我が家
ヨラムに話を通してからは、仕事が早かった。ドワーフ達は大量にやって来て突貫工事で、家を建築していく。よくもあの幼稚園児が書いたような絵でここまで作れると感心していた。
後で聞いたのだが、魔の山に少しでも居たくない、しかし最近無かった大きな仕事なので金が欲しい。そんな理由でドワーフ達は死ぬ気で仕事をやっていた様であった。
俺達は警護と言う名目で、テントを張ってこの場所に滞在し、アイリスは警護をやりながら、ヨラムに貰った金属の長い棒で、伐採した竹の節目に穴を開けていた。
ラナはナッソーに行って、俺のお使いと、家具の下調べに戦の情報収集をやっていた。
俺はって?俺は崇高な露天風呂の目的の為に、アイリスが作った節目に穴を開けた竹で、硫黄温泉から温泉と湧き水を竹を通して流していた。
勿論、キッチンと風呂場の排水も忘れずに作っていた。この竹製の水道管は、東南アジアでも見られ、日本でも戦国時代には既にあった技術であったので、俺が知らないはずもない。そんな訳で俺の露天風呂計画は着々と進行していった訳だ。
そして一人の時に、神様との約束の本に手を当ててみた。手を当てると何か感情とか記憶が少し吸いとられた感じがした。
説明しづらいが、記憶が薄くなる感じだ、慣れれば問題ないのかな?まぁ死にはしないから大丈夫であろう。
そして完成予定の最終日の早朝に、念願の我が家が完成した。俺の幼稚園児なみの図面通りに、間取りとかは完璧だったのだが、部屋や露天風呂等のサイズが大きい。
まぁ俺の責任かといえば、幼稚園児なみの図面を書いた、俺の責任だと思う、ヨラム達はよくやってくれたのだ、悪くは無いがこの露天風呂は10人以上は入れるんじゃないか?
「どうです?お気に召しましたか?」
壁がレンガで、細かい所は気に入らないが、後で自分で何とかすれば良いか。
「そうだな、有難う」
「麓までの道には、サービスで門を何ヵ所か作っておきました、扉は無いですが」
それ完全に、廃材の使い回しだろう……まぁこれも、自分で何とかすれば良いか。
「色々と心遣い、痛み入る」
「良かった、喜んでくれて。では私達はこれで、レンヌまで行って、代金を請求に行かないと、いけないんで」
「あぁ、気を付けてな」
俺がそう言うと、ドワーフ達は頭を下げて一目散に帰って行った。そんなにここが恐いのかな?
「御主人様、やっと完成しましたね」
「そうだな、とりあえず二人は、家の中を不具合が無いか確認してくれ。俺は露天風呂の確認をする」
「はい。
ラナ、御主人様が家に、不具合が無いか調べるようにと。私は中を見ますので、ラナは外をお願いします」
「はーい」
そうだ、とりあえずお湯と水が、キチンと家まで来るか、排水がちゃんと流れるか、確認しないとな。
俺はまず露天風呂に、お湯と水を流してみた。おぉ、ちゃんと流れて来たじゃないか……感動的だ。
温度の調節は難しいが、水量の調節で何とかできた、これはかけ流しの露天風呂にするか。次はキッチンだな。
完璧だ、排水もしっかりと、近くの沢まで流れている、さすがヨラム。しかしキッチンの水も、かけ流しになるが、これは仕方がないな。
「御主人様、確認終わりました。異常はございません」
「こっちも終わったよ。馬小屋って言うより、どちらかって言うと厩舎だね、それに門って言ってたけど、簡単な作りだったよ」
「まぁ仕方がないさ、こんな短期間で作ってくれたんだ、ヨラム達はよくやってくれたよ。所でこれからナッソーに買い物に行くんだが、ラナに言っておくことがある。これから俺に関する事は、内密に他言無用で頼む、もしもバレると命の危険が有るからな」
ラナは、アイリスから通訳されて、ゴクリと唾を飲み込んだ。
俺はラナの顔を見て、これは大丈夫だと確信し、魔丸を口に含みながら空間移動を発動した。
ナッソーの路地に到着した俺達はさっそく、生活必需品と家具を見に行った。ナッソーにはそう言った物を販売する店は少なく、どうしても旅の用品が多い。まぁこれはナッソーの特性上仕方がない事なのだが。
だが、生活必需品の売っている店と家具を売っている店は、特定のエリアに固まっているので、揃えるのには楽だ。今は最低限の物を買っておいて、今後レンヌに寄った時に購入するのが無難であろう。
家具屋に入ると、やはり俺の言語がネックなのか、店員が寄ってこない。日本に旅行に来ている外国人も、同じ経験をしているので有ろうか?そんな事を考えながら俺の目に1つのキングサイズのベッドが目に入ってきた。
高さも、そんなに高くなく、段差が低い。何だかこれ良いな。
「アイリス、あのベッド良くないか?」
「確かに、何だか可愛いですね」
「あのベッドを2つ並べて寝れば、3人でも十分すぎるぞ」
「そうですね、確かにラナと距離も取れますし、聞いてきます」
おい、その発想はダメだろ。まぁ奴隷が増えれば、嫌が上でも狭くなるのだが。
「……御主人様、このベッド2つでマットとシーツのセットで、5千シリングだそうです」
50万円かよ……そんな物かな。
「それで良い、後ダブルの……アレで良いか。あのベッドも3つ買おう。配達もお願いしておけ」
まぁ、来客用なので感覚で選んでしまった。けっこう適当だな俺って。
「……御主人様、全部で1万1千シリングになるそうです」
高っ!でも言った手前、引くに引けないぞ。……買うしかないか。俺は諦めてお金を支払い、隣の道具屋に寄った。
そこでは、アイリスとラナが真剣に食器を選んでいたが、俺は空の小瓶等を選んでいた。
「アイリス、気に入った物だけにしろよ、無理に買うことは無い。またレンヌに行った時に買えば良いからな」
「そうですね、解りました」
そう言って、アイリスとラナが選んだ食器は、必要最低限の物だけになった。欲しい物が無かったんだな。
こうして俺達は、更に食材と魔丸や薪を買うと、資金が残り1万シリングを切りそうになっていた。これはマズイ、せっかく3人で暫く引きこもり、酒池肉林の世界を楽しもうと思ったのに、資金が……ヤバイな。
……そうだ、前の盗賊の賞金が有るじゃないか、さっそく換金に行くか。
「ラナ、ナッソーには盗賊の賞金を出す場所は在るのか?」
「在りますよ、装備品を売るのは、武器屋になりますけどね」
「では、換金に行くか」
こうして俺達が、ラナの案内で連れてこられた場所は、昔懐かしい煙草屋の様な、小さな小屋であった。
ご丁寧に、店子はお婆ちゃんでカウンターには白い猫が寝ている、完全に昔の煙草屋の風景だな。
「すみません、盗賊を討伐したのですが」
アイリスがお婆ちゃんに話し掛けると、何と猫が喋ったのであった。
「おぅ、ならば盗賊の肉体の一部を出しな」
これには、俺とアイリスは固まった、まさか猫が店員だとは。我に返ったアイリスが、盗賊の耳の入った袋をカウンターに置くと、猫は袋をくわえてカウンターの下にいったのである。
お婆ちゃん、関係無いのかよ!
「この子はモコちゃんと言って、お婆ちゃんに召喚されている妖精さんなんです。
お婆ちゃん動けないから、モコちゃんが代わりに全部やるんですよ」
妖精の介護ヘルパーかよ、斬新だな。そう思い袋の中の金額を確認すると6千5百シリングであった。
65万円か、幻影士って言ってたからもう少し賞金が高いと思ったのに、しょうがない、おそらくは残りの2人がレベルが低いとかなんだろう、装備品は今度鑑定をして売れば良いだろう。
そう思い俺達は、家に戻ることにした。
家に戻ると俺はロンデリックの所で購入した着物に着替えて、囲炉裏の間に廃材で作った日本刀台に刀を置き、同じく廃材で作った甲冑の飾り台に甲冑を飾った。
「さて、これから朝御飯にしょうか、ラナは何か作れるか?」
「簡単な物なら」
「じゃあ頼む、アイリスは購入した物の整理を頼む。俺は少しやることが有るのでな」
そう言って、俺は外に出た。
そして、マジックバッグから出したのは、大量のココナの実である。これはラナがナッソーで購入した物だが、俺はこれはココヤシの実だと発見した。
販売していた商人は、南方から交易の為に持ってきたのだが、管理に失敗し、全てのココナの実を乾燥させてしまい、途方にくれていた所を、ラナが可哀想に思い、格安で購入したのであった。
本来はココナの実は、みずみずしい状態で食べるらしいので、こうなっては、商品にならないらしいのだが、俺にはこの方が都合が良かったのである。
もうお気付きだろうが、俺が作ろうと言うのはココナッツオイルなのであった。
先ずは、ココナの実を包丁で切って……切って……切れない、半端なく硬いじゃねえか!いきなり挫折か……そうだ、朱槍だ!あの必中のスキルならこの硬さも関係無い……はず。
俺はマジックバッグから、朱槍を取り出して、ココナの実を斬ってみた。
ハハハハ、斬れる、斬れるぞ!見たか愚民ども!コレが我が朱槍の力だ!……虚しい、朱槍を包丁か鉈の変わりに使うなんて、スキルの無駄遣いの様な気がする。
次に、簡単に半分に斬った大量のココナの実の白い部分を切り抜き、ボールに集めた……地味な作業だ、一人でやっているから虚しくなる。そして、次はひたすら刷りおろす、刷りおろす!
「御主人様ぁ!ご飯ですよぉ!」
おっ、飯か。アイリスの声に俺は、現実に戻された。
俺は作業を止めて、囲炉裏の間に行くと、朝食が置いてあった。パンとベーコンと目玉焼き、最高じゃないか。しかし、俺一人分しかない。
「アイリス、お前達のは?」
「ラナも居ますし、やはり奴隷と一緒に食事は……」
「アイリス!」
「はっ、はい!申し訳御座いません!……ラナ、御主人様は一緒にお食事をしないと怒られます、これからは皆一緒に、同じ物を食べます。解りましたか?」
「えっ?良いの?」
「良いんです、私達の御主人様は、身分の差等は気にされません、王女を脅迫……」
「アイリス!」
「は、はい、ただいま参ります!ラナ、行きますよ」
「……今、脅迫って」
そう言って二人は、俺の隣に座った。何故だ?いや嬉しいが、こんなに広いのに何故引っ付く。
アイリスは今晩、お仕置き確定だな。しかし今回はあの口移しでハーブティーを飲ませてくれた様にしてくれないんだ。恥ずかしいのかな?まぁ今晩だな。
「所でアイリス、今日からラナにルタイ語を教えてくれ。毎回通訳するのは、何かあった時に不便だ」
「解りました」
「それと明日は1日休みを取り、明後日にレンヌに行って、ロンデリックの所に行き、国王の所に行く。家の礼を言わないと、いけないからな」
「そうですね」
「所でラナ、頼んでいた戦の件はどうだった?」
「この辺りでは、暫く大きな戦は無さそうです。ただし小競り合いは、結構頻発して有るみたいですが、その場所の情報は、仕入れておきました」
「アイリス、戦の事は知っているか?例えば戦術や、軍の陣形の内容とかだ」
「……戦術?陣形?何ですそれ?」
まさか無いのか?100年近く戦をしているなら、誰か考えそうな事なんだが。
「じゃあ戦をする時は、作戦なんか無いのか?」
「有りますよ、目標を決めてそこまで行軍していき、ワーっと皆で攻めて占領するのです。途中で軍同士が出合うと、皆で攻めてごちゃごちゃに、なりますけどね」
つまりは陣形も戦術も無いと言う事か、乱戦になり生き残ったら勝ちみたいなものか。
そんな戦は、死亡率も高いし、俺は行きたくない、第一そんなのは戦じゃ無くただの子供のケンカだ、美学もへったくれもない。
それが嫌なら、一軍を率いる将になれと言う事かな。若しくは、奴隷や仲間を集めろと言う事か。
俺達は朝食を食べ終わると、俺はココナッツオイルの作成に戻った。
大量に刷りおろしたココナの実を、釜戸でひたすら蒸す。この間だは暇なので、竹を斬り、片方の節目に穴を開け手製の水筒を作った。竹は色んな物に使えるので、この竹林はかなり助かる、後で門も作るか。
刷りおろしたココナの実は、蒸した事で、かなり柔らかくなっていた。俺は刷りおろしたココナの実をタオルにくるみバケツの上で絞ると、ココナッツミルクが勢いよく出てきた。
甘い匂いのココナッツミルクの匂いだ、だがこれは量が多いし大変だぞ。
ん?後ろから視線を感じる……まさか?そう思って俺が振り返ると、アイリスとラナが顔だけピョコンと出していた。甘い香りにつられて見に来たのか、可愛いだろこのやろう。
「御主人様……何を作っているのですか?」
「ココナッツミルクだ、一緒にやってみるか?」
「はい!ラナ、御主人様が一緒にやってみるかって」
「やる!」
そう言ってやって来た二人に、絞りたてのココナッツミルクを、コップに入れて渡した。
「飲んでみろ」
「凄く良い香りですね……そんなに甘くないので美味しい」
「ホントだ、美味しいです!」
二人は、ココナッツミルクを飲んで感動していた。
「良かった、これはココナッツミルクと言う物だ。とりあえずこの蒸したココナの実を、皆で絞ろう」
「はい!ラナ、この蒸した実を皆で絞るのですよ」
「はぁい!」
やはり3人で作業をすれば早かった、みるみる内に、バケツにココナッツミルクが、溜まっていたのだった。
「次は、どうするのですか?」
「次は、ただ煮詰めるだけだ。
鍋にココナッツミルクを入れて、煮詰め、少なくなって来たら、継ぎ足し更に煮詰める、ただそれだけだ。ただし灰汁が浮かんできたら、取らねばならんがな……二人でやってみるか?」
「はい!ラナ、一緒にやりましょう」
「うん!」
そう言って二人は、ノリノリで始めたのであった。あいつら、ココナッツの料理だと思っているのかな?……まぁ良いか、この間に門でも見てこようかな。
そう思い、馬に乗り家から麓までの道を見てみた。
ちゃんと何回も曲がり角が作られて、伐採された竹で両端に背丈程の壁が出来ている。これなら襲撃があっても、壁に隠れて攻撃が出来る。
アイリスの話だと、力押しで来る戦術しか無いようだから、これでも十分だろう。後は門の扉だが、またヨラムに作ってもらうか、手作りだな。
道も今度、地中の竹の根を出して、進軍しにくい様にもしないとな。竹の皮を剥いで道に並べて水で濡らすのも良い、滑ってなかなか家まで来れないだろうし、そこを弓矢で仕止めるのも良い。まぁこれは全部、天正伊賀の乱で、伊賀忍びが使用していた方法なんだが。
そう思い麓に来ると、荷馬車の前でうろうろと、入ろうか悩んでいる男がいた。
そう言えばベッドを購入して、配達もお願いしていたな、とりあえず話し掛けてみるか。
「おーい!この家に、配達か?」
あっ、驚いた。
「私は、ここに配達で来たのですが……人が本当に、住んでいらっしゃるのですか?」
人の家を、悪魔城みたいに言うなよ。
「住んでるぞ、こっちに運んでくれ」
俺がそう言うと、意味が解らないと言った感じで、商人は立っているままであった。
あぁぁぁ!めんどくさい!こんなに言葉が通じないのがめんどくさいとは、思いもよらなかったな。
とりあえず俺は必死に、こっちに来いとジェスチャーを頑張ってみた、これでもダメなら、アイリスを呼びに行くしか無いな。
おっ、何だか不安な顔つきだが、着いてきたな、これでなんとかなるか。
そして、家に到着すると俺は、台所でココナッツミルクを煮詰めている、アイリスに言った。
「アイリス、ベッドが到着したぞ、寝室とかに運ぶ様に指示してくれ!」
「解りました!」
そう言うと、アイリスは玄関に行って商人に指示を出していた。
俺はココナッツミルクがどうなったのか気になり、ラナの所に行って鍋を見てみると、かなり煮詰まり黄金色になっていた。
「ちゃんと灰汁も取っているな、感心、感心」
「じつは灰汁の意味が解らなくて、当てずっぽうでやったんですよ」
「そうなのか、まぁ結果オーライだ……ん?ラナ俺の言葉が解るのか?」
「まだ難しい言葉が解らないのですが、なんとなく解ります。アイリスの通訳を聞いていたので、なんとなく解ってきていたので」
「そうか、それでもかなり楽になるな」
「そうですね、これでアイリスがいなくても、二人で楽しめますね」
おいおい、アイリスが聞いたら怒るだろう。俺はいつでもウエルカムだが。
「所で、この煮詰めているのって何ですか?」
「ココナッツオイルと言う物だ、これで髪と身体を洗う物を作る」
「こんなので作ったら美味しそうですね、思わず食べちゃいそう」
そう言ってラナは、笑って言った。
……はい、今晩にでも頂きますとも。
もうそろそろかな?煮詰まり、水分が殆ど無くなっている様に見えた。俺は鍋を釜戸から冷水に浸して、熱を冷ますようにした。
「これで暫く熱を冷ますんだ。そろそろ晩御飯の下準備に取り掛かるか、今日は俺の手料理だ」
「有難う御座います、お手伝いしましょうか?」
「そうだな頼むよ、じゃあ魚の鱗を取って、内蔵も取ってくれ」
「解りました!」
そう言ってラナは、魚の処理を始めたのであった。なんか良いなこれ、新婚みたいで。
……しまった!新妻と言えばエプロンじゃないか!しょうがない明後日にロンデリックの所で買うか、エプロンはさすがに売っているだろう。
そう思いながら、俺はアイリスとラナの裸エプロンを脳内妄想で、襲っていたのであった。