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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第7章 勇者、魔界のジャングルを進む
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第41話 コシンジュの誤算~その1~

誤算というからには……フラグです。

 戦はまず沿岸で向かい合う船団同士の、大砲の打ち合いで始まった。

 波しぶきで海上に壁ができるほどの激しい打ち合いであったが、互いに距離をとりながら牽制(けんせい)し合うかのような打ち合いだったので、両軍に大きな被害はなかった。


 しかしやがて、北方の都市国家海軍が徐々に左右に分かれる。

 それにつられてゾドラ海軍もゆっくりと前進していく。もともと海上戦は序幕にすぎないのだ。

 見る者にはとてつもなく激しいものであるにかかわらず。


 最初はその撃ち合いをおどろきの目で見ていた魔族たちであったが、やがて言葉を失っていく。

 マルシアスがかぼそいこえでつぶやく。


「何てはげしい(いくさ)なんだ。

 これが、これが人間界の戦いか……」


 となりにいるマーファは思わず髪をかきあげる。


「わたくしたちのやり方とは、本質的に違いますわね。

 少々無骨で、あまり生産的ではないやり方」

「だが、驚異(きょうい)的だ。

 技術が進めば、我々の身も危ういかもしれぬ」


 エルゴルの言葉にズメヴ兄弟は「「うむうむ」」とそろってうなずく。


「おいおい魔王サマッ!

 まさかオレたちに、あんな大爆発の中に飛び込めっていうんじゃないっすよねぇっ!?」


 見た目には少年にしか見えないドゥシアスが、海上戦を指差しながら不安そうな顔をファルシスに向ける。

 それを見た母親のウィネットがクスクスと笑う。


「あれだけ自信満々のことを言っておいて、もしかしてビビってんじゃないでしょうね?」

「び、びびび、ビビってなんかねえよ母ちゃんっ!

 ただむやみに突っ込んでムダ死にになるのだけはイヤだっ!」


 あわてふためく少年の姿を見て、周囲がクスクスと笑う。

 それを見てドゥシアスはふてくされて彼らを見まわした。

 ファルシスは苦笑したあと、声をかけた。


「案ずるなドゥシアス。作戦はきちんと考えてある。

 お前は命の心配をすることなく、着実に任務をこなせよう。

 ただし……」


 ファルシスが司令官席のひじ掛けをコンコンと叩くと、魔族全員がこちらを向いた。


「この場にいるお前たちはどれも精強だが、その戦いぶりにはそれぞれ特徴(とくちょう)がある。

 もし配置を間違うことがあれば、いかに優れた魔戦士といえども命を落としかねん。

 絶対に余が指定した持ち場を離れるな」


 全員がうなずく。

 ただ1名、ドラスクだけがポケットに手を突っこんだままそっぽを向いた。


「そしてもう1つ。連合軍の兵士を意図的に殺すな。

 不意の事故は仕方ないが、敵兵士をむやみに殺すことは、絶対に許さぬ!

 もしこれを破った者は、たとえお前たちであっても厳罰(げんばつ)に処す。

 そのつもりで」


 強調して言うファルシスに、ヴェルが短い髪に手をかざして声をあげた。


「了解であります!

 自分の目標は死亡者数ゼロですっ! 必死になるつもりでがんばりますっ!」


 それを聞いて何人かがクスクス笑った。

 ヴェルはつい「な~によぉ~」とふくれっ面で見まわすと、スターロッドは笑いまじりの声をかけた。


「高い目標をかかげるのはよいが、お主自身が命を落とさぬよう、気をつけるのだぞ?」

「おばあちゃん! ったく、いつまでも子供扱いして!」


 両手を握って抗議するヴェルに、スターロッドは不敵な笑みで両手を組む。


「当然じゃろ。お主はわらわの大事な孫娘なのだぞ?

 心配するのもムリはあるまい」

「もぉ。心配するんならこっちのチビッコ2人にしてよぉ~」

「んだとぉっ!? やんのかてめぇ!」

「あらぁドゥシアスくん、怒っちゃったぁ?

 ケンカ買ってあげてもいいけど、戦いが終わってからにしてよね~」


 ふんぞり返るヴェルに、相手も拳を強く握って「望むところだっ!」と叫ぶ。

 横でなぜかピモンが「だ~っ!」と拳を高くかかげる。

 配下たちが笑うなか、ファルシスは別の方向を見る。


「ここの者たちはほとんどそれをわきまえておる。

 なのにわざわざ口にしたのは、ドラスク、お前のことだ。聞いているのか?」


 まったく笑わないドラスクは、険しいまなざしをファルシスに向け、「フン」とだけつぶやく。

 そこでファブニーズが片手を胸に当てて頭を下げる。


「ご安心を殿下。

 今回はこの竜王も同行しますゆえ、奴が狼藉(ろうぜき)を働かぬよう善処します」

「うむ、頼んだぞ」


 ファルシスの返事を聞き、ベアールは両手を軽く広げる。


「やれやれ、俺とバアさんはここで居残り、か」

「どうしたベアール? お前も戦場に立ちたいか」

「それもありますけど、どっちかっていうとドゥシアスとピモンが心配です。

 もっともウィネットがいるから大丈夫、とも思いますけど」

「あらあなた。わたし自身の心配はしてないのかしら?」

「オヤジぃ。何度も言ってるだろ?

 オレたちゃ魔王サマのオスミツキを得てんだから大丈夫だって」

「ドゥシアス。

 たしかに余はお前を精鋭(せいえい)として呼んだが、それを軽んじて好き勝手に暴れていいとは言っていないぞ?

 ちゃんと己の身に気をつけろ。言っておくがこの場にいる全員だ。わかったな」


 ほぼ全員が笑みを浮かべつつも、「はい」とうなずく。

 ここで全く表情を変えることのないニズベックが声をかける。


「殿下、余談は良いですが時間が押しております。

 すぐに我らの配置についての説明を」

「よかろう。それでは全員、前方を向け」


 言われ、全員が向き直った。

 ドラスクでさえしぶしぶとそれに従う。


 前方には、いまだ水しぶきをあげる沿岸が見える。

 しかしその向こうは敵の船団が2手に退き、白い海岸線が見えてきた。


「では説明しよう。まずダークエルフの3人は……」





 同時刻。

 コシンジュ達はルキフールの呼びかけで、広大な謁見(えっけん)の間に足を踏み入れた。


「諸君。ここまでの長き滞在(たいざい)、御苦労であった。

 諸君らがお望みの、決戦が間近に(ひか)えておる」


 勇者一行の何人かが互いに顔を見合わせる。

 ここでロヒインが一歩前に進み出た。


「ルキフール陛下。

 もったいぶるのはけっこうですが、一体いかなる策を持ってゾドラ軍を止めるのです。

 いいかげんお教えください。そして我らはいったい何をすべきなのですか?」


 ルキフールはしばし沈黙し、重々しく口を開いた。


「買いかぶるな。

 この魔界一の策士とて、今回の作戦には熟慮(じゅくりょ)を要したのだ。

 それだけ、我らの置かれた立場は危ういものとなっておる」

「もしや、ルキフール様も作戦を決めかねておられるのですか?」


 相手が「うむ」と答えると、仲間たちからざわめきが聞こえた。

 コシンジュがそれをだまって見つめていると、ルキフールの視線がこちらに向いていることに気づく。


「いや、考えていることはある。

 ただ、それを決めるのは私自身ではないと結論付けた」


 そしてルキフールは、ゆっくりとしわがれた人差し指を向けた。


「結論を出すのは、コシンジュ。そう、お前だ」


 全員の視線が、こちらに集まる。

 一方のコシンジュは当然のごとく考えていたので、真剣なまなざしを相手に向けた。


「なるほど、オレに決めさせようって腹か。さすがだぜ」


 老魔族は鼻で笑い、おもむろに指を2本立てた。

 ピースサインではないのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ。


「2つ、プランがある。

 そのどちらかを選ぶのは、お前自身だ」

「もったいぶってないで早く聞かせろ」

「あせるな。じっくり聞かせてやる。


 まずその1.『魔王軍を所定のトロイーナ大海岸ではなく、カンチャッカ火山に差し向ける』」


 仲間全員がざわめいた。これが意味するのは一体なにか。

 しばらく黙りこみ、コシンジュは口を開く。


「……おい、ちょっと待てよ。

 そしたらゾドラに住む人たちはどうなるんだ!?」

「言うわりには顔がおどろいてないぞ?

 コシンジュ、私がこれを言うのは予測できたのだろう?」


 代わりにトナシェが質問を投げかける。


「でもおかしいじゃないですか。

 魔族軍はゾドラの黒い鎧ではなく、それ以外の兵士を倒すよう命令されているはず。

 それが指示された場所とはまったく別のところに送られたら、奴らはいったいどうなるのか……」

「おや? お(じょう)ちゃん、

 私はなにも、“特定の相手を攻撃しろ”と命令はしておらぬぞ?」


 トナシェの顔に戦慄(せんりつ)が走った。

 思わず後ずさると、横からネヴァダが身体を支える。

 ルキフールは追い詰めるかのごとく、身体の向きをそちらに変えた。


「たとえ命令を出さずとも、裏切られたと知った奴らは見境なく暴れるようになるだろう。

 カンチャッカポータルから魔族軍が押し寄せたと知って、ゾドラの大兵団は引き返さざるを得ない。

 ゾドラ本国の被害は大きなものになるが、北は無傷だ」

「それじゃ、魔王は……エンウィーさまは!?

 いったいどうなるっていうのさっ!?」


 ネヴァダがあせったような声をあげる。

 母国の危機に彼女の心も動揺(どうよう)しているようだ。


「魔王殿下には、すでに伝えてある。

 2代大帝も覚悟を決めたと、私は聞いておる」


 ネヴァダがつい、「そんな……」と口ごもる。


「女、これは戦争なのだ。

 一度火ぶたが切られた以上、誰も傷つかずに終わることなどできん。

 何らかの血が流されねば、ことは収まらぬ。そのことをしっかりと学べ」

「まだ……まだもう1つのプランを聞いてねえぞ?」


 コシンジュがつぶやき、全員がそちらを向いた。

 彼らの目には複雑に満ちた表情が見えていることだろう。

 一方のコシンジュはただまっすぐルキフールを見据えるだけだ。


「そうさな。ではもう1つ、


 その2.『魔族軍の地上への派兵を直ちに中止する』」


 今度もざわめいたが、いささか安堵(あんど)しているようにも見える。

 だがコシンジュは顔色を一切変えなかった。


「確かにそれは理想的だな。

 もっとも、さっきよりかは、だけど」

「うむ。こちらであれば、南北両側に被害者が出ることはない。

 ゾドラ軍どもの殿下に対する疑問が生じるであろうが、なに、問題が起きてポータルを開くことができなかったとでも言えばよい」


 仲間たちの中には納得する表情の者もいたが、コシンジュの次のひとことで静まり返った。


「だけど、あんたが迷うほどなんだろ?

 どうやらその選択、裏があるみたいだけど?」


 人間たちの視線をいっせいに向けられ、ルキフールの顔に笑みが浮かんだ。


「そうとも。

 だがそれを語る前に、まずは見てもらいたいものがある」


 そう言って、ルキフールはあらぬ方向へと歩き出した。

 コシンジュ達は互いに目配せしながらも、仕方なしにそのあとをついていくことにした。


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