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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第7章 勇者、魔界のジャングルを進む
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第40話 大陸間戦争~その2~

ちょっとややこしい説明が多いですが、今後重要になりますので、頭の片隅にでも置いといてもらえたらありがたいです。

 遠洋を巡航(じゅんこう)していた監視艇(かんしてい)から、ゾドラ船団接近の知らせが入った。


 すでに大編成を組んで遠征(えんせい)に出ていた北大陸の各国の軍隊が、敵の目的地と思われる南の沿岸、『トロイーナ大海岸』へと兵を進める。

 北大陸各国の中心に位置し、政治、経済ともに安定しているランドン王国もまた、海岸へと向けて多くの兵を引き連れていた。

 政治体制としてはすでに共和制を()いている当王国であるが、軍の直接の指揮権はいまだ国王であるマグナクタ5世が持つ。


 この時も彼は憲章に従い評議会の承認(しょうにん)を得て、嫡子である王子、将軍ディンバラ、騎士団長ランゾットらが率いる大軍勢を引き連れ、一路大海岸を目指した。


 途中先に大海岸付近にあった野営地にて、ランドンの元評議会議員で今は隣国ベロンにて国主の任を負っているノイベッドと合流した。

 彼は評議員となる前は軍の技術開発局にいたため、軍の指導に関してもある程度心得がある。


「これはこれは、国王陛下。お久しゅうございます」


 会うなり両手で握手しようとするので、国王も喜んでそれに答える。


「国王陛下、か。

 かく言うそなたも一国の主ではないか。そう改まることはないぞ」

「ノイベッド。

 ずいぶん久方ぶりではないのか? どうだ、ベロン国内の現状は?」


 となりに立つ王子もまた、まんざらでもない表情だ。

 ノイベッドはうなずいてメガネを直す。


「おかげさまで、評判は上々です。

 技術的には前時代的である分、新しい技術を湯水のごとく吸収しておりますよ。

 手配してくださった補佐(ほさ)のビーコンの手助けもあり、なにかと不器用なわたしでもなんとか君主としてやっていけてます」


 後ろからベレー帽をかぶった男性が現れる。

 聞いていた年齢より若い印象だ。


「ビーコンです。マグナクタ陛下、お初にお目にかかります」

「お主の評判は聞いておる。

 たしかキロンの大魔導院出身だそうだな」

「最初は魔術の勉強をしておりましたが、魔法と科学の橋渡しをする錬金術の魅力に触れて転向しました。

 おかげでノイベッドさまとベロン魔導師団との交渉にも大いに役に立っております」

「ロヒインとも昵懇(じっこん)の仲だそうだな」


 言われ、ビーコンは照れくさい笑みを浮かべた。


「昔の話です。

 彼は優秀すぎるゆえ、なにかと周囲とトラブルを起こしがちだったのでいろいろ助けてあげたのです。

 シウロ導師とともに院を経ってからはほとんど連絡を取っていません。

 思い出して久方ぶりに会いたい気持ちがわきましたよ」

「今彼は重要な使命をかかえておる。悪いがまみえるのはまだ先のようだな」


 それを聞き、ノイベッドは考え込むようにあごに手を触れた。


「勇者たちですか。

 どうやら魔王討伐には失敗したようだが、何か考えがあるらしいですね。

 もっともそれがなんなのか見当もつきませんが」


 マグナクタ王もしぶい表情で深くうなずく。


「もっともだ。彼らの援護(えんご)はあまり期待しないほうがよかろう。

 とりあえず今は我々も自力でなんとかせねばならん」

「もっともです。他国の出兵の状況はどうですか?」


 ノイベッドの詰問(きつもん)にディンバラ将軍が答える。


書簡(しょかん)でやり取りした結果、次のことがわかっています。

 北方ストルスホルムは遠方ゆえ、到着にはまだしばらくかかるとのこと。

 キロンのほうは海軍を使い、近々大海岸付近へと上陸するとのことです」


 ビーコンが口をはさむ。


「リスベン軍はすでに大海岸に到着している模様です。

 今頃は都市国家連合軍と折衝(せっしょう)をしている頃と思われます」


 リスベン、その名を聞いて何人かの顔色がくもった。


「兵の数はどのくらいだ」


 ビーコンが書類に目を通す。

 とたんに顔をしかめた。


「あまり多くはありません。試算すること、およそ2千」


 全員がため息をついた。マグナクタ王はうんざりした口調で言った。


「少なすぎる。我らは1万5千の兵を出しておる。

 なのにたったこれだけか。出し惜しみととられても仕方あるまい」


 ふたたびメガネを直したノイベッドの顔には珍しいくらいの不機嫌な表情が浮かんでいる。


「我らベロン軍の半分にも満たないとは。

 大海岸での戦いが敗北に終われば、奴らだって非常に厳しい状況に置かれるだろうに」

「ノイベッド、そなたらの軍はどうなのだ?」


 王に問われ、新国主の顔がますます険しくなる。


「再編成は進んでいますが、あまりに時間がなさ過ぎました。

 わが軍の主力の大半が旧式の重装兵です」

「ふむ。『金鱗(きんりん)騎士団』か。

 代々続くしきたりで騎士たちが互いに美を競い合ったうえ、前王によってますます華美を極め、実用性よりも装飾ばかりが目立つ鎧をまとう者たちだな。

 果たして戦場で役に立つものか」

「ホスティ団長の指揮のもとで、統率力は高いです。

 ですが前線に立つにはいささか不向きかと。

 やはり主力としては陛下の兵のほうが期待できそうです」


 王子のほうが不敵な笑みを浮かべた。


「わが父の兵? ノイベッド、お前の兵でもあるだろう。

 お前が鍛えた新装備、諸国の兵たちも(ちぢ)みあがっているぞ」


 ビーコンがうれしそうな顔で口をはさんだ。


「『青紋(せいもん)騎士団』ですね?

 ノイベッドさまが作られた最新鋭の合金鎧、わたしも見るのが楽しみです」

「ビーコン、ランドン王国軍の真価はそこではない。

 むしろ魅力を感じるべきは一般兵のほうにある。

 最新鋭の狙撃銃、バリスタ、大砲。ランドン国の兵器は押し並べて優秀なものばかりだ。

 これからの時代はそちらの方が主力となるだろう」

「これはこれは。

 ひょっとするやサコンヴァ率いる魔導師隊の出番はなくなってしまうかもしれませんな。

 おっと本人に聞かれていたらまずいな」


 ランゾットがあわてて口をふさぐしぐさをすると、その場に笑いが起こった。


「もっとも、キロンの『紫套(しとう)騎士団』もバカにできません。

 魔術の発達した国ゆえ、軍の編成は魔導師を中心としたもの。

 騎士たちも魔導師を防衛するように鍛錬(たんれん)を積んでいます。

 あの国はしばらくその戦術でもつことでしょう」


 ランゾットの自慢げな声にうなずき、ディンバラも口をはさむ。


「ストルスホルムの軍もまた、タワーシールドを利用した防衛中心の布陣。

 軍の主力がそうした『赤錆(あかさび)騎士団』たちゆえ、ゾドラの黒鋼にも十分対抗できるでしょう。

 こりゃ、リスベンの『緑旗(りょっき)騎士団』の出る幕はないかもしれませんぞ」

「惜しむらくは、各国の軍の戦術がこれほどまでに大きく違うということだ。

 たがいの関係がより緊密であればより強い結束で結ばれるが、今はとにかく時間が足らん。

 全軍がそろうころにはすでにゾドラが迫っていることだろう」


 マグナクタ王の声で、ほぼ全員が考え込むしぐさになる。

 唯一ノイベッドが口を開いた。


「とにかく、いまは大海岸に急ぎましょう。

 細かい戦略を()るには各国の指揮官が集結するのを待ってからです」


 マグナクタ王はうなずいた。

 その表情には、すでに戦いにおもむく将としてのおもむきが現れていた。





 後日、ランドン・ベロン両軍は海岸付近の野営地に到着。

 そこでリスベン・都市国家連合軍と合流する。

 もっとも大きなテントの中に入ると、見覚えのある白ヒゲの男性が立ち上がる。


「これはランドン国王どのっ! お待ちしておりましたぞ」

「バンチア総督(そうとく)、フェルナンか!

 なぜだ!? ここは貴殿の管轄(かんかつ)ではなかろう!?」


 言われて聡明な都市国家の支配者は、申し訳なさげな笑みを浮かべる。


「それが、どうもこのあたりを所領とする『サマリノ共和国』の総督は、急に病に倒れまして。

 代わりにこのわたしが連合の代表として指揮(しき)を任されたのです」

「急病? おかしいですな。

 サマリノ総督閣下(かっか)はつい先日まで壮健(そうけん)であったはず。それがどうして急に?」

「そうわざとらしい言い方をされても困ります。

 まああの臆病者(おくびょうもの)に陣頭指揮を任されるくらいなら、自分の思う通りに動かした方がやりがいはありますからな」


 そう言って2人して豪快(ごうかい)に笑う。

 しばらく待って、ビーコンが口をはさんだ。


「しかし問題が解決したわけじゃないでしょう。

 都市国家群の主力はもっともらしく『虹色騎士団』と呼称されておりますが、実際は7つの都市ごとの騎士団がそれぞれ違う軍旗をかかげているだけのこと。

 全体としてのまとまりがなく、都市間が絶えず緊張(きんちょう)状態にあるため有事の際の連携が取れるかどうかは疑問です」


 フェルナンはわかったことをと言わんばかりに不機嫌な顔を向けた。


「若き軍師。

 たしかに君の指摘する通りだが、我々が衝突する原因はだいたい互いの領土にかかわるいざこざだ。よって大抵が陸戦となる。

 対して海上戦では各都市が一丸となって海の敵に立ち向かう。

 我々のことを甘く見ないでいただきたいものだな」

「海の敵、ですか。それはどのくらい前にやってきたのです?

 フェルナン様が生前のころの話でしたら、はっきり言って未経験と言っていいと思います」

「言ってくれる。

 そのことを申すのなら、私が生まれたあとも都市国家はたがいに戦争を起こしてはいないぞ?

 陸戦も未経験というつもりか? それはお主らの国も同様であろう」

「ご無礼を申し上げました。

 若輩者ゆえ、細かいことがどうも気になってしまいまして」


 ビーコンは慇懃(いんぎん)に頭を下げる。

 ここであらぬところから声がかかった。


「……このところ北の大陸は目立った戦争がありませんからね。

 平和なことはいいですが、戦乱の長かったゾドラの屈強な兵士たちに、それでどこまで対抗できるのやら」


 誰も目を向けようとしなかった。

 テーブルの奥に座る、腕を組む男性が怪しげな笑みを浮かべる。

 年齢はまだ若いが、髪の色は老化したかのように真っ白だ。


「リスベン元老院議長、『チェザーレ』か。

 貴公も自ら陣頭指揮をとるつもりか?」


 マグナクタ王が問いかけると、チェザーレはより一層口の端を吊りあげた。


「いえ、見学です。

 戦争というものは、政治を学ぶものにとってはいい勉強になりますので」


 フェルナンがいまいましげに口をはさんだ。


「だったらもっと学べ。

 我らが軍は2万を超える。各国の中で最も多い数だ。

 そなたの国も海洋国家。もっと今の情勢に危機感を持ったらどうだ?」

「フェルナンド殿こそ、出し過ぎでしょう。

 いくら今度の戦闘で敗北することが都市国家群の致命傷(ちめいしょう)になるとはいえ、それでは他の連合国の盾になるようなものです」


 フェルナンが「なに!?」と言って、チェザーレをにらみつけた。

 マグナクタ王があわてて彼をいさめにかかる。


「落ち着きなされ。今は仲間割れしている場合ではない。

 リスベンが足りない分を、友好国である我々が補えばいいのです。どうかこらえて」

「これはとんだ御無礼を。

 この男と接すると、どうしても抑えきれなくて……」


 フェルナンは恐縮する。

 自身が言う通り、ここまで荒げた態度に出ることが珍しかった。

 それほどリスベン議長は周辺国から嫌われている。


 リスベンは表向き古くからの共和制であり、歴史的にはランドンや都市国家群の先輩格に当たる。

 しかし実態はというと、すでに政体は腐敗(ふはい)し、近年では議長の座はチェザーレを配した一族によって独占されている。


 しかもチェザーレは一族の中でも、もっとも信用のおけない人物である。

 なにせかつては彼より有力な議長候補者が何人もいたのが、次々と謎の病に倒れ、一族の中では格下であったはずのチェザーレが年若くして議長の座を射止めたのである。


 彼にまつわる不穏な話はそれだけではない。

 チェザーレの治世になってからは国境の検問がひときわきびしくなり、同時に貧富の差が激しくなり国内の治安は悪化した。

 証拠はないが連合条約で禁止されているはずの武器の密輸にまで手を染めているという。

 最近ではゾドラの政変後、逃げてきた腐敗幹部たちの身をかくまっているというウワサまである。


 つまりチェザーレは、そういう人種なのである。

 今でも不遜(ふそん)な態度をとっているが、彼にまつわる黒いうわさを知る者たちはよけいに、彼のたたずまいから不穏な気配を感じずにはいられなかった。


「まあ、うまくやりますよ。それなりにね」


 そう言ってチェザーレはテーブルの上の皿に盛られたリンゴのひとつを手に取り、おもむろにかじりついた。

 あきらかに挑発とも取れる行動である。


 気を取り直すかのように、マグナクタ王は向き直った。


「キロンやストルスホルムからは、連絡は取れましたかな?」


 フェルナンはうなずく。


「ええ、伝書バトが届いております。

 キロン船団は現在、『ルタミア(みさき)』を無事通過、連合海域に入ったとのことです。

 あと数日でこちらまで駆けつけるとのことです」

「あと数日かかるのか。正直、もう時間がない」

「ストルスホルムはよりまずい状況です。

 時間を考慮(こうりょ)して陸路を選んだようですが、なにせマンプス山脈をう回せねばならぬため、かなり時間を食っているようです。

 このままでは当日に到着できるかどうかもあやしいですな」


 2人の白ひげの君主は、そろって自慢(じまん)のヒゲに手をかける。

 それを見て何人かが苦笑したのだが、チェザーレが最も大げさに笑ったので雰囲気が台無しになる。


「敵の軍勢はどうなっておる?」

「それに関してはしっかりと確認が取れております。

 船団の数と書類にある収容人数を考慮すると、その数、おおよそ『5万』」


 全員が絶句した。予想以上の数の多さだ。

 しばらくしてビーコンがようやく口を開く。


「なんてことだ。それほどまでに?

 魔王軍との戦いで疲弊(ひへい)してなお、それほどの軍を送り込めるとは……」

「魔王が『征服(せいふく)』ではなく、『併合(へいごう)』という道を選んだからだ。

 それゆえ帝国側の被害が少なかった。

 一方魔王軍の被害は甚大(じんだい)だったそうだがな」

「被害は甚大ですが、状況はまずくなりました。

 さほど労せずして手に入れた帝国軍を、魔王は意のままにあやつるすべを手に入れたのですから。

 おそらくは自身の配下と合同で攻め入ると考えられますな」


 マグナクタ王の声に、チェザーレは珍しく妥当な見解を示した。

 誰も文句を言えない。


「それを示す根拠が。

 どうやら船団は、陣営の中央に何やら巨大な生物を泳がせているようなのです」


 他の指揮官たちがいっせいに顔を向けた。

 フェルナンの表情はいっそう深刻だ。


水棲(すいせい)魔族か。

 おそらくはクラーケン。これは厄介な相手になるな」


 ランゾットの意見にノイベッドは首を振る。


「いや、クラーケンは陸地には上陸できない。

 恐らく引き連れているのは陸上でも活動できる超大型魔物だ。

 いずれにしてもそのようなものを連れだすことができるほど、魔王はいたく帝国軍に受け入れられているようだ」

「おそらくは別の援軍(えんぐん)も引き連れているはず。

 魔物の軍団か。これではこちらが数で優勢でも全く安心できない」

「海軍はおそらく馬を連れてはいないでしょうからね。

 その代用として魔物を代用するつもりでしょう。先が思いやられます」

「魔物ですか? そんなに恐ろしい存在なので?」


 魔物と遭遇(そうぐう)したことがないリスベン国の代表がうなずくと、遭遇した3国の代表はいっせいにうなずいた。


「勇者が通りかかった際に遭遇(そうぐう)した魔物どもは、どれも恐ろしい存在だと聞いている。

 我々は遭遇した兵士たちの意見を聞き、慎重な対策を練っている」


 マグナクタ王の意見にフェルナンはうなずいた。


「私はこの目でその脅威(きょうい)を見ている。ノイベッドも同様だ」

「我々が普段考えうる想像を、はるかに超えた存在だ。

 貴公も気をつけた方がいい」


 ノイベッドは忠告するが、理解するつもりがないのかチェザーレは相変わらずリンゴにかじりついている。

 3人の君主は内心大きく落胆した。


「かくなる上は、一刻も早く残る二国の到着を待つよりない。

 まずはキロンの船団の到着を待ち、あらかじめ討議した戦略を話し合おう。

 行軍中のストルスホルム公にも使いを送り、意見を求めるとしよう」


 マグナクタ王の意見に、ほとんどの指揮官がうなずいた。

 ただ1人、チェザーレだけが現実感がないかのようにぼう然とそれをながめる。

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