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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第9章 元勇者、少々無謀な挑戦をする
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第49話 少女の覚醒~その2~  

 最初にくずれだしたのは、赤いビームを放つガーム。

 彼にとってビームは息と同様なので、いつまでも放ち続けることができない。

 幸い白い巨人もビームを同様でたびたび休止状態になるが、わずかなタイムラグがあるためそこからは相手の攻撃がわずかに当たる。

 巨狼と白巨人はわずかな時間で互いに傷つけあっていた。


 しかし問題はそれとは別にあった。

 巨人の両肩からは、何度も放射状に飛ぶ砲弾が放たれる。

 相手の位置にあわせ正確に放たれる仕様になっており、ガームもまた天をつく巨体とは思えぬ素早さでそれをかわそうとする。

 それでもよけきれず、体中からマグマでできた血を飛び散らせていく。


 その頃オルディントは敵の片足を徹底的に痛めつけ、とうとうヒザをつかせた。

 しかし異変に気付いて振り返る。「兄貴っっっ!」

 豹頭の目に映るのは、全身を血まみれにしてよろめくガームの姿。

 それを見てオルディントは歯をむき出しにしてうなった。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!

 てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇっっっ!」


 オルディントの大槌が、より赤みを帯びて蒸気を吹きあげた。

 かけだしたオルディントの足はより一層速くなり、またたく間にガームを相手する巨人の足元までたどり着く。

 その巨体が垂直にもかかわらず素早くかけあがって、またたく間に頭部についた。


「コイツをっっ! 食らいやがれっっっっ!」


 大きく振り上げた槌が、思い切りそれをたたきつけた。

 これだけで下にいた巨人が大きくよろけた。ビームは上方へと大きくそらされる。


 ガームの放つビームが、顔のレリーフに叩きつけられた。

 すると大爆発が起き、巨人の身体はゆっくりと前方に倒れていく。


「うおぅとっとっとっとおぅっっっ!」


 オルディントはよろめきながらも、器用に丸みを帯びた頭頂部を渡り歩き、巨人の胴が地面にたたきつけられる瞬間に地面に舞い降りた。

 立ち上がったオルディントの顔に笑みが浮かぶ。


「やったな兄貴っっっ!」


 しかしすぐにその表情が崩れる。

 彼の目の前にあったのは、力尽きてゆっくりと横倒しになる、ガームの姿。

 息も絶え絶えに狼は呼びかける。


「許してくれ、オルディント。

 ボクに出来ることはすべてやった。一足先に、永い眠りにつくよ。

 果てしない時の先で、また……会お……う……」


 ぐったりと力尽きたガーム。

 ぼう然とする弟の目の前で、その身体が突然はじけ飛んだ。

 赤い爆発の先に包まれながら、豹頭の瞳から赤く光る涙がこぼれる。

 斜め後方から、片足でなんとか体を支える巨人とともに、無数の黄金騎士たちが向かってきた。

 彼らの方向を見ないまま、オルディントは表情と大津地をにぎる両手に力を込めた。


「よくも……よくもおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!」


 オルディントの姿が、一瞬で消えた。

 またたく間に復讐すべき者たちに近寄ると、騎士たちが何人も空に舞いあげられる。

 やがてオルディントの姿が一瞬巨人の前に立つと、またその姿が消えた。

 白い巨人の身体のあちこちから、いくつもの深いへこみが生まれていった。


 敵の前に不利な状況になり始めたのはそれだけではなかった。

 同じく放射攻撃を放つルキもまた、放たれるホーミングミサイルに苦戦していた。

 持ち前の身軽さでなんとかかわしていくものの、はじけ飛ぶ土くれに、細い身体を少しずつ傷つけられていく。


 こちらもまた休止をはさんだ攻撃の撃ち合いなので、動きのとれない巨人をわずかに傷つけている。

 だが悲劇は一瞬で起きた。


 ルキのほうが、疲れがたまったのかわずかに動きがにぶった。

 そこへミサイルが足元に直撃。肩足のヒザから下が消えた。

 ルキの身体はあおむけに草むらに激突する。


 それでもルキは執念を見せた。

 倒れたまま壺の中の水を噴射するが、次の瞬間には彼の全身を無数のミサイルが貫いた。

 ルキの肉体は大きな水しぶきとなり、そして消えた。


 戦うべき相手がいなくなった白巨人が、やがて前方へと動きだす。

 自力では体を支えられないのか、背中からは時折青白いガスを地面に向けて噴射し少しずつ前へと進む。


「クソッ! ルキがやられたっっ!

 誰か奴を食い止められるものはいないのかっ!」


 その様子を悟ったファルシスは周囲を見るが、どれも今は自分の相手で手いっぱいのようだ。

 動きのとれるオルディント、ヴァレイア、ドゥールの3魔神は大丈夫なようだが、ヘールダールはその場を動けない。

 相手の攻撃をだまって耐えているため、少しずつその身体が欠けはじめている。

 特に女性の姿の上半身が損壊(そんかい)(いちじる)しい。


 そんなヘールダールが一気に決着をつけようとして、いったん分銅を持ちあげた。

 そして一気に振り下ろすと、白巨人はとうとう押しつぶされて、不格好な姿で分銅の下敷きになった。

 対決をようやく制したヘールダールだが、その身体はボロボロに傷つき、上半身を前に倒した。


(おつ)より、(こう)に伝達する。

 乙は(へい)に対して著しい損害をこうむった。

 これ以上契約の続行は不可能。いったん契約を停止状態に移行する」


 堅苦しい言葉遣いながらも、目隠しをした表情は苦しげにうめく。

 ファルシスたちはその声を聞き届け、引き続き自ら相手するタイタンの破壊を続行した。


 もっとも、その頃には4つの魔神の決着はつこうとしていた。

 オルディントは相手をボコボコに打ちのめし、ドゥールは相手の両足を立ち上がれないほどに腐食させている。

 ファルシスは多くのバルカン砲とミサイル台を破壊し尽くした。

 ヴァレイアの旋風は今だ相手と戦い続けているが、少なくとも足止めには成功している。

 しかし、ファルシス達が完全にタイタンを沈黙させるには、もう少しだけ時間がかかるようだ。

 問題なのは、そうしている間に1体のタイタンが連合軍の陣地にたどり着こうとしていることである。


「やめてっっっ! 近寄らないでっっっ!

 来ないでくださいっっっ!」


 半透明の壁の向こうにいるフェリルがおびえた声で呼びかけるが、相手は当然のごとく足を止めない。

 それどころか腕や肩の兵装を準備し、顔のレリーフは大口を放ってそこから光を照らし出す。


「き、ききき、きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 巨大な少女の羽根がひるがえり、そこから強烈な冷気が飛んだ。

 近寄ってくるタイタンの前面がまたたく間に白い氷で覆われ、その歩みが少しずつわずかなものになっていく。

 バルカン砲や肩のミサイルも、凍りついた。


 しかし、一本だけミサイルが噴射された。

 それは上空に大きな弧を描き、フェリルの肩に吸い込まれた。

 とたんに赤い色をした氷の破片が飛び散る。

 目を大きく開いたフェリルは、やがてその表情をくずした。


「いやだぁぁぁぁぁっっ! 痛い、痛いよぉぉ~~~~~っっ!」


 彼女が泣きわめくたび、下の兵士たちの足元にいくつもの氷の(かたまり)が落下してくる。

 真下でその様子を見ていたトナシェは、上に向かって叫ぶ。


「大丈夫、大丈夫ですからっっ!

 もう敵の動きは完全に止みましたよ、ねえ、ねえったらっ!」


 その声は耳に入ってはいないようで、フェリルは肩を押さえたままワンワンと泣きわめく。

 同じころ、1人の黒騎士が前方を指差した。


「まずいっっ!

 フェリルが動きを止めたせいで、氷の壁が壊されかけてる!」


 彼の言う通り、フェリルが築いた壁は飛び火した弾丸や砲弾で、少しずつヒビが入りはじめていた。

 それまではフェリルがこまめに修復していたのだが、それをやめてしまった今は徐々に前が見えなくなり始めている。


「スターロッド様、フェリルはもうダメです!

 何かほかに身を守る方法を考えないと!」


 トナシェの呼びかけに、相手は小さく首を振った。


「案ずるな! 先ほどの様子だと、敵の軍勢はもうすぐ沈黙させられそうだ!

 あわてて対策を講じるまでもない!」


 スターロッドの言う通り壁の反対では、魔神達とタイタンの戦いに収束が訪れようとしていた。


「うっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 オルディントが横からハンマーをたたきつけると、顔のレリーフが思い切りひしゃげ、そこからすさまじい爆発が起こった。

 それを正面から浴びたにもかかわらず、オルディントは平然と大槌の柄をガラクタの山につけた。


「兄貴、カタキを討ち取るのはもうすぐだぜ」


 ドゥールもまたタイタンの両足を完全に腐食させ、その巨体をあおむけに倒れさせた。

 地響きとともに足を止めたキノコ男爵は、さすがに疲れ切った表情で額の汗をぬぐう。


「フゥ、まさか機械仕掛けのおもちゃに、ここまで苦労させられるだなんてねぇ」


 ファルシスもまた、すべてのバルカン砲とミサイル台を片づけた。

 顔のレリーフを残し、翼の生えた獣人はタイタンの頭頂部に立ち、腕を組んだ。


「これで邪魔者はあらかた片付いたぞ。

 後はお前の結界をゆっくりと破壊するだけだ」


 見下しているプロメテルの表情は思い切り引きつっていた。

 破壊神2体を完全に沈黙させ、さらに2体を負傷させた功績は小さくはない。

 もっとも対するこちらは損害が大きすぎたが。


「く、来るなっっ! 俺はただ、フィロス神に命令されてやっただけだっ!

 自分の身を自分で守って何が悪い!」


 不安定な足場にもかかわらず、ファルシスは器用に斜面を歩いて下っていく。


「先ほどは、楽しそうだったぞ?

 ご自慢の兵器を存分に暴れさせることができて、お前もさぞやご満悦(ごまんえつ)だったろう」

「来るなっっ! 来るなって言っただろうっっ! あっちに行けっっ!」


 必死に手を振りかぶるプロメテルに対し、ファルシスはそっと片手をあげ爪を突き立てた。

 そこからすさまじい黒いオーラが出現する。


「だが、それも終わりだ。

 破壊神を2名も倒して、無事で済むと思うな」

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」


 涙目で身をかばったプロメテルの、側面が照らされた。

 ファルシスは急にやってきた強烈な光に顔をしかめながら、上の方を見上げる。


 圧倒的な光をまとい、降りてくる新たな何か。

 目が慣れる前に、光は弱くなった。


 背中に眼前をおおうほどの翼を生やす、白いレースを幾重(いくえ)にもまとった女性。

 ただし、その体躯(たいく)はあまりにも大きい。

 破壊神よりも、タイタンよりも。

 ファルシスの目測が正しければ、それらより何倍もの大きさをほこるはずだ。


「……やれやれ、とんだガラクタに、街の守りを任せてしまったようですね。

 これでは敵の侵入をただ待つばかり……」


 巨大な女性は、おだやかな顔でファルシス達を見下ろす。

 チラリとプロメテルの様子を見た。

 彼もまた目の前に現れた強大な存在を信じられないようで、目を見開いて細かく首を振っている。


「わたくしは、『太陽の守り手フレスト』。

 光の究極の保護者にして、宮殿に座すフィロス達の母親でもあります」

「なるほど、光の破壊神に当たるのか。

 しかし、知らなかったぞ。光の象徴はあくまで神々だけだと思っていた」

「魔族の王、ファルシスとやら。

 お前がここに攻めてくる時のために、隠されていたのです。

 天界に住む多くの者は、私の存在を知りません。

 いわば、天界における秘匿(ひとく)であります」


 頭に縦に伸びる冠をかぶったフレストが、目と口を大きく広げた。

 そのとたん、彼女の全身からすさまじい光がはなたれた。

 ファルシスは危険を感じとっさに身をかばったが、光の放射に身体をはじかれ、大きく空中に飛ばされてしまった。


「ぐうぉっっ!」ファルシスの身体は地面にたたきつけられそうになったが、身をうまく(ひるがえ)し、両足で草むらに降り立った。

 左右を確認する。

 オルディントは無傷だが、ドゥールとヴァレイアは地面に押し倒されている。

 ヘールダールはダメージを負っていないようだが、もともと満身創痍(まんしんそうい)であるためもう使い物にはならない。


「プロメテル。

 お前は早く、後ろにいる連中を片づけてきなさい。

 ここにいる者たちは私がお相手します。早くっ!」

「は、はいぃぃっ! わかりましたぁぁぁっっ!」


 プロメテルの声が聞こえるなり、彼が居座るタイタンとヴァレイアが相手をしていた比較的損傷の少ないもう1体が動きだした。


「……姉様のところへなど行かせるものかぁっっ!」


 ヴァレイアがきびすを返し、すぐに鎖分銅を振りまわそうとした。


「邪魔をするなっっ! 小童(こわっぱ)めっっっ!」


 フレストの目が光かがやき、またたく間にヴァレイアの全身をおおった。


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 光が止むと、地に崩れ落ちたヴァレイアの姿が見えた。

 全身黒コゲになりながらも、立ち上がろうとするが、うまくいくはずもない。

 そんな彼女を、何かがすばやく通り抜けた。

 おそらくオルディントと思われる。


「くぅぅぅぅぅっっっ! おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」


 ヘールダールが、怒りのあまり傷ついた身体を意に介さず、両腕を振りあげた。

 フレストの頭上に、新たな分銅が現れる。

 しかしフレストの頭と同じ程度しかない。

 超巨大な破壊神は片手で容易にそれをつかみとると、そのまま放り投げた。


 放り投げた先にはヘールダールが。

 上半身にモロにそれがぶち当たり、彼女の身体は亀の下半身ごと大地に倒れ込んだ。


 ヴァレイアを背負ったまま立ち止まったオルディントが「ヘールダール(ねえ)さん!」と叫ぶと、ファルシスは手を横に払った。


「オルディント! ヴァレイアを彼女の後ろへっ!

 お前は彼女を守ることを考えろっっ!」


 豹の頭があせった表情をこちらに向けた。


「し、しかしよぅっ!

 あんなデカブツとタイタンが2体残ってんのに、おれが戦線離脱だなんてっっ!」

「フレストは余が単独でなんとかする!

 ドゥールッッ! お前はタイタンのところへ行けっ!

 フェリルと協力して奴らを止めろっっ!」

「よし来た! 待ってなよ、フェリルちゃぁぁ~~~~~~~~~んっっ!」


 ドゥールは草むらを滑りながら、タイタンのあとを追いかけた。


「追わせるものかっ! これでも食らいなさいっっ!」


 フレストが両目からふたたびビームを放つ。

 ドゥールは急いでその場を逃げ去るが、フレストの視線は今にも彼に届きそうである。


 そこへ、何者かが道をふさいだ。

 ふたたび羽根を広げたファルシスが空を舞い、フレストの視線の先に立って両手でビームを受け止めたのだ。

 フレストは感心した声をあげる。


「ほうっ! 貴様、この私の攻撃を受け止められるのね!?

 おもしろい、ならばこの私と、勝負いたしましょう!」


 フレストが両手を広げるとまとっていたレースがいくらかほぐれ、うねるように自ら動きだした。

 レースの先が強い光でおおわれ、すべてファルシスを狙っている。


 自分1人で、どこまでやれるか。

 不安を顔に出すファルシスだったが、他に選択の余地はなかった。





「本当に行くの?

 せっかく家に戻って来たんだから、もう少しゆっくりしていってもいいのに」


 リカッチャは戻ってきた彼に向かって、心配する目を向けた。


「大丈夫。いや、すぐにでも行かなきゃ。

 きっとみんなが、俺のことを待ってるに違いないから」

「そう、それもそうね。

 でもその前にご飯食べていきなさいよ。おなかすいてないの?」


 言ったとたん、相手の腹がグゥ、と鳴った。

 とたんに彼は笑いだす。


「あはははは、こうなったらなにも言えないな。

 簡単なのでいいから、早くしてくれよ」


 リカッチャは笑って台所に向かった。

 やがて食卓に焼いた肉とパン、そして野菜スープが並べられると、相手はすぐにテーブルに着いた。


「いっただきまぁ~す! モグモグッ! バクバクッ!

 うんま……ごふっ、ごふっ!」

「急ぐのはわかるけど、もう少し落ち着いて食べたら?」

「あ、いや……

 久しぶりにまともな料理を食べたから、うれしくってつい」


 腰かけたリカッチャは両腕をテーブルの上につき、けげんな表情になった。


「またずいぶんと無理しちゃって。

 顔は元気そうだけど、ずいぶんみずぼらしい身なりになってるわよ。

 髪はぼさぼさに伸び放題だし、無精ひげまで生えちゃって。

 まだ若いから目立たないけど」

「ああこれ?

 悪いけど身なりを整えてる時間はないな。途中で床屋に立ち寄るよ」

「あ、それを聞いて思いだした。

 ちょっと待ってて、用意するものがあるから」


 席を立ち廊下の先に消えている間に、彼は黙々と食事を進める。

 リカッチャが戻ってくると、その手には赤い革の鎧が(そろ)えられていた。

 母親はテーブルの開いた所に、それらを並べていく。


 三角形のプレートにベルトがついた胸当て。

 幅が広く、腰をも守れるように余裕を持たせたベルト。

 ヒザの部分だけが伸びているブーツ。手の甲にはめる部分がついた小手。


 食事を止めた彼の前に、半年前まで身につけていたなつかしの装備が並んでいる。


「これ、身につけていきなさい。

 いくらなんでも、鎧を着ないんじゃ心もとないでしょう?」

「気持ちはありがたいけど、俺の体型変わってるからなぁ。

 身につけられるか?」

「食事が終わったら、試着してみなさい。

 お母さんが手伝って調整してあげるから」


 相手が食器の中身をすべて平らげリカッチャが相手の着付けを手伝うと、その顔に笑みが浮かんだ。


「よかった。ちゃんと着られるじゃない。

 ちょっと空いてる部分が多すぎるけど、なんとかなるでしょ」

「もちろんだ。俺も素人じゃないからな。

 後は身のこなしでなんとかなる」


 リカッチャの言う通りかつて彼の身体をおおっていた鎧は、今では一部の急所を守るだけのものになっていた。

 それでも本人は納得しているようではあった。

 すべての準備を終えて、コシンジュは玄関の先に立った。


「それじゃお袋、行ってくる。

 帰ってくるときはロヒインやイサーシュも一緒だ。あ、あとついでにオヤジか」

「ああ、ちょっと待って……」


 そう言ってリカッチャは、相手の鎧の下に来ているくたびれた衣服を整えた。


「よし、これで大丈夫。

 あ、そうだ、もう1つ言いたいことがあるんだった」


 リカッチャは息子の両手をとり、そっと相手にほほえみかけた。


「別にかまわないんだけど、ロヒインちゃんとの間に子供をつくるときは、ちゃんと結婚してからにしてね」


 あわてた相手は思わず母親の両手を離した。


「な、なななっっ! なに言ってんだよっっ!

 一瞬心臓が止まるかと思ったぞ!」


 クスクス笑うリカッチャは、やがて(おだ)やかな笑みを向けた。


「冗談じゃないのよ?

 ロヒインちゃんはとても素敵(すてき)な子よ?

 彼女が相手なら、お母さんもなにも心配ないわ」

「お袋、今のロヒインがどんな姿してんのか知らないだろ」

「フフフ。ロヒインちゃんが変装(へんそう)した姿なら、何度も見てるから」


 相手が困った様子を見て、リカッチャはまたクスクスと笑った。


「それじゃ、行ってきてね。

 くれぐれも、身体には気をつけて」


 まるで安全な旅に出発するかのような、そんな調子だった。

 相手は一瞬口をつぐみかけて、決意を込めたかのように告げた。


「お袋、心配するな。おれ、絶対帰ってくるから。

 みんなを連れて、絶対帰ってくるから」

「わかってるわ。大丈夫、お母さん、待ってるからね」


 手を振ると、相手はこちらに目を向けたまま扉を開け、そのまま外に吸い込まれていった。

 相手が見えなくなったとたん、リカッチャの表情が少しくもった。


「絶対、絶対だからね……」

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