子供達
エリアスとママがジャックの元に行っていた頃、左近の執務室には、両手に女性を抱えたロビンが、左近の執務室にやって来ていたのであった。
「……ロビン、お前楽しそうだな」
思わずそう言った左近の目には、嫉妬の炎が出ていたのであった。
「やっぱり分かりますか?俺は、この仕事は天職ですよ。
だって、色んな国に行って、稼いだ金で、こうやって女性と楽しく出来る、最高じゃないっスか。
閣下も、お一人どうですか?」
そう言ったロビンは、左近の前で女性の胸を、揉みだしたのであった。
くそ~!最高に羨ましいじゃねえか。
俺も商人になってれば、こんな生活が、味わえたかもしれんのに……失敗した。
そう思っていると、ロビンは女性から離れて、扉がノックされ、クロエが紅茶を運んで来たのであった。
「アッサムで御座います」
そう言って左近とロビンの前に、紅茶を置いたクロエが、ロビンに背を向けた瞬間。
ロビンが、ソッとクロエのお尻を触ろうとすると、クロエが振り向く瞬間にロビンの頭を狙って、持っていた銀のトレーで水平に斬り付けたのであった。
だが、ロビンは表情を変えずに、トレーを指先で摘まんで受け止めると、クロエが真顔で言ったのであった。
「会頭様、その様な事をされますと、頭が無くなりますよ」
「やってから言うなよ……これ、普通の者なら、頭が無くなっていたぞ。
クロエ、久し振りだな、何も変わっていないな……いや、外見は凄くセクシーに、なったけどな」
「いえいえ、会頭こそ、その手癖の悪さは、何も変わっておりませんね」
そう言った二人の間のトレーは、プルプルと震えだし、ベコンと言って曲がったのであった。
まったくこの二人は。
「もう、その辺で良いだろ。ロビン、人払いを」
「了解しました。おい、隣の部屋で待っていてくれ」
ロビンがそう言うと二人の女性は、そのまま隣の秘書室に行ったのであった。
左近は女性が出たのを確認すると、ロビンに言った。
「さてと、報告を聞こうか?」
「そうですね、先ずはイザナ村から。
イザナ村は、閣下の予想通り、反乱兵が集結し、あっという間に、占領されてしまいました。
村長はアッサリと殺され、現在その村で指揮を取っているのは、元セレニティ帝国のヨハネ・ザヴォーグ子爵です。
私は、村に来る唯一の行商人として潜入し、ザヴォーグ子爵の信頼を得ました。
ですが、村に行くと反乱兵は、今は盗賊の様になっており、女は兵士達の慰みものに、男は殆ど奴隷の様に働かされていましたね。
そこでザヴォーグ子爵から私達に、「いらない女や子供を奴隷として、買っては貰えないだろうか?」との申し出があり、了承しまいましたが、良かったでしょうか?」
予想通りっちゃ、予想通りなんだが、村民を売る様じゃ、末期的だな。
「もちろん、買ってくれて良いし、買い取った者は、俺の所に連れて来い。
ただし、処女の者は高額となり、やつれた者は、安くなってしまうと言ってくれ。
こうすれば、価値を下げない様に、女性に対しての暴行等が少なくなるだろう。
それと、その村の食料を俺が合図をしたら、高値で買い取れ。
理由はそうだな、ヴァルキア地方とルタイ皇国で飢饉が起きて、食料の値段が高騰しているからと、言っておけば良いだろう。
こうしたら、攻めた時に奴等は兵糧が無くて、自滅する」
「了解しました。閣下のご命令通りにしましょう。
それと、以前に言われておりました鉱物と、ついでに変わった食べ物を用意してみました」
そう言ったロビンは、マジックバックを何個も置いて言ったのであった。
「それは、楽しみだな。
所で、このサンプルだが、出所は覚えているのか?」
「鉱物に張り付けていますので、ご心配なく」
さすがはロビンか。
そう思いながら左近は、おもむろにマジックバックの中に手を入れて、1つの鉱石を取り出すと、紙に包まれた赤茶色の鉱石が出てきたのであった。
左近は、そのまま自身のアイテムボックスに入れると、「解析」と念じたのである。
すると半透明のウインドウが開かれて、そこには文字が日本語で書かれていたのであった。
【解析結果】酸化鉄
何だよ、ただの鉄鉱石か。
次は……
【解析結果】ニッケル
ニッケルか、何に使えたっけ……そうだ、ステンレスの原材料で、確か薬莢にも含まれていたはず。
いきなり良いのを引き当てたな。
そう思いながら左近は、そのニッケルを別にして置いたのであった。
次は……
【解析結果】グラファイト
グラファイト?なんだこりゃ?
でもどっかで見たような……とりあえず保留って事で。後でパンドラに聞いてみよう。
あいつなら、俺の記憶も共有しているから分かるかもしれん。
次は……
【解析結果】蛍石
蛍石?何だろう……これもパンドラ行き確定だな。
次は……
【解析結果】石灰石
石灰石……ただの大理石か。
何だかパンドラがいた方が、楽かもしれないな。
次は……
【解析結果】硝石
硝石か……ん?硝石?
「きたー!」
思わずそう言って、某芸人の様に立ち上がった左近を、ロビンとクロエは目を丸くして驚き、見ていたのであった。
あ、俺、変な奴だと思われている。
「……クロエ、パンドラと弾正を、至急呼び出してくれ、緊急事態だ」
「かしこまりました」
そう言ったクロエは、急いで出ていくと、左近はアイテムボックスから、紙に包まれた硝石の結晶を取り出してロビンに言ったのであった。
「ロビン、これは何処で手に入れた?」
ロビンは、左近の手から硝石の結晶を受け取ると、紙に書かれている文字を見て、言ったのであった。
「これは、セブンス連邦と、北方連合の1つミルス王国の間に在る、トレソ王国って言う、かなり貧しく、小さな王国ですね。
この石は、保存効果が有り口にしても大丈夫な様で、粉末にして肉に刷り込んで保存するそうです。
何か、ヤバい物でしたか?」
そう、不安そうに言ったロビンの隣に、左近は座ると、ロビンの背中をバンバンと叩き喜んで言ったのである。
「違うぞロビン、これは世紀の大発見だよ。
因みにこの結晶の値段は?」
「確かトレソ王国の山間部では、何処でも採掘出来るので、二束三文ですね。
この大きさでは、1シリングにもならないですよ。この3倍ほどで1シリングって所ですね」
この結晶は3キロは有る。
って事は、だいたい10キロで1シリングって事か……安いし最高じゃないか。
それにニッケルもあったから、薬莢が作れるし、後は雷菅だけだな。
確か、昔に見たネットで調べた事があった、トリシネート、テトラセン、硝酸バリュウム、硫化アンチモン、カルシウムシリコンの配合で出来たはずだ。
配合は実験を重ねれば、何とかなるだろう……だが、一番の問題は、はたして前の世界の、火薬の様に、爆発するかが問題だ。
弾正は、前の世界の理と、この世界の理は、違うかも知れないと言っていた。
弾正の言い分は、確かに納得出来る所がある。
やはり一つ一つ確認と、実験を繰り返すしかないだろうな。
そう思っていると、左近の執務室に、弾正とパンドラとクロエが入って来たのであった。
「なんじゃ小僧。今日は……お主何で笑顔なんじゃ?」
そう言って、不思議そうに左近を見ている弾正に、左近は得意気に言ったのであった。
「弾正、とうとう最強の武器が出来るぞ」
左近のその顔と、その言葉で弾正は何の事かすぐに理解したのであった。
「ま、まさか……」
「そう、そのまさかだ。これが硝石の結晶であ~る」
そう言って、左近が机の上に置いた結晶に、弾正はプルプルと手を触れて、感動していたのであった。
「弾正よ、この先は分かるな?」
「もちろんじゃ。図面の方は、殆ど出来ておる。
後はルタイ皇国から刀鍛冶を呼ぶのと、場所じゃな」
「パンドラ、アルム砦は黒騎士団が駐留していたな?」
「ええ、ザルツ王国の内戦から、駐屯地になっていますけど」
「弾正よ、アルム砦の近くに、アルム村と言う廃村がある、そこに鉄砲と火薬の製造工場を作れ。
ただし、本当に出来るか分からんので、実験場も作ってくれ。
製造するのは、鉄砲と火薬とそれに早合だ」
左近の言う早合とは、戦国時代に登場した、火縄銃の1発分の火薬や玉を、予め小さな筒に入れて、装填時間を短くするのを目的とした、道具であった。
「早合……おお、あの早合か、了解した。
では、他の硫黄等は、ルタイ皇国にもあるので、ワシが手配しよう。そうじゃ、こうしてはおれん、ワシは早速動き出すとしよう」
そう言った弾正は、余程嬉しいのか、結晶を持つと、そのまま出ていってしまったのであった。
あの、じい様、これで10年は若返ったんじゃないか?
左近がそう思っていると、パンドラが静かに言ったのであった。
「黒騎士団にその製造工場の警備をさせるのですか?」
「そうだ、アルム村で製造し、アルム砦で、その鉄砲や火薬の保管をする。
それとパンドラ、これも使うぞ」
そう言って、パンドラの目の前に置いたのは、ニッケルの鉱石であった。
「これは?」
「ニッケルだ。ステンレスの原材料になる。
これでお前は、弾正にアドバイスをして、ライフルを作れ」
そう言うとパンドラは、暫く悩んで、何かスマホを操作する動きをして、言ったのであった。
「これですか……なんて武器を作ろうと、しているのですか、お父様は。
こんなのが出回れば、世界の戦争が、一気に変わりますよ。
剣と槍の時代は終わり、人差し指だけで、子供でも大人を殺せる時代がきますよ」
何だ?パンドラは剣と槍の戦いが好きなのか?
でも、圧倒的優位で戦えるのは、良い事だろう。
「もちろん使うのは、俺達連合軍だけで、厳重に管理する。
その為に、警備をお前達に任せるんじゃないか」
「……分かりました。
では、ええっと……ブローバック式とボルトアクション式の、どちらを開発しますか?」
確かブローバック式は、爆風の力を利用した連射が可能なタイプだよな。
だが、構造が複雑で、威力もボルトアクションより落ちるし。
ボルトアクションは、手動で弾の排出をする、めんどくさいタイプだが、気密性が上がって、弾の威力や射程が伸びるし、何より構造が簡単で扱いやすい。
……分からんな。
「両方で、頼むよ」
「両方ですって!……分かりましたよ、やりますよ!」
「それと、この鉱石のサンプルの解析も……」
左近がそう言った時であった、パンドラがテーブルを叩いて立ち上がり、叫んだのであった。
「今日の朝に決めた作戦と言い、銃の開発と言い、それぐらいは、御自分でやって下さいませ!」
そう言ったパンドラは、怒って執務室から出ていったのであった。
「あいつ、何で怒っているんだよ」
そう言う左近に、クロエがポツリと言ったのであった。
「あれでは、誰でも怒りますよ。
姫様って、朝は兵庫様と剣の訓練で、昼は騎士団の砦に行って報告を聞いて、夜は受験勉強ですよ。
閣下の仕事を手伝える暇は、ありませんよ」
あ、そう言えば、パンドラは、フレイアの学校の受験が来月にあったんだった……完全に忘れてた。
パンドラも、俺の血が入っている、俺の娘だ。
……娘の受験の邪魔をする、最低な父親だな、俺は。
そう思いながら左近がへこんでいると、ロビンが左近に言ってきたのである。
「でも姫様、かなり変わりましたよ。
昔はもっと反応も何も無い、冷酷な姫様でしたからね」
って事は、パンドラに感情が、生まれて来たって事かな?
左近がそう思っていると、ロビンがマジックバックから数個の豆を取り出して言った。
「閣下、これはバンダムの実と言って、食べると眠気が無くなる豆なんですよ。
これを姫様に、閣下から差し入れしてあげて下さい」
「すまないなロビン」
そう言って豆を手にした左近の鼻に、懐かしい匂いが微かに漂ってきたのであった。
これは、もしかして。
そう思った左近が豆の香りを嗅ぐと、青臭いが、微かにコーヒーの香りがした。
「なぁロビン、この豆を、持ってるだけくれないか?」
「はぁ、良いですけど」
そう言って、左近がロビンから袋を受け取ると、中からは、完全にコーヒーの香りがしたのであった。
「なあロビン、この豆を今度大量に仕入れてくれないか?商品になるかも知れんのでな」
「分かりました。それと、閣下が喜ぶと思って、こんなのもの持って来ました」
そう言ってロビンが取り出したのは、何やら泥の様な物が入った小瓶であった。
「実はね、セブンス連邦の砂漠を旅していた時に、砂漠の民がこの泥で手を洗って、水で泥を流すと、手が綺麗になったので、ボディーソープとかシャンプーとかに使えるかと思い、少量ですが貰って来たんですよ」
何だろうか?
そう思いながら左近は、アイテムボックスに入れて、成分を解析したのであった。
【解析結果】苛性ソーダ
苛性ソーダだって!これがあったら、石鹸が作れるじゃないか。
「ロビン、これは大量に仕入れる事はできるか?」
「分かりませんが、砂漠の民に聞いて見ましょう。
でも、砂漠で焚き火をしたその跡にそれが出来る様ですので、簡単に入手出来ると思います」
「頼むよ。このサンプルは、解析が1ヶ月ほどかかるので、とりあえずは、この硝石の結晶と、このニッケル鉱石を購入し、アルム村まで運搬してくれ」
「その硝石の結晶とニッケル鉱石は、両方ともトレソ王国で取れますので、一度友好の使者を送るのも宜しいかと思います」
確かに、いきなり今まで接触の無かった国から、こんなにも大量の鉱石の買い入れがあれば、怪しむよな。
「分かった、評議会に話を通しておこう。
それにしても、お前と中々連絡が取れないのは、不便だな……レイクシティに、小さな店でも建てるか」
「そうですね、今度マーティ会頭に相談してみましょう。
では、そろそろ私も行きます。今度また珍しいのがあったら、持って帰ってきますね」
そう言ったロビンは、左近に一礼して執務室を後にしたのであった。
そうだ、パンドラにフォローしておかなきゃ、ダメだよな……でもどうする?
そうだ、クロエがいるじゃないか。
「なぁクロエ。パンドラが怒るのも無理は無いけど、どうフォローしたら良いと思う?」
「う~ん、一度じっくりと話してみたら、どうですかね?夕食の時とか。
それでしたら、奥様達もいらっしゃるので、何かとフォローしてくれると思いますし」
なるほど、その手があったか。
「ありがとうクロエ、そうしてみるよ」
そう笑顔で左近は、クロエに言うと、何故かクロエは背を向けて、耳まで真っ赤にしていたのであった。
―――――――――
その夜、左近の邸宅のダイニングルームでは、長いテーブルにキャンドルがいくつも置かれ、西洋の貴族の様な食事の風景が広がっていた。
ナッソーにいた頃は、囲炉裏を皆で囲み、ワイワイと楽しく食事をすると言うスタイルだったのだが、このスタイルになって、当初左近は、いくらラナ達が作った料理でも、全然食べた感じがしなくて、食事の時間は何処か憂鬱だったのである。
最近は、少しなれてきたとは言うものの、やはり食べながら話をする空気では、無かったのであった。
それは、兵庫と珠も同じなのか、どうも最近は元気が無くなって来ていたのである。
やっぱり日本人だよな、こんな食事が毎日は、気が滅入る。
まぁ日本人って言うか、3人とも貧乏性なだけなのかも知れんが。
しかし、クロエの言う様に、パンドラに話をしようと思っても、来てないし、会話出来る空気では無いし……思い切って聞くか。
「なあバスティ、パンドラはどうした?」
左近はそう言って、立っているバスティに話し掛けた。
「姫様は、受験勉強で御座います。
試験が来月に御座いますので、ザルツ王国のリリアナ様から、昔使っておられた本を御借りして、勉強をされております」
リリアナから?
そうか、パンドラは本気で学校に行きたかったのか……本当に悪い事をしたな。
そうだ、後で夜食を作って、持って行ってやろう。
「そうか、後で俺が夜食を作って持って行こう。
所で、皆に話があるんだ、俺と一緒に冒険者をやらないか?
もちろん、仕事もあるから、金曜の夜から、日曜の夜までで、毎週出発って感じで、ダンジョンに行く時だけは、休みを合わせてってなるが」
その左近の言葉で、珠がピクリと反応して言ったのであった。
「父上、またダンジョンなんか行って、あの首無し騎士の……デュラハンでしたっけ。
そんな魔物と一騎討ちを、なさるおつもりですか?
前回勝ったのは、勝ちましたが、御自身も死にかけたのをお忘れですか?
父上は今や、ルタイ皇国の権大納言で、佐倉家当主なのですよ」
……ですよね~。
やっぱり立場上マズイですよね~。
そう思っている左近に、まさに救いの神が現れたのであった、そう兵庫である。
「珠よ、義父上は、普段は剣の稽古も、槍の稽古もされてはおらん。何故だと思う?」
「ただの、グータラなだけでしょ?」
……珠さん、正解です。
「珠よ、それは違う。
たまに、こういった御仁がいるのだが、義父上は命のやり取りが無ければ、例え稽古と言えど、本気にはなれないのだ。
だから、俺と稽古も避けておられる。
稽古と言えど殺し合いになり、どちらが死ぬまで、終わらんからな」
いえいえ兵庫さん、珠が正解ですよ。
そう思っている左近に、疑惑の目を向けている珠の視線から、左近は目を反らせていると、兵庫が左近に言ってきたのである。
「義父上、某も義父上の言われる冒険者に、参加しても宜しいでしょうか?
いや、実は某、魔物と戦った事がありませんので、義父上が一騎討ちで死にかける程の者と、戦いとう御座います」
兵庫が前衛にいたら、俺がその後方から、指示を出しながらフォローが出来るか。
だが、問題があるんだよなぁ。
「兵庫が一緒に来てくれるのは、ありがたいのだが、冒険者は、お前の信条が全く通用し無いし、自分だけ戦わないと言うのは論外だ。
お前が戦わなければ、他の仲間にその負担が行き、全滅する可能性があるし、魔物は確実に殺さなければ、誰かが死ぬ。
それでもやるか?」
左近が心配しているのは、当然の事であった。
兵庫は弱い者と戦うのは、極端に嫌う傾向がある。
その心構えは、武芸者としては、問題無いのだが、冒険者としては致命的である。
兵庫が戦わない事で、他の仲間に負担がいき、それはじわじわと、パーティ全体を蝕む病原体の様に広まり、最終的に犠牲者が出る可能性があると、左近は言っているのであった。
兵庫は暫く悩んで、左近に言ったのであった。
「分かりました、冒険者の時は、義父上の指示に従いましょう。
それで良いですかな?」
「良いだろう、それで頼むよ。
他の皆は、どうする?」
そう言うと、セシルが手を上げたのであった。
「セシル、どうした?」
「……私、魔導機の研究をやってみたい。
……もちろん、ダンジョンに行く時は、一緒に行ける様にするけど。
……それ以外は、コープス博士達と仕事したい」
セシル、やりたい事が見つかったのか。
「それで良いよ。冒険者の登録だけやっておいて、ダンジョンに入る時は誘うから」
「……ありがとう」
「あ、あの、私もやりたい事が、あるんだけど!」
そう言って立ち上がったのは、セシリーであった。
「どうしたセシリー?」
「私ね、今度フレイア陛下が運営する、学校の教師をやりたいの。
小さな頃に、おばば様から色々と教えてもらって、こんな人に将来なれたら良いなって思ってたの。
そこで今日聞いたんだけど、今度学校の教師を募集するんだって……もちろん、今の佐倉家の身分とかもあるから、教師になるなんて、って思うかも知れないけど。
でも昔からの夢だったし、やっても良い?
お姉ちゃんみたいに、ダンジョンに入る時は、一緒に行くからお願い!」
教師プレイか……良いですな、それ。
「セシリー、佐倉家は権大納言の家と言っても、そんな事に縛られずに、俺は自由にすれば良いと思う。
まぁ俺だって、好きにやっているからな。
セシリー、それがお前の夢なら、俺は応援するよ」
「ありがとう!ボク頑張るよ」
ボクって、そんな夜のプレイでの話し方で言うなよ!
そう思っている左近の方向に、アイリスがまるで油がキレた人形の様に、ギギギと音をたてて首だけゆっくりと動かす様に、振り向き呟いたのであった。
「ボク…?」
あ、あかん、アイリスさん、その目は嫉妬の目や!
ボクっ娘プレイは、妊娠してから一緒に寝ていないアイリスは、知らないからな。
とりあえずは、話を誤魔化そう。
「お、おう頑張れよ。そうだ、ラナはどうする?」
「私も基本的には、フレイア陛下の所で、魔法の勉強もあるし。
三好准将には最近、小太刀二刀流を教えてもらっているからなぁ……でも息抜きに、たまには冒険者も良いかな」
ラナって最近、何かやっていると思ったら、准将にそんな事を教えてもらっていたのか。
「アイリスは……子育てだな」
「え~!何で!」
そう言ったアイリスは、本気で不満そうに言ったのであった。
「お腹に、大事な子供がいるだろう。妊娠しながら冒険者は無理だろう」
「それは、分かるけど……まさか、生まれた子供の子育ては、しないつもり?」
……え?しなきゃならんの?
そう言えば、1度目の転生の世界で、育メンとかあったよな。
何てバカらしいと思っていたけど、この世界でもそんなのが、あっちゃう訳?
そう思っている左近に、珠が助け船を出してきたのであった。
「義母上様、ルタイ皇国の武家では、基本的に子育ては、乳母に任せます。
これは、親に甘えた子供に育てない措置であり、もちろん義母上様にも子育ては、ある程度子供が育てば、離れてもらいます。
武家のしきたりですので、我慢して下さいませ」
「そんな……」
そう言ったアイリスは、左近に何とかして欲しいと言った様な顔をして、見詰めたのであった。
いや、そんな顔をされても……
それに、俺はあんまり育児は、知らないからな。
前世は独身だったし、その前は妻の茶々と乳母に任せっきりだったから。
まぁそれでも珠は、異常に俺になついてはいたが。
……そうだ、良い事を考えた。
「こうしては、どうだろう。
アイリスが冒険者で一緒に来る時は、珠が預かれば良いんじゃないかな?
その時に、子供が親離れ出来ずに、甘えた子供になっていると感じたら、珠が暫く教育し、乳母や家庭教師を探すと言うのは、どうだろうか?
佐倉家は武家だ、甘えは即ち死に繋がる……子供自身か、その配下か。
厳しい教育は、子供の命を救う事になるんだよ。アイリス分かってくれ」
左近にそう言われたアイリスは、頭では理解している様だが、心は理解したくは無いと訴えている様で、複雑な顔をしていたのであった。
だが珠も、焦って左近に言ったのである。
「ちょっと待って下さい、何で私が預かる流れに、なっているんですか?」
「言い出したのはお前だ。
それに、教育にしても、他の誰よりも、お前に任せるのは安心できるし、武芸にしても、兵庫ならこれ以上の者はいないだろう。
兵庫は、それでも良いかな?」
「もちろん良いですよ。
義父上の血は、厳包やパンドラの様に、鬼の血が入っていると思うほど強くなります。
この手で育ててみたいですな」
厳包?誰だ?
「兵庫、厳包って誰だ?」
「ああ義父上は、ご存知無かったですね。
柳生 兵助 厳包、私と珠の子供で、三男であった為に、島家を再興し当主にしようと、育てて根回しも全て終わっていたのですが。
そのあまりの剣の腕に、某が惚れまして、柳生の宗家を継がせたのですよ。
この前、珠に聞いたのですが、厳包が新陰流を完成させたと言っても、過言では無いと……あ、すみません、島家を再興する話を潰してしまって。
本当に申し訳ございませんでした」
そう言った兵庫は、左近に頭を下げたのであった。
兵庫がこんなにも、楽しそうに話すのは珍しいな。
それほど俺の孫に剣の才能があったのか。
でも、孫かぁ……何だか変な感じだな。
「いや、それは、気にするな。
あのタヌキの下で島家が続くのは、俺も本意では無いからな……でも、それほどまでに、才能があったのか?」
そう左近が言うと、兵庫は複雑な顔で言ったのであった。
「本当に才能の塊の様な奴でしたよ。
天才とは、厳包の様な者の事を言うのでしょう。
天才なのに努力を惜しまない、基礎の技だけで、他者を圧倒する……それを見てからです、私が自分が老いてしまって、この者と全力で戦えない、そんな苦しみに襲われたのは」
それでか、兵庫が老いの恐怖で天下無双を目指していたのは。
左近がそう思っていると、ラナが興味津々で兵庫に聞いていたのであった。
「ねえねえ、兵庫と珠ってどんな出会いだったの?結婚してからは、どうだったの?」
「え?え?」
「良いじゃない教えてよ~」
そう言って困っている兵庫にラナ達は、目を輝かせて聞いたのであった。
何だか久々だな、こんなにも賑やかな食事は。
そうか、皆こうやって、楽しく食事をしたかったんだな……今まで切っ掛けが無かっただけなんだ。
これからは、苦痛な食事も、少しは楽しくなるだろう。
そんな事を思いながら、左近は楽しく会話に参加していたのであった。
―――――――――
左近は食事を終えると、そのままキッチンに行き、パンドラの夜食を作っていた。
まだメイドや使用人達が、皿洗い等の仕事をやっている中で、左近はバケットを切り、その上に肉をスライスして、チーズと一緒に焼いた簡単な物であった。
さて、夜食はこんな感じかな……でも、いかにも男の料理って感じだが、大丈夫だろう。
後はコーヒーだが、確か豆を焙煎ってやつをやるんだよな。
どうすんだろ?
……直火焼き焙煎って言うから、網の上で焙れば大丈夫かな。
そう思いながら左近が、目が細かい網の上にロビンから貰ったバンダムの実を置いて、蓋をして釜戸の上に置いたのであった。
「御館様、使った物は、置いといて頂けましたら、私達が洗いますので」
「分かった、ありがとうな」
そうメイド達に言うと、左近は網の上の豆を動かしながら、不満に思っていたのであった。
そう言えば、何で俺だけ専属のメイドが、いないんだろう。
そりゃ確かに、手を出すかも知れないって、皆の気持ちは、分かるよ。
でもさ、少しは俺の事を、信用してくれても良いじゃ無いかよ……今度言ってみるか。
そう思っていると、少しずつ豆の色が、変わってきたのであった。
お、変わってきた。
確か色が黒いほど、苦味が強くなるんだっけ。
夜だし苦めが良いだろう。
あ、コーヒーフィルターが無い……まぁ和紙で大丈夫か。
茶漉しで、ティーポットに入れたら大丈夫だろうが、問題はどうやって粉にするか……すり鉢で、何とかなるかな。
そう思いながら左近は、黒くなった豆を、すり鉢に入れてゴリゴリと粉にしていると、何とも言えないコーヒーの香りが、キッチンに漂ったのである。
あ、懐かしい匂いだ。
そう思っているとメイドや使用人が、左近に注目していたのである。
そりゃ、気になるよな。
「誰か飲みたい者はいるか?飲むと目が冴えるから、夜勤の者だけだがな。
それと誰か、お湯を沸かしてくれないか?ミルクと砂糖も有るか?
ついでに俺が入れてやるよ」
左近がそう言うと、皆が急いで準備しだしたのであった。
皆、飲んでみたいのかな?
焙煎した豆も余ってるし、全員が飲めるだろう。
そう思いながらお湯がやって来て、左近はアイテムボックスに、作った夜食とコーヒーを入れると、パンドラの部屋に向かったのであった。
―――――――――
さて、いくら娘の部屋に行くとは言え、変な緊張があるな。
そう思いながら左近は、パンドラの部屋の扉をノックしたのであった。
「誰?」
「俺だ……入って良いか?」
「ダメです、入らないで」
う、いきなり拒否かよ……まだ、怒っているんだな。
しかし、ここで引くわけにはいかん。
全国のお父さん、ここで退いたら負けですよ。
「入るぞ」
そう言って、左近が無視して中に入った瞬間であった、「カッ」っと言った音と共に、左近の頬をかすめて、壁に短剣が突き刺さったのであった。
おい、そこまで怒るなよ。
全国のお父さん、前言撤回します、娘さんの意見は尊重しましょう。
「入らないで下さいって、言いましたよね」
そう言ってパンドラは、左近を睨み付けたのであった。
「今日の事は、すまなかった。お詫びと言っては何だが、夜食を作って来たんだ」
そう言って左近はアイテムボックスから、作った夜食を出したのであった。
それを見たパンドラは、毒気を抜かれたのか、暫くその左近の作った夜食を見ると、笑い出したのであった。
「プッ、何ですかその夜食は。
肉とチーズって、野菜が全く入っていないじゃありませんか。
それに私は悪魔ですよ、食べなくても平気です」
そう言われたら、そうだった。
「まぁ良いじゃないか、これがお前の父親の、男の料理ってやつだ。それに、こんなのも用意してみた」
そう言った左近は、皿をパンドラの机に置くと、アイテムボックスから、2つのティーカップを取り出すと、そこにコーヒーを注いだのであった。
「これは……もしかして、コーヒーと言う物でしょうか?」
「そうだ。ロビンから貰った物の中に、コーヒー豆が入っていたんでな。
1度飲んでみてくれ」
パンドラは、左近に言われるままに、カップを持つと、クンクンと子犬の様に匂いを嗅いで一口、飲んだのであった。
「に…苦いです……」
「ハハハ、これは大人の飲み物だからなぁ。
ミルクと入れると、まろやかになり、砂糖を入れると甘くなる。好みに合わせて、入れると良いさ」
そう言って、左近が一口飲んだ。
「苦っ、これエスプレッソじゃねえか」
「お父様もダメなんじゃ、ないですか」
そう言ったパンドラと左近は、お互いに顔を見合わせて、笑顔になっていたのであった。
左近は、そのままパンドラのベッドに腰掛けると、パンドラに言ったのである。
「なぁパンドラ、試験が終わるまで騎士団に誰か副団長を任命して、任せるってのは、どうだろうか?
まぁ副団長って言っても、レイヴン以下の指揮権の代理になるがな」
「……その手が有りましたか」
そう言ったパンドラは、なるほどと言った顔をしたのであった。
「俺も、出来る限りのサポートはしてやる、だから絶対に合格しろよ」
「はい」
そう言ったパンドラは、思わず左近もドキッとする笑顔で言ったのであった。
「だが、何で学校なんだ?」
「お父様の記憶……」
「俺の記憶?」
「そう、お父様の記憶を見た時に、学生の時代がとても楽しそうでしたので、私も一度学生と言うのを味わってみたいのですよ。
それに、知識を得るのは、けっこう楽しいですよ」
学生時代……あんまり、楽しく無かったんだが。
まぁパンドラが経験したいって言うんだったら、良いだろう。
「そうか……だがな、これだけは覚えておいてくれ。
お前は俺の血から生まれて、そのお前の身体に流れる血は、俺の血だ。
だから、お前が悪魔でも何でも、俺の娘と言うのは、変わらない事実だし、俺もお前を実の娘と見ている……その事は、覚えておいてくれ」
「分かっていますよ……正直、今回自分でも、何でこんなにも、怒りが込み上げてきたのか、分からないのですよ」
「それが、感情ってやつだ。これでお前にも、感情が生まれるって、証明になったじゃないか。
徐々にで良い、そうやって感情を知っていけば良いさ」
「これが感情……ありがとうございます、お父様」
そう言ったパンドラは、大事な物を抱き締めるかの様に、自身の身体を抱き締めて、感動していたのであった。




