冒険者登録
翌日の日曜日、珠とパンドラとアイリスの3人を除いた一行は、冒険者登録をする為に、ギルド本部の在るナッソーにやって来た。
これは、ギルド長のダッチに言って、何とか隠れて、冒険者登録をする為である。
泉龍寺に空間転移した左近は、ふと疑問に思った事を兵庫に聞いて見たのであった。
「なぁ兵庫、その大剣に巻かれている御札って、何なんだ?」
「これですか?これは、お恥ずかしい話ですが。某、若い時はこの霊剣を持って、かなり荒れておりましてな。
それに怒った、当時の土御門家の当主様が、陰陽術で私の身体を封じて、ある寺に連れて行ったのです。
そこの和尚様は、大変素晴らしい御方で、某を諭し霊剣を抜けない様に、封印して言われました。
「この封印は、御主が心を入れ換えた時に、初めて抜ける物になった。この封印が取れるまで、精進せよ」と」
陰陽師って、そんな事が出来るんだ。
その和尚も、封印って凄い事もできるし、特殊なスキルを持っているのかな?
「その和尚は凄いな、そんな事が出来るなんて」
「そうですね。
その御方は、代々帝の菩提寺の寺の住職をされておられて、阿闍梨までなられた御方なんですよ。
ですが、突然姿を消されまして、何処で何をされておられるのやら。
昔は旅がお好きな人だった様で、ルタイ皇国の地図も、和尚様が旅で暇潰しに書いた物が、元になっているんですよ」
ん?阿闍梨で突然姿を消した?旅行好きで、地図を書くのが得意……何処かで聞いたような。
「その和尚って、何て名前だ?」
「院元和尚様です。義父上もご存知ですか?」
「院元和尚って、もしかして、彼処に酔い潰れて、寝ている生臭坊主か?」
そう言って左近が指差した先には、空の酒のトックリが無造作に置かれている縁側で、爆睡中の院元和尚がいたのであった。
「え?……和尚様!」
あ、やっぱりそうなのね。
この生臭坊主、かなり凄い奴だったんだな。
そう思いながら左近達は、あわてて駆け寄る兵庫を、生暖かい目で見守っていると、兵庫は和尚を揺すって起こしだしたのである。
「和尚様!和尚様!」
「……ん?何じゃ、ティナか?もう少し寝させてくれ……」
あ、ダメだこいつ……しょうがないな。
「兵庫、和尚は、こう起こさなきゃ、起きんぞ」
そう言うと左近は、近くの水汲み場から、水を桶に入れて和尚に近付くと、おもいっきり和尚にぶっかけて、言ったのであった。
「コラ和尚!起きないと、水をぶっかけるぞ!」
「プオ!……御館か……水をかけてから言う言葉じゃ無い……おお兵庫ではないか。何じゃ御主、懐かしいの」
そう言って飛び起きた和尚は、言ったのであった。
「義父上、これはあまりにも、酷くは無いですか?」
「そうじゃ兵庫、もっ言ってやれ……ちょっと待て、義父上って何だ?」
そう言った和尚は、濡れた事よりそっちの方が、気になった様であった。
「実はな、この兵庫は、俺の娘の珠と結婚したんだよ……いや、正確には、既に結婚してたって事だ。
そんな事より、聞きたい事がある。和尚って武器の使用を封じるスキルって、持っているのか?」
そう言った左近に対して、和尚は耳に入った水を、トントンと頭を叩いて出しながら、平然と言ったのであった。
「……そんな、都合の良いスキルなんて、持っとりゃせんて」
思わずその場全員が絶句したのであった。
「お、和尚様……だってこの心を入れ換えるまで、この霊剣を抜けない様に封印したって……」
「何じゃ兵庫、まだ試して無かったのか?
それは、ただの御経の書いた紙で、そんな効力が、あるわけ無かろう……兵庫、御主意外と純粋じゃの」
和尚って、詐欺師だよな。
そう思いながら左近は、頭を抱えている兵庫の背中を、ポンポンと叩いて言ったのであった。
「兵庫、その霊剣を抜いてみろ。それなら和尚の言っている事が、本当か分かるだろう」
「……そうですね」
そう言って、何とか立ち上がった兵庫は、霊剣を抜こうとしたのだが、中々抜けなかったのであった。
これは、本当に封印のスキルを、実は持っていたってオチか?
そう思っていると霊剣が僅かに抜けて、そこには刃一面に、こびりついた錆が出てきたのである。
「そ、某の霊剣が……」
そう言ってガックリと肩を落とす兵庫に肩を軽く叩いて、左近は言ったのである。
「兵庫、大丈夫だ、このナッソーには腕の良い鍛冶屋がいる。そこに行って打ち直して貰ったら良いさ」
「す、すみません……」
「俺はクレアを探しに行くけど、皆はどうする?」
「私は、ナッソーに来たから、父上に会ってきます」
「私は、観光でもしようかな」
「あ、じゃあ私が案内するよ」
秘書三人は、別々か。
「……しょうがない、兵庫を兼平の所に連れていってあげるよ」
「あ、私も一緒に行く~」
セシルとセシリーは、兼平の所か……残るは……
「私は暇だし、クレアを探すの手伝ってあげるよ」
……ラナだけか。
「んじゃ昼にでも、オヤジさんの店に集合だな。じゃあな和尚」
そう言って左近達は、各自出かけて行ったのであった。
―――――――――
確か、クレアの家って、バッシュ達リザードマンの集落に在るんだよな。
そう思いながら左近とラナは、生駒山の麓にあるバッシュ達の集落に行くと、そこには、子供達が遊ぶ、のどかな集落が広がっていたのであった。
ここに来るといつも思うんだが、平和だよな。
そう思っていると、子供達が左近に気付いた様で、大声で言ったのである。
「あ~!御館様とラナ様だぁ!」
子供がそう言うと、リザードマン達はぞろぞろと集まり、あっという間に、白いリザードマン達に囲まれてしまったのである。
「御館様、今度あっしの子供も生まれるんでさぁ」
「おお、そうか。元気に育つと良いな」
「御館様、見て見て、こんな事も出来るんだよ」
「凄いぞぉ」
「御館様、最近ウチの亭主が、酒ばっかり飲んでて、何とかしてくださいよ」
「分かった、バッシュに言っておこう」
「御館様、権大納言に御昇進されたそうで、おめでとう御座います」
「おう、ありがとうな」
「御館様」
「御館様」
……かなりうざいぞこれ。
正直、リザードマンなんて、誰が誰だか、分かるかい!
この間は、大丈夫だったのに……そうか、正成がいたからだ。
ラナ、助けて……ってラナも同じかよ!
バッシュ、助けて……ってあいつは今はイザナ村の封鎖か!
そう思っている左近の背後から、大声が響いたのであった。
「これは、いったい何事か!」
左近が振り向くとそこには、兵士を率いたフンメルがいたのである。
「おお、フンメル」
「これは、閣下に奥方様。どうされましたか?」
「いや、クレアを探しに来たんだが、見ての通り、囲まれてな」
「そうでしたか。ほら皆、解散、解散」
フンメルがそう言うと、リザードマン達は散って行ったのであった。
「そう言えばフンメルは、どうしてここに?」
「閣下と同じですよ、クレアを探しに来ました」
クレアを探しに?
「クレアが、どうかしたのか?」
「いつもの事ですよ。
輸送小隊の方から、クレアが最近出勤して来ないって言われまして、迎えに来ました」
「クレアが、出勤して来ない?」
「ええ、毎度の事ですよ。
あいつは、給料日前になると、いっつも出勤して来ないんです。どうせ今回も給料を使い果たして、家で倒れているんでしょう」
よく考えたらクレアって、確か8歳だったよな……やっぱり子供だな、誰か保護者がいないとダメだな。
そう思っているとラナも同じ気持ちの様で、左近に囁いてきたのである。
「あなた、何とか出来ない?」
「何とかなぁ……そうだ、クレアを俺の、専属のメイドにするか」
「う~ん、それで良いかな」
そう言ったラナは、どこか複雑な顔をしていたのであった。
俺がクレアに、手を出すと思っているのかな?
クレアだろ?無いわぁ。
そう思いながら左近達は、クレアの住む集落の外れにやってきたのであった。
ここかぁ。
初めて来たけど、けっこうボロいな。
そう思いながら左近は、扉をノックしようとすると、中からクレアの声が聞こえてきたのである。
「スン…スン……お腹減ったよぉ……」
完全に、泣いているじゃねえか……しょうがない。
「フンメル、ここは俺達に任せてくれないか?」
「え?……良いですけど」
「ありがとう。クレア、俺だ、入るぞ!」
そう言って左近とラナが中に入ると、ここは馬小屋か?と思う様な藁の上で、クレアがシーツにくるまっていたのであった。
「あ、御館様…」
そう言って振り返ったクレアの目には、涙が浮かんでおり、左近のとラナの姿を見ると、その目から大粒の涙が溢れだしたのであった。
「御館様ぁ!」
「こらクレア、抱き付くな……寂しかったのか?」
そう言って、抱き付いたクレアの頭を撫でながら、左近は言ったのであった。
「うん、うん……ミラも、タマちゃんも、エルマも、いなくなってね、私ずっと一人ぼっちだったの」
「そうか、寂しかったんだな……ごめんな、レイクシティに行ってしまって」
「御館様、生駒山に帰って来てくれたの?」
「いや、もう少し先だな。そう言えばさっき、お腹が減ったって言ってたけど、何れくらい食べて無いんだ?」
「5日ぐらい……」
「死ぬだろうが、バカたれが。もういいクレア、お前は軍を辞めろ」
そう言うとクレアは、更に泣き出したのであった。
「あー!御館様にも嫌われたぁ!」
あ、やってしもた。
そう思っている左近からラナは、クレアをぶん取ると、クレアを抱き締め、左近を睨み付けて、言ったのであった。
「もう、そんな言い方は、勘違いするでしょう。
クレア違うの、そう言う意味で言ったんじゃ無いんだよ。軍を辞めて、佐倉家のメイドになって、一緒に暮らさないかって事なの。
そうすれば、ここよりも綺麗な部屋で暮らせるし、ご飯も毎日タダで食べれるよ。それに給料も出るからさ。
それと、今日私達が来たのは、また私達と一緒に、ダンジョンに、行ったりする冒険者に、ならないかってお誘いなの。
もちろん仕事をしながら、隠れてだけどね。どうする?」
「やる!んで、ずっと御館様の側にいる!」
……これは喜ばしい事なのか?
「まぁなんだ、とりあえず飯でも食べて、登録に行くか」
そう言った左近達は、オヤジさんの店に向かって、クレアに食事を食べさせ、ダッチのいる冒険者ギルド総本部に、向かったのであった。
―――――――――
何だここ……冒険者ギルド本部だよな。
そう左近が思うのも無理は無かった。目の前にある冒険者ギルドの建物は、プロバンス風のダッチには、似合わない、可愛い建物であった。
「こんな所に住んでいるなんて、絶対に爽やかなイケメンっすよね」
ヴィオラがそう言うと、兵庫以外の全員が、顔をしかめたのであった。
ありえん、こんなのは、ダッチの趣味じゃ無いだろ。
あいつの趣味は、もっと玄関に自身の銅像とか建ててそうな、成金のイメージだ。
「中に入ってみよう」
そう言って左近達が中に入ると、かなり閑散としていたのであった。
あれ?もっと賑わっていると思ったんだが、冒険者って人気無いのかな?
そう思いながら左近達は、受付カウンターの様な所に行くと、一人の中年のオバサンの様な女性が、本を読んでムスッとしていたのであった。
「すまんが……」
「何?冒険者の登録?」
何だ、このオバハンは?明らかに接客業には、むいていないだろう。
これがママの店なら、ママが鉄拳制裁をやっているな絶対に。
「いや、ダッチはいるか?」
「ダッチ?何であんたみたいなのが、ギルド長の事を呼び捨てにするのかね。
たまに居るのよね、昔の知り合いだとか言って、馴れ馴れしく金を借りにやって来る奴が。
どうせあんたも、同じ様な者でしょ?」
何だかこのオバハン、無性に腹が立つんですけど。
そう思った左近は、無言でIDカードを、オバハンに差し出したのであった。
「何?IDカード?そんな、身分証明書を見せられてもねぇ……あれ?カードの色が違う」
そう言って受付のオバハンは、カードを見ると、目に見えて分かるほど、血の気が引いていくのが分かったのであった。
「こ、これって……」
「そうだ、俺は連合軍元帥の佐倉 権大納言 清興。このヴァルキア地方の領主で、このナッソーの四頭会の一人だ」
「す、すみませ……」
「謝罪はいらん、ダッチはどこに居る?案内はいらん、勝手に行くから」
「この奥の階段を上がって、3階の突き当たりです」
「分かった」
そう言って左近達は、言われた様に階段に向かったのであった。
「何だか、嫌な感じのオバサンだったね。でも私達の事を知らないんじゃ、最近ナッソーに来た人かな?」
「そうだな、ラナの言う通り、ナッソーも新しい人が増えている様だな。
お、ここだ、三階の突き当たりの部屋……ダッチ、いるかぁ?」
そう言って左近は、ノックもせずに扉を開けたのであった。
いや、ノックせずに入った俺も悪いけど……この状況って何?
俺の、脳の処理が、追い付かないぞ。
そう左近が思い固まっているのも無理は無かった。
扉を開けて左近の目に入った光景は、ソファーにふんぞり反ったダッチに、上半身裸のロンデリックがキスをしようとしている瞬間であったからだ。
あまりの衝撃的な光景に、その場にいた者が絶句している中で、この男だけは、平然として、他の者を見てから、仕方なく片言のキリバ語で、話しかけたのであった。
そう兵庫である。
「ワレワレハ、レイクシティカラ、キマシタ、ワカリマスカ?
……ダメです義父上。某のキリバ語では、通じません」
……ハ!そうだった。
「てか兵庫、お前は何でこの状況で、平然としてられるんだよ!」
「いや、男色なんて普通でしょう。某も戦場では、たまにですが、しておりましたし」
そう平然と言った瞬間、左近に対して周囲の目は、完全に疑惑の目になっていたのであった。
「そんな目で見るなよ!俺は経験無いからな!てか、俺はノーマルだ!
こらクロエ、頭を抱えてしゃがむな!
てか、セシリーと蘭は、何でそんなに目をキラキラさせて、食い付いているんだよ!」
「……怪しい」
「セシルもそう思う?この人って、十分変態だし、あり得そうだよね」
「こら、セシルにラナ、紛らわしい事を言うな……ヴィオラ、そんな目で俺を見ないでくれ!」
そんな静寂から、一瞬で混沌となったこの部屋で、ダッチが左近に話し掛けて来たのであった。
「……大将、すまねえが、用件を言ってくれねえかな?」
そうだ、これは夢だ、何も俺は見なかった……よし、そう思い込もう。
そして、次から四頭会の会合は、バッシュに全部行かせるとしよう。
「そ、そうだな。
実は俺達、冒険者になりたいんだよ。もちろん極秘でな」
「そんな事か。
まぁ、確かに大将達の身分じゃ、堂々と出来ないわな……
大将達は、けっこう有名人だし、変装しなきゃならんし……難しいんじゃないか?
まぁこっちも、出来る限りの便宜は、図るつもりだけどよ」
「確かにダッチの言う通りだ。
そこで、ロンデリックに頼みがある、俺達にフード付きのコートか何かを用意してくれ、アイリスも子供が生まれたら参加するから、10着だ」
「では、早速用意してきます」
そう言ってロンデリックが出ていこうとすると、ダッチが止めて言ったのであった。
「ロンデリック、その服の支払いは、俺につけてくれ」
「すまないな、ダッチ」
「いや、出産祝いだ。
しかし、大将もおさかんな事だな、これで三人目かよ」
「……正確には7人目だ。上の4人は戦で死んだ」
「……いや、すまない、そんな意味で言ったんじゃ無いんだ。
まぁ今の時間は、下には殆ど人がいないから、登録をしてくれば良いだろう」
下で?あのオバハンは、嫌だな。
「下にいたあの女性は、ちょっと勘弁して欲しいんだが」
「あぁ、大将はそうだったな。分かった、ちょっと待ってな」
そう言うとダッチは、扉を開けて大きな声で、叫んだのであった。
「アメル!アメル!ちょっとこっちに来い!」
「はいはぁ~い!」
そう言った声が聞こえると、急いでやって来たのは、ボーイッシュなエルフの女の子であった。
「大将、この子はアメルと言って、口は固い。
登録や冒険者の事で、何か聞きたい事があったら、この子に聞けば良いだろう。
アメル、このお人は、佐倉 権大納言 清興様だ。
まぁこのナッソーじゃ、鬼の左近と言った方が早いがな。で、この大将が、お忍びで冒険者をやりたいんだと。
そこでお前は、この大将達の冒険者登録をやってくれ。もちろん個室でな」
「ハイハ~イ、了解しましたぁ。
では皆様、こちらにどうぞぉ~」
そう言ってアメルは、左近達を別室に案内したのであった。
左近達は、広い部屋に通されると、そこにはテーブルの上にIDカードを作成した時の、水晶にキーボードが付いている装置が置かれていたのであった。
「まずは適当にお座りください、冒険者の御説明からさせて頂きます。
あの、私はルタイ語が出来ますので、そちらで話しましょうか?」
そうだな、兵庫はキリバ語がいまいち出来ないから、ルタイ語で良いだろう。
「では、ルタイ語で頼むよ」
「分かりました、ではルタイ語で話しますね。
まずは、冒険者の説明ですが、冒険者とは、ギルドに貼り出されている仕事を、やって頂く人の事を言います。
仕事は、魔物の討伐や、ダンジョン攻略もあれば、薬草の採取や、その他には、傭兵ギルドと提携しておりますので、傭兵の仕事と、何でもあります。
そして、安全を期すために、冒険者にはS、A、B、C、D、E、F、Gと8段階のランクがあり、最初はレベルや職業のランクに応じたランクから始めて頂きます。
かと言っても、どんなに優れた人でも、最初は最高Cランク迄しか振り分けられませんので、ご了承下さい……まぁ最初からCランクは何か上級職を持っていて、レベルが100以上って言う人なので、そんな人は中々居ませんけどね。
ランクの1上のランクから、下のランク全ての仕事が請け負う事ができ、1つ上のランクの仕事を、3回成功すると、ランクが上がりますが、3回連続失敗すると、ランクが下がりますのでご注意を。
あとは、パーティについてですが、10名迄、同じパーティとして登録出来ます。
これも冒険者個人同様ランクがあり、最初はパーティの平均でランクが決まりますが、これも冒険者個人同様、上がったり下がったりしますのでご注意下さいませ。
ここ迄で、何かご質問は有りますか?」
一気に説明されても、頭に入らんし。
まぁでも内容は、よくある冒険者ギルドと内容は同じって事か……あ、皆、理解していない感じだ。
そう思っているとアメルは、引き出しから、紙を取り出して言ったのであった。
「まぁ、いきなり色々と言ったら、普通は理解できませんよね、こちらが冒険者の説明書になります。
次に、冒険者の登録なんですが、皆様お持ちのIDカードに、冒険者のランクと、パーティに入られるのでしたら、パーティ名とランクの記入をさせて頂きます。
皆様、パーティに、なられるのですよね?
でしたら、パーティ名と代表者を、お決め頂けますか」
パーティ名ね……
そう思っていると、兵庫が小声で左近に聞いてきたのである。
「義父上、パーティとは何ですか?」
そうか、パーティはルタイ語に翻訳しないで、言っていたのか。
「パーティとは部隊の様な者だ。人数は最大10人迄に制限されるようだがな。
その部隊の名前と、責任者を決めてくれと、あのアメルは言っているんだよ」
「部隊名ね…責任者は、義父上がなるとして、部隊名かぁ……」
そう言って兵庫は暫く悩んでいると、何かを思い付いた様に、言ったのであった。
「金曜日の夜に出るから、夜に出る者と言えば、百鬼夜行でどうでしょうか?」
「…却下」
「何故ですか?」
「アホか!百鬼夜行なんて、ルタイ人しか知らんわ!夜に出る者って、それは妖怪や、もののけだろうが!
ほら見ろ、蘭以外の皆は、キョトンとしているじゃないか。
でも夜に出る者か……ナイト・ウォーカーは、どうだろう?」
「意味は、何ですか?それよりも百鬼夜行の方が、シックリくるのですが」
何で兵庫は、百鬼夜行に拘るんだよ。
百鬼夜行って、何だか暴走族みたいで、嫌だし。
「意味は、夜に歩く者って事だ。
んじゃとりあえずは、多数決で決めよう。兵庫の百鬼夜行が良い人……兵庫だけか。
んじゃナイト・ウォーカーが良い人……決まったな兵庫」
「無念です」
そう言った兵庫は、ガックリと肩を落としたのであったが、アメルはそれを無視しながら、カチャカチャとキーボードを打ち込んでいたのであった。
「パーティ名は、ナイト・ウォーカーっと。
では、最初に代表者の人から、冒険者登録しましょうか。このチェッカーの上にかざしてから、渡して下さい」
「分かった」
そう言って左近は、IDカードをチェッカーの上にかざすと、ピッっと音が鳴り、そのままアメルにカードを渡したのであった。
受け取ったアメルは、水晶にカードを当てると、カードはそのまま、水晶の中に、消えてしまったのである。
あの水晶って、何で出来ているんだろう?
そう思っている左近に、アメルが言ってきたのであった。
「では閣下、水晶に両手を当ててください」
「分かった」
俺の職業がバレるけど、口は固いって言ってたし大丈夫か。
そう思いながら左近が水晶に触れると、アメルの目が大きく見開き、口をパクパクさせて驚いていたのであった。
やっぱり驚くよな。
そう思っているとアメルは、仕事を忘れて確認してきたのであった。
「閣下……すみません、知らない職業が数多くあるのですが、この覇帝って何ですか?」
「覇王の上級職だ」
「あの伝説の覇王の上級職……こ、この覚醒勇者は?」
「勇者の上級職だ」
「こ、この軍神って……」
「軍師の上級職だ」
「すみません軍師って、何ですか?」
「知らん、覚えていない。すまないが、早くやってくれないか?」
「え……ええっと、閣下は規格外ですね。レベルも218と凄まじいレベルですので、ランクCからのスタートになります」
アメルがそう言って、キーボードをカチャカチャと打ち込むと、「チン」と言った電子レンジの様な音と共に、IDカードが水晶から出てきたのであった。
あ、電子レンジ音は変わって無いのか。
「次は、私がやるよ~!」
そう言ってラナは、グルグルと腕を回して、言ったのである。
ラナよ、何だか腕試しの様になっているが、違うぞ。
そして、ラナも水晶に触れると、やはりアメルは驚きながら、固まってしまったのである。
やっぱりなぁ、そりゃレベルが異常に高いし、あの年齢で悪魔召喚師と黒騎士だし驚くよな。
左近がそう思っていると、途中でもうこの規格外のオンパレードに慣れてきたのか、アメルはクロエの時には、驚かなくなっていたのであった。
そして、蘭が水晶に触れると、アメルは、何処かホッとした様に言ったのであった。
「良かった!やっと普通の人が来てくれて。レベルが25で、その年齢にしては、ちょっと高いかも知れないけど、でも普通で良かったぁ」
おい、その言い方は、失礼だろ。普通を連発したら……ほら、蘭が複雑な顔をしているじゃねえか。
こうして順調に左近達は、冒険者登録をしていき、左近、ラナ、セシル、セシリー、クロエはCランクに、蘭はFランクに、クレアはGランクになったのであった。
そして、驚くことに兵庫は、Eランクになった事である。
彼のレベルは29で、職業を一度もランクアップしていなかったのであった。
それでもEランクになったのは、職業に勇者が入ってた為であり、エリアスの言っていた様に、戦いの強さにレベルは、関係無いと言うのを、見せ付ける結果となったのである。
ただ、左近が引っ掛かったのは、それだけでは無かった。
彼の職業の中に、衆道者と言うのが入っており、その場の女性陣は、それが何か分からなかった様であったが、左近だけは理解したのであった。
確か、男が男とヤル事を、衆道と言う……兵庫めこの世界でヤったな。
そう思った左近は、背中にゾクッとした悪寒を感じながら、今後はこの衆道者の職業を持っている者に気を付けようと、心に誓ったのであった。
そして、左近達ナイト・ウォーカーは、ランクDに振り分けられて、はれて冒険者となったのである。
「それと最後に、何処の町の冒険者ギルドもそうですが、朝の8時に新しい依頼が貼り出されます。
依頼を受けるなら、朝の8時に行かれた方が良いですよ」
「分かった、ありがとう」
そう言った左近達は、ロンデリックの店に向かい、フード付きの服を新調したのであった。
―――――――――
左近達が冒険者登録した翌日の夕方、セレニティ帝国の帝都ナリヤを走る一台の馬車があった。
中に乗っているのはヒメネスであり、彼の表情は、何かを思い詰めた表情になっていた。
そして馬車は、帝都の貧民街に行くと、その貧民街に似つかわしくない、立派な建物の前で止まったのである。
ヒメネスは、そのまま馬車を降りると、建物に入り、警備の男に言ったのであった。
「オジキは、いるか?」
「オジキでしたら、只今食事中で……あ、ヒメネスさん!」
ヒメネスは、男の話の途中で、ダイニングに向かったのであった。
「オジキ!」
そう言って勢いよく開かれた扉の向こうでは、太ったスキンヘッドの男が、妻と食事中であったのか、ヒメネスを睨み付けて言ったのである。
「ヒメネスじゃねえか……食事中だ、後にしろ」
この男こそ、ガストン商会の会頭である、ヘラルド・ガストンであった。
「オジキ、それどころじゃねえんだ。ラボック鉱山について、聞きたい事があるんだ!」
そのヒメネスの言葉を聞いたヘラルドは、暫くヒメネスを睨み付けて、フキンで口を拭うと家族に言ったのである。
「……仕事の話だ。少し席を外してくれ」
そう言うと、女性は立ち上がり、出ていったのであった。
そして、誰もいなくなった広いダイニングで、ヘラルドはヒメネスを睨み付けたまま、静かに言った。
「何処でその話を聞いた?……いや、何を知っている?」
「実は連合軍の佐倉元帥が、鉄の安定供給の為に、鉱山を探していて、ラボック鉱山が売りに出されているのを知ったらしい。
しかし、金額があまりにも安い為に、ガストンの罠かと疑っている様だ。……そうなのか?」
「フン!あの田舎者のルタイ人にしては、鼻が利くじゃねえか。
その山猿の言う様に、これは罠だよ。安く買った奴に嫌がらせをして、タダ同然で買い取り、また売る、それが狙いだ」
「オジキ、それをするには、相手がちょっとヤバい相手ですよ、何せ……」
「ヒメネス、お前は何かって言うと、ルタイ皇国だと言っているが、あんな田舎者がどうした?
あんな劣等種族なんて、ちょっとビビらせれば、すぐに逃げて行くだろうよ」
その言葉を聞いたヒメネスは、拳に力を込めて、怒りをこめて言ったのであった。
「では聞くが、何で帝国はルタイ皇国に負けたんだよ!」
「それは、この帝国のバカな軍人が、主を信じずに、ギリシス教なんて信じているから、主が天罰を下されたに決まってる。
ワシが戦えば、主の加護がある限り、敗れはせんかっただろう」
ワシが戦えば?オジキ、何でそんな事を言う?
「……オジキ、何でそんな事を言うんだ?」
「そうだな……ヒメネス、お前はガキの頃から俺の子供の様に、育ててきた。
そんなお前には、俺の本当の目的を手伝ってもらっても、良い時期だろう」
「……本当の目的?」
「そうだ、本当の目的だ……まぁ座れやヒメネス」
ヘラルドにそう言われて座ったヒメネスであったが、ヘラルドが話す内容は、衝撃的な内容であった。
「実は、ガストン商会の鉱山は、かなりの利益を出している、何故だと思う?」
「何故だ?」
ヒメネスは、この時点では、既に分かっていたが、認めたくは無かったのである。
「それは、身寄りの無いガキ共を、働かせているからだ……ヒメネス、俺の後を継いでくれるのは、お前だけだと思っている。
そこでだ、この事業をお前に引き継ぎ、俺は本当の目的を果たす為に動く」
「本当の目的?」
「ああ、この国を神聖な北方連合に編入させる事だ」
「何故でだよオジキ!」
「この国は、今や亜人だけじゃなく、ルタイ人なんかが居る国に、なっちまった。
そして魔族もだ……こんなのは、主が認めるハズもねえ。奴等は全て地獄に送らなきゃ、ならねえんだよ」
「……それは、子供達もか?」
「ガキ共は、主に奉仕が出来て、喜んでいるだろうよ。
13歳になると、変な知恵がつくから、主の元に送っているがな」
そんな……では、子供達は殺しているって言うのか?
こんなのは、悪魔の所業だ……エリス、アミリーすまねえ、お前達の言う通りだった。
そう思ったヒメネスは、拳に力をこめて言ったのである。
「分かったオジキ、俺はオジキの後を引き継ごう」
「そうかい、お前なら分かってくれると思っていたよ。
今日は飲みながら、詳しく話してやろう」
そう言ったヘラルドは、気を良くしたのか、ヒメネスの背中を叩いて喜んだのである。
だがその様子を、天井裏から見詰める影が3つあった。
ジャックとアデルと夏の3人である。
天井裏の3人は、暗闇の中で目で合図をすると、夏だけ報告の為に消えたのであった。




