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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第7章 勇者、魔界のジャングルを進む
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第41話 コシンジュの誤算~その2~

 断崖の中央付近、戦場が一望できる場所に連合軍の本陣が置かれている。

 そのさらに中央、各国の代表たちが馬に乗ったまま、はるか前方のおびただしい船団の数々を見据える。


「いやはや、あらためて壮観であられるな。あれがゾドラの海軍か」


 素直に驚嘆(きょうたん)の意を述べるペルドル王に対し、フェルナン総督が静かに首を振る。


「我ら都市国家海軍の総力をあげても、あれだけの数を防ぐことはできません。

 ここはあえて身を引き、敵軍をこの浜辺に上陸させるより他にございません」

「そして地上部隊の全力をもって一網打尽にする、というのはわかります。

 ですがどうにも、()に落ちません」


 不安そうなリーン王に、離れた場所からノイベッドがうなずく。


「このまま上陸すればまずいことなど、敵軍はお見通しです。

 きっと何らかの対策(たいさく)を講じているに決まっています」

「さしずめ、魔物の軍勢が押し寄せるであろう、という考えですな」


 誰も次の声に返事をしなかった。

 声をかけたのはチェザーレではなく、リスベンの将軍職にある男だった。

 彼はリスベン軍の総代として陣頭指揮を任されているのだった。


 この者が優秀であれば、5人の君主たちは納得できただろう。

 だがこの男、話によればチェザーレの単なる腰巾着(こしぎんちゃく)にすぎない。

 要するに、彼はどこか離れた場所に身を隠すチェザーレの身代わりでしかないのだ。

 本当の指揮をとるあのいまいましい若造はいったいどこに行ったというのか。


 マグナクタ王は深いため息をつきつつ、陣営の左手奥にある円形の入り江をながめた。

 そこには魔物たちの襲撃に備えてかなりの兵が置かれているが、どうにも()に落ちない。


「ペルドル王、しばしよろしいでしょうか」


 うなずいた相手が少し馬を進め、マグナクタ王へと近づくと耳を(かたむ)けてくる。


「どうにも納得できません。

 魔王軍が黒騎士たちの上陸の時間稼ぎにやって来るにしても、今すぐやってこられてはそちらの方も一網打尽(いちもうだじん)です」


 話を聞いていたらしく、そばにいるリーン王が声をかける。


「ありうる話ではありませんか。

 カンチャッカ山の戦いでは、魔王は作戦の途中でポータルをふさいだそうですな。

 魔王が目的のために自らの兵を捨て(ごま)にすることは、十分考えられるではありませんか」

「前とは状況が違います。

 我々はあの入江に十分に目を光らせているのですぞ?

 今回そのようなことになれば、必要な犠牲(ぎせい)ではなくただのムダ死にだ。

 それに、おとなしく捨て駒にされるような魔物ではない。

 おそらく不測の事態を警戒しているはずだ」


 正論を言われ、リーン王はふてくされた顔になった。

 他の君主たちから見ればこの男はそれほど賢明ではない。


「考えられますのは、やはり軍の中にいる例の巨大魔物、ですね」


 ノイベッドが指摘すると、フェルナンはうなずいた。


「その通り。だがそれもいまいち納得できません。

 我々は海に向かってすべての兵器を構えているのだ。

 それらをいっせいに浴びて、なお無事でいられるなどと……」

「なにをおっしゃられる? 魔族なのですぞ?

 どのような恐ろしい怪物が現れたとしても不思議ではない」


 リーン王からまともな意見を出され、君主たちは2重の意味で意気消沈した。


「みなさまっ! あれをごらんくださいっっ!」


 リスベンの将軍が前方を指差し、彼らはいっせいに前を見た。

 ゾドラの船団の中から、巨大な何かがうねる波とともにこちらへと向かってくる。


 無数の波が、白い浜辺に打ち上げられる。

 浜辺に配置された主力軍がおびえているかのようにうごめくが、波が届くにはまだ距離がある。


 しかし、今度こそ騒然(そうぜん)とした。

 海から向かってきた巨大な影は、どんどん上へとせり上がっていくのだ。

 想像したよりも、ずっと上へと。

 それとともに、大地が震動を始めた。

 それはやがて次第に大きくなり、馬たちがおびえて身じろぎしだす。

 君主たちをはじめとするそれを操る者たちはそれを必死になだめる。


 やがて前方を見据える余裕ができたとき、人間たちは誰もががく然とした。


 意外とも思えた。

 浜辺に現れたのは、人の姿をした巨大な赤い影だった。

 ただし、大きい。

 果てしなく大きい。

 断崖に立つ君主たちですら、見上げる必要があるほどに。


 やがて巨人が完全に砂浜に立つと、君主たちもかなり顔を上へと上げざるを得なかった。

 人間たちは誰も声をあげない。

 「巨人」と形容するにも、それはあまりにも巨大だった。


 やがて巨人はゆっくりと動く。

 それが深く息を吸う行動だと気づくのにも、人間たちは時間が必要だった。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!」


 あまりの大音量。人間たちは誰もが両耳をふさいだ。

 大巨人が発した大声は、耳を破るのではないかと思えるほどのものであった。

 やがて巨人が咆哮(ほうこう)をやめると、我に返った人々があわてふためく。


「ばっ! バケモノだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」

「巨人だぁぁぁっ! 助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」


 このままでは兵士たちが逃げ出してしまう。

 とっさに状況を判断したペルドル王が、そばにいる側近に大声をあげる。


「ひるむなぁぁぁっっ!

 あれはただの巨大な人型だっっっ! 恐れることなどないっっ!」


 はっとしたマグナクタ王も(げき)を飛ばす。


「あれだけの巨大さをほこるということは、大砲を当てやすいということでもある!

 遠慮(えんりょ)するなっ! 集中砲火を浴びせてやれっっ!」


 言われ断崖に立つ無数の砲台が、次々と火を噴いた。

 大砲だけではない。巨大な矢を放つバリスタ、魔導師の遠距離魔法、狙撃銃。

 それらすべてが断崖から、あるいは浜辺からいっせいに打ち放たれる。

 それらはすべて、避けるにはあまりに大きすぎる巨体の中へと吸い込まれた。


「おやおや、思った以上の勢いじゃないか」


 あまりの巨大さゆえ、普通の声もこちらへと余裕で届く。

 そばではつんざくような大砲の爆発音が聞こえているにもかかわらずだ。


「だけどムダだよ。

 アタシを、普通の巨人だと思っちゃいけない」


 リーン王が思わず「なにぃ!?」と叫ぶ。巨人の耳に届いているかはわからない。

 マグナクタ達は相手の様子を冷静に見守る。

 しかし、いつまでたっても相手が致命的なダメージを負っているようには見えない。


「アタシの身体はねえ、図体だけじゃないんだよ。

 この身体、普通のオーガより、よっぽど頑丈(がんじょう)にできている。

 あんたたちがいくら物騒(ぶっそう)な武器をぶっ放したところで、アタシには効かないよ」


 そういうことかと、王たちは頭をかかえた。

 どおりで大巨人がまっすぐこちらへとやってくるのである。

 今回の戦いは、自分たちの負けだ。

 この巨人が暴れまわれば、わが軍はひとたまりもない。

 早くも全滅(ぜんめつ)を覚悟した。


「とはいっても、いつまでも防げるわけじゃない。

 ここは1つ、アタシも腕をふるわせてもらうよ」


 それは巨人の撤退を意味していたが、喜んではいられなかった。

 巨人が手に持つこれまた超巨大な棍棒を、あり得ないほど天高く振り上げたからである。


 それが、一気に大地に叩きつけられた。

 それだけで、自分たちが立つ断崖(だんがい)がありえないほど大きな()れに見舞われる。


「「「「ぐうわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」」」」


 断崖に立つ者はだれもがしがみついた。

 馬の身体に、防護壁に、立てかけた旗に。地面についた槍に。

 なにももたない者はただ大地にしがみつくしかない。


 揺れは収まったが、同時に叫び声も聞こえる。


「わあああっ! 助けてくれぇぇぇっっ!」


 断崖の一部が崩れ、それに足を踏み外した兵士たちが、岩にしがみつき必死で助けを求める。

 仲間たちは助けようとするが、誰もが全身をわななかせていてうまくいかない。

 王たちは考えた。

 きっと間に合わずに転落した者も少なくないに違いない。


「おやおや、やりすぎちまったみたいだね。

 やっぱりちっこい人間相手にはやりずらいよ。

 身体も傷んできたし、アタシにできるのはここまでみたいだね」


 そいういうと大巨人はクルリと振り返り、背中を向けて海へと舞い戻っていった。


「いたた。さすがに最新兵器は身体にこたえるね。

 それじゃ、あとは頼んだよ」


 ある程度海水につかった後の、巨人のつぶやき。

 マグナクタ王は思わず声をあげた。


「あとは……たのん、だ……?」


 思わず入江の方に目を向けるが、底に穴があいている様子はない。

 一体何の意味だ? 考える前に遠くから声がかかった。


「でんれぇぇぇぇぇぇぇっっ! でんれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」


 王たちが右翼方面の方を見ると、そこから息を切らせて走ってくる兵士の姿が見える。

 兵士は息も絶え絶えに、王たちの前にひざまずいた。


「一大事っっ! 一大事にございますっっっ!」

「落ち着けっ! 落ち着いて次第を報告しろっっ!」


 ペルドル王は言うが、その前に皆の目がいっせいに別のほうに注がれた。


 いったいどこから現れたのか、断崖から浜辺に降りることができる緩やかな傾斜(けいしゃ)に、新たな巨大生物が現れた。

 先ほどの巨人に比べればだいぶ小柄だが、それでも人を恐れさせるには十分な巨大さがある。


 しかもそれが4つも。

 そのうちの2つはあきらかにドラゴンで、血で染められたような赤と、日に照らされなお光るきらびやかな白に染められている。


 いったいこれほどの巨大生物、いつの間にわが陣営に入り込んだというのだ?


「……そうかっっ! ドラゴニュートかっっ!」


 ペルドル王が「ドラゴニュート?」とつぶやくと、すぐに顔をあげた。


「おのれっ! 人間のふりをしてわが陣営に(まぎ)れ込んだかっ!

 おそっているのはどの部隊だっ!」

「騎馬隊、騎馬隊でございますっっ!」


 伝令の声に君主たちはまたしても頭をかかえた。

 リーンが吐き捨てるように言う。


「くそっ! 肝心(かなめ)の主力をおそわれたかっ!

 これじゃ我々は翼をもがれたも同然だっ!」

「あきらめるなっ! まだ遠距離兵器はおそわれていないのだろうっ!?

 直ちに援軍を差し向けよっ!」

「いやっっ! それは無理だっっっ!」


 ペルドルの声をあわてて制したマグナクタ王。

 相手が見ると、その顔には驚愕(きょうがく)の色が宿っていた。

 それほど、こちらの顔は蒼白(そうはく)になっているに違いない。





 コシンジュ達が案内されたのは、高台にあるバルコニー。

 ルキフールにうながされ手すりの前に立つコシンジュ達は、てっきり広大な魔界の森を見せられるかと思いきや、意外な光景にがく然とさせられた。


 そこにあったのは、おびただしい数の魔物の数々。

 見たことのある、あるいはない異形の数々が、ひしめき合って視界をおおわんばかりに渦巻いている。


 しかし、視界一面ではない。

 魔物たちの群れの先には、なぜかポッカリと開かれた荒れ果てた広場がある。

 そこには魔物の影は1匹たりとも見つからない。


 見上げれば、そこにも魔物の群れがある。

 翼をもつ、あるいはなくても空を舞うことのできる魔物たちが、いまでは見慣れた暗黒の空のあちこちを飛び回っている。


「これだけの数、いったいどれほどの規模があるというんですか……」


 ロヒインが声を震わせて言うと、ルキフールが離れた場所から下を見下ろす。


「ざっと、『4万』はくだらんだろう」「そんなにっっ!?」

「これでも強引に(けず)った数だ。

 ここにいる魔物どもはどれもが人間の血が見たいといきり立ってるからな」

「これだけの数、作戦が中止になったら、いったいどうなるんだ?」


 舌を指差すコシンジュの声で、全員がそちらを見た。


「むやみやたらに暴れるであろうな。

 奴らの怒りの矛先は、我ら司令部に向けられる」

「それじゃ、デーモン族やダークエルフのみなさんは……」


 コシンジュはロヒインを見た。

 ただでさえ白い肌がさらに血色が悪くなっている。


「さあて。危機を察して殿下たちがかけつけられると思うが。

 もちろんお前たちにも助力してもらうが。被害は小さくすむとは思えんな」


 誰もが口を開かない。

 魔界に住む者すべてが悪ではないことは、痛いほど思い知らされている。

 ここにいる魔族を外に出さない限り、魔界は再び血塗られた内戦へと突入するのだ。


「他に……他に道はないのかっっっ!」


 返事がないので、コシンジュはズカズカとルキフールへと歩み寄る。


「何か言えっ! ルキフールッ!」

「言っただろう。

 我々はそれほど、まずい状況に置かれていると」

「言いやがるっ! ふざけるなっ!

 なにが魔界一の切れ者だっ! 大した策も思いついてねえじゃねえかっっっ!」

「確かにな。

 ならお前は何か言い策を考えついたのか? 時間はたっぷりと用意されていたぞ?

 それとも一方的に私に期待して自分では何も考えなかったか。

 (おろ)か者め、貴様に脳みそはあってもそれを使わなければ、ないも同然だ」


 コシンジュはその言葉で何かがブチ切れ、思いきり小柄な魔物の胸倉をつかもうとした。


「アナキサンドラザムンッッッ!」


 突然目の前が反転する。

 気がつくと、コシンジュはルキフールから離れた場所で崩れ落ちていた。

 ロヒインがすぐにかけつけるが、彼女の顔には怒りよりも(おどろ)きのほうが濃かった。


「これが反射魔法!?

 早すぎる。いくらなんでも詠唱が早すぎる……」

「なにを言う? 私は数千年を生きる魔界の最古参なのだぞ?

 魔導の力など、知りに知り尽くしておる」


 コシンジュは顔をしかめつつ、立ち上がろうとした。

 ロヒインが取り押さえる。


「落ち着いて。ゆっくり考えるんだよ……」


 考える? どこをどうやって?

 選択肢はたった2つしかない。そのどちらもが大きな代償(だいしょう)を払う。

どちらを選択するにしろ、絶対後悔しかないに決まってる。


「コシンジュ、選択しろ。

 少なくともルキフールの出した策では、北の大陸に被害はない」


 イサーシュを見る。

 その冷徹(れいてつ)な瞳は、となりにいるムッツェリですら戦慄(せんりつ)させる。

 だがコシンジュは不思議には思わなかった。

 彼は愛国心のかたまりだ。ランドンさえ守り切れば、あとはどうなろうが知ったこっちゃない。


 それに比べ、自分はどうだ?

 なにも決断できず、ただ甘えているだけだ。

 この期に及んでまだ、誰もが助かる奇跡のようなシナリオがどこかにあると思い込んでやがる。


「時間がない。早く決めろ。

 さもなければ人間同士の(みにく)い争いが始まるぞ。

 それだけは、なんとしてでも阻止したいのだろう?」


 ルキフールが無情にも告げる。

 コシンジュは片手で頭をかかえる。

 時間はないが、考えるしかない。きびしい選択だが、考えるしかない。


 いや、選択は2つだけなのか? 本当にそれだけなのか?

 魔物であるルキフールには考えつかない、別の選択もあるんじゃないのか?

 いや、ここにいる全員にできない、自分にしかできない選択。そんなものはないのか?

 なにか、なにか見落としているような気がする……


 コシンジュは、頭の中が真っ白になった。


 しかしそれを顔に出さないよう、必死に平静をよそおった。


「ルキフール、おれは決めた。決めたよ……」


 言われ、小柄な老魔族は何度もうなずく。


「よくぞ決断した。

 最もあとで選択肢を変えられるのは困るがな」


「“魔王軍を、カンチャッカに送ろう”。


 いまのオレにはそれが一番の選択に思える」


 ロヒイン達が騒然(そうぜん)とする。

 思いのほか、意外だったようだ。


「おい、いいのかそれで?

 そしたら魔王たちの立場が危ないんだぞ?」


 消え入りそうなチチガムの声を、別の大声がおおいかくす。

 トナシェだ。


「そんな問題じゃないでしょう!

 ゾドラの人たちは、本国に目を向けてないんですよっ!?

 もし魔物の群れが現れたら、あそこにいる人たちがどうなるんですかっ!?」


 それを聞いてはっとしたチチガムは、ますます弱々しい声をかけてくる。


「おい、本当に大丈夫なのか?

 そんなことしたら、お前の気持ちはどうなる?」


 コシンジュは返事をしない。

 思わずチチガムが声を荒げた。


「コシンジュッッ! わかってるのかっ!? 被害にあうのは人間なんだぞっ!?

 お前あれほど、人間が犠牲(ぎせい)になるのをいやがってたじゃないかっ!」


 父の言ってることは、的を得ている。

 だがコシンジュは父親に向かっていった。


「じゃあ魔族は見捨てていいってっ!? わかってるだろっ!

 人間にしろ魔族にしろ、程度の差で生きていることには変わらないっっ!」

「だが魔族たちとは違うんだっ!

 ここにいる連中は覚悟を決められるが、ゾドラにいる人々はそれができないぞっ!」

「いや、コシンジュの選択は正しい」


 その言葉を告げたのは、ほかならぬチチガムの弟子だった。


「魔物がゾドラを(おそ)えば、帝国は立ち上がれないほどの被害を受けるだろう。

 その上魔王たちも追い出されるんだ。

 昔の(うら)みを引きずって北に攻め入ろうなどと、考えなくなるに違いない」


 チチガムが驚きの表情で彼を見るが、絶句して何も口にできない。

 ここでだまって話を聞いていたロヒインが、コシンジュの肩をつかんで言った。


「ねえ、本当にこれでいいの?

 コシンジュ、それって本当に考えた末に出した結論なの?

 ねえ、ねえったら……」

「ロヒイン、オレには考えがあるんだ。

 覚悟はきちんとできてる。だからよけいなことを言わないでくれ」


 見れば彼女の顔には不審(ふしん)の色が見えていたが、コシンジュは必死に平静をよそおった。


 絶対に、その時が来るまでは、自分の考えを悟られてはいけない。

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