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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
81/464

とある二人の関係

 



 東暦元年10月15日、レイクシティ軍属区画。

 ここは、文字通り連合軍の関係者が暮らしており、佐官以上は邸宅で暮らし、尉官は専用の住宅が割り当てられ、それ以外は、兵卒専用の住居で、暮らしていたのであった。


 その中で佐平次は、何故か兵卒の住居で、暮らしていたのである。

 彼からすれば、元々が下級武士の為に、大尉の住居より、この狭い兵卒住居の方が、落ち着くのであった。


 ん?この匂いは?

 ベッドで寝ていた佐平次は、何やら美味しいそうな匂いで、目が覚めたのであった。


「すまない、起こしたか?」

 そう言ったのは、台所で朝食を作っている、クリスティーナであった。


「お早う御座います、今日は休日ですので、家でゆっくりとされれば、宜しかったのに」


「お前は、休みだと、一日中寝ておるだろうが。それに、大切な話もあったのでな……」


「大切な話?」


「まぁ、朝食を食べてからでも、良いだろう」

 そう言った、クリスの言葉には、幸せそうで、何処か不安が入り交じっていたのであった。


 何にか、あったのだろうか?

 そんな事を考えながら、新妻の様に、楽しく朝食を作るクリスを眺めながら、佐平次は服を着替えたのであった。


 しかし、あの左大将。

 俺を取り立ててくれた事には、感謝はするが、何でクリスティーナさんの配下にするかな。

 これでは、結婚を申し込んでも、俺は永遠に、クリスティーナさんに頭が上がらないじゃないかよ。

 俺の理想は、自分の妻を、俺が引っ張っていく、亭主関白が理想なのに…何だか、悪意を感じる……

 そんな事を思いながら、佐平次は椅子に座ると、クリスはテーブルにスクランブルエッグとベーコンとパンを置いて、紅茶を入れたのであった。


「今日は来る途中に、軍属区画の市場を見たら、卵が安くてな。

 それに、ナッソーの商人も来ていたので、アッサムを買ったんだよ」


「有り難う御座います。アッサム?ああ、あの左大将…じゃ無かった、閣下が紅茶と言われている、姫様がいつも飲んでいる飲み物ですか?」


「そう、その紅茶だ。

 多分閣下は、この色が紅いから、紅茶と言っているんだろうが……所で茶って何だろうか?」


「茶と言うのは、ルタイ皇国の飲み物ですよ。色々な種類があり……あ、本当に香りは違うけど、お茶に近いかも。

 香りは、俺はこっちの方が好きだな」

 紅茶を一口飲んだ佐平次は、そう言ったのであった。


「そうか、良かったよ。さぁ朝食を食べよう」


「いただきます」

 そう言って、食べ始めた佐平次を、クリスはジッと見つめていたのであった。


「どうかしましたか?」


「いや、お前達ルタイ人って、食べる前に絶対に「いただきます」って言うなぁ、って思ってさ」


「確か、幼い時に、母から言われたのですが、食事をすると言う事は、命をもらうと言う事になるのは、当たり前ですが。

 その他にも、作った人や、取ってきた人に感謝し残さずに食べなさいと、言われておりました。

 その感謝の意味で、「いただきます」と言うんじゃないでしょうか」


「……なるほど、素晴らしい考えだな。

 では、私もこれから言うとしよう。いただきます」

 そう言ったクリスは、手を合わせて言ったのであった。



 ―――――――――



「なぁ佐平次、この部屋は狭くは無いのか?階級も大尉になった事だし、尉官専用の住居に、移れば良いだろう」

 そう言ったクリスは、食器を片付けながら言ったのであった。


 クリスが言ったのも無理は無かった。

 この部屋は、兵卒の住居で、ベッドのある6畳の部屋と、台所のある6畳のダイニングキッチンのみであった。

 もちろんトイレは共同で、風呂はこの世界では、一般的では無かったのだが、銭湯が各地に作られており、水は近くの井戸からの汲み上げ式だったのだが、他の都市は、糞尿を道端に捨てるなどしていた為に、まだ他の都市より、快適であったのである。

 だが快適ではあるのだが、連合軍の大尉が住む様な所では無かったのであった。


「いやぁ、自分は元々が、貧しい下級武士の出身だった為に、こっちの方が落ち着くんですよ」


「私が、落ち着かないと、言っているんだ」

 そう言ってクリスは、笑顔で頭をポリポリとかいている佐平次に向かって、テーブルをバンと叩いて、顔を近付けて言ったのであった。


「すみません……そうだ、大切な話があったんじゃ……」


「そうだった……その……あれだ……アレが、こないんだよ」

 そう言ったクリスは、顔を赤くして言ったのであった。


「アレ?」


「……生理だ」


「生理?なんですそれは?」


「お前、本気で言っているのか?それとも、わざと言っているのか?」


「いや、本当に知らないんですけど……」


 そう言った佐平次の姿を見て、クリスはみるみる顔が赤くなり、怒りだしたのであった。

「このバカ!上官の命令だ、今日は図書館に行って調べてこい!」


「いや、今日は休日なので、俺は休みなんですが……」


「休みなんかは、関係無い!早く行け、この大馬鹿者が!」

 そう言ってクリスは、怒って佐平次の部屋から飛び出して行ったのであった。



 何だよクリスティーナ様は。

 しょうがない、図書館に行って調べるか……あ、戦以外で休日出勤する時って、後で内局に申請書を提出するんだった。

 うわ、地味にめんどくせえ。

 そんな事を考えながら、佐平次は制服に着替えて、図書館に向かったのであった。




 ―――――――――




 セントラル中央図書館。

 ここは、レイクシティの一般区のイースト区に在り、世界中のありとあらゆる書物を、保管する為に作られた図書館であり、あの大英博物館の様な外観を、していたのである。

 中は、一般人が誰でも見れる所と、軍人でも階級によって見れる所と、各国の王族、皇族、そして貴族等の一部の者にしか見れない所と、別れていたのであったが、まだ収集されている本は、そんなに多くは無かったのであった。


 ここが図書館かぁ……無駄にでかいよな。

 佐平次は、駅から降りると、正面にあるセントラル中央図書館を初めて見て、思わず、そう思ったのであった。


 さて、とりあえず行って調べるか……何だか緊張してきたな。

 そう思いながら佐平次は、図書館に向かって行ったのであった。



 さて、こんなにも広かったら、探すのは一苦労だな。

 佐平次は、そんな事を考えて中に入ると、いきなり横から女性の声が、聞こえて来たのであった。

「いらっしゃいませ、セントラル中央図書館へようこそ。御利用は初めてですか?」


 そうか扉と扉の間に、カウンターが?そうか、ここで入場のお金と支払うのか。

 女の子の、元気の良い笑顔に佐平次は、一瞬戸惑いながらも言ったのであった。

「は、初めてです」


「では、ご説明させて頂きます。

 ここセントラル中央図書館は、お持ちのIDカードで、どこまで入場出来るかが変わります。

 一般のIDカードで見れる本は、写本出来ますが、10ページ2シリングで、写本室で書いてもらう事になり、本自体は図書館から持ち出しは出来ません。

 軍属区、特別区の本は、持ち出しは、もちろんの事ですが、写本も禁止されております。

 もしも本を破損されたり、汚されたりしますと、度合いに応じて弁償していただきますが、悪意を持ってやられたと、判断した場合や、先程の禁止事項を破られますと、弾正府に通報させて頂きますので、ご了承下さい。

 それと中で、飲食される場合は、決まった場所が在りますので、そちらで御願いします。

 入場料は、お一人様5シリングで、24時間営業しておりますが、夜の0時で館内に居られる皆様より、再び5シリングを頂いております。

 これ迄で、分からない所や、ご質問は有りますか?」


「こんなに大きかったら、目的の本を探すのが、大変そうですが、その場合は、どうすれば良いのでしょうか?」


「それでしたら、各階の階段付近に、案内カウンターが在るので、そちらでお聞き下さい。

 他には、有りますか?」


「大丈夫です」


「それでは、IDカードを、このチェッカーに置いて、提示してください」


 佐平次はそう言われて、IDカードを箱の青い所に置くと、ピッと言って音が鳴り、女性は佐平次のIDカードを、確認したのであった。

「浅田大尉様ですね。確認できました、では5シリング御願いします」


 そう言われて佐平次は、5シリング支払うと、図書館の扉が、ガコンと音がして、僅かに開いたのであった。

 鍵が解除されたのか?

 そう思っていると、女性は明るく佐平次に手を振って、言ったのであった。

「それでは、行ってらっしゃいませ~」


 何か違う様な気がする。

 そんな事を思いながらも佐平次は、図書館の中に入ると、あまりの広さに、圧倒されたのであった。


 な、なんだよ、この広さは。

 しかも、窓が無いのに、こんなにも明るいなんて……全く閣下は、こんなのを、どうやって考え付いたのだろうか?

 そう佐平次が思うのも、無理は無かった。


 この図書館の明かりには、火では無く、光苔が使われていたのである。

 光苔は文字通り、発光する苔で、ダンジョンや洞窟によく生息しており、その内部を照らす明かりであったが、紫外線には弱く、太陽の光に当てると死滅していまう為に、誰も用いなかったのだが。

 左近は、その生体をコープス博士に聞いて、図書館の明かりに使ったのであった。


 しかも、この光苔は主食がカビの胞子や、僅な湿気であり繁殖も容易である為に、図書館等に使うには最適で、火で本が燃えるといった危険性も無かったのである。

 それゆえに、左近は光苔を採用したのであった。


 しかし、クリスティーナ様の言い方だと、軍関係の感じだったな……軍属区の方かな?

 そう思った佐平次が、大きな案内図の前で、そう考えて軍属区の方に向かって行ったのであった。




 佐平次は、軍属区の入場ゲートでIDカードを提示し、入場すると、まず最初に階段付近にある、案内カウンターを探したのであった。


 お、アレかな?

 案内カウンター見つけた佐平次は、そこに座る二人組の女性に、話し掛けたのであった。

「すみません、ちょっと本を探しているのですが」


「はい、どう言った本でしょうか?」


「キリバ語からルタイ語の翻訳辞書は、ありますか?」


「それでしたら、よく聞かれるので、ここにも置いてますよ」

 そう言うと女性は、カウンターの下から辞書をだしたのであった。


「それと、生理について書かれている本は、ありますか?」


「え?」


「ええっと、アレがこないとかの、生理です」

 何だ、明らかに様子が、おかしくなったぞ。


「……それでしたら、医学関係の所にあるんじゃ、ないでしょうか。

 ここを真っ直ぐ行った、8つ目の通路を右に曲がって下さい」


「分かった、ありがとう」

 そう言った佐平次は、言われた通りに通路を進んで行ったのであった。


 しかし、何だろうか、さっきの女性の様子は。

 何だか、こう……嫌悪感があったと言うか、変質者を見るような目と言うか。

 俺、何か変な事を言ったのかな?

 そんな事を思いながら、言われた通りに、8つ目の通路を右に曲がると、私服で脚立に座り、何かを読んでいるエリアスがいたのであった。


 あれは、ノイマン大佐。何でこんな所にいるんだろう?

「大佐、何を読んでおられるのですか?」


「ん?おお、佐平次か、珍しいなお前がこんな所に来るなんて。

 俺は、人の記憶に関する本がないか、調べていたんだよ。お前は、どうしてここに来たんだ?」


 そうだ、大佐なら何か知っているかも知れない。

「私は、生理について調べに来ました」


「何だよ、アレがこないって、言われたのか?」


「流石は大佐殿です、やはり分かりますか」


「……本当だったのか。

 あれ?そう言えば、佐平次お前は、結婚していたか?」


「いえ、自分はまだ結婚は、してませんが……何で結婚と関係が有るので?」


「……お前、辞書を持っているだろ。それで調べて見ろ」


「はぁ……」

 エリアスにそう言われて佐平次は、調べだして生理の項目を発見し、読んでから、明らかにフリーズ状態になっていたのであった。


「おい、佐平次……おい、佐平次」


「す、すみませんでした」


「驚きすぎだ。でもまぁ、おめでとう。

 順番が逆だが祝福させてもらうよ。所でお相手は誰だ?俺の知っている人か?」


「クリスティーナ様です……クリスティーナ・マクレガー中佐です」


 その言葉を聞いたエリアスは、みるみるうちに顔が真っ青になり、思わず持っていた本を、落としたのであった。

「お、お前……アミリーに殺されるぞ、いや絶対に殺される。アイツはそう言う事には、煩いんだよ」


「……大佐、マクレガー大佐は、いつご帰還されるか、ご存知ですか?」


「確か、予定通りに作戦が進んでいたら、今日にでも魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)はレイクシティに戻って来る予定だが、お前絶対に真正面からアミリーに……アレ?いない。

 あのバカまさか!」

 そう言ったエリアスの前からは、既に佐平次の姿は消えていたのであった。





 ―――――――――





 その頃クリスは、左近衛府まで、来ていたのであった。

 目的は、アイリスに会い相談するためである。


 佐平次の奴め、アイツは戦場や心構えは、素晴らしいのは認めるが、常識は全くなっていない。

 普通は女性に、そこまで言わせるか?少しは察しろよ。

 でもいつ来ても、左近衛府って広いんだよな……元帥閣下って無駄に金持ってるよな。

 そりゃ、ルタイ皇国の左近衛大将だし、連合軍のトップだし、ナッソーの四頭会のメンバーだし、各国の国家元首とも知り合いだし、佐平次とは大違いだよ。

 アイリの奴幸せそうで良いな……羨ましいよ。

 それにしても……アレ?あれってバスティさんじゃないか?聞いてみよう。

「お~い、バスティさぁん」


「おや、これは、マクレガー中佐では、御座いませんか」


「そんな風に言うのは、止めて下さいよ、同じ中佐でも、私の方が年下なんですから」


「いえいえ、私は佐倉家のバトラーですので」


「あ、そうだった、忘れていました、すみません」


「いえいえ、お互いに慣れていないので、仕方がありませんよ。

 所で今日はどうされましたか?本日は日曜日なので、皆様お休みのはずですが」


 アイリに会うのは、良いけど、問題は元帥閣下だ。

 あの人に知られると、楽しんで母上に言うだろう。それだけは絶対に避けなければ。

「あの、今日は元帥閣下は?」


「御館様は、本日はルタイ皇国の帝が来月に御結婚されるそうで、その祝い品を探すのに、連合国内を飛び回っておりまして、本日はアイリス様のみが、お留守番で御座います」


 よし、なんてベストタイミングなんだ。

「じゃあアイリは……じゃ無かった、アイリス様はどちらに?」


「アイリス様は、本日はセレニティ帝国のイリナ后妃様と、東庭園におられますが」


「イリナ后妃様と?」


「ええ、お隣同士で、更にノイマン大佐の娘様と聞いて、最近は仲が宜しいようで。

 后妃様も同じ帝国人なので、気が楽なのでしょう。

 宜しければ、空間転移で東庭園迄、お連れしましょうか?」


「え?良いのですか?」


「はい、普段もイリナ后妃様やアイリス様の、移動のお手伝いを、しておりますので。

 何せ、お二人は妊娠しておりますので、移動が大変ですから」


 バスティさん、良い人過ぎるだろ。

 アイリ以外にも、イリナ后妃様の移動の手伝いなんて……そう言えば、テスタさんは、手伝わないのかな?

「そう言えば、テスタさんは、手伝わないのですか?」


「テスタは、姫様にベッタリと、引っ付いておりますので……昔からですので、慣れております」


「そうだ、騎士団にいた頃から、気になっていたんですが。

 テスタさんは、姫様の前以外では、少々破天荒な所が有るけど、仕事は完璧なのに、何で姫様の前だと、あんなにも仕事が、出来ないふりを、しているのですか?」


「それね……あまり聞かない方が、良いかも知れませんよ。

 テスタは、姫様に怒られたり、お仕置きされるのが、好きなのです……好きと言うか、快感の様ですが。

 もちろんこれは、姫様にだけで、他の者にそんな事をされると、怒り狂いますがね。

 ですから、あの仕事が出来ないふりは、姫様にお仕置きをして欲しいので、わざとやっているのですよ。

 ……ここだけの話、御館様にもされたい様ですが、御館様は失敗しても「大丈夫、気にするな」としか言わないので、けっこう落ち込んでいました」


 き、聞くんじゃ無かった。

 テスタさんて、あんなにも、強くて綺麗なのに、そんなに特殊な性癖があったなんて。

 バスティさん、苦労してそうだな。

 そんな事を考えながら、クリスはアイリスの元に空間転移で移動して行ったのであった。





 左近衛府の東庭園。

 ここは広い左近衛府の中でも、様々な花が植えられており、真ん中には池が作られており、その池の中央にはガゼボ、つまり、西洋風の大理石で作られた東屋が建っていたのであった。


 アイリスとイリナの二人は、その中で談笑しながら、お茶を楽しんでいると、バスティが二人の元にやって来たのであった。

「バスティ、どうしましたか?」


「奥様、クリスティーナ・マクレガー中佐が来られました」


 クリスが?どうしたのだろう?

 そんな事を考えながら、アイリスはバスティに言ったのであった。

「お通しして」


「かしこまりました」

 そう言ったバスティは、二人に一礼して、ガゼボから出ていったのであった。


「マクレガー中佐。確か帝国の雷帝と言われた、マクレガー大佐の娘様ですね。

 アイリスのお知り合いなのですか?」


「知り合いと言うか、幼なじみです」


「まぁそうでしたか。では私の善き友人になって頂けるかも知れませんね」

 そう言ってイリナは、喜んでいたのであった。


 この人は、帝国人ならば大丈夫だが、それ以外の人はまだ恐いのか。

 それでも佐倉家の者には、かなり打ち解けていたが、まだ旦那様にだけは、警戒している。

 まぁあの戦争の司令官だったし、かなり非道な事も命令していたし、自分もその事は隠す気が無い様だし、帝国人から見れば、そりゃ恐怖の対象だよ。

 何か良い方法があれば良いんだけど。


 そう思っていると、アイリス達の元に、軍服を着たクリスがやって来て一礼して言ったのであった。

「これは、アイリス様お元気そうで。

 こちらはイリナ后妃様ですね、お初にお目にかかります、私は聖龍騎士団の団長、クリスティーナ・マクレガー中佐で御座います」


「はい、よろしくお願いしますね」

 そう言ってイリナは、にこやかにクリスに言ったのだが、アイリスは明らかに、気持ち悪い物を見た様な顔に、なっていたのであった。


「これは、アイリス様どうされましたか?」


「止めてよクリス、気持ち悪い。いつもの様にアイリで良いじゃない」


「気持ち悪いって何だよ、こう言った事は最初が肝心なんだ。

 帝国の后妃様には、キチンと挨拶をしてだな……」

「あーはいはい、分かったから、とりあえず座ったら?

 ベアトリス、中佐殿にも紅茶を、お出しして」


「はい、奥様」

 そう言ってアイリスは、メイドのベアトリスに言うと、ベアトリスは一礼して、紅茶をテーブルに置いたのであった。


 本当に、こいつは昔から、人の話を聞かない奴なんだから。

 そう思いながら、クリスは座って紅茶を飲むと、アイリスの膨らみかけたお腹を、見ていたのであった。

「クリス、どうかした?」


「いや、お腹…膨らんできたな」


「そうなのよ、最近じゃ歩くのも大変で。でもバスティが居るから、楽で良いんだけどね。

 何処に行くのにも、空間転移ですぐだし」


「本当に、彼のような執事が居る佐倉家は、羨ましいですわ」

 そう言ったイリナもにこやかに言ったのであった。


「いや、后妃様。勇者を執事やメイドに使っているのは、佐倉家だけですよ、普通は、そんな事は出来ませんし。

 ルタイ皇国は勇者が多過ぎて、ただの交通手段の様にしか、考えていませんから……贅沢な話です」


「まぁそうでしたか。所でクリスティーナ様、私の事はイリナとお呼びください、アイリスも。そう呼んでくださいますし」


 マジかよ。そうだった、この女は、昔から誰とでも仲良くなる、不思議な奴だった。

「では、私の事もクリスとお呼びください」


「分かりました、クリスこれから宜しくお願いしますね」


「所でクリス、今日はどうしたの?軍服なんか着てさ」


「いや、この服は出掛けるのに、服を考えなくて良いから、気楽なんだよ。

 ……それに、今日は相談があって来たんだ」

 そう言ったクリスは、チラリとイリナを見て言ったのであった。


 そうか、何かイリナに知られては、マズイ事なのかな?

 アイリスがそう思っていると、イリナは胸を張って言ったのであった。

「大丈夫ですよクリス。私は口が固いですから、秘密は守ります」


 本当に大丈夫かな?

 そう思いクリスは、アイリスを見ると、アイリスは言ったのであった。

「大丈夫、イリナと私は、普段他の者に言えない事も、言っているし、二人でお互いの夫の悪口も、言い合っているから」


 わ、悪口って……聞いては、いけない気がする。

「では、言うが……アレが来ないんだ……出来たかも知れない。

 まだ、医者に見てもらっては、いないから分からないんだが」


 そう言った瞬間、二人はにこやかに言ったのであった。

「おめでとう、クリス」

「これは、素晴らしい事ですね、おめでとう御座います」


「い、いや、まだ分からないと言っているし。

 それに、頼みとは、何処か医者を紹介して欲しいって事なんだよ」


「それでしたら、セレニティ帝国の優秀な医者を紹介しますが」


「いや、イリナの申し出は、ありがたいのですが、この事が母上に知られるのは、大変マズイ事でして……帝国の関係だと、ほぼ確実に、母上の耳に入ると思います」


「あ、そうだった、おばさんその辺は昔から煩かったもんね。

 結婚する前に、妊娠したって知ったら、相手の人は殺されちゃうかも知れないよね……で、相手は誰よ?」


「……浅田 佐平次 長宗大尉だ」


「やっぱりかぁ。あの時は、戦争中でも二人は、好き合っているのが分かったから、旦那様と左近衛府の皆が引っ付くように、頑張ったからね。

 でも大尉なら、大丈夫じゃない?ほら、あの人は、私が知っているだけでも、数回は死んでなきゃ、おかしい位だから」


「お前、無茶苦茶だな。

 でも、結婚する前の妊娠は、マズイよな……」

 そう言って落ち込むクリスに、イリナはにこやかに言ったのであった。


「本当にそうでしょうか?私も結婚する前に妊娠したのですよ」


「え?イリナって、そうなのですか?」

 そう言ったクリスは、驚きの顔になっていたのであった。


「そうですよ。

 私は元々は、ラニス陛下の統治されていた村の、村長の娘でした。

 でも、陛下が私の村に立ち寄られた時に、出会ってお互いに一目惚れして、隠れてお付き合いしていたのです。

 陛下は、自分に子供がいたら、跡目争いになるから、一生独身でいるって言ってたのですが、あの戦争で、次々と皇太子様が亡くなり、私に子供が出来たのを知って、結婚しようと言ってくれたのです。

 変な話でしょ?孫ほどの年の差があるのにね」


「変じゃ無いですよ。私の夫も実はそれに、近いほどの年の差が有りますし、身籠ったのは、結婚する前ですから」


『え?』

 そのアイリスの発言に、二人は驚いたのであった。


「なぁアイリ、元帥閣下は、私達と同じ位の年齢では無いのか?」


「クリスちょっと待って下さい、それだと、珠とパンドラの年齢がおかしいでしょ?

 アイリスの言う事は、本当かも知れませんね。

 あの二人が養女でなければの話ですが」


 しまった、つい口を滑らせてしまった。

 夫が、転生しているとか言えないし、仕方がないこう言った時に、口裏を合わせていた話をするか。

「まぁあの人は、昔の事は、滅多に言わないですからね……聞きます?」


 アイリスがそう言うと、二人は何度も頷いたのであった。

「これは、他の者に言っては、いけませんよ。

 旦那様は、ルタイ皇国の大和と言う国の、小さな領主の子供だった様です。

 その頃ルタイ皇国は、内戦が長く続いており、旦那様が若い時に、大きな戦があった様ですね。

 結果は、旦那様がいた軍が負けて、死にかけた所を、あの藤永 弾正に助けられたのですが、領地に戻って見ると、藤永 弾正に滅ぼされて、身内の者も殺されていたそうです」


「あの藤永の爺様、かなり無茶苦茶じゃないか」


「確かに、クリスの言うとおりです。

 でも旦那様は、同じ大和の大部分を領地にしていた、筒井家の家臣として、藤永弾正の城を攻め滅ぼしたそうです。

 で、その功績で、新たに領地を預かったのですが、その筒井家の殿様と領民の事で対立し、同じ家臣の人と共謀して、自分が全ての罪を被って、殿様をこらしめて、一時侍を辞めたそうです」


 あの自堕落を自で行っている閣下が、そんなに素晴らしい人だったのか?とても信じられん。


「で、辞めた後は、貯めたお金で家族の事は、何も考えずに、酒や女の堕落した毎日を、過ごしておりました」

 あ、やっぱり普段の元帥閣下だ。

 多分、それをしたかったから、罪を被って辞めたんだろう。


「その辞めた旦那様の元には、何人もの侍が、自分の家臣にとやって来ては、旦那様は断っておりましたが、ある日、石田様と言われるお人がやって来て、自分の領地の半分を差し出すから、家臣になってくれと言われました」


「そんなの、家臣でも何でも無いじゃないか。

 領主と同じ領地を持つ家臣なんか、聞いたことがない」


「まぁクリスと同じ事を、旦那様は、言われたのですが、その石田様は「家臣では無く、友として迎え入れたい」と言われて、その言葉に感動した旦那様は、石田家の家臣になったのです。

 その後、これは珠から聞いたのですが、「三成に過ぎたるものが、二つある。島の左近に佐和山の城」と揶揄する言葉もあったほど、有名になったそうです。

 まぁ本人は未だに、その言葉を聞いたら怒りますがね。

 そして、暫くして、ルタイ皇国で大きな戦があり、幼かった珠とパンドラを知り合いの商人に預けて、戦に行ったのですが、数々の裏切りにあい、その戦に負けて、3人の男性の子供と嫁に出ていた娘は、死んだそうで、島の家で生き残ったのは、旦那様と、幼い珠とパンドラのみだったそうです。

 珠の話では、その戦で、普通なら死んでいるであろう傷を負ってでも戦い、敵も旦那様の「かかれ!かかれ!」の声が耳に残って離れなかったそうですよ」


「やはり閣下は、化け物だな」


「そうですね、それでついたアダ名は、鬼の左近でしたから。

 そこで、その武勇を惜しんだ帝が、旦那様を大陸に浪人として逃がし、珠はそのまま商人に引き取られ、パンドラはその異常な強さの為に、別の所で隠されて育てられました」


「ちょっと待ってよ、じゃあ元帥閣下は、最初から左近衛大将じゃ無かったって事?」


「何を言っているのクリス?当たり前じゃない。

 左近衛大将になったのは最近で、私と結婚した時は、まだ浪人のままだよ。

 左近衛大将も、いきなり他の官位をすっ飛ばして、帝の一声で就任したんだから、そりゃ快く思ってない人も出てくるよ。

 あのザルツ王国の内戦の時の、右近衛中将の様にね。

 でも左近衛府のみんなは、平気だったみたいだけどね」


 何だか凄い話を聞いた気がする。

 でも、結婚する前に妊娠したような形になって、エリアスのおじさんは、何も言わなかったのだろうか?

「じゃあさ、妊娠が分かったのは、数ヶ月前じゃない、結婚した時には、既に妊娠していたって事だよね。

 エリアスのおじさんは、何も言わなかったの?」


「父上は、あまりそう言った事に拘らないからなぁ」


「そうだよね、おじさんはそう言う人だよね……」

 そう言ってクリスは、落ち込んでいたのであった。


 しかし、その時であった、イリナは手を叩いて笑顔で言ったのである。

「私、凄い計画を思い付きました。妊娠した事をマクレガー大佐に知られずに、浅田大尉と結婚すれば、良いのですよ」


「おお、なるほど。既に結婚してしまったら、おばさんも文句は言えないよね」


「なるほど、アイリと似たようにするのか……いけるかも知れない。

 その前に、本当に妊娠しているかだが……」


「それは、安心して。今日の昼に、ナッソーからキッカって言う、私も見てもらっている医者が来るから、その時にでも、一緒に見てもらおうよ。

 所でその未来の旦那様は、今日は何処に?」


「何だか生理が分からない様だったので、図書館で調べてこいって言ったから、本当に調べてると思う」

 クリスがそう言うと、アイリスとイリナは、その光景を想像したのか、クスクスと笑いっていたのであった。




―――――――――




クリスが、アイリスの紹介で、キッカに診察を受けていた頃、佐平次はセントラル城のエントランスで、正座をしてアミリアの帰還を待っていたのであった。


「少佐、あれ何とかしてくださいよ。もう二時間は座ってますよ」

 そうリンに言ったのは、入国カウンターの様な所に座っている、兵士であった。


 リンは暫く考えた後、指を一本立てて、あと一時間と言った、ジェスチャーをしたのである。

「……あと一時間ですよ。今でもかなり注目を浴びて、警備隊は、何やっているんだ?見たいな目で、見られているんですから」


 そう言われたリンは、その兵士にペコペコと頭を、下げていたのであった。


 それから30分ほど経ち、やがて怒号の様なアミリアの声が、エントランスに響いてきたのである。

「ああもう、クソッタレの准将が!本当にムカつくね!」

 そう言って、セレニティ帝国の空間転移の部屋から出てきたのは、数名の配下を連れて来た、アミリアであった。


「お疲れ様です大佐。皆様、こちらのチェッカーに、IDカードの提示をお願いします」


「あいよ」

 そう言ったアミリア達は、次々とIDカードをチェッカーにかざして、出てきていきなり、リンに言ったのであった。


「おい、リン!人数が多いから、空間転移を手伝ってやってくれ。

 ……何だ佐平次、お前何かやらかして、罰を受けているのか?」


「いえ、違います。本日はアミリア・マクレガー大佐に、お話があって、お待ちしておりました」


「……その話は、聞きたくない」

 そう言ったアミリアは、佐平次を無視し、通りすぎようとしたのだが、佐平次は回り込み膝まづいて、言ったのであった。


「お願いします!少しだけでも!」


「くどい」

 そう言ったアミリアは、佐平次の横を通りすぎて行き、もう一度アミリアの前に、出ようとしたのだが、一人の女騎士に止められたのであった。


「大尉、その話は、また後日にされた方が、よろしかろう。

 今日の大佐は、新たに補充された新兵に、犠牲者が出て、大変機嫌が悪いのですよ」

 この女性は、魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)の新しい副団長で、名をガブリエラ・リルソー少佐と言うのであった。


「リルソー少佐……」


「心配するな、大尉の言いたい事は、分かっている。もちろん大佐もな……。

 でも、今日は日が悪い、後日改めて出直してこい。

 私達は、貴公とクリスティーナ中佐の事は、応援しているんだ、ここは素直に私の言う事を、聞いておけ」


「分かりました、では後日改めてお伺い致します」


「うん、分かればよろしい」

 そう言ったガブリエラは、とても良い顔で佐平次に微笑んだのであった。


「おい、ガブリエラ!早く来い!」


「ハハハ、呼ばれてしまった。では、頑張れよ大尉、中佐を幸せにしてやってくれ」

 そういったガブリエラは、佐平次に手を振って、アミリアの所に走って行ったのであった。


 リルソー少佐……ありがとう御座います、必ず……必ずクリスティーナ様を、幸せにしますので。

 そう思った佐平次は、微かに涙を浮かべて、去り行くガブリエラに、頭を下げたのであった。





 ―――――――――






 しかし、何処にいるんだよ、佐平次の奴は。

 そう思い、レイクシティのセントラル城の近くを、走っていたエリアスに、アミリア達が、左近衛府に向かって行く姿が、見えたのであった。


 そうだ、既にアミリーに、佐平次が接触したかも知れない。

 聞いてみて、何かヤバい事になっていたら、フォローしてやろう。

 そう思ったエリアスは、アミリアの元に向かったのであった。


「おーい、アミリー!」


「ん?エリスか?」

 エリアスの声で、思わず立ち止まったアミリアが振り返ると、エリアスが走って来るのが、見えたのであった。


「ハァハァハァ……アミリー……お前……」


「エリス、もう若くは無いんだからさ、無理するなよ、おじいちゃん」


「お……おじい……ちゃんかぁ……じゃなくて、佐平次に会わなかったか?」


 その言葉を聞いたアミリアは、眉をピクリと動かせて、不機嫌そうに言ったのであった。

「あのバカなら、城のエントランスで、私の帰りを待ってやがったよ」


 しまったぁ、既に接触した後か。

 ならば男としてここは、佐平次をフォローしてやるしかない。

「なぁアミリー、男女が付き合っていたら、こう言う事はあるさ。

 だからな、佐平次を許して二人を祝福してやれよ」


「そもそも、付き合うのすら、私は許可していない。

 それにな、佐平次はいくら大尉と言っても、ルタイ皇国の官位も持っていない、下級の侍だぞ。

 クリスの相手は、もっと相応しい相手を私が選ぶ」


「いや、でもな、こんな状態になってしまっては、相応しい相手をとは、言ってられんだろ。

 子供には父親が必要だろ?」


「父親なんて、私はクリスが幼い時に離婚して、一人で育てて来たんだよ、必要ない!

 ……父親?何でそんな話に、なっているんだ?」


 しまったぁ!まだ話して無かったのか。

「仮の話だよ。ほら、クリスもお前に似て、頑固な所が有るだろ?下手すりゃ、このままずっと結婚しない可能性だってある。

 それにな、ライの遺言を思い出せ……アイツはお前達、親子の事を…特にクリスの事は、我が子の様に考えていたぞ」


「……うるさい、これはマクレガー家の話だ、お前が口出しする問題じゃない」

 そう言ったアミリアは、ライリーの事を思い出してか、唇を噛んで、怒りを我慢していたのであった。


「分かった、でもな、クリスの事は、ちゃんと考えてやれ。それだけだ」

 そう言ったエリアスは、城の方に歩いて行ったのであった。


 分かってるさ、エリス。でもな、あの子には、幸せになって欲しいんだよ。

 だが、さっきのエリスは、何かを隠しているようだったな。

「……ガブリエラ」


「どうしましたか、団長」


「お前、エリスが、何を隠しているのか、調べてこい」


「え?ノイマン公ならば、団長ご自身が聞かれた方が、話されるのでは?」


「いや、アイツは何かを隠している。昔からそうだ、何かを隠す時は、アイツは絶対にライの話に、話題を持っていっていた。

 こんな時は、私に何かを隠したい時なんだよ……あの結婚する時もそうだった」


「分かりました、そこまで言われるのなら、調べます」

 そう言ったガブリエラは、アミリアに一礼し、エリアスの後を追いかけて、行ったのであった。




 ―――――――――




 全く、ノイマン大佐は、いったい何処に、行かれたのだろうか?

 確か浅田大尉を探しておられた様だが、浅田大尉もエントランスにはいないし、警備隊にでも聞いてみるか。

 そう思ったガブリエラは、入り口に立っている、警備の兵士に聞いたのであった。

「すまない、ここにノイマン大佐が来なかったか?」


「これは少佐。確かにノイマン大佐は、来られましたが、浅田大尉を連れて、向こうの庭園の方に、行かれましたよ」


「ありがとう、だが私が探していた事は、他言無用で頼む」


「かしこまりました」

 そう言った兵士に、ニコリと笑みを浮かべたガブリエラは、庭園の方に向かって行ったのであった。



 セントラル城の庭園は、癒やしの場として、フレイアが作ったのであったが、城に住んでいる者はおらず、皆が仕事をしている為に、昼時に、ここでランチを食べる女性軍人以外は、ほとんど人気が無く、密談にはもってこいの場所であった。


 いったい何処に、いるのだろうか?仕方がない、あれを使うか。

 そう思ったガブリエラは、その場に立ち止まり目を閉じて、呪文を唱え出したのであった。

「風に舞いし精霊よ、我が命に従い、その全ての波を、我に届けよ。ノイズ・オブ・ザ・ウインドウ!」


 その呪文を唱えた瞬間、周辺の雑音、更には心臓の音まで、一気にガブリエラの耳に、流れ込んだのである。


 クソッ、やっぱりうるさい、前方だけに集中して、距離は200メートルほど……何処だ……ええい虫の音も拾いやがる。

 そんな事を思いながら、クルクルと回り、集中していたガブリエラの耳に、エリアスの声が、聞こえてきたのであった。


 よし、ノイマン大佐だ、この方角に集中しよう。

「よし、ここら辺で良いだろう。それで、まだあの事は、アミリーに言って無いんだな?」

 あの事?何だろうか?


「言ってませんよ。今日は何か機嫌が悪い様で、リルソー少佐に後日にしろと、言われたので……」

 相手は……この声は、浅田大尉か。


「それが良い…まだクリスは、医者に診察してもらっていないんだろ?」

 医者に?中佐は何処か病気なのか?


「あの朝の口調じゃ、未だかと思います」


「では、まだ子供が出来たのか、分からんではないか」

 な、な、な、何だって!そうか、だから大尉は、あんなにも、覚悟を決めた顔をしていたのか。


「ですが、出来て無くても、私はクリスティーナ様と結婚したい…あのお方を幸せにしたいのです」

 ……良い男じゃないか、浅田大尉は。


「その覚悟は、立派だが、お前アミリーに認めてもらえるとでも、思っているのか?

 キツイかも知れないが、アミリアはあれでも、必死で母親の役目を果たそうとして、ルタイ皇国の侍でも、官位をもっている者でないと、認める事は、ないだろう。

 これは、子供の幸せを考える、親としては、当然の考えだと俺は思う」

 大佐、それは、厳しすぎる。

 当人同士が好き合っている、それで良いじゃないか。


「しかし、それでも私は、クリスティーナ様を、一生守っていきたいのですよ」

 よっしゃ、男だ大尉!私は大尉を応援するぞ。

 そう思ったガブリエラは、エリアスと佐平次の元に、向かったのであった。


「分かった、そこまでの覚悟が有るなら、俺も協力してやる。

 だが、先ずは本当にクリスが身籠ったかどうかだ。

 もしも、勘違いなら、じっくりと戦略を練れるし、もしも本当に身籠っていたなら、急がなくてはいけない。

 解るな佐平次?」


「ありがとう御座います、この御恩は一生忘れません」


「その話、私も協力しよう」


「誰だ?……リルソー少佐?」

 そう言って出てきたガブリエラに、エリアスは気の抜けた声で言ったのであった。


「少佐、どうしてここに?」


「実は、団長にノイマン大佐が何か隠しているから、調べてこいと言われまして……その、魔法で盗み聞きを、しておりました。

 申し訳ございません」


「いや、良いんだ。でも何で佐平次を、助ける気になったんだ?」


「それは、生き残った魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)の騎士は、アミリア団長やクリスティーナ様を慕っている者達で、そうでない者達は、先代のルイス皇帝に皆、殺されました。

 今いる魔女騎士団ナイト・ウィッチーズの騎士達は、皆がクリスティーナ様の幸せを願っております。

 そこで、先程の大尉の話を聞いて、この人なら、クリスティーナ様を幸せにしてくれる男だと思いました」


「それで、今回の事を、協力すると言ったのか?」


「その通りで御座います」


 そう言ったガブリエラに、佐平次は感動し頭を下げたのであった。

「お二人とも、ありがとう御座います。この御恩は一生忘れません」


「良いさ気にするな大尉。しかし、中佐のお腹の事を、確認するにしても、帝国の医者だと団長の耳に入る可能性がある。

 かと言って、ザルツ王国は正直、気が進まないし、ルセン王国やペスパード王朝は、それ専門の種族の医者だろうし……大尉、ルタイ皇国に、医者の知り合いは、居ないのか?」


 そう言ってガブリエラが行った時に、エリアスが、何か思い付いた様に、言ったのであった。

「あー!そうだった今日は、アイリの検診の日で、左近衛府に医者が来る日だった。

 戦の最中に、妊娠が分かったので、秘密を守れる、ナッソーの医者を、アイリの専属の医者にしたんだよ」


「大佐、それを早く言って下さいよ。

 私は、このまま団長の元に戻って、適当に誤魔化しておきますので、二人はこのまま、左近衛府に行って、その医者に、話を通しておいて下さい」


「分かった、ほら泣くな佐平次、行くぞ」

 そう言ったエリアスと佐平次は、急ぎ左近衛府に、向かって行ったのであった。





 ―――――――――





 二人が左近衛府に、向かっていたその頃、クリスはキッカの診察を受けて、結果を聞いていた。


「結論から言おう…中佐、あんた妊娠してるよ。この夏って所だね」

 そう言ったキッカは、しっかりとクリスを見据えて言ったのであった。


 やっぱり妊娠していたか……嬉しいのと、不安なのが入り交じって、何とも言えない気持ちだな。

「あ、ありがとう御座いました」


「まぁそちらさんも、複雑な事情があるかも知れないけど、これも和尚の言っていた、何かの縁ってやつだ、私が最後まで、面倒見てやるよ……どちらに転んでもね」


 そう言ったキッカの言葉の意味は、クリスには痛いほど、よく分かっていたのであった。

「ありがとう御座います、また連絡します」


「そうかい、私はほとんどナッソーに居るから、訪ねて来な。

 所で、ちょっとそこの妊婦二人組、そこに座りな」


 そう言われた、イリナは、私も?と言ったジェスチャーをやったのであった。

「そう、そこのあんただ、后妃だか何だか知らないけど、話がある」


 そうキッカに言われて、座った二人に対して、キッカはキレ出したのであった。

「あんた達は、二人とも安定期に入っている……気持ちは分かるが、毎回毎回、空間転移で移動するのはどうなんだい。

 子供を生むってのはね、体力がいるんだよ!それが、こんなに運動しないってなると、体力が無くなり、あんた達は出産の時に、最悪死ぬかも知れないんだよ。

 それがどういう事か分かるだろう」


「しかし、専属のお医者様が、大事な身体なので、じっとしていろと……」


「あぁ?専属のお医者様か、何だか知れないけど、私も医者だ。

 私は、この仕事を200年近くやっているんだよ。

 たかが、数十年しかやっていない、人間の医者なんかに分かるかよ。

 それにな、このままだと、子供を生んだ後、お前達……体型が崩れるぞ」

 キッカが言った最後の言葉で、アイリスとイリナは、固まりその表情は、青ざめていたのであった。


「自分の命より、体型が心配なのかよ……まぁ良いさ、大人しく聞くか?」


『うん、うん、うん』

 そう言った二人は、何度も頷いたのであった。


「お腹を圧迫したり、転倒するのは厳禁だ。それにお腹をねじったりする、運動もダメだ。

 そうだな、道を歩いたり、しゃがんだり、立ち上がったりの運動が良いだろう。

 なぁ中佐、このバカ二人組はスルーして、私から一言、忠告しておく」


「何でしょうか?」


「何事も、一人で抱え込むな。相手の男が分かっているなら、相談し二人で話し合え。

 そのお腹の子は、中佐だけの子供じゃ無いんだ、相手の男の子供でも、あるのだから、中佐個人で決めるのは、相手の男が可哀想だ……まぁ私が言えるのは、こんな事だけだ、後悔だけはするなよ。

 じゃあ、そろそろ行くよ……このバカ二人組に、影響されるなよ」

 そう言ったキッカは、クリスの頭を、優しく撫でて、バスティと一緒に空間転移で、ナッソーに帰って行ったのであった。


 そうだ、キッカさんの言う様に、この子供は佐平次の子供だ。

 あの時、何で佐平次に、キチンと説明しなかったのだろうか?

 本当に意味が、分からなかったのかも……そうだ、佐平次が普通に、キリバ語を話していたので、忘れていたが、アイツはルタイ人だ。

 本当に言語が違うために、分からなかったのかも知れない……思い込みで佐平次に辛く当たって、これでは嫌われたかも知れんな。

 そうだ、いつも私はこうだ。佐平次に対してだけは、我が儘になったり、短気になったり……これでは、本当に嫌われても、仕方がない。

 それに、私と佐平次がその気でも、母上が……

 そう思っているクリスに、アイリスは心配そうに言ったのであった。


「ねえクリス、佐平次と真剣に話し合ったら?」


「あぁ……でも、佐平次の他にもう1つ問題がある」


「アミリアのおばさんかぁ。おばさん、こう言うのは煩いからなぁ」

 そう言ったアイリスとクリスは、頭を抱え悩んだのでいたのであったが、その時イリナが二人に、言ったのであった。


「とりあえず、マクレガー大佐の事は、私とアイリスに任せて、クリスは佐平次と話し合って来なさい」


「しかし……」


「大丈夫、イリナと私に任せなさい」

 そう言ったアイリスは、クリスに笑顔で言ったのであった。


 こいつに任せるのは、不安しかないのだが……仕方がない。

「分かった、では母上の事は頼む」

 そう言ったクリスは、二人に頭を下げて、帰って行ったのであった。



「とは言ったものの……どうしましょうか、アイリス」


「そうですね、私達の夫なら、何とかしてくれるかも」


「それは、良い案ですね。では、明日にでも会議の場を設けましょうか?」


「そうですね、では明日にでも元帥の執務室で、集合しましょう。

 あそこなら、出入り口は1ヶ所で、入るには秘書達の部屋を通りますし、おばさんが来てもすぐに分かります」


「それは、良いですね、ではそうしましょう」

 そう言ったイリナは、手を叩き、無邪気な少女のように、喜んだのであった。


 本当に、この人達って、最後には御館様や、皇帝陛下頼みなんだから。

 そう思い、呆れて二人を見ていた、メイドのベアトリスは、左近とラニスを、不憫に思っていたのであった。


 その後、エリアスと佐平次がやって来たのだが、二人は一足違いで、クリスが帰った事、クリスの妊娠の事を聞くと、佐平次はその場から急ぎクリスを追いかけて行ったのである。




 ―――――――――




 何処だ?まだそんなには、遠くに行っていないはずだが……そう思い佐平次が、駅の方に向かうと、1人で歩いているクリスを発見したのであった。

「クリ……!」

 クリスティーナ様と言いかけた佐平次は、背後からの手で口を塞がれてしまったのであった。


 誰だ?この手は、女?

 そう思った佐平次の耳元で、ガブリエラが囁いたのであった。


「大尉、ちょっとこちらへ。駅には団長が居ます」

 佐平次は、その言葉で、全てを理解し、ガブリエラに言われた方に、付いて行ったのであった。




「少佐、すみませんでした」


「良いって事だ……それで、医者は手配出来たのか?」


「それが、既に今日検診されたそうで、妊娠されていました」


「そうか、おめでとう。同じ副団長として祝福するよ」

 そう言って、ガブリエラの差し出した手を、佐平次は握り締め、何も言わずに頭を下げたのであった。


「で、クリスティーナ様に、責任を取って結婚を申し込もうと、していたのか?」


「……分かりますか?」


「分かるさ。でもな大尉、こんな所でプロポーズは無いだろう。

 どうせするなら、もっとこう、ムードの有る所で言えば良いだろう」


「ムード……ですか?」


「そうだ、一生に一度の事だ、二人の思い出になるように……そうだな、出来れば、何かをプレゼントして言うのは、どうだろうか?」


「なるほど、そうですね……分かりました、閣下が経営されている、ナッソーの温泉宿に、二人で行こうと思いますが、1つ問題が」


「何だ?」


「温泉宿ですので、泊まりになります。ですのでマクレガー大佐にバレるかと……」


「よし分かった、来週末にその温泉宿に行け。私は、三好准将か元帥閣下に言って、何処かに団長を行かせる様に仕向けてもらう」


「ありがとう御座います」

 そう言った佐平次は、ガブリエラに頭を下げたのであった。



 


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