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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
92/464

子供達

 



 エリアスとママがジャックの元に行っていた頃、左近の執務室には、両手に女性を抱えたロビンが、左近の執務室にやって来ていたのであった。

「……ロビン、お前楽しそうだな」

 思わずそう言った左近の目には、嫉妬の炎が出ていたのであった。


「やっぱり分かりますか?俺は、この仕事は天職ですよ。

 だって、色んな国に行って、稼いだ金で、こうやって女性と楽しく出来る、最高じゃないっスか。

 閣下も、お一人どうですか?」

 そう言ったロビンは、左近の前で女性の胸を、揉みだしたのであった。


 くそ~!最高に羨ましいじゃねえか。

 俺も商人になってれば、こんな生活が、味わえたかもしれんのに……失敗した。

 そう思っていると、ロビンは女性から離れて、扉がノックされ、クロエが紅茶を運んで来たのであった。


「アッサムで御座います」

 そう言って左近とロビンの前に、紅茶を置いたクロエが、ロビンに背を向けた瞬間。

 ロビンが、ソッとクロエのお尻を触ろうとすると、クロエが振り向く瞬間にロビンの頭を狙って、持っていた銀のトレーで水平に斬り付けたのであった。


 だが、ロビンは表情を変えずに、トレーを指先で摘まんで受け止めると、クロエが真顔で言ったのであった。

「会頭様、その様な事をされますと、頭が無くなりますよ」


「やってから言うなよ……これ、普通の者なら、頭が無くなっていたぞ。

 クロエ、久し振りだな、何も変わっていないな……いや、外見は凄くセクシーに、なったけどな」


「いえいえ、会頭こそ、その手癖の悪さは、何も変わっておりませんね」

 そう言った二人の間のトレーは、プルプルと震えだし、ベコンと言って曲がったのであった。


 まったくこの二人は。

「もう、その辺で良いだろ。ロビン、人払いを」


「了解しました。おい、隣の部屋で待っていてくれ」

 ロビンがそう言うと二人の女性は、そのまま隣の秘書室に行ったのであった。


 左近は女性が出たのを確認すると、ロビンに言った。

「さてと、報告を聞こうか?」


「そうですね、先ずはイザナ村から。

 イザナ村は、閣下の予想通り、反乱兵が集結し、あっという間に、占領されてしまいました。

 村長はアッサリと殺され、現在その村で指揮を取っているのは、元セレニティ帝国のヨハネ・ザヴォーグ子爵です。

 私は、村に来る唯一の行商人として潜入し、ザヴォーグ子爵の信頼を得ました。

 ですが、村に行くと反乱兵は、今は盗賊の様になっており、女は兵士達の慰みものに、男は殆ど奴隷の様に働かされていましたね。

 そこでザヴォーグ子爵から私達に、「いらない女や子供を奴隷として、買っては貰えないだろうか?」との申し出があり、了承しまいましたが、良かったでしょうか?」


 予想通りっちゃ、予想通りなんだが、村民を売る様じゃ、末期的だな。

「もちろん、買ってくれて良いし、買い取った者は、俺の所に連れて来い。

 ただし、処女の者は高額となり、やつれた者は、安くなってしまうと言ってくれ。

 こうすれば、価値を下げない様に、女性に対しての暴行等が少なくなるだろう。

 それと、その村の食料を俺が合図をしたら、高値で買い取れ。

 理由はそうだな、ヴァルキア地方とルタイ皇国で飢饉が起きて、食料の値段が高騰しているからと、言っておけば良いだろう。

 こうしたら、攻めた時に奴等は兵糧が無くて、自滅する」


「了解しました。閣下のご命令通りにしましょう。

 それと、以前に言われておりました鉱物と、ついでに変わった食べ物を用意してみました」

 そう言ったロビンは、マジックバックを何個も置いて言ったのであった。


「それは、楽しみだな。

 所で、このサンプルだが、出所は覚えているのか?」


「鉱物に張り付けていますので、ご心配なく」


 さすがはロビンか。

 そう思いながら左近は、おもむろにマジックバックの中に手を入れて、1つの鉱石を取り出すと、紙に包まれた赤茶色の鉱石が出てきたのであった。

 左近は、そのまま自身のアイテムボックスに入れると、「解析」と念じたのである。

 すると半透明のウインドウが開かれて、そこには文字が日本語で書かれていたのであった。


【解析結果】酸化鉄

 何だよ、ただの鉄鉱石か。


 次は……

【解析結果】ニッケル

 ニッケルか、何に使えたっけ……そうだ、ステンレスの原材料で、確か薬莢にも含まれていたはず。

 いきなり良いのを引き当てたな。

 そう思いながら左近は、そのニッケルを別にして置いたのであった。


 次は……

【解析結果】グラファイト

 グラファイト?なんだこりゃ?

 でもどっかで見たような……とりあえず保留って事で。後でパンドラに聞いてみよう。

 あいつなら、俺の記憶も共有しているから分かるかもしれん。


 次は……

【解析結果】蛍石

 蛍石?何だろう……これもパンドラ行き確定だな。


 次は……

【解析結果】石灰石

 石灰石……ただの大理石か。

 何だかパンドラがいた方が、楽かもしれないな。


 次は……

【解析結果】硝石

 硝石か……ん?硝石?

「きたー!」

 思わずそう言って、某芸人の様に立ち上がった左近を、ロビンとクロエは目を丸くして驚き、見ていたのであった。


 あ、俺、変な奴だと思われている。

「……クロエ、パンドラと弾正を、至急呼び出してくれ、緊急事態だ」


「かしこまりました」

 そう言ったクロエは、急いで出ていくと、左近はアイテムボックスから、紙に包まれた硝石の結晶を取り出してロビンに言ったのであった。


「ロビン、これは何処で手に入れた?」


 ロビンは、左近の手から硝石の結晶を受け取ると、紙に書かれている文字を見て、言ったのであった。

「これは、セブンス連邦と、北方連合(ノース・ユナイテッド)の1つミルス王国の間に在る、トレソ王国って言う、かなり貧しく、小さな王国ですね。

 この石は、保存効果が有り口にしても大丈夫な様で、粉末にして肉に刷り込んで保存するそうです。

 何か、ヤバい物でしたか?」

 そう、不安そうに言ったロビンの隣に、左近は座ると、ロビンの背中をバンバンと叩き喜んで言ったのである。


「違うぞロビン、これは世紀の大発見だよ。

 因みにこの結晶の値段は?」


「確かトレソ王国の山間部では、何処でも採掘出来るので、二束三文ですね。

 この大きさでは、1シリングにもならないですよ。この3倍ほどで1シリングって所ですね」


 この結晶は3キロは有る。

 って事は、だいたい10キロで1シリングって事か……安いし最高じゃないか。

 それにニッケルもあったから、薬莢が作れるし、後は雷菅だけだな。


 確か、昔に見たネットで調べた事があった、トリシネート、テトラセン、硝酸バリュウム、硫化アンチモン、カルシウムシリコンの配合で出来たはずだ。

 配合は実験を重ねれば、何とかなるだろう……だが、一番の問題は、はたして前の世界の、火薬の様に、爆発するかが問題だ。

 弾正は、前の世界の理と、この世界の理は、違うかも知れないと言っていた。

 弾正の言い分は、確かに納得出来る所がある。


 やはり一つ一つ確認と、実験を繰り返すしかないだろうな。

 そう思っていると、左近の執務室に、弾正とパンドラとクロエが入って来たのであった。


「なんじゃ小僧。今日は……お主何で笑顔なんじゃ?」

 そう言って、不思議そうに左近を見ている弾正に、左近は得意気に言ったのであった。


「弾正、とうとう最強の武器が出来るぞ」


 左近のその顔と、その言葉で弾正は何の事かすぐに理解したのであった。

「ま、まさか……」


「そう、そのまさかだ。これが硝石の結晶であ~る」

 そう言って、左近が机の上に置いた結晶に、弾正はプルプルと手を触れて、感動していたのであった。


「弾正よ、この先は分かるな?」


「もちろんじゃ。図面の方は、殆ど出来ておる。

 後はルタイ皇国から刀鍛冶を呼ぶのと、場所じゃな」


「パンドラ、アルム砦は黒騎士団(ブラック・ナイツ)が駐留していたな?」


「ええ、ザルツ王国の内戦から、駐屯地になっていますけど」


「弾正よ、アルム砦の近くに、アルム村と言う廃村がある、そこに鉄砲と火薬の製造工場を作れ。

 ただし、本当に出来るか分からんので、実験場も作ってくれ。

 製造するのは、鉄砲と火薬とそれに早合だ」

 左近の言う早合とは、戦国時代に登場した、火縄銃の1発分の火薬や玉を、予め小さな筒に入れて、装填時間を短くするのを目的とした、道具であった。


「早合……おお、あの早合か、了解した。

 では、他の硫黄等は、ルタイ皇国にもあるので、ワシが手配しよう。そうじゃ、こうしてはおれん、ワシは早速動き出すとしよう」

 そう言った弾正は、余程嬉しいのか、結晶を持つと、そのまま出ていってしまったのであった。


 あの、じい様、これで10年は若返ったんじゃないか?

 左近がそう思っていると、パンドラが静かに言ったのであった。

黒騎士団(ブラック・ナイツ)にその製造工場の警備をさせるのですか?」


「そうだ、アルム村で製造し、アルム砦で、その鉄砲や火薬の保管をする。

 それとパンドラ、これも使うぞ」

 そう言って、パンドラの目の前に置いたのは、ニッケルの鉱石であった。


「これは?」


「ニッケルだ。ステンレスの原材料になる。

 これでお前は、弾正にアドバイスをして、ライフルを作れ」


 そう言うとパンドラは、暫く悩んで、何かスマホを操作する動きをして、言ったのであった。

「これですか……なんて武器を作ろうと、しているのですか、お父様は。

 こんなのが出回れば、世界の戦争が、一気に変わりますよ。

 剣と槍の時代は終わり、人差し指だけで、子供でも大人を殺せる時代がきますよ」


 何だ?パンドラは剣と槍の戦いが好きなのか?

 でも、圧倒的優位で戦えるのは、良い事だろう。

「もちろん使うのは、俺達連合軍だけで、厳重に管理する。

 その為に、警備をお前達に任せるんじゃないか」


「……分かりました。

 では、ええっと……ブローバック式とボルトアクション式の、どちらを開発しますか?」


 確かブローバック式は、爆風の力を利用した連射が可能なタイプだよな。

 だが、構造が複雑で、威力もボルトアクションより落ちるし。

 ボルトアクションは、手動で弾の排出をする、めんどくさいタイプだが、気密性が上がって、弾の威力や射程が伸びるし、何より構造が簡単で扱いやすい。

 ……分からんな。

「両方で、頼むよ」


「両方ですって!……分かりましたよ、やりますよ!」


「それと、この鉱石のサンプルの解析も……」

 左近がそう言った時であった、パンドラがテーブルを叩いて立ち上がり、叫んだのであった。


「今日の朝に決めた作戦と言い、銃の開発と言い、それぐらいは、御自分でやって下さいませ!」

 そう言ったパンドラは、怒って執務室から出ていったのであった。


「あいつ、何で怒っているんだよ」


 そう言う左近に、クロエがポツリと言ったのであった。

「あれでは、誰でも怒りますよ。

 姫様って、朝は兵庫様と剣の訓練で、昼は騎士団の砦に行って報告を聞いて、夜は受験勉強ですよ。

 閣下の仕事を手伝える暇は、ありませんよ」


 あ、そう言えば、パンドラは、フレイアの学校の受験が来月にあったんだった……完全に忘れてた。

 パンドラも、俺の血が入っている、俺の娘だ。

 ……娘の受験の邪魔をする、最低な父親だな、俺は。

 そう思いながら左近がへこんでいると、ロビンが左近に言ってきたのである。

「でも姫様、かなり変わりましたよ。

 昔はもっと反応も何も無い、冷酷な姫様でしたからね」


 って事は、パンドラに感情が、生まれて来たって事かな?

 左近がそう思っていると、ロビンがマジックバックから数個の豆を取り出して言った。

「閣下、これはバンダムの実と言って、食べると眠気が無くなる豆なんですよ。

 これを姫様に、閣下から差し入れしてあげて下さい」


「すまないなロビン」

 そう言って豆を手にした左近の鼻に、懐かしい匂いが微かに漂ってきたのであった。


 これは、もしかして。

 そう思った左近が豆の香りを嗅ぐと、青臭いが、微かにコーヒーの香りがした。

「なぁロビン、この豆を、持ってるだけくれないか?」


「はぁ、良いですけど」

 そう言って、左近がロビンから袋を受け取ると、中からは、完全にコーヒーの香りがしたのであった。


「なあロビン、この豆を今度大量に仕入れてくれないか?商品になるかも知れんのでな」


「分かりました。それと、閣下が喜ぶと思って、こんなのもの持って来ました」

 そう言ってロビンが取り出したのは、何やら泥の様な物が入った小瓶であった。


「実はね、セブンス連邦の砂漠を旅していた時に、砂漠の民がこの泥で手を洗って、水で泥を流すと、手が綺麗になったので、ボディーソープとかシャンプーとかに使えるかと思い、少量ですが貰って来たんですよ」


 何だろうか?

 そう思いながら左近は、アイテムボックスに入れて、成分を解析したのであった。


【解析結果】苛性ソーダ


 苛性ソーダだって!これがあったら、石鹸が作れるじゃないか。

「ロビン、これは大量に仕入れる事はできるか?」


「分かりませんが、砂漠の民に聞いて見ましょう。

 でも、砂漠で焚き火をしたその跡にそれが出来る様ですので、簡単に入手出来ると思います」


「頼むよ。このサンプルは、解析が1ヶ月ほどかかるので、とりあえずは、この硝石の結晶と、このニッケル鉱石を購入し、アルム村まで運搬してくれ」


「その硝石の結晶とニッケル鉱石は、両方ともトレソ王国で取れますので、一度友好の使者を送るのも宜しいかと思います」


 確かに、いきなり今まで接触の無かった国から、こんなにも大量の鉱石の買い入れがあれば、怪しむよな。

「分かった、評議会に話を通しておこう。

 それにしても、お前と中々連絡が取れないのは、不便だな……レイクシティに、小さな店でも建てるか」


「そうですね、今度マーティ会頭に相談してみましょう。

 では、そろそろ私も行きます。今度また珍しいのがあったら、持って帰ってきますね」

 そう言ったロビンは、左近に一礼して執務室を後にしたのであった。


 そうだ、パンドラにフォローしておかなきゃ、ダメだよな……でもどうする?

 そうだ、クロエがいるじゃないか。

「なぁクロエ。パンドラが怒るのも無理は無いけど、どうフォローしたら良いと思う?」


「う~ん、一度じっくりと話してみたら、どうですかね?夕食の時とか。

 それでしたら、奥様達もいらっしゃるので、何かとフォローしてくれると思いますし」


 なるほど、その手があったか。

「ありがとうクロエ、そうしてみるよ」

 そう笑顔で左近は、クロエに言うと、何故かクロエは背を向けて、耳まで真っ赤にしていたのであった。




 ―――――――――




 その夜、左近の邸宅のダイニングルームでは、長いテーブルにキャンドルがいくつも置かれ、西洋の貴族の様な食事の風景が広がっていた。

 ナッソーにいた頃は、囲炉裏を皆で囲み、ワイワイと楽しく食事をすると言うスタイルだったのだが、このスタイルになって、当初左近は、いくらラナ達が作った料理でも、全然食べた感じがしなくて、食事の時間は何処か憂鬱だったのである。

 最近は、少しなれてきたとは言うものの、やはり食べながら話をする空気では、無かったのであった。

 それは、兵庫と珠も同じなのか、どうも最近は元気が無くなって来ていたのである。


 やっぱり日本人だよな、こんな食事が毎日は、気が滅入る。

 まぁ日本人って言うか、3人とも貧乏性なだけなのかも知れんが。

 しかし、クロエの言う様に、パンドラに話をしようと思っても、来てないし、会話出来る空気では無いし……思い切って聞くか。

「なあバスティ、パンドラはどうした?」

 左近はそう言って、立っているバスティに話し掛けた。


「姫様は、受験勉強で御座います。

 試験が来月に御座いますので、ザルツ王国のリリアナ様から、昔使っておられた本を御借りして、勉強をされております」


 リリアナから?

 そうか、パンドラは本気で学校に行きたかったのか……本当に悪い事をしたな。

 そうだ、後で夜食を作って、持って行ってやろう。

「そうか、後で俺が夜食を作って持って行こう。

 所で、皆に話があるんだ、俺と一緒に冒険者をやらないか?

 もちろん、仕事もあるから、金曜の夜から、日曜の夜までで、毎週出発って感じで、ダンジョンに行く時だけは、休みを合わせてってなるが」


 その左近の言葉で、珠がピクリと反応して言ったのであった。

「父上、またダンジョンなんか行って、あの首無し騎士の……デュラハンでしたっけ。

 そんな魔物と一騎討ちを、なさるおつもりですか?

 前回勝ったのは、勝ちましたが、御自身も死にかけたのをお忘れですか?

 父上は今や、ルタイ皇国の権大納言で、佐倉家当主なのですよ」


 ……ですよね~。

 やっぱり立場上マズイですよね~。

 そう思っている左近に、まさに救いの神が現れたのであった、そう兵庫である。

「珠よ、義父上は、普段は剣の稽古も、槍の稽古もされてはおらん。何故だと思う?」


「ただの、グータラなだけでしょ?」

 ……珠さん、正解です。


「珠よ、それは違う。

 たまに、こういった御仁がいるのだが、義父上は命のやり取りが無ければ、例え稽古と言えど、本気にはなれないのだ。

 だから、俺と稽古も避けておられる。

 稽古と言えど殺し合いになり、どちらが死ぬまで、終わらんからな」


 いえいえ兵庫さん、珠が正解ですよ。

 そう思っている左近に、疑惑の目を向けている珠の視線から、左近は目を反らせていると、兵庫が左近に言ってきたのである。

「義父上、某も義父上の言われる冒険者に、参加しても宜しいでしょうか?

 いや、実は某、魔物と戦った事がありませんので、義父上が一騎討ちで死にかける程の者と、戦いとう御座います」


 兵庫が前衛にいたら、俺がその後方から、指示を出しながらフォローが出来るか。

 だが、問題があるんだよなぁ。

「兵庫が一緒に来てくれるのは、ありがたいのだが、冒険者は、お前の信条が全く通用し無いし、自分だけ戦わないと言うのは論外だ。

 お前が戦わなければ、他の仲間にその負担が行き、全滅する可能性があるし、魔物は確実に殺さなければ、誰かが死ぬ。

 それでもやるか?」


 左近が心配しているのは、当然の事であった。

 兵庫は弱い者と戦うのは、極端に嫌う傾向がある。

 その心構えは、武芸者としては、問題無いのだが、冒険者としては致命的である。

 兵庫が戦わない事で、他の仲間に負担がいき、それはじわじわと、パーティ全体を蝕む病原体の様に広まり、最終的に犠牲者が出る可能性があると、左近は言っているのであった。


 兵庫は暫く悩んで、左近に言ったのであった。

「分かりました、冒険者の時は、義父上の指示に従いましょう。

 それで良いですかな?」


「良いだろう、それで頼むよ。

 他の皆は、どうする?」


 そう言うと、セシルが手を上げたのであった。

「セシル、どうした?」


「……私、魔導機の研究をやってみたい。

 ……もちろん、ダンジョンに行く時は、一緒に行ける様にするけど。

 ……それ以外は、コープス博士達と仕事したい」


 セシル、やりたい事が見つかったのか。

「それで良いよ。冒険者の登録だけやっておいて、ダンジョンに入る時は誘うから」


「……ありがとう」


「あ、あの、私もやりたい事が、あるんだけど!」

 そう言って立ち上がったのは、セシリーであった。


「どうしたセシリー?」


「私ね、今度フレイア陛下が運営する、学校の教師をやりたいの。

 小さな頃に、おばば様から色々と教えてもらって、こんな人に将来なれたら良いなって思ってたの。

 そこで今日聞いたんだけど、今度学校の教師を募集するんだって……もちろん、今の佐倉家の身分とかもあるから、教師になるなんて、って思うかも知れないけど。

 でも昔からの夢だったし、やっても良い?

 お姉ちゃんみたいに、ダンジョンに入る時は、一緒に行くからお願い!」


 教師プレイか……良いですな、それ。

「セシリー、佐倉家は権大納言の家と言っても、そんな事に縛られずに、俺は自由にすれば良いと思う。

 まぁ俺だって、好きにやっているからな。

 セシリー、それがお前の夢なら、俺は応援するよ」


「ありがとう!ボク頑張るよ」


 ボクって、そんな夜のプレイでの話し方で言うなよ!

 そう思っている左近の方向に、アイリスがまるで油がキレた人形の様に、ギギギと音をたてて首だけゆっくりと動かす様に、振り向き呟いたのであった。

「ボク…?」


 あ、あかん、アイリスさん、その目は嫉妬の目や!

 ボクっ娘プレイは、妊娠してから一緒に寝ていないアイリスは、知らないからな。

 とりあえずは、話を誤魔化そう。

「お、おう頑張れよ。そうだ、ラナはどうする?」


「私も基本的には、フレイア陛下の所で、魔法の勉強もあるし。

 三好准将には最近、小太刀二刀流を教えてもらっているからなぁ……でも息抜きに、たまには冒険者も良いかな」


 ラナって最近、何かやっていると思ったら、准将にそんな事を教えてもらっていたのか。

「アイリスは……子育てだな」


「え~!何で!」

 そう言ったアイリスは、本気で不満そうに言ったのであった。


「お腹に、大事な子供がいるだろう。妊娠しながら冒険者は無理だろう」


「それは、分かるけど……まさか、生まれた子供の子育ては、しないつもり?」


 ……え?しなきゃならんの?

 そう言えば、1度目の転生の世界で、育メンとかあったよな。

 何てバカらしいと思っていたけど、この世界でもそんなのが、あっちゃう訳?

 そう思っている左近に、珠が助け船を出してきたのであった。

「義母上様、ルタイ皇国の武家では、基本的に子育ては、乳母に任せます。

 これは、親に甘えた子供に育てない措置であり、もちろん義母上様にも子育ては、ある程度子供が育てば、離れてもらいます。

 武家のしきたりですので、我慢して下さいませ」


「そんな……」

 そう言ったアイリスは、左近に何とかして欲しいと言った様な顔をして、見詰めたのであった。


 いや、そんな顔をされても……

 それに、俺はあんまり育児は、知らないからな。

 前世は独身だったし、その前は妻の茶々と乳母に任せっきりだったから。

 まぁそれでも珠は、異常に俺になついてはいたが。

 ……そうだ、良い事を考えた。

「こうしては、どうだろう。

 アイリスが冒険者で一緒に来る時は、珠が預かれば良いんじゃないかな?

 その時に、子供が親離れ出来ずに、甘えた子供になっていると感じたら、珠が暫く教育し、乳母や家庭教師を探すと言うのは、どうだろうか?

 佐倉家は武家だ、甘えは即ち死に繋がる……子供自身か、その配下か。

 厳しい教育は、子供の命を救う事になるんだよ。アイリス分かってくれ」

 左近にそう言われたアイリスは、頭では理解している様だが、心は理解したくは無いと訴えている様で、複雑な顔をしていたのであった。


 だが珠も、焦って左近に言ったのである。

「ちょっと待って下さい、何で私が預かる流れに、なっているんですか?」


「言い出したのはお前だ。

 それに、教育にしても、他の誰よりも、お前に任せるのは安心できるし、武芸にしても、兵庫ならこれ以上の者はいないだろう。

 兵庫は、それでも良いかな?」


「もちろん良いですよ。

 義父上の血は、厳包やパンドラの様に、鬼の血が入っていると思うほど強くなります。

 この手で育ててみたいですな」


 厳包?誰だ?

「兵庫、厳包って誰だ?」


「ああ義父上は、ご存知無かったですね。

 柳生 兵助 厳包、私と珠の子供で、三男であった為に、島家を再興し当主にしようと、育てて根回しも全て終わっていたのですが。

 そのあまりの剣の腕に、某が惚れまして、柳生の宗家を継がせたのですよ。

 この前、珠に聞いたのですが、厳包が新陰流を完成させたと言っても、過言では無いと……あ、すみません、島家を再興する話を潰してしまって。

 本当に申し訳ございませんでした」

 そう言った兵庫は、左近に頭を下げたのであった。


 兵庫がこんなにも、楽しそうに話すのは珍しいな。

 それほど俺の孫に剣の才能があったのか。

 でも、孫かぁ……何だか変な感じだな。

「いや、それは、気にするな。

 あのタヌキの下で島家が続くのは、俺も本意では無いからな……でも、それほどまでに、才能があったのか?」


 そう左近が言うと、兵庫は複雑な顔で言ったのであった。

「本当に才能の塊の様な奴でしたよ。

 天才とは、厳包の様な者の事を言うのでしょう。

 天才なのに努力を惜しまない、基礎の技だけで、他者を圧倒する……それを見てからです、私が自分が老いてしまって、この者と全力で戦えない、そんな苦しみに襲われたのは」


 それでか、兵庫が老いの恐怖で天下無双を目指していたのは。

 左近がそう思っていると、ラナが興味津々で兵庫に聞いていたのであった。

「ねえねえ、兵庫と珠ってどんな出会いだったの?結婚してからは、どうだったの?」


「え?え?」


「良いじゃない教えてよ~」

 そう言って困っている兵庫にラナ達は、目を輝かせて聞いたのであった。


 何だか久々だな、こんなにも賑やかな食事は。

 そうか、皆こうやって、楽しく食事をしたかったんだな……今まで切っ掛けが無かっただけなんだ。

 これからは、苦痛な食事も、少しは楽しくなるだろう。

 そんな事を思いながら、左近は楽しく会話に参加していたのであった。



 ―――――――――



 左近は食事を終えると、そのままキッチンに行き、パンドラの夜食を作っていた。

 まだメイドや使用人達が、皿洗い等の仕事をやっている中で、左近はバケットを切り、その上に肉をスライスして、チーズと一緒に焼いた簡単な物であった。


 さて、夜食はこんな感じかな……でも、いかにも男の料理って感じだが、大丈夫だろう。

 後はコーヒーだが、確か豆を焙煎ってやつをやるんだよな。

 どうすんだろ?

 ……直火焼き焙煎って言うから、網の上で焙れば大丈夫かな。

 そう思いながら左近が、目が細かい網の上にロビンから貰ったバンダムの実を置いて、蓋をして釜戸の上に置いたのであった。


「御館様、使った物は、置いといて頂けましたら、私達が洗いますので」


「分かった、ありがとうな」

 そうメイド達に言うと、左近は網の上の豆を動かしながら、不満に思っていたのであった。


 そう言えば、何で俺だけ専属のメイドが、いないんだろう。

 そりゃ確かに、手を出すかも知れないって、皆の気持ちは、分かるよ。

 でもさ、少しは俺の事を、信用してくれても良いじゃ無いかよ……今度言ってみるか。


 そう思っていると、少しずつ豆の色が、変わってきたのであった。

 お、変わってきた。

 確か色が黒いほど、苦味が強くなるんだっけ。

 夜だし苦めが良いだろう。


 あ、コーヒーフィルターが無い……まぁ和紙で大丈夫か。

 茶漉しで、ティーポットに入れたら大丈夫だろうが、問題はどうやって粉にするか……すり鉢で、何とかなるかな。


 そう思いながら左近は、黒くなった豆を、すり鉢に入れてゴリゴリと粉にしていると、何とも言えないコーヒーの香りが、キッチンに漂ったのである。


 あ、懐かしい匂いだ。

 そう思っているとメイドや使用人が、左近に注目していたのである。


 そりゃ、気になるよな。

「誰か飲みたい者はいるか?飲むと目が冴えるから、夜勤の者だけだがな。

 それと誰か、お湯を沸かしてくれないか?ミルクと砂糖も有るか?

 ついでに俺が入れてやるよ」

 左近がそう言うと、皆が急いで準備しだしたのであった。


 皆、飲んでみたいのかな?

 焙煎した豆も余ってるし、全員が飲めるだろう。

 そう思いながらお湯がやって来て、左近はアイテムボックスに、作った夜食とコーヒーを入れると、パンドラの部屋に向かったのであった。



 ―――――――――



 さて、いくら娘の部屋に行くとは言え、変な緊張があるな。

 そう思いながら左近は、パンドラの部屋の扉をノックしたのであった。

「誰?」


「俺だ……入って良いか?」


「ダメです、入らないで」


 う、いきなり拒否かよ……まだ、怒っているんだな。

 しかし、ここで引くわけにはいかん。

 全国のお父さん、ここで退いたら負けですよ。

「入るぞ」

 そう言って、左近が無視して中に入った瞬間であった、「カッ」っと言った音と共に、左近の頬をかすめて、壁に短剣が突き刺さったのであった。


 おい、そこまで怒るなよ。

 全国のお父さん、前言撤回します、娘さんの意見は尊重しましょう。


「入らないで下さいって、言いましたよね」

 そう言ってパンドラは、左近を睨み付けたのであった。


「今日の事は、すまなかった。お詫びと言っては何だが、夜食を作って来たんだ」

 そう言って左近はアイテムボックスから、作った夜食を出したのであった。


 それを見たパンドラは、毒気を抜かれたのか、暫くその左近の作った夜食を見ると、笑い出したのであった。

「プッ、何ですかその夜食は。

 肉とチーズって、野菜が全く入っていないじゃありませんか。

 それに私は悪魔ですよ、食べなくても平気です」


 そう言われたら、そうだった。

「まぁ良いじゃないか、これがお前の父親の、男の料理ってやつだ。それに、こんなのも用意してみた」

 そう言った左近は、皿をパンドラの机に置くと、アイテムボックスから、2つのティーカップを取り出すと、そこにコーヒーを注いだのであった。


「これは……もしかして、コーヒーと言う物でしょうか?」


「そうだ。ロビンから貰った物の中に、コーヒー豆が入っていたんでな。

 1度飲んでみてくれ」


 パンドラは、左近に言われるままに、カップを持つと、クンクンと子犬の様に匂いを嗅いで一口、飲んだのであった。

「に…苦いです……」


「ハハハ、これは大人の飲み物だからなぁ。

 ミルクと入れると、まろやかになり、砂糖を入れると甘くなる。好みに合わせて、入れると良いさ」


 そう言って、左近が一口飲んだ。

「苦っ、これエスプレッソじゃねえか」


「お父様もダメなんじゃ、ないですか」

 そう言ったパンドラと左近は、お互いに顔を見合わせて、笑顔になっていたのであった。


 左近は、そのままパンドラのベッドに腰掛けると、パンドラに言ったのである。

「なぁパンドラ、試験が終わるまで騎士団に誰か副団長を任命して、任せるってのは、どうだろうか?

 まぁ副団長って言っても、レイヴン以下の指揮権の代理になるがな」


「……その手が有りましたか」

 そう言ったパンドラは、なるほどと言った顔をしたのであった。


「俺も、出来る限りのサポートはしてやる、だから絶対に合格しろよ」


「はい」

 そう言ったパンドラは、思わず左近もドキッとする笑顔で言ったのであった。


「だが、何で学校なんだ?」


「お父様の記憶……」


「俺の記憶?」


「そう、お父様の記憶を見た時に、学生の時代がとても楽しそうでしたので、私も一度学生と言うのを味わってみたいのですよ。

 それに、知識を得るのは、けっこう楽しいですよ」


 学生時代……あんまり、楽しく無かったんだが。

 まぁパンドラが経験したいって言うんだったら、良いだろう。

「そうか……だがな、これだけは覚えておいてくれ。

 お前は俺の血から生まれて、そのお前の身体に流れる血は、俺の血だ。

 だから、お前が悪魔でも何でも、俺の娘と言うのは、変わらない事実だし、俺もお前を実の娘と見ている……その事は、覚えておいてくれ」


「分かっていますよ……正直、今回自分でも、何でこんなにも、怒りが込み上げてきたのか、分からないのですよ」


「それが、感情ってやつだ。これでお前にも、感情が生まれるって、証明になったじゃないか。

 徐々にで良い、そうやって感情を知っていけば良いさ」


「これが感情……ありがとうございます、お父様」

 そう言ったパンドラは、大事な物を抱き締めるかの様に、自身の身体を抱き締めて、感動していたのであった。



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