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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第7章 勇者、魔界のジャングルを進む
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第42話 帰郷~その1~

 一面の暗闇から一転、思わず目をそむけてしまうほどのまばゆい光が、一行を照らし出した。

 顔をあげれば、そこは一面が光に包まれた、人間の世界。

 白い砂浜が太陽の光を受けて、これもまたきらきらと(かがや)いている。


 人間界に、返ってきたのだ。

 しかしその感動は即座に霧散(むさん)する。

 彼らの視線の先にあったのは、おびただしい数の人や人でないものが入り乱れる、おぞましい戦場の光景。

 誰もが言葉を失った。

 本当の戦争を目の当たりにし、それをなんと形容すればいいのかわからないでいた。


 ただ1人、その場をかけだした者がいた。

 チチガムは思わずその影に向かって手を伸ばす。


「コシンジュッ! 待てっっ!」


 またたく間に遠く離れていく彼の姿に、メウノの「行きましょう!」のかけ声で仲間たちもすぐに追いかけていく。

 ロヒインが出遅れて、そのあとを追う。

 チチガムは全く動けなかった。

 となりに立つルキフールがいまだ額に手をかざして告げる。


「どうした。追わなくてもよいのか?

 お前の息子、かなり危ういと見受けられるぞ?」


 チチガムは軽く首を振り、何かを断ち切るようにしてその場を飛びだした。





 コシンジュは自分が群れの中に近づいたと悟ると、手にした棍棒に力を込めた。

 魔界では失われていた力が、急激に戻ってくるのを感じる。


 少年は跳躍(ちょうやく)した。

 光かがやく棍棒を高く掲げると、着地する前に目前のトカゲ人間に思い切りそれをたたきつける。

 一瞬の閃光。

 トカゲはなにが起こったのかもわからず、急速に力を失って倒れる。


 対していた黒騎士はぼう然とそれを見守る。

 が、目の前の少年が棍棒を手にしていたのを見て、急に叫びあげた。


「勇者っ!?

 貴様っ、援軍(えんぐん)()け付けたのかっっ!」


 その手に握られた剣に力がこもったのを見て、コシンジュは静かに相手を見た。

 黒騎士は剣を振り上げ、コシンジュに容赦なくそれをたたきつけようとする。


「死ね……ぐほぉぉっ!」


 黒騎士はどんもりを打った。

 鎧の胴には、コシンジュが突き出した棍棒の先がめり込んでいた。

 騎士はそのまま地面に崩れ落ちる。

 コシンジュは容赦しない。

 この棍棒(こんぼう)は人間に対しては手加減をするように作られている。

 脳天から叩きつけさえしなければ命を失うことはないはずだ。


 コシンジュは次なる相手に向かいあった。

 そこにいたのは、どこか見覚えのある魔物の数々。

 コシンジュは感情のない瞳で、それらをまっすぐ見据える。


 ゴブリンがうなり声をあげて斬りかかった。

 コシンジュはさらりとかわし、その背中に棍棒をたたきつける。

 相手が倒れ込まないうちに、コボルトが目の前に現れた。

 剣を振りあげる間も与えず、コシンジュが一閃。

 続いて現れたマーマンが、水でできた槍を突きつける。

 コシンジュはひらりと身を(ひるがえ)し、上から棍棒をたたきつけた。


 ここで乱入者が現れた。

 3人組の黒騎士が斬りかかるのをコシンジュは次々とかわして、鎧に一撃を見舞う。

 別の方角から黒騎士が現れた。

 その鋭い突きにもコシンジュは冷静で、相手の腕をわきに挟むやいなや、棍棒の柄を黒兜に叩きつけた。


 黒騎士が倒れ込まないうちに、オークが金切り声をあげて斬りかかる。

 コシンジュはまっすぐ棍棒を突き出した。

 その先が胸板に叩きつけられ、オークは軽々と吹っ飛んだ。


 コシンジュは姿勢を正し、斜め上を見上げる。

 視線の先には巨大なトロールの姿があったが、相手は全身をわななかせて動かない。


 しかし、その巨体が動いた。

 しかし攻撃に出たのではなく、足を何者かに切り裂かれ、無様に倒れ込むだけだった。

 背後にいた連合軍の騎士たちがその背中に乗りかかり、いっせいに剣を突き刺した。


 彼らが何度も剣を突き刺すのをしり目に、1人の青騎士が兜の前立てをあげてこちらにやってきた。

 見覚えのある顔、ランドンで知り合った騎士の1人だ。


「コシンジュッ! 助けに来てくれたのかっ!

 成長したな、見違えたみたいじゃないかっ!」


 コシンジュは相手を見たものの、返事をしない。

 とたんに相手は不穏な表情になる。


「おいどうしたコシンジュ? 何かあったのか? なんとか言えって」


 ここで突然コシンジュが相手の身体を押しのけた。

 騎士がバランスをくずして倒れるなか、勇者は現れたハーピーに向かって容赦なく棍棒を振りあげる。


 足を棍棒で叩かれ逃げ帰っていく鳥人間を前に、騎士はぼう然と見上げる。

 助けてくれた礼など忘れてしまったかのようだ。

 コシンジュもそれを無視し、何も言わずその場を歩きだした。

 我に返った騎士が「おいっ!」と声をかけるが、その後ろ姿から返事が返ってくることはなかった。





「みんなっ! みんなどこにいるのっっ!?」


 ロヒインは周囲に呼び掛けるが、どこを見渡してもたがいに傷つけあう者たちばかりで、仲間の姿はない。

 どうやら完全にはぐれてしまったようだ。


「みんな無事だといいけど……」


 不安いっぱいのロヒインの表情が、打って変わって真剣なものになった。

 振り返って黒騎士の姿を確認するやいなや、身をひるがえしてマントの中から肌もあらわな片足を繰り出し、相手の胴を蹴りつける。

 大柄な男であるにもかかわらず、小娘のような魔物相手に軽く吹っ飛ばされた。


 ロヒインが周囲に目をこらすと、正面に青い紋章をかたどったランドンの騎士が立ちふさがる。

 が、動かずに声をかけてきた。


「ロヒインッ!? 勇者つきの魔導師、ロヒインかっ!?」


 どうやらミンスター城を訪れた時に顔を覚えてくれていたようだ。

 ロヒインは表情をくずさず、「ええ」と告げた。

 しかし相手は首を振る。


「なぜ女の姿で? しかもその力、人間ではないようだがっ!?」


 ロヒインは正面をむき、頭を下げる。

 しかし相手は別の方向に構えた。

 ロヒインのすぐそばに、魔物が現れたのだ。

 しかしゴブリンはロヒインを見るやいなや、手にした剣を向けることなく別の方向へとかけだしていった。

 ロヒインはまっすぐ騎士を見据えた。

 おどろいた様子の彼が、ふたたび剣をこちらに向けた。


「魔物が立ち去ったっ!?

 やはりお前、魔物に身をささげたのかっっ!?」

「魔王ファルシスと契約し、デーモンに転生しました。

 ですが私はあなた方と……」

「ふざけるなっっ! この『裏切り者め』っっっ!」


 相手の声に、ロヒインは目を見開いた。


「うらぎり……もの……」


 覚悟はしていたが、吐きかけられて大きなショックを受けている自分に気がついた。


「なぜだっ!? なぜ勇者を裏切ったっ!?

 なぜお前が魔物の軍勢を率いるっ!?」


 事の真相を知りもせずに、騎士は金切り声をあげる。

 ロヒインは思わずにはいられなかった。

 裏切ったのはわたしではなく、あなたが勇者と呼んでいる者なのです……


「許せんっ、許せんぞぉぉっっ! うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」


 あまり洗練されているとは言えない動きで、騎士は斬りかかってきた。怒りに身をゆだねているのだろう。

 ロヒインは仕方なく、マントの下から事前に変化させていた魔剣を取り出し、相手の肩に吸い込ませた。

 騎士は「ぐぅぅっ!」と言ってすぐに大地に倒れ込む。


 周囲を見ると、いつの間にか無数の騎士に取り囲まれていた。

 連合軍だけでなく、黒騎士たちまでも。

 これが、これが人類を裏切った、(むく)い……


 痛切にこみ上げる感傷を押し隠し、ロヒインは剣を彼らに突きつけた。

 マントから露出した肌があらわになるが、気にしない。

 対する相手もそれに目を向ける余裕はなく、ただ長すぎる魔剣を目に尻ごみしているようである。


「……ほらほらぁっ!

 ボーッとしてると魔物たちにやられちゃうよぉ~っ!?」


 突然の声に、ロヒインは目をこらす。

 おそらく人間たちには見えていないだろうが、自分には小柄な人影がすさまじい速さで横切っていくのがわかる。

 影が通り過ぎる時、騎士たちは手にする剣が途中で断ち切られていることに気づき、情けない叫び声をあげる。


 周囲を一掃した人影が、ロヒインの目の前で立ち止まった。

 片手片足をまっすぐ伸ばした状態で身を伏せていたその人物は、多くの人間には意外なものに見えるだろう。


 少女といってもいい、短めな白髪の女ダークエルフが立ち上がる。

 小麦色の身体を覆い隠しているのはバストとヒップにある毛皮、それと短めのロングブーツしかない。

 その手には幼げな女性が持つにはふさわしくない、禍々(まがまが)しいかぎ爪がはめられている。

 彼女はそのかぎ爪を持った両手を腰にやると、こちらの顔をのぞき込んできた。


「あんれ~?

  なんでこんなところに、見たこともないデーモン族の女の子がいるのかなぁ~?」

「お初にお目にかかります。

 先日ファルシス殿下の直参(じきさん)となったロヒインです。

 あなた様は?」

「あ~知ってる知ってるっ! キミ勇者クンの魔導師でしょっ!?

 よろしくぅ~! にしてもあなたさまってぇ!

 そんなかしこまらなくっていいよぉ! アタシのことはヴェルって呼んで!」


 ヴェルを名乗るダークエルフは、満面の笑みを浮かべながら片方のかぎ爪を振りまわす。


「よろしくお願いします。あなたはなぜここに?」


 すると彼女はかぎ爪の甲をアゴに当て、困った顔で横を見る。


「それがさぁ。

 魔王サマから聞いた話じゃ、アタシとごく少数のおトモダチで、出来るだけ人間の被害を少なくするって算段だったんだけどさ。

 フタを開けてみりゃ、やれ来るはずのなかった向こうのロクデナシどもが押し寄せてくるわ、連合だけじゃなくて帝国のみんなにすらおそいかかるわ、ワケわかんない。

 今手分けしてそいつら片づけてんだけど、なんで?

 新入りクン、なんか知ってる?」


 ロヒインは暗い顔をして、うつむく。

 神妙な顔で首をかしげるヴェルを見た、その時……


「いたぞぉぉ! あそこに指揮官がいるっっ!」


 その声で、ロヒインとヴェルは素早く動いた。

 たがいに背中合わせになり、現れるなり回り込んで取り囲んできた騎士たちにそれぞれの武器を構える。


「ったくなんだよっ!

 こっちはキミたちの相手してる場合じゃないんだよっ!? ほっといてってばっ!」

「説得は難しいでしょう。

 彼らは完全に我々に裏切られたと思い込んでいます。

 彼らを軽くいなして、ただちにここを抜けねば」

「だ~か~ら~っ! アタシたちはなんにも知らないんだってぇ~っ!」

「いずれ理解は得られると思います。それより……」


 ここでロヒインはもう一度顔を伏せた。

 背後のヴェルが、少しこちらに顔を近づけたようにも思えた。


「わたしです。わたしたちの……せいなんです」


 相手の返事がない。

 自分が(かも)し出す悲壮(ひそう)感が、伝わってしまっているようだ。


「いくぞぉっ! スキだらけだぁぁぁ……ごふぉっっ!」


 ロヒインの側にいる黒騎士が叫ぼうとして、途中でこちら側に倒れる。

 その後ろから別の人影が現れた。


「ヴェルちゃん。なにをしていらっしゃるのかしら?

 こんな小物たちなんて、あなたならすぐに片づけられるでしょうに」

「しょうがねえだろ?

 ヴェルちゃんは御前(ごぜん)さまの血を濃く受け継いで、優し~い性格になってんだからよ?

 あれ? 見かけない顔だな?」


 現れたのは、ぴっちりと肌に密着したレザースーツの胸と太ももをさらけ出したセクシーな女性と、ロングコートの中からたくましい胸板と腹筋をさらしている男性だ。

 どちらも耳の長いダークエルフで、それぞれ長すぎるムチと無数の刃がついたダガーを手にしている。

 とたんにヴェルが前に飛び出す。


「ああ! 来てくれたんだ!

 新入りクン、紹介するね。

 あっちはアタシの友達でマーファとマルシアス。で、名前なんだっけ」

「ロヒインです。つい先日、魔王殿下の直参となりました」

「知っているわ。

 あなたもともと勇者つきの魔導師だったわね。そう、あなたが」


 マーファに相づちを打つかのように、マルシアスも口を開く。


「勇者一行なら、いまはルキフール様とともにパンデリア城にいたはず?

 なぜここに?」

「事情はお話しします。それより……」


 ロヒインが横を見ると、ダークエルフ3名もそちらを向いた。

 そこにはかなりの数をほこる魔物の大集団があった。

 その中には指揮官らしき上級魔族の姿もある。


「奴ら、こっちに狙いを定めたらしい。

 奴らもさすがに俺たちの裏切りに気づいたみたいだ」


 両手の武器を構えるマルシアスに、ムチの根元をピンと張ったマーファが答えた。


「なに、こんな小童(こわっぱ)、即座に片づけて見せますわ!

 そぅれいぃぃっっ!」


 彼女が思い切りムチをふるうと、片手で扱うには長すぎるはずのムチがきれいにまっすぐ伸び、先頭のオークを容赦(ようしゃ)なく叩きつける。

 とたんマーファが高笑いする。


「オホホホホホっっ! 魔物が相手となれば、遠慮はいりませんことよ。

 フルパワーであなた方をぶったたいて差し上げますわっ!」

「その通りだ、それっっ!」


 マルシアスが両腕を交互にふるうと、そこから風の刃が飛び出した。

 当然群れの先頭にいる魔物たちの身体を切り裂く。


「ヴェルさん。躊躇(ちゅうちょ)してる場合ではありません。

 一刻も早く奴らを片づけて、我々が潔白(けっぱく)であることを証明せねば」

「なーに言ってんだか。

 言っとくけどアタシ、こんな人間を見たら見境なく(おそ)ってくる連中、大っキライ。

 遠慮なくやっちゃうよ?」


 顔を見合わせて不敵に笑うロヒインとヴェル。

 2人ははじかれるように前に飛び出した。

 魔導具の効果もあってか、ヴェルのほうがまたたく間に敵陣に飛び込んだ。

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