受験
東暦2年2月10日、レイクシティに在るフレイアが理事長を務める、セントラル総合学園の受験が、連合国の至る所で始まった。
前以て、連合国中に身分は関係無く、受験出来ると宣伝されていた事もあり、更に各学科、総合上位100名は、学費や寮や金は免除され、食費も無料と言う事もあってか、その受験を受ける者は、数多くいたのであった。
そして、パンドラはと言うと、他の学科には興味は無く、戦術等も学べると思い、騎士科を受験したのである。
騎士科の受験は、筆記だけでは無く、武術と簡単なアンケートがあった。
筆記が終わったと思ったら、何です、これは?
そう思ったパンドラの前には、渡されたアンケート用紙があった。
今まで、魔物や人を殺した事がありますか?ですって……これって、お父様やフレイア陛下は、勇者を大量生産する気なのか?
そう思ったパンドラは、イエスに○を付けたのであった。
「では、騎士科を受験の皆様、これより最後の武術の試験になります。
これより、コロシアムの方に移動して下さい!」
そう係員から言われた受験生は、一斉に移動を始めたのであった。
こんなにも多く?
パンドラがそう驚くのは、無理も無かった。
移動を始めた受験生は、人間ばかり100名を越えていたのである。
そう思いながら歩いていると、パンドラの肩をポンポンと、叩く者がいたのである。
誰だろうと振り返ると、そこにいたのは、何処かキースに似た男であった。
「お久しぶりです、その様なお姿でしたので、一瞬どなたか、分かりませんでしたよ」
そう言われるのは、無理もなかった。
パンドラは、メガネをかけて、服装も平民と同じ服を、着ていたからである。
誰だろう……でも何処かで見たような……あ!キースの末の弟のジョアン!
そう思った瞬間、ジョアンの口をパンドラは塞ぎ、耳元で言ったのであった。
「いいですか、私はただのパンドラです。身分を隠しているので、そのつもりで」
パンドラにそう言われて、ジョアンは何度も頷いたのであった。
それを確認したパンドラが、ソッと手を離すと、ジョアンが言ったのである。
「姫さ……パンドラ様、何故この様な所に?」
「ここでは呼び捨てで、御願いします。
お父……父が昔ルタイ皇国の学校で、楽しい思い出話を私に語っていたので、私も興味が出ましたの。
ウッド様は、どうしてここに?」
「ジョアンで良いですよ。私は父に言われて無理矢理です……本当は兄の様に、内政の方に行きたかったのですが」
「キースも、けっこう大変そうですよ。
父が戦しか脳が無いので、苦労してますし。内政はキースに丸投げですし」
「ハハハ、それはよく、兄の手紙に書かれています。
閣下は、思い付いた事を言ってきて、その後の指示は、全て任せるになるって書いていました。
でも、だからこそ、やる気が出るとも、書かれていましたね」
「それは、完全に父に洗脳されていますね」
「私も、そう思いますよ」
そう言った二人は、顔を合わせて笑ったのであった。
知り合いがいるのは、なんとも心強い。
そう思いながらパンドラ達は、笑いながらコロシアムに向かったのであった。
総合学園コロシアム。ここは、ローマのコロシアムそっくりに、建てられた施設であった。
その大きな建物を二人は、口を開けて見ていると、案内役の女の子が言ったのであった。
「それでは、これより武術の試験を行います、先ずは受験番号1番から10番の人は、こちらに来て下さい」
8番、私だ。
「私は呼ばれたから、行ってきますね。ジョアンは、何番ですか?」
「私は26番なので、まだですね。ではパンドラ、御武運を」
「ありがとう、ジョアンも御武運を」
そう言ったパンドラは、受験票を女の子に見せて、中に入って行ったのであった。
薄暗い通路を地下に進んでいると、一行は1つの部屋に案内されたのである。
中は、スタジアムのロッカールームの様になっており、パンドラはベンチに座ったのであった。
目の前には、態度の大きい金髪の巻き毛の女性や、落ち着いた雰囲気の男性など、全員が同年代の17歳前後のようであった。
年齢で、分かれているのかな?
そう思っていると、案内役の女性が説明し出したのである。
「ではこれより、番号順に1人ずつこの通路を進んで頂き、武器はここに有る、木刀や木剣等を使い、競技場にいる人と一対一で戦ってもらいます。
スタジアムの観客席には、各騎士団の団長や代表の方がおり、勝ち負けより、戦いの内容を見て、合格か判断します。
本日は、黒騎士団のレイヴンの御方も来ていますが、緊張しないように。
では、受験番号1番、シャーリィ・ネルソンさん」
「はい」
そう言って立ち上がったのは、金髪の巻き毛の、態度の大きい女性であった。
「ネルソンさん、武器はどれにしますか?」
「では、片手剣と、盾を御願いします」
「はい、では片手剣と盾ですね。では、ここから前に進み、「始め」の合図で戦って下さい」
「分かりました」
そう言って、シャーリィは静かに、一度息を吐いて、覚悟を決めて進んだのであった。
一対一なんて、戦場じゃほとんど無いのに。
それにレイヴンが1人って、確実に暇しているソニアしか、いないでしょう。
じいめ、ソニアなら食い付くと思って、話を振ったな。
そう思っていると、暫くして歓声が聞こえて、先程のシャーリィが、血塗れになり、担架で運ばれて出ていったのであった。
その光景を見た、数名の者は、驚き案内役の女性に、詰め寄ったのである。
「何だよあれは!聞いてないぞ!」
「本当に相手も、同じ武器か?」
「こんなの、試験じゃ無いだろう!」
皆が好き勝手に言っていると、案内役の女の子は、笑顔で言ったのであった。
「これが、騎士団の厳しさです。
もしも、臆したのなら、試験を中止して、このまま帰られた方が、よろしいのでは?」
「バカバカしい、帰ってやる!」
「そうだよ、たかが試験でこんなのは、ふざけている!」
そう言ってパンドラと落ち着いた男性以外は、皆が帰ってしまったのである。
これぐらいで、臆する様では、騎士としては、やっていけない。
しかし、この男性、あの光景を見ても、まだ平然としている……面白いな。
……はっ!義兄様の性格が移ってる!ダメダメ、あんな脳筋と同じになっては。
そう思っていると、案内役の女性が言った。
「では、残った人で進めます、次は受験番号5番、イーライ・ギュドゥアンさん」
ギュドゥアン?セルゲン殿の一族か。ならばこの落ち着きようも頷ける。
「はい」
「武器は、何を選択しますか?」
「ロングソードで、御願いします」
「はい、ロングソードのみですね。それでは、お進みください」
そう言われたイーライは、そのまま進むと、暫くして、再び歓声が聞こえて、右腕を押さえた血塗れのイーライが、よろけながらも、自力で戻って来たのであった。
「大丈夫ですか!担架で運びますよ!」
そう言って、近寄った案内役の女性の腕をふりほどき、イーライは言ったのである。
「いりません、歩いて行きます……相手は騎士だ、気を付けろ」
パンドラにそう言って、イーライは、その場から去っていったのであった。
騎士ねぇ……
そう思っているパンドラに、案内役の女性が、言ってきたのであった。
「どうしますか?止めますか?」
バカか、こいつは?……そうか、私の事を知らないのか……そう言えば、メガネをかけて、服装も平民の服を、着ていたのだった。
分からないだけか。
「いえ、やりますよ。私は木刀で御願いします」
「アラアラ、可愛いのに、けっこう気が強いのね。はい、木刀。
では、このまま進んで下さいね」
「分かりました」
そう言ってパンドラは、木刀を受け取ると、通路を進んで行ったのであった。
地下から階段を上がると、そこは、コロシアムの闘技場に通じており、観客席には騎士達が、観客として座っていた。
そして、豪華な貴賓席らしき所には、騎士団の団長達が座っており、黒騎士団の席には、ママが座っていたのである。
パンドラが登場すると場内は、歓声とざわつきが、観客席を埋め尽くしたのであった。
騎士のみなら、隠す必要も無いな。
そう思ったパンドラは、メガネを外し、アイテムボックスに、収納したのである。
その瞬間、沸き上がっていた歓声から、一瞬でどよめきに、変わったのであった。
さて、私の相手は……リルソー少佐か。
そう思いながらパンドラは、ガブリエラを見据えると、ガブリエラの顔色は、真っ青になっていたのである。
「パンドラ、何でここにいる!ママ、どうしてパンドラが、受験なんて受けるんだよ!」
思わずそう言ったのは、エリアスであった。
「ハハハ、やっぱり驚くよな。実は姫さんが学校に行きたいって言い出して、左近が折れたんだよ、なぁ左近」
そう言ったママの背後に、クロエを連れた左近が、いつの間にか立っていたのであった。
『閣下!』
そう言って全員が驚いたが、アミリアだけは、顔を真っ青にしながら、左近に言ったのであった。
「閣下!この試合は中止だ!ガブリエラが殺されてしまう!」
まぁ、確実に死ぬわな。
「ママ、中止で良いかな?」
「ああ、良いぜ。リルソー少佐!今回は対戦相手を、自由に選ばせるってのは、どうだ?」
俺……中止で良いかな?って、言ったんだけど。
「分かった、それで良いだろう!」
そう言ったガブリエラは、何処かホッと胸を撫で下ろしていたのである。
何でソニアは、そんな事を……そうか、ソニアの考えが読めた。
そう思ったパンドラは、観客席に向かって叫んだのであった。
「虎!居るんでしょ!降りてきて、私と戦いなさい!」
「何で、俺なんスか!」
そう言って、思わず立ち上がったのは、虎之助であった。
「虎、お前身に覚えが、有るだろう」
そう言ったパンドラの目に虎之助は、ビクッと反応してしまったのである。
まさか、賭けの事がバレた?
いや、まさか……副長が姫様にチクった?
これは、あり得る……あの人って、楽しけりゃ、自分や人の命は、どうでも良い所があるからなぁ。
そう思っていると、ママが虎之助に向かって、叫んだのであった。
「虎ぁ!骨は拾ってやる、当たって砕けてこい!」
姫様相手で砕けたら、死んでるがな!
……こうなったら、この状況を最大限に、利用してやる。
「姫様に御願いが、あります!
私が、姫様の攻撃を見事耐えきったら、テスタ中佐を私の専属メイドにして、いただけないでしょうか!」
その瞬間であった、虎之助の周辺に居た、他の黒騎士達が、騒ぎだしたのであった。
「バカ野郎!誰が皆の中佐をやるかよ!」
「死んでこい、バカ虎!」
「姫様、こいつもう、殺しましょうや!」
「お前、皆の中佐を専属って、死んでも良いって事だよな!」
そんな怒号が飛んでいる中で、クロエはプルプルと震えだし、眼鏡を外して、手すりに足を乗せて叫んだのであった。
「ゴルァ!てめえら、中佐、中佐って言いやがって!黒騎士団には、他に女性が居るだろうが!
なんだテメエら!胸か?やっぱり、胸が大きいのが、良いのかコラ!」
あ、あかんてクロエさん……クロエってこんなキャラだっけ?
そう思っている左近の目の前で、更にクロエの火に油を注ぐ言葉が、出たのであった。
「だってなぁ、テスタ中佐って、おしとやかだし」
「そうだよな、胸の他にも、おしとやかさが、重要だしな」
「バカ野郎!そう言われた方が、余計に傷付くわ!元政に尚道、お前ら次の軍事教練の時、覚えておけよ!真っ先に狙ってやるからな!」
あ、あかんてクロエさん、自が出過ぎや。
そう左近が思っていると、ママはお腹を抱えて、涙目で笑いながら言ったのであった。
「ダ、ダメだ、私の腹筋が崩壊する……左近、コイツら本当にバカだろ?面白いだろ?
本当に、この騎士団は、最高だよ」
「そうだな、良い騎士団だ」
確かに、この騎士団は、個性的なキャラが集まり、バカ騒ぎをやっているが、それだけ仲間の結束が固いと言う事だ。
ここまで、騎士団をまとめて、育て上げたパンドラの能力……末恐ろしいな。
そう左近が思っていると、虎之助が闘技場に降りてきて、木刀を手にしたのであった。
その瞬間、場内は静寂が包み込み、虎之助とパンドラに、周囲の視線が集まったのである。
その静寂の中で、パンドラは虎之助を見据えて、正眼の構えを取ると、言ったのであった。
「バカ虎、そのテスタの件、受けてたちましょう」
「有難う御座います」
そう言って虎之助は、同じく正眼の構えで、パンドラと対峙したのであった。
しかし姫様は、こうして対峙してみると、構えに全く隙がないし、殺気も無いから、いつ攻撃するのかも分からない。
……勝てる気が、全くしねえよ。
そう思っている虎之助であったが、パンドラは左足を少し引いて、木刀を下げ、下段の構えに、変化したのであった。
ここで、下段の構えに変化した?何か来るのか?
そう思っている虎之助に、パンドラは、よく通る声で言ったのであった。
「バカ虎、死ぬなよ」
「え?」
そう言った瞬間であった、まるで地を這う大蛇の様に、虎之助の喉元に目掛けて、下から突きが繰り出されたのである。
ヤバ!
そう思った虎之助が、何とか、かわすと、ボンと言った空気の切り裂く音がしたのと同時に、頭に強い衝撃が走り、地面に叩き付けられたのであった。
「あの技は!」
思わずそう言って立ち上がったエリアスに、左近は聞いたのであった。
「義父上殿、知っているのですか?」
「はい、喉元への突きと、頭上へのほぼ同時に当たる様な攻撃……夜の京の都で、兵庫がパンドラを仕留めた技です」
「なんて技だよ……」
あれは、普通の者が食らうと、いくら木刀とは言っても、絶対に死ぬぞ。
左近がそう思っていると、アシュラが不満そうに言ったのである。
「姫様の本気を、見たかったのだがな……」
おい、って事はパンドラは、手加減していたって事かよ。
そう思っていると、歓声を打ち消すかの様に、パンドラが叫んだのであった。
「お遊びの時間は、終わりだ!」
その瞬間、黒騎士達は、一瞬で戦に向かう様な顔になったのであった。
「皆、じいより、今回の作戦の事を、聞いているであろう?」
そう言って、パンドラが観客席を見渡すと、黒騎士達は立ち上がり、ママ迄も、これから戦場に向かう様な顔付きで、立ち上がったのである。
「今回の作戦は、私とソニアが出ると言う事は、失敗は即ち死と心得よ……我等に逆らう者は、全て皆殺しにせよ!
我が、お前達に与えるのは、何だ?」
『力と恐怖、名誉と栄光!』
「よし、ではこれより、担当の者は、作戦の打ち合わせに、取り掛かれ」
『はっ!』
そう言った黒騎士全員が敬礼し、ママ迄もが、パンドラに敬礼して、一斉に動き出したのであった。
パンドラめ、なんつうスローガンを掲げているんだよ。
しかし、あの言葉で、一瞬で全員が、戦に向かうかの様な顔になった……コイツら、一体どんな訓練を、やってやがるんだよ。
左近が驚いている中、パンドラはガブリエラの所に行って、頭を下げて言ったのであった。
「リルソー少佐、このバカ虎を医務室に頼みます。
こんなバカですけど、私の初期からの、配下ですのでね……」
そうパンドラに言われてガブリエラは、ただ頷くしか出来なかったのであった。
「では少佐、御願いしますね」
そう言うとパンドラは、ガブリエラに一礼して、メガネをかけ、戻って行ったのであった。
―――――――――
シタル村。
この村の近くには、ガストン商会の鉱山が在り、左近の命を受けた団蔵は、5名の部下を引き連れて、シタル村にやって来ていた。
団蔵達は、変装をする訳でも無く、堂々と馬に乗り軍服のままで、やって来たのである。
「失礼、連合軍の御方と、お見受け致しましたが?
あ、自分は、この村の保安隊の隊長で、ブルーノと言います」
そう言って村に入った一行を出迎えたのは、口髭の立派な男性であった。
「そうだ、私は連合軍の長部 義胤少佐である。
この度、この辺りで軍事演習を行う事になったので、その下調べにやって来たのだが、宿屋はないか?」
そう言って団蔵は、馬から降りて諜報用IDカードを渡したのであった。
「確かに……しかし、何で宿屋ですかな?」
「暫く滞在して、演習用の地図を、作成したいのだが……そう言いった部屋のある宿屋は、ないかな?
例えば、テーブルがある、部屋とかだな」
「そうでしたか。
しかしこの村には、宿屋は彼処に在る一軒だけです。
かなりボロいですが、まぁ野宿よりは、まだましですし、馬も繋いでおけます。
しかし、そう言った部屋は、無かったなぁ……そうだ、保安隊からテーブルを運びいれましょう。
他にも何か、必要な物がありましたら、何なりと言ってください。出来る限り、全てご用意しましすので」
「ご厚情、痛み入る」
そう言って一行は、宿屋に向かって、行ったのであった。
「ご厚情、痛み入る?ルタイ皇国の言葉は、意味が分からんな。
まぁ良い、おい!何人か見張りをつけておけ。
……連合軍が、近々演習を行うって話は、噂で聞いていたが、まさかこの近くだとはな」
そう言ってブルーノは、頭をポリポリとかいて、めんどくさそうに、部下に言ったのであった。
―――――――――
団蔵達が宿屋に入ると、受け付けには、1人の老婆が座っていたのである。
この魔女の様な、鼻が長い老婆が、入ってきた団蔵達を、睨み付けながら言ったのであった。
「何だ、客かい?」
「部屋は、空いているか?」
「こんな鉱山の村に、誰も来やせんて……6人か?」
「そうだ、出来る限り広い場所で、頼むよ」
「なら、一番上の三階を、全て貸し切りにすれば良いじゃろ。
1人80シリング、身体を拭くお湯は、1回10シリング、自分で井戸から水を汲むならタダだよ。
タオルは1枚3シリング、共有のタオルならタダだよ。
夕食は、この近くの酒場で食べな、朝食や昼食は、自分で何とかしな」
なんだ、この宿屋は?
いくら寂れた村でも、本国の宿屋はもっとマシだぞ……最低だな、ここは。
「分かった、それで良いだろう。
それと、後で保安隊が机を持って来るので、来たら教えてくれ」
「コールサービスは、1回2シリングだよ」
そんな事まで、金を取るのか?……仕方がない。
「分かった、良いだろう。おい、金を支払ってやれ」
「分かりました」
団蔵がそう言うと、女性の軍人が老婆に、482シリング支払ったのであった。
「なんだい、他はいらないのかい。じゃあ部屋は3階だ、鍵は無いから、貴重品が無くなっても、文句は言うんじゃ無いよ。
上に上がる階段は、そっち。3階の部屋は、好きに使いな」
老婆はお金を受け取り、言ったのであった。
しかし、案内も無しかよ。
そう思いながら、団蔵達は言われた様に階段を上がると、部屋は4つのみで、その一室からは、微かに殺気が、感じられたのである。
誰かいる!
そう思った団蔵達は、腰の刀に手をかけて、微かに扉を開けると、1人の忍がベッドに、座っていたのである。
「誰だ?」
そう言って団蔵が、中に入って言うと、忍びは手招きして、中に入って扉を閉めろと、ジェスチャーをしていたのであった。
これが、閣下の配下の忍なのか?
そう思いながら、団蔵は配下に目で合図をし、一行は警戒しながら、中に入り扉を閉めると、忍びは顔の覆面を、取ったのであった。
「すまねえな、驚かせて。俺が閣下の配下の忍だ。
ルタイ語も話せるから、こっちで話そうか。」
そう言って覆面を取って言ったのは、小次郎であった。
「閣下の忍だと、証明できるか?」
「まぁIDカードは、専用の偽造カードがあるから、見せても意味は無いからな。
……こんなので、良いかな?おっと、武器じゃ無いから、攻撃するなよ」
そう言って小次郎は、懐から印籠を取りだし、団蔵に放り投げたのであった。
三つ柏の家紋が入った印籠……佐倉家の家紋。
この状況では、これが一番の証明になるか。
「分かった、信じよう。
だがお互いの名前を、詮索するのは無しだ。こう言った仕事をしていたら、意味は分かるよな?
俺の事は、少佐で他の者は、階級で呼んでくれ」
「では、俺の事は、猟犬と呼んでくれ。俺は軍人では無いので、階級が無いんでな」
「分かった。では、俺達の任務は、子供達の救出と保護だ。
猟犬、お前の知っている情報を教えてくれ」
「この村から西に、馬で二時間程の距離に、鉱山が在る。この鉱山の救出対象は、38名。
夜、女は別々の建物に連れていかれ、犯され、男は殴られ、全員がバラバラになるので、全員を助け出すのは不可能だ。
助けるとしたら、鉱山で働かされている時に、制圧して救出するしかないな」
確かに猟犬の言う事は、最もだ……だが昼間の救出は難しい。
「見張りは、何人だ?」
「40人が10人ずつ、交代で見張っている」
「となると、弾正府と、タイミングを合わせての作戦になるな……見張りの食事は、子供達とは別か?」
「そうだ……と言うより、子供達のは、食事と呼べる代物では無いがな」
「少尉、猟犬から食堂の場所を聞いて、遅延性の痺れ薬を入れるのは、可能か?」
団蔵からそう言われた、少尉と呼ばれる女性は、暫く考えて言ったのであった。
「おそらく可能です。でも何で、痺れ薬ですか?毒なら早いのに」
「万が一、子供達が口にしても、大丈夫な様にだ。
猟犬、弾正府軍が来たら、見張りは、痺れて動けないが気を抜くなと、その様に伝えろ。
俺達は弾正府軍が、踏み込むのと同時に、子供達を保護して、坑道内部に立て籠る。
他の者は、地図を作成して、目眩ましだ……子供達を、全員無事に助けるぞ」
『はっ!』
そう言った忍び達は、各自の仕事に取り掛かったのであった。
この少佐、確か戸隠の上忍の長谷川 団蔵だよな。
あえて目立つ服装で、居場所を保安隊に教える事で、見張りに、この宿屋に注意を引かせて、裏で諜報活動をし、作戦を瞬時に組み立てる……良い忍じゃないか。
そう思いながら小次郎は、姿を消したのであった。
そして、この日から連合軍は、各地の目標に向かって一斉に動き出したのである。
もちろん初の大規模、軍事演習の名目であったが為に、誰も疑わなかったのであった。




