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第3話 早すぎる人質作戦~その3~

 翌日、勇者たちは小さな宿場町を出てふたたび城に向かった。


「しかし小さな村だったな。ほとんど数軒の宿しかなかったぞ。

 農家も1,2件しかなかったみたいだし、これでよくやってけるよな」


 コシンジュがみんなに問いかけると、メウノが深くうなずいた。


「昔はたった1(けん)しかなかったようです。

 このところ北の大陸は平和が続いてますから、このように無防備な作りでも十分やっていけるんですよ」

「しかしここまでよくも体よく宿にたどり着けるな。

 まるで要所要所にきちんと宿があるみたいだ」

「あの村はそのためにあるようなものです。

 旅人というものは元来野宿を嫌いますから、そのようにならないためにあのようにして人が1日でたどれる程度の場所に必ず宿がおかれているんです」

「メウノ、いろんなこと知ってるな」


 コシンジュは興味深そうにメウノの顔を眺める。


「そんなことありませんよ。

 比較的大きな町に住んでるから、ある程度の情報がいやでも入ってしまうんですよ」

「ちょっとぉ! それってわたしたちのような田舎者に対する当てつけ!?」

「そんなつもりはなかったんですが、どうしたんですかロヒインさん?」


 要領を得ないメウノに変わり、コシンジュがすかさずツッコミを入れる。


「おいロヒイン!

 お前自分が知識量で負けてるからって変なライバル心持つなっ! すねんなっ!」

「こんなことなら先生についていかないで大魔術院に残ればよかった」

「お前シイロ先生のおかげでそこまでの魔導師になれたんだろうが!

 あとうちの村に住んでたから勇者パーティーに入れたんだろうが! 変な人生の反省すんな!」

「ベーっだ! どうせ知識量で負けてもわたしにはこれがあるんだからいいんだも~ん!」

「ちょ、おまえまさかっ!

 こらっ! メウノの後ろに隠れるな! すみませんどいてください!」

「あら、どうしたんですか?」


 メウノは何が起こっているのかもわからず、言われても動こうとしない。

 コシンジュ1人があわてふためくあいだに、ロヒインのいたあたりからボンッという音が響いた。


「……ばぁ!」


 メウノの横からひょっこり顔を出したのは、先ほどのロヒインとは似ても似つかない美少女だった。


「あ、あなたは?」

「どうも、変身魔法で女の子に入れ替わったロヒインです。

 これさえあれば思春期まっただ中の青臭いコシンジュでもイチコロ間違いなしっ!」

「お前男だろっ!? 変身してもオレにゃ何の興奮ももたらさねえよっ!

 それともあれかっ! ついに同性愛者を正式に認めるかっ!」

「うるさいっ!

 コシンジュやっとパーティーメンバーに女が入れたからって浮かれやがって、こんな○ス女より、わたしのほうがず~っと魅力的なんだってばよ!」

「お、お前その一言まずくないかっ!? さすがに言いすぎじゃないかっ!?」


 言われてロヒインがはっとした時だった。

 ふと見上げると、メウノの表情は固まったまま動かない。


「あ……まず……」

「……やっぱり、やっぱりわたしは必要なかったんだ。

 コシンジュさんはわたしのような容姿の女よりも、治療術さえできればもっとちゃんとした女性のほうがうれしいんだ……」

「そんなことないよ? オレは仲間を実力で評価するよ?」

「ウソだコシンジュ、メウノさんがまだフードかぶってた時はメチャメチャ浮かれてたくせに……」

「そう、まだ世の中にはたくさんの女性僧侶がいる。

 わたしなんかより、そういう人についてってもらった方がコシンジュさんにとって心の支えになるはず……」


 そしておもむろに懐からキラリと光るものをとりだした。


「……かくなる上は……」

「「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」」


 2人は必死で彼女の腕をおさえる。


「ほらお前がつまんねえ嫉妬(しっと)でゴチャゴチャくだんねえことぬかすから!」

「ごめんなさ~~~~~~~~~~いっっ!」


 後ろを歩いていたイサーシュはため息まじりにつぶやいた。


「まったくそろいもそろって何やってんだお前らは……」





 いったん落ち着いたメウノがあらためてつぶやく。


「それにしても急がなければなりませんね。

 このままだと今日中に次の目的地までたどり着けるかどうか」

「ロヒイン、お前のせいだぞ。あいも変わらず人前で変身魔法使いやがって」

「……すみません」

「ロヒインさんはしょっちゅう変身してそのような姿になっているんですか?」


 コシンジュはメウノの反対側をいまいましげに指差す。


「ホモなんだよこいつ。そんで口では言ってないけどオレのこと好きなんだよ」

「そんなことありませんよっ!

 わたしはただこのネタでコシンジュのことからかうのが好きなだけなんですよ!」

「うそこけっ! お前こないだカンタの町にたどり着いた夜その姿でぐおはっっっ!」


 突然前方から鋭い一撃がやってきたのでコシンジュは腹をおさえた。


「……な、なぜっ!?

 超文化系であるはずのロヒインがこのプロのような一撃をっ!?」

「次言ったらいくらコシンジュでも殺すからね」

「何があったんですか?」


 メウノが問いかけると、ロヒインはかわいいしぐさで「なんでもありませ~ん」と首をかしげた。

 メウノは内心、彼(?)はやはりコシンジュに気があるのではないかと思いはじめていた。





 それからしばらくしてだった。

 メウノがおもむろに上空を見上げると、青空の中に小さな小鳥の姿が現れた。

 ただ上空を飛んでいるだけかと思いきや、なぜか小鳥はこちらのほうに向かって舞い降りようとしている。

 なんだか挙動がおかしい、メウノはそれを指差した。


「あれ、なんでしょう」


 言われて他の3人も上空を見上げた。

 すると彼らは一斉にはっとした顔つきになる。

 それを見回したメウノは眉間にしわを寄せた。


「みなさん、いったいどうしたんです?」

「あれは……先生の鳥……」


 深刻な顔を浮かべた美少女がそっと細い手を上げると、その手首に青と黄色の色鮮やかなインコが止まった。


「久しぶりじゃなロヒイン、とはいってもつい3日前のことじゃがな」

「シウロ先生っ! 急にどうしたんですかっ!?」

「いやはや、大変なことになってしもうた……」


 あまり深刻そうでない口調でインコはしゃべるが、ロヒインの目は真剣そのものだ。


「もったいぶらないで速く教えてください先生!」

「……実は今朝、早いうちに魔物がこの先にあるラナク村におそいかかった。

 魔物どもは村人たちを監禁して封鎖したのじゃが、運良くその村には魔導師がいてな。

 こっそりワシのところに魔法伝書バトを送ってきたのじゃ」

「くそっ! 魔物どもめっ! 今度はその手で来たかっ!」

「魔界の生物らしく正攻法で挑みかかるつもりはないようだな」


 吐き捨てるように言うコシンジュやイサーシュにメウノはうなずく。

 その間にインコは「まかせたぞ」といって飛び去ってしまう。

 ロヒインが「先生!」とさけぶ以外は、コシンジュ達は目だけで羽ばたく鳥を見送った。


「上級の魔物は温存しておきたいんでしょう。

 無法者たちをきちんと統率できる存在が必要ですからね」

「これっ! わたしたちに有利なんじゃないっ!?

 敵はあたしたちがこんなに早く情報を入手できたなんて知らないはずっ!

 今のうちに対策を考えておいた方がいいよっ!?」

「落ち着いてくださいロヒインさん。我々に有利に働いているのは時間だけです。

 村の状況がどうなっているかはまだわかっていません!」


 イサーシュがうなずくと、メウノにまっすぐ問いかける。


「あんたはその村を訪れたことがあるんだろう? 村の構造は覚えているか?」

「あまり記憶がないんですけど……」


 そう言ってメウノは小さなナイフを取り出し、しゃがみ込んで路上に線を引き始めた。


「昨日止まった宿場町と違い、ラナク村との距離が離れているのは、そこがもともと農業主体の集落だからです。

 だから村の周囲は中規模の農園で囲まれています。

 そのため見晴らしがよく、敵に気づかれずに侵入するためには高度な魔法が必要でしょう」


 農園を示す2重丸の中に、おもむろにいくつかの四角をかき始めた。


「村の建物はほとんど農家ばかり。後は宿とよろず屋と小さな酒場があるだけです。

 しかし敵としては人質をそちらに押し込むより、こちらの教会のほうが好都合でしょう。

 ここなら村人全員を監禁するのにうってつけです。

 ここにはわたしが祭祀(さいし)を行いに行ったことがありますから、構造はよく覚えています」

「よし、そこまでわかれば上出来だ。

 後はどんな連中が待ち構えているか、こっそりうかがってみるしかないな」

「人質を監禁することができるような魔物なら、あまり大柄なタイプではありませんね」


 ロヒインがつぶやくと、イサーシュは首を振った。


「リーダーはそうとは限らんだろう。

 いずれにしてもまずは村まで実際に行ってみないとわからんな」


 イサーシュの結論に従い、4人は立ち上がった。


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