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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
95/464

イリナ后妃

 


 翌日の夜、左近の邸宅に一台の馬車がやって来た。

 乗っているのは、セレニティ帝国皇帝、ラニス・ナッシュ宰相、ウォーラン司法長官の三人である。

 三人共、これから屋形船での宴を、左近に誘われてやって来たのだが、その表情は何処か暗かったのであった。

 理由はもちろん、イリナ后妃が北方教会の信徒であった為に、何とか改宗させようと話し合ったのだが、結局結論は出なかったのである。

 そこで三人は、この事を知る、唯一の外部の人間である左近に、相談しようと言う結論に、至ったのであった。


 三人を乗せた馬車が、左近の屋敷の玄関に停車し三人が降りると、整列したメイドや使用人の歓迎を受けて、バスティがやって来たのであった。

「ラニス陛下、御久しゅう御座います」


「おおバスティ、息災であったか?」


「はい、おかげさまで。そちらに居られますのが、ナッシュ宰相様に、ウォーラン司法長官様ですね。

 私、佐倉家のバトラーをさせて頂いております、バスティアンと申します。バスティと御呼びくださいませ。

 さっ、御館様が御待ちです、こちらにどうぞ」

 そう言ったバスティは、空間転移を開いて、三人を左近のいる屋形船に案内したのであった。



「ようこそ、来てくださりました。ささ、どうぞお座り下さい……あ、靴下は脱いで中に入って下さいね」


「おお、また堀ごたつに、足湯か。元帥よ、やはりこの組み合わせこそ最強だな」

 そう言ったラニスは、先程までの馬車の中での、暗い顔は無くなり、喜んで靴下を脱いで、堀ごたつに入ったのであった。


 ここは、ルタイ皇国の部屋か?しかし、この部屋暖房器具が、無いのか?

 そう思いながらもナッシュは、靴下を脱ぐと堀ごたつに入ったのであった。


 ……チャポ

 お湯?

 そう思ったナッシュが、こたつ布団の中を見ると、中にはお湯が入っており、その下には、炭が赤く輝いていたのであった。


 なるほど、これで中が温かいのか。

 これならば、身体の芯から暖まるな。

 そうナッシュが思っていると、左近が障子を開き、夜の暗い湖に浮かぶレイクシティの、夜景の光が一面に広がったのである。


 何と!ここは、湖の上に浮かぶ船の中だったのか!

 ナッシュがそう驚いていると、ラニスは大いに喜び言ったのであった。

「おお!元帥これは、素晴らしい景色じゃの。

 ……しかし元帥よ、この素晴らしい景色を、男だけで楽しむのは、少々味気が無いの」


「そうですね。では、早速にでも、呼びましょうか、旨い魚に酒、そして美しい女性を」

 そう言った左近が空間転移を開くと、中から料理や酒を持った、和服姿のクロエと蘭とヴィオラが入って来たのであった。


『おお!』

 思わず言った三人の言葉に、左近は気を良くしていた。


 そりゃ綺麗だろう。

 何せ西陣の、最高級の着物だ……経費で落とす事が出来ずに、俺のお小遣いが10年間無し、ってアイリスに言われたけど。

 こう言ったリアクションが無ければ、報われねえよ。

 そう心の中で左近は涙しながら、三人に言ったのであった。

「こちらの女性は、我が自慢の秘書、クロエ・マイスナー少佐、八坂 蘭大尉、ヴィオラ伍長で御座います。

 どうか今宵はお楽しみ下さいませ」

 その左近の言葉を皮切りに、四人は乾杯し、宴が始まったのであった。



 ――――――――――――――――――



 四人は楽しく飲んでいたのだが、ふと会話が途切れた時に、ナッシュが左近に言ったのである。

「元帥殿、そろそろ、この宴の本題に入らんか?」


「本題に?」


「この屋形船と言うのは、密談にはもってこいの場所だ。それに、居るのは、元帥殿が信頼している秘書の者達。

 そして、この船を操っているのは、水軍の中でも一番信頼の出来る者だろう。

 元帥殿の事だ、ここまでするのには、何か訳があっての事だろう?」


 さすがは、宰相と言ったところか。

「お見事です宰相殿、先ずはこちらを、御覧ください」

 そう言った左近が、クロエ達に目で合図をすると、クロエ達はガストン商会についての報告書を、三人の前に静かに出したのであった。


「これは?」

 不思議そうにラニスが言った。


「ガストン商会についての報告書です……まぁ読んでください」

 そう左近に言われて、三人が報告書に目を通すと、三人の顔色が徐々に、青ざめて言ったのである。


「こ、これは本当の話か?」

 そう言ったラニスに、左近は真剣な眼差しで、言ったのであった。


「本当です。最初は偶然でした……新兵器の為、安定した鉄の確保の為に、鉱山の購入を考えていた時に、ラボック鉱山の話が舞い込んで来ました。

 しかし値段があまりにも安い。そして、以前の所有者がガストン商会であった為に、怪しいと思いまして、ノイマン大佐とマクレガー大佐を調査に送った所……これも偶然なのですが、テトと言う、ラボック鉱山から逃げ出した少年を救出し、この鉱山の事を聞きました。

 そこで、我が手勢で調べた所、このガストン商会の計画が、発覚したのです」


「なるほど……これで元帥殿が何故、他の者の信仰を気にしていたのか、合点がいきました。

 しかし、この報告では、裏で糸を引いているのは、北方連合(ノース・ユナイテッド)……最悪は戦争になりますね。

 元帥殿、正直に答えて欲しい。北方連合(ノース・ユナイテッド)と戦争して勝てる確率は?」

 ナッシュが左近に言うと、左近は暫く黙り、ゆっくりと答えたのであった。


「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。

 敵味方の実情を知っていれば、例え百戦やっても勝てると言うことです。

 ですが、今回は北方連合(ノース・ユナイテッド)の情報が全く無いのが現状です……ですので、勝てる確率は、五分と五分ですね。

 ですが、三年ほどの猶予を頂ければ、確実に勝てるでしょう」


「元帥殿ほどの、知略をもってしてもか?」


「はい……ですが、三年耐え抜けば、戦は勝てるでしょう、新兵器の手によって。

 しかし、これは最悪のシナリオと言う事に、しなければなりません」


「他に、何か策があるのか?」

 そう言った、ラニスの目が怪しく光ったのであった。


「御座います。

 何も東部連合だけで、北方連合(ノース・ユナイテッド)と戦争をする必要は御座いません。

 むしろ他国と戦争をさせて、時間を稼ぎ、弱った所を叩けば良いのです」

 そう言った左近は、悪魔の様な笑みで言ったのである。


 そんな事が、出来るはずがない。

 その場にいた者は、一瞬誰もがそう思ったのだが、左近の悪魔の様な笑みを見て、誰もが出来るんじゃないかと言った思いになったのであった。


「しかし評議会の方は、どうしますか?

 この件は、下手をすれば、北方連合(ノース・ユナイテッド)と事を構える恐れがある為に、帝国の一存では決めれません。

 必ず、評議会の賛同を得る必要が、あります」

 そう言ったのは、ウォーラン司法長官であった。


「では、こうしましょう。

 私が、各国の元首や評議会の議員を招いて、新兵器の御披露目をやります。

 それならば、戦争になっても、皆が勝てると思うでしょう。

 そしてその場で、この件を話せば宜しいかと。

 それに今回の件は、保安隊も絡んでいます、弾正府に要請するのが宜しいでしょう」


「ふむ…だがそれでは、帝国の面目が立たんな。ウォーラン、信頼の出来る者を集めて、弾正府と合同で取り締まりと言った形にせよ。

 今回は、取り締まりの人数が多い、それぐらいは出来るじゃろ」

 ラニスにそう言われたウォーランは、頷いたのであった。


「しかし、問題は后妃様の件ですな……」


 確かに、宰相殿の言う事は分かる。

 どうするかだが、この件で一番有効なアイリスは、今は妊娠中で、この件を話せば、ヒメネスの事を話さなければならない。

 それは、お腹の子供にも、影響が出てしまう可能性だってあるので避けたい。

 どうしたものか……

 そう思っていると、ナッシュが何かを思い付いた様に、左近に言った。

「元帥殿、助けた子供はどうなっている?」


「最初の1名と、後で救出された3名は、軍の担当医になっている、ルゴーニュ村のドミニクが診察し、只今は、入院しております」


「ふむ…陛下、ここは后妃様に、子供の現状を実際に見てもらい、陛下自ら御説明されるのが、宜しいかと思います」


「ワ、ワシがか?」


「はい。陛下の御言葉でしたら、后妃様はすんなりと聞くでしょう。

 名目はそうですね……救出された子供達に、陛下と后妃様が慰問されると言うのは、如何でしょう?

 後で后妃様に知られると、後々面倒な事になり、后妃様も前もって言われた方が、心の整理も出来るでしょう」


「それは、仕方ないの」

 そう言ったラニスは、仕方がなく了承したのであった。


 そうだ、これはアイリスにも言える事だ……やはり、言うべきなのか。

 今晩にでも、三人に相談してみるか。

 そう思っている左近に、ラニスが言ってきたのであった。

「では、元帥も一緒に行こうかの?」


「え?自分ですか?」


 そう言って驚く左近をナッシュは、庇うかの様に言ったのであった。

「それは、ダメですよ陛下。

 元帥殿は、ルタイ人です、后妃様が恐れるかも知れません。

 元帥殿、出来れば警護は、帝国人で御願いしたいのだが」


 帝国人で……魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)を出すか。

「分かりました、魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)を陛下の警護につけましょう」


「おお、彼女達なら心強い。では元帥殿、頼んだぞ」


 おっさん、鼻の下が伸びているぞ。

「かしこまりました」

 そう言って左近達は、詳しい日程を決めたのであった。



 ――――――――――――――――――



 その日の深夜、左近が皆が、既に寝てると思って風呂に入り寝室に行くと、ラナ達はまだ、起きており、キングサイズのベッドの上で会話していたのであった。

「お前達、まだ起きていたのか?」


「うん、何だか眠れなくて」

 そう言ったラナの口には、明らかに、何かおやつを食べたであろうカスが、付いていたのであった。


「ラナ、お前こんな時間から食べたら太るぞ」


「ウゲ、マジで……そう言えば最近は、二の腕がプニプニしてきた様な気がする」

 ラナがそう言うと、セシルとセシリーも、二の腕をチェックしだしていたのである。


 ……コイツら三人共、食べてたのか。後でお仕置きだな。

 それより、アイリスの事だ。

「所で三人に、話がある」


 左近にそう言われた三人は、ベッドの上で左近に注目したのであった。

「実は、帝国で、身寄りの無い孤児を、奴隷契約をしないで無理矢理、働かせている鉱山がある。

 そこの子供達は、夜になると女の子は、無理矢理に売春を強要され、男は腹いせに、殴られ蹴られているらしい。

 更に大人になると厄介だから、13歳になると、殺されている様だ」


「ひ、酷い……」

 そう言ったセシリーは、涙目で言ったのであった。


「確かに酷いよな……更にその利益を、北方教会に流して、帝国を北方連合(ノース・ユナイテッド)に編入させる軍資金にしている様だ。

 知っているかも知れんが、北方教会は、大陸の人間のみを優良種とし、それ以外は、殺して全て駆逐する事を、目的にしている宗教だ」


「……そんなの、もちろん潰すよね」


「ああ、セシルの言う通りだ、もちろん潰す。

 だがな、問題があって、その鉱山を運営しているのが、ガストン商会で、ヒメネスが最近ガストン商会の会頭になり、その鉱山の責任者になったんだ」

 その左近の言葉に、三人が絶句したのであった。


 ヒメネスは、アイリスの父親のエリアスと、クリスの母親のアミリアの幼馴染と言うのは、誰もが知っている事だったからである。


 だが左近は、そのまま説明しだしたのであった。

「ヒメネスの真意は、まだ分からないが、ヒメネスも逮捕する予定だ。

 もちろん、今回の件が終わるまで、義父上とアミリアと三好准将の三人は、ゲートの使用禁止と、忍の監視下に、既に入ってもらっている。

 これは既に三人には伝えてある。

 そこでアイリスに、この事を伝えて良いものか、悩んでいるんだ。

 伝えて、お腹の子供にも、影響が出るかもしれない。でも後で知ってしまえば、悲しみは更に増すだろう。

 そこで俺は、今回の件を伝える事にした……出来ることなら、皆でアイリスのフォローをしてやって欲しい、頼む」

 そう言った左近は、ラナ達に頭を下げたのであった。


「……分かったけど、何だかムカつく」


「そうだよね、アイリスだけ、何でこんなにも、良くしてもらえるんだろ」

 そう言ったセシルとセシリーの瞳は、嫉妬の炎が立ち上っていたのであった。


「い、いや、そう言う事じゃ…うわ!」

 そう言いかけた左近は、ラナに押し倒されたのであった。


「ラ、ラナさん?」


「何かをしてって、報酬は?……まぁ身体で払ってもらうから良いけど」


「いや、ラナ、それは男が言うものだろ!」


「……今夜は、寝させないよ」


「セシル、それも男が言うものだろ!」


「大人しくしてれば、良いからさ」


「こら、セシリー、オヤジになっているぞ」

 そう言った左近の抵抗むなしく、左近は残弾数が無くなるまで、三人に搾り取られたのであった。




 ――――――――――――――――――




 翌日、左近はアイリスを呼び出し、二人で庭園の森の中を歩いていた。

 ただ何も言わずに、アイリスの隣を歩く左近であったが、その重い口を開いたのであった。

「なぁアイリス……帝国で今、ある事件が発生している……その……何だ……」


 そう言って、言いにくそうにしている左近を見て、アイリスはクスクスと笑って言ったのであった。

「珍しいね、あなたがそんなにも、言いにくそうにするなんて。

 普段なら、何でも言ってくれるのに……私の事なら大丈夫。

 兵庫が言ってたじゃない、「義父上の血は、鬼の血だ」と……だから、私は思ったの。鬼の左近の妻なら、私も鬼になるって。

 例え父上を殺す事になっても、私はあなたの味方……この先、何があっても、私はあなたの側に居るから。

 だから話して」


 やはり、帝国最強の剣士と言われ、常に最前線で戦ってきた、エリアス・ノイマンの娘だ。

 そう思った左近は、アイリスに帝国の事件を、語りだしたのであった。




 そして、全てを左近から聞いたアイリスは、少し驚きながらも目を閉じて言ったのであった。

「あなた、ヒメネスのおじさんを殺すの?」


「……それは、アイツの行動次第だ。抵抗しなければ、そのまま裁判にかける事になる」


「では、正直に答えて。あなたが見ている、その先は何?

 あなたは、ヒメネスのおじさんを、全く見ていない……何か別の目的があるでしょ?」


 意外と鋭いな。

「そうだな、目標は北方教会の壊滅だな。

 宗教ってのは、かなり厄介だ。前の人生でも、一向一揆と言うのがあって、そのおかげで10年以上も戦があった。

 この世界で、同じ様な泥沼の戦は、避けたい……生まれてくる、子供の為にもな。

 それにな、北方教会を狙うのは、北方教会が一番厄介な、相手だからだ。

 あの様な教団の教えは、俺は認める訳にはいかない」


「それでは、戦争を起こすので?」


「いや、何でも戦争で解決するのは、下策中の下策だ……かと言って、戦を恐れていては、何も出来ない。

 それにな、北方教会と言っても、所詮は人の集まりだ。

 綺麗事を言っても、汚い所を宣伝すれば、今まで言っていた分、人は幻滅し、離れて行くだろう。

 そうなれば、我等は戦わずして、北方教会の崩壊を見物する事になる」

 そう言った左近は、悪魔の様な微笑みを、見せていたのであった。


「……本当に、この顔さえしなければ、良い男なのにね。

 今のあなたは、どちらが悪魔か分かりませんよ」


「嫌いになったか?」


「さぁて、どうでしょうね……でも今は、抱き締めて下さい」

 そう言ったアイリスは、やはりヒメネスの事が辛かったのか、左近の胸で声を殺して泣いたのであった。




 ――――――――――――――――――




 その頃、ルゴーニュ村には、ラニスと子供を乳母に預けたイリナと、二人を警護するガブリエラに率いられた、魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)がいた。


 ガブリエラは、朝に出勤すると、左近からこの警護の話と、今回の目的を聞くと、怒りで我を忘れそうになったのだが、顔に出すこと無く我慢し、了承したのであった。


 今回、団長がレイクシティに軟禁状態になったのは、聞いていたが、これが原因だったとは……

 そう思いながらガブリエラは、二人の後に続き、診療所の中に入ったのであった。



「失礼します」

 そう言って中に入ると、シャノンが三人を出迎えたのである。


「これは、リルソー少佐。本日は、どうされましたか?

 緊急の患者以外は、全て午後からの検診となりますが……それに、表の騎士の方達は?」

 シャノンがそう言うと、イリナは虎人(ウェア・タイガー)のシャノンが恐いのか、少し後ずさりをすると、シャノンはまるで「恐くはありませんよ」と言わんばかりに、イリナに微笑みかけたのであった。


「こちらは、セレニティ帝国ラニス・セレニティ皇帝陛下と、イリナ后妃様です。

 本日は、例の子供達の慰問にやって参りました……よろしいですか?」


「そうですか……ですが、初めて見る人には、結構キツいと思いますが」

 そう言ったシャノンは、明らかに、その表情を曇らせたのであった。


 何だろうか?夫からは、子供の慰問でここに来ると、聞いただけだが、何があるというのだろう?

 それにここに居ると言う事は、ルタイ人のはずでは?

 そう思っているイリナの前でラニスが言ったのであった。

「問題無い。そういう時に、少しでも子供達の力になってやるのも、皇帝の仕事じゃ。

 例え何歳であろうとも、帝国の臣民には、変わりは無いからな」


「さすがは、皇帝陛下。そのお考えは、御立派です……では、こちらにどうぞ」

 そう言ってシャノンは、三人を病室に案内したのであった。



「陛下、子供達ってルタイ人なのでは?」

 病室に向かう途中に、イリナは小声でラニスに聞いたのであった。


「それが違うんじゃ……帝国の臣民で、元帥の配下の者が保護して、ここに連れて来たのじゃよ」

 そう言った時であった、奥の病室から、子供の呻き声が、聞こえて来たのである。


「な……」


 驚いたイリナに、シャノンは暗い顔で言ったのであった。

「この様な季節で無ければ、無事だったのですが……」


「シャノンと言いましたね、子供は無事なのですか?」


「……命だけは、無事です。ですが寒い山の中に居たようで、片足が寒さで腐ってきており、魔法や医術で治療する事すら出来ずに、切断する事になりました。

 おそらくは、切断した所が、痛み出したのでしょう……痛みを無くす薬や、魔法があれば良いのですが」

 そう言ったシャノンは、何とも言えない表情になっており、その悔しさがイリナには、痛いほど良く分かったのであった。


「こちらです」

 そうシャノンに言われて中に入ると、病室のベッドには、痩せ細った四人の子供がおり、その内の二人は、片足が無くうなされていたのであった。


 その光景を見たイリナは、いつの間にか涙が溢れて、ただ立ち尽くすしか無かったのだが、ラニスはイリナの背中をポンと軽く叩き、うなされている子供の元に行き手を握ると言ったのであった。

「大丈夫だ、ここはもう安全だ……お前達の無念は、ワシが晴らしてやる。

 だから傷は痛むだろうが、今は頑張って我慢してくれ……すまん」


 そう言ったラニスに、テトが近付き言ったのである。

「お爺ちゃん、誰?」


「お、お爺ちゃん……」

 そう言ったイリナをガブリエラが、制すると、ラニスはテトに笑顔で頭を撫でながら言った。


「ワシは、ラニスと言う。お爺ちゃんでも、かまわんよ」


 そう言うラニスを見て、イリナも何とかしなければ、と言った気持ちになったのか、ラニスに言ったのであった。

「陛下、見ればこの子達は、身寄りの無い子供達の様ですので、この子達を北方教会の孤児院に移してはどうでしょう。

 ここよりは、設備が整っておりますので、子供達にも良いことだと思います」


 イリナがそう言うと、テトの顔に明らかに恐怖の色が見え、ラニスは言うなと言わんばかりに、イリナを睨み付けたのである。


 な、何でそんな顔に?

 ……他の子も皆が、脅えている……まさか、この子達は、北方教会の孤児院の子供達なのでは?

 いえまさか、教会がその様な事をするハズが……

 そう思っているイリナに、ガブリエラが耳元で囁いたのであった。

「后妃様、ちょっとよろしいですか?」

 そう言ってガブリエラは、イリナを部屋の外に連れて行ったのであった。



 ――――――――――――――――――



「どうして、あんな目で陛下は私を見るのよ!

 子供達も子供達です、何で私に脅えるのですか、こんなにも、心配してあげているのに!」

 そう言ってイリナは、別室に入るなり言ったのであった。


 まさか陛下は、后妃様にまだ言ってなかったのか?

 そう思いながらガブリエラは、イリナに言ったのであった。

「后妃様、陛下から前もって、何も聞かれて無かったのですか?」


「私が聞いたのは、今日は孤児達の慰問だと聞きました……違うのですか?」


 あのバカ陛下……しょうがない、フォローするか。

「大体は、あっておりますが、内容までは御存知無い様ですね……もしかして、后妃様は北方教会の信者ですか?」


「……そうですけど」


 なるほど、それでは、陛下は言いにくいよな。

「なるほど、これで陛下が、后妃様にあまり詳しく言われなかったのか、分かりました。

 実は、あの子達は、北方教会の孤児院に集められ、鉱山で奴隷契約せずに、強制労働をさせられていた子供達で御座います。

 そこの子供達は、昼は鉱山で働かせて、夜は女の子は性の捌け口に、男の子は日頃の憂さ晴らしに殴られていたそうです。

 そして、13歳になった子供は、全て殺されていたそうですね。

 その鉱山から、逃げ出した子供が、あの子達なのですよ」


「そんな話は、とても信じられません!」


「でしょうね……おそらくは、陛下も后妃様が、そう思われると思い、言わなかったのでしょう。

 でも、あの子供達の恐怖で凍り付いた目は、后妃様も御覧になられたでしょう?

 あの目が真実だと、物語っております」


 そう言われると、イリナは反論出来なかったのであった。

「では、ナリヤにいる大司教様に……」

「それだけは、なりません。

 聞けば、やっていないと言われ、鉱山に残っている子供達は皆殺しになり、北方教会は更に分かりにくいやり方で、金儲けをするでしょう。

 后妃様は、百名近くの子供達の命を見殺しに、したいのですか?」


「そんな……では、北方教会は、何でこんな事を、やっているのです?」


「目的は、帝国を北方連合(ノース・ユナイテッド)へ編入させる事だそうです。

 おそらくは、儲けた金で、信者を増やすのに使い、そしてその民衆の力で、編入させるのでしょう。

 閣下が言われていたのですが、敵国の民を焚き付けて、敵国を滅ぼす……ルタイ皇国でも使われていた、戦術だそうです」


「編入ですか……それが民の望みならば、良いのでは?」


「后妃様の言われる民とは、そこに亜人や獣人は、入っていますか?

 魔法を使える者は、入っていますか?」


「その様な者は、悪魔の使いですので、民とは言えません」


 これは、最悪だな。

「その様なお考えでは、帝国の后妃様は、勤まりません。

 それに我等、魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)の騎士達も……后妃様は、悪魔の使いと思われている様ですね」


「そんな事は……」


「我等、魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)の者達は全員が、魔導剣士です……魔法が使えるのですよ」

 その言葉にイリナは、何も言えなくなっていたのであった。


「それに后妃様は、御自身の命ばかりか、ラニス皇帝陛下と、御子息のクラウディオ様の命は、いらない様ですね」


「何で、その様な話になるのですか!」


 思わずそう叫んだイリナに、ガブリエラは静かに言ったのである。

「帝国が編入されて、皆が無事で居られると思いますか?

 北方連合(ノース・ユナイテッド)は教皇や王族に至るまで、ベイル家が独占しております……帝国が編入すれば、ベイル家では無いセレニティ家は、邪魔でしか無いでしょう。

 そうなれば、悪魔の使いとして、殺すのが、一番手っ取り早い……

 最初の教えは、素晴らしい物だったかも知れませんが、北方教会の信者では無い私から見れば、今の北方教会は最早、ベイル家の政争の道具でしか無いように見えます」


「少佐は、私に改宗しろと言っているの?」


「いえ……ただ、私は多くの戦場で生き残る為に、物事を出来る限り、客観的に見る様にしてきました。

 戦場では、情報が命です、そこに神の力も、信仰心も必要ありません。

 己の力と情報の分析力、そして決断力のみが必要です。

 これが私が今まで生き残って来た秘訣です…これは、后妃様にも、必要なのでは御座いませんか?」


「どういう事ですか?」


「私が言いたいのは、セレニティ帝国の后妃様であるからには、貴女お一人の命では無いのです。

 貴女の他愛ない一言で、多くの罪も無い者が、苦しむ事も死ぬ事も有り得るのです。

 后妃様と言うお立場は、それほど重いのですよ……毎日生き残る為に、民を殺さぬ様に、幸せにする為に、必死にならなければなりません。

 これは、戦場で私が取る行動に、通じる物があるのでは?」


 ガブリエラにそう言われたイリナは、目に涙を浮かべて言ったのである。

「私は、元はただの村長の娘です……たまたま、好きになった人が皇帝になっただけで、何でその様な重責を背負わなければ、いけないの?

 私は、ただ好きな人と、一緒になりたかっただけなのに」


 この人は、弱いな……だが、民の心が分かる后妃様に、化ける可能性もある。

「后妃様、その御気持ちは分かりますよ。

 でも、北方教会の言う様に、亜人達や獣人達、更にルタイ人は、どうでしたか?悪魔の使いと思えましたか?」


「正直に言いますと、最初は恐かった……幼き日より、両親から、その様に教えられて、育ちましたし。

 でも、両親は殺されて、命を狙われている時に、私達を助けてくれたのは、ダークエルフのアデルと、ルタイ人のジャックでした。

 そして、レイクシティで匿ってくれたのは、ルタイ人の元帥殿でした……私は、悪魔の使いに命を救われたのでしょうか?

 アイリスの、あの幸せそうな顔を見ていると、何が正しくて何が間違っているのか、本当に分からなくなるのです」


「これは、ルタイ人の考えで……いや、佐倉家の理念ですが、大一大万大吉と言った理念があります。

 一人は皆の為に、皆は一人の為に行動すれば、世の中は平和となると言う、意味だそうです。

 それに閣下は、敵味方関係無く、戦で亡くなった者の為に、祈る石碑も作りました……私は本来、宗教とは、そうあるべき物だと思います」


「……ルタイ人の教えでは、そうなのですか?」


「正確に言うと、違うそうですよ。

 現に閣下は、どの宗教も信じてはおりません……おりませんが、自分の中の正義は、しっかりと持っております。

 一度その事を、お聞きした事があったのですが、これは義と言う考えらしいのです。

 后妃様も、北方教会の教えに、ただ従うだけでは無く、御自身の義を貫かれては、如何でしょう?」


「それは、改宗しろと?」


「違いますよ。先程も言った様に、ベイル家の都合の良い教えでは無く、御自身が考え、御自身の正義を貫けば、よろしいのです」


 ガブリエラにそう言われたイリナは、暫く考えて、言ったのであった。

「……分かりました、少佐の言う通りにしましょう。

 所で先程の子供達は、これから、どうなるのでしょうか?」


「おそらくは、ナッソーのルタイ人の宗教施設、泉龍寺に在る、孤児院に引き取られるでしょう。

 彼処は、宗教施設と言っても、自分達の教えを、無理に押し付けませんし、他の神を信じていても、自由ですので。

 それにそこの司祭様、ルタイ皇国では、和尚様と言うのですが、和尚様も優しい人なので安心して、任せられます」


「そうですか……少佐、まだ子供達は、百名近く居ると言いましたね?」


「はい」


「では、私はその子供達が、安心して暮らせる孤児院を作ります。

 北方教会に頼らない、私独自の孤児院です……そのルタイ皇国の孤児院の様に、自由な孤児院です」


 ……この人は、素晴らしい后妃様に化けそうだな。

「それは、善きお考えに御座います」


「では、その事を陛下に話に行きましょうか」


「はい」

 そう言ってイリナは、ラニスに、自身の考えを伝えに行ったのであった。


 こうして、ルゴーニュ村に帝国が出資する孤児院が、後日作られる事になったのである。

 何故ルゴーニュ村に作られたかと言うと、ルゴーニュ村は現在ルタイ皇国の領土となっている為に、ルタイ人は悪魔の使いと言っている北方教会は手を出せないし、ガストン商会や他のマフィアも、ハンザ商会の縄張りであるヴァルキア地方に、手は中々出せないのであったからである。


 そして、孤児院は、イリナ后妃の方針で人間、亜人、獣人と分け隔て無く受け入れたのである。

 これが、イリナの見せた義であった。



 ――――――――――――――――――



 そして、その翌日、佐平次は左近に呼び出されて、左近の執務室に来ていた。

 左近からの呼び出しとは、嫌な予感しかしない。

 そう思いながらも佐平次は、ソファーに腰掛けて待っていると、遅れて左近がクロエを連れて、執務室にやって来たのであった。

「いやぁ、すまんな佐平次、呼び出しておいて、遅れてすまんな。

 ちょっと弾正の所に、新兵器の打ち合わせに、行っていたのでな」


 新兵器?何だろうか。

「大丈夫ですよ、そんなに待ってませんし。

 それより、新兵器って何ですか?」


「新しい飛び道具だな。それをお前の所の聖龍騎士団と魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)を中心に装備させる。

 所で飛竜(ワイバーン)はどうだ、使いこなせそうか?」


「馬とは違い、難しいですけど、何とかなりそうです。

 新しい騎士の補充は、4月でしたっけ?それまでには、何とかなりそうですね」


 そう言うと左近は、少し顔をしかめて言ったのであった。

「遅いな……今月中に何とかしろ。

 来月の3日には、新兵器の御披露目をやる。その御披露目に、お前も新兵器を各国の元首や、評議会議員の前で披露してもらう」


「あんた、なに無茶苦茶な事を、言っているんですか!

 飛竜(ワイバーン)って、かなり繊細で信頼関係が無いと、言う事を聞かないんですよ!」


「お前、一応俺は上官だぞ。お前は無いだろう……まぁ佐平次だし良いけど」


「すみません……」


「良いさ。

 まぁこれには、急がねばならん訳があってな……お前の妻のジャリにも、関係しているんだ」


 そう言われた佐平次は、少し不安になりながらも言ったのであった。

「クリスに?」


「そうだ。

 実は、帝国で奴隷契約がされていない子供達が、強制労働させられている事件がある。

 それをやっているのが、ガストン商会で責任者がヒメネスなんだよ。

 裏で糸を引いているのは、北方教会で目的は、帝国の北方連合(ノース・ユナイテッド)への編入らしい」


「そ、それって……」


「ああ、立派な反逆だ。

 だが取り締まれば、最悪は北方連合(ノース・ユナイテッド)との戦になる。

 だから新兵器を御披露目して、そのままこの件を評議会にかける。

 そうすれば、北方連合(ノース・ユナイテッド)との戦になっても、大丈夫と思い、取り締まりに評議会は賛成するだろう」


「……なるほど、それで全て合点がいきました。

 最近は義母のマクレガー大佐が、家でかなり落ち込んでおり、クリスが聞いても、教えてくれなかったのです。

 しかし、問題はクリスですね……」


「そうだな……お腹に、子供がいるからなぁ。

 そうだ、アイリスから言ってもらおうか?二人は幼馴染だから、何とかなるだろう」


 確かに、閣下の申し出はありがたい……だがこれは、夫の務めだ。

「いえ、これは夫が、言わねばならない件です……私にお任せ下さい」


 こいつ、変な所で、男気を見せるんだよな……大丈夫か?

「では、伝える時は、一応アイリスも側に居させよう、それで少しは慰めになるだろう」


「お心遣い感謝します、ではその時はお願い致します」

 そう言った佐平次は、左近に頭を下げたのであった。




 この日の夜、左近とアイリスは、マクレガー邸に行くと、クリスティーナに事件の内容を、説明したのであった。

 あのアミリアが、寝込んでしまった為に、何かあったと、薄々感じていたクリスであったが、ヒメネスがその事件に関わっていると言う事に、大きく泣き崩れ、何度も佐平次を叩きながら、その胸で泣いたのであった。


 こうして、それぞれの思いを乗せて、新兵器の御披露目が始まったのである。





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