第29話 初めてお目にかかる~その3~
「お前、誰だ……?」
コシンジュの呼びかけに、なぜかロヒインがしきりに首を振る。
「マドラゴーラから聞いた話には、こんな奴はいなかった。新手の炎使い……」
「フンッ! これ以上小者を送り込んだところで意味はないっ!
長旅の疲れと戦いの傷で弱りきったてめえらを、最後にこの獄炎魔団長、
『マノータス』が一気にたたくっ!」
いまだに治療を受け続けるネヴァダ以外の全員が、顔を真っ青にした。
まさかこんなところで獄炎魔団のトップにおそわれるとは……
「き、きたねえ。あまりにも汚すぎるぞ。
それでもお前に魔族としてのプライドがあんのかよ……」
コシンジュの消え入りそうな声に、牛頭の魔物は思い切り状態をのけぞらせた。
「ぷらいどぉぉぉぅっっ!? なにを言ってやがるんだてめぇっ!
そんなくだんねえものを持ってたから、いままでの連中は無様に殺されちまったんだ!
そんなモンはタンでも吐きかけてドブにでも捨てちまえっっっ!」
顔を戻した牛頭はガハハハハと下品な笑い声をあげ、倒れているネヴァダのほうを見る。
「おいおいっ! もう虫の息じゃねえかっ!
こんな奴を助けて何になる! 足手まといはさっさと切り捨てちまえっ!」
コシンジュが「なんだと!?」と言って前に進み出ようとするが、ロヒインに腕をつかまれて止められた。
「なにすんだよっ!」
「わたしたちは疲れ切ってる!
体調が万全な奴とやりあって、まともには立ち向かえないよ!?」
しかし、そのあいだにもマノータスの巨体が両腕をあげ、握った拳からすさまじい勢いの炎が吹きあげられた。
それはまっすぐ横たわるネヴァダに向かって叩きつけられようとしている。
メウノがあわてて、上空に向かってダガーを構える。
とたんに激しい炎が噴き上がり、マノータスの拳は止められるが、弾かれることはなかった。
「えっ!? なんでっ!? ダガーの力ではじき返せないっ!?」
コシンジュの問いに、ロヒインが答えた。
「だめっ! 治療を続けてメウノさんも弱ってるっ!
ダガーの強大な力もメウノさんの魔力がなければ真価を発揮できないっ!」
「グハハハハハハッッ! オレのにらんでいた通りだっ!
お前らは全員虫の息、このオレ様の圧倒的な力の前ではひねりつぶすのはいとも簡単っっ!」
「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
コシンジュが前に進み出ると、今度はロヒインも止めなかった。
思いきり上から棍棒をたたきつけると、マノータスは燃えさかる腕でそれを弾きながら後方に後退した。
「フンッ! 疲れきっていても棍棒の力は健在かっ!
だがこの俺のすべての攻撃を避けられるわけではあるまいっ!」
言うなりマノータスは思い切り息を吸い込みはじめる。
すると下に向かって息を大きく吐くと、すさまじい勢いの炎が地面から吹き上げた。
「わっ! わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
これにはさすがのコシンジュもあわてる。
横からロヒインが「コシンジュッ!」と叫んで飛びかかってきた。
一緒に地面に倒れ込んだロヒインの身体に、激しい炎が降りかかる。
「ロヒインッッッ!」
激しく燃え上がるローブを見てコシンジュは立ち上がり、棍棒で炎を振り払った。
火はすぐに消し止められたが、煙をあげるロヒインの身体は苦しそうに身もだえている。
「ロヒイン、しっかりしろっっっ!」
ひざまずいて肩をゆするコシンジュだが、とんがり帽子が取れた魔導師は首を振るばかりだ。
「ダメ、コシンジュ……逃げて……」
「出来るわけがないだろっ! みんなを見捨てて動けるわけがないっ!」
そういうコシンジュの目の前に、巨大な赤い光が迫ってきた。
見上げると、これでもかと言う巨体が自分たちを見下ろしている。
「ファルシスのクソッタレめ。最初からオレに任せればよかったんだ。
もっともそのおかげでずいぶんオレらもやりやすくなったがな」
「オレら」というのは、マノータスの背後にいるパトロンのことも指しているんだろうか。
死の間際に立ってなぜかそのようなムダなことを考えてしまう。
マノータスは拳を振りあげると、そこから激しく噴き上げる炎が現れる。
「あばよ。いままでさんざん暴れ回ってくれたようだが、これで消えてくれると思うとせいせいするぜ」
コシンジュはその腕から目を離すことができず、ぼう然と見上げるだけだった。
死に際に見える走馬灯と言うものは、まだ見えない。
ところが、ここでマノータスはあらぬ方向を見上げた。
なにが起こったのかわからず、コシンジュ達もそちらの方にふりむいた。
見覚えのある巨体。
今では遠い昔のようにも覚える、全身を真っ赤に染めた翼をもつ大トカゲの姿だ。
激しいはばたきを途中でやめ、レッドドラゴンはドシンと大地に着地した。
大きな振動でまわりが激しくゆれる。
コシンジュは戦慄した。
顔を前にあげたドラゴンの額には、途中でポッキリ通られた巨大な角があった。
「ファブニーズッッッ! いったい何しに来やがったっ!?
左遷されたうらみを晴らしに来やがったかっ!? 邪魔すんなっ!」
マノータスの叫びに、自分が知っているファブニーズのものではない声が聞こえてきた。
「ほう、どうやら何も知らされておらぬようじゃな。
こやつはもはや左遷されておらぬ。
わらわとともに、この地上に手新たな作戦を展開しておるのじゃ」
しかしこれにも聞き覚えがある。
コシンジュがそちらの方に向けると、記憶に新しいダークエルフの姿が現れた。
今日の彼女はローブをまとっているので刺激的ではない。
「なにぃっ!? スターロッドッ!
てめえまでオレの邪魔しにきやがったのかこのクソババアッッ!」
「俺もいるよ~ん」
新たに現れた姿には、見覚えはなかった。
全身に赤い鎧を着こみ、頭の両側には大きな角を生やし、背中からはコウモリのような黒い翼をつけている。
「ベアールっっ!?
まさか、魔界の3種族の長がそろってやがるだとっ!?
魔界を逃げ出したお前らが、どういうツラを下げてこんなところまでやってきたがったっ!?」
赤い騎士は両手を広げ、もったいぶった足取りでこちらへとやってくる。
「そう言われちゃ心外だね。
もっとも、お前らみたいなしょうもない奴らばっかしの魔界にはうんざりして、実際に逃げて来たわけなんだけど」
「ベアール、それだけではなかろう。
我々は大いなる目的のため、地上へと足を踏み入れたのじゃ。それを忘れるな」
スターロッドはそう言うと、後方に向かって「のうファルシス」と呼び掛けた。
ファルシス? いったい誰のことだ。
すると、巨大なドラゴンの背中から、何者かがさっそうと降りてきた。
軽やかな動きでスタッと着地すると、これまた軽快な足取りでこちらへとゆっくり近づいてくる。
コシンジュの目には、それがとてつもないオーラを発しているように見えた。
そして思わずつぶやく。
「いや、そんなはずはない。
あれは違う。
オレの気のせいだ、絶対にちがう……」
言い続けているうちに、相手の目がこちらに向けられた。
目があった瞬間、コシンジュのむなしい願いはもろくもくずれ去ったことを悟った。
「お前は……誰だ……?」
うすうす感づいているにもかかわらず、コシンジュは思わずそう問いかけてしまう。
額に大きな角を生やした青年が、アゴに手を触れ人差し指をさする。
その顔に思わせぶりな笑みが浮かんだ。
「ほう、そうか、お前か。
改めて目にしてみると、本当にただの小僧だな。
そのようななりで、数多くの同胞を屠っていったとは、信じがたいものだ」
「だ、誰だ。誰だっていってんだよこのクソッタレっっっっ!」
思わず叫んだコシンジュに、青年は胸に手を当て少し頭を下げた。
「これはこれは、失礼つかまつりました。
わが名は『ファルシス』。
かつて魔界にあまねく数多くの魑魅魍魎を従えていた、魔王の称号を受け継ぎし者。
神々に選ばれし偉大なる勇者殿、初めてお目にかかり、大変光栄に存じます」
戦慄。
コシンジュの脳内にはそれしかなかった。
しばらく身動きが取れず、ぼう然とその顔を見つめる。
「うわ~、だからやめとけっていったのに。
勇者君、ショックから立ち直れなくなっちゃうじゃないっすか~」
赤い騎士がおどけて言う。
お調子者に見えるが、こいつも相当な強さをほこるのだろう。
ファルシスは皮肉な笑みを浮かべ、赤い騎士からコシンジュの方向へと目線を変えた。
「マノータス」
名前を呼ばれ、コシンジュは後方に目を向けた。
先ほどまで自信満々だった巨大な魔物は、かつての主人である魔王に呼び止められブルブルと全身を震わせている。
「……なんでだよ……なんでお前が、こんなところにいるんだよ……」
「マノータス。そこまでにしておけ。
いまの我々にとっては、その小さき勇者に死なれると大変都合が悪いのだ」
マノータスは全身をわなわなさせながら、少しずつ後退していく。
口からはブツブツと呪文のようなものを唱えている。
なぜかスターロッドが叫び声をあげる。
「マノータスッッ!
貴様『ヴェルゼック』の奴からゲート魔法を教わったなっ!? だからすぐにこちらの世界へと足を踏み入れることができたわけかっ!」
『ヴェルゼック』?
マノータスのパトロンの名前か。覚えておいた方がいいかもしれない。などという妙に冷静な発想が浮かんだ。
マノータスの後方に、突然黒々としたオーラがたちこめ、それが円形にかたまっていく。
中から空洞のようなものが現れると、マノータスはすぐにその中に飛び込み、空洞はまたたく間に消えた。
「ふぅ、万事休す、か。コシンジュ、命拾いしたな」
「スターロッド……さま……」
コシンジュはよろよろと立ち上がると、赤い騎士がピュウと口笛を吹いた。
「わぁ~、勇者くんホントにバアサンにほれこんじゃってるよ。
こう見えて人間で言えば70代のバアサンだってのに」
「え、なに? それってどういう……」
コシンジュが意味を測りかねていると、スターロッドは人差し指を赤騎士に向けた。
「しっっ! まだそのことについては話さんでよかろう!
まったくお主と言う奴は、いつも口が軽くて困る」
赤い騎士が首をすくめているのを見て、魔王は悠然と話しかけてくる。
「そういうことだ。我々はもはやお前たちと敵対する意思はない。
対応次第ではお前たちと和解することもできよう。もっともどれだけの効果があるかは疑問があるが……」
「おい、いったいこれはどういうこった……」
コシンジュの真横で、ネヴァダが立ち上がった。
制止しようとするメウノをやんわりと払い、拳を前にかかげる。
「もっともらしい話はそこにいる若づくりのババアから聞いたが、お前ら、いったい何を考えてやがる。
こんなところまでやって来たんだ。いい加減説明しやがれ!」
治療を受けたとはいえネヴァダの顔色はまだいいとは言えない。
無理をしない方がいいだろう、とコシンジュは心配になった。
ドラゴン姿のファブニーズが「殿下」と呼びかける。
魔王はうなずき、すました顔を少し持ち上げた。
「いや、まだ早いな。
我らの計画をいま話すと、お前たちがなにを考えるかわかったものではない。
もう少しあとに取っておくことにしよう」
コシンジュは何かを言おうとするが、しどろもどろになってうまく言葉が出ない。
魔王が放つ根拠のないオーラに圧倒されてしまっているのだ。
気付けば、全身をいやな汗でビッチョリとさせていた。顔色も相当悪いだろう。あきらかに健康に悪い状態だ。
……大丈夫かよコシンジュ。いずれはコイツとも戦わなくちゃいけねえかも知れねえんだぞ。
いや、ひょっとしたらもう戦わずにすむかも。おい何考えてんだよお前。
「殿下、何も話さないんなら話さないんで、こいつらあせって城に向かってしまいますよ?
どっちにしろもう手遅れなんでは?」
騎士に言われ、ファルシスはほんの少しだけ口の端を吊りあげた。
「ふふっ、そうかもしれんな。
だが、まだ早い。こやつらには事実を受け止める覚悟がまだ足りない」
そういって魔王はマントをひるがえした。
この動作だけで、コシンジュの身体は吹き飛ばされそうな錯覚におちいる。
「それでは行くとしよう。知りたくば城に急ぐことだ。
また会える機会、楽しみにしているぞ」
言うと魔王はクルリとうしろを向き、巨大ドラゴンのもとへと歩きはじめる。
「じゃあな勇者君。
もしお友達のイサーシュ君に再会したら、このベアール様がお城の中で待っていると伝えといてくれ」
「コシンジュ、あまり気負いすぎるなよ。
お主の返答次第では、もはやファルシスと戦わずにすむやもしれぬ。
お主はわらわのよく知っておった、ある連中に似すぎておる。ファルシスと無理に戦いを交え、命を散らしてほしくはないからの」
そういってベアールとスターロッドもあとを追う。
取り残された4人は、やがてドラゴンに乗った彼らがふたたび上空に消えていくのを、だまって見送ることしかできなかった。
すべてが終わったあとで、4人は集まって休憩を取った。
休憩と言うよりは、あまりの出来事にその場を動くことができないと言ったところだった。
それでもメウノはロヒインに治療を施す。
ロヒインもあの炎で無傷ではなかったため、放っておくわけにもいかなかった。
「大丈夫ですか?」
メウノに問われると、ロヒインは小さくつぶやく。
「わたし、動けなかった。
こんなところで、自分たちの最大の目標に出くわすだなんて思わなかったから、怖くて怖くて……」
横にいたコシンジュはちらりと視線を向けるが、まだ気が動転しているせいか言葉が出てこない。
「そんな、私だって一緒ですよ。
何も言えずにただだまって見ていることしかできませんでした……」
メウノの声はしりすぼみになっていく。
あの恐怖は、2人にとっても同じだったのか。
そう思い、コシンジュは頭を抱えた。ロヒインがこちらの方を向いて、「大丈夫だから」と声をかけてくれたが、コシンジュはあえて首を振った。
「……いくらまだ旅の途中だからって、そう遠くないうちに魔王と戦わなきゃいけないんだぞ?
オレがしっかりしてなくてどうする?
なのに姿を見ただけで身動きができず、完璧にブルっちまうなんて」
「ビビるのが当然だよ。
あんな奴、まったく恐怖を感じないでいられる方がおかしい」
コシンジュは2人の影に隠れている人物に顔を向ける。
「ネヴァダ。お前は大丈夫だったみたいじゃねえかよ。
よくもまああんなバケモノを前にしてえらそうな口が叩けるもんだぜ」
「勢いでしゃべってただけだからね。途中でああまずい、とは思ってたけど」
するとネヴァダが立ち上がった。
両手を腰に当て、顔を下に向けて息を深く吐く。
「コシンジュ達がビビるのもムリない。
あの立ち振る舞い、尋常じゃなかった。
あの動きのムダのなさは、ちっとやそっとの素人にはムリだよ。奴は単純なパワーのかたまりなだけじゃなくて、腕前においても相当な力を持った奴だね」
「それほどなのか?」
目を丸くするコシンジュにネヴァダは顔を向けずにうなずく。
「下手をしたら、技術面だけでも、あたしよりも上かもしれない」
「そんなっ!
技術的な面でネヴァダさんを上回るなんて、魔王にはいったいどれだけの力が……!」
動転するロヒインに、ネヴァダは振り返った。
「あたしがせいぜいまともに相手できるのは、横にいたスターロッドとベアールか。
もっともあれも立ち振る舞いからくる技術的な面に絞っての話だけど。
魔物としての力はあまり考慮に入れてない」
「そんな……それじゃネヴァダさんでさえ……」
メウノの声はいまにも消え入りそうなほどか細いものだった。
「うん。
あたし1人じゃ、あの連中の中の誰かとまともにぶつかっても、絶対に勝てないね」
ロヒインとメウノががっくり肩を落とし、力なくうなだれた。
「何てことだろう。
下手をしたら、あいつら全員と戦うことになるのかもしれないってのに……」
コシンジュは頭を抱えるロヒインを、ただだまって見つめることしかできなかった。
「そしてコシンジュ。
あんたはそんな連中の中の、一番強い奴を相手にしなきゃいけないんだよ?
はっきり言う、あんた自信ないだろ」
コシンジュは動けなくなった。
いま一番かけられたくない言葉をはっきりと言われてしまった。
ロヒインとメウノが、心配そうにこちらをのぞき込んでいる。
それを見たネヴァダが、手で髪をかきあげ、深いため息をつく。
「連中自身がああいったことだし、あたしたちはもう、戦わない方がいいのかもしれないね」
「それは……ダメだっっ!」
言った瞬間、自分にはまだ叫ぶ力があるのだと言う事実におどろいた。
コシンジュは思わず仲間たちに顔をあげる。
しばらく黙っていると、みんなは待っていてくれた。
「なんか、イヤな予感がする。
魔王たちに全部任せていると、なにかイヤなことが起こるような気がするんだ」
「連中はあたしたちと戦いたくないって言ったんだよ?
その言葉に甘えるのも、選択肢の1つなんじゃないか?
あたしはこの国に元の平和が戻れば、それでいいと思ってる。
それでももし仮に立ち向かうして、いまのあたしたちじゃ手も足も出ないんじゃ、しょうがないじゃないか」
「いいえ、コシンジュの言ってることは合ってると思います」
ロヒインがネヴァダに顔を向けた。そのまなざしは真剣そのものだ。
「魔王たちはたしかに、かつて我々の思っていたものとは全く違う考えの持ち主たちでした。
ですが、彼らの口から出た言葉の数々には、どうもふくみがあるようなんです」
「スターロッドさんも言ってましたね。
場合によっては我々には受け入れがたいことになる、みたいなことを」
メウノが考え込むようなしぐさで下を見ている。コシンジュはうなずいた。
「オレ、思うんだ。とりあえず、城には行く。
ここまで来て、今さら引き返せない。城に行って、魔王たちの真意を確かめようと思う」
コシンジュがそういって立ち上がると、ネヴァダは警告するかのような声をかける。
「危険はまだ続くよ。
あの炎のクソヤロウがおそってくるとはもう思えないけど、まだ帝国軍のほうが残ってるんだ。
それでも、先に進むかい?」
コシンジュは相手のほうを見て、しっかりとうなずいた。
「うん。オレたちは北の大地から、はるばるここまでやって来たんだ。
たとえどんなことが待っていたとしても、この世界を救うために」
真剣な表情のネヴァダは、しばらく黙りこんでいたが、やがて首をすくめてしぶしぶうなずいた。
「わかったよ。
あたしもあんたたちを見込んで、危険な役目を引き受けたんだ。
最後の最後まで、きちんと見届けようじゃないか」
コシンジュが少しだけ笑うと、相手も皮肉まじりの笑みを浮かべた。
同時にロヒインとメウノが立ち上がった。
ところがここで、メウノの身体が少しだけフラついた。
ロヒインが「大丈夫ですか!?」とあわてて身体を支える。メウノはこちらに向かって片手をあげた。
「あ、いえ。大丈夫です。ちょっと立ちくらみを覚えただけですから」
「魔力と精神力を使い過ぎです。もう少し休んでいたほうが」
ロヒインは気を使って言うが、メウノはあわてた調子で首を振った。
「ダメです。少しでも先を急いだ方がいい。
魔王たちが何かをしでかす前に、我々は急いで城にたどり着かなくては」
そういって、メウノは自分から歩きだした。
コシンジュ達はつられるようにして一緒に進みだした。
「ムリすんなよメウノ。お前に何かあったら、オレ、オレ……」
言いつつ自分の言葉を意外に思っていると、メウノは優しげな目を向けた。
「コシンジュさん。そういってもらえると、私もうれしいです。
ここまであなた方についてきたかいがあります」
コシンジュは照れくさくなって、頭を角つき帽子ごとかいていると、視線をまっすぐ前に戻した。
ふと上空を見上げると、灰色がかっていた空はまるでこれから待ち受ける試練の数々を暗示しているかのように見えた。




