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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
86/464

執事とメイド

 


 東暦元年、11月28日。

 ザルツ王国の王女リリアナは、久し振りにパンドラに会いに、左近衛府の前にやって来ていた。


 彼女は、ザルツ王国の内戦の時に、パンドラに会ってから、パンドラを気に入り、言われた様に、心を入れ換えて、父親のゲハルト国王の仕事を、勉強していたのであった。


 久し振りに、パンドラに会える。

 そんな、初めて出来た友人に、久し振りに会えると言った気持ちで、左近衛府にやって来たのである。


「いらっしゃいませ、リリアナ様」

 そう言って、馬車から降りたリリアナを出迎えたのは、バスティと整列したメイド達であった。


「うむ、ご苦労」

 ここの使用人達は、本当に素晴らしい。

 我が王国も、ここまで行き届いた教育を見習いたいものだ。

 そんな事を、思いながらも、リリアナは、バスティの元に行ったのであった。


「リリアナ王女様、お久しゅう御座いますな」

 一礼してバスティは、リリアナに言ったのであった。


「うむ、息災だったか、バスティ。今日はパンドラに、会いに来たのだが、居るか?」


「はい、おられます。ただ今のお時間は、剣術の稽古中で御座います」


 剣術の稽古?誰だろう?左近衛大将と、やっているのかな?

「そうか、左近衛大将殿とか?あのパンドラと同じぐらい強いのは、父親の、あの者しかおるまい」


「いえいえ、それが珠様の旦那様で、御座います。

 ちょうど裏手におられますので、ご案内いたしましょう」

 そう言ったバスティとリリアナは、歩きだしたのであった。



「なぁバスティ、珠は結婚していたのか?」


「それが、先日親族会議が開かれるほど、大問題になっておりまして。

 実は、お恥ずかしながら、珠様は御館様が戦に行ってる間に、勝手にルタイ皇国の剣士様と、結婚されておりまして、その剣士様は、行方不明になっておられたのですが、つい先日現れたのですよ」


「それは、父親の左近衛大将も怒るだろう」


「かなり怒っておりまして、各騎士団の団長が見守る中での、親族会議だったのです。

 もちろん、団長を入れたのは、御館様が暴れた時の為ですよ」

 そう言ったバスティは、本当に楽しそうに言ったのであった。


 リリアナは、パンドラやバスティ、テスタの事は、かなり気を許していた。

 ちゃんと敬意を払いながらも、それでいて親しく接するこの者達は、何も要求してこないし、何も裏が無いとリリアナは、感じられるのだ。

「ハハハ、何だかその光景が目に浮かぶ様だな。

 でもパンドラが剣術を稽古するって言っても、あの強さだし、かなう者など、いないだろう?」


 そう言うとバスティは、急に立ち止まり、辺りを見渡し、誰もいないのを確認して、リリアナに小声で言ったのであった。

「リリアナ様、ここだけの話ですが、姫様は珠様の旦那様と戦い、瀕死の重傷を負って、ぺスパードのニーナ陛下の元に、運び込まれたのですよ」


 その言葉を聞いたリリアナは、とても信じられないと、言った顔をして言ったのであった。

「そんなにか?」


「はい。

 その後も、何度か挑まれましたが、全て圧勝されました」


 一体何なんだ、この一族は?

 珠の夫まで、その様な者とは……お父様が、左近衛大将の一族を欲しがるのも分かる。

 誰か一人でも、我が国に居れば、それは勇者なんかより、かなりの戦力になるからな。

「テスタは、どうした?アイツは、パンドラがそんな事をされれば、ぶちギレて真っ先に飛んでいくだろ?

 アイツはパンドラの事になると、親や恋人以上に大事にするからな」


「最初にやられた時に、飛んで行こうとして、姫様に怒られておりました。

 姫様は、自分以外の者に、仇を取ってもらうのは、恥だと思っているようですな」


 さすがは、パンドラだな。私が認めた者のことだけはある。

 そう思っているリリアナに、パンドラに怒鳴りつける声が聞こえて来たのであった。


「パンドラ!何だその腰は!相手がいると思って、木刀を振れと言っているだろう!

 それに先程から、スキルを使って楽をしておるだろ!面討ち百回追加!」



「もしかして、あれか?」


「その通りです」

 そう言ったバスティを尻目に、リリアナは建物の陰から、覗くとそこには、胴着を着て木刀を振るパンドラと、同じく胴着を着た大きな侍。

 そして、優雅にお茶を楽しみながらそれを見物する、左近達、佐倉家のメンバーがいたのであった。


 何だあれは?娘がやられているのに、何でみんな優雅にお茶しているんだ?

 そう思ったリリアナの視界に、その奥で親指の爪を、悔しそうに、鬼の形相で噛んでいるテスタがいたのである。


 お、テスタがキレてるよ……しかも尋常じゃないぞあれ。

 殺意のオーラが出ている。

 そう思っているリリアナは、怒りを我慢しているテスタに、注目していたのであった。


 そして、そのテスタはと言うと。

 殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる!よくも私の愛する姫様に、あの様な事を言って。

 これが珠様の夫でなければ、即殺してやるのに!

 珠様の夫だから許す?否!

 そうだ、珠様の夫だろうが関係無い、御館様と姫様のいない所で、殺してやりますわ!

 我が愛しの姫様を、愚弄した事を、後悔させてくれよう。

 そう思いながら、憎しみのこもった目で、睨み付けていたのであった。


 その時である、兵庫がクルリとリリアナとバスティの方向を向いて、言ったのであった。

「誰だ、先程から盗み見とは、感心せんな」


 兵庫がそう言うと、恐る恐る出てきたのは、バスティとリリアナであった。

「申し訳御座いません、兵庫様。稽古の邪魔になると思いまして。

 こちらは、ザルツ王国のリリアナ王女様で御座います。

 リリアナ様、こちらは、珠様の夫の柳生 兵庫助 利厳様で御座います」


「ザルツ王国の王女リリアナで、御座います」

 そう言うとリリアナは、貴族らしく、スカートをつまみ上げて、御辞儀をしたのであった


「某、柳生 兵庫助 利厳と申します。生憎と大陸の言葉は、まだ分かりませんのでご容赦下あれ」

 そう言うと兵庫は頭を下げて、バスティが通訳し、リリアナは笑顔で頷いたのであった。


「所でバスティ、お前ちょっと手伝え」


「私がですか?」

 兵庫にいきなり話を振られて、少し驚きながらバスティは言ったのであった。


「そうだ。このパンドラは、どうも相手がいないと、やる気が出ない様なんだ。

 そこでお前が、そこの防具を着けて、適当に当たらない様にかわしながら、パンドラの相手をしてくれ。

 パンドラ、竹刀に持ち代えろ」


 この兵庫の言葉を聞いて、バスティは暫く考え、何か良い事を、思い付いたかの様に、言ったのであった。

「それでしたら、このテスタが適任かと思います」


「テスタが?確かに女にしては、腕は立つ様だが、大丈夫か?」


「大丈夫です、私にお任せ下さいませ」


「そうか、じゃあテスタ、お前があの防具を着けて、パンドラの前に立て」

 兵庫にそう言われて、明らかに、ムスッとしたテスタの元に、バスティがやって来て、テスタに囁いたのであった。


「テスタ、貴女は、姫様の練習台に、なれるのですよ。

 それと、私から1つアドバイスです。貴女の得意な事を、よぉく考えて、練習台になってみなさい」


「練習台に……かなり良い響きですが……まぁ、バスティがそう言うのなら……」


 そう言ったテスタは、渋々と防具を手に取り、面を着けようとすると、男の汗の臭いが染み付いた面に、明らかに嫌悪感をむき出しにして、兵庫に言ったのであった。

「兵庫様……これ、洗濯していますか?」


「バカ者、そんな大きな物が、洗濯出来るわけ無かろう。

 早く着けて、こっちに来い」


 クソ、これが愛しの姫様や、御館様の汗なら、私は喜んでかぶろう。

 いや、むしろ私が頬擦りし、舐め取っても、良いぐらいだ。

 それを、何処の誰かも分からない者の、汗に包まれるなど……こんなにも、おぞましい事は……でも姫様の為、私の姫様に対する愛は、こんな事では、負けん!

 そう思いながらテスタは、防具を着けると、バスティが近寄って来て、言ったのであった。


「良いですかテスタ、何事もイメージですよ、全ては妄想の先にあるのです」


「い、意味は分かりませんが、とにかく分かりました」

 そう言って頷いたテスタは、パンドラの正面に立ったのであった。


 ウッ、このむせかえる誰か分からん、他の男の汗の臭いが、私を包み込み、鼻の奥まで私を、蹂躙している様だ。

 吐き気がする、気持ち悪い……知らない男に抱き締められている様な、この嫌悪感、とても耐えられない。

 そう思い、今にも泣き出しそうなテスタに、無情な兵庫のゴングが、鳴らされたのであった。

「それでは、面討ち百本、始め!」


「せいや!」


 ああ、姫様が私に打ち込んでくる……この他の誰かに、凌辱されている私に対して……そうだ、かわさねば。

 そう無意識に思ったテスタは、パンドラの竹刀を、難なくかわしたのであった。


「テスタァ~」

 そう言って怨みの目でテスタを睨む、パンドラにテスタは、胸を高鳴らせたのであった。

 こ、これは、まさか!


「こらパンドラ、そんな腰の入っていない打ち込みで、当たると思っているのか!後二回外したら、百回追加だぞ!」

 兵庫に言われて、パンドラはテスタに、殺気の入った一撃を食らわせようと、構えたのであった。


 こ、これよ!まるで他の誰かに、抱かれているのを、姫様が殺気を込めて、私に折檻する様な感じ。

 そうか、バスティがイメージしろと、私の妄想力をフル活用せよと言って、譲ってくれたのが分かった。

 さぁ姫様、来て下さい、この他の誰かに抱かれている私を、激しく折檻してください。


 そう思っているテスタに、一瞬でパンドラの面が脳天に入ったのであった。


 あぁ、これ……今まで求めていたのは、これです。

 もう少しで、イキそうだけども、もう少し上が有るような……そうだ、スキルを使ったら、姫様怒るかな?

 ……使ってみよう


 そう思っているテスタとは違い、パンドラは真剣だったのだが、兵庫は更に、テスタの喜びそうな事を、言ったのであった。

「何だパンドラ、それがお前の本気の一撃か?もっと本気を出せ!無理ならこの場で、俺がまた相手をしてやろうか?」


「バカにするなぁぁ!」

 そう言って打ち込んだパンドラの一撃は、今までで最高の一撃はであった。テスタがスキルを出さなければだったのだが。


 ザ・ミラー



 お、良い太刀筋だ。

 左近が思わずパンドラの太刀筋を見て、そう思った瞬間、スパーンと言った音と共に、パンドラが頭を抱えて踞ったのであった。


 え?何で?

 その場に居た全員が思った事であった。

 攻撃されたテスタは、全然平気そうなのに、攻撃した側のパンドラが、ダメージを受けていたのである。


 そして、その左近の疑問をバスティが答えたのであった。

「あれは、テスタのユニークスキルのザ・ミラーですね」


「どんな、スキルだ?」


「まさに、絶対防御のスキルです。

 自身に攻撃を受けると、攻撃をした側がダメージを受けると言うスキルです。

 例えば、あのスキルを使用したテスタの首を斬りつけると、斬った者の首が斬れ、テスタは無傷と言ったスキルです。

 しかも、意地の悪い事にテスタは、当たる直前に、防具の一番薄い部分で、姫様の攻撃を受けたので、あれは痛いでしょう」


 マジかよ、テスタの大きな鎌に注目していて、全く気が付かなかった……そんな、スキルは最強じゃね?

「バスティ、もしかしてパンドラより、テスタの方が強いのか?」


「まさか。テスタや私よりも姫様がお強いですよ。

 私のスキルは、アクセルと言って尋常では無い動体視力と、それに対応する肉体の強化と速度を上げるスキルですが、あの姫様には、全く歯がたちません。

 姫様が得意とするのは、重力制御グラビティ・コントロール原子制御アトミック・コントロールです。

 私も理論は分かりませんが、重力と原子と言う物を操る様ですね。

 ……そう言えば、姫様が「お父様に教えて頂いた知識の中に、私のスキルの答えがありました」と、喜んでおられましたよ」


 重力と原子を……アイツ、滅茶苦茶なスキルを持っているな。

 それに加えて、俺のスキルだろ……パンドラ、剣を習わなくても、兵庫を倒せるんじゃね?

 そう思っていると、アイリスが左近に聞いて来たのであった。

「ねえねえ、その重力とか原子って何?」


「難しいなぁ……聞きたい?」

 左近がそう言うと、その場全員が大きく頷いたのであった。


「そうだな、まずは重力からだが、このティーカップを持ち上げて、手を離したらどうなる?」


「……下に落ちるだけ」


「そうだな、セシルの言う通り、下に落ちるだけだ。

 でもな、このティーカップが下に落ちる見えない力が、重力って力なんだよ。

 パンドラは今までで、空を飛んだりしていた……って事は、空を飛んでいたのでは無くて、その力を操り、空に落ちていたと言うのが、正解だな。

 それで今までで敵を、ボールの様にしていた事と、空に浮いたりしていた事を考えると、その重力の強さも操れるって事だ」

 あ、あかん、全員が理解不能の顔になっている。


「……じゃあ原子は?」


「原子か……説明が難しいな……

 この世の全ては、原子と言った、砂よりも小さな粒で出来ているんだ……分からないよな、まぁ今度そう言うのを、勉強したい人だけ教えてやるよ」


 左近がそう言っている間に、パンドラは立ち上がり、テスタを睨み付けて言ったのである。

「テ~ス~タ~」


 これです、この目です、さぁ姫様、私に最高の一撃を下さいませ。

 そう思っていた、テスタに最高のスパイスが加わる事になったのであった。


 怒りで我を忘れて、飛びかかったパンドラの背後から、兵庫の霊剣が薙ぎ払われたのである。

 パンドラは、そのまま吹き飛ばされ着地すると、脇腹を押さえて、兵庫を睨み付けたのであった。

「何だその目は、怒りに囚われるな!怒りを内に秘め、頭は冷静になれ!」


 パンドラは兵庫にそう言われると、目を瞑り息を静かに吐くと、再び目を見開いた時には、そこには瞳の奥に静かな狂気を秘めた、パンドラがいたのである。


 姫様の殺気が無くなった?

 いや違う、より洗練された殺気になったんだ。

 最高ではないですか!兵庫様は、こう言った姫様を育てたいのか……この状態の姫様に折檻されたら、想像しただけでもう……


 そう思っているテスタにパンドラは、今までに無い程のキレとスピードの一撃を、打ち込んだのであった。


「あっ……」

 微かに漏れる、テスタの快楽の声を、左近の地獄耳は、聞き逃さなかったのであった。


 今の声……テスタか?何だか、あの最中の様な、快楽の声の様だが。

 ん?あの防具の下のテスタの顔は、あれは感じている顔じゃ……まさかとは思うが、テスタはそっちの属性が有るのか?

 そう思っている左近に、バスティが小声で左近だけに聞こえる様に、耳元で言ってきたのであった。


「どうやら、御館様は、お気付きになられましたか?」


「お気付きに?……やはり、そうなのか?」


「はい。

 ただし、相手はパンドラ様と、御館様に限定されますが」


 お、俺もかよ!ドMのメイド、それはそれで、最高なんだが。

 すまぬテスタよ、俺はまだ、そこまでのレベルでは無いんだ、精進するので、それまで待っていてくれ、師匠。

 左近は、そう思いながら、目頭を押さえていると、後ろの建物の中で、他のメイドがざわついているのに、気がついたのであった。


「バスティよ、あの後ろのメイド達は、どうしたのだ?」


「あれですか、おそらくテスタを応援したいけど、仕事があるので、隠れて応援しているのでしょう。

 テスタは、メイド達にお姉様と呼ばれて、人気があるので」


「ほう、あのテスタが……確かに、黙っていれば美人だが、メイドとしては、結構失敗をやらかす、危なっかしい奴なのにな」


「ああ、それね。

 実はですね、他のメイドが失敗しても、「分かった、これは私の責任だ」って言って、自分がやったと、パンドラ様や御館様に報告するので、メイド達から慕われているのです」


「何だ、性格のキツそうな顔をしているが、良い所があるじゃないか」


「本当に、そう思いますか?」

 そう言ったバスティは、何か言いたそうであった。


 何だよ、何か有るのか?……まさか!俺やパンドラに、自分がやったって報告するのは、怒られたいって欲望の為か?

「まさか……」


「はい、そのまさかです」

 そう言ったバスティは、爽やかな笑顔で言ったのであった。


 知らなかった、テスタがそんなに、ドMだったとは。

 あの外見からじゃ、どう見ても女王様のドSだと思っていたのに……今度から心の中で、師匠と呼ぼう。

 そう思っている左近に、バスティは驚くべき事を言ったのであった。

「テスタは、御館様に報告しても、「気にするな、次から気を付けろ」しか言われないので、毎回かなり落ち込んでいました。

 ですが御館様、今後もその方針でお願いします。変にフォローとかは、要りませんので」


 バスティの奴、変な事を言うな……まさか、テスタをこんな性癖に誘導したのは、バスティで。

 この俺の反応の事も、利用する気じゃ無いだろうな!

 思わず左近が、バスティを見上げると、バスティは笑顔で言ったのである。

「はい、その通りで御座います」


 あ、侮っていた……

 俺はバスティの事を侮っていた。このジジイは、知らない内に変わった性癖に調教する、闇の調教師だったのか……こいつこそ、真の神だ。

 こいつ……いや、この御方に、俺はついていこう。

 そう思いながら、左近はバスティを拝みたい気持ちを、必死に抑えていると、後ろからアデルの声がしたのであった。

「……館様……御館様!」


「うお!……何だよアデルか。すまん、ちょっと考え事を、していたのでな」


「そうでしたか。実は、魚が動く日が分かり、その出所も分かりました」


 例の襲撃の日程と、依頼者か。

「分かった、明日にでも、鶴と小次郎を俺の執務室に来るように、伝えてくれ」


「承知」

 そう言うとアデルは、そのまま消えたのであった。


 あ、明日は弾正が来るんだった……まぁ襲撃事件も有るから、ちょうど良いかも知れんな。

 そう思いながら、左近は紅茶を飲みながら、ふとリリアナを見ると、何だか気まずそうに、座っていたのである。


 リリアナの奴、何で気まずそうに、座っているんだろう?俺が原因かな?

 そう思いながら左近は、リリアナに聞き耳を立てていると、リリアナはセシルとセシリーに、小声で話し出したのであった。

「その……二人に、話があるんだが」


「……何?」

 そう言ったリリアナに、セシルは冷たく言い、セシリーは無視していたのであった。


「小さな頃から、お前達を虐めていて、本当にすまなかった。

 心から謝罪する……もちろん、お前達が許してくれるとは、思ってもいない。

 あの時の私は、王女と言う地位を利用して、本当にお前達に、酷いことをしたと思う。

 その怨みを晴らすためなら、何をしてくれても、かまわない」


 その言葉を聞いたセシリーは、顔を違う方向に向けてはいるが、その拳に力が入っており、セシルも怒りで、身体をプルプルと震わせていた。

 だがセシルは、目を瞑り、静かに息を吐くと、言ったのであった。

「……もう良いよ、色々は事があったけど、結果私達はこんなにも素敵な夫に出会えて、今の貴女よりも幸せだし。

 セシリーも許してあげて、良いよね?」

 そうセシルが言うとセシリーは、顔を背けたままで、頷いたのであった。




 そうか、二人はリリアナから、虐められていたのか。

 でもどうやら、リリアナは、本当に心を入れ換えた様だな。

 後は時間が三人の仲を、何とかしてくれるだろう。

 そう思いながら左近は、パンドラの稽古を見ていたのであった。




 ―――――――――




 翌日、早朝から執務室にやって来たのは、弾正であった。


 何で朝からこんな、ジジイの顔を見なけりゃならんのだ……呼び出したのは、俺だけど。

 そう思いながら左近は、クロエや天井の桐に出ていく様に言うと、二人っきりの部屋で、弾正に言ったのであった。

「なぁ弾正、今日来てもらったのは、お前に聞きたい事があったからだ」


「どうした、ラナちゃんをくれるのか?」


「聞きたい事がって言っただろ……それにラナは、やらん。

 俺が聞きたいのは、火薬の存在だ。先に、この世界に来ていたお前なら、鉄砲隊を創設しようと考えたはずだ。

 それが何故、鉄砲隊がいないんだ?」


 左近が聞きたかったのは、火薬の存在であった。

 左近は、おばちゃん神様から言われた、文明のレベルを上げるのを、考えていたのである。

 それは、世界三大発明と言われている、活版印刷と火薬と羅針盤の存在であった。

 活版印刷は、すでにぺスパード王朝が、発明している様なので、火薬の存在を知っている弾正に、聞いたのである。


「それか……ワシもお前の言うように、鉄砲隊の事は考えた。でもな、この世界に硝石が無いんじゃよ。

 ルタイ皇国で、硝石が無い事は、予想はしておった、何せ日の本とそっくりじゃからの。

 でもな、床下や便所の所にある黒土で、硝石を作ろうとしても、何をやっても、硝石が出来なかったのじゃよ」


「硝石が無い?」


「そうじゃ、この世界に魔法の様な、訳の分からない物が有るように、どうやら、ワシ等の世界とは少し理が、違うかもしれんの。

 それにほれ、あのオリハルコンや、ミスリルと言った物は、ワシ等の世界には無かったじゃろ?」


 確かに、弾正の言う通りだ。

 前の世界には、オリハルコンやミスリルと言った物質は、無かった。

 俺は今まで、前の世界の原理や物質は、普通に存在すると思っていたのだが、本当は違ったかもしれない。

 これは、戦略を一から立て直さなくては、いけなくなるな。

「他に硝石の情報は、知らないか?」


「聞いた事が無いの…でも大陸の事は、ワシよりお主の方が、知っているであろう」


「そりゃそうか。

 そうだ、話は変わるが、弾正お前、俺の親戚が集まっている、三角州の村を知っているか?」


「おお、あのお前の農園が、在る所じゃろ?」


「そうそう、その村だ。その村が今度、襲撃されるそうだ」


「な、なんじゃと!こうしてはおれん、警備を強化して……」

「まぁ待て弾正。こうして俺が知っているのは、どうしてだと思う?」

 そう言った左近は、悪人の様な顔で、笑みを溢したのであった。


 弾正は、暫く考えて何かを察したのか、驚き言ったのであった。

「小僧、お主まさか……」


「そのまさかだ、襲撃犯は、この世から退場して頂く。

 何も問題はあるまい、これは正当なる防衛。そう、正当防衛なんだからな。

 まぁ犯人が死んでしまうのは、たまたまだ」


「その様子じゃ、犯人の目星はついている様子じゃの」


「ああ、犯人はどうやら、甲賀者らしい。まぁ命令した者に、警告はするがね」


「……今回の件は、目を瞑るが、命令した者は、間違っても殺すなよ。

 小僧を狙うとなれば、それ相応の地位の者じゃ。その者を殺せば、大なり小なり、混乱が起こるじゃろ」


「ああ、分かってるよ。だが、こちらも被害が出たら、もしかしたら、そいつは、大きな鴉に食われちまうかもな。

 まぁ弾正よ、今日はありがとうな。また硝石について、何か分かったら教えてくれ」


「分かった、調べてみよう」

 そう言って弾正が立ち上がり、何かを考えて、左近に言ったのであった。


「そう言えば、ワシは後世、どの様な評価を受けておった?」


「そうだな、日本三大梟雄と言われていたな。

 美濃の斎藤 道三と、関東の北条 早雲で、お前だ」


「ハハハ、これは大層な名前と同列か。

 ……のう小僧、お主はこの世界で、大きな功名を成して、その名は天下に響いた……ワシは、この世では、ちっぽけな存在じゃの」


「そうか?お前も、結構有名人だろう?」


「のう小僧、実はワシに息子がおる、大和の信貴山城で名を久恒と言う。

 高取城におられる、大和守護の島 大和守 清勝殿の家臣じゃ……ワシに何かあれば、久恒を頼む」


 おいおい、これは死亡フラグだろ。

「弾正、心配するな、お前は殺しても死なんからな」


「全くこの小僧は、人を化け物の様に、言いおるわ」

 そう言った弾正は、笑いながら左近の部屋から、出ていったのであった。



 弾正め、化け物の様にじゃ無くて、化け物だろうが。

 まぁとりあえず、問題は硝石だな。

 硫黄温泉が在るから、硫黄は大丈夫だろう、鉛は無ければ、何かで代用すれば言い話だし、炭はもちろんあった。

 やっぱり最大のネックは、硝石か。

 作るのが無理なら、鉱石で無いかな?今度ロビンに、何でも鉱石を持って来させるか。

 そう思っている左近の元に、クロエがノックして入って来たのであった。

「失礼します、鬼島大佐と小次郎様が、おこしになられました」


「お、そうか入ってくれ」

 左近がそう言うと、鶴と小次郎が入って来たのであった。


「えっと、二人は初対面だよな?」


「そうですけど、先程小次郎殿と、秘書室で挨拶を、させていただきました」


「そうか、ならば話は早い。小次郎、説明を頼む」


「へい。

 襲撃の決行日は、12月3日で雨ならば、10日に延期だそうです。

 人数は、こちらが4名で、甲賀者は16名の合計20名です。

 計画はこうです。村は橋を渡って、農園の先にあり、出入り口は1ヶ所しか無く、回りは高い塀に囲まれているので、その出入り口を押さえるのに、風間一族が2名、二本の橋に1名づつで、実行部隊に甲賀者16名が行くそうです。

 これは、我等が個人での戦いに、優れていると言った、噂の為でしょうな。

 それで、奴等が放火するのは、風向きも関係するでしょうが、奥の湖側から放火するそうですね。

 そして、炙り出され出てきた所を、我等が殺すって段取りです」


 なるほど、この作戦、味方の得意とする所に配置した、中々に優れた作戦だ。

「で、どうやって迎撃する?」


「この村は、道は狭く、曲がり角は多く、まるで迷路の様になっております。

 甲賀者は、奥の湖側から火をつけるので、中に入り暫くして出入口を板をはめ込み、行き止まりにして、更にそれを数ヶ所作ります。

 そこで甲賀者が通る壁の穴から、毒のついた吹き矢と槍で、奴等を殺します。

 一応念のために、腕の立つ者を、各建物に忍ばせますので、建物の内部に逃げ込んでも大丈夫です。

 それに、火をつけられたとしても、建物はすぐに取り壊せる様に、外側しか作っていないので、延焼は防げます。

 ですが問題は、川に面した所が数ヶ所壁が無くて、川に降りれると言った所です。

 そこから逃げられたら、私達はお手上げですね」


「そこは我等、鬼島水軍に、お任せあれ。

 だが、川からの侵入の可能性は、無いのか?」


「そこは大丈夫です。

 何せ大事な種火が、濡れてしまっては、大変ですからね。って訳で、水中に逃げられる可能性があるのは、逃走する時です」


「なるほど、では我等の策も説明しましょう。

 船体を黒く塗った中型の船1艘と、小型の船2艘で編制し、それを4組作ります。

 そして2つの川の、川上と川下に配置し、川の中に釣り針を取り付けた網を沈めます。

 いくら甲賀者は、水中が得意でも、水中で呼吸できる種族は、おりません。

 そこで、空気を吸うために出てきた所を、銛でズドン……更に水中のリザードマンに水中から、銛でズドン。

 以上です」


 これまた、鶴の奴は簡単に言うよな。

 でもこれなら何だか上手く行きそうだな。

「これなら、大丈夫だろう。で、この騒動の黒幕は誰だったんだ?」


「いやそれが、蒲生 弾正尹 忠輝様だったんでさぁ」


 弾正尹が?俺は、てっきり武蔵守か大政大臣だと、思ったのだが。

 だがこれで、きっちり落とし前を、つける相手が分かったな。

「分かった、弾正尹の方は俺が、きっちり分からせてくるよ」


 そう言った左近は、また悪党の顔をしていたのであった。



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