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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
99/464

パーヴェルの策略

 



 ママ達が、教会に乗り込んだ頃、パンドラは、セレニティ帝国のナリヤに在る、ナリヤ大聖堂の前にいた。

 まるで、スペインのサグラダファミリア大聖堂の様に、大きく柱などには、悪魔や魔物等の銅像や彫刻が、彩飾されていたのである。


 これが芸術……やっぱり、じいって趣味が悪いな。

 そう思いながらもパンドラは、配下の者に大聖堂を包囲させ、自身は配下の者数名を引き連れて、大きな扉を開けて、中に入ったのであった。


 パンドラ達が中に入ると、ミサの途中だったのか、中にいた者達が一斉にパンドラ達に、注目したのであった。


 その光景に侍達は、一瞬怯んだのだが、パンドラは違う所に、注目していたのであった。

 パンドラの目線の先には、祭壇の後ろの、大きなステンドグラスが、日光を取り入れて、神々しく輝いていたのである。

 そのステンドグラスに描かれている絵は、白い肌の銀髪の少年が、天から舞い降りてくる絵であった。


 これは、パーヴェル……コイツらは、パーヴェルを信仰しているのか?

 そう思っているパンドラに、司祭が話し掛けて来たのであった。

「ここは、北方教会の教会です。関係無い御方は、立ち去って頂きたい!」


「我は連合軍、黒騎士団(ブラック・ナイツ)団長の佐倉大佐である。

 此度は、ガストン商会の会長である、ヘラルド・ガストンを、逮捕しに参った。

 如何なる者でも、我等の邪魔をすると、死あるものと心得よ!」


 そう言われても、パンドラは、歩みを止めること無く、そのまま進んだのであった。

「そんな者は、ここにはおりません!

 それに、関係無い者は、立ち去れと、言っているのです!」


 そう言って強くなる口調に、恐れが出たのか、茶髪でボブの通信兵がパンドラに言ってきたのであった。

「姫様、立ち去れって、言われてますけど……」


「エディス上等兵、気にする事はありません。私達は、関係が有るのですから」


「そんな、無茶苦茶なぁ……」

 そう言ってエディスは、座っている信者の冷たい視線に耐えながら、パンドラの後についていくと、司祭は叫んだのであった。


「立ち去れと、言っているだろうが!

 いくらレイヴンとは言え、この様な横暴は許しませんぞ!」


「エディス上等兵、目標は何階だ?」


「姫様……」


「放っておけば、良いのです。で、何処から上がるのですか?」


「た、確か情報では、あの扉からです」

 そう言ってエディスが指差した方向の扉に、パンドラがそのまま歩いて行こうとすると、パンドラの前にチョビヒゲで、スキンヘッドの大男が、立ち塞がったのである。


「おい、ガキ。貴様、司祭様の声が、聞こえなかったのか?立ち去れと、言っているだろう」


「では、私からも……そこを退かねば、殺すぞチョビヒゲ」


 その言葉を聞いた男は、額に大きな血管を浮き出して、言ったのである。

「クソガキが……レイヴンの格好をすれば、ビビると思っているのか?

 貴様みたいなクソガキは、この聖十字騎士団のマッセ様が、教育してくれるわ」


 そう言った男が剣を抜くと、パンドラがエディスに聞いたのであった。

「聖十字騎士団って?」


「聖十字騎士団……北方教会の、教皇直属の騎士団ですよ。でも何でこんな所に?」



「フハハハ、臆したかクソガキ。このまま逃げ帰っても、今なら許してやろう」


 何だか、ムカつくな。

「ごたくを並べてないで、早く斬ったらどうだ?」


 フードを深く被った状態で、そう言ったパンドラに余程、腹を立てたのか、男が剣を大きく振りかぶって、パンドラに斬りかかったのであった。

 その瞬間、パンドラの姿は消えて、男の近くに移動し、その手には、既に刀が抜かれていたのである。


 他の者は、何が起こったのか、状況が理解できずにいると、男の悲痛な叫びと共に、剣の柄と一緒に右手首が床に落ちたのであった。

「がぁぁぁぁ!こ、この、悪魔めが!」


「自分より強い者や、理解できない者を、悪魔と言う……それでは、いつまでも成長出来ませんね。

 人間の強さは、成長する事にあります。それを捨てたお前は、最早人では無い」


「煩い、煩い!この悪魔めが!」


「……正解」


「え?」

 そう言った瞬間、男の首に一筋の閃光が走り、男の首は床に落ちて、大理石の床を赤く染めたのであった。

 そして、パンドラは、振り返ると司祭に向けて、刀を突き出して言ったのである。

「さて、次に邪魔したい人は、誰かしら?……よろしい。では全て終わるまで、誰も動かない様に。

 外に逃げようとすると、この男の様に死にますよ」

 そう言ったパンドラは、そのまま扉を開けて、ヘラルドの元に向かったのであった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 北方教会は、教皇を頂点として、枢機卿、総大司教、首座大司教、大司教、司教、司祭、助祭と階級制になっており、上に出世するには、どれだけ御布施の金を、集められるかにかかっていた。

 ここナリヤ大聖堂を預かる、ペトル大司教は、出世欲が強く、早くこの帝国の大司教から、北方教会の本拠地である、聖都市サレムに戻り、出世したいと願っていたのであった。


 そして、大司教の部屋で、現在ヘラルドと二人で、密談していたのである。

「ガストンさん、今年の御布施は、少々少なくありませんか?」


「大司教様、今年は子供達の脱走もあったので、しょうがないんですよ。

 しかし、ヒメネスに会頭を譲ったので、来年の売上は、かなり伸びるでしょう、期待していて下さい。

 それよりは、北方連合(ノース・ユナイテッド)の方は、どうなっておりますか?」


「サレムからは、準備が出来次第、東部連合に聖戦を起こすでしょう。

 ただ、イースト・ベイル家の者が反対をしており、まだ難しいかと……」


「そうですか……」

 そう言ったヘラルドは、ガックリと肩を落としたのであった。


「しかしです。最近ですが、どうもイースト・ベイル家がペスパード王朝と、繋がっているとの情報を仕入れましたし。

 これを確認し、本当ならば、サレムから……いえいえ、デュラン王朝からも、失脚させる事が出来るかも知れませんぞ」


「おお、そうなれば、大司教様がイースト・ベイル家の代わりに、デュラン王朝の中核に、入れるかも知れませんな」

 そう言ってヘラルドは、さっきまでの暗い顔付きから、明るい顔付きへと、変わったのであった。


 その時である、何やら扉の外が、騒がしくなったのであった。

「何やら廊下が、騒がしいですな」


 ヘラルドがそう言うと、ペトル大司教は、ヘラルドに言ったのであった。

「既に、サレムから聖十字騎士団が数名来ておる。おそらくは、騎士達が騒いでおるのだろう」


「おお、では!」


「うむ、革命の時は近い。だが後は、教皇様さえ何とかすれば……」

 ペトル大司教がそう言った時であった、外の騒ぎが、急に静かになったのである。


「……大司教様、何やら静まりましたな」

 ヘラルドがそう言った時であった、扉のドアノブが、ガチャガチャと動き出したのであった。


 だが、鍵がかかっている様で、扉は開く事が無かったのだが、暫くすると扉が蹴破られ、外からフードを深く被った、ドレス姿のレイヴンが入って来たのであった。

 そう、パンドラである。


「レ、レイヴン……」

 思わずそう言ったヘラルドは、懐からナイフを取り出して、構えたのであった。


「教会のくせに、何で騎士が……それも、聖十字騎士団の騎士が、居るんでしょうね?」


 何だ、女か?

 ヘラルドがそう思っていると、パンドラはフードと面貌をはずして言ったのであった。

「さて、ヘラルド・ガストン。貴様には、強要罪、国家反逆罪の容疑が、かかっている。

 ここで大人しく捕まるか、死ぬか、好きな方を選べ」


「何だと?貴様、美しい顔をして、面白い事を言うな。

 ここには、聖十字騎士団の騎士も来ておる……レイヴンごとき、すぐにでも血祭りに、してくれるわ」


「聖十字騎士……ああ、あの廊下で、骸になっている者の事ですか?

 あれが騎士……プッ、弱すぎるでしょう。あれならナッソーの傭兵にも、負けるレベルですよ」

 そう言って、少し身体をずらしたパンドラの後方には、廊下が地獄絵図の様になっている光景が、目に入ったのであった。


 その光景を見て、呆然としている二人に向かって、パンドラが言ったのである。

「ですが、捕まえる前に、貴方達に聞きたい事があります。

 北方教会とは、魔王パーヴェルを、信仰しているのですか?」


 その言葉に、ペトル大司教は、怒りを露にして言ったのであった。

「何を申すか!そんな事は、断じて無い!」


「では、下の大聖堂にあった、あのステンドグラスに、描かれている者は?」


「あれは、神の使いを描いた、神聖なお姿であるぞ!」


 神の使い……まぁ見る方向を変えたら、そうかもしれませんが。

「神聖ね……

 私の……いえ、佐倉家の不倶戴天の敵である魔王パーヴェルは、あの姿に瓜二つだったのでね。

 まぁ良いでしょう、アデル居ますか?」


 パンドラがそう言うと、アデルは天井から音も無く降り、跪いて言ったのであった。

「はい姫様、ここに」


「逮捕するのは、そこのデブだけですか?」


「いえ、そこの大司教が、黒幕です」


「何を申すか、何故私が、逮捕されねばならんのだ!」

 そう言ったペトル大司教叫ぶと、パンドラは冷静に言ったのである。


「このアデルは、かなり前から、そこのデブを見張ってきました、今回の様に天井等の所からね。

 何か、申し開きする事があれば、裁判で聞きましょう……」

 その言葉を聞いた二人は驚き、ヘラルドはそのまま大司教を見詰めて、何か言いたげであった。


 何だ?何かする気か?……まさか!

 大司教がそう思った瞬間、ヘラルドは、パンドラにナイフで、無言で斬りかかったのであった。


 だが、パンドラの姿はヘラルドの前から消え、いつの間にかヘラルドの背後に移動し、ヘラルドの頭を捕まえて言ったのであった。

「無駄な事を……」

 パンドラがそう言うと、突如ヘラルドは、ガタガタと震えだし、目や鼻から血を流したのであったが、驚くべきは、その流れ出た血が蒸発し、煙になっているのである。


「き、貴様、何を……」

 思わずそう言った大司教に、パンドラは冷たい視線で言ったのであった。


「何って、全身の血液を、沸騰させているだけです。もう少しで毛細血管が破裂して、綺麗な光景が見れますよ」

 そう言った直後に、ヘラルドの身体の毛細血管が破裂し、身体中から煙が噴き出し、間欠泉の様になったのである。


「ほら、綺麗でしょ?

 さて、貴方はどうします?大人しく捕まるか、それとも死ぬか……好きな方を、選びなさい」

 パンドラにそう言われては、観念して捕まるしか道は、無かったのであった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 その頃、作戦本部でリュネは、かなり緊張していた。その原因は、もちろんフレイアの存在である。


 魔王フレイア……本当に来るのか?

 そう思っていると、メイドがやって来て言ったのであった。

「フ、フレイア魔王陛下、お越しになられました」


「通してくれ」

 左近がそう言うと、部屋に入って来たのは、いかにも魔王と言った鎧を着たフレイアであった。


 こ、これが魔王……何て禍々しいんだ。

 リュネがそう思っていると、左近はそのままフレイアに近付いて、フレイアの頭を叩くと言ったのであった。

「だから、この格好は止めろと、言っているだろうが!」


「権大納言殿……」

 思わずそう言って、リュネが左近を止めようと、思った時であった、リュネには思いもかけない事が起こったのである。


「清興、何すんねん!これは、ウチの威厳をやなぁ……」

「だから、脅してどうするんだと、言っているだろうが!もう少し友好的なれよ。……とりあえず脱げ」


 女?


「しゃあないな、んじゃちょっと待ってて」

 そう言ってフレイアは、出てくると、暫くして再びやって来た時には、コートに身を包んだ姿であった。


 こ、これが魔王フレイア……どう見ても、普通の女の子なんだが。

 そう思っているリュネに、フレイアが話し掛けて来たのであった。

「何や自分、初めて見る顔やな?」


 その言葉に、一瞬その場が凍り付いたのだが、リュネは堂々と言ったのであった。

「私は、ウェンザー王国の専属勇者、リュネ・ラヴィオ子爵でございます。

 この度は、東部連合と友好な関係を築きたく、使者として参りました」

 そう言ってリュネは、フレイアに跪いたのである。


「ウェンザー……ウチは、ガルド神魔国の魔王フレイアや。

 すまんけどな、ウチはウェンザーって名前の国には、良い思いは無いんや」


「それは、重々存じております……」

 そう言ってその場には、重い空気が流れたのであった。


 マズイな、これは。

 そう思った左近が、話を切り出したのであった。

「フレイア、この子爵は、ウェンザーの中でも、信用できると俺は思う。

 それに、それどころじゃ無いんだよ、北方教会の地下の聖堂に、ダンジョンが出来ていたんだ」


「はぁ?何を言ってるねん、清興。

 ええか、ダンジョンってのはな、作るのに条件が要るねん。そんな簡単に、何処でもダンジョンが出来て、たまるかいな」


 条件が?それは、変な話だな。

「それがだな、前に言っていた奴等の逮捕に、今朝乗り込んだのだが、北方教会の地下の聖堂に踏み込んだ所、ダンジョンが出来ていたんだ。

 その証拠に、これから聖龍騎士団が、ダンジョンの出来ている教会の爆撃に、向かっている。

 良かったら、その条件を教えてくれないか?」


「……ええやろ、でも他言無用や、他の者もな。言ったら殺すで。

 ダンジョンを作る場合、ダンジョンてのは、家の軒下に出来る様な、簡単な物じゃ無いんや。

 ダンジョンが出来た国は、無条件でその魔王の物になる、これは神様が決めたルールや、だからその国内では、魔王は神の力で無敵になれるねん。

 だから魔王は、自国内にダンジョンを作ったりしないし、もしも自然に出来ても、討伐しているねん。

 もしも、そこで魔王が出来たら、前の魔王は能力が無くなり、力は新しい魔王に、能力が行ってしまうからや。

 魔王がダンジョンを作る条件は、人間、亜人、獣人の住んでる所以外の限定や。

 人間、亜人、獣人が住んでる所は、神が認めた権利やさかい、いくら魔王でも、自由にダンジョンを作る事は、できひんねん。

 これが、ダンジョンを作る条件や。

 ダンジョンの作る材料は、大量のお金と、魔王になる媒体が要る、媒体は、既に生きている者を、使う場合もあるけど、伝説の武具を使う場合もある」


 そんな制約があったのか。では、何で北方教会の地下に、出来たのだろうか?

 そうだ、ナリヤにも、北方教会の大聖堂があったじゃないか。一度確認してみるのも、良いかもしれないな。

「今、思ったのだが、北方教会がダンジョンを育てていたなら、ナリヤ大聖堂にも在るかも知れない。

 皆様、一度確認して見ませんか?もしも無ければ、それで良いだろうし、在った場合は、緊急で対策を取らないといけませんので」


 そう左近が言うと、リュネも言ったのであった。

「是非とも、私も同行して、宜しいでしょうか?

 もしも北方教会が、ダンジョンを育てていたとしたら、我等の王都ナボスにも、北方教会が在りますので、そこでダンジョンを、育てている可能性も御座いますので」


 もしも、万が一そうだった場合は、ウェンザー王国を通じて、この話が大陸中に広まる可能性があり、我等は優位にたてる。

「この話、私は悪くないと思いますが……」


「評議会議長の権限で、認めるとしよう」


「私も、確認するのは当然と思います。それにフレイア陛下がいる今なら、分からない事も聞けますし。

 陛下は、どうされますか?」


「もちろん、行くとしよう。ウォーレン、後の指揮を頼む」

 こうして、ウォーレン司法長官を残して、左近達は空間転移で、ナリヤ大聖堂まで移動したのであった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 左近達が、ナリヤ大聖堂に到着すると、ちょうどパンドラが大司教を連行して、出てくる所であった。

「あら、お父様……皆様も、どうかされましたか?」


「ちょっと、大聖堂の地下の聖堂を、確認しに来たんだよ……パンドラそいつは?明らかにヘラルド・ガストンじゃ、無さそうだが」


「ああ、これね、この大司教が黒幕です。ヘラルドは、抵抗した為に、殺しちゃいました。

 中に入るのでしたら、数名護衛につけましょう……面白そうなので、後で私も行きますね。

 あ、そうだ、中に入ったら、お父様とフレイア陛下は、驚きますよ」

 そう言ってパンドラは、クスクスと笑いながら、大司教を連行して行ったのであった。




「パンドラ、最近明るくなったな。でも驚くって何やろ?」


「さぁ?まぁ入ってみるか」

 そう言って左近達は、大聖堂の中に入ると、そこには大きな、パーヴェルを描いたステンドグラスがあったのである。


 左近とフレイアは、思わず口を開けて驚いていると、司祭がやって来て言ったのであった。

「ここは、北方教会の教会です、関係の無い者は去って頂きたい!」


 フレイアは、そう言った司祭の胸ぐらを掴んで、言ったのである。

「おい、北方教会って、パーヴェルを信仰しとるんか?」


『何!』


 思わず左近とパンドラ以外の者が叫ぶと、フレイアは言ったのであった。

「あの、ステンドグラスの者の事や!あれは、どう見ても、魔王パーヴェルの姿やんか!」


「な、何を言っている!これは、主の使いのお姿である。

 昔から、主の使いは、この姿だと教典にも書かれておる!」


 そう司教が叫んでいると、パンドラが戻って来て、フレイアに言ったのであった。

「その話は、本当だと思いますよ。

 私も、大司教に聞いてみましたが、同じ事を言っておりました。

 そこで、1つの仮説をたててみたのですが、もしかしたらパーヴェルは、数百年前に自らを神の使いと言って、北方教会に入り込んだのかも、知れません。

 目的は、分かりませんが」


「そのパンドラの仮説……当たっとるかも、知れんな。

 そんな事より、地下の聖堂はどこに在る?」

 そう言ってフレイアは、納得して司教から離れたのであった。


「地下の聖堂など、何でまた」


 思わず言った司教に、左近が言ったのであった。

「シクサ村の、北方教会の地下の聖堂から、ダンジョンが発見されたとの報告が来た。

 そこで、このナリヤ大聖堂も、ダンジョンが在るのかどうか、確認したいんだ」


「ありません、どうかお引き取り下さい!」

 そう言って司教は、全く受け付けなかったのであった。


 それを見かねたパンドラが、前に出て言ったのであった。

「さて、この大聖堂には、何故か北方連合(ノース・ユナイテッド)の聖十字騎士団が居ましたね。

 司祭、貴方もこの反乱に、関わっているのですか?

 違うと言うのなら、皇帝陛下も来られているのです、身の潔白を証明しては、どうでしょう?

 このままなら、貴方も同罪として、逮捕しますが」


「それは脅迫、ですか?」


「違いますよ、身の潔白を、証明しなさいと、言っているのです。

 今ここで、証明しないと、貴方だけで無く、北方教会全体が、帝国の……東部連合の敵になるのですよ」


 そう言われて、司祭は暫く考えて言ったのであった。

「今回の事は、北方教会の預かり知らぬ事です、おそらくは大司教様の暴走でしょう。

 それで、良いでしょうか?」


 蜥蜴の尻尾切りか……だがこの司祭、結構腹黒いかも知れんな。

 しかしこれは、かなりラッキーな話だぞ。北方連合(ノース・ユナイテッド)とは、今戦争になるのは、得策では無い。

 ここは、その条件を受け入れて、出来れば数名の、北方教会関係者を引き込みたい。

「私は、それで良いですが、皆様はどうでしょう?」


 左近がそう言うと、残る者も、今は北方教会と敵対したくは無いのか、左近の意見に同意したのであった。


「ありがとう御座います、ではこちらにどうぞ」


「すまんが、そなたの名前を聞いて良いだろうか?」


「申し遅れました、私はマーク・メスト司祭で御座います」

 そう言ってマークは、左近達に地下の聖堂に、案内したのであった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「何やねん、これは!」

 思わずそう言ったフレイアの目の前には、白い扉に赤い文字で書かれた、地下の聖堂の入り口が、あったのである。


 何だこの文字は。

 キリバ語とは、違う様だし、何処かで見た様な……そうだ、フレイアがパンドラを召喚した時に、魔方陣に書いた文字に似ている気がする。

「フレイア、これが何か分かるか?」


 左近がフレイアに言うと、リュネが呟いたのである。

「これは、もしかして、ウル語ではありませんか?」


「正解や、よく分かったな……ええと、リュネ子爵」


「私の祖父は、言語学者で、ウル語を研究してましたので、この文字は見た事があります。意味は分かりませんが。

 それと私の事は、リュネで良いですよ、魔王陛下。正直自分は、あの魔王陛下が、こんなにも、お美しいとは思いませんでした。

 今まで敵対していたのが、バカバカしい程です」


 その言葉に気を良くしたのか、フレイアは上機嫌で言ったのであった。

「自分、中々ええ所が有るやん。フレイアで、ええよリュー」


「ありがとう御座います、ではフレイア様と御呼びしますね。

 フレイア様、このウル語は、何と書いてあるのでしょうか?」


「おお、それやそれ。

 簡単に訳すと、このウル語に、書かれているのは、この部屋は、魔王パーヴェルの領土とする。この部屋から魔物は出れないって、書かれているんや。

 考えたな、パーヴェル」


「フレイア陛下、どう言う事ですかな?」

 思わずナッシュが、聞いたのであった。


「ウル語ってのはな、その文字に魔力が宿る……まぁ簡単に言うと、書いた事が、そのまま出来しまう魔法の文字や。

 その効力は、例え神様でも逆らう事が、できひんねん。

 で、そのウル語で、この中の部屋は、パーヴェルの領土にする。中から魔物は出れないって、書いてるねん」


 領土とする?それって、ダンジョンが作れる条件が、揃っているんじゃ無いか?

「おい、フレイア、これって……」

「ああそうや、パーヴェルはここに、自由にダンジョンを作れるって事や」


 フレイアがそう言った瞬間、全員がゴクリと唾を飲み込み、その場に張り詰めた空気が、流れたのであった。


 だが問題は、どうやって中を確認するかだ。

「フレイア、この扉を開けたらどうなる?

 例えば、パーヴェルの領土じゃ無くなり、ダンジョンが消えるとか」


「それは、無いなぁ。

 ダンジョンが在れば、それは既に存在する物やし、消える事は無い。

 ただ、中で溢れかえっている魔物が、外に出るだけや」


 そう言った時に、パンドラが前に出て来て言ったのであった。

「なら、話は簡単です。

 私とお父様が、二人で中を確認して、魔物がいれば全て駆逐すれば、良い話です」


 おいパンドラ、俺を巻き込むな。

 そう思っていると、ビートが焦りながらパンドラに、言ってきたのであった。

「ちょっと待てパンドラ。

 いくらお前や元帥が強いと言っても、多勢に無勢だ、万が一の事があったら、どうするんだ?」


「フッ、お祖父様、その話は愚問です。私とお父様ならば、あのパーヴェルにも万が一でも、負ける事はありません。

 我等親子は、この世で最強なのですよ。確認するので、皆様はお下がり下さい。

 メスト司祭も、それで良いですね」


「わ、分かりました」

 そう言ってパンドラは、他の者を後方に退く様に促し、皆それに従ったのである。


 そして、他の者が離れたのを確認すると、パンドラが左近に、言ってきたのであった。

「お父様、タイム・アクターで、何秒時間を止めれますか?」


 そうか、その手があったか。

「3秒だ。パンドラお前は?」


「同じく3秒です。多分お父様は、確認して無いと思いますので、言っておきます。

 タイム・アクターには、リキャスト・タイムが存在します。

 2秒時間を止めれるなら、2秒。

 3秒止めれるなら3秒で、これは止まった時間の中でも、自分がタイム・アクターを使用して、止めた時間で無ければ、カウントされます。

 そして、タイム・アクターで止めた時間は、同じスキルを持った者なら、止めた時間で動ける」


「お互いに、交互にタイム・アクターを使用すれば、永遠に時間を止めれると言う事か」


「正解。ただし魔法は、使えません。

 まぁどのみち、こんなに狭い所なら、私の魔法は使えませんけどね」


 確かにこれなら、俺とパンドラで最強だ……パーヴェルが、同じスキルを持っていない、前提の話だが。

 ……だからか、パーヴェルが、同じスキルを持っていると仮定して、パンドラが兵庫に、剣を大人しく習っているのは。

 時間が止まった世界では、魔法や飛び道具は使えない、肉弾戦あるのみだ。

 しかし、それよりは、このダンジョンの件だ。

「ではパンドラ、俺がタイム・アクターを使用したのを合図に、交互に使用していくぞ」


「了解……では、開けましょう」

 そう言って左近とパンドラは、お互いに目で合図すると、ゆっくりと扉を開けたのであった。


 ギギギ…と鳴り扉が開かれると、30体はいるであろうか、頭が牛や馬の者が、槍や大きな牛刀を持っていたのである。

「牛頭馬頭…この世界でも居るのか?」


「あら、お父様ご存知で?」


「ああ、地獄の獄卒と言われている……行くぞ、タイム・アクター!」

 そう言った左近は、腰の鬼切丸を抜き、パンドラも腰の陸奥守吉行を抜いて、斬りかかったのであった。


 パンドラの提案した作戦は、圧倒的な強さを発揮した。

 時間を止めての攻撃は、身動きの出来ない牛頭馬頭を、簡単に殺していったのである。


 やがて、部屋の中にいる牛頭馬頭を、倒し尽くした二人が、タイム・アクターで時間を止めるのをやめると、斬られた牛頭馬頭が、シャボン玉の様に舞い上がり、幻想的な空間となったのであった。


「お見事。流石は鬼の左近と言われた元帥に、黒の女帝と言われたパンドラじゃ。

 まさか一瞬で、中の魔物を斬り殺すとは……この強さなら、御主達親子で、この世の者全てを倒し、大陸を制覇出来るのでは、無いか?」

 そう言って入って来たのは、ビートであった。


「ハハハ、まさか。

 広大な大陸を、二人で制覇なんて、出来ないでしょう。

 それに我が願いは、ナッソーで悠々自適に、隠居生活ですよ」


「また、そんな冗談を言いって……」


「いえいえ、お祖父様。実はこれが、お父様の本音ですよ。

 虚に見えて実、実に見えて虚。これがお父様で、御座います」


「それは、誉めているのか?」

 そう言った左近は、パンドラの頭をポンポンと軽く叩いたのであった。


「さて議長……状況は、最悪ですね」

 そう言った左近の目線の先には、大きく口を開けたダンジョンが、あったのである。


「そうだな……これでは、帝都ナリヤを帝国は、放棄しなくてはならない」

 全て、ビートの言う通りであった。

 ダンジョンの攻略は、左近が規格外であっただけで、通常は何ヵ月何年間と、かかる場合があり、更に再び魔物が溢れる場合がある。

 そんな危険な場所に、帝国の首都である帝都を置くことは、通常は考えられない事であった。


 そして、遅れて部屋に入って来た、ラニスとナッシュは、ダンジョンの姿を見て、落胆していたのであった。

 超帝国崩壊より続く、この帝国の帝都ナリヤが、自分達の代で、その役目を終えてしまうのが、信じられなかったのである。


 そして、違った意味で驚く者が、その隣にいた。マークである。

 マークは、ダンジョンが出来ているなんて、この光景を見るまでは、半信半疑であったのだが、この現実を見せられ、自分の今まで信じていた物が、崩壊してきていたのであった。

 そんな中で、リュネが左近に、言ってきたのである。

「権大納言殿。今回の事は、我がウェンザー王国にも、北方教会の大聖堂が在るので、起こりうる事です。

 一度戻って、確認しても宜しいでしょうか?」


 そうだな、帝国だけでは無く、他の場所にも、ダンジョンが出来ているかも、知れない。

 もしも出来ていたら、北方教会が、ダンジョンを育てていたと言う、裏付けになる。

「分かった、出来れば裁判をするまでに、その結果を教えて頂く事は、出来るかな?」


「もちろんです。

 それに我が国にも、ウル語を研究する学者がおりますので、扉に同じ文字が書かれていたら、その者に解読させ、フレイア様と同じ事だと分かれば、フレイア様の言っている事が、真実と証明され、誰もが耳を傾けるでしょう。

 では宰相殿、いつ頃裁判を始めますか?

 ……宰相殿!」


「あ、ああ、すみません……裁判ですね。2週間後の2月28日の朝で、どうでしょうか?」


「2月28日?何ですか、それは?」


 そうか、子爵は暦を、知らないのだった。

「子爵殿、実は連合では、一年を365日で割った、暦と言う物で行動している。

 今日は2月14日なので、2週間後は14日後と言う事だ。後で、その暦を記した、カレンダーと言うのを、渡してやろう」


「なるほど、それでしたら、時間は正確になり、行動しやすいですね」


「まぁここで話すのは、危険だし外に出ようか。

 パンドラ、空間転移を開いて、大聖堂の前まで移動しよう。そして、数名の警備の者をここに、配置しろ」


「了解しました……あれ?」


「どうした?」


「いや、空間転移を開こうとしたのですが、出ないので……疲れているのですかね?」


「珍しいな。俺がやろう……あれ?俺も出ない。

 俺も、疲れているのかな。すまんが子爵殿、お願い出来るかな?」


「分かりました。でも権大納言殿と姫様が、これで普通の人間だと分かり、安心出来ましたよ。

 ……あれ?私もです。これは、変じゃ無いですか?3人の勇者が、揃いも揃って、空間転移が、使えないなんて」


 この現象……まさか!

「この現象、前に一度経験した事がある。

 ピケ山のダンジョンに入った時に、俺とセシルとセシリーの空間転移が、使えないダンジョンだった。

 コープス博士が言っていたのだが、ダンジョンは、魔石で出来ているらしい。

 魔石には、色々な効果があるので、ピケ山のダンジョンは、空間転移を妨害する効果があった様だ」


「って事は、このダンジョンの魔石を研究すれば、勇者の空間転移を妨害できる、魔導機を開発できる可能性があると言う事ですか?」


「そうだパンドラ。後で、ここのダンジョンの研究をやる様に、コープス博士に伝えよう」


 左近がそう言うと、リュネが焦った様に、言ってきたのである。

「権大納言殿、宜しければ、その技術を、我が王国にも伝えて頂けないでしょうか?」


 しまった、こいつが居るのを、忘れていた。

 あ、みんな、「やってもうた」って顔をしている……分かっているなら、誰か止めろよ。

 しょうがない。

「子爵殿、これは連合の大切な技術なので、評議会の賛同がいる。

 それにだ、どうやって王国に持ち帰るんだ?空間転移は、使えないから、かなり時間がかかるぞ」


「あ……そうですね」

 左近にそう言われて、リュネは落ち込んで、いたのであった。


「まぁレイクシティの、セントラル城には、空間転移専用の部屋を作っているから、これからは、そこに来ると良い。

 とりあえずは、この場から離れて、外に出て俺が案内しよう。

 それから王国に戻って、このダンジョンの事を伝えれば良いさ」


「そうですね、分かりました」

 背中を、慰める様に叩かれたリュネは、落ち込んでいたのであった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 左近達が地上に上がると、多くの人が集まり、その表情は、不安な顔付きに、なっていたのである。

 まずいな、ここでダンジョンの事を公表すれば、パニックになりかねないぞ。

「陛下、ここは、まだ公表しない方がよろしいかと。ここで公表すれば、パニックになります」


「そうじゃの……メスト司祭」


「はい」


「先程、反乱の件は、北方教会は何の関係も無いと言う事になったが、今回のダンジョンの事は、北方教会に、何の責任も無い訳では、無い。

 よって、民の誘導を手伝う事で、そなた達の罪は、不問といたそう。

 ただし、大司教は、今回の主犯として裁き、それを公開する。

 信者が減るかも知れんが、本当に教えが素晴らしい物なら、また増えよう。良いな?」


「私共に寛大な配慮。誠にありがとう御座います。全て陛下の御意向に、従いましょう」


 さすがは、陛下だ。これで北方連合(ノース・ユナイテッド)の驚異が、かなり減る事になる。

 だがこれで、俺達の仮想敵国は、北方連合(ノース・ユナイテッド)になったし、ウェンザー王国にダンジョンが見付かれば、一気に大陸は、戦乱になるだろう。

 この司教を、こっちに抱き込んで見るのも、悪くは無い。

 ん?あれって、クレアじゃないか?


 そう思った左近の目線の先には、四つん這いになりながら、必死に人を掻き分けて、こちらに向かって来る、メイド姿のクレアがいたのであった。

「お~い、クレア!俺を探しているのか?」


 左近が叫ぶと、クレアは左近の元に必死で走って来て、言ったのであった。

「お、御館様!大変なの!アイリスが!じゃ無かった。アイリスの奥様が!」


 いや、両方アイリスだろう。別に言い直さなくても、クレアだし良いだろう。

「クレア落ち着けって。アイリスが、どうかしたのか?」


「じ、陣痛が始まったの!」


『なにぃ!』

 声を揃えて、その場にいた者、全員が驚いたのであった。


「元帥、パンドラ、この場は、我等に任せて、早く帰れ!」


「ありがとう御座います、議長閣下。パンドラ、クレア行くぞ!」


 そう言って、左近が行こうとすると、ラニスが左近に、言ってきたのであった。

「元帥よ子供の名前は、もう考えておるのか?」


 ……わ、忘れてた!

「だ、大丈夫ッスよ……では、先を急ぎますので!」

 そう言って左近達は、空間転移を開いて、レイクシティに戻って行ったのであった。


「あれ……完全に、忘れておった様じゃの」

 思わず、そう言ったラニスの言葉に、全員が頷き、ラニスと同じ事を思っていたのであった。




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