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第45話 それぞれの孤独~その1~

「お初にお目にかかります、殿下」


 胸に手を当てぺこりと頭を下げたエドキナは、顔をあげるとじっと相手の表情を見据えた。


 ついにここまで来た。

 しがない魔族の一兵卒にすぎなかった自分が、魔王の参謀として軍の中枢(ちゅうすう)に身を置くことになったのだ。


「エドキナと言ったな。

 お前は数ある魔族の中でも、かなり賢い者だと聞く。

 ルキフールからお前の書面をあずかったが、たしかに頭の()えをうかがわせるものだ」

「おほめにあずかり光栄にございます」


 エドキナは喜びを表情に現したが、ファルシスの目つきは険しかった。


「しかし、前途は厳しいぞ。

 お前は強硬(きょうこう)派を自負していたな。

 知っての通り、強硬派の魔族は壊滅(かいめつ)状態にあり、はっきりと同じ思想を表明しているお前の立ち位置は非常に厳しいぞ」

「覚悟しております。

 ですが、いずれは殿下もわたしの考えにご理解して下さると」

「なるほど、書面の最後の項、人間兵の軍事活用についての意見だな。

 あれに関してはルキフールから進言を受けているが、なるほど、面白い指摘だ」

「魔族軍ばかりを前線に投入していると、犠牲(ぎせい)が多くなるにつれて魔物たちの不満が高まります。

 いずれはその矛先が犠牲の少ない人間たちに向かうかと」


 ファルシスはうなずいたが、やがて執務席に身を乗り出した。


「お前の言わんとすることは理解できる。

 だが、やはり承諾(しょうだく)するわけにはいかん」


 エドキナは、難しい表情で相手の顔をまっすぐ見つめた。


「お言葉ですが、それは殿下がいささか人間に対してばかりひいきしてらっしゃるからですか?

 わたしたち魔族からすれば、それは不公平です」

「ずいぶんぶしつけなことを申すのだな」


 エドキナはすぐに頭を下げたが、しかし恐縮したわけではなかった。


「はっ! ですが殿下は聡明(そうめい)でらっしゃいます!

 賛同はできなくとも、必ずや耳をかたむけられることと信じております!」

「フフ、さすがルキフールが見込んだだけのことはある。

 知恵が働くだけでなく、意志の強さも持ち合わせているようだな。

 かまわぬ、おもてをあげよ」


 エドキナが言われたとおりにすると、エドキナの目つきは真剣そのものだった。

 ファルシスは不敵な笑みを浮かべた。


「そうではない。

 たしかにお前の言う通りわが軍が追い詰められるようになれば、その戦略もやむをえん。

 だがそうはならない」


 エドキナは神妙な表情で、「なぜですか?」と問いかけた。


「お前は余の強さを知っておろう。

 そして、わが軍の精強さもな」

「もちろんでございます。

 ですが、はっきりとそこまで言いきるのはいささか問題だと」

「ククク、心配するな。

 確固たる自信があるから、言えるのだ。お前がそれを心配することはない。

 だが、お前の知恵は頼りにしているぞ。

 周囲との争いを極力避け、協力して作戦会議にいそしむのだ」


 ファルシスが言わんとしていることは、おそらくロヒインのことを指しているのだろう。

 そのことを思い、エドキナは難しい顔を隠せなかった。





 戦いが始まろうとしている。


 魔王軍が次にやるべきことは、天界へといたる道筋の確保だ。

 神とは違い、人間や魔族が、天界へと足を踏み入れたことはない。

 我々がこれから向かおうとしているのは、誰もその全容を知らぬまったくの未開の地なのだ。

 見ず知らずの場所で、見たこともない相手といかように戦うのか。

 大きく不安が残るが、我々が今すべき討議はそれではない。





「……問題は、いかにして天界へと至る手段を得るかということです」


 作戦会議において、円卓に座る者たちが視線を送るなか、前に立つエドキナはとうとうと自説を述べた。


「天界は、いま我々がいる人間世界のはるか上空にあります。

 しかし聞くところによれば、かつてこの地に古代魔法文明が栄えていた当時、人間たちが天界に足を踏み入れたと言う記録が全く残っていないと言うことです。

 無論文明の荒廃(こうはい)により詳細な文書が残っていないと言うこともありますが、伝承に記された記録の中にもそのような事実があったという内容は今のところ確認されていません」


 円卓の正面に座るルキフールが、テーブルの腕で腕を組み、冷静に告げる。


「古代文明人が天界にのぼるときに、いったい何が支障(ししょう)となっているのだ」

「はい、人間たちの識者(しきじゃ)を使った結果、次のようなことがわかりました」


 円卓の上に、魔法の力で描かれた立体地図が浮かぶ。

 下に大地があり、上方に天界の地を模した図形が描かれている。

 エドキナは円卓の上に乗り上げて指を差した。


「かつて人間たちが作り出した飛空艇(ひくうてい)は、かなりの高さまで飛行できることがわかっています。

 ちょうど、ここです」


 となりに座る人間の参謀が、エドキナが長く伸びる身体を使って机に乗り上げているのを見て、眉をひそめる。エドキナ自身は気にしない。


「ですが旧文明の技術でこれ以降の高度を登れないということは、調べによるとその事実はないということです」

「その事実はない?

 では、飛空艇は理論上より高く上昇できるということなのか?

 ならなぜそこまでの高度しか飛ばない船をつくる?」


 ルキフールに言われ、エキドナはゆっくりとテーブルから離れる。


「こちらに関しては、こちらの魔法観測隊のほうが答えを出しました。

 彼らによりますとどうやら天界に至る高度には、特殊な魔法防壁が張ってあるようなのです」

「なるほど、奴らはバリアで身を守っているということか。

 だが、旧文明人にはそれを破る技術は作れなかったようだな」

「いいえ、わたしはそうは思いません。

 旧文明人は傲慢(ごうまん)でした。

 必ずや天の扉を押し破り、天界への道筋を作る手段を確保しようとしたはずです。

 我々はそれを手に入れ、必ずや天界へと登る必要があります」


 ここで、人間の参謀(さんぼう)が手をあげた。


「でしたら、大きな問題がありますな。

 それは果たして完成しているのですか?

 もしそうでなければ、我々は自力でそれを完成させなくてはいけません。

 しかも神々が今にも大地に災いを巻こうとしている、この短い期間にです。

 正直、とても現実的な意見だとは思えませんが」

「……ふざけたことを抜かすな。愚かな人間め」


 エドキナの思わぬ発言に、相手の参謀は思い切り顔に怒りをみなぎらせた。


「なにをおっしゃる!」

「そんなことはわかりきっているのだ。

 わかりきってなお、その(さく)以外に我らの命運をかけるしかない。

 それとも、お前には別の対策があるとでも思っているのか?」


 参謀は顔をしかめ、ただ目をそむけることしかできない。

 ところが、エドキナはここで容赦するような存在ではなかった。

 相手は彼女が魔物であるという事実を忘れている。


「ないのか。まったくたいした神経の奴だな。

 お前のようなグズのアホンダラに、この作戦室に座る資格などない。

 今すぐここを立ち去れ。目障(めざわ)りだ、消えろこのクズが」


 参謀が目を見開き、「んなっ!」と声をあげた。

 ここでルキフールのとなりに座るロヒインが立ちあがった。


「お待ちくださいっ! 今のは明らかに相手を侮辱(ぶじょく)しすぎていますっ!

 同じ参謀のメンバーですっ!

 たとえ相手が人間であっても、同席である以上は相手を尊重すべきだと心得ます!」

「またお前か。

 いけいけしゃあしゃあと、よくそんな優等生みたいな口が利けるものだな」


 以前ファルシスにくぎを刺されたにもかかわらず、エドキナは平然とロヒインとにらみ合う。


「それじゃ言っておこう。

 わたしは、この作戦室のメンバーに大いに不満がある。

 なんで人間どもと同じ部屋で意見をかわさねばならない。

 せいぜい数十年しか生きられないような虫ケラに、それよりずっと長く生きているわたしの意見をどうこう言う資格などない」

「人間たちはこの世界の実情を把握しています。

 対してあなたは、この世界に足を踏み入れたばかりでしょう?」

「おやおや、そういえばお前も生まれてまだ17年しか経っていないね。

 たしかに頭がいいのは認めるが、この作戦室にいる人間どもにお前ほどの知能が備わってる奴はどれほどいるのかい?」


 作戦室にいる人間たちは、そろって苦虫をかみつぶす表情をする。

 エドキナの事実を否定したいのか、あるいはそれが事実であって打ちひしがれているのか。

 ゾドラの宰相(さいしょう)であるマージは国に帰っておりここには同席していない。


 対する魔物側の参謀(さんぼう)にはしらけたような顔をする者と、勝ち(ほこ)った笑みを浮かべる者がいる。

 同席しているエルゴル、マルシアス、マーファ、ウィネットは前者である。


 直接侮辱を受けた参謀が、たまりかねて立ち上がった。


「……ふざけるなっっ! 我々とて同意見だっ!

 一度は魔王殿下に忠誠(ちゅうせい)(ちか)ったとはいえ、貴様らのような化け物と、同じ空気なんぞ吸えるかっ!」

「そうか、貴様我々を化け物と呼ぶか。

 なら、そのことを我らが同胞(どうほう)によく聞かせてやろう。

 夜道には気をつけろよ」


 ほくそ笑んだエドキナを見て、参謀は青白い顔をして席に崩れ落ちた。

 だまってそれを聞いていたルキフールが、ようやく口を開く。


「もうやめろエドキナ。

 人間たちを恐怖で(しば)るのは、殿下の最も嫌うところ。

 かつての過ちを繰り返す(やから)を、殿下は放ってはおかぬぞ」


 エドキナは今さらになって慇懃(いんぎん)に頭を下げ、「大変失礼しました」と述べた。

 言いたいことは言いきった。不満はない。


「いいかげん話を続けろ。

 つまんねぇいさかいはこれ以上聞きたくない」


 うんざりした顔のマルシアスにエドキナはちらりと視線を向ける。

 このすましたダークエルフ野郎め。殿下に気に入られてるからって調子に乗るなよ。


「では話を続けます。

 まず我々が最優先すべきは、一刻も早く旧文明が残した、天空の防護壁をくずす手段を得ることです。

 たとえ地の果てをはいずりまわることになっても、必ずそれを見つけ出さなければなりません。

 そして世界中から技術者を集めること。

 もし技術が未完成ならば、我々は少しでも早くそれを完成させる必要があります」

「前者に関しては、わたくしがすでに答えを見つけています」


 エキドナは目を見張った。

 一度は席に着いたロヒインが、再び立ち上がる。


「どういうことだロヒイン?

 お前はいつ、その答えにたどり着いた」


 信じられないと言わんばかりのルキフールに、ロヒインはしっかりとうなずいた。


「きっかけは偶然(ぐうぜん)でした。

 わたしがもともと勇者つきの魔導師だったことは、みなさんよくご存じだと思います。

 我々はかつてゾドラ帝国に対魔王軍に関する南北大陸の同盟協定を進言するため、ここミンスター城からはるばるゾドラ城まで長い旅に出ました」

「ハンッ! 聞いているぞ。

 いざ現地に入ったらあっけなくはねのけられたそうだな。

 しかもよりによって、旧勢力の連中に棍棒を奪われそうになったとか」

「だまれエドキナ。

 かまわんロヒイン、話を続けろ」


 いさめたルキフールに向かってロヒインは頭を下げた。


「はい。

 その旅の途上、この国の南半分をおおう大森林、旧バルト国の廃城の地下にて、我々はあるものを発見したのです」

「あるもの? それはいったい何だ?」

「やはりルキフールさまは見ておられませんでしたか。

 それはほぼ原形を残した、旧文明の飛空艇だったのです」


 卓上からどよめきが起こった。

 しかし、ルキフールの顔色はすぐれなかった。


「ほう、原形をとどめているということは、すぐに出発できる状態にあると言うことか。

 だが()に落ちぬ。

 それが天界の防壁を破壊する技術があると断言できるのか?

 ただ単に通常の飛空艇にすぎないのかもしれんのだぞ?」

「ええ、はっきり断言できます。

 あの飛空艇を、天界の勢力に(くみ)するウッドエルフたちが守っていたことです」


 今度こそどよめきが起こった。

 これにはさすがのルキフールやエドキナさえ、おどろきを隠すことができない。


「さらに、我々はウッドエルフたちにくぎを刺されました。

 この事実を決して口外してはならぬと。

 彼らはよほど、守っている船に人間たちが乗り込んでほしくないかのようでした」

「その話、かなり信用できるな。

 おそらくその船こそ、我々が天界に乗り込むことができる唯一の手段」


 ルキフールはかなり納得している様子だったが、エドキナには別の疑問が浮かんだ。


「だがなぜだ?

 その船が天界にとって危険だと言うのなら、なぜ彼らはその船を破壊しない?

 なぜウッドエルフに護衛(ごえい)させなければならないほど、その船を大事に扱う?」

「おそらく、破壊したくてもできないのだと思います。

 他者が破壊できないほどの何らかの対策がほどこされているのか、それともその船をなんとしてでも残さなければならない何らかの理由があるのか。そこまではわかりません。

 ですがその船をわざわざウッドエルフたちに守らせているのなら、この船を手に入れるのは容易でないにしても、決して損ではないと断言できます」


 ルキフールはしばらく考え込んだ後、何度もうなずいた。


「だが、これで我々のやるべきことは決まった。

 今すぐ軍を編成し、現地へと急行する。

 ウッドエルフたちも知らせを受け、我々を待ち受けているやもしれん。気を引き締めてかからねばな。

 それと技術者たちを集めよ。

 前に聞いた錬金(れんきん)術師とやらがふさわしい。

 魔法と科学の集積物は、我々魔族には少し(きび)しい」


 参議たちがいっせいにうなずき、会議は終了となった。





 一息ついたエドキナのもとに、ルキフールを引き連れたロヒインが声をかける。


「エドキナさま。お言葉ですが、人間たちに対して少々(きび)しすぎはしませんか?

 今は非常に大事な時期です。

 天界という大きな軍勢が立ちはだかっているなか、我々魔族と人間は互いにいがみ合っている場合ではないのです。

 もちろんあなた様の心情は理解できますが、どうかご容赦(ようしゃ)を」

「クククク、ロヒイン。

 わざわざそれを言うために、ルキフール様をお連れになったのか。

 単独では言って聞かぬとみて、姑息(こそく)なマネを」

「エドキナ、ロヒインの言う通りだ。

 たとえ種族の違いがあっても、我々はいがみ合っている場合ではない。

 ここはじっとこらえ、少なくとも天界との決着がつくまでは無体な態度をひかえよ」


 難しい顔をする老魔族に対し、エドキナはすました顔で頭を下げる。


「ええ、たしかに先ほどは度が過ぎました。

 ですがルキフール様、1つよろしいかしら?」

「なんでも言ってみろ」

「では、天界との争いに終止符が打たれた後はどうなのです?

 大きな戦が終わった後でも、我々魔族は延々と人間どもに気を使わなければならないのですか?」


 ルキフールはしばらく黙りこみ、すこしにらみつけるような目つきになった。


「その時のことは、いまはあまり考えるべきではない。

 ただ1つ言えることは、殿下をはじめ多くの重臣たちが人間たちに理解を示し始めているということだ。

 かく言う私でさえそうだ。

 そんな我々の目がある限り、貴様ら強硬派の思い通りにはならぬこと、覚悟せよ」


 それを聞き、エドキナははっきりと眉をひそめた。


「魔界においてもっとも姦計(かんけい)に長け、数多くの魔物から恐れられたルキフール様とは思えない発言ですね」

「私はもともと中立派だ。そもそも人間たちをどうこうすることに興味などない。

 だが殿下が人間たちを擁護(ようご)するのであれば、忠臣たる私はそれに理解を示すべきだと心得ておる」


 エドキナは深いため息をついた。遠慮(えんりょ)する気などなかった。

 組織としてはほぼ壊滅(かいめつ)状態にはあるが、勢力自体は少なくない強硬派に対して、この男はもう少し理解を示す必要がある。


「そういうことだ。熟慮(じゅくりょ)せよ。

 いずれ私が言ったことをお前も理解できる時が来るだろう」


 そう言って、ルキフールはその場を去った。

 ロヒインも真顔で頭を下げ、彼に続く。

 彼らが離れるのを見て、エドキナは舌打ちをした。

 いずれ理解するのは、わたしではなくルキフール、お前の方だ。





 とはいえ強硬派のおかれた立場は、非常に厳しいものになっている。


 エドキナは吐き気がするほど清潔感がある白い廊下を、腕を組んでぶぜんとして考えながら渡る。

 途中で出会う人間たちは気にしない。


 かつて強硬派の先陣を切っていた四魔兵団の総統たちは、いまいましい神の手先によって討ち取られた。

 現在でも筆頭であるヴェルゼックは、数々のおかしな振る舞いで主流派のみならず強硬派にすら見限られている。

 今の強硬派はバラバラだ。同じ意見をかわせる者と会うのもまれになっている。

 散り散りになった同志たちをふたたび結束させるには、強力なリーダーが必要だ。

 自分にはそれになれる資格があると自負しているが、その地位にたどり着けるにはまだいくぶん時間がかかるだろう。


 やはり、今は耐えるしかない。

 人間どもに対し厳しく接すべきと堂々と主張できるほど、大きな潮流が育つまで。


「何かお悩み事かね? ナーガ族のご令嬢(れいじょう)


 おどろいて顔を上げると、曲がり角の先から黒い貴族が現れた。


「ヴェルゼック様っっ! なぜここにっ!?」

「同じ強硬派として、コンタクトを取ってはいけないかね?」


 優雅に近づくヴェルゼックに対し、エドキナはいぶかしげな目を送る。


「なぜあなた様が、参謀として会議に加わって下さらないのです!?

 あなた様さえいれば、同じ部屋にいるいまいましい人間どもをもっと威圧できるでしょうに!」

「そうしたくても、できないのだよ。

 俺はとにかく他の連中から嫌われてる。

 かく言う、君でさえ俺のことをよく思っていないのだろう?」


 エドキナは眉をひそめた。その通りだ。

 この男、どこか信用できないところがある。

 かつてエドキナが尊敬していたマノータスらも、この男の存在さえなければ命を落とさなかったのではないか。


「ですがルキフールを出しぬき、神の本質を見抜いたあなた様の意見は貴重です。

 ここはなにがなんでも、殿下に進言して会議に加わるよう説得いたします」


 すると相手は自分の肩に手を置き、「その必要はないさ」と告げた。


「いずれ君の時代がやってくる。

 次の強硬派のリーダーは、君さ」

「何をおっしゃられるのです?

 まさか、ヴェルゼック様には何かしらの考えが?」


 ポンポンと肩をたたき、ヴェルゼックは彼女の後ろを通り過ぎた。


「そのうちわかる。

 いずれ君もやりたい放題やれるようになるさ」


 エドキナはつい振り返り、その背中に視線を送った。

 そしてとっさに悟った。


 あの男、やはり信用できない。

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