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第46話 軍内割拠~その3~

 司祭が待ち望んでいるメウノの姿は、礼拝堂の隅にあった。

 彼女は両手を組み、ひたすら頭を下げ続けている。


 祈りを(ささ)げているのではない。ただひたすら悩み続けているだけだ。

 今まで信じ続けてきたものが根底から崩れ落ち、これからいったい何をすればよいのかわからず困り果てているだけである。


「おやおや、こんなところでウジウジしている場合かい?

 本当は何をすべきかわかっているくせに」


 ここ最近はかけてくれる声を平然と無視するメウノなのだが、聞き覚えのある声に、思わず顔をあげる。

 しかし、すぐに顔を伏せた。


「今さら、なんなんですか?

 わたしはあなたのような存在とは会いたくありません」


 整然と並ぶ長椅子の1つ、メウノが座る場所のとなりに、彼女を絶望の(ふち)に叩き込んだ理由のうちの1つが座る。


「なに言ってんの。君はそんなことしてる場合じゃないでしょ?

 前に言ったじゃない。神々のことなんてどうでもいい、自分は今苦しんでる人たちを助けたいんだって。

 だったら、こんなところにいないで裏にいる人たちを助けたらどう?」


 言われ、メウノの顔が少しだけ持ち上げられた。


「……たしかにあのときはそう言いました。

 自分はいままで神々の畏敬(いけい)を、あまり意識はしていませんでした。

 ですけど……」


 メウノは思い切り顔をしかめ、またしても顔を伏せた。


「ですけど、あなた方神々の正体を知り、いえそれだけでなく、我々僧侶が何のために特別な力を与えられたのかという理由まで知ってしまって……

 あなたは自分が他者に都合よく利用されていたという事実を知れば、憤慨(ふんがい)するでしょう?

 自暴自棄(じぼうじき)にもなるでしょう!?」


 メウノは声を荒げながらもおどろいているようだった。

 自分でもこの態度に出たのが信じられない様子だ。

 一方のヴィクトルは、それを気にする様子もなく、ゆっくりと首を振る。


「確かに、我々は君たちにウソを教え、自らの存在を必要以上に正当化した。

 それは許されないことだ。

 だが、私自身はそのことをずっと後悔(こうかい)し続けている。

 私だけではない、クイブスとアミスもだ。

 今の教会のあり方をつくりだしたのはフィロスだ。兄者だけがすべてを決めた」


 メウノは上を見上げ、にらみつけた。

 礼拝堂の奥には、祭壇(さいだん)とともに色鮮やかなステンドグラスが淡い光に包まれている。

 先代の勇者をはじめとした数々の聖者をモチーフとした内容のその頂点には、神々の兄弟を簡易的にあらわした、4つの丸い光が映し出されている。

 教団自体のモチーフとなっているものだが、いまとなってはその1つをつぶしてしまいたい気持ちになっている者は、自分だけじゃないだろう。


「なぜ? なぜなんです?

 今天界におわすあなた方神々は、全員で4(はしら)

 問題を起こしているのが1柱だけなら、他の3柱はなぜ彼を止めないのです?

 なぜ誰も行動を起こさないのです?」


 そしてメウノの冷たい視線が、横にいるヴィクトルのほうを向いた。


「あなたは、その長兄に逆らってまで、わざわざ単なる一僧侶にすぎない私に会いにきていると言うのに……」


 ヴィクトルはゆっくり顔をそらし、深々とうなずいた。


「理由は、ある。

 だがそれはあまりに事情が深すぎて、容易に人間には明かせないものなのだ」

「教えてください。

 教えていただけなければ、わたしは今すぐこの僧院を去ります」


 言われ、禿頭(とくとう)の髪は頭頂部が薄くなった部分を何度もさすった。


「困ったなぁ、君は、信用できる者以外の人間には絶対口外しないと約束できるかね?」


 メウノは目を閉じ、深いため息をつきながらうなずいた。

 ヴィクトルも覚悟を決めたように、まっすぐ前をにらみつける。


「『世界の枢軸(すうじく)』。

 この名前を、よく覚えておきたまえ」


「世界の……枢軸……」メウノは消え入りそうな声で言い直した。


「これが、我々他の神がフィロスに逆らえぬ理由だ。

 兄者はこれをあずかる役目を担っている」

「どういうものなのですか?」

「その前に、この世界の神々は我々天界の兄弟だけではないと言うことは理解してるかい?

 そう、『破壊神』。

 あれももともとはこの世界を構成するのには非常に大事な存在だ。

 しかし我々はそれを封印せねばならなかった。

 彼らの好き勝手にさせてしまうと、とても人間がいまのような文明を作れる環境にはならないからね」


 ヴィクトルは不意に、顔をあげて礼拝堂内を見回した。


「それでも力を抑えきることができずに、時として自然災害は起こるがね。

 だが彼らを封印することで、君たち人間の文明はここまで立派になった。

 しかしそれと引き換えにしたものもある」

「それが、先ほどの世界の枢軸と関係があると?」


 メウノがその名を告げると、ヴィクトルが口に人差し指を当てた。


「あまり口外しない方がいい……

 破壊神は大地に様々な災いをもたらす存在でもある。

 しかし裏を返せば、彼らは大自然に循環(じゅんかん)をもたらす役目も担っている。

 彼らを眠らせてしまうことは、彼らの本来の役目をも奪ってしまう行為なのだ」

「例のアイテムが、そのかわりになってくれると……」

「そう。

 あれはかなりの優れ物で、特別に意識せずとも自然に世界のエネルギーを循環させてくれる効果があるのだ。

 兄者フィロスはそれを体内に収め、守り通すことが絶対の責務とされている」

「……それは……意図的に操ることができるんですか?」


 もしそうだとすれば、フィロスはいつでも人間界に大きな災いをもたらすことができる。


「いや、それはできない。

 たとえ神と言えども、その魔導具を好き勝手にコントロール出来ないように作られている。

 だが……」


 ヴィクトルは深刻そうな顔を浮かべ、かなりの時間ためらった。


「……破壊することはできる。

 兄者がその気になりさえすれば意図的にそれを壊し、世界に甚大(じんだい)な被害を与えることができるのだ」


 おびえるような表情で、メウノは問いかけた。


「具体的に……何が起こるんですか……?」

「破壊神の封印を解かなくても、世界は荒れはてる。

 大地はとめどなく震動(しんどう)し続け、

 荒れ狂う海は決しておさまらず、

 火山でもないのに炎が地中から舞い上がる。

 吹き荒れる風はすべての木々をなぎ倒し、

 太陽は厚い雲におおわれ姿を現さなくなる。

 人が滅びるどころか、地上は生き物の住めない過酷な土地になる……」


 メウノはがっくりとうなだれ、苦しげにつぶやいた。


「そうですか、そうでしたか。

 それなら、ヴィクトル様は彼を追い詰めることはできませんね……」


 しかし、すぐに顔をあげた。


「でしたら、なぜです?

 なぜそれを持たなければないのが、フィロスなのですか?」


 言われ、ヴィクトルは深いため息まじりに答えた。


「我ら兄弟が長兄を選んだことに、それほど深い意味はなかった。

 その頃の兄者はもっと賢明で、リーダーシップがあり、世の行く末を真剣に考えていた。

 我々は当時の兄者に何の疑問すら抱いてはいなかった……」


 その視線が、少しだけ下に落ちる。


「だが長き時がたつにつれ、フォロスの考えは変わっていった。

 人間を自らのしもべと考えるようになり、魔界の住人をすべて排除(はいじょ)すべきものだと考えるようになった。

 その結果が、君たち僧侶たちが正しいと信じてきた教会のやり方だ……」


 メウノが前方を向き、悲しみに満ちた目をする。ヴィクトルは首を振った。


「いや、違うな。やりようによっては、私は兄を止められただろう。

 それができなかったのは、わたしの心に、大きな恐れがあるのかもしれん」

「大きな……恐れ……?」


 ふと視線を向けたメウノに、ヴィクトルはこっくりとうなずく。


「かつての兄は偉大だった。

 しかし今では単なる傲岸不遜(ごうがんふそん)になり果てた。

 だが、それは兄者がもともとその性分を隠し持っていたからではなく、『神々の頂点に立つことの重圧に、押し負けてしまったのではないか』という疑念(ぎねん)だ」


 しかめた表情で目を閉じた神は、両手で前の背もたれをつかんだ。


「もしフィロスを神の座から降ろすことができたとしたら、次にその役目を引き継ぐのは私かもしれん。

 だが兄がおかしくなった原因が前者ではなく後者だとしたら、わたしはその役目に耐えられるだろうか……」

「……わかりません。

 かつては聡明(そうめい)だった方が、時を経るにつれ愚かな行為に手を染めてしまうことは、世の中にはままありますから」

「だが、もうそうは言ってられまい。

 兄がここまでのことをしでかした以上、我々はだまって見ているわけにはいかん。

 だからこそ、私は兄に隠れて、君の仲間にそっと手を差し伸べに来たのだよ」

「そして、今度は私の出番、と言うわけですか……」


 メウノはこれまで以上に意気消沈した顔つきになった。


「私がコシンジュさんの仲間であり、彼にとって私がいかに大切な存在であるか、それはわかります。

 ですが、ほっといてください。

 己の信仰がぐらついただけで、いままで大切にしてきた信条をかなぐり捨ててしまうくらいなのですから」


 何がもっとも大事なのかは、自分が一番よくわかっている。

 本当なら今すぐこの席を立ちあがり、司祭とともに苦しむ人々の助けになることなのだ。


 だが、簡単に割り切れるものではない。

 一度折れてしまった心を、ふるい立たせることなど。


「……それに、私1人が立ち上がったところで、狂ってしまった運命の歯車は元に戻りません。

 今、世界中で僧侶たちが姿を消し始めています。

 この流れそのものを変えなければ私1人が戦ったところで、どうにでもなるはずがないじゃないですか」


 以前なら、それを無視することもできただろう。

 だが一度それを自覚してしまうと、頭から離れなくなってしまう。

 まして一度くじけた身ならなおさらだ。


 ヴィクトルは深いため息をついたが、それは失望したと言うより、どこかしょうがないと言わんばかりのものであった。


「いや、方法はあるさ。

 とはいっても、これはかなりリスキーなものになるけどね」

「それはなんです……ううぅっっっ!」


 言いかけて、突然肩をつかまれた。

 その瞬間、メウノは自らの身体に異変が起こったことを悟る。

 両手をおもむろにかかげると、はっきりと自覚した。


――身体の中に、ものすごい力が流れ込んでいる!


 メウノはいつの間にか立ち上がっていた神を見ずに言った。


「……これはっ!?」

「人っ子1人なら、あまり目立ちもせんだろう。

 もっとも有名人だから、話がすぐに広がっちゃうかもしれないけどね」


 メウノはようやく顔をあげた。

 老人姿の神はウィンクしながら親指を立て、そのまま席を離れた。


 しばらく呆然としていたメウノだったが、やがて急いで席を立ちあがる。

 そして去っていく後ろ姿にペコリとおじぎした。

 人でないためか、相手は見えてもいないのに片手をあげた。


 その時、メウノよりずっと歳下の僧侶がヴィクトルとすれ違いになった。

 この時ヴィクトルはくたびれたローブ姿だったため彼が神だと言うことに気づかない様子だったが、それでもちらりと目を向けて不審な顔つきになった。

 しかしメウノを見た瞬間、あせりを顔に浮かべる。


「め、メウノ様っ! 大変でございます!」

「あわてないで。ゆっくりと話しなさい」


 先ほどまで極度に落ち込んでたとは思えないほどの、落ち着いた口調で話しかけた。


「は、はい!

 実は先ほどまで患者たちの治療に当たっていた司祭様が、た、倒られましたっ!」


 おどろきはしなかった。

 むしろあの方はふがいない自分のために、ずっと無理をしてきたのだ。当然のことだろう。


「わかりました、私が代わりに患者さまの面倒を見ます。

 お前はその間に司祭様をお部屋に運ぶように」


 メウノは力強く歩き始めた。

 突然の変わりようにおどろきながらも、若い僧侶は彼女と連れ立って歩く。


 治療院につくと、彼女の目の前にはおびただしい数の病人たちが並んでいた。

 世界中で僧侶の数が減った結果、大勢の病める者たちが数少ない治療所へ押し寄せるようにやってきたのだった。

 それに対し治療を施す僧侶の数は圧倒的に少ない。

 メウノはそのことを気にかけることもなく、顔にマスクをかけてすぐに目の前の患者の前に座った。


危篤(きとく)状態の患者さまがいたら、すぐに知らせなさい!」


 小間使いとして働いている子供の僧侶に呼び掛けると、メウノは苦しむ病人の身体に向かって両手をかざした。

 ここまでは普通の光景。

 だが異変に気づいた小間使いが、おどろいて両手に持っていた水入りの器を落としてしまった。

 普通の治療術とは比べ物にならない、強い光がメウノの両手からかざされる。

 周囲の僧侶もそれに気づいたようで、豆鉄砲(まめでっぽう)を食らったような顔つきでそばまで駆け寄ってくる。


「なんなんだ!? 何が起こっているんだっ!?」


 見ると、先ほどまで苦しそうにしていたはずの患者が、見る見るうちに安らかな顔つきになっていくではないか。普通の治療術ではありえない速さだ。


「メウノッ! いったい何があったんだっ!?

 お前長旅の中どこでそんな(すべ)を身につけたっ!?」

「話は後ですっ! いいから早く患者たちの様子を見に行ってくださいっ!

 一刻の猶予(ゆうよ)もない人たちが必ずいるはずですからっ!」


 メウノは視線をまったく変えずに、目の前の患者に集中した。





 コシンジュがなんとか黒斧を持てるようになったとき、トレーニングのメニューが変わった。

 どこで見抜いていたのかチチガムはいつもの肉体労働に加え、直接的な筋トレもメニューに加えるようになったのだ。

 それは時にスクワットであったり、腹筋であったりと日ごとに変更されていった。


 内容は過酷(かこく)で、なおかつ退屈なものであったが、目標に向かって貪欲(どんよく)なコシンジュは根気よく取り組んだ。

 抗議の声があがったのは、これまでコシンジュに大いに助けられていた村人たちである。


「なんなんですか。

 まだまだコシンジュ君にはいろいろやってもらおうと思ってたのに、先生、それをとり上げちまうんですかい?」

「なに言ってんだ。まだすべての仕事をとり上げたわけじゃないだろう。

 今まで君たちが自分でしていた仕事を、コシンジュに全部任せていたんだ。

 それをいいことに君たち体よくさぼってただろ。これからは再び自分たちでがんばるんだな」


 それでも不満をもらす村人たちだったが、チチガムはにべもなく断った。

 コシンジュはいつもの口数がめったになくなってしまうほど、熱心に筋トレに(はげ)んでいたが、やがて黒斧を持つ機会が多くなっていった。

 筋肉の増強が終わり、いよいよ黒斧になじむ訓練が主体となるだろうと思われた、その頃だった。


 これまでだまってコシンジュを見守っていたクリサが、村を出ていくと言いだしたのだ。





「おい、本当に出て言っちまうのかよ」


 コシンジュは思わず訓練を止めて、荷物をまとめているクリサの部屋を訪ねた。

 彼女は問われるなり、おもむろに両手を広げた。


「だってアタシ、もうコシンジュの彼女でもなんでもないんだし、ここにずっといてもしょうがないでしょ?」

「だからって。お前、行くあてでもあんのかよ」


 クリサは平然と荷物をまとめる作業を再開した。


「前にブレベリちゃんたちの面倒も見てたくらいなんだから、1人でなんとかやっていけるわよ。

 大丈夫、リカッチャさんの口利きで、いい働き口を見つけてもらったから」

「聞いてる。ミンスターの宿屋なんだろ?

 まあお袋の知り合いがやってる店だから、信用はできるけど……」


 コシンジュは腕を組み、壁にもたれかかった。

 真剣なまなざしを相手に送る。


「……俺のせいなんだろ? 俺が、もうロヒインのことしか見てないから」


 彼女の気持ちは、コシンジュには伝わっていた。

 どことなくさみしい目で自分を見ていたのはわかっていたから。


「別にあんたのことを責めてるわけじゃないよ。

 ロヒインとあんたの中に、半ばアタシが無理やり割り込んだだけ。

 逆に、あんたの方が浮気したって言えるんじゃない?」

「あ、あの時はっ! そ、その……」


 慌てふためくコシンジュに目を向け、クリサは笑った。


「別に気にすることじゃないよ。あの時はロヒインには女になれる見込みがなかった。

 アタシと一緒になったほうが未来が開けてたけど、もうその心配はなくなった」


 ここで荷物をまとめ上げたクリサが、風呂敷(ふろしき)包みをポンと叩いて顔をあげた。


「でも、本当に覚悟できてる?

 あんた、魔族の仲間になれる見込みはないんでしょ?

 どうやっても彼女と長続きできる保証なんてないよ?」

「おいおい、カンベンしてくれよ。

 これから延々とロヒインと夫婦やんなきゃいけねえのか?

 数十年だって長いのに、やってらんないぜ」

「あ~あ、女好きのコシンジュらしい発言だこと。まあそれもそうだけど……」


 ここでクリサは何か気づいたようにはっとした。


「あんたたち夫婦はそれでいいのかもしれないけど、生まれた子供たちはどうなの?

 その子たちが成人するときには、もうあんたはこの世にいないわけだけど」


 それを言われ、いつの間にか壁から離れていた背を、もう一度くっつけ腕を組んだ。


「そこだよな。結局のところは。

 俺たちが子供を産むことはファルシスにとっても大切なことなんだけど、あいつのカミサンのエンウィーと違って、俺は長くはもたない」


 どこでどうやって調べたのかはわからないが、ゾドラ女帝エンウィーには魔族の素養があるらしい。

 人と魔族の()け橋となる半魔の子供をもうけたあとで、ファルシスは彼女にも魔族となってもらおうと考えているらしいが。


「そうね。

 エンウィー様にはちょっとつらい道のりになるかもしれないけど、生まれてくる子供たちには母親は大切だからね。

 だけどあんたは違う」


 少しつらそうな顔になるクリサだが、やがてぱっとした表情に変わった。


「ま、そのことはひとまずおいといて、あんたにはやっぱロヒインのほうが向いてるよ。

 アタシなんかじゃ歯が立たない。幸せにしてやんなよ」

「お前は、どうすんだ?」「……ミンスターに行くって言ったはずだけど?」

「いやいや、そうじゃなくて。お前、将来家庭を持つ気はあるのか?

 そうだ、ゾドラにはいつか帰るのか?」


 するとクリサは申し訳なさげに言った。


「アタシはずっとここに暮らすよ。

 ゾドラにはアタシの素性を知ってる奴もいるから、ちょっとね。

 こっちの大陸で骨を埋めるつもり」


 コシンジュが「そうか……」とさみしげにつぶやくと、クリサはニッコリと笑った。


「ま、ステキなところだから別にかまんないし。

 そーだなー、将来はこっちで素敵なダンナを見つけて、苦い過去をスッパリ切り捨てて生きてくつもり」

「そうか。がんばれよ」「うん、ありがと」


 親指を立てたコシンジュにしっかりとうなずいたクリサ。

 コシンジュはまじまじと相手の顔を見た。


「クリサ、けっこう大人びたよな。

 もう一人前のお姉さん一歩手前か?」


 すると彼女は呆れかえった様子で手を振り仰いだ。


「いやだぁ~、あんたとは比べ物になんないよ。

 仲間の連中が見たら、どう思うってんのよ~」

「あはは、それもそうだな」


 袖をめくってすっかり腕が太くなったコシンジュを見て、クリサも笑った。

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