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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第7章 勇者、魔界のジャングルを進む
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第41話 コシンジュの誤算~その3~

 大海岸では、騎馬兵たちが4つの巨大魔族におそわれていた。

 陣頭指揮に立つディンバラの目前にあるのは、赤い色をしたレッドドラゴン。

 その額は1本角らしく、それが途中でぽっきりと折れている。

 間違いない、これが竜王ファブニーズだ。

 竜王と騎馬隊の距離は離れているが、吹きかける炎のブレスは熱気にあおられるだけで、かなり熱い。


「くそっっ! まったく前方に進めんっ!

 人間では我慢できても馬にはムリだっ!」


 後ろを見ると、ファブニーズとは対象的に全身を真っ白に染めたドラゴンの姿がある。

 まるで結晶を全身に張り付けたかのような質感。そして全身からは白い煙のようなものがたちのぼっている。

 こちらが吐きかけてくるのは白いブレス。おそらく氷結のものだろう。


 暴れる馬と悪戦苦闘しながらも、側近のランゾットが馬を近づけてくる。


「将軍っ! 敵はこちらだけでなく、両翼の騎馬隊におそいかかっている模様ですっ!

 あれを見てくださいっ!」


 熱気を防ぐため顔に手をかざしながらも、ディンバラは前方に目を向ける。

 反対方向の騎馬隊がいる場所には、全身を甲殻(こうかく)におおわれ大量の砂を吐きかける細長い巨大魔物、そして海辺からは2つの頭を持った青いドラゴンが水を吐きかけている。

 対面する騎馬隊もほんろうされているようだ。


「くそっ! あれはワームとサーペントだっ!

 おのれ奴らめっ! 我ら騎馬隊にドラゴンの王たちを差し向けたか!

 おそらくはすべてドラゴニュートだっ!

 おかげで我々に知られることなく接近することができたわけだ! 完全にしてやられたぞっ!」

「落ち着いてください!

 あれだけの巨体、きっと大砲のいい的ですっ! 彼らの攻撃を待ちましょう!」


 だがランゾットの言う、他の部隊の攻撃がない。

 見れば近くにいる弓隊は騒然(そうぜん)としている。

 崖の上を見れば、重量があるはずの大砲が下に向かって落下している。


「ダメだっ! 他の伏兵が攻撃を始めているっ!

 彼らの援護は絶望的だっ!」


 ランゾットが「そんなっ!」と叫んだとき、震動とともに背後でドンドンと音がひびいた。

 振り返ると、白い竜がこちらへと近寄ってくるではないか。

 誰かが「クソッ! ドラゴンに食われるっ!」と叫びをあげた。


『やめろっ! 人間どもの命を奪うなっっ!』


 思わぬ場所から大きな声がひびき、白い竜の動きが止まる。

 正面に向き直ると、ドラゴンが炎を吐きかけるのをやめている。


『我らがすべきは牽制(けんせい)だっ! あれほど命を奪うなといったではないかっ!

 命令に背くならば、殿下より先に私がお前に(ばつ)を下すぞっ!』


 そう言うと、ふたたび竜王は炎の息を吐きかける。

 後ろのドラゴンも立ち位置を変えずに白い息を吐き続ける。

 騎馬兵たちは必死にその攻撃に耐えるしかない。


「しかたがないっ! 我々は(すき)を見て撤退(てったい)するぞっ!

 少なくとも我々自身が命を奪われる心配だけはないからなっ!」


 言われてもランゾットは必死に首を振り続けた。





 一方の弓隊では、別の魔族が攻撃にさらされていた。

「ホホホホホホホホッッ! さあ、かわせるものならかわしてみなさい!」


 そこでは長身でスタイルの整った身体を、一部が露出したレザースーツでおおう女ダークエルフが、とてつもない長さのムチを縦横無尽(じゅうおうむじん)に操る。

 片手で扱っているにもかかわらず、ムチはまるで意志を持ったかのように兵士たちにおそいかかる。


「なんなんだありゃぁっ!

 あの女の手に持ったムチ、あんな長いのに正確に俺たちにおそいかかって来やがるっっ!」

「ホホホ、そうでございましょうっ!?

 このわたくしの操る『リグレッドウィップ』は魔導具の1つ。

 我が魔力に答え、思うがままに暴れてくださるのよっ!」


 ウィネットは舞うようにムチをふるい、弓兵たちをほんろうする。

 ほとんどが彼女の攻撃で手元の弓を失い、拾い上げようとしても彼女に追撃されてうまくいかない。

 何人かはすでに逃げ出していた。

 あわてて後方の兵士たちが入れ替わろうとするが、逃げたり引きさがったりする兵士たちに阻まれ、思うようにいかない。


「ホホホホホッ! (おど)っていなさいっ!

 あなたたちにファブニーズさまらを攻撃させるわけにはいきませんのよっっ! ホホホホホホッッ!」


 ウィネットはクルクル回りながら、容赦(ようしゃ)なくムチを払い続ける。

 これだけ熾烈(しれつ)な攻撃を仕掛けているにもかかわらず、ウィネットが当てるのは兵士たちの武器だけで、身体にムチの先が当たることはない。

 その器用さもまた兵士たちを戦慄(せんりつ)させる要因となっていた。





 弓兵は別の場所にも配備されていたが、そこにもまた襲撃者(しゅうげきしゃ)の姿があった。

 胸や腰などの一部分以外の肌をさらけだし、残った場所を白い毛皮でおおう少女のような姿のダークエルフ。

 彼女の両手にはするどいかぎ爪のついた手甲(てっこう)が握られている。

 並んだ3つの刃はどれも大きく、まがまがしい。


「ほれほれ、どうしたのみんな。

 ひょっとして、アタシが可愛いからチュウチョしちゃってる?

 遠慮(えんりょ)せずに、どんどんかかっちゃいなよ」


 一部の弓兵たちが、いっせいに矢をつがえる。一部が「化け物っっ!」と叫んだ。


 ところが少女の姿は見えなくなってしまう。

 すると兵士たちの前を一瞬で過ぎ去る影があった。

 気がつけば、つがえていた矢は弓ごと断ち切られてしまっていた。


 弓兵の集団のわずかな合間を、目にもとまらぬ速さでかけぬける影がある。

 兵士たちは誰も気づかぬまま、あとで自分の弓矢が失われたことに気づく。


 しかし、影の動きが止まった。

 兵士たちが目を向けたとき、上空で2人の男の肩を一方ずつの足で踏みつける少女の姿があった。


「アハハハハ、みんなついていけてないね~」


 そしてダークエルフの少女、ヴェルは片方のかぎ爪をかかげた。

 顔は突然不機嫌になる。


「あとみんなアタシのこと化け物っていうけどさ。

 アタシのすばやさの半分は、この『スウィフトクロウ』のおかげなんだよね。

 こいつには不思議な力があって、アタシの魔力に反応して身体の動きを早くしてくれるんだよ。

 見た目だけで人を判断するなよ?

 ってアタシ人じゃないか、アハハハハ」


 乗っかっている人物が倒れそうになったので、ヴェルは素早く飛び降りてきれいに着地する。

 直後に何者かがおそいかかった。


「死ねぇぇぇぇぇっっ!」「おおっとぉっ!」


 後ろを向いていたにもかかわらずさらりとかわしたヴェルは、相手が剣に持ち替えていたのを確認する。

 同時に弓兵たちが腰の剣を一気に引き抜いた。

 それを見て彼女は手を裏返して親指で鼻をさすった。


「わかった。直接やろうってわけね。

 言っとくけど、それでもみんなの勝ち目はないよ」


 兵士たちが立ちむかってくる前に、ヴェルの姿がまた見えなくなった。

 警戒する兵士たちだが、気がつけば目の前に彼女の姿が現れ、かぎ爪をふるうとあえなく剣が払い落される。


「ほらほらぁ。アタシから見れば、みんな止まって見えるよぉ~?」


 気がつけば、その場にいた兵士たちはほとんどが素手の状態になっていた。

 ただ1人、この時たまたま剣に覚えのある者がいて、そのものが「えいやぁ~っ!」と真っすぐ剣を突き刺すと、ヴェルの動きが止まった。

 むき出しになった小麦色の二の腕に、一筋の傷がついてそこから血がこぼれおちる。

 ヴェルは少し(おどろ)いた表情になった。


「おやおや。てっきり弓矢しか能がない連中ばっかりと思いきや、けっこういい腕してんじゃん。

 なんで騎士になんないの?」


 相手はその声に答えず、「えいやぁ~~っ!」とふたたび叫んで剣を振りかぶる。

 対するヴェルが「とうっ!」と言ってかぎ爪をつきだすと、振り下ろした剣が爪と詰めの間に挟み込まれた。

 剣士が「なにぃっ!?」と言っている間にヴェルは「えいっ!」と腕をひねると、堅い剣はあっけなく2つに折れた。

 剣先が勢いで高く飛ぶ。

 あ然とする兵士たちの1人に、その切っ先がもろに突き刺さった。


「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

「えっ!? なにっ!?」


 ヴェルが振り向くと、剣先はその兵士の肩に深々と食い込んでいる。

 彼はもがき苦しみながら地面に倒れた。

 そこでヴェルは、兵士たちがおどろくような行動に出た。

 倒れた兵士の元に駆け寄り、その身体を抱き起したのだ。


「ごめぇ~~~んっ! 痛いよねっ!

 待ってて、いま治療魔法(ほどこ)すからっ!」


 周囲があ然とする中、肩に突き刺さった剣を抜いて手をかざし、静かに呪文を唱えるダークエルフの少女。

 やがてかざした手から、ぼんやりと光が現れる。


「ホントゴメンね。

 誰も痛い目にあわせたくなかったんだけど、さすがにそれは無理だったみたい。

 やっぱりカンペキとはいかないや」


 申し訳なさそうな顔を浮かべるヴェル。それを見る者たちは皆困惑(こんわく)している。

 彼らの頭の中で、想像していた魔族像が根底から崩れた。


「アタシ魔法は苦手だけど、治療魔法だけは必死で勉強したから、安心してね」

「お、おい、何をしている。あの化け物、スキだらけだぞ?」


 呼びかけたのは、兵士を傷つけた剣の持ち主だった。

 必死に仲間たちの肩をゆさぶるが、振り返った彼らは一様に首を振り続ける。


 それで我慢がきかなくなったのか、いまだ剣を腰に差している仲間のそれを強引に奪い取り、それをヴェルに突きつける。


「化け物めっっ! そいつから離れろっ!

 さもなくば斬るっっ!」

「なんでよ? アタシ、アンタの仲間を助けようとしてるの。

 出血もひどいから急いで治さないと」


 ヴェルは全く目を向けることがない。

 一見油断だらけの敵に、剣士の顔が(みにく)くゆがんだ。


「……しぃぃぃぃぃぃぃねやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!」


 するとヴェルがこちらを見ないまま「邪魔……」と言って何かを放り投げた。

 とたんに剣士の動きが止まる。

 その脳天には、先ほど彼女にたたき折られた剣の先が突き刺さっている。


「邪魔したアンタが悪いんだからね。

 死んだとしても、アタシ知らないから」


 兜のすきまから血を流し無様に倒れ込む剣士を無視して、ヴェルは治療を続けた。





 (がけ)の上では、バリスタ隊が上空からの攻撃にさらされていた。

 あわてふためく兵士たちは、誰もが口々に「デーモンだぁ~~~っっ!」と叫んでいる。


 彼らの言う通り、上空には翼を生やした獣人の姿があった。

 獣の額からは大きな角が2つ生え、手には炎に包まれた手甲のようなものがはめられている。


 その手甲を前に突き出すと燃え盛る火の玉が現れ、バリスタにぶつかると小さな爆発を起こして、あっという間にも火が燃え広がる。

 デーモンは上空から叫びをあげる。


「恐れよっっ!

 我はデーモン族長ベアール、並びにゾドラ2代大帝の侍従(じじゅう)、エルゴルである!

 我が手にするのは魔導具『インフェルノガントレッド』ッッ!

 この灼熱(しゃくねつ)(しょう)から解き放たれる炎弾の威力は、見ての通りであるっ! 」


 言いながら炎弾を放ち続けるエルゴル。

 逃げ(まど)う人々を見送る中、視線の先に隊列を組む兵士たちの姿が見える。

 そのどれもが狙撃銃を手にしている。


「聞けっっ! 我が絶大なる魔力の前に、お前たち人間がかなうことはないっ!

 魔王殿下並びに大帝陛下のお慈悲(じひ)により、抵抗しなければむやみに命を奪うことはせぬっ!

 逃げうせよっ!」


 もっとも端に立つ指揮官が「放てぇ~~っ!」と声高に叫び、手にした剣を上空に向けた。

 ヒザをつける兵士たちが狙いを定め、火を放とうとする。


 エルゴルは急降下し、銃弾をかわしながら拳をかかげた。

 それをまっすぐ突き出すと炎の弾がはなたれ、狙撃兵たちのすぐ目の前を吹き飛ばした。

 はじかれた土にあおられ、兵士たちが倒れ込む。


「おろかなっ! 貴様らなど命を奪わなくとも十分っ!

 これで逆に頭を冷やせっ!」


 そう言ってエルゴルはさらなる追撃を見舞う。

 兵士たちは矢継ぎ早に逃げだし、前方には誰もいなくなった。

 エルゴルは念のため周囲に目をこらし、狙っている兵士がいないと悟ると再び翼をはためかせ、空に舞い上がった。





 狙撃兵はエルゴルに立ち向かった者たちだけではない。

 しかしその大半が、別の戦士によって妨害を受けていた。


 胸元を大きくはだけたロングコートの男が、両手に持った奇妙な武器をふるう。

 拳を握りしめられるほどのグリップの功の部分に、無数の刃が取り付けれているのだ。


 それを大きくふるうと空気のゆがみが生まれ、ライフルをにぎる男たちのもとに向かう。

 男たちが思わず銃で身をかばうと、そこから大きな火花が飛んだ。

 見れば銃身が大きく断ち割られ、着ている防具にまで溝が開いているではないか。


「ひっ、ひぃぃっ!」

「い、いてぇぇっ! 身体を鎧ごと切り裂かれたぁっ!」

「みんなしっかり防御しろよ。

 さもないとケガするだけじゃなく、命まで落とすからな」


 ゆっくりと近づくダークエルフの男マルシアスは、余裕が出ると片方の拳をかかげる。


「こいつは『エリアルダガー』っつうんだ。

 おれの魔力がコイツに反映して、強烈な真空波を出すようになってる。

 だが今回はやたらと殺すなって命令を受けてるんで、威力をある程度抑えてる。

 もしそうじゃなきゃお前らみんなオダブツだぜ?」


 その時、横から別の銃撃隊が現れた。

 それらがいっせいに構えをとる前に、マルシアスは華麗に両手のダガーをふるい、彼らの手に持つ銃を傷つけていく。

 一部は銃が使い物にならなくなったと悟るが、こりずに銃口を向ける者もいる。


「おおっとぉ、その銃はもう使わない方がいいぜ?

 聞いた話だけど、ムリに使えば暴発して、ふっ飛ばされちまうらしいからな」


 それでも1名、ひるまずに銃口を向ける者がいた。

 銃身が傷付いているにもかかわらず、マルシアスは呆れた顔ですばやく動き、大きく片手を振りあげた。


「ぬうおっ!」と言って倒れた兵士が離したライフルが、空中ではじけ飛ぶ。

 まわりの兵士が「うわぁ!」と言って身をかばった。マルシアスは立ち止まって一息ついた。


「フゥ、危ない危ない。わかっただろ?

 俺らは別にお前らを取って食うつもりはない。

 わかったらあきらめて、さっさとおうちに帰んな」


 マルシアスは兵士たちが絶望感に打ちひしがれているのを見て、意気揚々とその場を歩きだした。





 崖のふちでは、端のあたりから次々と轟音(ごうおん)がひびき渡っていた。


「いっくよぉ~~~~~~っ! えいっっっ!」


 子どもと思えるほど若いデーモン族の少女、ピモンが手にするのは、身の丈よりずっと大きい巨大なハンマー。

 それを軽々とふるい、叩きつけた大砲を次々と崖の下へと突き落としていく。


「つぎつぎぃ~~~~~~~~っ! えいっっっ!」


 少女はまるでおもちゃのハンマーのごとく、巨大なそれを矢継ぎ早に叩きつけていく。


「何て力だ。あれが、デーモン族の力か……」

「なんて恐ろしい。

 見た目はあんな子供なのに、あそこまでバカ力があるだなんて……」


 本来なら大砲の列に張り付いている兵士たちは、それをだまって見守るしかない。

 近づけば相手の巨大なハンマーに叩きつけられ、命を落とすのは目に見えているからだ。


 ところが突然、ピモンが崖の下をのぞき込んだ。

 額に手をかざし、肩に巨大ハンマーをかけてじっと目をこらしている。


「み~なさ~~んっ! だいじょうぶですかぁぁ~~~~~っっ!?

 うえからたいほーがどんどんおちてきますからぁ、き~をつ~けてく~ださ~いねぇ~~~~~っ!」


 それをスキと思ったのか、数人の兵士が無謀(むぼう)にも彼女に向かって剣を手に特攻を開始した。

 仲間の「早まるなっ!」の声にも耳を貸さず、必死の勢いで少女デーモンに飛びかかっていく。


 ところが、ここでピモンが気付いたそぶりを見せ、すぐに振り返った。

 ポカンとした表情ではあったが、それだけで兵士たちは足を止める。


「あんれぇ~? みなさんどうしたんですかぁ~~?

 こんなところにいたら、あ~ぶな~いで~すよぉ~~?」

「ダメだ……こいつ、まったくスキがない……」


 兵士たちはあきらめて後ずさりしはじめた。





「オラオラどうしたぁっ!?

 お前らそんなデッカい盾を構えといて、オレの剣じゃ防げないってかぁぁっっ!?」


 ピモンの兄ドゥシアスは意気揚々(いきようよう)と暴れ回るが、彼が手にしている武器もまた、その背丈を大きく超えるほどの大剣だった。

 彼が相手にするのはストルスホルムの「赤錆(あかさび)騎士団」。

 多くが全身を隠せるほどの巨大な盾を構えるが、相手がそれをも上回る巨大剣を振りまわされては防ぐ者も防ぎきれない。


「なんなんだよぅっっ! このガキはぁぁっ!

 ちっこいくせにあんなでっかい剣をブンブン振り回しやがってぇぇっ!」


 1人が泣きそうな声をあげるとドゥシアスがすばやく詰め寄り、横から大剣を叩きつけた。

 相手は大きくのけぞり、「ぬうあっっ!」とヒステリックな声をあげる。


「子供だからって甘く見てんじゃねえぞっ! だいたいオレはバカ力じゃねえっ!

 オレ様の武器、『マウントバスター』はオレの絶大なる魔力に反応して、デカくても振り回せるようになってんだっ!

 どうだっ、オレさまの絶大な魔力、思い知ったかっっっ!」


 言いながら巨大剣を相手の盾にガンガン叩きつけていると、突然高くとびあがった。

 ぼう然と見上げる騎士たちの真上から舞い降り、高く振り上げた剣を思い切り相手の盾に叩きつけた。

 騎士が腰を抜かして倒れるなか、持っていた大盾が半分断ち割られてしまった。


「は、はいぃぃぃぃぃっっ!

 思い知りましたぁぁぁぁぁっっ! もうバカにしませぇぇぇぇんっっ!」


 泣きながら股間(こかん)から湯気を出す騎士に対し、ドゥシアスは「へへへ」と笑いながら鼻の下をこすった。

 もっとも、騎士たちは大剣をかかえるドゥシアスを見た時点で気が動転していたのだが。

 ここでドゥシアスが騎士たちの群れに向かって突然指をさした。


「あ、言っとくけどオレの妹も『クウェイクハンマー』っつう同じ効果の武器を振りまわしてるはずだから、気をつけろよ?

 あいつポケッとしてる奴だから下手したらすぐオダブツだかんな?」


 他にも似た能力を持つ戦士がいると知って、騎士たちはみな肩の力を落とした。





 一方母親のウィネットは、敵軍の中でも最もやっかいと思われるキロンの「紫套(しとう)騎士団」と対峙(たいじ)していた。

 強力な遠距離攻撃を放つ魔導師を、周囲にいる騎士たちが守る。

 どちらも紫の外套(がいとう)を見にまとっている。


 もっとも、このような者たち相手に苦労するウィネットではない。

 彼女はデーモン由来のすばやい動きで騎士たちに詰め寄る。

 彼女が手にするのは、内側に取っ手がついた巨大な円盤である。


 無論ただの円盤ではない。

 そのふちは鋭利な刃になっており、振り回せば強烈な斬撃となる。

 たとえ女性でもデーモンの力では剣と盾で防ぎきることができず、騎士たちは「うわぁぁっ!」といってのけぞる。


「食らいなさいっっ!」


 ウィネットは逆関節の足を突き出し、騎士の胴鎧を蹴り飛ばした。

 吹き飛ばされる騎士のあおりを受けて仲間たちも一緒に草むらに倒れ込む。


 矢継ぎ早の蹴り攻撃に、魔導師を取り囲む騎士たちは地に伏していく。

 守るもののいなくなった魔導師の前に、自らを取り囲む円輪を構えるウィネットの姿がある。

 フードの中から見えるワシ鼻の仮面がブルブルと震えている。


「ちっ、近寄るなバケモノっっ!」


 そう言って杖を前に構える魔導師だが、次の瞬間杖の先がなくなっていた。

 これでは肝心の魔法攻撃ができない。

 ただ目の前でにらみつける黄色い瞳を見ていることしかできない。


「バケモノ、そう言いましたね?

 気をつけなさい。私の夫は、そういう言葉に非常に敏感(びんかん)ですから」

「いたぞあそこだっ!」


 ウィネットが振り向くと、別の魔導師部隊が遠くに立っていた。

 ウィネットがすばやく動くと、魔導師の前方をすばやく炎の矢が通り過ぎる。


 おびえる魔導師をしり目に、ウィネットは新たな敵陣に詰め寄る。

 しかし今度の兵士は前方に守りを固め、スキを見せない。これではたんに叩きつけることはムリだ。


 まわりこむこともできたが、それでは相手の無防備な部分を傷つける心配がある。

 故に彼女は手にした円輪を高くかかげ、クルリと反転させ真横に構える。


 騎士たちの裏にいる魔導師が杖を上にかかげた。

 そこから火の矢が飛び出すと同時に、ウィネットも円輪を思いきり投げつけた。

 その場を横に転がり火の矢をかろうじてかわすと、巨大な円輪が騎士たちの盾にぶち当たったのを確認する。


 それでも騎士たちがひるんだ様子はない。

 しかしウィネットは冷静だった。手を前にかざすと、放り投げられたはずの円輪は1人でこちらへと戻っていき、ウィネットの手にふたたびおさまった。


「なんということだっ! 魔力武器っ!? なんと恐ろしいっ!」


 魔導師の驚く声が聞こえ、ウィネットの顔に笑みが浮かんだ。


「魔導具、『メガチャクラム』と言います。

 これをひとたび投げれば、どのような結果が起こったとしてもそのままわが手に戻ってくることができるのです。

 これを使いこなすには相当な魔力の持ち主でなければなりません。あなたではとても無理です」

「ボサッとしている場合かっ! これでも食らえっっ!」


 魔導師が再び杖を高くかかげる。

 しかしそのその少し前にふたたびウィネットは円輪を投げつけ、それが今度は相手の杖を真っ二つにした。

 魔導師は杖を下ろすやいなや、「あいえぇっ!」というすっとんきょうな声をあげる。


 それを見た騎士たちが、魔導師を放り出して我先に逃げ出した。

「おい、待てっ!」と叫ぶ魔導師だが、誰も言うことを聞かない。


 武器を持たない状態でウィネットと1体1になる魔導師だが、ふたたび円輪を手にした彼女は丸腰の彼を無視して、別方向を歩きだした。


「お、おいっ! なぜだ、なぜとどめを刺さないっ!?」

「とどめを刺す? あなたはゾドラにおける民の声を知らないのですか?

 殿下は寛大(かんだい)なお方です。許しをこえば、必ずやお聞き下さることでしょう」


 そう言ってそばを通り過ぎるウィネット。

 魔導師はがく然とし、その場にヒザを落とした。

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