円環を上空に投げつけた。

 放たれた稲光はそれにあたり、ヴェルが思わず目をふさぐほどの光を放った。

 舞い降りた円環を、スターロッドは顔も向けずに受け止めた。


「でかしたヴェル。あの雷は(まぎ)れもなくこのメタロンを狙ったもの。

 ここにこやつを置いていくことこそまずいようじゃな」

「ちょっとおかしくないですか?

 あの雷、フィロスのものとは思えません。

 奴の攻撃は無差別に放たれるものです」


 その問いにメタロンが答えた。


「あれは3姉妹のものです。

 彼女たちは雷鳴の名の通り、雷を自在に操ります。

 3人そろえば遠く離れた敵でも的確に狙うことが……うぅっっ!」


 苦しみだしたメタロンに、ロヒインは背中をさすった。


「記憶を取り出す魔法より、この人を一時的に元気にする魔法を使いましょう。

 そして敵の本拠地に案内してもらった方がいいでしょう」





 ロヒインの言う通り一時的に元気になったメタロンは、駆け足で路地を進んでいった。

 もっともこれは短時間なので、時間がくれば再び力を失うことは本人にも言って聞かせた。

 道はやがて下へ下へと向かう。

 このあたりにはまだ民家があるが、上空の光はあまり当たらず、薄暗い。


「いったいどれだけ入り組んでおるのじゃこの街は。

 まるで天界の首都とは思えん」

「区画整理は、天使長のミゲル様が務めておりますからね。

 あまり熱心ではないのでしょう」


 メタロンの足は、ある下り階段で止まった。

 奥には黒い扉がポツンとある。

 メタロンはこちらを向いて扉を指差した。


「あそこです。あそこの中に入れば、3姉妹の隠れ家はすぐそこです」


 その時、扉が微妙に動いた。「あぶないっっっ!」


 とっさにロヒインはメタロンを壁に押し付ける。

 スターロッドとヴェルも壁に張り付くと、彼女たちのわきをすさまじい稲光が通り過ぎた。


「……危なかった。

 もし油断しておったらやられたところじゃったぞ」


 冷や汗ぎみのスターロッドの横で、ロヒインはメタロンにうなずいた。


「メタロンさんはここにいて。

 わたしたちが彼女たちと戦っていれば、あなたを襲う余裕はなくなるはず。

 くれぐれも街には戻らないで。

 もし本当に危ない時は知らせるから、その時だけ誰か元気な人を探しに行ってください」


 メタロンは、少しおびえた顔をしながらもうなずいた。


「わかりました。どうかご無事で……」


 3人はメタロンの前に立った。

 ロヒインは赤い長剣を。スターロッドは黒い円環を、そしてヴェルは両手にはめたかぎ爪を手に、急ぎ足で階段を下っていく。

 それを見届けたメタロンは、深いため息をついた。


「きれいな人たちだなぁ。そして……エロいな(赤面)」





 暗がりを抜けると、うっすらと緑色の光を放つ広間に出た。

 広間のところどころに巨大な円柱がそびえるが、目線に近い場所にはなぜかぽっかりと縦長の穴が開いており、そこから緑色の光がもれている。

 足元には無数の管があり、それが中央の広場に続いている。

 広場を見上げれば宙に浮かぶ3つの人影が、中央の奇妙な彫刻(ちょうこく)のほうを向いて、ゆっくりと回転している。


「よくぞまいられた、闇の魔女たちよ。

 ここがお前たちの墓場になると知れ」

「我らは雷鳴の3姉妹。

 偉大なる神々の命により、地上を監視する役目を負う者」

「『クリエ』・『メイナス』・『ディズトラ』。

 我ら3巫女が、闇の魔女たちに引導を下す」


 それぞれ声色の違う巫女たちが、徐々に下へと降り立っていく。

 その様相を見て、対する3魔女はそろって首をかしげた。

 現れた巫女たちの体型は、明らかにおかしかった。


 1人は、やたら長身なのだが、痩せすぎていてとても魅力的には見えない。

 顔も細長くやつれて見える。


 2人目は、とにかく大柄だ。

 あり得ないほどの肥満体で、とても俊敏(しゅんびん)に動けるとは思われない。

 顔立ちもたとえ体型を差し置いてでも美しいとは言えない。


 3人目は、ほかと比べて小柄だ。

 しかしあまりに背が低いうえなぜかたくましい身体つきをしていて、顔もまるで男のようにゴツゴツしている。


 3人ともワンショルダーの白いワンピースのようなドレスをまとっているが、清潔な衣装は彼女たちの残念な容姿を隠し切れてはいない。

 もはや目も当てられない。

 そんな3人がゆっくりと下におり、並び立つ。

 ロヒインとヴェルが、気の毒な顔で3姉妹を見やる。


 ところがスターロッドはそうではなった。

 意気揚々と前に進み出ると、美しいボディラインを誇示(こじ)するかように、腰に手をやりながら優雅(ゆうが)な足取りで進み出る。


「ククククク、お主らが、天界でもっとも高名なハイエルフなのか?

 どうなのじゃ」


 長身のハイエルフが答える。


「その通りだ。

 まさか、お前はことさらに我らのことを悪く言うつもりなのか?」


 容姿、とは言わなかった。内心気にしているようだ。

 それを聞いたスターロッドは立ち止まり、足を軽く広げた。

 そして高らかに笑いだす。


「ハハハハハハハッッ!

 ハイエルフと聞いてどれほどのものかと、内心気がかりにしておったわ!

 なにしろ天界の種族じゃからの。

 どれだけ神々(こうごう)しい見てくれの連中かと、正直あせっておったたぞ!」


 小柄筋肉質のハイエルフが、不美人な容貌(ようぼう)をさらにゆがめる。


「まさか、貴様は己の美貌(びぼう)をひけらかすつもりなのか?

 侮辱(ぶじょく)は許さんっ!」

「だとしたら?

 よもやお主ら、このわらわに嫉妬(しっと)しておるのか」


 3つのハイエルフが絶句する。

 ロヒインは思わず声をかけた。


「あの、あまり相手の見た目を悪く言わない方がいいと思います。

 あの、わたしも、もともとはイケてる方じゃなかったので。

 嫌われはしませんかったけど、なんだか身につまされたような気持ちに……」


 スターロッドはわざわざ上半身をねじり、ロヒインに振り返った。


「だったらどうしたというのじゃ?

 お主、今は魔界の中でも最も美しい魔女の1人ではないか」

「あ、いや、これは反則を使ったようなものなので……」


 となりにいたヴェルが祖母の前に進み出て、握った両手を腰に当てて前にかがんだ。


「もうっ! まどろっこしいこと言ってないで、

 相手がブ○イクならブ○イクってはっきり言えばいいじゃんっっ!」


 3姉妹、絶句。ついでにロヒインも絶句。


「おのれぇぇぇっ! そろって我らの見てくれをなじるとは!

 目にものを見せてやろうかぁぁぁっっ!」


 肥満のハイエルフが、顔に怒気をみなぎらせる。

 ロヒインは思わずつぶやいた。


「あ、でも真ん中の人はもう少しやせたほうがいいですよね。

 よかったら魔法を使ったダイエット法を紹介しましょうか?」

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!」


 肥満体は両腕をあげて絶叫する。その全身が電流に包まれた。


「し、しまった。怒らせちゃった……」

「ククククク、なかなか言うではないか。

 お主の毒舌もなかなかのものじゃぞ?」


 そういうスターロッドは腕を組み、わざと胸の深い谷間を強調する。

 ロヒインは泣きそうな顔になった。

 となりのヴェルが肩に手をかける。


「ま、別にいいんじゃない?

 怒らせたら怖いかもしんないけど、逆に冷静じゃなくなっちゃうかもよ?

 ま、気を落ちつけながら行こうじゃないの。油断しない程度にさ」


 そう言ってヴェルはウィンクする。

 ここでスターロッドがさらに前に進んだ。


「しっかし。

 ホントあれじゃな、かつての宿敵の言葉を借りるのもなんだが、

『意外すぎて、嫉妬すらできぬわ』。

 あ~ブ○イクッッ! ほんとぉ~~~~~にブ○イクっっっっ!」

「「ぬがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~っっっっ!」」

「何やってんですかぁ~っ! 全員怒らせちゃったじゃないですかぁ~っ!」


 ロヒインがどなっていると、前方からすさまじい電流が巻き起こった。

 3人はすぐに真横に飛び退った。

 スターロッドは反対方向の2人に呼び掛ける。


「気をつけよっ! 敵は全力でかかってくるぞ!

 3体が力を合わせた攻撃は危険じゃっ!」

「だから挑発するなって……ああもうままよっっ!」


 ロヒインが前に進み出ると、マントを大きく広げた。

 露出の高い身体が現れると同時に、マントは巨大な翼になった。

 剣をふるうとジャバラ状に曲がり、その関節が伸びて長いムチとなる。


 ロヒインは大きく飛びはね、端にいた背の高い巫女に斬りかかった。

 相手はすぐに横にスライドし、こちらの攻撃をかわす。

 真横に移動したロヒインは羽根をはばたかせつつ剣をしならせ、向かい合った。


「飛翔魔族かっ!

 ならばお前から、そのご自慢の身体を傷モノにしてくれるわっ!」


 3つのハイエルフが全身に電撃をまとい、襲いかかってくる。

 ロヒインは落ち着いてはいるものの、その場を飛びまわることしかできない。


 出遅れた肥満体の後ろから、黒い何かが飛んできた。

 それを巨大な尻に食らってしまい、肥満エルフは「ひぎゃぁっ!」と叫びながら床に激突した。

 そのすぐ後ろでスターロッドが黒いオーラをまとった円環を手にとる。


「お主だけ動きが遅いぞ。

 無理しないで、このわらわとやりあったらどうじゃ!?」


 振り返った肥満は拳をにぎりふるわせる。


「ぬぅぅ~~~っ! あのロヒインとやらが一番腹が立つが、お前も十分ムカつく!

 いいだろう、このメイナス様がお前の相手だっっ!」


 その頃頭上では、逃げ回るロヒインを2人の姉妹が追う。


 そんななか、巨大な柱と柱の間から、すばやく何かが飛び交ってきた。

 あまりの速さゆえ、姉とともにロヒインを追う小柄な筋肉質は気付かずに身体に組みつかれた。

「ぎゃわ~~っ!」と叫びつつ円柱に叩きつけられると、あわてて身を起こした。

 目の前には毛皮で最低限の部分だけを隠したヴェルの姿がある。


「1人だけ仲間外れになると思った?

 残念だけど、ここはアタシの大好きな森林地帯と似てるよん♡」

「フンッ! だがしょせん柱の間を飛びまわるのが限界だろうっ!

 このディズトラの縦横無尽な動きにはついて行けまいっ!」


 気がつけば、ロヒインを追うのは細長い1体だけになっていた。


「メイナスッ! ディズトラッ!

 ちっ、2人ともだらしがないっ!」


 ロヒインも追手が1人と知り、逃げずに向かいあった。


「これで1体1だな。

 たしかクリエと言ったな。お互い対等にやり合おう。汚い手はもうなしだ!」


 ロヒインがジャバラムチをふるうと、相手も両手からすさまじい電撃を引き起こした。

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