第3話 早すぎる人質作戦~その6~
コシンジュはロヒインの肩につかまって、足音をたてないようにのそのそと村の中を歩いていった。
念のためロヒインは姿を消す魔法を重ねがけしているので、しばらくは敵に見つかる心配はない。
途中トロールが後ろから迫ってきたので、2人は建物のすみによって巨大な怪物が通り過ぎるのを待つ。
すぐそばにお目当ての相手がいるなんて思いもせず、ロヒイン以上に間の抜けた顔をしたトロールはまんまと2人のそばを通り抜けていった。
それを確認したコシンジュは口だけを動かして「こえー」とつぶやいた。
酒場に到着。すると裏口扉の目の前に、のんきな顔をぶら下げたゴブリンを発見。
2人は裏に隠れてひそひそと話し始めた。
「おい、まわりに敵もいないことだし、あいつこっそり眠らせられないか?」
「眠らせるくらいならひと思いにやっちゃおうよ。
そばまで近寄って一気にズドン」
今度はコシンジュが先頭になり、ロヒインがしがみつく格好で忍び寄る。
相手の目の前まで来たところで、後ろのロヒインがポンと肩を叩いた。
その勢いで一気に棍棒を上からたたきつけた。
「こっぷっ……!」
ゴンッという音とともにゴブリンはフラフラと地面に倒れた。
少し音が響いたうえ、神聖武器ゆえに光もまたたいた。
2人はあたりをきょろきょろしたが、誰も近寄ってくる様子はない。
「さあ、入り口の扉を開いて一気に隠すよっ!」
ロヒインのかけ声で扉を一気に開くと、2人はゴブリンの両腕を取って一気に引きずりこんだ。
体重が軽かったおかげで予想以上にスムーズにいけた。
中にあった倉庫内の暗がりに隠し、2人は息をひそめて進み始めた。
倉庫の扉は開いていたのでそこから顔だけを出してあたりをうかがうと、廊下の向こうに人影を発見。
「いた。どうやらちゃんとした人間みたい」
「ビンゴ。後はそばにいる監視の数を確かめて、どうするか決めよう」
ロヒインにうなずき、2人は姿を隠した状態で人質がいる場所に向かった。
おかげで目の前にゴブリンがいても堂々と様子を観察できた。
人質はせいぜい5,6人。完全におびえ切っている彼らのまわりを3匹のゴブリンがたむろしている。
しかしそれぞれが場所を離れているせいで、一気に片付けることができない。
小さい窓から外の様子がうかがえるのもあまりよろしい状況ではない。
いったん2人は倉庫まで戻った後、改めて相談することにした。
「すぐにここの人質を助けるのはムリみたいだな。思ったより状況が悪い」
「思いついたことがあるよ。奴らを人質ごと眠らせちゃおう」
人差し指をたてたロヒインにコシンジュは目を丸くする。
「そんなことができるのか?」
「対象が無差別なら簡単だよ。
だけどコシンジュにお願いがある」
「なんだよ」
「窓はあまり大きくないけれど、覗き込むようにすれば中の様子は見えてしまうよ。
そこでゴブリンのほうを、起きているように見せかける必要があるんだ」
「じゃあ、窓際のテーブルに座ってる奴を壁にもたれさせて、カウンターに立っている奴をそのままの姿勢で壁に押し付ければいいんだな?
歩き回ってる奴はしょうがないけど、どっか行ってもらったフリをしてもらうしかない」
するとロヒインはゴブリンが持っていた剣をおもむろに拾い上げた。
「テーブルは任せて。
コシンジュはこれを使ってカウンターにいる奴を壁に張り付けにして」
「任せろ」
うなずいたコシンジュに、ロヒインはポンと肩を叩いた。
「一瞬の勝負だよ。
もし見回りのトロールが通りかかったら、すべてが台無しになる」
もう一度深くうなずくと、ロヒインはコシンジュのそばを離れた。
すぐにその姿が見えなくなる。
「合図を送るから、そしたら一気にカウンターの奴を片づけて」
小さい声でつぶやくと、ロヒインはより小さい声で呪文を唱え始めた。
息をひそめて、コシンジュはその瞬間を待ち続ける。
詠唱しながら進んでいるためか、ロヒインのつぶやきはより小さくなって聞こえなくなった。
すると、扉の向こうでかすかに霧が見えてきた。
これはまずいと思い、コシンジュは口をおさえる。しかしすぐに霧は見えなくなった。
酒場のあたりで複数の声がうんうんとうなっている声が聞こえる。
耳をすましていると、いきなりロヒインの叫びがひびいた。
「いまだよっ!」
コシンジュは剣を強く握りながら倉庫を飛びだした。
ふたたび酒場に出て、あたりを確認する。あちこちで眠りこけているゴブリンと人間の集団。
その中にお目当ての相手を見つけると、一気に身体を持ち上げて、壁の前に立てかけた。
「ロヒイン、手伝えっ!」
ロヒインは自分の作業を終えると、すぐにコシンジュのそばによってゴブリンの小さな体を取り押さえた。
少し苦しそうにしているので急がなければならない。
「いくぞっ!」
コシンジュは手を離した瞬間に剣を構え、一気にゴブリンに向かって突き刺した。
イヤな感触とともに怪物がビクリ、とするが、そのまま壁に張り付けになって動かなくなった。
「ああ、こんな仕事は2度とごめんだからな……」
顔をしかめてつぶやくコシンジュの肩をロヒインはぽんと叩いて、残る最後のゴブリンの足を取った。2人して酒場の廊下に引っ張ると、急いで倉庫に隠れる。
わずかにドシンドシンと床がふるえる。
これで相手が酒場の様子に気づけば、大幅なプラン変更をせざるを得ない。
2人は息をひそめながら裏口を出た。
見ればトロールは何事もなかったかのように同じルートをどしどし歩いている。
相手も疲れているようで、機械的に巡回をこなしているだけだった。
「手勢を細かく分けているせいで、かえって動きが単調になっているだね。これはチャンスだよ」
勝ちほこったようにロヒインとともに笑うと、今度は少し早い足取りでメウノとイサーシュがいる場所へと戻ろうとする。
ところが、教会の表扉から何者かがいきなりとびだした。
2人は驚いてそのままの姿勢で固まる。
「ふぁ~、ジャレッドの奴いきなり叩き起しやがって。
この時間ならまだ連中も来ないだろうに……」
ホブゴブリンだった(そうか、ジャレッドって言うのが奴らの親玉か)。
まだ眠いらしく、うすい頭髪をかりかりとかいている。
「……酒場の様子を見に行ってみるか」
その言葉で心臓が止まるかと思った。すると突然ロヒインがその場にしゃがみこんだ。
あわててしがみつくと、ホブゴブリンはこちらに顔を向ける。
「ん? なんだ?」
何やってんだよとツッコみたくなるところだったが、すぐにロヒインが自分の手をたたくので、コシンジュは彼に従ってその場を離れざるを得なかった。
ロヒインは続いて、その場にあった石ころをけりつけた。
すると後ろにいるホブゴブリンもつられてそちらに向かう。
コシンジュはそれが陽動だと気づいた。
しかし、それ以降ロヒインは妙な動きをしなかった。ここまでくれば十分だと思ったのだろう。
2人は急ぎながらも音をたてないように必死で前の建物裏まで戻ると、そこで身を伏せていたメウノとイサーシュに呼び掛けた。
「すぐに作戦を開始します!
敵を農園のほうに引き寄せるのでそれを合図にイサーシュは教会裏へ!」
「酒場は?」
メウノが問いかける。
「対処はしましたが時間がありません!
すぐに行動を開始しますよ!」
次の瞬間にはロヒインはつぶやいていた。
ある程度ブツブツと言ったあと、ロヒインは広い農園に向けって木製のステッキを向けた。
「エクスプロージョ~ンッッッ!」
すると突然そこから猛烈な爆裂音が響き渡り、巨大な炎のかたまりが現れた。
建物の裏から悲鳴のようなものが聞こえ、そして別方向からもドシンドシンという音が聞こえる。
「いまですっ!」
その時にはすでにイサーシュは素早い動きであっという間に見えなくなっていた。なんていう速さだよ!
残りの3人はいそいそと建物のかげから様子をうかがう。
トロールが通り抜けた後、複数のゴブリンがそのあとをついていく。
そのあとにホブゴブリンが、そしてさらに毛皮をまとったもう一匹のホブゴブリンが続く。
「おいっ! それはワナだっ!
バカ野郎なんでそろいもそろってそっち行くんだよ! バカかお前らはっ!」
コシンジュはそれを見て拳を握りあげた。
「よしっ! 敵は全員外に出たみたいだぞっ! ここで一気に片付けちまおう!」
「わたしたちであいつを引きつけましょう。
中に敵が残っていてもイサーシュがなんとかしてくれるはずです」
3人は進み出て、ゴブリン王らしき奴の前に立った。
「おいっ! お前のお目当てはここだ! こっちを向きやがれっ!」
「なっ、お前らいつの間にっ!」
ゴブリン王はこちらに振り向いて思わずのけぞる。
「人質を抱えて身動きが取れなくなったみてえだな!
おかげであっちはもぬけのカラだぜっ!」
するとゴブリン王は、なぜか調子を取り戻したように笑いだす。
「ハハハハハハッッ! これで全員だと思ったかっ!?
バカめっ! 念のために見張りの奴を無理やり1名残しておいた! 今頃は奴が……」
言いきる前に教会の窓ガラスが割れ、そこからゴブリンの身体が無防備に飛び出して倒れた。
あとからイサーシュが窓から飛び出してくる。
「見張りはこれで片付いた。後は外にいる奴らで全員だな?
中の人質は今頃続々と裏から逃げ出しているところだ」
それを見たジャレッドは地団太を踏みならす。
「あっ! クソッ! 使えない部下だもうまったくっ!」
「落ち着いてくださいジャレッドさま。
まだこれで我々の負けと決まったわけじゃないでしょう」
そばにいるサブリーダーが声をかける。
ゴブリン王は落ち着きを取り戻し、コシンジュ達に向かって笑いかけた。
「そうだ、その通りだ。
今はまだ圧倒的な優位が崩れたというだけだ。なら正々堂々と仕掛ければいい」
するとジャレッドは毛皮のマントをひるがえし、戻ってきたゴブリン達に声を張り上げた。
「お前たちっ! まわりこんで村人どもを皆殺しにしてこいっ!」
「あっ! てめっ!」
ゴブリン達が言われて2方向に散っていくと、イサーシュとメウノが動いた。
「ちょっとメウノっ! どこにいくんだよっ!」
「私なら心配いりません! これがありますから!」
すると彼女はふところからナイフを取り出し、離れた場所に現れたゴブリンに向かって投げつけた。
かなりの正確さでゴブリンの眉間に突き刺さる。
「あ、お見事……」
「手下はわたしたちに任せてください! あなたたちは大物2人を!」
そう言ってメウノは2,3匹のゴブリンのあとを追った。
そしてその場は2対2の状況になる。
「まあ、こうなることはある程度予想できていた。
少し状況が悪くなったが仕方ない」
ジャレッドのつぶやきを聞いて、コシンジュは深いため息をついた。
「……どうした? 言っておくがオレがゴブリンだからと言って甘く見るなよ」
「いや、そうじゃなくって。
オレの中でゴブリンって、もっとひょうきんなキャラだと思ってたんだけど」
言われた2匹のゴブリンが目を丸くする。コシンジュが首をすくめた。
「お前ら面白くねえんだよ。
ゴブリンだったらゴブリンらしく、もっと面白おかしく笑いを取ってみろよ」
「あ~、それあるある。
ゴブリンってよそのイメージだともっとおっちょこちょいなところあるよねー、対してこいつらずる賢そうだけどなんからしくないっていうか」
同意したロヒインにお互い笑って人差し指を向けあうと、ホブゴブリン2匹がそろって「「なっ!」」と絶句する。
「おっ、お前らふざけんな!
そんなステレオタイプのゴブリンだったらわざわざ魔王殿下に刺客として選ばれるわけがねえじゃねえかっ!
こっちは必死なんだよっ! 選ばれたからには確実に仕事こなさなきゃいけねえんだよっ!
失敗が許されねえのにわざわざバカを送りこんでどうするっ!?
上層部までバカってどういう組織だよ!」
「その割には、人質立てこもりなんてセコいマネしてくんのはどうかと思うけどね~」
コシンジュは口をとがらせながら両手を頭の後ろで組んだ。
ジャレッドはブチ切れて人差し指を突きつけてきた。
「この野郎っ! 散々バカにしてきたことを後悔させてやるっ!
ゴッツッッ! 死ぬ気でかかるぞっ!」
「はい! オレも聞いててイライラしてきました!」
すると副官のゴッツは両腕の小手から長い鉄の爪を出してきた。
これを食らったらただでは済まなそうだ。
「そんなんでオレの棍棒を受け止められるとでも思ってんのかよ!」
コシンジュは言いながら棍棒を取り出し、ゴッツに向かって構えた。
ところが、いつの間にかゴッツは素早い動きでこちらまで迫ってきた。
あわてて棍棒を叩きつけようとしたコシンジュだが、相手はあり得ないほどの速さでそれをかわす。
「ウソだろっ!?」
言いながらコシンジュは真横から突きあげた爪をかわす。
かわしざまに棍棒を振り回さなければ、さらなる追撃を食らっていただろう。
「動きが早すぎる! いくら化け物でも異常だ!」
少し距離を置いたゴッツはゆがんだ笑みを浮かべる。
「その通り、オレは風の魔法を使って身体をより身軽にしている。
そして目にもとまらぬ速さでてめえの強力な攻撃もかわし、背後からこの爪を突き刺してやる」
「なんだってっ!? 風の魔法っ!?」
「気をつけて! ホブゴブリンはただのゴブリンとはまるでレベルがちがう!
魔法攻撃に長けてて一瞬の気も抜けないよっ!」
ロヒインが注意しているあいだに、ジャレッドのほうが毛皮のマントを広げた。
「ちなみにオレの攻撃はこいつだっ!」
するとジャレッドのマントの中から巨大な火の玉が現れ、コシンジュのほうに向かって飛んだ来た。
「わあっ!」
コシンジュはあわてて棍棒を突き出し、なんとか火の玉をはじいた。
そのあいだにもゴッツの影が迫る。
「コシンジュ危ない!」
コシンジュは大きく前にローリングしてかわすと、後ろに向かって棍棒を振り上げた。
しかしその一撃を相手はいとも簡単にかわす。
「ハハハハハッッ! 勇者っ! いつまで我々の連携をかわせるかなっ!?」
「ライトニングボルトッッ!」
余裕たっぷりのジャレッドの真上に、巨大な電撃が落ちてきた。
それをまんまと頭から食らうジャレッド。
「どどんぱっっっ!」
「こっちにもう1人いることを忘れるなっ!」
叫ぶロヒイン。しかしそれは、かえってもう一匹を引き寄せることになる。
「まずはそこのニブい魔導師からだっ!」
ゴッツのほうが振り返り、ものすごい勢いで迫ってきた。
「ロヒイィィィンッッッ!」
思わず上ずった声で叫んでしまったコシンジュ。
ロヒインの目前まで迫ったゴッツは素早く爪を振りかぶる。万事休す。
ところが、ゴッツの攻撃は突然の閃光にはじかれた。
コシンジュは一瞬まぶたをこすると、ロヒインの身体のまわりを透明な球体が覆っている。
「……何の策もなしにまんまと相手の攻撃をさそうとでも思ってた?
こっちは事前にバリア魔法をかけてたんだよ」
「おおナイスッ!」
コシンジュは振り返り、その場にうずくまっていたジャレッドに向かって棍棒を突きつける。
「これ、チェックメイトなんじゃね?」
顔を上げたジャレッドは悔しそうな顔を浮かべる。
と思いきや、なぜかいきなりひきつった笑いを浮かべた。
「まだまだだっっ! これでも食らえっっ!」
するとジャレッドは両手からふたたび炎の弾を出現させた。
あわててコシンジュはそれを防御する。
「安心するのはやいぞっ! 勝負はこれからだ!」
するとジャレッドはまたしても火の玉を取りだした。
コシンジュはそれをも防ぐが、勢いに押されて後ずさりし始める。
「ウソっ、ウソウソっっ! 火の玉出すタイミングが早いぞっっ!」
「相手が魔族だからだよっ! 詠唱なしにすぐに魔法攻撃ができる!
加えてそいつはもっとも簡単な『フレイムボール』だから出せるのもはやい!」
「さらにだっ!」
言うと、突然ジャレッドの身体がいきなり宙に浮かびだした。
「えぇっ? ええぇぇぇぇっっ!?」
コシンジュは驚きながらも、なおも立て続けに繰り出される火の玉を防御せざるを得ない。
「フハハハハハッッ!
これでこのオレを攻撃することも不可能になったなっ! さらにさらにだっ!」
ジャレッドはアゴで向こう側を指し示す
。振り返ると、先ほどまで地面に伏せていたゴッツが頭を抱えながらも立ち上がろうとする。
「ロヒインっ! 援護してくれよっ!」
ところが、さらに後方を見ると、バリアにつつまれているロヒインがいきなりヒザを地面に着いた。
「ご、ごめん。今日は魔法を使いすぎた……」
「ああっ! だから休んどけって言ったのにっ!」
無理もない。今日のロヒインは大活躍していた。しすぎていた。
「クソッ! イサーシュとメウノの奴はどうしてるっ!?
いくらなんでもこれはもたないぞっ!」
そう言って再び襲いかかる火の玉に目を向けた時だった。
宙に浮かぶジャレッドの背後に、巨大な影が現れた。
ジャレッドは攻撃をやめ、真後ろに振り返る。
「ほお、お前かトロール。お前の巨大な一撃であの剣士をたたきつぶしたか?」
ところが様子がおかしい、フラフラになっているトロールは白目をむき、やがてゆっくりと倒れた。
ドォンッというすさまじい音が響いたあと、そのそばから別の小さな影が現れる。
イサーシュが手拭いで剣についた血をぬぐいながら言う。
「目の当たりにしなくてよかったな。
足首をズタズタにされてそのまま失血死なんて、とてもじゃないがいい光景じゃない」
「んなっ!」
見ると確かに、トロールの足元には血だまりができている。
傷口は建物のかげに隠れて見えないが、相当ひどいことになっているだろう。
「問題ないっ! 今のうちにオレのほうが勇者を血祭りにすればいいだけの話だっ!」
突然ゴッツのほうがコシンジュのほうへと迫る。
振り返るが防御が間に合いそうもない。
「コシンジュッ!」
ロヒインが叫ぶが、なぜかゴッツのほうが突然動きを止める。
かと思いきやその腕のあたりに深々とナイフが突き刺さっていた。「ぐおあっっ!」
「あぶないところでしたね」
別方向からメウノが現れた。これで勇者パーティーが全員そろった。
「まだだっ! くらえっ!」
ゴッツはあきらめずに鉄の爪を振りかぶる。
ところが、そこへ素早くかけこんだイサーシュがゴッツに向かって剣を振り下ろした。
相手はあわててかわさざるを得ない。
「邪魔をするなっ!」
ケガを負ったにもかかわらず、ゴッツの攻撃はおとろえを見せない。
なのにイサーシュはその素早い一撃を華麗にかわし、逆にすさまじい剣技を見舞う。
2,3度応酬が続いたあと、ゴッツが少し距離を取ってくやしそうな顔を浮かべる。
「バカなっ! このオレの動きについてこれるとはっ!」
「華麗に舞い華麗に見舞う。それが俺の流儀なんでな」
そう言ってイサーシュはそれこそ華麗に髪をかきあげた。
「うわ、何気にくやしい……」
コシンジュもそれを認めざるを得ない。
「くそっ! まだあきらめてはいけませんっ! ジャレッドさま援護をっ!」
そう言ったゴッツがなぜか目を丸くする。
先ほどまで空中で彼らを見下ろしていたはずのジャレッドの姿がない。




