第48話 未知への上陸~その1~
トナシェが狭苦しいトンネルを抜けると、一気に視界が開けた。
さすがに開放感があるとは言いがたいものの、中は広々としており、上からはまばゆいほどの光が差し込んでいる。
見上げれば、上空の光はいったいどこまで続いているほどわからないほどのものだった。
トナシェは額に手をかざしながら、この先に目指す天空世界があるのだと想像した。
もっとも、前方に見える光景も想像を絶するものだった。
天上の光に照らされ、アンバランスに積み重ねられたレンガの上にはコケや草、白や黄色などの花々が咲きほこっている。
広間の中央に、丸い台座のようなものがあった。
台座と言ってもかなり大きなサイズであり、軽く50人は乗れそうなほどである。
トナシェはゆっくり近寄り、ゆっくりと台座の前方にある小階段に乗り上げた。
「あれぇ? 1人だけなのぉ?
お友達とは、一緒にやってこなかったぁ?」
あらぬところから声が聞こえ、トナシェは周囲を見回した。
少し緊張している。
たった1人で見知らぬ場所に足を踏み入れるのははじめてだったからだ。
「だれっ!? どこにいるのっ!?」
しかし今回は自分だけで戦わなくてはならない。
トナシェは必死に周囲に目をこらす。
「ここだよ、ここぉ」
そう言って現れたのは、自分よりいくぶん小柄な大きさの、しかし背中に光る昆虫の羽根のようなものをつけた人姿の生物だった。
本体自体も真っ白で、どことなく人間をデフォルメしたような造形をしている。
見たことのない生き物は羽根を激しくホバリングさせ、宙に浮いたまま腰に手をすえる。
「はじめまして、ボクの名は『妖精王オレロン』。
キミ、ひょっとして新人さん?」
何かイヤな予感がした。
うたがいのまなざしで問いかける。
「『新人さん』……ですか。
ひょっとして、ここに来た子供は何かされるんですか?」
顔つきもデフォルメされているが、表情はわかる。
あきれかえっているようだ。
「なんだぁ、なんにも知らないのぉ?
それじゃちゃんと説明するから、お友達を出来るだけ多く連れて来てよ」
「ここに来る前は、ベロン王家の一族が何らかの目的を持って入る何らかの祭壇だと思ってましたが、どうやら違うようですね」
オレロンはあたりを飛び交いながら、別の場所で静止した。
「ベロン王家? 知らないなぁ?
たしかにこの塔の管理はある一族に任せてるけど、彼らはこの塔にはやってこないよ?
彼らの仕事は、この塔の中に純真無垢な子供たちを連れてくることさ」
見えてきた。
イヤな予感が顔に出てくるのを拒もうとせず、あえて問いかける。
「子供たちを連れて来て、どうするつもりなんですか?」
すると妖精王はとある黒レンガの上にある草むらに立った。
「いやだなぁ。決まってるじゃないか。
その子たちも神サマに頼んで、ボクらの仲間になってもらうのさ。
外の世界が大変になるなかで、やって来た子たちは永遠の命を得て、ここでずっと平和に暮らすのさ!」
両手を広げ声高に言うオレロンだが、聞いていたトナシェは静かに首を振る。
「人体改造をして、ここに永久に閉じ込めるんですか。
なんとも言いがたい所業ですね」
オレロンは激しく飛び回り、トナシェの目の前で止まった。
意気揚々とした顔つきで人差し指を立てる。
「そんなこと言うなよ。
ボクらは悲惨な外の世界から守られるために、ここにいる。
けれども最近は平和なのかな、新しい仲間はずっとやってこない。
まさかここの存在がみんなに忘れられちゃったわけじゃないよねぇ?」
「いまはここの存在が必要ないということです。
あなたの新しい仲間はもう2度と来ないと思ってもらっていいです」
オレロンは思い切り困った顔つきをした。
「えぇ~っ!?
外に比べたら、ここはずっといいところだよぉ?
なんでそんなことを言うのさ~」
「……ムダよ。
そいつ、別の目的でここにやってきたみたい」
オレロンとともに、同じ方向を見上げる。
かなり高い位置の出っ張りに、小さく新たな妖精が立っていた。
「オレロン、仕事をずっとサボってたから話を聞いてないのね。
神様から久方ぶりに指令をたまわってきたのよ」
新たな妖精はひらりと舞い降りると、少し見上げた程度にある場所に立ち、腰に手をすえる。
こちらはオレロンとは違ってツインテールにしたピンク色の髪を生やし、葉っぱで造ったワンピースのようなものを着ている。
「げっ。『ティラニア』、帰ってたのかよ。
で、神サマなんつってた?」
ティラニアと呼ばれた妖精はオレロンをビシッと指差す。
「神々の長、フィロス様より伝言よ。
『今回からはいかなる入居者も受け入れるな。
地上にいる人間はすべて粛清し、新たな生物として生まれ変わらせる。
老若男女問わずに侵入者は排除するように』」
オレロンが「えぇ~~~~~っ!?」と情けない声をあげるのに対し、トナシェは驚愕に声が出なかった。
「人間をすべて改造するっ!?
何てむごいことをっ! フィロス神は人間にそこまで絶望してるって言うの!?」
トナシェはティラニアに向かって思い切り声を荒げた。
「そんなこと、許されるはずがないっ!
わたしたちはこれでも一生懸命生きているのっ!
それを好き勝手にもてあそぶなんて、許されるはずがないっ!」
ティラニアは眉をひそめた。
「そんなことあたしに言われたって。
あたしたちは単なる小間使いだから、アンタになに言われたって聞く耳もたないし」
「ちょっと待てよぉ! ボクらの新しい仲間は?
ここには2度と子供たちは入ってこないの?」
「オレロン、命令は命令よ。
新しい仲間は来ない。ここはあたしたちだけで守るのよ」
それでも妖精王はトナシェのほうを指差した。
「待ってくれよっ!
せめてこいつだけでも新しい仲間にっっ!」
「オレロンッッッッ!」
ティラニアがきびしく戒めると、トナシェのほうを向いて申し訳なさげな顔つきになった。
「ゴメンな。仕方ないけど、キミには死んでもらうよ。
正直ちょっと気が合わないような感じはしてたけど」
後ろのほうで、ゴゴゴという音が鳴りひびいた。
急いで振り返ると、開かれていたトンネルが徐々に小さくなっていく。
あわてて戻ろうとしたトナシェだが、あきらめた。
最初からこうなるだろうということはわかりきっていた。
ピューッ、と甲高い音が聞こえてきた。
振り返るとオレロンが口に指をくわえている。
それとともに広場中から無数の何かが現れた。
見ればオレロンやティラニア同様の姿をした妖精たちが、おびただしい数で現れる。
「『フェアリー』のみんな! 悪いけどこの子供を排除してくれっ!
生死は問わない! 気が重いだろうけど手加減はしないでくれっ!」
広間中から「わかったー」という声が鳴りひびいた。
トナシェは身構える。
いったいどれだけの攻撃がやってくるのか。
自分にはメウノから借りた強力なアイテムがあるが、場合によっては身を守れることもない。
上空が、きらきらと光り輝いた。
広間中にいるフェアリーたちの鱗粉に違いない。
それが近くの石に当たった時、シュウと小さな煙をあげていく。
フェアリー自身を傷つけることはないだろうが、自分に当たれば軽くないヤケドを負うことになるだろう。
トナシェは迷わず、赤いダガーを上にかかげた。
心の中で願いをうったえながら。
……お願い、ウェイストランドサヴァイヴァル。
どうかわたしのことを守って。
やがて目前まで光る粒が迫った。
するとダガーをかかげる手前で鱗粉は煙をあげて消えさり、それがトナシェの上空全般をおおうようになった。
姿は見えないがティラニアの叫びが聞こえる。
「ちっ! あれは例の僧侶の護身用武器だわっ!
彼女のために手渡されていたのね!」
トナシェは警戒し、あたりをうかがう。
鱗粉の影になれそうな岩の出っ張りの下まで移動し、周囲を確認する。
光かがやく何かが、急カーブを描きながら飛んできた。
トナシェはすぐにそちらにダガーを構えた。
「キャッッッ!」と言いながら大きくはじき返されると、床に転がったのは案の定ティラニアだった。
オレロンが「ティラニアッ!」と叫んでそばに近寄ると、彼女は腰のあたりをさすりながら身を起こした。
「目ざといヤツッ! なかなか頭もかしこいわねっ!
ガキはガキでも勇者の仲間かっ!」
「感心してる場合かよ! どうやってアイツを倒す!?」
するとティラニアは相棒のほうを向くと思い切り頭をはたいた。「いてっ!」
そして小言で何かをささやいた。
残念ながらトナシェには聞こえない。
こちらの方でも頭を働かせる。
もし相手が左右から挟み撃ちしようとしたら、さすがにダガー一本では身を守れないだろう。
場所を移動せざるを得ない。
しかし上空には鱗粉がある。両腕を上に構えて敵の攻撃をかわし続けるのは至難の業だ。
考えている間に、思った通り左右から強い光がカーブして向かってくる。
トナシェはダガーを上にかかげ、前方にかけだした。
2つの光はトナシェがいたところですれ違い、ふたたび弧を描きながらこちらを狙う機会をうかがっている。
このあいだに、トナシェの口からは呪文がもれていた。
かわし続けている間に、なんとか目的を達せられればいいが。
2つのカーブがこちらにやってきた。
覚悟を決めて、トナシェは別のほうへとかけぬける。
なんとか呪文を間違ってないといいが……
やがて詠唱が終わった。
効果を確かめるにも、カーブは相変わらずこちらを狙っているので上空を見上げられない。
3度目のニアミスを経験したところで、上の方から何かがひらりと舞い落ちてきた。
それも1つや2つだけでなく、いくつも。
4度目の襲撃が迫る。
2匹はまだ状況の変化に気付いていない。
動くことができないので、トナシェはあわてて地面に伏せた。
すると2つの光はトナシェの真上で正面衝突する。「「あいだっっっ!」」
トナシェが左右を見ると、オレロンとティラニアがそれぞれあおむけに寝転がったままうめいている。
その周囲を見れば、こちらは完全に床に倒れ込んでいるフェアリーたちの姿があった。
そのうちにボスフェアリーの2匹は起き上がろうとするが、うまくいかないようだ。
「うぅ、眠い……」
「な、なんなのよこれ。
あんた、いったいなにしたの……?」
「簡単な睡眠魔法だよ。
ただしフロア中にいるすべての生物を対象にしてる。
今わたしの仲間はいないから、特定の相手を狙う必要もないし、簡単に終わったよ?
1人だけおびき寄せたのが、かえってアダになったね」
ティラニアは最後に「くぅっ」と言ったきり、完全に倒れ込んだ。
オレロンのほうも大の字になって寝息を立てている。
障害を取り除いたトナシェは立ち上がって、フェアリーの身体を踏まないようにしながら慎重に入口へと向かった。
幸いは入ってきた場所はさきほど鱗粉をかわすために利用した日かげの近くにあったので、すぐに分かった。
緑色に光る紋章を見つけ、それを思いきり押し込んだ。
するとゴゴゴと言う音が聞こえ、いったん離れると入ってきた時のように石畳が様々な方向にスライドしていく。
トンネルの先から光がもれだしてきた。
おどろいたことに、今度のトンネルは大人が余裕で通れるくらいの高さになっていた。
いったいなぜなのか疑問に思うヒマもなく、見覚えのある影が複数入ってきた。
「トナシェッ! 無事かいっっ!?」
第一声はネヴァダだった。
トナシェは大きくうなずく。
「なんとか1人でやれました。
守護者はそれなりにやっかいでしたが」
現れたネヴァダたちがトナシェの後方を見ると、おびただしい数の羽根をつけた小人たちが寝転がっていた
。チチガムが思わずつぶやく。
「妖精たち?
神々はこんな者たちにここを守らせていたのか」
「古代文明崩壊の惨禍から、選ばれた子供たちをここにいるフェアリー族に変えて守らせるために作りだされた場所のようです。
心配なのはここがあくまで妖精たちのための居場所にすぎず、探していた天界への正規ルートではなかった場合です」
「ありうるね。そいつらはまだ生きているのかい?」
ネヴァダが問いかけるとトナシェは「もちろん」と言って、とある方角に向かって両手を突き出し、呪文を唱えた。
すると中央の高台で大の字に寝そべっていた妖精が、むっくりと起き上がった。
「……んん、むにゃむにゃ……な、なんじゃこりゃぁぁぁっっ!」
最初はのんきにまぶたをこすっていたが、仲間たちがみんな倒れているのを見て仰天し、その場に飛びあがった。
動転しながらこちらを指差す。
「お、お前ボクの仲間になんてことをっ!
ま、まさか殺したのかっっっ!」
トナシェは冷静に両手を前に向けた。
「落ち着いて。みんな眠ってるだけよ。
すぐに元に戻すから、教えてほしいことがあるの」
そのままの姿勢で動かないオレロンだったが、やがて不機嫌な表情で腕を組んだ。
「……なに?」
「気になることが1つ。
入って来た時はわたしくらいの背丈しかトンネルの高さがなかったんだけど、ここから開けた際はみんなが入れるくらいの大きさになっていた。
どうしてなのかな?」
するとオレロンはあっけらかんとした顔で人差し指を立てた。
「ああそれなら、この塔は天界の軍が地上に侵攻するときにも使われるんだよ。
天界のバリアを壊さないために、いまボクが立ってる台座をワープトンネルにして、ここに次々と兵士を送りだすための出入り口にしてるんだ」
その瞬間トナシェの顔がほころんだ。
後ろに振り返ると、仲間たちも顔に笑みを浮かべて大きくうなずいている。
トナシェが思わず両手を上に突き出すと、みんなが一様にその手を軽くはたいた。
「なあ、1つ聞いてもいい?
なんでボク? ティラニアだとダメなの?」
「ティラニアさんのほうだと、口が堅そうですから。
きっとこの塔のもう1つの用途について、しゃべってくれなかったと思いますよ?」
振り返ると、オレロンは自分を指差したまま顔をひきつらせていた。
と思いきや、一目散にその場を逃げ出した。
「や、やべぇっ! 殺されるっ!
ボクは逃げるんで、あとヨロシクッッ!」
天高く消えていったオレロンを見上げ、トナシェはぼう然とつぶやく。
「とりあえず、ここのもう1つのボスであるティラニアは拘束しておいた方がいいですね。
眠っているフェアリーたちを復活させるのはそれからでも遅くないでしょう」
その場にいる全員がこっくりとうなずいた。
「ああもうっっ! あんたたちわかってないわねっ!
殺されるのよっ! あきらかに神々に殺されるのよっ!
わかったらあきらめて残された時間をおとなしく家で家族と過ごしなさいっっ!」
身体を特別な拘束でしばられジタバタもがいているティラニアをしり目に、チチガムはオレロンから事情を聞きだす。
「ていうかアタシたちがフィロス様に殺されるわよっ!
ったくどうすんのよっ! そこにいるガキンチョを始末したら何事もなかったのに、まったくホントにどうしてくれんのよ~っ!」
事情聴取が終わったオレロンが、わめきたてるティラニアに向かってアッカンベーをする。
「ムキーッ! 覚えてなさいっっ!」
チチガムは駐留軍に報告しに行ったヴィーシャ以外の3人に呼び掛ける。
「よし、オレロンの協力で天界へのゲートの道が確保できそうだ。
軍の到着を待って、さっそく天界に乗り込むとしよう」
「でも、不安ですね。
おそらく敵はフェアリー隊がしくじったのをわかっているはず。
ゲートを抜けた瞬間に、大勢の敵が待ち構えているのは目に見えてる。
果たしてこのままゲートを抜けて、大丈夫なんでしょうか」
「うむ、トナシェの言う通りだ。
もちろん覚悟をきめてかからなければならない。
そのために、まずは我々が先行してここをくぐらなければならないだろう」
メウノがトナシェのほうを向いて、そっと手のひらを差し出した。
「そうだ。
トナシェちゃん、ダガーを返してちょうだい……
よし、それじゃまずは私が先行しましょう。
私のダガーならあらゆる攻撃を防ぐことができます」
「わたしも、前方に強力なバリアを張って侵入します」
「いや、2人だけじゃダメだ。
念のためにキロンの魔導師、ストルスホルムの大盾騎士や黒騎士も同行させよう。
前方の守りをおおいに固めて、はじめて準備万端になるはずだ。
敵は最初から苛烈な攻撃を仕掛けてくる。
念には念を押した方がいい」
メウノとトナシェがうなずくと、入口の方からガシャガシャと金属音が鳴り響いた。
無数の騎士たちの先頭にヴィーシャの姿がある。
「軍を連れてきたわよ。
事前に連絡を入れておいたから、後ろの大通りには大行列ができてる」
「よし、将軍、守備は万端ですか?」
チチガムが問いかけると、ランドン国のディンバラ将軍は「もちろん」とうなずいた。
「おーしっ!
それじゃ天界のゲート、開いていいか~!?」
上空にいるオレロンが呼びかけるが、チチガムはそちらの方に手のひらを向けた。
「待てっ! ゲートを開いた瞬間に敵の猛攻が待ち受けているかもしれん。
今のうちに隊列を整えたほうがいい!」
言うやいなや、騎士たちのほうから前に進み出た。
最前列を赤い紋様が刻まれた騎士が陣取り、背後に黒騎士たちが並んで上に向かってカイトシールドをかかげる。
その後方には紫のマントの騎士に守られた魔導師たちが並び、さっそく呪文を唱え始める。
「なんだ、準備は完了じゃん。
これじゃアタシたちの出番はなしね」
半ばあきれ気味のヴィーシャにチチガムは首を振る。
「念のため、後方で待機していよう。
きっと魔物との戦いに慣れた俺たちの力がすぐに必要になるはずだ」
仲間たちがうなずくと、ディンバラにうながされるまま彼の後ろについた。
となりにいるランゾット騎士団長が物珍しげに一行の風貌を見回し、トナシェの姿で怪訝な表情をする。
「それじゃ、いっくよぉ~~~~~~~~~~っっ!
ヘヴンズゲイト、オ~プ~~~~~~~~ンッッッ!」
オレロンが下に向かって鱗粉をまくと、それがたちまちすさまじい光をともなった。
放射状に広がったそれはやがて形をなしていき、アーチ状の巨大な光へと変貌をとげた。
とたんに、光の中からすばやく何かが飛びかかってくる。
最前列の騎士たちが必死にそれを受け止めると、それは巨大な光の槍だった。
あちこちから電流がほとばしっている。
やがて騎士たちの前方に、いくつもの魔法陣が現れた。
矢継ぎ早に表れる光の槍は次々と魔法陣に突き刺さり、まるでガラスを突き破って止まるかのように空中で静止する。
熾烈な防衛線が展開されている後ろでは、ディンバラが身をひそめながら関心ぶかげにつぶやく。
「チチガム殿のおっしゃられる通りであったな。
もしそなたの忠告がなければ、大勢の死者が出るところであった。
ご助言感謝する」
「なんの。
それより前方の守りが破られる前に、歩を進めましょう」
「いかにも!
全軍っっ! 前に進めっっっ! 少したりとも気を抜くなっっ!」
ネヴァダとトナシェが、お互いの手を握り合った。
ヴィーシャとメウノもお互いに目を合わせて大きくうなずく。
チチガムもそれに視線を送った後、激しい攻防が繰り広げられる最前列を見据えた。
ゆっくりと、騎士たちの足音が聞こえる。
まわりの動きにあわせ、チチガム達も前へ前へと足を進めていった。




