第36話 終着点と通過点~その4~
「みなさん、下がってっ!
もしかすると『アイツ』のほうがやってくるかもしれませんっっ!」
イサーシュ、メウノ、ネヴァダは急いでトナシェの後ろへと下がっていく。
全員が上を見上げると、青白いオーラはいつの間にか激しい水の渦巻きに包まれていた。
「8つの神を一巡するかと思ったのに、見覚えのある奴がやって来たぞっ!?」
イサーシュが思わずうめき声をあげる。
「今のファルシスを打ち倒すには、表の破壊神しかいないのかもしれません。
しかも4つの中で最も凶暴な者でなければ……」
この塔が破壊されてしまうかもしれない。
そう思いながら巨大化していく渦巻きを見つめていると、突然はじけてサメのような体型をした破壊神が現れた。
若干天井にぶつかりそうな、両目が横に張り出した頭部。
その下には紳士が好む服を着た人型の身体が飛び出ている。
飛び出した両目と紳士の鼻から下の顔がニヤリと笑う。
「ん? なんだかにおうぞ?」
宙に浮かぶ身体がいきなり下まで降り、二足歩行の獣に近寄ってクンクンと鼻を鳴らす。
「お前、におうな。
それも獣のにおいじゃない。強大な魔力のにおいだ。それも闇の力……」
嵐と津波の破壊神ヨトゥンガルドは少し身体を離し、不敵な笑みを浮かべた。
「ひょっとしてキミィ! あれじゃな~い?
例の、『3代目』ってやつだろぉっ!?」
「いかにも。
余は『初代アザウェル』、2代タンサに続く3代目魔王、ファルシスだ」
魔王に初代がいるなどという、知らぬ者には衝撃の事実が軽く明かされる。
ヨトゥンガルドは納得した表情であごに手をやり、ムフフと笑う。
「ふふ、勇者たちも運が悪かったな。よりによってボクが呼び出されるとは。
ボクは魔王と戦う気はさらさらないんだよ」
しかし、その顔色がくもった。
なぜかもう一度ファルシスに顔を近づけ、何度も方向をかえながらクンクンと鼻を鳴らし続ける。
「……なぜだ?
お前の身体から、人間のにおいがする……しかも女のにおい……」
急に身体を離したと思いきや、はなから下しかない顔が思い切りゆがんだ。
「あのケバケバしい、いまわしい人間のにおいっっ!
貴様、人間の女に手を出したなっっ!?」
「ごまかす気などない。
余は人間の女と結婚した。それのどこに不満が?」
するとヨトゥンは上体を広げて大きくのけぞり、激しく左右にゆすった。
「神々の使徒をヨメにもらっただぁぁぁぁぁぁっっ!?
てめぇぇぇぇっっ! 魔族としてのプライドはないのかぁぁぁぁぁぁっっ!?」
「ついでに言わせてもらうと、余は人間と手を結ぶことにした。
もはや我ら魔族は人間世界を力のみで征服する意図はない。逆らえば別だがな」
「てめぇぇぇぇぇぇっっっ!
汚れたカスに魂を売りやがってぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!
殺すっっ! ぜってぇ殺してやるぅぅっっっ!」
広げた両手から、すさまじい勢いで渦巻く水のらせんが現れた。
普通の生物がこれをまともに食らえばどうなることか。
それをよりによって両手であわせ、自分からしてみればはるかに小柄な2足の獣に向かって、思いきり突き出した。
対するファルシスは黒いオーラの両手をかかげただけで何もしない。
激しい水しぶきが、そこから飛び散った。
周囲は身を伏せても、大量のしぶきに包まれた。
トナシェが顔をあげると、その色が若干赤く染まっていることに気づく。
おどろいたのはヨトゥンも同様だった。
水のらせんがあとかたもなくなっているばかりか、両手の人差し指が吹きとんでなくなっている。
「……な、ななな……!
なっ、なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
思い切り叫び声を発したヨトゥンは、思わず後方へとしりぞいていく。
ファルシスはそのスキを見逃さず、見失いそうになるほどのすばやさでふところに飛び込んで、そのまま高くジャンプした。
突き出した腕が、ヨトゥンの人間部分の胴体へ深々とめり込む。
目のない表情がゆがみ、口から大量の血がこぼれた。
「ごばぁぁぁぁぁぁっっっ!」
少量の血を浴びながら、ファルシスは腕を引き抜く。
真っすぐ指を伸ばした手は真っ赤に染まっていた。
少し後ろにステップすると、今度はサメの頭部めがけて思い切り高く飛びあがった。
顔の手前で全身を回転させ、伸ばした足をすばやく蹴りあげた。
サメの頭部が真っ二つに割れ、水の入り混じった血が滝のように流れる。
その瞬間、ヨトゥンの全身が半透明になった。
そしてほとんど水色に染まったと思いきや、溶けて下へと落下し、大量のしぶきをあげた。
小さな波が、周囲にいるすべての者にかかる。
全員が体勢を整えたあとには、水浸しになった床が残っただけだった。
「破壊神が、強大な力を持った破壊神が、『深き眠りについた』……」
トナシェの遠回しな言い方に、コシンジュはとうとう黙っていられなくなった。
「深き眠りについた? 死んだのか?」
「破壊神は死にはしません。大自然の化身ですから。
ただ長い眠りについて目覚めなくなります。
いずれ復活はしますが、その時は記憶と力の大半を失うことになります。
それは天界の神々も同じで、彼らはそれを最も恐れているのです。
母上のいる神殿も破壊神の姿が消えて、今頃大あわてになっていることでしょう……」
繰り広げられた会話は、場違いなほど冷静なものだった。
おもむろにメウノが進み出て、突然ヒザと手をついた。
「負けた……私たちは完全に、負けた……」
それが決定打となり、全員が肩を落とした。
もはや彼らに一切の打つ手はない。津波にぬれて目を覚ましたチチガムやヴィーシャも同様だった。
「悔むことはない。余は完全なる悪ではない。
もちろん野心はあるが、それをある程度抑えることのできる理性は持っているつもりだ」
そして巨大な獣は背中を向けた。
それでもなお、異形の雄姿には人を畏怖させる力がある。
「悪いが、貴様たちをこのまま帰すわけにはいかん。
しばらくは南東の塔に幽閉させてもらう」
ファルシスは歩きだした。
カチカチと床に足の先の爪を鳴らしながら、奥の扉の手前で立ち止まる。
「出来るだけ不快にならぬよう善処しよう。ゆるりと休まれよ……」
言って、扉の奥の暗がりへと消えていった。
獣人の後を追うように、ファブニーズ、ベアール、スターロッドが扉へと向かう。
ベアールとスターロッドがこちらに振り返る。
スターロッドの美しい顔が悲しみをたたえている。2人の目には、自分たちがどのように映っているのだろう。
扉が閉められると、コシンジュ達は静寂の世界に包まれた。
じきに黒い騎士たちが自分たちを取り押さえにやってくるのだろうが、それをわかっていてなお誰も動くことはできなかった。
塔の上階まで上がり1人になったところで、ファルシスは外を見た。
相変わらずの曇天は若干暗くなりはじめている。
魔界の闇になれた身でも、どことなく不気味な感じを思わせた。
「そ、そこにいるのは何者だっっっ!」
聞きなれた声が罵声をあげる。
振り返ると、エンウィーはおびえた表情で立ちすくんでいる。
「落ちつけ、余だ。ファルシスだ。変身して姿を変えただけだ」
「う、ウソをつくな……
声色をマネして、わたしをだまそうと思ってもムダだぞ……」
声に動揺が現れたのは、自分の夫の見知らぬ側面に戸惑っているからかもしれない。
「ウソだと思うならベアールやスターロッドに聞いてみるがよい。
奴らはこの姿を見知っているぞ」
それでも落ち着いて説得すると、エンウィーは警戒を解きながらも複雑な表情を見せる。
「こ、これは失礼しました殿下。
で、ですが、せめてその姿をお解きください。正直、こわいです……」
「いや、それはできぬ」
そう言ってエンウィーに近寄っていくと、エンウィーは思わず後ずさってしまった。
「お前は魔王の妻だ。この姿にも慣れてもらわねばならぬ。
お前には、余のすべてを受け入れてもらいたいからな」
「うう、でも、本当に怖いですから……」
いまだにおびえるエンウィーに、ファルシスはゆっくりと歩み寄る。
両手を広げると、他の部位と違って鋭いトゲはなく、いつもより屈強な身体に包まれた筋肉が現れる。
エンウィーはおびえつつも近寄っていくと、ファルシスはそっと妻の身体を抱き寄せた。
「大丈夫、大丈夫だから……」
ファルシスは両手で彼女のまとめ髪と背中をさする。
いつもとは少し違う感触に、時折エンウィーの身体がビクリとする。
「下で騒ぎがあっただろう。話は聞いていたか?」
「ええ、ですが何も心配してはおりませんでした。
殿下はお強いですし、殿下が亡くなられることは勇者のみなさんにとっても望むことではありません」
ようやく落ち着いたエンウィーが顔をあげる。
が、獣のような顔つきを見てまた複雑な表情になる。
「それでも、戦わなければならなかったのですか?
そのようなお姿になってまで、勇者たちをこらしめなければならなかったのですか?」
ファルシスは愛する妻に目を向けず、前方を見つめたまま言った。
「彼らの怒りを、受け止めねばならなかったのだ。
彼らの余に対する怒りを鎮めるには、これ以外に方法はなかった」
ファルシスはゆっくりとエンウィーの身体を抱きしめた。
いつも以上にいたわらなければ、この身体では妻の身体を簡単に破壊することができてしまう。
戸惑いつつも抱き返してきたエンウィーに対し、ファルシスはささやきかける。
「今日、お前のことを考えた。
勇者のように、愛する者に不幸が訪れたら、余はいったいどうなってしまうのかと……」
「でも、殿下はお強いんでしょう?
この圧倒的な力で、わたくしをお守り下さるんでしょう?」
「そんな男が、マノータスの前でふるえあがったのだ。
余の力を持ってしても、お前の身を確実に守ることはできぬ。
そのことに心のそこから震え上がった」
ファルシスはほんの少しだけ、妻を抱きしめる腕に力を込める。
これだけでも相手が「少し、苦しいです」と言ってしまう。
「余には守るべき者が多すぎる。
母上、ファブニーズ、ベアールにスターロッド、ルキフール、そして帝国とお前。
すべてを守り切るには、このたった1つの身体ではどうしても足りないのだ」
すると窮屈そうながらもエンウィーは、片手でポンポンとファルシスの身体をたたいた。
「大丈夫。みんなが支えてくれますよ。
殿下はお1人ではございません。みんなで力を合わせて、支え合って生きていきましょう」
「そうだな。お前の言うとおりだ……」
勇者を完全に打ちのめしてなお、ファルシスには戦うべき敵が多い。
それでも、前に進まなければならない。
理想の世界をつくるために。愛する者が安心して、暮らしていく世界をつくるために。
ファルシスは胸のうちに決意を秘めながら、ずっと最愛の人を抱きしめ続けていた。
圧倒的な様相をほこるゾドラ城。
その太陽から背を向けた南東の方角には、天をまっすぐ突く他の尖塔に比べて、ひときわ異様な塔がたたずんでいる。
他の塔もそれなりに個性的な外観をほこるが、この塔がとりわけ風変わりなのは周囲が美しい様相を保っているのに対し、ひたすら朽ち果てていて、今にも崩れ落ちてしまいそうな雰囲気を放っているからである。
全体の塗装がはがれおちてレンガがむき出しとなり、ところどころがひび割れて穴があいている。
なぜこのような外見をしているのかというと、魔王軍が勇者を筆頭とした反乱軍におそわれ壊滅した際、朽ち果ててしまったのを改修せずそのままにしているからである。
ここは「幽閉の塔」と呼ばれている。
文字通りここは敵兵や国内の反乱分子を閉じ込める、いわば監獄の役割を果たしている。
外面とは一転して塔内はそれなりの修復をほどこされ、高く伸びる吹き抜けの中に何層にも分けられた牢獄が備え付けられている。
この塔の下層階には帝国諜報院があり、その真上に幽閉者を痛めつけるための拷問所がおかれている。
伝え聞く話によると、本来地下に置くべき拷問所が諜報院の真上にあるため、虐げられる者の怨嗟が聞こえてくるばかりか、天井から血がにじみ出し局員たちの執務席に落ちてくるのだという。
そして局員たちはそれにもかまわず、熱心に仕事に取り組むのだとも。
かつてここで扱われていた書類には赤茶けたシミがよく張り付いていたというが、それを手にした外部の者は頭を駆け巡る想像にふるえあがるのだという。
塔の上層階にはかつて情報局長を務めていた宮廷道化師アンカーの自室があり、逆に最下層にはアンカー子飼いの暗殺者たちの訓練所がおかれていたが、現在はどちらも使われていない。
塔の中の檻には比較的広めの窓に鉄格子がはめられているだけだが、そこから脱出しようとするものはあまりの高さにすくみあがり、脱走をあきらめるのだという。
そんな鉄格子にしがみつく小さな少女がいた。
トナシェは縦に並ぶ鉄棒のすきまから、そっと下の方をうかがう。
「うっわ~。なんなんでしょう、この高さは。
まるで雲の上にいるみたいです。ここから落ちたらひとたまりもありませんね」
「早くしろよトナシェ。
いくら子供でも持ち上げるのは根気がいるんだぞ」
「あ、もういいです。
やっぱりここから逃げるのはムリみたいですね」
トナシェが告げるとイサーシュは彼女の両足を持つ腕をそっと下ろした。
おりきる前にトナシェは飛び上がって冷たい床に着地する。
そして周囲を見回し、ため息をつく。
「はぁ、やっぱり塔の中を見ると、暗い気持ちになっちゃいますね。
この闇が一体どれだけの人々のうらみを吸い上げてきたかと考えると、思わずふるえあがります」
そう言って両腕をかかえてわざとらしくちぢみあがる。
薄暗い塔の中央部、若干広めの集団房にコシンジュ達は閉じ込められていた。
ここまで連れてきた兵士たちはコシンジュ達を北の人間とみなしていたからか、丁重に扱えと言われていたにもかかわらず多少乱暴にここに押し込んできた。
ヴィーシャはここまで来る間さんざんわめき散らしていたが、相手はまったく聞く耳を持たない様子だった。
そんな彼女は、いまは鉄格子のそばで座り込み、塔の中を見上げている。
「確かに陰気な場所よね。
こんなところに数日閉じ込められたら、アタシ頭がおかしくなっちゃいそうだわ」
塔の中はところどころ光が差し込んでいるが、それも周囲の圧倒的な闇の中に吸い込まれてしまっている。
わずかに見える他の鉄格子や、空中に浮かんでいる小さな鳥かごのようなものは、赤黒く染まっておりよけい不気味な雰囲気を放っている。
「あの空中の鉄格子、きっと中に人を閉じ込めてたんだわ。
ほとんど身動きの取れない状態でいたから、さぞ恐ろしいうめき声を発していたでしょうね」
「そういう使い道もされていたようだけど、本来はアンカーが上り下りするための昇降機として利用してたらしい。
しかも囚人に動かさせて。ますます例の道化師の品性を疑うね」
ネヴァダの言葉にメウノがため息まじりに返事を返す。
「一度も顔を合わすことなく死んでしまいましたが、いまにして思えば会わずにすんでよかったような気もしますね……」
その言葉を耳にしながら、ムッツェリは死んだような表情でうつむくコシンジュに目を向ける。
「そんなに落ち込むな。
くやしい気持ちを抱いているのは我々も同じだ。
そうだろう? イサーシュ。お前なんか自慢の剣をへし折られてしまったんだからな」
となりに座りこんだイサーシュはうなずき、なにも手にしていない片手を顔の前まで上げた。
「修復されれば元に戻るだろうが、魔王、いやファルシスにまったく通用しないとあればどのみち意味はない。
鍛え直すだけムダ、というわけだ」
「それどころか我々の武器はすべて取り上げられてしまったようだな。
どれも魔物に対しては恐ろしいほどの効果を発揮するものばかり。
いったいどのように扱われるというのか」
チチガムの声にうなずき、ネヴァダはむき出しになった手足をながめた。
「手元に戻ってくるといいけどね。
おそらくはあたしたちが北に送られたあと、別の船で送り返されると踏んでるけど」
手を下ろしたネヴァダは暗い顔をする。
「ブレベリやクリサも一緒に連れて行けるといいけど。
あの子たちを置いて、この国を離れることはできない」
「そう気を落とすな。必ずマージ将軍が善処してくれるさ」
チチガムが肩に手をかけると、ネヴァダは顔を向けてほほえむ。
そこでなぜかチチガムのほうが照れくさくなったように顔をそむけた。
それを見たヴィーシャがいやらしげな笑みを浮かべる。
「親父さ~ん、ひょっとして相手が美人だと思って照れてない?
妻も子供もいるのに?」
「ば、バカ野郎!
そんなことあるか! 俺は妻や子一筋だっ!」
「そんなこといって~、あの露出狂の変態女相手にも目を止めてたでしょ、
彼女、美人だしナイスバディ……ああ思い出したら腹が立つっっっ!」
なぜか勝手に怒っていた。
それを聞いたイサーシュが耳をふさぐ。
「ああうるさい。
狭い牢内に8人がひしめきあってんだから静かにしろよ」
「……ほほう。
それでその例のナイスバディが現れたら、お主らどんなリアクションをするんじゃろうな?」
全員が振り向くと、鉄格子の向こうにスターロッドの姿があった。
肌もあらわな格好で腰に手をやる姿はいつ見ても様になっている。
チチガムが思わずうめいた。
「お、おう。
お前が例のダークエルフの女王か、で? いつ我々を釈放してくれるんだ?」
顔を向けるチチガムとイサーシュが赤くなっている。
そばにいる女たちが頭をはたくとすぐに顔をそむけた。
一方コシンジュはぼう然と彼女を見上げる。
「スターロッドさま。ロヒインは?
ロヒインの奴はいまどうしているんです? あとクリサとブレベリは?」
「案ずるでない。
クリサとブレベリは今マージが手厚く保護している。娘にはじきに会わせてやろう。
それよりも……」
スターロッドは腰を落とし、片ヒザをついた。
両ヒザの奥にあるきわどい部分に思わず目をやると、さすがにコシンジュは顔を赤らめて別の方向を向いた。
「ククク。いやいや、話はロヒインのことじゃ。
彼女は無事、契約の儀を結んだ。
主はわらわでもベアールでもなく、ファルシス自身だ」
「魔王が? どうしてそんな?」
コシンジュが顔を戻すと、スターロッドはうなずいた。
「今、魔界の人材は不足しておる。すこしでも優秀な人材が欲しい。
ロヒインの奴めが直接ファルシスと契約を結べば、それだけ強大な力を持つ魔族として転生することができる。
ましてやあれだけの逸材じゃ。どれだけ強力な魔力を持ったデーモンとなることやら……」
「で、いつ会えるんだ?
それとも魔族になった以上、あいつはロヒインを手放さないつもりか?」
「その話をする前に、1人会ってもらいたい奴がいる。ここへ……」
スターロッドが横に振り返ると、奥から別の人物が現れた。
全員が息をのんだ。
現れたのは、スターロッドに勝るとも劣らない美しい女性であった。
「はじめまして。
わたくし、第2代ゾドラ帝国大帝にして、魔王ファルシスの妻である、
エンウィーと申します」
褐色のなめらかな肌をした表情をほころばせ、エンウィーはつややかな黒髪を少しだけ下げた。




