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第3話 早すぎる人質作戦~その1~

「……ん、んん……」


 メウノが目を開けると、そこにはつい先ほど出会ったばかりの仲間たちがいた。


「おいおい、やっと起きたぞ。いつまで寝てんだよ」

「仕方ないだろう。あれだけ治療に神経を集中させた後、ズカズカと道を進み続けたんだ。

疲れ切っていたとしても仕方ないだろう。むしろその割には早い方だ」

「ん~、すみませ~ん……」


 コシンジュとイサーシュの声にウトウトと現実を取り戻し、メウノは身を起こした。

 どうやらここは雑木林のかげらしい。


「まあまあ、彼女が道を急いだおかげで、予定より早く次の場所にいけそうですよ」

「すみません変なテンションになってしまって。

 おかげで皆さんあわてさせてしまったみたいで……」


 まぶたをこするメウノ。自分でも気になっているのだが、その目は普通の人と比べてだいぶ小さい。

 目だけでなく、鼻や口も大きくない。パーツの位置がずれているのではないので、自分ではそれほどブ○イクだとは思わないのだが、なんだかんだ言ってコンプレックスにはなっている。


「ふぁぁぁ……みなさん、ありがとうございました。これからは気をつけます」


 目の前には、まだ少年と言っていい若者が座っている。

 小さな角のついた帽子をかぶる彼はまじまじと自分の顔を眺めている。

 おもしろいものを見るようなのか、キチンとその容姿を認めようとしているのか。


「ちょ……やめてくださいよ。えーと、勇者さん……」

「コシンジュでいいよ。

 勇者って呼ばれるようになるのはまだはええって」


 にっこりとほほ笑む。しかしちょっと作り笑いのようにも見える。


「そう言えば、みなさんの名前をきちんと聞いてませんでしたね。

 職業で呼ぶのも失礼ですし、よければお2人も」


 となりにいる剣士は腕を組みながらすました顔で言った。


「イサーシュだ。俺の方は別に剣士と呼んでもかまわんのだがな」


 それを見ていた斜め向かいの魔導師が困った顔で笑いかける。


「こらこら、わたしはロヒインと言います。

 3人ともあなたよりだいぶ歳下ですが、メウノさんの足を引っ張らないくらいには腕がありますよ」

「肝心の自称勇者は俺たち2人より大分レベルが落ちるがな」

「何が自称勇者だよ!

 一応神様に指名されたんだから公認だろうが!」

「大分レベルが落ちるということに関しては認めるんだな」

「自覚はあったけどお前の口から言われて腹が立ったよ!」


 なんだよ全く、と続けてそっぽを向いたコシンジュに対し、メウノは小さく笑った。


「う、なんだよメウノ。そんなにオレって勇者っぽくないか?」

「いや、すみません。そんなことないですよ。

 先ほどはちらりと拝見しただけですが、コシンジュさんの腕もそう悪くありませんでしたよ。

 自分は戦いのほうはたしなむ程度ですが、下手な素人ではあそこまでの立ち回りはできないと思いますよ」

「ほら、ほめてくれたじゃないか。

 お前も俺をいい加減格下扱いするのやめろよ」

「フン。悔しかったら俺のように超一流の腕前を(ほこ)れるようになってからにしろ」


 そう言ってイサーシュはわざとらしいほどのしぐさで前髪をかきあげる。

 それを見たコシンジュは悔しそうに拳を握っている。そのやり取りがなんとも面白かった。


「ごめんなさいね。この2人、いつもこんな感じなんです」


 となりにいたロヒインが申し訳なさそうな顔をしている。

 自分が言うのもなんだが、この魔導師の容姿もまたお世辞(せじ)にも整っているとは言えない。


「3人は同じ村で育ったんですか?」


 若いのに頭頂部にしか毛が生えていないロヒインはかぶりを振った。


「わたしはだいぶ後から。魔導師シウロの名はご存知ですか?」

「あの大魔導師と言われる!?

 そうですか、あなたあのお方のお弟子さんなんですね。

 最近は勇者の村に住まわれているとは聞いておりましたが、どおりでかなり優秀な方だと思いました」

「お恥ずかしい限りです」


 すると横からコシンジュが茶々を入れる。


「おいロヒイン、そう言えばお前なんでまだ旅の目的を話してくれねえんだよ」

「そうだぞ。

 お前あまり旅の予定を言ったりとかしないからな。変な秘密主義があるのか?」


 イサーシュにもするどい目を向けられ、ロヒインはあわてる。


「あ、ごめんなさい。

 言おう言おうと思ってたんだけど、その前にメウノさんを休ませなきゃと思って……」


 当のメウノは小首をかしげる。


「そう言えばわたしも聞いてませんでしたね。

 次は首都に向かうということでしたが、そちらで王に謁見(えっけん)されるんですか?」

「それもありますね。

 ですがメインの目的は、王国の皆さんにご相談したいことがありまして」

「ご相談?」

「コシンジュ、ご先祖様が魔王の城に向かった際、どんな経緯(けいい)で進んでったか知ってる?」

「そりゃあ、一直線に村から魔王の城まで突き進んでいったんじゃないのか?」


 それを聞いたイサーシュがものすごくめんどくさそうにかぶりを振る。


「話だけ聞いてると勇者パーティーだけで猪突猛進(ちょとつもうしん)してるみたいだな。

 お前ご先祖様をバカにしてるのか?」

「してないしてないしてないよっっ!

 ええと、たしか道中でいろんなことしたんだっけ。あといろんなトラブルに巻き込まれたりとかして……」

「ふふふ、そんなことはいいんですよ。

 ようは城でどんなことをしたか、それだけを思い出してください」

「あぁ! 今メウノオレのことバカにしただろ!

 たしかにオレ頭そんなに良くないけどさあ! 良くないけどさあ!」

「いつまでもムダ口叩かない!

 もったいつけないで言うと、ようはこの『ランドン王国』をはじめとして、世界中の国々に魔王軍と戦ってもらうよう進言しなきゃいけないんだよ」


 ロヒインがしびれを切らしたかのように言うと、ようやくコシンジュは自分の手をポンと叩いた。


「ああそうか、魔王軍ってメチャメチャ数が多いからな。

 大軍隊でおびき寄せて、がら空きになったところをご先祖様たちが魔王城に乗り込んでいったんだっけ。ゴメン忘れてた」


 ここでメウノが要領を得たように人差し指を立てた。


「下手なRPGだと、勇者パーティの数人だけで城に乗り込んでいって、おびただしい数の魔物と戦う羽目になりますからね。よく考えるとおかしな光景です」

「「あ……」」


 メウノがメタなセリフを述べたので、コシンジュとロヒインはびっくりしてしまった。

 反対側でイサーシュが頭を抱える。


「俺だけ仲間外れか……」





 気を取り直して、一行は城へと続く道を歩く。


「次の目的地の『王都ミンスター』って、ここからだとあとどんぐらいかかるんだ?」


 コシンジュのとなりでロヒインは首をひねる。


「いつもは村から直接行ってるからね。

 あちらからだと最低3日はかかるけど、カンタの町経由のほうはなんとも……」

「こちらのほうは次の宿場町まであともう少しです。

 ですがそのあとは道が入り組んでいます。正直歩いて向かわれるのなら明日は急いだ方がいいでしょう」


 メウノの案内にコシンジュは首をひねった。


「ん? 野宿する必要はないのか?」

「危ないですよ野宿なんて。野生動物におそわれたらどうするんですか。

 北の大陸ではあまりいませんが、夜盗(やとう)だって心配ですし」

「俺としては極力宿に泊まるのをおススメするね。

 見張りがコシンジュの番になったら絶対居眠りしそうだ」

「な……イサーシュ、てめっ!」


 拳を握るコシンジュをよそに、ロヒインはゆっくりかぶりを振った。


「わたしとしてはきちんとした宿もどうかと思うけどね。

 メウノさんには悪いけど、泊まっているあいだに魔界の刺客がおそってきたら、大勢が巻き込まれる危険があるから……」

「でも、野宿ばかりしているのも大変ですよ。

 我々の荷物はそれほど多くはないんです。人里離れた場所を歩き続けるんならともかく、きちんとした街道を進むんでしたら装備品は必要最低限にするべきです。

 重い荷物は戦闘の邪魔になるだけですから」


 メウノの発言にロヒインはがく然とした表情になる。


「あ、言い負かされた。チームのブレーンのつもりだったのに」

「頭のいい奴は多いほうがいいに決まってんだろうが!

 なに無理してチームの司令塔気取ってんだよ!」


 そう言うとコシンジュは、片方の拳を反対の手でバチンと叩いた。


「ようはどっちもどっちってことだろ?

 状況に応じて決める、もうそれでいいじゃねえか」

「お前がまとめるのかよ」


 イサーシュがため息をついて水を差した。


「いけねのかよ!」

「お前が言うとリーダーっぽく見える」

「えらそうなこと言うのもなんですけどオレ一応リーダーなんですけどっ!? 一応勇者だしっ!?」


 それを聞いていた他の2人はクスクスと笑い始めた。

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