第22話 三つ巴の大混戦~その3~
場所は移り変わって、馬に乗るムッツェリはチチガムとヴィーシャを連れてオランジ村へと帰ってきた。
「よし、わたしの村に着いたぞ。旅を急ぐというのなら、ここで訓練を受けてもらおう」
「体力には自信があるが、本格的な山登りは初めてだ。よろしくたのむよ」
チチガムは律義に頭を下げるが、ヴィーシャは馬に乗ったまま両手を離して手のひらを上に向ける。
「あ~ら、あんたアタシを山登り初心者だと思ってんの?
山は盗賊にとって絶好の隠れ場所よ?
山を動き回るスキルが身についていないで、一流の盗賊なんて名乗れやしないわよ」
明らかにおちょくるような口調に、ムッツェリは顔を少しそちらに向ける。
「甘く見るな。ここから先はお前がみっともなくかけ回っていたような小山とは全く違う。
それにお前は盗賊を廃業したんだろう?
今さら過去にしがみつくなよ。みっともない過去に」
ヴィーシャはしかめっ面になって、馬のたてがみに腕をかけて前のめりでムッツェリのほうをのぞき込む。
「あんたねぇ。
これでもアタシこないだまで立派な王女だったんだから、少しはていねいな口ききなさいよ。
それでもあんたベロン国民?」
「だからお前はもう姫でも盗賊でもないと言ってるんだろうが。
一体お前はどっちのプライドを守りたいんだ?
身なりの違いはあれどっちも国民の生き血をすする寄生虫だったろうが」
「まあまあまあ。ケンカばかりしてないで少しはおとなしくしろよ。
お前ら2人ともコシンジュを助けたいんだろ? だったら少しは仲良くしろって」
チチガムが恐縮しつつなだめると、ムッツェリは不機嫌な顔を向けた。
「コシンジュではない。
あのバカも心配だが、私にはイサーシュと言う男が気にかかる」
「ん? あんた、そいつにホレてんの?」
ヴィーシャの鋭い指摘に、ムッツェリは明らかに狼狽している。
「ば、バカを言えっ!
だ、誰がコシンジュと1歳しか離れていないガキにっ!」
「ふ~ん、そうだよね~。
ムッツェリちゃんもう23だもんね~、はっきり言って年増、結婚したら明らかにあんたの方がオバハンになっちゃうもんね~」
不敵に笑うヴィーシャにムッツェリは「ぐっ!」と表情をかみ殺す。
「それにしても~、ムッツェリちゃんあきらかに態度おかしくな~い?
ひょっとしてその話、ホントのホントとか」
ムッツェリは前に向き直り、小さい声で「殺す殺す……」とつぶやき始めた。
チチガムは気を取り直した。
「いい加減にしろっ! お前らふざけてるのかっ!」
いきなりの態度にヴィーシャとムッツェリは固まった表情を向ける。
「お前ら今からの旅がなんなのかわかってるのかっ!
その危険性は直接魔物と戦ったお前らのほうが理解してるだろっ!
これは遊びじゃないんだぞっ!」
打って変わった毅然とした態度に、2人は恐縮して姿勢を正す。
村について3人は馬を下り、渓谷にある家々の中を進んだ。
「コシンジュ達は村に来てどれくらいトレーニングを積んだんだ?」
「6日かかった。
お前たちは体力と経験のどちらかをクリアしてるので、3日に短縮できるだろう」
「2日だ。それ以上は待てない」
チチガムは相手の目をまっすぐ見ると、ムッツェリも同じ表情でうなずき返した。
「わかった。お前たちなら大丈夫だろう。
わたしも先を急ぐ。気合いを入れていくぞ」
「2人とも、気合い入れすぎじゃない?
魔物におそわれる心配はないんだから、もっと気楽にいったら?」
水を差すようなヴィーシャの発言に、ムッツェリは真剣な表情を向けた。
「甘く見るな。
この山は魔物ほどではないが、危険な場所だ。油断していると命を落とすぞ」
ヴィーシャはまっすぐ伸びるポニーテールをいじくりつつ「はーい」という。
そしてムッツェリがマスターのいる酒場の扉を開いて、いっせいに中に入った。
次の日にはヴィーシャが訓練のあまりの過酷さにグチグチ文句を言いまくるのだが、どうでもいいので割愛することにする。
数日後、くたびれた海賊船は岩場にぽっかり空いた巨大な穴の中に入る。
差し込む光が海面を青白く照らし、幻想的な光景ではあるが、洞窟の中の浜辺は少々雑多としていた。
桟橋はグネグネと曲がりくね、奥にあるあばら家は穴があいて中から黄色い明かりがもれている。
外には男たちがだらしない格好で昼間だというのに酒をガブガブ飲んでいる。
「もう戦勝パーティーか? ずいぶん気が早いんだな」
「でもこれで敵にますます油断が生まれる。
状況はますます有利だよ」
コシンジュとロヒインが窓の外をうかがっているときに、うしろのトナシェがささやいた。
「魔法はいつ使うんです?」
「一度は船の外に出されるはず。
別の部屋に閉じ込めておく気なら、そこがチャンスになるね。
トナシェ、いったん腕輪をしまって」
振り返ったロヒインにトナシェはローブをまくり、ゆるめたベルトの下から開いた腕輪をしまい込んだ。
しばらくして船は波止場についた。
すると上で話し声が聞こえ、何者かがこちらに向かってくる。
おどろいたことに現れたのはたった1人だった。明らかに相手が非力だとあなどっている。
グヘヘと下品な笑みを浮かべ、鉄格子の扉をカチャカチャと開ける。
「おらよ、さっさと出ろ。
さて、お前らの値段は一体いくらになるのかな」
3人は観念を装った顔つきで、おとなしく牢から出た。
そして相手が後ろを向いた瞬間、コシンジュは飛びかかった。
「ぐうぅっ!」
短い悲鳴はあとが続かなかった。
コシンジュが両手の鎖で海賊の首を絞めていたからだ。やがて相手の力が抜けると、海賊はヒザをついたあと壁にもたれるようにして倒れた。
「コシンジュッ! 何やってんだよ!
おとなしく出ていかないと上の連中に怪しまれるよっ!?」
「いいやロヒイン! 外に出たら何されるかわかったもんじゃない!
トナシェ、腕輪をつけて船の連中を眠らせるんだ!」
トナシェは「は、はいっ!」と言ってふたたびベルトをゆるめた。
ローブから乱暴に腕輪を取り出す際、ちらりと白い下着が見えたのだが自重する。
そんなコシンジュにロヒインのきびしい視線が向けられるなか、トナシェは腕輪をつけ、両手を組んで呪文を唱えた。
「フル呪文で行けよ。
眠らせるのは船の連中全員のほうがいい」
「あまり時間がないと思うけど?
ほら、何者かの足音が聞こえる」
突然目の前の扉が開かれた。
目のあった肥満ぎみの海賊の表情が一瞬固まるが、やがてその顔に怒気がみなぎる。
「……おまえら! いったいどうや……て……」
しかしその表情はすぐにとろけ、白目を向いてその場に倒れ込んだ。
ロヒインはトナシェに振り返った。
「短縮魔法を使ったの?
それじゃ船の中の全員は眠らせられないよ?」
「短縮は短縮でも、フル魔法の短縮を使ったんです。
今船にいる全員が眠ってるはずですよ?」
にっこりと笑うトナシェに、ロヒインはあ然としていた。
「この子、天才だ……」
「感心してる場合か。今のうちに船を抜けだしてイサーシュ達のもとに向かうぞ。
様子を見に来た奴がいたらなんて思うかわからない」
コシンジュにうながされ、3人は船底の部屋を抜け出した。
一方、洞窟の外では不思議な光景が広がっていた。
海の上だというのに、その上に複数の動物が水面に立っている。
どれもが馬と魚とをかけ合わせたかのような姿をしている。
その中の体表が水色に透けている1体が、背中に乗っている青白い女性に声をかける。
「スキーラ様。よかったのですかこれで?
これではまるで我々もブラッドとコカの追随をしているようではないですか」
スキーラは背中の触手をうねらせながら、怒りと笑みの混じった顔を洞窟の中に向ける。
「カプリオン、アタシたちにはもうあとがないのよ? 深海魔団も数々の作戦に失敗した。
これで奴らを片づけられなかったら、アタシたちはこれからずっとマノータスのろくでなしの下で動かなきゃいけない。アタシはそんなのごめんだわ」
カプリオンは首を振った。
彼女の提案した作戦は、どれも短絡的なものばかりだった。
いくらこちらに有利な海での戦闘とはいえ、ただ単純に刺客を送るだけでは、戦闘慣れした勇者たちを倒すことは難しいだろう。
本気で相手するのならもっともっと巧妙な作戦を練るべきだった。
しかしカプリオンは自分の主人に意見を言えないでいる。
水の魔物の長スキーラはあまり賢明ではないが、戦闘力に関してはずば抜けたものがある。
カプリオンはそれにかけるしかない。しかしそれでも……
「あなた様と我が『ケルピー』の軍勢だけでは、あれほどの敵に打ち勝つには少々不安があります。
もう少し援軍の力があればと……」
すると珍しくスキーラは真剣な顔つきになって長い爪をかんだ。
「その通りよ。だから今回は援軍を用意した。
竜王ファブニーズ様に頼んで、『あいつら』を呼び寄せてもらったわ」
カプリオンははっとした。
この状況で竜王の眷族と言えば奴らしかいない。
「でも、よく貸し出してくれましたね。
竜族は魔界の3大種族のひとつ。数がそれほど多いとは言えないのに、地上侵攻ではなく勇者討伐に刺客を送ってくれますか」
するとスキーラは観念したような表情で首を振る。
「あまりいい条件は出せなかった。我々の状況に応じて最低限の協力しかできないそうよ。
すべてはアタシたちの動き方次第ってわけ」
それを聞いてカプリオンはニヤリと笑った。
「いいえ、それだけで十分です。
スキーラ様、あなたとワタシの力があれば、必ず勇者どもを打ち倒せましょう」
それを聞いたスキーラは最初おどろいた目をした。
「……そうね。あなたとアタシで、あの小僧どもをやっつけましょう」
そう言ってスキーラは不敵な笑みを浮かべカプリオンの背をなでつけた。
それに対し海馬もまたうっとりとした表情を浮かべる。
念のため甲板の様子を見ると、そこにいた船長までもが深い眠りについていた。
これなら波止場にいる仲間にも気付かれずにすむだろう。
しかし急がなくてはならないので、コシンジュは半開きにした扉を開けて下にいるロヒインとトナシェに手招きした。
「船べりからいったん降りよう」
コシンジュは船長のそばに落ちていた自分の武器を拾い上げ、2人を連れて手すりの下に張り付くと、こっそりと下の様子をうかがった。
様子を見た限りでは右側のほうが船員は少ないようだが。
3人だけいた。岩場に木箱を下ろして、酒を飲みながら仲良く談笑している。
トナシェが呪文を唱えると、彼らもまた深い眠りについた。
3人は船から飛び降り、泳いで岸まで渡った。
3人ともカナヅチではないのは確認済みだった。
ずぶぬれになりながらなんとか岩場にたどり着く。
「トナシェ、身を隠そう。
透明呪文は覚えてる?」
彼女は首を振った。
ロヒインは腕輪を人差し指で叩き、外したトナシェからそれを受け取ると自分の手首にはめた。
そして呪文を唱えると、周りにうっすらとオーラのようなものが見える。コシンジュは思わずつぶやく。
「よくお前の手首にはまったな」
「しっ! 声は聞こえるから慎重に。
急がないと船の異常が向こうにバレるよ?」
海賊たちがだらしなく酒を飲み続けているあいだ、3人は寄り添って慎重に歩を進めた。
仲間たちが捕えられていそうな場所がないか視線をこらしていると、見覚えのあるものが見えた。
コシンジュは2人の肩をたたいてそれに指差す。
「マジェラン号だ。みんなはあれの牢屋に閉じ込められているかも」
損傷のひどいマジェラン号をながめつつ、ロヒインは首を振る。
「あそこだけに限らないかも。
わたしとしてはむしろあのレンガ造りの建物のほうが怪しいかも」
見ると、浜辺の奥にきちんとした作りの頑丈な建物が見える。
ひょっとしたら海賊たちが建てたものではないかもしれない。
一口の扉には見張りが2人立っていた。
思ったより厳重だ。岩場に隠れて様子をうかがう。
「くそ、これじゃおびき寄せても片方だけしか動かない」
「知恵と工夫次第だよ」
ロヒインは呪文を唱え始めた。
しばらくすると、ロヒインは奥にある岩場に向かって両手を突き出した。
「『アースシェイカー』……」
すると岩場がうごめき、やがて大小のかたまりとなって下にいた海賊たちに襲いかかった。
何人かがものの見事に巻き込まれ、見るも無残な光景となる。
「うわっ、ロヒインえげつねえ。
オレこんなの受け入れられないんだけど」
「ぜいたく言ってる場合じゃないでしょ。
ほら、見張りが2人とも動いた。今のうちに近づくよ」
念のためロヒインは建物の前でもう一度呪文を唱え、中の様子をうかがう。
「大丈夫、人は奥の方にしかいない。
忍び込むなら今がチャンス」
3人は遠慮なくあがらせてもらうと、石造りの室内の奥にもう1つ扉が見える。
そこから何かが叩きつけられる音がひびいている。
扉が開いていたのでこっそりうかがうと、コシンジュは顔をしかめた。
イサーシュとヴァスコが背中合わせにしばりつけられ、3人くらいの男たちに殴りつけられている。
両者とも顔の傷がひどい。
「なんてこった。
連中、すぐには殺さずにリンチにするつもりだったんだ」
「すぐに助けよう」
ロヒインがコシンジュに告げると、今いる部屋の中に見覚えのあるものがあることに気づいた。
鞘におさめられたイサーシュの剣とロヒインの杖、そしてメウノのダガーとヴァスコの大きな斧だ。
「戦利品のつもりか。
だがここに置いておいたおかげで手間がはぶけたぞ」
ロヒインはそう言って自分の杖を取り戻すが、なにを思いなおしたのかそれをトナシェに手渡した。
「何やってんだよロヒイン、お前の武器をトナシェに使わせるのか?」
するとロヒインはコシンジュに怪しい笑みを浮かべる。
「これからあの部屋の3人を片づけるんでしょ?」
そう言って代わりにイサーシュの剣を手に取った。
トナシェにえげつないマネはさせられないということだろう。
3人はこっそり部屋の中に入ると、一番近くにいた海賊の真後ろに控えた。
「……うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
ロヒインが立ち上がり両手に持った剣をまっすぐ構えると、男の背中にそれを思いきり突き刺した。
相手は「ぐわばっ!」と言って思い切りのけぞる。彼の行動にコシンジュとトナシェはがく然とする。
「何やってるっ! 2人は残りをっ!」
振り返ったロヒインにコシンジュ達は立ち上がり、何が起こったのかわからずぼう然としている2海賊のもとに向かった。
コシンジュは「おらぁっ!」と言って頭を殴りつけ黙らせるが、トナシェは残りの1人がサーベルを抜いたと同時に怖気づく。
「オレに任せろっ!」
コシンジュはそう言って相手の前に立つと、振りかぶろうとした相手のサーベルを軽々とはじいて棍棒の先端を思い切り相手の腹に叩きつけた。
何かを吹きだす声をあげて相手は力を失う。倒れる海賊にコシンジュは吐き捨てる。
「10年はえぇっっ!」
振り返ると、顔をあざだらけにしたヴァスコがロープを外された手を軽くゆすっている。
「ありがとよ。まさか助けてくれるだなんてな。
こっちは船を氷漬けにされたうえ大きく破壊されちまって、あんな小者どもにさえうまく対処できなかった」
「おっさんしゃべるな。
ロヒイン、イサーシュのほうはどうなってる?」
「だいぶやられてる。
ヴァスコさんと体格に差があるから、けっこう重症かも。
メウノさんはどこに?」
「まだマジェラン号の中だ。
おれの手下どもも全員そっちの方だ」
イサーシュは立ち上がるが、かなりフラついている。
ロヒインから自分の剣を受け取りつつ、アザで膨れ上がった顔から血のツバを吐きだした。
何かしゃべろうとしたが、一瞬顔がゆがんで首を振った。
口の中が切れているらしい。
「前の部屋にヴァスコさんの斧もあります。
すぐに取りに行きましょう」
前の部屋に戻ったところで、外の騒ぎがひどくなっていることに気づいた。
「まさか、気づかれたかっ!?」
顔面蒼白のコシンジュにロヒインは首を振る。
「それにしてはおかしい。物が破壊される音まで聞こえる」
ヴァスコが自分の武器を手に取ったところで、ロヒインとコシンジュが代表して扉を少しだけあけて様子をうかがうが、すぐに大きく開いた。
声をあげようとしたヴァスコだったが、すぐにあ然として口をぽかんとさせる。
目の前にあったのは、馬と魚が混じったような姿をした魔物におそわれる海賊たち。
魔物たちは口を開くとそこから細長い水のかたまりを飛びださせ、立ちふさがる海賊の身体をいとも簡単に貫く。
「ありゃ、『ケルピー』って呼ばれる奴らです。
マーマンと同じ水を操る能力を持ちますが、馬なので機動力があります。気をつけて」
袋から顔を出したマドラゴーラの解説に、コシンジュはうなずいて棍棒をにぎるこぶしに力を込める。
「待って、わたしたちはすぐに戦えない。
今魔法の準備をするからもう少し様子を……」
「ダメだ、たとえ悪党でも見殺しにはできない。
先に奴らを片づけてくる!」
ロヒインの制止を振り切って飛び出したコシンジュは、すぐにケルピーの1体に見つかった。
その口から吐き出される水の弾丸を、コシンジュは棍棒ではたいて近寄る。
そのあいだに別のケルピーも水を放つが、コシンジュはちらりと視線を向けただけで棍棒で弾き、目の前のケルピーとの距離を詰めていく。
ところが、ここでケルピーが思い切り後ろに下がった。
そして海面に浮かび上がったまま水を放ち続ける。
ここまでくれば相手も手を出せない、そう思っているらしい。
それならばとコシンジュはローリングで敵の攻撃をかわし、拾い上げた石を空中に放り投げて、棍棒で打ち抜いた。
光を放つ石を顔に受けた魚馬は大きくのけぞって水しぶきとともに海の中に消えた。
「『ストーンフレイル』ッッ!」
後ろを向くとロヒインがおり、その前方には巨大な石が空中に浮かんでいる。
彼は杖を前方に振ると、石が軽々とケルピーの身体にぶち当たると、相手は横倒しになって溶けかかったような状態になり、動かない。
「水属性には大地の魔法が有効だよ!」
そう言うロヒインの後ろにトナシェが現れ、同じように目の前に巨大な石を浮かべている。
「無理するなトナシェッ!
奴らは動きが早い、うしろに回り込まれたら危険だぞ!」
「イサーシュさんが手を出すよりましですっ!
彼はケガをしていて思い通りに動けない!」
そう言ってロヒインとともに前に進み出る。
すると生き残った海賊たちはマジェラン号に逃げ込んでおり、ケルピーの集団はそれを追う。
「まずい! 中にいるみんなが危ないっ!」
急いでそちらに向かおうとするコシンジュ達の横で、何やら大きな音がひびいた。
海賊船のほうからだ。
甲板のほうで別の魔物が暴れているらしい。それを見たコシンジュはすぐにそちらに向かった。
「ああ! みんなはこっちの方だってのに!」
「そっちはロヒインたちに任せる! 俺は海賊たちを助けにいく!」
またしてもロヒインの制止を振り切り、コシンジュは海賊船へと乗り込んでいった。




