第1話 旅立ちっぽい展開~その2~
打って変わって、こちらは天界にある神々の神殿。
わざとらしいくらい真っ白なパルテノン風の建物の中に、ひたすらだだっ広い空間が広がっている。
そこに何人かの人物がいるのだが、みんな立派な白ひげをたくわえているので正直見分けがつかない。
「大変なことが起こったぞ」
その割にはあまり緊迫していない口調で一番髪が豊かな長髪の神が言う。
「ああ聞いている。どうやら魔王の軍がようやく動き出したようだ」
同じくフサフサだがあまり長くはない頭髪の神が答えた。
ていうか「神」と「髪」でワープロ変換がややこしくてかなりめんどくさい。
「長かったな。
やはり我々が勇者に与えた武器の威力でたたきのめされたのが相当にこたえたらしい」
立派にハゲあがったリーダーらしき神がほおに腕を突いてつぶやく。
「いやいや、天界の神々がこんなに数いるんだからあきらかに向こうが不利でしょ。
よくそんなんで世界征服しようとしたな先代の魔王」
頭頂部だけがハゲあがった神が妙にリアルなことを言う。
短めのフサフサが問いかける(変換が面倒なのでもう『神』とかつけない)。
「しかし、今頃になって? 前回の侵攻からもう数百年がたっているんだぞ」
「事情がある」
長髪が口を開く。彼が口を開くときは4人のうちの2人の視線が頭のほうに向かう。
となりの短めも同様である。
「なんでも魔界の生物はみんなそろって性欲だけは一人前だから、人口ばかり増えて土地が足りなくなったらしい」
「ヤケにリアルだなおい!」
頭頂ハゲでもびっくりするぐらい現実的なお国事情。
「やむをえない事情だが、こちらも対処せざるをえん。
どのみち地上世界まで魔族のものになれば、そちらまで人口過密になりかねん。
なんとしても食い止めねば。はっきり言って戦争にもつれこめば向こうの人口も減って一石二鳥だろう」
「リーダーがえげつないこと言うなっ!」
リーダーハゲに頭頂ハゲが突っ込む。どうやら彼はツッコミを一手に担っているらしい。
「とりあえず、まずは地上にこの危機を知らせねば。
それから勇者に再び伝説の武器を手にとってもらおう」
短めの意見にリーダーハゲはうなずいた。
「どちらにしろ天界は安泰だがな。
さすがに魔王も我らにまで戦いを挑もうとは思わないだろうが」
「だからリーダーの威厳が台無しになるようなこと言うなってっ!」
どこか頭のネジがゆるんだリーダーハゲに、頭頂ハゲはそれなりに苦労しているようである。
「しかし、誰に受け渡す。
勇者の武器を扱うからには、やはり相当の猛者でなければ」
「勇者の村に、イサーシュと言う剣士がいる。
まだ若いが王国一の腕前だと評判が高い」
頭頂ハゲの苦労を知ってか知らずか、ハゲてない2人が勝手にしゃべりだす。
「うむ。彼ならあの伝説の武器を使いこなせよう」
「思えば悩むこともないな。
彼がこの時代に生まれたことに素直に感謝しよう」
「いやいや、それはいかん」
まっとうな会話をする2人に、リーダーハゲが水を差す。
長髪が問いかける。
「なぜです?」
「考えてみろ。伝説の武器と言ったところで、形状は『アレ』ではないか……」
言ったとたん他の3人が黙ったが、すぐにうんうんとうなずいた。
「だろう?
ならばあれにはもっとふさわしい奴がいるはずだろう」
「ならば、やはり伝説の武器はあの者に……」
頭頂ハゲが言いかけると、広間の中に誰かが入ってきた。
背中に翼の生えた騎士が神々の前でヒザをつく。
「大変です!」
「どうした?」
リーダーハゲは威厳ある態度で伝令を見下す。
「はい! 先ほど受けた報告によりますと、魔王軍の一部がすでに地上に攻め入ったとの情報です!
彼らは周辺の村を襲うことなく、ある場所に向かってまっすぐ進んでいるとのことです!」
「場所はどこだ!」
「それが、なんと勇者の村なんです!」
「「「「なんだとっっ!」」」」
4人の神が一斉にいきり立った。ていうか神の数え方本当は「柱」なんだが、まぎらわしいので却下する。
「さっそく彼の出番がやってきたようですな」
「しかし、これはまずい。
もし精鋭部隊だとしたら、まだ未熟な勇者たちの身が危ないぞ」
「下手を打てば武器も奪われるかもしれん」
「妙に慎重策だな今度の魔王!」
最後のセリフだけ誰が言ったのか何となくわかる。
しばらくその場に沈黙がただよい、リーダーハゲが口を開いた。
「仕方がない。今回ばかりは加勢するか」
「その方がいいでしょう。いくらなんでも、連中やりすぎです」
うなずく頭頂ハゲに対し、長髪は納得のいかない表情になる。
「しかしよいのか。
我々が最低限の援助しかしないのは、もしもの時にこちらにばかり頼られるのはまずいからと判断したからではないのか?」
それに対し短い髪がゆっくりと首を振る。
「案ずるな。『彼』は戦いの栄誉に飢えておる。
彼なら祖先に恥じない勇気でもって魔王軍に立ち向かってくれるだろう」
その場にいる全員がうなずいた。とりあえず初戦はなんとかなりそうである。