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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第7章 勇者、魔界のジャングルを進む
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第39話 おつかいの日々~その2~

引き続き新キャラ紹介です。もう少しご辛抱下さい。

「少々不安要素はあるが、デーモン族で今頼れるのは彼らだけだ。残りの連中も前に出ろ」


 後ろにいた4人が進み出た。

 彼らの姿もまた、エンウィーをおどろかせた。


「地竜姫、『ニズベック』です。よろしくお願いします」


 まずあいさつしたのは、ヴェルとドゥシアスの間の年ごろに見える若い少女だった。

 この地方にみられるものに似たレース状の白い衣服をまとっているが、これまた肌の露出が激しい。

 頼りなげなレースの間からのぞくまだ成長途中に見える細い両手と腰回りが、どことなくはかなげな印象を与えさせる。

 鼻から下をうっすらとしたレースでおおった顔も美しいが無表情で、どことなくこの世のものではない印象を与える。


「えっ!? キミがあのニズベックちゃんっ!?

 ついにドラゴニュートになったわけっ!? やべっ! すっげえカワイイじゃんっ!」


 思わずベアールがすっとんきょうな声をあげる。

 即座にデーモンの女性が黄色い瞳でするどくにらみつけたので、騎士はあわてて引きさがる。


「ドラゴニュート(竜人)? 彼女たちは皆ドラゴン族の王なのですか?」

「そうだ。そこにいるのは4属性のドラゴンの王たちだ。

 火竜ファブニーズはあの者たちの頂点に立つ。他の者もあいさつを」


 魔王にうながされ、今度は2人組の男性が前に出た。

 どちらも中年と思われるが、しかし驚くべきことに、

 2人は片方の腕が1つにつながっているのだ。

 左手の後ろになでつけた白髪の男性が頭を下げる。


「水竜王、『ズメヴ兄弟』にございます。以後お見知りおきを」


 続いてヒゲをたくわえた黒髪の男性が頭を下げる。

 こちらもまたオールバックになっている。


「いっけんシャム双生児のように見えますが、本来の姿は双頭竜です。

 我らは2つにして1つ。よって名称も『ズメヴ』と統一してもらってかまいません」


 どちらもぴっちりと頭髪を整えているが、裸の上半身のあちこちにベルトを巻きつけたラフな格好をしている。

 おかげで屈強な肉体があらわになっており、エンウィーを恐縮させた。


「よ、よろしくお願いします」


 思わず声がふるえてしまったが、2人はそれを気にせず「わはは」と笑う。

 黒髪のほうが若干豪快に見える。


 その場に一瞬の沈黙がただよう。

 エンウィーは最後の人物に目を向けるが、相手からは何も言ってこない。

 たまりかねてズメヴ兄弟が振り返った。


「おい、何をだまっている。

 殿下の命令だ、きちんとあいさつをしろ」


 言われても男性らしきそれはポケットに両手をつっこんだまま、身じろぎもしない。

 その間にエンウィーはその風体をながめた。


 全身白づくめ、といった印象だ。

 どこか違和感があるのは、彼がほかの者と違って露出の少ない衣服をまとっているからだろう。

 白いロングコートの中にも白いYシャツを着こみ、下のスラックスやにぶい光を放つ(くつ)にいたるまですべて真っ白な仕様だ。

 他の色が混じる様子は一切ない。

 白の印象を与えるのはそれだけにとどまらず、天をつくかのように逆立った髪も、ギザギザ模様を描く眉毛に至るまで銀に近い白に染まっている。肌の色も白に近い。


 男性の目が、チラリとこちらを向いた。

 ただでさえ不機嫌を顔に表している上に眼光も鋭いので、エンウィーは思わず「ひっ」と後ずさった。


「『ドラスク』。いいかげんにしろ。

 お相手の素性がどうあれ、こちらにおられるのは殿下の妃であられるぞ。

 そのような態度で済まされると思うのか?」


 ズメヴ兄弟の黒髪のほうが声にいら立ちを含ませる。

 白髪も同様に不機嫌な様子だ。


不愉快(ふゆかい)だね。まったくもって不愉快だ」

「「なっ!」」


 ズメヴ兄弟がそろって絶句する。

 ドラスクと呼ばれる男性はため息まじりに言う。


「まったく。なんでおれが人間ごときにあいさつをしなきゃいけないんだ。

 だいいち人間の女と結婚した殿下の心情が理解できん」


 やがて彼らの支配者に当たる者が前に出た。

 ファブニーズはいつの間にかローブ姿の人間体に変化している。


「氷竜王ドラスク。

 不満ではあるだろうが、殿下が誰を伴侶に選ばれようがそれはご本人の自由だ。

 お前が口を出すことではない」


 ドラスクの鋭い視線が、主であるはずのファブニーズに向けられる。


「あんたもあんただ。

 (ほこ)り高きドラゴン族の王が、いくら殿下の命令とはいえ人間どものために尽力する気になったんだ。

 あんたはいつそんな生易しい考え方になった?」


 文句ばかり言う白い男に対し、ファルシスは不敵な笑みを浮かべるだけだ。


「ほう、不服を申すか。

 ならばなぜ仲間たちとともに人間界にやってきた?」


 ドラスクはファブニーズのほうを向いたまま、横目だけを魔王に向ける。


「おれはあんたをいさめるために来たんだ。

 はっきり言って、おれはあんたらのやり方がこのままうまくいくとは思えない」


 ようやくファルシスに向き直った白い男はポケットから片手だけを出し、軽く上に向ける。


「人間と魔族の共存など、出来るわけがない。

 奴らは今のところは恭順(きょうじゅん)を示しちゃいるが、いずれ俺たちのことを恐れるようになる」

「ほう、ではどうすればよかったのだと?」

「普通のことを言わせるな。

 おれはそもそも強硬(きょうこう)派だ。人間どもは、力ずくでいうことを聞かせるに限る」


 それを真顔で聞いていたファブニーズが口をはさむ。


「私はどちらかと言えば中立派だったが、こちらの世界で過ごしているうちに考えが変わった。

 お前はまだ人間を知らぬ。いずれ私の考えが理解できよう」

「どうかな?

 あんたなんだかんだ言ってほだされてるんじゃないか?」


 ファブニーズが「なに?」と言うと、ドラスクはよりによってエンウィーに向かってあごをしゃくった。


「見ろよ。この女、なかなかの美人じゃないか。

 殿下、あんたどうせこの女に色目を使われてコロリと行っちまったんだろ?」


 エンウィーは一瞬めまいがして思わず身構えた。「い、色目……」


「「いいかげんにしろドラスクッッ!

 戯言(ざれごと)ばかり口にするようなら今すぐにでも魔界に戻ってもらうぞっ!」」


 ズメヴ兄弟がそろってどなり声をあげる。見事なハモリよう。ファルシスが引き継ぐ。


「誤解があるようだな。エンウィーにアプローチをかけたのは余自身だ。

 彼女は一切そのような態度に出たことはない」


 エンウィーは顔を真っ赤にしたままうつむいた。

 たしかに彼の言うとおりだが、あっさりと受け入れてしまったのは事実だ。


「フン、今日はこれくらいにしておきますよ。

 どうせ一日やそっとであんたらを説得できるなんざ思っちゃいない。

 そっちにその気がなくても、納得の得られる回答が帰ってくるまでおれはあんたらに張り付くつもりだ」


 そう言ってドラスクは出していた手をふたたびポケットに突っ込み、あらぬ方に身体を向けた。

 それに顔をしかめてみるズメヴ兄弟。他のメンバーの中にも何人かがいまいましげな視線を送る。

 エンウィーはあわてて取り(とりつ)った。


「ええっと! これで全員じゃないみたいですけど、あとどなたが来られるんですか!?」


 ファルシスは気を取り直したかのように笑みを向ける。


「そうあわてるな。

 最後のやつを迎える準備はすでにできている。あれを見ろ」


 そしてカンチャッカの火口に人差し指を向けた。

 見ると、来た時には煌々(こうこう)と赤く光る煙をあげていた小さな穴が、いつの間にか真っ黒に染め上げられている。


 その巨大な黒い円が、徐々に大きく広がっていく。

 目をこらすと、周囲にあった灰の山がうずもれている魔物たちのなきがらとともに、暗い穴の中に吸い込まれていく。


 気がつけば、黒い円の大きさはこちらでもはっきりと確認できるほどの巨大さになっていた。

 いったいどれだけの広さになっているのだろう。想像しただけでふるえあがった。


 突然、穴の中から何かが現れた。

 上につきあげられたかと思うと、穴のふちにしがみつく。それだけで地面が軽くゆれた。


 それが巨大な人の腕のようなものだと気づくのにそう時間はかからなかった。

 やがてより大きなものがせり上がっていくと、予想以上の大きさの物体が姿を現す。

 エンウィーは立ちくらみを覚えた。

 そばに寄ったファルシスが「おおっと」と言って、愛する妻をかかえた。

 ほんの少しの安堵をおぼえてふたたび目を向ける彼女だったが、やがて現れた物体の全貌(ぜんぼう)が見えてくるにつれ、またしてもめまいがするような思いだった。


 まさに「巨人」、と言うのにふさわしい姿だった。

 自分たちがいる場所はかなりの高台というのに、それでも少し目線を上にあげる必要がある、

 それほどの巨大さだった。


 やがて人型の巨大物体が、ゆっくりとこちらに近寄ってくる。

 それとともに大地の揺れが徐々に大きなものになっていく。

 めまいのせいもあるだろうが、ファルシスが抱きかかえていなければ立っていることができない。

 いったいどこで手に入れたのか、片手に巨人の身の丈にあった棍棒(こんぼう)を手にしている。

 あれもかなりの大きさのはずだ。


「なんていう大きさ。

 あれが巨人、という者ですか」

「奴は別格だ。

 普通のオーガはせいぜい20メートル弱なのに対し、奴はゆうに50メートルを超える」


「50メートル……」エンウィーはますます気が遠くなる気がした。


 気がつくと、目の前の巨人はますますこちらに近寄ってくる。

 火口は半円になっているため、近づくにつれ高く見上げなければならないほどになっていて、ますますエンウィーを困惑させた。


 突然、巨人の身体が下に下がり始めた。

 ヒザを斜面につけたかと思うと、ものすごい震動がおそいかかる。

 相変わらずのめまいがなかったとしても常人では立っていられないはずだ。

 ファルシスが支えていなければ今ごろ倒れているに決まっている。


 まだ距離があるのか、巨人は手をついて徐々にこちらに頭部を近寄ってくる。

 肌の色は赤く、対象的に長い髪は緑がかっている。

 というよりはむしろ、頭髪にすさまじい量のコケが生えていて頭部を覆い隠しているようなのだ。

 よく見ると肩のあたりにもコケが生えており、このあまりに巨大な生物が普段いかなる生活をしているのか想像力が働いた。


 長い髪で隠され、表情はうかがえない。

 圧倒的な迫力でもって頭部が前方をおおいつくすと、少しばかり異臭がした。


「……おやおや、そろいもそろって、アタシをお出迎えかい?

 まったくご苦労なこったね」


 意外な感じがした。

 巨人、という割には声質が少しばかり高い。言葉遣いにも若干の違和感がある。

 ファルシスがそっと話かけた。


「どうした、意外だったか?

 『彼女』はこう見えて女だ。

 エンウィー、巨人というだけで男だと決めつけたか?」

「いや、そういうわけでは……」


 困惑を隠せないエンウィーから視線を外し、ファルシスは当然のごとくなれたそぶりで話しかける。


「『レンデル』、久しぶりだな。

 相変わらずの迫力、このファルシスでもいまだに圧倒されるぞ」


「クククク。

 このアタシをわざわざこちらに呼び出したからには、よほどの大仕事があるみたいだね」


「当然だ。

 人間同士が、大陸間で圧倒的規模の戦争を行おうとしている。

 ぜひお前の力が必要だ」


「その割には、すでに大所帯じゃないか。

 これだけの数がそろっていながら、まだアタシの力が必要だっていうのかね?」


「目で見ただけでわかる、我々の圧倒的な力の象徴(しょうちょう)がほしい。

 たしかにお前の言うとおり、大巨人の役目は些細(ささい)なものになるかもしれんな」


 ここで、巨人はゆっくりと首を左右に向けた。


「そう言えば、会わせたい者がいる、と言っていたね。

 そいつはいま、どこにいるんだい?」


 ファルシスが肩をしっかり抱くと、エンウィーは軽く手をあげた。

 巨人はますますこちらに顔を近づけ、頭をゆっくりかたむけた。


「それは人間の女かい?

 小さすぎて、よく見えないね。いったい誰だい?」


「これでも我々が援護(えんご)する帝国の支配者だ。

 納得しずらいだろうが、これからは彼女を余と同列に扱ってほしい」

「難しいこったね。

 前に遠征に来た時もそうだが、人間ってのはあまりに小さすぎて、アタシの目には見えないんだよ。

 知らず知らずのうちに踏んづけちまうことだってありうるさ」


 50メートル級の魔物からすれば、人間というものはあまりにちっぽけな存在、ということらしい。

 対して自分と同じ背丈しかないファルシス達を認識できるのは、彼らが押し並べて高等な魔族であるからかもしれない。


「それは我々がうまく手配しよう。

 まずは我らの誘導に従い拠点(きょてん)ゾドラまで移動してもらおう」


「あいわかったよ。

 ところで、そのゾドラとかいう場所にアタシが入り込めそうな屋根はあるかい?」


「ゾドラ城はパンデリアと同規模をほこるが、実際に行ってみなければわからんな。

 すまないが野営することになるかもしれん。覚悟できるか?」


「ククク、こっちは生まれてこのかたずっと野宿の日々だよ。

 パンデリアの中がアタシにとって初めての屋根の下だよ」


「あのう、ちょっといいですか?」


 エンウィーが軽く手をあげたのに周囲は振り向くが、巨人がそれに気づいた様子はない。


「これだけの巨人、養える食料はあるのですか?

 わが国ではこの方の食欲を満たせるだけのものを用意できるとは思えませんが……」


 それを聞いた上級魔族たちはそろって低い笑い声をあげた。

 ファルシスも笑いまじりにつぶやく。


「そのようなもの、魔界にも存在しない。

 案ずるな、普通のオーガ族ならその心配をしなければならんだろうが、彼女の場合は頭から生えているコケからエネルギーを吸収できる。そういった魔力の持ち主だ。

 それ以外はごく少量の食料だけで満足できるだろう」


 話を聞いたヴェルが頭の後ろで手を組んで陽気に口をはさむ。


「ぶっちゃけアタシたちのほうが大食らいかもねー。

 なんつったってすっげえ魔力の持ち主だからさー」


 エンウィーはこっくりうなずいた。

 知っている。膨大(ぼうだい)な魔力を消費する分、上級魔族の食事量はかなり多い。

 小柄なスターロッドまでかなりの量の食事を平らげるのを見たときは、思わず絶句させられた。


「覚悟しておきましょう。それよりみなさん、移動のほうは大丈夫ですか?」

「その通りだ。

 ファブニーズ、ニズベック、そしてドラスクはドラゴン体に変化しろ。

 レンデルの案内はニズベックに任せる」


 ファブニーズとニズベックが会釈(えしゃく)して引きさがるなか、ドラスクは舌打ちをして動かない。


「はやくしろ! おれは水中じゃないと変身できないんだ!」


 ズメヴ兄弟が苦い顔で叫ぶと、ドラスクは頭の後ろをかきむしりながらしぶしぶ後ろに下がっていった。


 ファブニーズの身体が炎に包まれ、ニズベックの足元から砂煙が舞い上がる。ドラスクが両手を広げると、その全身が白い光に包まれた。


 エンウィーはまたも圧倒された。

 周囲には赤い翼を広げたレッドドラゴン、全身に甲殻(こうかく)をまとった超巨大な(へび)、そして全身を氷に包んだ飛竜が取り囲む。

 どこかから笑い声がひびき渡る。


「やっぱりドラゴンはこっちの姿に限るね。

 本来の姿のほうがアタシの目にははっきり映るよ」


 女巨人レンデルをはじめとした巨大生物たちに圧倒されるなか、エンウィーは横からヴェルに肩をかけられた。

 振り向くとその顔には笑みが浮かぶ。


「ドラスクのこと、許してあげてね。

 あいつドラゴン族の中では弱小の『ワイヴァーン』の出身だから、性格がヒネてんだよ。

 ホントはいい奴だから、言動だけで判断しないでね」


 エンウィーはぼう然とうなずくしかなかった。

 それを見たファルシスは意気揚々と声をあげた。


「さあ、城に戻るとしよう。マージたちのおどろく顔が目に浮かぶぞ」





 それから数日後、女巨人の姿は大砂丘にあった。

 無数の軍勢に囲まれ、レンデルは悠然(ゆうぜん)と砂の海を渡る。

 彼女からしてみれば広大な砂漠を渡るのも単なる散歩にすぎず、物資をかかえたタウレットの集団も子亀にすぎない。


 軍団の中に魔王たちの姿はない。

 彼らは後日合流する予定だった。ゾドラ海軍が港湾にて準備を進めているのも含め、大軍勢が北の対岸にたどり着くには、まだ日付があった。

一気にキャラが増えましたが、邪魔にならないようがんばりたいと思います。

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