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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第7章 勇者、魔界のジャングルを進む
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第38話 混沌の世界へ~その4~

「あーもうびっくりした。マドラちゃんの知り合いってんならもっと早く教えてよね。

 おかげでうちの連中がビビって逃げ出しちゃったわよ」


 長すぎる髪の後ろで腕を組む女性は、身体に何も衣服をまとっていない。

 が、長髪のおかげで肝心な場所がうまく隠れている。

 髪色は下に座るバラとおなしく真っ赤で、肌は少し緑がかっている。


「そんなこと言わないでくださいよ。

 女王様、まさか俺もこんなところで再会するとは思わなかったんですから……」


 ロヒインの肩で恐縮するマドラゴーラ。

 コシンジュは顔を真っ赤にして必死にクイーンに目を向けないようにして質問する。


「女王様? お前ら、前からの知り合い?」


 するとクイーンは目を丸くして片手のひらを上にあげた。


「知り合いもなにも、彼、このあたし、

『ドライアナ』の『フィアンセ』よ」

「……はぁ?」


 レリス以外の全員わけがわからないという顔つきになる。

 コシンジュと同様に顔を真っ赤にしてうつむいていたイサーシュとチチガムも同様だ。

 それを見てマドラゴーラは深いため息をつく。


「はあ。言いたくなかったんですけど、俺、

『アルラウネのオス』なんですよ」

「「「「……はあぁぁぁぁぁぁっっっ!?」」」」


 コシンジュ達は今度こそすっとんきょうな声をあげた。

 それを聞いたクイーンのドライアナが高らかに笑う。


「あははははははっ! ビックリするのもしょうがないわね!

 だってアルラウネって、オスとメスで全然姿がちがうもん!」


 コシンジュ達は一様に、マドラゴーラとドライアナを見比べる。

 が、男子たちは途中顔を真っ赤にしてうつむいた。

 女性陣がジト目で彼らを見る。

 コシンジュがモジモジしつつ軽く手をあげた。


「1つ聞いてもいいですか?」「なによ?」

「なんで、アルラウネのオスって、こんなに小さいんですか?」

「ああっ! それ一番聞かれたくなかった質問!」


 あわてるマドラゴーラをよそに、ドライアネは楽しげに答える。


「ああ、アルラウネのオスって、いわば繁殖(はんしょく)のためにしか存在してないのよ。

 だから身体がちっちゃくてもいさえすればいいわけ。

 ほら、そっちの世界にもそんな生き物いたりとかしない?」


 ロヒインが気まずい顔になった。


「けっこう聞きますね。

 たとえばカマキリはオスよりもメスのほうが身体は大きい。

 深い海に生息する魚にもそういったものがいくつか存在します」

「なんて……なんて悲惨(ひさん)なっっっ!」


 コシンジュの叫びにマドラゴーラが身をもたげはじめた。


「知ってます? カマキリは繁殖行為が終わった後、

 オスはメスに食われちまうんですよっ!」

「「「「ええええええええっっっ!?」」」」

「じゃ、じゃあマドラゴーラもコトが終わったら……」


 震える声でマドラゴーラを指差すコシンジュ。

 それを見たドライアナがあきれた顔つきになった。


「いくらなんでもそんなことしないわよ。ただアルラウネのオスは、

 “生殖のためにメスと同化する”必要があるけど」

「「「「うそおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっっっ!」」」」

「……なによ。そこまですっとんきょうな声あげないでよ」


 ドライアナはうるさそうに両耳をふさぐ。


「なんて、何て悲惨(ひさん)な人生なんだっっっ!」


 コシンジュがさめざめと涙を流すと、マドラゴーラ自身もロヒインの肩で崩れ落ちた。


「うぅ、だから、だから俺もそれがイヤで群れを抜けだしたんです!」

「マドラちゃん、気持ちはわかるけどそれはダメよ。

 あんたも上級魔族になったんだから、クイーンのあたしとちゃんと同化しなきゃ。

 このまま同化を拒み続けてジジイとババアになるのはまずいわよ?」


 ロヒインがおそるおそる質問を繰り出す。


「あの、他のオスはどうなんですか?」

「あたしの舎弟たちはみんなアホでバカばっかりだから、オスはみんなそれを当然のこととして受け止めてるわよ。

 ていうかあんたデーモン族のくせになにも知らなすぎじゃない!?」


 ドライアナが少し怒った様子なので、レリスが急いでフォローする。


「彼女、人間から転生したばかりの契約(けいやく)魔族なんです」

「契約したばかり? その割にはメチャメチャ強かったけど……」

「ムリもありません。

 彼女が血を受けたのは魔王ファルシス本人ですから」

「……殿下のっ!?

 それじゃあたしは殿下直属の部下に手を出しちゃったわけっ!?」

野良(のら)の魔族かと思ったら、あなたも魔王軍に属してるんですか?」


 目を丸くするロヒインに、ドライアナは後ろ頭をかきながらこっくりとうなずいた。


「うん。

 だけど殿下が地上に拠点をうつしちゃったせいで、あたしたち魔王軍もうまく統制がとれなくなっちゃったんだよね。

 仕方ないから野良の魔族を相手にこうやって自給自足してるわけ」

「レリス、あんたノラ扱いされてるぞ。ちゃんと王国も構えてるのに」

「気にしてません」


 コシンジュのツッコミを平然と受け流すレリスをよそに、ロヒインが深刻な顔でアゴに手を触れる。


「魔王軍の統率が乱れている?

 新しく魔界王となられたルキフール様はいったい何をしておられるんだ?」

「仕方ないんじゃないの?

 魔王軍はあっちこっちで人材不足。特に勇者ってやつが魔王軍強硬(きょうこう)派の連中をあらかた片づけちゃったおかげで、よけい統制が乱れちゃったのよ。

 まったくメイワクなやつよね」


 コシンジュ一行が一様に気まずい顔になる。

 ドライアナが横目で彼らをにらむ。


「あ、そう言えばあんたたち人間よね。

 もしかして、あんたたちがその例の勇者、ってことはないわよね」

「ちがう! 違うぞオレたちは……」

「違うも何もその通りですが」

「レリスなんでよけいなこと言うんだよっっっっ!」


 ドライアナは容赦(ようしゃ)なくコシンジュ達を指差した。


「ああっっ! じゃああんたたちが魔界の秩序を乱したのねっっ!

 いったいどうしてくれんのよっっ!」「うぅ、すみません」

「それを解決するためにも、我々は魔王城に向かわねばならないのです」


 レリスが涼しい顔で告げると、ドライアナは腕を組んでふてくされる。


「あっそ。

 だったらあたしもついてってあげてもいいけどぉ?」


 腕を組んだせいで、ドライアネの一糸まとわぬ胸の谷間が強調される。

 3人の男子がちらちらと盗み見るが、それに気づいたそばの女性たちに頭をはたかれる。

 ドライアネはその光景を見て態度を変えた。


「あはははは、おもしろい奴らね!

 わかったわ! あんたたちがほかの連中におそわれないように、ちゃんとあたしたちがついてってあげる」


 それを聞いたロヒインがほほえみを浮かべて「ありがとうございます」と告げる。

 ドライアナはこっくりとうなずくと、人差し指を加えてピューと音を鳴らした。


 すると周囲から轟音が鳴りひびき、地響きとともにふたたび巨大バラたちが現れる。


「みんなっ! 食事はしばらく中止よ!

 とりあえずはこいつらの護衛をしてあげて!」

「だいじょうぶなんですか? 我々は、彼女たちを傷つけましたよ?」


 申し訳なさげなロヒインに、ドライアネは陽気に手を振り下げた。


「そんなんお互いさまだって。こっちだって何匹かそっちの連中食べちゃったし」


 後ろを見ると、夢魔たちが複雑な表情でアルラウネの集団を見上げる。

 目的を果たす上で仕方ないこととはいえ、コシンジュ達は申し訳ない気持ちになった。


「ああ、女王様がご同行か。正直気がめいる……」


 マドラゴーラはいまだに頭を抱え続けていた。





 アルラウネクイーンが仲介役になったこともあり、その後の旅は順調に進んだ。

 出くわした魔物たちはすべて魔王軍の所属であり、ドライアナと会話すると彼らも護衛についてくれた。

 そのおかげかどうかはわからないが、野良の魔物たちには一切出くわさなくなっていた。

 大所帯でアルラウネのような強力な魔族たちがいたからだろうか。


 夜になり野営すると、ドライアナはふてくされた顔でコシンジュ達を見る。


「だってさあ、あんたらの中に仲良しのカップルが2組いるじゃん。

 うらやましいと思ってさ。マドラちゃ~ん、早くあたしと同化しなよ~」


 するとマドラゴーラはロヒインのマントに隠れた。


 2,3日もしないうちに、一行は目的地にたどり着いた。


「ほら、見えてきたわよ。あれが殿下の、かつてのお城」


 ドライアナが遠くを指差す。

 最初は暗くてよく見えなかったが、天空が一瞬のかがやきに包まれるとその様相が明らかになった。


「あれが、魔王城『パンデリア』……」


 次第に目も慣れてきた。

 黒々とした壁面にまるで針山のような無数の尖塔が、漆黒(しっこく)の天空に突き刺さらんとばかりにそびえ立っている。


「おっかねえな。

 あんな物騒(ぶっそう)な外見で、しかもゾドラ城並みの規模を(ほこ)るのか」


 冷や汗をかくコシンジュに、ドライアナは平然と告げる。


「ビックリするのはまだ早いわよ。

 それよりまず城下町に入るのが先ね」


 やがて城が近付くと、コシンジュ達の前を巨大でなおかつくたびれている門がふさいでいた。


「魔界大隊所属! 『茨姫(いばらひめ) 』ドライアナよっ!

 殿下の使者を連れてきたから開けてちょうだいっ!」


 門の上のダークエルフらしき人物が叫んだ。


「聞いているっ!

 となりにいるのは殿下直属の契約魔族、ロヒインであろう!

 待っていろ、すぐ開ける!」


 やがて見上げんばかりの巨大な門が、ズリズリと音を立てながらゆっくりと開いていく。

 それを見ているうちに、レリスから声がかかった。


「わたしたちがご同行できるのはここまでです。

 コシンジュさん、長旅お疲れ様でした」

「あそっか、いちおう敵対勢力だもんな。

 なんだか(さび)しくなる……ていうかあんたらがいなくなったらオレら大丈夫なのか!?」

「なによう、このあたしが信用できないってわけぇ?」

「あ、ドライアナさんそういうことじゃなくって……

 イヤある意味、なんでもありません」


 あわてるコシンジュを見てロヒインが軽く笑った。


「大丈夫だよ。

 ドライアナ様の随行(ずいこう)がなくとも、中で(おそ)われる心配はないよ。

 そんなのはデーモンとダークエルフのみなさんが許さないと思う」

「そっか。ベアールとスターロッドさまの手下だもんな。

 だったら心配ないか」


 2人のやり取りを見ていた頭上のドライアナが、ニシシシと笑っている。


「どうかしたんですか?」

「ムフ? 2人って、やっぱり付き合ってんの?」

「えっ!?」「うわっっ!」


 コシンジュとロヒインは顔を真っ赤にしてうつむく。


「照れなさんなって。別に隠しごとじゃないんでしょ?」


 ドライアナが後ろを見ると、仲間たちは様々な表情で2人を見ている。

 しかし振り返ったドライアナはなぜか神妙な顔をしていた。


「でも、人間と魔族のカップルって、障害が多いと思うけど。

 勇者クン、どう見ても魔族に転生できるとは思えないし。

 どんなにがんばっても長続きはしないってことよ?」


 それを見てコシンジュの顔色がくもった。

 しかしロヒインは違った。


「いいんです。それでも時間はたっぷりありますから。

 残された時間で、わたしたちはちゃんと向き合えばいいんです」


 ドライアナはいまいち納得できない顔で腕を組む。


「ふうん、たくましいこったね。まああたしからは何も言うことはないけど」

「これでもいろいろありましたから」

 コシンジュが横目で見ると、ロヒインの目に迷いはないように見えた。


 夢魔たちとともに手を振るレリスに別れを告げ、一行はドライアナの案内で城下町を歩く。

 コシンジュ達はなんとも言えない顔つきになった。

 さすが魔王領の首都だけあって、規模は大きい。

 さしずめパンカレと同じくらいか、あるいはそれ以上あるだろう。


 しかし、街の様子はコシンジュ達を喜ばすことはできなかった。

 建物はどれもくたびれ果て、路地は汚い。おまけに悪臭まで漂っている。


「なんだこりゃ。

 いくら魔族の街だからって、これは汚すぎるんじゃないのか?」

「ここに住んでる連中はオークとかゴブリンとか、そういう連中ばっかだからね。

 正直あたしもツタが汚れるから、出来るだけ歩きたくないんだけど」


 ドライアナが下をうかがうと、巨大バラの下にあるうごめくツタが黒ずんでいる。

 コシンジュ達と歩調を合わせるために地中に潜り込ませるわけにもいかない。


「くっさい街ははじめてじゃないけど、この臭いは異常だな。

 なんだか生臭いっていうか……」


 コシンジュが上空を見上げた時、その目が大きく見開かれた。

 建物と建物の間は無数のロープでつながれており、いたるところにボロキレのようなものがぶら下がっているのだが……


「お、おい、あれ見ろよ……」


 コシンジュが指をさす方向に仲間たちが目を向けると、そこには異様な形をした物体がぶら下がっていた。

 まじまじと観察しているうち、ヴィーシャとトナシェが小さい叫びをあげた。

 そのシルエットは異様な人型だった。


「魔王軍の統制が乱れているとは聞いていたけれど、まさかここまでとは……」


 ロヒインが消え入りそうな声でつぶやく。

 が、ドライアナは首を振った。


「いや、よく見なよ。

 あの死体、ずいぶん年季入ってるはずだよ?」

「……本当だ。

 でもなんであんなところに魔物の首つり死体がぶら下がってんだ?」


 コシンジュは不快のあまり、口元を押さえている。


「もともと治安が悪いのよ、この街は。

 いくらデーモンやダークエルフが目を光らせても、奴らは態度を改めようとしない。

 この街じゃあんなことはしょっちゅうよ」

「殿下の目の届くこの街ですら、このようなありさまとは。

 魔界とはここまで恐ろしい場所なんですね」


 ロヒインのつぶやきが、コシンジュの耳に深くしみいる。

 おそらく含みがあるのだろう。


「殿下がいなくなって、より秩序が乱れた。

 以前より余計街が汚くなった気がするね。ルキフール様1人じゃ手に余るってことか」


 見上げると、ドライアナの顔色は優れない。

 2,3日旅を共にして、彼女もまた悪い魔物ではないことはわかりきっていた。

 彼女のためにも、この世界をなんとかしてあげたほうがいいのかもしれない。





 町の奥に進むと、そこは小さな小川が流れていた。

 ここはダークエルフやデーモンが汚れた足を洗うためのもので、コシンジュ達はブーツを、アルラウネ達はツタを入念に洗った。

 アルラウネのほうはそれでも汚れが落ち切らなかったが。


 小ぶりの門を挟んで、美しい街並みが現れた。

 いたるところで様々な色の明かりがきらめき、少し丸みを帯びたユニークな造形をした建物の数々を照らしている。

 道を歩くのはデーモンやダークエルフばかりで、やはりダークエルフの露出度の高さばかりが目立つ。

 反応も良く、なかにはこちらに向かって愛想よくあいさつしてくる者たちもいた。

 コシンジュ達も魔族には慣れているので同じ調子であいさつを返す。


「このあたりはダークエルフやデーモン族の住まいだよ。

 まったく同じ魔族でもこうも違うってのか」


 ふてくされるドライアナにコシンジュ達もこっくりとうなずいた。

 ふと見上げると、黒々と禍々(まがまが)しい造形の城は目前まで迫っていた。





 やがて一行は深い堀にかけられた巨大な橋を通じて、長い階段の前に立った。


 左右にそびえ立つ翼の生えた獣の彫刻は黒々としている。

 きっと材質から真っ黒な石材を使っているのだろう。

 彫刻と同じ材質の階段を上りきると、仲間たちの何人かの息が上がっていた。


「くっそう、人間用に作ってないからアタシたちにはしんどくてたまんないわよ……」


 荒い息まじりにヴィーシャがうなだれるなか、さすがにトナシェにはムリだと思ったのかネヴァダが彼女を背中にのせている。

 そんな中、ロヒインだけが息も切らせずに平然と真上を見上げる。

 呼吸を整えながらコシンジュも同じようにすると、目の前には人を通すにはあまりに巨大すぎる、漆黒の門が立ちはだかっていた。

 門のふちにはおびただしい数の蛇のレリーフが刻まれている。


「いよいよ、魔王の本当の城か。戦う必要がないとはいえ緊張するな」

『……殿下より使者が参ったか。

 勇者よ。よくぞ我が城に来た』


 聞き慣れない老人の声が、あたりじゅうにこだまする。

 その場にいるほとんどがおじけづいた。


「だ、誰なのよっ! この声っ!」


 あたりを見回すヴィーシャをよそに、巨大バラの上のドライアナがていねいにひざまずく。


「魔界大隊、ドライアナにございます。

 ルキフール様、ぜひ彼らにお目通りを」

『御苦労。今門を開く。

 悪いがドライアナ、お主はその場でとどまれ。勇者たちには別の者をつけさせる』


 ドライアネは「かしこまりました」と慇懃(いんぎん)に頭を下げ、それから不安そうな顔をコシンジュ達に向ける。


「どうも不安だね。

 あんたたちに下手に手出しをしたら殿下が許さないだろうけど、相手がなんせルキフール様だからね」

「その、ルキフールってやつはそんなにヤバい奴なのか?」


 コシンジュの不安そうな声に彼女はうなずく。


「ルキフール様はゴブリン族からのたたき上げだよ。

 だから下級魔族たちにとってのあこがれでもあるんだけど、狡猾(こうかつ)な頭脳で魔界のナンバー2にまでのし上がってきたもんだから、おっかないと思ってる連中も多い」

「究極の出世人か。こりゃ気をつけた方がよさそうだ」


 イサーシュが腕を組んでつぶやいたとたん、巨大な門がゴゴゴ、と言うすさまじい音をあげながらじりじりと開かれはじめた。

 コシンジュ達は思わず身構えてしまう。


 門が開かれきった時、そこにはいくつかの人影があった。

 2グループに分かれており、左手には角を生やした逆関節のデーモン族が、右手にはとがった耳を持つダークエルフ族たちが待ち構えていた。


「うう、この人たち、いや人じゃないけどみんなベアールやスターロッドさまと仲がいいといいんだけどな」

「う~ん、あいつらは基本族長を(した)ってるから大丈夫だと思うけど……」


 ロヒインがドライアナに向き直った。


「女王様とは、ここでしばらくお別れですね」


 コシンジュがはっと彼女たちのほうを見る。


「ああそっか。短い間だったけど、楽しかったよ」

「これが今生の別れじゃないといいですけど」

「よけいなこと言うなよロヒインッッ!」

「あははは、心配すんなよ。きっとまた会えるって」


 そう言ってドライアナの本体からのびるツタがコシンジュの肩をポンと叩いた。


「あんたら、うまくやりなよ」


 コシンジュはまんざらでもないと思いかけたが、すぐに顔をしかめた。


「……くせぇっっ!

 ドライアナっ! 汚れたツタでさわんなよっっ!」


 全員が顔をしかめるなか、ドライアナはあははと笑い続けていた。





 こうしてドライアナとも別れたコシンジュ達は、デーモンやダークエルフに案内され奥へと踏み入れた。


 まず最初に目に飛び込んだのは、薄暗く上がどこまで続いているかわからない大ホール。

 両サイドに並び立つ鎧姿の彫像もかなりのスケールがあり、コシンジュ達は見上げているうちに首が痛くなった。

 その後、どこまで続くともわからない薄暗い回廊を歩かされた。


「うう、この廊下、気味わりぃ。

 おーい、みなさんどこまで行くんですかー」


 コシンジュは左右をはさむ魔族たちに声をかけるが、いかんせん相手からの返事はない。


「ったくよぉ。

 こいつらホントにベアールやスターロッドさまたちとおんなじ種族なのかよ~」

「きっとルキフール様にいいつけられてるんでしょ。

 この城じゃおそらく彼に逆らうことはできないだろうからね」


 ロヒインも不安そうに彼らをながめるなか、前方がうっすらと光で照らされていることに気づいた。

 近づくにつれ、それが地面に描かれた魔法陣であることに気づいた。


「どうやらあれに乗れば、直接ルキフール様のもとに行けるみたいだね」

「うう、下手なワナじゃないといいけど……」


 おそるおそる近づいていくと、両側の魔族たちは魔法陣の手前で止まった。

 まるで彫像のごとくビクともしない彼らに目を向けつつ、コシンジュ達はとまどいつつ魔法陣に近寄っていく。

 ロヒインだけが平然としている。


「大丈夫。もしワナだとしてもわたしの力で切り抜けられるって」


 ロヒインが中央に立ち、8人の仲間は魔法陣の中に入った。

 チチガムがたまらずつぶやく。


「ロヒインくん、本当に大丈夫なんだろうな」

「お静かに」


 ロヒインがつぶやいたとたん、魔法陣の輝きが強くなった。

 何人かが「うわっ!」と言った時、下の光が強すぎて、前方が見えなくなっていることに気づいた。


 やがて光が弱まると、周囲には別の光景が広がっていた。


 巨大な騎士の像たちが見下ろすエントランスも圧倒的だったが、目の前の広場も見上げんばかりに天井が高い。

 上空はアーチ状になっており中心部は天を貫かんばかりに高すぎてなにも見えない。


「……ようこそ。我が居城パンデリアへ」


 声がする方に全員が振り向くと、薄い暗闇の中に金でしつらえられた豪華(ごうか)な玉座があることに気づいた。

 ただ少し違和感がある。

 玉座の前にはこれまた豪華にしつらえられた台座があるのだが、座する人物はそれに足を乗せなければならないほど、小柄の体型のようなのだ。


 小柄な魔物は立ち上がり、杖をついて台座を下りた。

 ゆっくりと近寄っていくと、全員が息を飲んだ。


 それは紫色に彩られた高価そうなローブを身にまとった、あきらかに人とは違う容貌(ようぼう)の人型魔物だった。

 ダークエルフよりはひかえめなとがった耳、ギョロリとした目、大きなワシ鼻。

 そして血色の悪い肌。

 何人かはそれがホブゴブリンの姿だと気づいた。


 しかし一行を恐れさせたのはそれだけではない。

 ホブゴブリンの顔はしわがれており、目元が落ちくぼんで、巨大な目がよけい強調されている。

 それがギロリとコシンジュ達をにらみつけているため、彼らはよけいに戦慄(せんりつ)せざるを得ない。

 ロヒインでさえ不安を顔に浮かべるくらいだ。


「こちらがあいさつするのが礼儀というものか。

 私の名はルキフール。

 人間界に渡った魔王ファルシスになり変わり、この深淵(しんえん)なる大魔界をおさめることになった、魔界王の称号を持つ者だ」


 魔王ファルシスでさえ、これほどの威圧感を感じさせなかった。

 コシンジュ達は史上最強の魔物を相手にしているような、そんな感覚に襲われていた。

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