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第47話 飛空艇~その5~

 しばらくして見えてきたのは敵の正体ではなく、そこから向かってきた金色に輝く矢のようなものだった。


「……ぐほぁっっっ!」


 1人の騎士が、無防備にも正面からそれを受けてしまった。

 胴体を貫いたそれは電撃に包まれた巨大な光る槍で、騎士は倒れ込むことなく串刺しになったまま手足をだらんと下げた。

 槍の下からはドロリと血がしたたっている。


「ああぁっ! バカァッ!

 飛んでくる魔法だってわかってんなら盾で受けろよぉぉっ!」


 ベアールはヒステリックに叫ぶが、他の騎士たちは危機を察していたのか盾を上空にかかげ、強烈な攻撃を必死で受け止めている。


「まずい! 人間の力であれをかわすのはムリだっ!

 デーモン、ダークエルフは彼らを守れっ!

 敵への対処は姿が見えてからでもいいっ!」


 言われるやいなや魔族たちは飛んでくる光の槍をかわしながら、呪文を詠唱(えいしょう)して両手を上に突き出す。

 するとそこから何人かが入れそうなくらいの透明に近いバリアが出現し、人間兵たちはあわててその下に隠れる。


 一方幹部たちはそれぞれの武器を手にし、上空から向かってくる攻撃を払いのけていた。

 ベアールとイサーシュも鞘から一瞬で剣を引き抜くと、そのまま光る矢をきれいに斬り裂いた。

 ムッツェリも腰からククリナイフを取り出すが、前方をファルシスがかばい、剣で次々と槍を斬り裂いていく。


 スターロッドは円環で槍をはたき落していく。

 その真横を、光る槍が深々と甲板に突き刺さった。

 スターロッドはそれを見てにらむ。


「デーモン族! 手が空いているものは飛翔(ひしょう)して船体自体を守れ!

 船体の傷をこれ以上増やすなっ!」


 デーモン族が羽をはためかせ、空中に舞い上がった。

 コウモリ状の羽根できれいに飛び交いながら、向かってくる槍を様々な魔法で叩き落とす。

 やがて槍の雨が止んだ。誰もが上空を見上げる。


 近づいてきたのは、真っ白な翼を生やした、馬のような生き物だった。

 背には黄金の鎧に身を包んだ騎士の姿があり、その背中からも白い羽根が生えている。

 彼らはみな一斉に多様な武器を手に取り、こちらへと舞い降りてくる。


「気をつけろっ! いきなりの主力部隊だぞっ!

 全員一丸となって立ち向かえっっ!」


 スターロッドの声に全員が身構えた。

 羽根を持つ騎士の1人が大きく槍を振りかぶると、それはまっすぐ飛んでファルシスに向かってきた。


 ファルシスは剣から黒いオーラを出現させ、斬りつける。

 槍は2つに分かれ、それぞれ甲板に突き刺さった。

 空中では、天空馬に乗った騎士たちとデーモンが交戦し始める。

 甲板上にいくつかの騎士が舞い降りて、騎士やダークエルフたちと剣を交え始めた。


 そんな中、ファルシスの目の前にひときわ大きな天空馬が舞い降りる。

 そこから同じく大柄な金色の騎士が現れ、飛び降りると震動を立てて着地する。

 立ち上がれば、背の高いファルシスですら見上げなければならないほどの偉丈夫(いじょうふ)だった。


「ぐわっはっはっはっはっはっはっはぁぁっっっ!

 汚らわしき魔界の帝王めっっ! このオレ様の美しい姿を見てビビったかぁぁっっ!

 オレ様の名は……」


 ファルシスが腕を横に振ると、つかの間に現れた無数の黒いトゲがしなりながら追随(ついづい)した。

 大柄なはずの天使の身体が、またたく間にはね飛ばされてしまう。

 後ろにはスターロッドがおり、「おわぁっ!」と言って避けると、怒った顔でファルシスを見た。


「気をつけろっ!

 こんなデカブツがぶつかってくればわらわとて無事ではすまぬぞっ!」

「すまなかった。あまりに弱すぎてな。

 手加減したというのにこうまで軽くいなせるとは」


 横でその様子を見ていたロヒインとムッツェリは、口の前に手をやって「おわー」と声をあげた。

 しかしすぐに敵の姿が現れ、すぐに振り返るやそれぞれの武器を相手に向けた。

 イサーシュはするどく伸びる刀身を、金騎士に向けている。


「せっかく抜いちまった刀だ。お前も命令でやってんだろ?

 命を奪う気はないが、腕の一本はもらっておこうか」

「なにくそっ! せいやっっ!」


 大ぶりに剣を振った金騎士を、イサーシュの身体がすばやく通り抜ける。

 狙った胴にはプレートがあるため切り裂くことはできないが、身体がしびれたのか騎士は体勢をくずした。

 そこへ真後ろに立ったイサーシュが、相手の腕めがけ剣を振り下ろす。


「ぐむぅぅっっ!」


 騎士の腕から血が飛び散るが、かろうじてつながっている。


「使い物にならないようならすぐ消えろ!」


 イサーシュに言われ、金騎士はいつの間にかしまい込んでいた背中の羽根を飛び立たせ、宙に舞い上がった。

 しかしとたんに通りざまのデーモンに身体をつかまれ、悲鳴をあげて消えていった。


 戦況は船のほうが激しい。

 デーモンが天空馬に乗った騎士とやり合い、船体からは魔術砲が繰り出されるがどれも空振りしている。


 甲板には、次から次へと金騎士が舞い降りてくる。

 中には黒騎士たちが数人がかりで相手しなければならないほどの猛者(もさ)もいるようだ。


 しかし、その人数が一気に減っていった。

 命をつなぎ止めた金騎士は背中の羽根を使って空へ飛び立ち、宙に浮かぶ大陸へと帰っていく。


「まさか、これで終わりなのか?」


 1人の騎士がつぶやくと、別の騎士が上空を指差した。


「いや、まだだっ! 敵の第2陣が来るぞっ!」


 逃げ帰っていく天空馬とは引き()えに、今度は赤々と光かがやく鳥の群れが現れた。

 しかも、天空馬よりずっと早い勢いだ。


 騎士たちは盾を上に構えたが、鳥の群れはいくつもの軍団に分かれ飛空艇をよけていった。

 スターロッドがあわてたようにふなべりの手すりにしがみつき、下を見下ろす。


「まずいっ! 炎の鳥の集団だっ!

 我々の手の届かぬ側面から船を焼き払うつもりだっっ!」


 その声で多くの者がふなべりに立った。

 側面の窓からは魔導砲が矢継ぎ早に光の弾丸を放つが、鳥の群れはすばやく身をかわす。

 そして逆に炎の砲弾を木製船体に叩きつけ、焼き焦がしていく。


「ああもう! 下手くそめっ!

 こんな調子ではデーモン族も巻き込まれるではないかっ!」


 あせるスターロッドとは対照的に、ファルシスは落ち着いた調子で言った。


「心配ない。『奴ら』を出そう。目には目を、歯には歯を、だ」


 その意味を察したスターロッドはファルシスに不敵な笑みを浮かべた。


「なるほど、その手があったか!」


 スターロッドは後方を向き、さっと片手を斜め上にかかげた。


「我が同胞(どうほう)たちよっ! 召喚の準備だっ!

 なにを呼び出すのかはわかっておろうなっ!」


 すると甲板に立っていたダークエルフたちが、3人ひと組になって小さな輪を描いた。

 それぞれ呪文を詠唱しだすと、彼らの足元から円形の魔法陣が現れる。


「スターロッド様、これは召喚魔法?

 この魔法は精神力を多く消耗するとともに、乱用を防ぐために幹部以外には教えられなかったのでは?」


 問いかけるロヒインにスターロッドは不敵な笑みを浮かべ、しなやかな腰に両手をそえる。


「ダークエルフたちなら分別をわきまえておる。

 それに3人がかりで召喚すれば、かかるコストもぐんと減らせる。

 こいつはデーモン族にも覚えさせておるぞ」


 言っているうちに、複数の魔法陣から何かが飛び出した。

 騎士たちが見上げると、そこには地上では見たことがない造形の飛行生物が現れ、大空に舞い上がった。

 何人かはそれを見て情けない叫びをあげた。


「貴様らっ! わかっておろうなっ!

 お前たちの獲物は天界のバカどもだっ! くれぐれも人間は狙うなよっっ!」


 それを知ってか知らずか、飛翔魔族たちは一目散に船外へと舞い降りていく。

 ふたたびそちらの方に目を向けると、彼らもまた魔導砲を巧みにかわしながら、火の鳥に容赦なく攻撃を仕掛ける。


 その勢いは(すさ)まじかった。

 まるで長年の恨みを晴らすかのように、魔族たちは火の鳥を散々痛めつけ、炎の肉体をバラバラにしていく。


「うらみの力、というやつか。

 我ら魔族を見下し嫌悪感を抱いている敵に比べ、魔物たちはその怒りを一心不乱にぶつけることに必死よ。

 このまま奴らに任せても問題はなかろう」


 それを聞いて振り向いたロヒインは、背筋が凍りついたように固まった。

 スターロッドの笑みが、まるで溜飲(りゅういん)を下げるかのように目を見開いている。

 そのとなりに目を向けてさらに後悔した。

 ファルシスもまた、同じような表情なのだ。


 反対のほうを向くと、ベアールのほうは小さく首を振っていた。

 彼は繰り広げられる惨殺(ざんさつ)ショーをこころよくは思っていないようだった。

 少しだけ安心する。


 突然後方で轟音(ごうおん)がひびいた。

 甲板に巨大な炎が叩きつけられ、そこにいるダークエルフが巻き込まれた。


「グギャアァァァァァァァァァァァァァァッッッ!」


 いくらかの魔族が短い呪文を唱えて水や冷気を噴射するも、丸コゲになったダークエルフが動く気配はなかった。

 上空を見上げると、巨大な炎のかたまりが再び甲板に向かってくる。

 そこへファブニーズの吐きだした炎の砲弾がぶつかり、不可思議な形ではじけ飛んだ。

 その奥に目をこらすと、大きく翼を広げた巨大な鳥のようなシルエットがある。

 ファルシスが叫んだ。


「上空に敵の幹部がいるようだっ!

 ファブニーズ、行けっっ!」


 折れた一本角を持つ魔族はローブの後ろからコウモリ状の羽根を広げ、大きく羽ばたいた。

 あっという間に姿が見えなくなると、横からロヒインが進み出る。


「敵は炎属性です! 同じ属性のファブニーズ様では決着はつかないかと!」

「敵の弱点である水属性では空は飛べぬ。奴に任せておけ、考えがある」





 ファブニーズが巨大な敵めがけまっすぐ飛翔していると、相手がまたしても攻撃を仕掛けてきた。

 飛翔魔族は全身を激しい炎に包み、巨大な竜の姿を現す。

 即座に向こうから声がひびいた。


「レッドドラゴンッッ!?

 バカな、この『フェニックス族』の長、『フォルス』を相手に同じ炎の獣をぶつけてくるとは!

 貴様らはおろかなのか!?」

「一見すればそう思われるかもしれんな。

 だがそれだけで雌雄(しゆう)を判断するのは早計だっっ!」


 ドラゴンは大口を開き、そこから丸みを帯びた炎のかたまりを吐き出した。

 フォルスを名乗る火の鳥もまた火炎弾を吐き出すが、こちらのほうは若干形のくずれた炎であり極めて整えられた弾にはじかれ、飛散してしまう。

 フォルスが「なにぃっ!?」と叫んだ瞬間、まだ威力の残っていた火炎弾が命中した。

 すると爆発を起こし、火の鳥の身体が大きくのけぞる。

 そのスキに詰め寄ったファブニーズは相手の身体を両足の爪でつかみ取り、喉もとに食らいついた。

 相手の炎の身体を引きちぎったあと、声高に叫ぶ。


「炎の魔物同士なら、単純に強い力を持つ者が勝つっ!

 ドラゴンの王たる我の力、思い知ったかっ!」


 力を失い急降下していくフォルスが「おのれぇ……」と弱々しい声をあげながら、真下にわずかに見える大海原へと落下していく。

 炎の魔族にとっては非常に危険な状況だが、ファブニーズには相手がどうなろうと関心はない。

 彼が見据(みす)えるのは空中大陸自体から放たれる、新たな光の雨だった。


「……殿下に報告したほうがよかろう」


 そう言って、巨大な竜王は身をひるがえして一目散に逃げ出した。

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