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I have a legendaly weapon~アイハブ・ア・レジェンダリィ・ウェポン~  作者: 駿名 陀九摩
第7章 勇者、魔界のジャングルを進む
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第37話 再会と新天地~その1~

 天高くそびえる暗黒の塔に、突然現れた美しい王妃。

 コシンジュは思わずつぶやいた。


「うっっわ。

 魔王の野郎、こんな美人さんをヨメにもらいやがって。心底腹が立つ」


 それを聞いてエンウィーがクスクスと笑っていると、鉄格子越しにそばで座っていたヴィーシャが思い切り悪態をつく。


「出た、女好きコシンジュ。落ち込んでいても反応はバッチシね。

 コシンジュ、あんたクリサとロヒイン、2人の彼女がいながらなんて反応してんの」

「うふふ、それはそうですね。

 でも、わたくしファルシス殿下の妻ですの。

 下手に手をあげたら恐ろしいことになりますから、おやめなさいな」


 するとヴィーシャがおもむろに顔をあげた。


「久しぶりね、エンウィー。アタシよ、ヴィーシャ。

 一度パーティで会ったことあるでしょ? わかる?」

「あら、ひょっとしてあなた、このあいだ下野されたというヴィーシャ姫なのね?

 まるで見違えたようだから、わたし気付かなくて。ごめんなさいね」

「腹が立つかどうかは、いい意味でか悪い意味でかによるけどね」


 首をすくめるヴィーシャに、エンウィーはやんわりと首を振った。


「もちろんいい意味でしてよ。

 それにしても、あんなにおしとやかだったあなたがこんなに伸びやかな表情をお見せになるなんて、おどろきね」

「あんたこそ、前に会った時はカリカリしてたくせに、すっかり丸くなっちゃったみたいじゃない。

 殿下ってそんなにいい男なわけ? まあ確かに顔はイケてるけど……」

「まあ。そんな下世話な話はよしてくださいな。

 それよりちょっと話をお聞きになって」


 すると突然、エンウィーは笑みをくずして神妙な顔つきになり、コシンジュのほうを向いた。


「このたびは、わが夫が大変なご迷惑をおかけしました。

 この場をお借りして、わたくしの方からもおわび申し上げます……」

「ちょ、やめてくれよ!

 オレ、別にそのことはもういいから! あやまらなくてもいいよっ!」


 頭をあげたエンウィーは、それでも申し訳なさげな表情をくずさない。


「それと、もう1つ悲しいお知らせが。

 本来はずっとずっと先だと思われていた帝国軍の北の遠征(えんせい)が、近日中に繰り上げになりましたの……」


 それを聞いた全員が顔をこわばらせる。

 イサーシュに至っては立ち上がって叫んでしまった。


「……どういうことだっ!?

 帝国軍だって魔王軍との戦いで疲弊(ひへい)しているはずだ!

 なのにその傷も()えないうちに海を渡って俺たちの国に攻め込むとは、いったい何を考えてやがるっ!?」

「ええ、賢明な家臣たちならそれは十分に理解しておりますわ。

 ですが残念なことに残された将兵はそういった人たちばかりではないですの」

 

エンウィーを見ていたスターロッドがうなずき、かわりに説明をしだす。


「先日の強硬(きょうこう)派襲撃(しゅうげき)事件で、我ら首脳の信用は失墜(しっつい)した。

 これをおさめるため、我らは家臣団と緊急の会議を(もよお)さねばならなかったのじゃ。

 そこである将兵が、我らを試そうとして北への遠征(えんせい)を打診した。

 すると奴の意見に複数の家臣が同調して、収拾がつかなくなっての。

 やむなく我らはその意見を承諾(しょうだく)せざるを得なくなったのじゃ。

 予期していた事態ではあったが、いざそれが現実ともなると……」


 くやしそうに歯を食いしばるスターロッド。

 チチガムが問いかける。


「その将兵たちの狙いは、お前たち魔王一党のさらなる失墜だな?

 もし帝国軍が大打撃を受ければ、お前たちの発言力はなくなるだろう。

 もしかしたら追い出すことも可能になるかもしれん」

「そもそも遠征を提案した者どもは、自分たちの保身しか考えておらぬ(やから)ばかり。

 本来の目的である先祖の復讐(ふくしゅう)など口実にすぎん。

 我らを体よく追い出して、自分たちが実権をにぎりたいだけなのじゃ」

「で、スターロッド。お前としてはどうする?

 わざわざ2代目大帝まで連れてきて俺たちに面会させた理由は?」


 ダークエルフはしばらく口ごもっていたが、やがてしぶしぶうなずいた。


「いくらなんでも時期が早すぎる。

 戦って勝てないこともないが、両軍が拮抗(きっこう)する状態では双方の被害が無意味にふくれ上がるだけじゃろう」


「帝国兵の士気は?」イサーシュが問いかけた。


「反応は上々じゃ。

 なんせ我らの後ろには獰猛(どうもう)な魔物の軍勢がひかえておる。

 本来海を越えての遠征は攻める側が不利なのじゃが、魔王軍の力さえ借りれば恐れることはなにもない、そう考えておるようじゃ。

 実際はやってみなければわからんがの」

「魔界の軍勢はなんて反応している?」

「あまり乗り気ではないようじゃの。

 2度も地上侵攻に失敗し、ましてや強硬派が倒れたとあっては、魔物たちの心意気も下がるばかりじゃ。

 もっとも人間と戦えるとあらば、それでも喜んで駆り出されるだろうがの」

「エンウィーさまはどう心得られておりますか?」


 イサーシュがていねいな口を聞くと、相手も同じように返した。


「わたしは、これほどむなしい戦いはないと思っております。

 止めることができるなら止めたい。だからここにいるのです」

「うむ、なるほど。

 でしたら我らに出来ることは?」

「それならわらわのほうから話そう。

 方法は1つしかない。


 お主たちはこれから“魔界へおもむき”、


 ある者へ相談を持ちかけるのじゃ」


 全員が立ちあがった。

 そのどれもが、相手の提案に息をのんでいる。


「ちょ、ちょっと待ってよ。

 アタシたちに魔界に行けって? あんた自分がなに言ってんのかわかってる!?

 正気じゃないわよ正気じゃっっ!」

「魔界と言えば、言わずと知れた敵の本拠地ではないか!

 我らは生身の人間、しかも勇者とその仲間ときている!

 当然周りは敵ばかりではないかっっ!」


 ヴィーシャとムッツェリに文句を言われたスターロッドは、あわてて両手を広げた。


「待て待てっ! お主らはちゃんと話を聞けっ!

 いくらなんでもわらわがむやみに魔界のど真ん中に特攻しろだとは言っておらんじゃろうがっ!」

「じゃあ聞きますけど、どうやって魔界の魑魅魍魎(ちみもうりょう)から身を守れっておっしゃるんですか?」


 スターロッドは問いかけるコシンジュに目を向ける。


「算段はきちんとつけてある。

 まずはここから南に広がる火山地帯に行け。そこでとある人物がお主を待っておる」


 コシンジュが「とある人物?」とオウム返しすると、相手はニヤリと笑った。


「ほれ。お前もよく知っておる、あやつに決まっておろうが」


 コシンジュが思わず「マージさん?」と首をかしげると、

 横からイサーシュが「ロヒインだよっ!」と言って頭をはたいた。


「イサーシュ冗談だってばっ!

 なんであいつが? 聞いた話だと、火山地帯はけっこう危険な場所だって聞いたけど?」

「確かに危険な場所じゃが、いまのロヒインならそんなこと(つゆ)とも思っておらんじゃろうよ。

 それにあやつは魔族となってまだ日が浅い。

 伝承(でんしょう)されたばかりの空間転移魔法を成功させるには、魔力の根元であるカンチャッカポータルを利用したほうがやりやすい」

「わかった。

 じゃあロヒインの案内で、魔界まで行けばいいんだな?

 で、そのあとはどうする?」

「その説明はロヒインめに任せよう。

 まずはこの城を無事抜け出すことが肝要じゃ。

 エンウィー、あとは頼むぞ」


 相手が「わかりました」と返すと、スターロッドは立ち去ろうとした。

 ふと足を止め、少しだけこちらに振り返った。


「我らとしてもできるだけ被害がすくなるよう努めよう。

 しかし肝心な作戦はお主らの成否にかかっておる。

 しっかり頼むぞ」

「わかりました、スターロッドさま。

 どうか後はオレたちにお任せください」


 スターロッドはふふ、と笑うと、「さらばじゃ」と告げて姿を消した。


 相手が立ち去ったのを見て、エンウィーはふところから鍵束を取り出し、カチャカチャと錠前をいじり始めた。

 かなり手間取って、ようやく扉を開けた。


「こういう作業は慣れていなくて。ごめんなさい」

「あやまらなくていいんだって。

 それよりエンウィーさま、なんであんたがオレたちを?」

「城の者たちは勇者の存在に非常に敏感(びんかん)になっています。

 ですから表だってこの城を抜けることはできません。

 ですからわたしたちが事前に手配したルートを通って、みなさんはここを出なければなりません」

「大帝陛下の顔パスも効かないということか……」


 イサーシュが言うと、エンウィーはこっくりとうなずいた。


「それこそ反体制派の思うつぼです。

 もしわたしがあなた方と一緒にいるところを見られれば、魔王殿下に籠絡(ろうらく)されていると非難されるだけですから」

「実際籠絡されてるでしょ。

 事実あんた、毎日のようにファルシスとイチャイチャしてるんじゃないの?」


 ヴィーシャが思わせぶりな笑みを浮かべると、エンウィーは赤面してうつむく。


「だからヴィーシャ、そういうこと言わないで……。

 たしかにそうかもしれないけど、臣下たちはそれでも国のことを第一に考えてくれている、そう思いたいはずなの」

「ムダ口はよそう。

 いくらなんでも立ち話ばかりしていたら、連中も怪しむんじゃないか?」


 チチガムの提案で、一行はぞろぞろと牢屋を抜けだした。

 さすがに9人も並んでいると目立ち、あちらこちらの牢屋からうめき声のようなものが聞こえる。


「うわっ。あらためて見ると結構人数いるじゃねえかよ。

 閉じ込められていた人たちはみんな解放されたんじゃなかったのか?」

「新たに人が入りましたの。

 亡くなった5人の権力者に従い、腐敗(ふはい)に手を貸していた者たちですわ。

 さすがに拷問(ごうもん)はやらなくなりましたけど、こんな薄暗い塔の中に一生閉じ込められるくらい、むしろいい気味ですわ」


 エンウィーの声には怒りのようなものがみなぎっていた。

 愛する国を傷つけられたうらみは、余人にははかり知れないだろう。





 延々と続くらせん階段をおり続け、やっとのことで塔の終わりが見えてくると、コシンジュはイヤな顔つきになった。

 一番下のフロアには、そこらじゅうに妙な色のシミがついていたからだ。

 連れてこられた時は夜だったからわからなかったが、当のひび割れからのぞく光に照らされたそれらはなんとも不気味な雰囲気(ふんいき)を放っていた。

 広場の向こう側にある下り階段の下がどこへ続いているのかを思い出し、さらに胃が重くなるのを感じ取る。

 もちろんアンカーの手下たちが罪なき人々を拷問にかけていた階層だ。


 ロウソクの明かりしかともらない、暗い廊下を進む。

 このあたりは昼間でも光が差し込まない。両側のうずたかいレンガ張りの壁が通る者に圧迫感を与える。

 以前は犠牲(ぎせい)者たちの悲鳴がこだまし、さらに陰鬱(いんうつ)な雰囲気を与えていたのだろう。

 昨晩とは違い、エンウィーは階下には下りずに奥にある小さな扉を開いた。


 するとそこは打って変わって、光のさし込む回廊だった。

 相変わらずの(くも)り空にもかかわらず、どことなく明るい感じがしてしまうのは、左右の列柱や床、天井が明るい塗装を施されているからだろう。あざやかな紋様も見る者の心を和ませる。

 背後にある地獄がウソのような、まるで天国のような世界だ。


 人はほとんどなく、兵士や高価そうな衣装を着た者たちが示し合わせたようにうなずいた。

 きっとエンウィーの息のかかった人間に違いない。


 そこをさらに抜けると、今度は目の前に巨大なシャンデリアが現れた。ミンスター城でも見たことがない代物だ。

 奥に進むと、手すりの向こうは目がくらむほど下まで続いている。

 一番下にはちらちらと人がいきかい、この城が健全な機能を果たしていることをうかがわせる。


 エンウィーはそばにある広めにとられた階段を進まなかった。

 代わりに奥にあった小さな扉を開き、コシンジュ達のほうを向いてうながす。

 おとなしく入っていくと、一同はまたしても暗がりの中へと吸い込まれた。


 物置のような場所を進んでいくと、急に明かりが開け、コシンジュ達はまたしてもあっけにとられた。

 まず目に入ったのは見上げんばかりに巨大なパイプオルガン。

 これを鳴らせばそれこそものすごい大音量がひびき渡るだろう。

 残念ながら今は誰も座っていないが、ここで誰かが鍵盤(けんばん)をはじく光景に立ちあいたいものだ。


 反対側に目を移す。

 これまた圧倒的な空間をほこる、礼拝堂があった。

 その規模は圧倒的で、以前目にした修道院や神殿に匹敵するものだ。

 並ぶステンドグラスから差し込む色とりどりの光がなんとも美しい。

 思わずメウノが口を開く。


「すごい。ゾドラにも、このような場所があったんですね」


 前をいくエンウィーが吹きぬけをながめながらうなずく。


「父が改修した時に備え付けたものなんです。この国にも当然神々を信仰する者は多いですから。

 宗教上敵対している殿下がここをおさめたことで式典は一切(もよお)されなくなりますが、殿下はここを取り壊すことはないとおっしゃりました。

 さらには全国にお触れを出し、各地の修道院を破壊しないよう厳命を下されました。

 それでも殿下は歴史ある建造物が破壊されないかどうか心配しておられるようでしたが」

「そう言えば、この国の僧侶たちはどうなったのです?

 ファルシスがここをおさめるようになり、彼らの治療術は機能するのでしょうか?

 神々の恩恵は受けられるのですか?」


 メウノにつられて、エンウィーの声色も悲しげなものになった。


「あまりよろしくない状況ですわ。

 神々のご加護(かご)が急速に沈んでいっている模様です。

 伝え聞くところによりますと、僧侶たちは病に苦しむ人々のために仕方なく治療魔法を学んでいるようなのです。

 中には物理的治療法を数少ない医師たちから学んでいる者もいます」

「そうですか。

 魔王が国をおさめることで、かえって弊害(へいがい)も出ていることもあるのですね。悲しいことです」


 言いながららせん階段を下っていくと、コシンジュ達は目がくらむほどの広さをほこる礼拝堂を進んだ。

 奥にある人影は豆粒ほどの大きさしかない。


 ようやくその人物のたたずむ祭壇の目の前までたどり着くと、相手は明らかに人間ではないことを思い知らされた。

 肌はうっすらと赤く染まり、頭には巨大な角、背中からはコウモリのような羽根が生えている。


「ここにいるのはエルゴル。

 もともとはベアール将軍の腹心だったのだけれど、魔界の宰相(さいしょう)の命令でこの城に忍び込んでいたの。

 わたしが生まれる前の話で、小さいころからわたしのお付きの侍従(じじゅう)として仕えてきたわ。

 つまり魔界と帝国の懸け橋となる貴重な人材、というわけね」


 エルゴルはていねいにこうべを垂れると、片手を祭壇の前にある風呂敷(ふろしき)のほうに指示した。

 風呂敷の上には見覚えのあるものがずらりと並んでいた。


「オレたちの武器だ。どうやって取り上げたんだ?」


 デーモンのエルゴルはうなずき、野太い声を発した。


「簡単だ。宝物殿に収められるところを陛下の命令で見聞(けんぶん)すると言えばよい。

 いまの私ならそれくらいの実権くらいはある」


 コシンジュ達はそれぞれの武器を手に取り、具合を確かめる。

 ヴィーシャが最新式の銃を2つにおりながらグチをこぼす。


「それにしても魔界かぁ。

 こんなことになるくらいなら、ファルシス相手に1発使わなきゃよかったわ」

「魔界の旅がどれくらいになるか次第だな。

 弾はどれくらい用意されてるんだ?」


 ムッツェリにうながされ、ヴィーシャは袋の中を確かめる。


「げ。ちょっとなくなってる。誰かが試し撃ちしやがったな……」

「まあいい。すべてなくなったらその細っちい剣だけで対応しろ。

 私の矢は魔物の骨さえあればいくらでも作れるから、その分お前の分もきっちり働いてやる」

「チッ、自分は余裕のあるツラしやがって。

 あんたの弓は魔王に軽々と受け止められたじゃない」

「どうでもいいけど、ヴィーシャ一般人になってからますます口が悪くなってないか?」


 イサーシュが2人のくだらないやり取りに横やりを入れている一方で、コシンジュはなにもなくなった風呂敷をぼう然と見まわす。


「おかしいな。マドラゴーラの袋がない。

 それにイサーシュの武器はどうするんだ? 折れちまった代わりの剣が必要になるだろ」

「それなら問題ねえさ。

 まずマドラゴーラに関して言わせれば、ロヒインちゃんが連れて行った」


 全員が後ろを振り返った。

 そこに現れたのは、ブレベリと手をつないで現れた赤い騎士だった。

 手足の鎧をはめ終えたネヴァダが「ブレベリッ!」と叫ぶと、小さな少女はすぐに駆け寄ってお互いに抱きしめあった。

 それを横目に、ベアールは反対の手に持っていた細い何かを両手にかかげた。


「ほう、親方。

 先帝がお使いになった武器をお渡しになるのですね?」


 腹心のエルゴルが口を開くと、複数の穴のあいたヘルムはプイと反対側に向けられた。


「やめてくれよ。

 俺そうやって下手に出られるのは苦手なんだ。だいたいお前はいちいちカタいから困る」


 この上官はあまり相手のことをよく思っていないらしい。


「でしたらわたくしのほうも。

 アンカーと対戦した際、『例の力』を使われたでしょう。

 いつ人が通りかかるかわからない場所で、周囲の状況もわからずにそれをお使いになるのはおやめ下さい。

 親方にとって重大な弱点となります」


 ヘルムの上にもかかわらず、ベアールはポリポリと顔部分の前面をかいた。


「よそ事はその辺にしておいて、その剣について説明をしてくれ」


 イサーシュにうながされると、ベアールは手に持ってみろと言わんばかりに両手を差し出した。

 イサーシュがそれに手をかける。

 しかし持ち上げる瞬間その手がガクンと下に下がった。


「ぐおっっ! なんなんだこの重さはっ!」

「はっはっは~っ! ひっかかったぁ~!

 その『大帝の黒剣』は黒鋼でできた上等なシロモノだっ!

 果たしてお前に扱えるかなっ!?」


 指をさして高らかに笑うベアールに、イサーシュは顔をしかめながらも剣を引き抜く。

 黒い刀身は光を反射せず、そこだけまるで暗闇に飲み込まれたかのように見える。

 イサーシュは両手に持って具合を確かめると、それを高く掲げ、一気に振り下ろした。


「お、なかなかいい動きをするじゃないか。

 あとは毎日素振りしたら十分な筋肉がつくかな?」

「おいベアール。大帝が使っていたという代物なんだろう?

 こんなものを俺によこして、大丈夫なのか?」

「もちろんタダでとは言わない。

 そこでちょっと相談があるんだが、ちょっとこっちに来てもらっていいか?」


 手招きするベアールに、イサーシュは仲間たちを見回しつつ、仕方なくそのあとについていく。

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