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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
94/464

二人の覚悟

 



 東暦2年1月18日。

 執務室の左近の元に、蘭が報告を念話で受け取り、クロエが纏めると言った形で、連日の様に、ガストン商会についての報告が、寄せられていた。


 その為か、蘭はこの件に関して、ガストン商会と北方教会に、かなりの嫌悪感を覚え、左近も腸が煮え繰り返る思いで、報告を聞いていたのである。


「左近よ、どうするこれ……酷すぎるだろ」

 そう言ったのは、左近の執務室に来ていたママであった。


 報告書には、シクサ村の北方教会のジューク・ホアキン司祭が中心となり、孤児を集めて、貴族に養子に出すと言って、子供達を人数の少なくなった鉱山に送り込む。

 そして、鉱山で強制労働で働かせて、その利益の殆どを、教会に渡す流れになっていた。

 子供は13歳になると殺され、近くの村の保安隊は、全て買収済みであり、子供が逃げ出したラボック鉱山は、逃げ出した子供を捕まえて殺し、証拠は全て破棄し売りに出されていたのである。

 そして、売りに出した鉱山は、誰かが購入すると、ガストン商会や買収された保安隊が襲撃し、購入者を追い出し、また事業を始めると言った、一種の目眩ましの方針を取っていたのであった。


 更に報告書には、ラボック鉱山から逃げ出した子供を、新たに3名救出しルゴーニュ村に搬送したと書いてあった。


 左近は、怒りを我慢しながら言った。

「ああ、これは酷いな……だが、一番の懸念は、このヒメネスが、ガストン商会の会頭になって、最近この事業を仕切っていると言う事だな」


「左近、どうする?あの二人は、絶対に邪魔しに来る。現にジャックの所にも、来た様だしな」


「ヒメネスを、殺さないでくれって頼みか……まぁ今は殺さないのは、正解だな。

 ヒメネスの様な幹部がいきなり死ぬと、怪しまれる可能性がある。今は泳がすのが正解だ」


「ふぅん、そんなもんかね。まぁこう言った事は、あんたが得意だろうから、あんたに任せるよ。

 でもな、奴等を潰す時は、私も一枚噛ませてくれよ」


「……何だよ、報酬狙いか?」


「バカ言うな。今回はタダで動いてやる、個人的な怨みが有るからな」


 ママの個人的な怨み……聞いてみるか。

「ママ、信用していない訳じゃ無いが、個人的な怨みって何だよ。

 場合によっては、この件から外れて、もらうかも知れん」


 左近がそう言うとママは、フゥと葉巻の煙を吐いて、天井を見ながら言ったのであった。

「……誰にも言うなよ」


「ああ」


「北方教会は、私の親の仇だ。

 私はね、デュラン王朝の伯爵家の娘だったんだよ……でも、お父様がミーア・キャットのお母様と結婚して出来たのが私さね。

 北方教会では、亜人や獣人は悪魔の使いで、殺さなければならない……その配偶者もね。

 で私のヴィシュク家は、教会と領民によって焼き討ちされて、私だけが逃げれた。

 どうする、私を外すか?」


「その話が本当って証拠は?」


「証拠ね……ミャ~オ。これで信じたかい」

 そう言ってママは、猫耳と尻尾を出して言ったのであった。


 ヤ、ヤバかった、不意にやられて、思わず可愛いと思ってしまった。

 ダメだぞ俺。これは食虫植物だ、手を出したが最後、逆に殺されるぞ。

 そう思いながら、平然とした顔で左近は言ったのであった。

「分かった信じよう。

 もちろんママには、好きな持ち場を選ばせてやろう。そこまでの怨みが有るなら、失敗する事は無いだろう。

 でも、これだけは覚えておいて欲しい。

 出来るだけ殺さずに、帝国の法の裁きを受けさせるんだ」


「……何だと?」

 そう言ったママは、左近を睨み付けたのであった。


「ママの目的は。そんな一地方の信者の皆殺しか?違うだろう?

 もっと先を見ろ。この件を利用して、大陸中に宣伝すればどうなる?」


「そりゃ、教会の信用は地に落ちるだろうね」


「それだけじゃ無いさ、下手すりゃ教会に属する国と、その他の国の戦争になる……もちろん俺達は……」

「教会に敵対する側だね」


「分かってくれたか?」


「ハハハ!あんた達親子は、本当に面白いよ。

 ……その話乗った、何年かかっても良い、必ず教会と戦争を起こして、潰してくれ」

 そう言ったママの目には、復讐の炎が燃えていたのである。


 本当にこの人達って、悪党なのか何だか分からないよね……何が正義とかは、全部自分基準だし、自由に生きているし。

 私も自由に、閣下に、この想いをぶつけたら、受け入れてくれるかな……ダメダメ、何を考えているのクロエ!

 そう思いながらクロエは、一人で顔を赤くしていたのであった。


 クロエは、何やってるんだ?

 そう思いながら見ている左近に、ママが言ってきたのであった。

「左近、クロエの処女を奪ってやれよ」


「え?」


 そう言った瞬間、慌ててクロエがママに言ったのであった。

「ソニア!な、何を言ってるの!」


「良いじゃねえか、この私がお前の為に、一肌脱いでやろうって、言っているんだよ」


 それは、俺と引っ付けるって事か?


「い、いりません!処女で何が悪いんですか!こう言うのは、大事に取って置くものなんです!」


「クロエ、そんなんじゃ、人生の半分以上を損しているぞ」

 そう言って二人が言い合いを始めていると、扉がノックされ、弾正が立っていたのであった。


「先程から、処女がどうとか、隣の部屋まで聞こえておったが、すまんが入って良いかの?」


「おう、じい様、入ってくれ。てか入ってくれないと、この話題が続きそうで困る」

 左近がそう言うと、クロエは今までの会話を思い出して、耳まで赤くしていたのであった。


「ワシは、クロエちゃんの処女の話を、聞いていても良いんじゃが、とりあえずホレ」

 そう言って弾正は、真っ赤になっているクロエをからかいながら、マジックバックから風呂敷に包まれた、細長い物を取り出して、左近に投げ渡したのであった。


 何だよこれ?

 そう思いながら、風呂敷の中を確認すると、中には長い桐箱が入っていたのである。


 桐箱?

 そう思いながらも、左近が箱を開けると、そこには、1挺の火縄銃と早合が入っていたのであった。

「おい、弾正……これは、もしかして」


「その通り、鉄砲じゃ」


『鉄砲?』

 それは、クロエとママが見事にハモった瞬間であった。


 すると弾正は得意気に、左近に言ったのであった。

「いやぁ、鉄砲自体は比較的簡単に出来たのじゃが、火薬が難しくての配合が中々に難しかったのじゃが、まぁワシの頭脳をもってすれば、簡単じゃ」


 マジかよ。

「弾正、何挺出来た?」


「まだ10挺じゃ。

 じゃが、これからもっと増やしていく予定じゃ」


 確かにこの一歩は、かなり大きい。

 だがここで立ち止まっていては、俺の望むべき姿にはなれない。

「弾正、このまま量産も良いが、改良していかないか?」


 そう言うと、弾正は暫く考えて言ったのであった。

「例えば?」


「例えば、そうだな。

 鉄砲隊は、接近されれば腰の刀しか武器が無い。なので、この銃身を長くして、先に槍の穂先の様な物をつければ槍にもなる。

 もちろん装着したままで、撃てる様にする必要があるが。

 それと、火縄じゃ暴発の可能性が高いだろう、現に暴発の事故も結構あったよな。

 だから火縄じゃ無くて、火打ち石みたいなのに交換して、引火させるってのはどうだろう?」


「なるほど、それも一理あるな。

 分かった、これからも研究してみよう」


 そう左近と弾正が話していると、ママが我慢できずに言ってきたのであった。

「だから、じいさんよ、それは何だよ」


「これは、鉄砲と言う武器じゃよ。百聞は一見にしかずじゃ、小僧撃ってみるか?」


「撃てるのか?」


「もちろん」

 そう言った弾正は、自信に満ち溢れた顔をして言ったのであった。




 総本部の中庭に、左近と弾正とママと秘書達がやって来た。

 もちろん左近の手には、火縄銃がありいつでも発砲出来る状態に、弾正が準備したのであった。


 そして仕事中の軍人や使用人達も、左近の持っている火縄銃が珍しいのか、これから何が起こるのか興味津々で集まって来たのであった。

「とりあえず目標は、そこの木の枝で良いじゃろ」


「おう、木の枝だな」

 そう言って左近は、火縄に火をフッと息を吹き掛けて点火し、枝を狙いながら、火蓋を切ったのであった。


 木の枝、木の枝……距離は40メートルって所か。

 そう思いながら左近が引き金を引くと、パン!と言う音と共に木の枝が折れて、地面に落ちたのである。

 次の瞬間、『おぉ~!』っと言った驚きの声が、その場を包み込み、弾正は得意気に言ったのであった。

「さすがは、ワシの御館様じゃ。ちゃんと枝に当てるとは、お見事」


「ま、まぁな……」

 実はその下の枝を狙ったんだが……言わないでおこう。


 そう思っている左近に、ママが食い付いて来たのであった。

「おい、今どうやって木の枝を、落としたんだよ!何も見えなかったぞ!魔法か?」


「魔法じゃないさ。これは、火薬と言う物を爆発させて、鉛のこの弾丸を飛ばす兵器なんだよ。

 もちろん魔法じゃ無いから、誰でも使えるんだ。

 今後は連合軍に、この兵器を装備させようと思っている」


「マジかよ……これって戦のやり方を、ガラッと変えちまうんじゃね」

 そう言ったママは、よほど驚いたのか、思わず葉巻を落として言ったのであった。


 ママの言う通り、これはこの世界の戦を、ガラリと変えてしまう。

 だが懸念もある……1つは、ルタイ人の巫女が使う魔法障壁の存在だ。

 あれは弓矢でも防いでいたが、鉄砲も防ぐんじゃないかと思えるからだ。

 もしも、敵に同じ様に、魔法障壁が使える者がいたとしたら、どう戦うか……これは、更なる研究が必要だろう。


 そしてもう1つは、驚異的な個人の力だ。

 前の世界じゃあり得ない能力を、この世界では持っている者がいる。

 鉄砲は所詮は点の攻撃で、剣等の面の攻撃でしか当たらない者も居るだろう。

 弾丸に、必中の様なスキルが無い限りは、個の力で簡単に、戦況を変えられる事が、この世界では、あり得るって事だ。

 個の力に頼るのは、危険な気がするが、要はバランスが大切だ。


 そう思っている左近に、弾正が言ってきた。

「そうじゃ、焙烙玉も作ったが、使ってみるか?」


「バカタレ!こんな所でそんな物を使ったら、大惨事になるわ!

 とりあえず……おーい!これは、まだ試作段階の兵器だから、口外するなよ!」

 そう言って左近は、集まった者達に叫んだのであった。


 かと言って、人の口に戸は立てれないし、各国の元首に、噂は耳に入るだろう。

「弾正、アムル砦で、各国の国家元首や議員達を招いて、鉄砲の御披露目をするぞ。

 それを見せて、硝石の安定供給の為に、トレソ王国に親善大使を送って、大量の貿易をする事を進言する。

 ……お前、これを見越して、ここで試射させたな?」


 左近にそう言われると、弾正は蛇の様な目を更に鋭くさせて、言ったのであった。

「さぁて、たまたまじゃよ」


 こいつは……まぁ良いさ、これで鉱山の件もついでに話せる。

「ママ、俺はこれからセレニティ帝国に行ってくるから、ちょっと伝言を頼まれてくれないか?」


「何だよ、料金がかかるぞ?」


「ハハハ、それは勘弁してくれ。

 例の件が終わるまで、三好准将、ノイマン大佐、マクレガー大佐のゲート使用禁止と各自忍の監視下に入ってもらい、レイクシティから出るのと、この件を他者に話すのも禁止にしてもらう。

 蘭、忍の手配を頼む」


「は、はい!」


「それならタダで良いが……左近、それでも邪魔したら、どうする?」

 そう言ったママは、冷酷な目で左近に聞いたのである。


「その場合は……消せ」

 そう言った左近は、奥歯を噛み締めて、言ったのであった。


「了解した……あんたの、その冷静に考える所、私は好きだよ」

 そう言ったママは、本部の建物に向かって行ったのであった。


 ……何が、最良の選択なのか、俺には分からない。

 でも、確実に言えるのは、帝国と無理矢理働かせられている子供は、助けなければ……その為には、個人的な感情何て……アイリス、すまん。

「クロエ、帝都ナリヤに向かうぞ」


「は、はい!」

 そう言った左近とクロエは、ゲートに向かって行ったのであった。



 ―――――――――



 連合軍本部の、人払いを済ませた、准将専用の執務室は、重い空気に包まれていた。

 ママに呼び出された、エリアスとアミリア、そして清信は、クロエ達が纏めた報告書に目を通して、驚いていたからである。


 何より一番驚いていたのは、ヒメネスがガストン商会の会頭に就任し、その鉱山事業を引き継いだ事であった。

 アミリアは、怒りでプルプルと震え、エリアスは呆然としていたのである。

 そんな中、ママは葉巻に火をつけて、三人に言ったのであった。

「そんな訳で、本日元帥閣下より御三方に、この件が終わるまで、ゲートの使用禁止とレイクシティの出場禁止。そして、忍の監視下に、入ってもらう命令が下った。

 もちろん、守秘義務も課される……何で私が来たのか、その意味が分かると思うが、違反すると、その命を頂く事になる」


 そう言ったママに、アミリアは、食って掛かろうとしたのだが、それを制して清信は、冷静に言ったのである。

「ヴィシュク少佐、ご苦労であった。元帥閣下からのこの命令、従いますと、閣下に御伝えしてくれ」


『准将!』

 その清信の言葉に、エリアスとアミリアは、思わず叫んだ。


「その言葉通りだが……お二人は従わないのか?」


「准将は、これで良いのかよ!

 准将だって、ヒメネスに姫様との間を取り持ってもらったり、堤防の建設で世話になっているだろう。

 命を助けてやろうとは、思わないのかよ!」


 そう言ったアミリアに、清信は冷静に言ったのである。

「そんな事も、分からないのか?

 では聞くが、ヒメネスをどうするつもりだ?」


「もちろん、助け出すに決まってるだろ!」


「助け出す……逃がすと言うことか?」


「決まってるだろ!何が言いたい准将!」

 そう言ったアミリアは、苛立ちを見せて言ったのである。


「もしも、二人が行っても、ヒメネスが逃げる男と思うか?」


「それは……」


「それにだ、逃げたとして、何処に行き場所がある?弾正府、もしくは軍が地の果てまでも、追い掛けるだろう。

 それにだ、ヒメネスはガストン商会の会頭に就任した。

 そのヒメネスがいなくなれば、会長のヘラルド・ガストンは怪しんで、鉱山の子供達を皆殺しにして、北方教会との関係は証明できないだろう。

 そうなったら、奴等の思惑通り、最悪セレニティ帝国は、北方連合(ノース・ユナイテッド)に編入する流れになり、戦争になるかも知れん。

 北方教会……俺が調べたのだが、どうやらルタイ人も悪魔の使いとして、虐殺の対象になっている様だな。

 そんな所に、貴公達の孫が捕まったら、間違いなく見せしめに、殺されるのだろうな。

 戦争とは、連戦連勝なんてあり得ない事だ、連合軍も次は勝てるか分からんぞ、特に北方教会に内部を侵食されている今はな。

 どうする?帝国だけでは無く、東部連合数千万の命と、ヒメネスの命……どちらを取る?」


 その清信の説明は、あまりにも正論過ぎた。

 だが、正論ゆえにアミリアの気持ちは、苛立っていたのであった。

 そんな中、エリアスは違ったのである。

 彼は常に最前線で戦っていた為に、例え友人が目の前で傷付き苦しんでいても、見捨てて冷静に命令を実行する事をやって来た。

 その為に、今回の清信の言った事は、痛いほど分かったのである。

「分かりました准将……ヴィシュク少佐、私も了解しましたと、閣下に伝えてくれ」


「エリス!」


「ヴィシュク少佐、マクレガー大佐も了承したと伝えてくれ。アミリー話があるちょっと聖導騎士団の詰所まで、来てくれ。

 では、准将、少佐、失礼する」

 そう言ったエリアスは、二人に頭を下げて、騒ぐアミリアを引っ張って、出ていったのであった。



 二人っきりになった執務室で、ママが清信に言ったのであった。

「さすがは、左近が自分の娘を、やろうと思っている男だね。決断力がある」


「これぐらいの決断力が無ければ、外局のトップなんて出来んさ……チョッと待て、娘をやるって、そんな話は初めて聞いたぞ!」


 そう言った清信の言葉に、ママはキョトンとして言ったのであった。

「おや、知らなかったのかい?……あ~まぁ何だ……私は、そろそろ帰るよ」


「チョッと待て、少佐!少佐ぁ!」

 その清信の、心からの叫びを無視して、ママは清信の執務室から出たのである。



 まぁこれぐらい言っとけば、あの奥手の准将も動くだろう。

 これであの姫さんにも、春が来るってもんさね……あ~これから楽しくなって来たね。

 そう思いながらママは、大きく身体を伸ばして帰って行ったのであった。



 ―――――――――



「エリス!私は納得していないぞ!」

 アミリアはエリアスに連れられて、聖導騎士団の詰所に入るなりエリアスに言ったのであった。


 エリアスは、悔しさのあまり、唇を噛み締めて、何も言わずにアミリアの手を引き、ソッと抱き締めたのである。

「チョッ、チョッと待て……エリス泣いているのか?」

 アミリアを抱き締めた、エリアスの身体が小刻みに震え、アミリアはエリアスが声を殺して泣いている事に、気がついたのであった。


 その事で、アミリアは冷静になる事ができ、どう考えてもヒメネスは助ける事が出来ないのを理解し、エリアスの胸の中で、泣いたのである。


 誰もいない聖導騎士団の詰所の中で、思いっきり泣いた二人は、お互いが落ち着いたのを確認し離れると、エリアスが言ったのであった。

「……アミリーすまない」


「バカ、謝るな……」


「そうだな……せめてヒースは、俺の手で捕まえて、送ってやる。それが親友に対する俺に出来ることだ」


 そう言ったエリアスの腹に、アミリアは1発パンチを入れて言ったのであった。

「バカ、お前はライを既に斬っているだろう……ここは、私がやる」


「しかし……」

「しかし、じゃ無い。親友を斬る辛い事なんて、一生に一度もあって良いはずがない……ここは、私がやる。

 それに、もう決めたからな」


 そう言ったアミリアを見たエリアスは、もう一度アミリアを抱き締めて、耳元で言ったのであった。

「すまない」


「うん…私は、大丈夫だから……」

 そう言ってアミリアは、エリアスの背中に腕を回したのであった。



 ―――――――――



 一方その頃、左近はクロエと一緒に帝都ナリヤで、ラニスに謁見するために、待合室で待たされていたのであった。


 豪華なソファーに腰掛けて、左近は顎を触って寛いでいたのだが、クロエは警戒を緩める事は、無かった。

 それもそのはず、ここまで来る間に、左近に向けられる、帝国人からの敵意が凄まじかったからである。


 だが、左近はむしろ、それを楽しむかの様に、平然としていたのであった。

「なぁクロエ、少しは気を抜いたらどうだ?」


「閣下は、恐くは無いのですか?ここに来るまで、帝国の者の目は、明らかに憎しみがこもった、目をしていましたよ」


「確かに、そうだな。これが鶴の言っていた蟠りってやつだろ。

 でもな、帝国人も、俺達を襲うほどバカじゃ無いし、例え襲ってきても、お前が何とかしてくれる……そうだろ?」


 左近にそう言われては、クロエは何も言い返す事が、出来なかったのであった。

「そりゃそうですけど……所で、先程から顎を触って、どうされたんですか?」


「いやぁ、なかなか髭が伸びないなぁ、って思ってな」


「髭、伸ばされるのですか?」


「子供も出来るから、威厳を出す為に、髭を伸ばしたいと思ってな。似合わないか?」


「いえ、閣下なら、何でもお似合いになると思いますよ」


「ハハハ、クロエならそう言うと思ったよ。

 そうだクロエ、明日は残業しても大丈夫か?」


「はい、大丈夫ですけど……何かありました?」


「明日にでも、陛下達と屋形船に乗ろうかと思っているんだが、そこの宴席での接待を頼みたいんだ。

 秘書の三人で、ルタイ皇国の着物姿ってのは、どうだろうか?」


 そう言うとクロエは、顔を赤くして言ったのであった。

「か、閣下は、私の着物姿を見たいのですか?」


「ああ、見てみたいな」

 そう言った左近の笑顔に、クロエは抗う事は、出来なかったのであった。


「では、鬼島大佐に言って、手配しておきましょう」


「ああ、頼むよ」

 そう左近が言うと、扉がノックされ、メイドが入って来たのであった。


「失礼します。佐倉元帥閣下、マイスナー少佐、陛下が御呼びです。

 今回は、非公式での訪問となりますので、執務室にて御待ちです。」


「ああ分かった。じゃあクロエ、行こうか」

 そう言った左近は、ソファーから立ち上がり言ったのであった。



 メイドに案内されて左近とクロエは、皇帝ラニスの居る執務室まで行く途中、他のメイドや使用人や役人から、恐怖と憎しみの入り混ざった目で見られながらも歩いていると、案内しているメイドがポツリと言ったのであった。

「申し訳御座いません、元帥閣下は、以前まで帝国の敵でしたので」


「気にするな。俺はこう言うのには、なれているから」


「お気遣い、ありがとう御座います」

 そう言って、軽く会釈をしてメイドは、大きな扉の前に立ち止まりノックしたのである。


「失礼します、佐倉 権大納言 清興元帥閣下がお越しになられました」


「入られよ」


 その声と共に、メイドは扉を開けて言ったのであった。

「どうぞ、陛下は中に居られます」


「ありがとう」


 そう言って、左近とクロエが中に入ると中には、机の上の書類に埋もれているラニスと、茶髪の眼鏡を掛けた男と、赤毛の男が座っていたのであった。

 二人とも、初老なのにスラッとした優男であった為に、二人の男は文官と言う事は、すぐに分かった。


 しかし、どこも上に立つ人間は、どうしてこう一緒なんだろうか。

 そう何処となくラニスに共感した左近は、ラニスに近付くと跪いて言ったのであった。

「これは、ラニス皇帝陛下、ご機嫌麗しゅう」


「ああ、もうそんな事は、言うな元帥。お互い妻に振り回されている者どうし、遠慮は無用じゃ。

 最近は、イリナがクラウディオを連れて、遊びに行っているそうだな。迷惑をかけておる、すまんな」


「いえいえ、むしろ助かっているのは、こちらです。アイリスはイリナ后妃様がいなければ、じっとしておりませんからな」


「ハハハ!あのノイマン公の娘らしいな。そうじゃ紹介しておこう、こっちの眼鏡は、エレミア・ナッシュ宰相で、こっちの赤毛はバディム・ウォーラン司法長官じゃ」

 ラニスにそう言われると、二人は左近に会釈したのであった。


「初めまして、私は連合軍の元帥をやっております、佐倉 権大納言 清信と申します。

 後ろに控えておりますのは、同じく連合軍のクロエ・マイスナー少佐で御座います、以後お見知り置きを」

 宰相に司法長官か、ちょうど良いだろう、この二人も誘うか。


「御主がここまで来るのは珍しいな。今日は、どうした?」


「日頃、陛下は政務をこなし、お疲れと思いまして。どうです、明日の夜でも屋形船で一杯」


 左近がそう言うと、ラニスは思わず身を乗り出して言った。

「おお!是非とも行きたいの!……鬼島大佐は、来るのか?」


 ……まさか、鶴がお気に入りかな?

「今回は、私の秘書の三人が来ますよ。このマイスナー少佐も、私の秘書ですので来ます。

 そうだ、御二方も如何ですか?普段出来ないお話も、出来ると思いますよ」


 左近がそう言うとナッシュは、眉をピクリと動かして言ったのであった。

「元帥殿、その言い方ですと、何か有るようですな?」


 さすがは、宰相って事か。

「ルタイ皇国には、壁に耳あり障子に目ありと言う、ことわざが有りまして、誰に聞かれているか分かりませんからね」


「なるほど、そう言う事なら行きましょう」


「私もです」


 よし、これで根回しが出来るが、問題もある。

「ありがとう御座います。

 そう言えば、皆様、宗教は何を信仰しておられるので?

 いやなに、北方教会は、我等ルタイ人を悪魔の使いとして、見ているとの噂を聞きましたので」


「心配するな、我等三人共にギリシス教である」

 ナッシュがそう言うと、ウォーランも頷いていたのだが、ラニスの顔色が明らかに、おかしくなっていたのであった。


 陛下……嫌な予感がする。

 そう思っている左近の心を代弁するかの様に、ナッシュがラニスに聞いたのである。

「陛下……何ですか、その顔は……まさか!」


「すまん、北方教会に入信してしもた」


 あ、あんた、何を言っちゃってるの!

「へ、陛下……」

「元帥殿、御気持ちは分かりますが、先ずは私から話させて下され」


「どうぞ」


「ありがとう。

 さて、陛下……我が帝国は、太古の昔より代々皇族は、ギリシス教徒でしたよね。

 その伝統を、ぶち壊すおつもりですか!

 それに、亜人や獣人も大事な帝国の臣民です!それを、人間だけが優良種だと唱える、北方教徒になるなど、あってはならない事です!

 ……とりあえず、訳を聞きましょうか?」

 そう言って最初は、ぶちギレたナッシュであったが、さすがは宰相と言った所か、心を落ち着けて聞いたのであった。


「いや、実はな……イリナの実家が、北方教徒でイリナ自身も北方教徒なんじゃよ。

 で、結婚する時に、ワシには、皇帝の座が回って、来ないだろうと思って、言われるままに入信してしもた……いや、だからと言って、元帥を差別したりはせんよ。

 たまたま、流れでそうなっただけで、信じている訳では無いからの」

 そう言ってラニスは、左近に慌ててフォローしたのであった。


 これは、例えばローマ法王が、「実は僕、イスラム教に入信してました、テヘペロ」って感じなのか?

 左近がそう思っているとナッシュが、ラニスに詰め寄ったのである。

「后妃様を、何とか改宗させて下さい陛下。

 この事が、帝国の臣民に知られると、亜人や獣人が逃げ出し、税収が落ち込み、帝国の経済は破綻しますよ」


 まぁ宰相が懸念する事も分かるが、今する話じゃ無い。

「宰相殿、私が言うのも変な話ですが、その話題は、今する話では、無いかと思いますよ」


 そう左近に言われて、ナッシュはしまったと言った顔をし、言ったのであった。

「元帥殿、すまん先程の話は、忘れてくれ」


「ええ、もちろんです。では、私達はそろそろ、レイクシティに戻らせて頂きます。

 陛下、宰相殿、司法長官殿、明日の夜にまたお会いしましょう」

 そう言って左近は、三人に一礼して執務室をでると、空間転移で自身の執務室に戻ったのであった。




 左近は、戻るとそのままドカッとソファーに座り込み、天井を見上げていると、クロエが暗い顔で話し掛けて来たのであった。

「この件、ややこしくなってきましたね」


 確かに、クロエの言う通りだ。

「なぁクロエ、帝国の后妃は、何れ程の権力があるのか、分かるか?」


「あまり分かりませんが、皇帝陛下があの様な御方ですので、后妃様に言われて、北方教会に便宜をはかる可能性があります。

 ですが、何れ程の信徒なのかは、分かりませんので、何とも言えませんね」


 そうだな……コイツらに聞くか。

「天井にいるのは、今日は誰だ?降りてきてくれ、質問がある」


 左近がそう言うと天井の板が開いて、スッと音をたてずに、桔梗が降りてきたのであった。

「桔梗に、御座います」


「桔梗、妻達とイリナ后妃の関係はどうだ?」


「比較的良好ですが、やはりアイリス様と一番仲が良く、その他の御三方は、何処か避けられている節が見受けられます」


「ラナは、ダークエルフなので分かるが、セシルとセシリーもか……クロエ、何故か分かるか?」


「北方教会は、魔法の存在も認めておりません、なのでおそらく、魔導師であるセシル様とセシリー様には、接しにくいのでしょう。

 それに御二方は、ザルツ王国の、それもスターク議長の娘様です。

 この両国は、長年戦争をやっていましたので、そう簡単には憎しみは払拭出来ないでしょう」


「そうか……意外と根は深いな。桔梗、少し頼まれてくれないか?」


「え?……嫌だって言っても、ラナ様に言うんでしょ?」

 そう言った桔梗は、露骨に嫌そうな声で言ったのであった。


「分かっているじゃないか。イリナ后妃の事を調べて欲しい。

 出来れば、両親の事や思想なんかも全部だ。分かる範囲で良いから調べてみてくれ」


「まぁ、ラナ様の為にもなりそうなので引き受けますけど、あまり私達に頼らないで下さいね」

 そう言った桔梗は、姿を消したのであった。


 これで、少しは突破口が見つかるかも知れんな。

 しかし、北方教会の信者が、俺の領内や軍にもいる可能性がある……一向一揆の様に、なる可能性があるし、これは見捨ててはおけんな。


 今回の事で、何とか北方教会を悪人にして、それを宣伝し、領内の信者を減らす方向で……ダメだ、どうしても弱い。

 和尚に言って、仏教を布教させるか……難しいな。


 信長公は、一向一揆と戦った時には、最終的に講和の道を選んだ。

 ……確かベイル家の者が、ニーナ陛下と顔見知りだったな。

 ニーナ陛下に、相談してみるか。


 それにしても、一番解せないのは、ヒメネスの行動だ。

 ヒメネスならば、この件がどんなにヤバイか、知っているハズだ。

 だとしたらヒメネスは、なぜ会頭に就任した?まさか、金に目が眩む奴では無いし、帝国の転覆も考えていないだろう。

 だとしたら、何故だろう?

 そう思いながら左近は、天井を再び見詰めていたのであった。








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