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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第7章 勇者、魔界のジャングルを進む
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第37話 再会と新天地~その3~

 事前に手渡されていた地図に従い、街道を進む。

 次なる目的地のカンチャッカ要塞に続く道はしっかり整備されており、途中まで宿場町も用意されていた。

 これまでの旅と違うのは、人々がコシンジュ達の姿を見ても警戒しなくなったこと。

 ゾドラ国民は勇者がいまだに塔に監禁(かんきん)されていると思い込んでいるため、魔物の残党狙いの賞金稼ぎだと思い込んでむしろ歓迎(かんげい)するかのような雰囲気(ふんいき)さえあった。


「魔物の残党?」


 コシンジュが問いかけると、少しくたびれた服装をした妙齢の女性が答えた。


「そうよぉ。

 魔界からやってきた連中は軍があらかた片づけてくれたんだけど、まだほんの少しだけ魔物の数が残っているんですって。

 ほとんどは人里離れた山にこもってるんだけど、時折腹をすかせた魔物が人里めがけて襲ってくるんですって。

 ほら、このあたり草一本生えてないでしょう? だから連中ちゅうちょなく一帯の村々に押し寄せてくるんですって。何てまあ物騒(ぶっそう)な世の中でしょう。あんたたちも気をつけなさいね。

 ってそう言えばあんたたちも賞金稼ぎなんだっけ? ていうよりぼうや、大丈夫なのかい? その歳で魔物と戦おうなんて、よっぽど金に困ってるんだねぇ。他の人たちも女ばっかりじゃないか。本当に魔物相手に戦えるのかい? ちょっとぉ、どこ行くんだよぉ。まったくそんなに急いでどうするんだい、落ち着いてちょっとお茶でも飲んでいきゃいいじゃないのさ。みんなちょっと待ちなさいよぉ……」





 女性に言うとおり、そのあと立ち寄った村の中には魔物によってひどくあらされた場所もあった。

 たいていの村には兵士たちが常駐(じょうちゅう)しているが、それでもかなわないほどやっかいな連中がたむろしているらしい。


「あいつら、かなりヤバかったぜ。

 暗がりの中、体中のあちこちに赤いひび割れみたいな光をまたたかせて、燃え盛る炎の槍をふるってくるんだ。

 仲間たちはひどくやられて、いまも立ち上がれない奴もいるよ」

「魔物はみんなあり得ない姿形をしているというが、奴らは特に変わってた。

 馬のような下半身に、いびつな造形をした上半身をしてるんだ。

 4つの足ですばやく駆け込んで、巨大な槍を縦横無尽(じゅうおうむじん)にふるわれちゃ、さすがの俺たちもかなわねえよ」


 コシンジュ達は顔を見合わせた。

 どうもこの先には、かなり厄介な魔物たちが潜んでいるらしい。


「ロヒインの奴、本当に大丈夫なのか?」


 コシンジュは思わず、遠くにそびえる山々を見つめた。

 頂上が真横に断ち割られたような火山の列は、煌々(こうこう)と赤い光を放っていた。





 数日間かけて、コシンジュ達は火山山脈の根元までやってきた。

 馬を使うことも考えたが、あまりに早く追いついてしまうのもどうかと思い、踏みとどまった。

 いまのロヒインなら魔物たちの攻撃をうまくかわせるだろう、心配するのもやめた。


 途中から人里もまったくなくなり、一行は軍の野営地だった場所で一夜を明かした。

 赤い光を放つ山々は目前まで迫り、その威圧的な風景はいまにも爆発するのではないかと彼らを委縮(いしゅく)させた。

 それでも、前に進まなければならない。


 翌日になり、一行は急速に狭まった山道を歩いていた。

 斜め上を見上げると、もはや暗闇同然となった灰色の空をそばにそびえる山々が赤く染め上げている。


 一度、大地がわずかに震動した。

 コシンジュ達は思わず足がすくんで立ち止まる。


「おいおい、本当に大丈夫なのか?

 そのうちどっかで噴火が起こるんじゃないのか!?」


 イサーシュの呼びかけにネヴァダが答えた。


「ここ数年は大丈夫だよ。あくまで、ここ数年の話だけどね」


 あきらめて前に進んでいく。

 誰もが緊張感を全身にみなぎらせ足を動かしていると、何人かの足が再び止まった。

 立ち止まったのはコシンジュ、チチガム、そしてネヴァダの3人。

 残りの視線がそちらに集まる。


「どうしたんだコシンジュ? 何かあったのか?」

「……いる。なんだかよくわからないけど、なんかいる」

「おいおい、お前にわかって俺にわからないってどういうこった?

 お前いつの間にカン働きがよくなったん……」


 イサーシュが言い終わらぬうちに、コシンジュが急に頭の向きを変えた。

「みんな上に気をつけろっっ!」と言うと、そばにあるガケの上から大小の石ころが落ちてきた。


「ちゃんと上を見て、どこに落ちてくるか把握(はあく)して避けるんだっっ!」


 ほとんどはチチガムの言う通りに上を注視するが、トナシェだけはおびえた表情で立ちすくんでいる。

 コシンジュがそばによってその身体を抱きかかえ、移動したところに巨大な岩が落ちてきた。

 2人は冷や汗をかきながらその岩に目を向ける。


「おい気をつけろっ! まだ上から何かやってくるぞっ!?」


 イサーシュが上を指差すと、ガケの上から落ちてくるものは何か様子がおかしかった。

 一瞬馬かとも思ったが、よく見ると頭に当たる部分に奇妙なものがついていた。

 人の上半身にも見えるが、どこか形が変だ。

 全体的に角ばっていて、頭の形が普通じゃない。

 なかば胴体にめり込んでいて首がなく、側面が腕と一体化している。あたりを見まわすには胴と腕を両方振り回さなければならないだろう。


 そんな変な姿をした馬が、次から次へと現れる。

 そして頭のつけ根にある両腕には、燃え盛る炎の槍を手にしている。

 身体じゅうに赤く光るひび割れがあることからも、やっかいな炎の魔物だとひと目で分かった。

 コシンジュが思うに、こいつらの祖先は普通の馬だったのが、魔界で進化する過程で首から上が中途半端な人型になってしまったのだと考えた。


「案の定やって来たかっ! 勇者どもっ!

 貴様らの命はこの『ケンタウロス一族』がいただくっ!」


 声のする方を向くと、正面のひときわ高い崖の上に、ボスらしき魔物の姿があった。

 首から上はかなり人の姿に近づいているが、それでもどこかいびつな体型をしているのには変わらない。

 それでも体が安定しているためか、手には他のケンタウロスより大きな槍をかかげている。

 ごうごうと燃えさかる槍の先をこちらに向けてきた。


「まわりを見てみろ!

 たった8人で、これだけの数の我らにかなうかっ!?」


 見ると崖の上にいるのも含め、コシンジュ達はおびただしい数のケンタウロスに囲まれていた。


「ちょっとぉっ! これ普通の召喚で呼び出せる数じゃないわよっ!?

 いったいどういうことなの? 強硬派は壊滅(かいめつ)したのに!」


 ヴィーシャの叫びを聞いて、ケンタウロスのボスが長いアゴヒゲをなでつける。


「強硬派壊滅……! やはりウワサは本当だったようだな!

 マノータスの奴め、功をあせってヴェルゼックにそそのかされたかっ!」


 炎の魔物らしく上司に対して尊敬もクソもないらしい。

 それにしても部下にもののみごとに最期を断定される上官って……


「お前たち、マノータスやヴェルゼックとやらにこっちに送られてきたんじゃないんだな!?」


 ムッツェリの呼びかけにボスは燃え盛る槍を振りまわす。


「バカを言えっ!

 この『炎撃王ネッサス』さまが、あのようなろくでなしどもの言うことをまともに聞くと思うかっ!

 我ら、カンチャッカポータルから堂々とこちらへとやって来たわっ!

 魔界からは締め出されたが、我らにとっては好都合! 敵のいないこの地で思うがままに暴れ狂ってやるわっ!」


 お前もろくでなしだ、そう言ってやろうと思ったとたんネッサスは高く飛びあがり、より近くの崖へと着地した。


「さあ、眷属(けんぞく)どもっ!

 我らの圧倒的な力で、みじめなこわっぱどもをひねりつぶしてやれっ!」


 それを合図にケンタウロスたちがいっせいに槍を構えた。

 コシンジュは仲間たちを見回す。


「数は多いが、しょせんはマノータスの手下だった連中だ! そのことを忘れんなよ!?」

「当たり前でしょ!?

 これだけの数、この銃でどんどんぶっ飛ばしてやるわよ!」

「新しい矢の素材をどう手に入れようかと悩んだが、その心配はなさそうだな」

「見たところ動きはそれほどではない。

 しょせんは野蛮(やばん)な魔物の一党といったところか」


 ヴィーシャ、ムッツェリ、チチガムの言葉を聞き、他の全員が敵に向かってそれぞれの武器を構えた。

 いや、トナシェだけが少しだけ自信がなさそうだった。

 コシンジュが振り向いて「大丈夫か?」とささやくと、不安そうな顔にありったけの決意を秘めてうなずいた。


 ネッサスの「かかれぇっ!」の声で、人馬たちが一斉に向かってくる。

 コシンジュはトナシェの身体を離し、突き出してきた槍をサラリとかわして、前足に向かって横から棍棒を振り払った。

 前のめりになったケンタウロスは大きく飛びあがり、逆さから地面にぶつかり、人の上半身がおかしな方向にねじ曲がった。

 コシンジュが振り返り、吐き捨てる。


「大したことねえな。いや、オレが強くなりすぎただけか?」





 ヴィーシャの銃が、向かってくる人馬に向かって火を吹く。

 前足をはねたケンタウロスがその場に倒れ込むが、灰の地面をズリズリと引きずりこちらまで向かってくる。

「うわっ!」と言いながら飛びあがったヴィーシャの身体が馬の胴体に着地し、うまくバランスを取って安定させる。

 まだ生きていたケンタウロスが上半身を起こそうとしたので、すかさずヴィーシャは腰のレイピアを引き抜き、頭に向かって突き出した。

 乗りかかる馬の身体が動かなくなるのを感じ取ったヴィーシャが、その口もとに不敵な笑みを浮かべる。


「銃で深手を負わせて、剣でとどめをさす。

 これがこれからの時代の戦法よ?」


 しかしヴィーシャははっとして振り返ると、目の前に別のケンタウロスが現れまさに炎の槍を突きつけようとしたところだった。

 比較的早く気づいた方だが、それでよけきれるとは限らない。

 しかし、必死の形相を浮かべる人馬の頭に、深々と矢が突き刺さった。

 相手は白目になってすぐに大地に倒れ込む。

 不機嫌になったヴィーシャが振り返ると、すました顔で次の矢をつがえるムッツェリの姿があった。


「お前の戦法は非効率だな。わたしなら一発で動く的を狙えたぞ」


 それを聞いたヴィーシャは拳をにぎって(くや)しがるが、またしてもはっとして銃を手に取りムッツェリのほうに構えた。

 事態を察したムッツェリがうつ伏せになると、後方から狙っていたケンタウロスの身体に銃弾がのめり込み、そのまま横にくずれた。


「やっぱ訂正するわ。

 いちいち剣でとどめをさすより、一発で仕留めたほうがいい」


 立ち上がったムッツェリが首をかしげた。





 縦横無尽に炎の槍をふるうケンタウロスに、ネヴァダは身体を斜めにして構えを取った。

 狙いを定めた人馬が鋭い突きを繰り出すが、これを軽くかわしたネヴァダは両手の手甲で柄をつかんだ。

 しかし相手は余裕しゃくしゃくの様子。人をこえた怪力があれば振りほどくなど造作もない。

 そう思っていたのだろうが、ネヴァダが柄を手にしたまま飛び上がると、黒いつま先で槍をにぎる手にぶち当てた。


 これにはたまらずケンタウロスも武器を手放してしまう。

 一方ネヴァダは両手についに槍を持ち、軽々と振り回してケンタウロスの前足を斬りつけた。

 深手こそ負わなかったもののケンタウロスはヒザ立ちになってしまい、相手の顔が正面に向いたところで片手を離したネヴァダの黒い拳が顔面にめり込む。


 力を失って倒れたケンタウロスに背を向け、イサーシュの様子を見る。

 手にしたばかりの黒い剣は重量があり、まだ若年者であるイサーシュには少々使い勝手が悪い。

 現に目の前のケンタウロス相手にかわすだけで精いっぱいのようだ。


 ネヴァダが横に進み出ると、「邪魔しないでくれ!」と突き返された。


「邪魔なんてしないよ。

 ただ1つアドバイスさせてもらうと、黒鋼(くろはがね)は耐久力を重視した装備、戦法もそれにあわせたものになる。

 そいつの高い防御性を信用しな」


 イサーシュがはっとしてこちらをちらりと向き、すぐに顔を戻してうなずく。

 対するケンタウロスがまっすぐ槍を突き出してくるが、イサーシュはそれをかわさず、まっすぐ刀身を向けて正面から受け止めた。

 おどろいたことに相手の炎の槍が真っ二つに割れ、イサーシュはむしろそちらの方をかわさなければならなかった。


 武器が失われたことをおどろくケンタウロスに、イサーシュは重々しい剣を後ろに構えながらも向かっていく。

 あわてて防御を取ったケンタウロスだが、振り上げたイサーシュの剣に槍の柄ごと切り裂かれてしまい、少量の血が飛び散った。





 強力なオーラを放つダガーを手にしたメウノに、魔物たちは近寄ってこない。

 少しさびしい気もしたが、自分の身を守ることを第一に考えるのが僧侶の仕事だと思いなおした。


 落ち着いてあたりを見回すと、トナシェがケンタウロスに取り囲まれるチチガムのそばで右往左往している。

 口では呪文を唱えているが、それがあまり成功しているとは言い(がた)い状態だ。


 メウノはこの状況を利用し、トナシェを守ることにした。

 まずふところからナイフを取り出し、トナシェの方角にいる人馬に向かって投げつけた。

 達人級の腕前をほこるメウノのナイフは見事相手の顔に命中し、手で押さえているあいだにトナシェのそばに寄った。

 トナシェの「ありがとう!」にうなずいていると、背中から声がかかった。


「メウノ君かっ! 助かった!

 コシンジュは集中的に狙われてるからトナシェ君をあずかってたんだが、これだけ数が多くてはな!」


 そこへちょうど激昂(げっこう)したケンタウロスが勢いよく槍を手に突っ込んでくる。

 メウノは前に進み出てダガーを突き出すと、オーラにぶつかったケンタウロスの槍を持つ腕がおかしな方向にねじ曲がり、ついでに頭もオーラにぶつかった。

 そしてそのまま倒れ込む。

 左右には別のケンタウロスがおり、それに向かってダガーを振りまわしていると、相手は完全にひるんでいる。


 それを見届けたチチガムが正面のケンタウロスに剣を向ける。

 正確な突きを繰り出してくる人馬に対し、チチガムもまた正確な動きで炎の穂先に呪文が刻み込まれた幅広の剣をたたきつける。

 炎の勢いが弱まり、そこからさらに叩きつけると、複雑な形状の穂先に完全にヒビが入った。


 これに動揺したケンタウロスがあわてて槍を引っ込めているあいだに、チチガムはふところに迫った。

 常人ではまねできない素早い動きで剣の先を突き出すと、馬の身体の胸辺りに刀身が深々と入り込んだ。

 そこに急所があったためか、ケンタウロスの身体が力を失っていく。

 巨大な身体が倒れる前に、チチガムは素早く剣を引き抜いた。





 コシンジュは1人で2,3体のケンタウロスを相手にしていた。

 あらゆる方向から容赦(ようしゃ)なく炎の刃が繰り出されるが、コシンジュは後ろも見えているぞとばかりに次々とかわしていき、逆に棍棒でそれをはたき落としていく。


 これではかなわないとばかりに、ケンタウロスの動きが見る見るうちにひるんでいく。

 このまま消耗戦を挑めばいずれこちらの体力が危なくなるだろうが、それを試す勇気は相手にはないらしい。


「おのれぇぇっ! ひよっこどもめぇっ!

 どけ、その小僧(こぞう)はワシが相手するっ!」


 一瞬ケンタウロスたちが退いたかと思うと、かわりにネッサスが舞い降り衝撃とともに灰を巻き上げた。

 普通のケンタウロスより一回り大きい。

 ネッサスは槍をあらゆる角度に振りまわしたあと、巨大な穂先を突きつけてきた。


「小僧がここまでやるとは思っていなかったぞっ!

 いつの間にそれほどの腕前になったっ!?」


 コシンジュは穂先を棍棒ではたき落した。


「情報不足だな!

 おそってくるんならもっと相手のことを調べてから出直してこいっ!」


 するとなぜかネッサスが大きく後ろに飛びはね、コシンジュから距離を取った。


「では事前情報なしに魔物を相手にすることがどういうことか教えてやろうっ!」


 すると突然、身構えたネッサスの後方に赤い炎が吹きあげた。

 次の瞬間ネッサスの巨体がありえない速さで近づいていき、コシンジュは「わあぁっ!」と言いながらあわてて横に飛びあがった。

 おどろいて振り向くと、そばに倒れていたケンタウロスの身体が軽々とはね飛ばされる。

 向こう側で別のケンタウロスを相手にしていた仲間たちもあわててよけた。


「みんなっ! 気をつけろっ! そいつの移動力はどう考えても普通じゃないっ!」

「どうだっ! おどろいたかっ!

 単に攻撃に利用するだけが炎の力ではないっ! このように機動力を高めるのも、また炎の魔術の使い道よっ!」


 かなり後ろの方から振り向いたネッサスが、槍を振りまわしながら再びコシンジュに狙いを定める。

 コシンジュは立ち上がり、棍棒を構えながら小さくつぶやく。


「落ち着け。奴はマノータスの手下だったにすぎない。

 オレはそのマノータスを完全に打ち負かしたんだ。自身を持て……」


 あり得ない速さでふたたび向かってくるネッサスだったが、距離があったため落ち着いて考えることができた。

 敵は槍を振りまわしながらこちらに迫ってくるが、急いでやってくる奴が急な動きに対処できるはずがない。

 コシンジュはネッサスが目前までやって来たところで、真正面から飛びかかった。

 落ち着いて真っすぐ棍棒を突き出すと、人間の腰にあたる部分が光ではじけた。


「ぐふぉおぉぉぉぉぉっっっ!」


 叫び声をあげたネッサスが走ったまま横に倒れるが、全身は止まらない。

 コシンジュの身体が正面衝突するのは避けられなかった。

 小さな勇者の身体は巨大な魔物の身体に飲み込まれた。


 仲間たちが叫び声をあげる。

 代表してネヴァダが近寄っていくと、ネッサスがむっくりと起き上がり槍を大地に突き刺し、立ち上がろうとしたが……


「くろぉむっっっ!」


 光とともに首の向きがおかしな方向を向いて、ふたたび倒れた。

 ふたたび起き上がれなくなったネッサスの身体の中から、くぐもった声が聞こえる。


「だ、誰か助けてっ! こいつ、重いっっ!」


 ネヴァダがまわりこむと、ネッサスの巨体に両足を挟まれたコシンジュがうめいていた。

 急いでそばに駆け寄り、死体を持ち上げるとコシンジュが必死でそこから抜け出した。


「まったくあんたは、ムチャするねえ。まああたしも人のこと言えないけど」


 ため息をつくネヴァダに、息を整え背筋を伸ばしたコシンジュは笑いかけた。


「大丈夫だって。

 とっさにうまく身をかばえば、これくらいの突進なんてどうってことないって。

 それよりみんなはっ!?」


 2人して振り返ると、仲間たちは無数のケンタウロスに取り囲まれていた。

 トナシェが両手を突き出して光の矢を放つが、それを受けて仲間が倒れても、人馬たちにひるむ様子はない。

 ネヴァダはそれを見て片手で頭をかかえた。


「まいったね! 魔界の入り口から直接やって来たからとにかく数が多い!」

「コシンジュさんっ! ネヴァダさんっ! こっちに来てっ!」


 急いで駆け付けると、なぜかヴィーシャとムッツェリが言い争いになっていた。


「だから銃を扱う奴は嫌いなんだっ! すぐに高価な弾丸を節約しようとする!」

「仕方ないじゃないっ! こっちは替えのきかない新型兵器なのよっ!?

 だいいち魔物を解体してすぐに骨を取り出す野蛮(やばん)なやり方は性にあわないのよっ!」

「なんだとぉっ!? じゃあ盗賊は野蛮じゃないのかっ!?」

「もう盗賊じゃないし!」

「2人ともやめてくださいよっ!

 どのみちわたしが別の方法を使いますからっ!」


 トナシェは言うなり、両手を組んでその場にひざまずいた。


「長い眠りにつきし破壊の神よっ!

 我が呼びかけにこたえ、呪われし力を存分にふるえっ!」


 すると突然コシンジュ達の足元が大きくゆれた。

 ケンタウロスたちもあたふたする中、違和感を察して横を見ると。

 ケンタウロスの一隊の足元が崩れ、地割れの中に飲み込まれていった。


 上空に伸びる赤い光の筋の中から、別の姿をした影が現れた。

 人の姿に近いが、顔つきがいかついネコのような形をしている。

 全身に赤く光る斑点がついた黒い体表で、何らかの儀式に使われそうなきらびやかな衣装をまとい、手には巨大な赤く光るハンマーを手にしている。


 ネコ人間はそんな巨大ハンマーを軽々と振り回し、肩にかけると片足を前に突き出して重心をかけた。


「さあさあやってまいりましたぁっ! みなさんお待ちかね!

『地熱の領主オルディント』のご登場でござぁ~~いっ!」


 ノリノリの表情で名乗り上げたオルディントだが、周囲の光景を見てあ然とした顔つきになる。


「あ、あれ? なんなのここ? 火山?

 しかもみなさんのまわりの敵、炎属性……!?」


 オルディントが後ろにのけぞり、あわてて片手を振る。


「おいおいおいおいっ! ちょっと待てよっ!

 よりによって同属性が相手ぇっ!? いきなり何しに呼び出すんだよぉっ!?」


 いやがるネコ人間だが、トナシェが「おだまりなさい」とはねのけ、固まる。


「オルディント、同じ属性が相手でも、ルキはきちんと仕事をこなしましたよ?

 ガームに至っては弱点属性でも軽々と蹴散(けち)らしました」

「そんなこといわれたってよぉ~、

 兄貴やルキの気まじめな野郎はすんなりオッケーするだろうけどよ~」

「だまりなさいっ!

 炎の攻撃は通用しなくとも、あなたにはその巨大ハンマーを持ち上げる怪力があるじゃないですかっ! 

 それを使って堂々と破壊神としての力を見せつけなさいっ!」


 なぜか少女の罵声(ばせい)にひるむオルディント。

 それにしても幼い少女に向かって下手に出る破壊神って一体……


 ここでなぜかトナシェが「みんなふせて」と言った。

 一部が首をかしげていると、「いいから伏せてっ!」と叫び、みんなそれにあわせた。

 オルディントを見ると、なぜかうつむいてプルプルと全身を震わせている。


「……ああちっきしょぉぉっっ!

 こうなったらヤケクソじゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 と思いきや、突然顔をあげて、なぜかどなりあげた。

 そして赤く光るハンマーを軽々と振り回し、そばで動揺していたケンタウロスを殴りつけた。

 大柄なはずの人馬の身体が軽々と吹き飛ばされ、崖の斜面に身体がめり込む。


「死にさらせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」


 オルディントは巨大なハンマーを振り回しながら、逃げようとするケンタウロスに追いつき、一撃を見舞う。

 遠くに逃げた相手にもいつの間にか追いつき、背中からハンマーをたたきつけた。


 あちこちで魔物たちの悲鳴が上がる。

 様子を確かめたいが、怖くて立ち上がることができない。

 いつの間にか正面に、肩を激しく上下させたオルディントの姿があった。

 どことない場所をにらみつける目が怖い。


 コシンジュ達がおそるおそる立ち上がると、ネコ人間がこちらを向いて指をさしてきた。


「じゃあなみんなっっ!

 次呼びだすときはもっとまともな相手を用意して来いよっ! 次ふざけたマネしたら痛い目にあわせるからなっ!

 破壊神ナメんなよっ!?」


 するとオルディントの足元が崩れ、「おわっぷっ!」と言ってよろけながら赤く光るひび割れの中に姿を消した。


「……これで破壊神が一巡したな。

 それにしてもどれもこれもおかしなやつらばかりだった……」


 イサーシュがつぶやく。

 それにしてもヘームダールの時は気絶していたはずだが。実は起きていてこっそり見ていたんじゃないのか? とコシンジュはなんとなく横目で見た。

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