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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
80/464

暗殺者と姫様 2

 



 東暦元年10月4日。

 パンドラから逃げたスカーフェイスは、レイクシティの安アパート二階で朝を迎えていた。


 もう朝か……昨夜は、本当に最悪な夜だった。

 まさかあの姫様が、レイヴンだったなんて……これは根本的に計画を見直さないと。あのメイドと、入れ代わるのは中止だ。

 それに、あの嗅覚。

 アレ本当に人間かよ、獣人か何かの血が、混ざっているんじゃないか?

 とにかく姫様は、めったにセントラル区画からは出てこないし、もう大丈夫だろう。


 そんな事を思いながら、スカーフェイスは、露店に持っていく果実を準備して、昨日の夜の事は、忘れようと思いながら、気持ちを切り換えて、扉を開くと、そこにはテスタが立っていたのであった。


「……!」


「おはよう御座います、実は……」

「違います、人違いです!」

 そう言ったスカーフェイスは、すかさず扉を閉めたのであった。


 何故だ、何故だ、何故だ!何で家がバレているんだよ!

 あの姫様、一体どんな手を使って調べたんだよ!

 ……逃げよう。

 問題は、何処から逃げるかだが……そうだ、窓から逃げるか。

 二階だが誰かに見られなければ、どうって事は無いし、今の時間なら、皆は準備で忙しいだろう。

 そう思ったスカーフェイスは、窓から外を見た瞬間、下に停まっている、豪華な馬車を発見したのである。


 馬車……まさか!

 そう思ったスカーフェイスが、じっくりと馬車の中を見ると、パンドラが馬車の中から、こっちを見ていたのであった。


 ダメだ、窓からの逃走もバレている。

 何でここに来たんだよ!……そうだ、もしかして口封じ?昨日のあの光景を見たから?

 有り得る話だ。私は姫様の正体を知ってしまったから、口封じされる、十分過ぎる理由だ。

 いや、あの姫様は、理由なんて関係無く殺すだろう。どうする?どうする?


 そうだ、扉を開いて、あのメイドをぶっ殺して、裏口からの逃走。

 うん我ながら、完璧なプランだ。

 そう思ったスカーフェイスは、太ももに潜ませている、ナイフを取り出そうとした時であった、部屋の扉が何かに斬られて崩れ落ちたのであった。


 え?

 思わず、何が起こったのか、分からないスカーフェイスに、更なる衝撃的な事が起こったのであった。

 崩れ落ちた扉の向こうからは、大きな死神の鎌を持った、メイド服に黒い羽付マントを羽織った、テスタが入って来たのである。


 こ、こいつもレイヴン!

「な、な、な……」


「すみません、鍵がかかっていると思い、斬ってしまいました。

 しかし、念のためにレイヴンのマントを羽織っておりますので、罪には問われませんよ。

 さて……貴女はケイティ様ですね?」


 あまりの出来事に、スカーフェイスはコクコクと頷くしか、無かったのであった。


「あ、申し訳ございません、紹介が遅れました。

 私、佐倉家のハウス・キーパーのテスタで御座います。

 もう既にお分かりかと思いますが、私は10名の内の1人のレイヴンで、黒の死神のテスタと呼ばれており、階級は中佐で御座います。

 下で我が姫様がお待ちですので、御一緒に来ていただけないでしょうか?」


 お、終わった……私の人生終わった……

 そう思っているスカーフェイスは、テスタに腕を捕まれ、強制的に、そのまま馬車まで引きずられて、行ったのであった。


 まさに死刑台に、向かうような気持ちで、テスタに連れられて、馬車の前まで、連行されたスカーフェイスの目の前の馬車の扉が開くと、そこには、スカーフェイスが一番会いたく無かった女性がいたのであった。

 そうパンドラである。


 だが馬車の中には、パンドラの他にもう1人、軍服のジャケットを肩にかけて、葉巻を吸っている、貫禄のある女性もいたのである。

 もちろんママであった。


 ママは、スカーフェイスで、パンドラが遊びに行くと聞いて、では自分も遊びたいと言ってついてきたのであった。


 だ、誰だろうこの人……凄く貫禄がある。

 そうママに気を取られていたスカーフェイスであったが、パンドラの声が、一気に現実に、引き戻したのであった。

「昨日は、お疲れさまでしたケリィ。とりあえず馬車に乗って下さいな」


 いや、姫様……絶対に私の名前を忘れているだろ。ケ、しか合っていないぞ。

 じゃ無くて、この状態から逃げ出さなくては。

「姫様、その私には仕事が御座いまして、仕事をしなくては、家賃も支払えないのですよ。

 ですから今日は……」

「では、全て買いましょう」


「え?」

 いや、姫様の言っている事は分かる……分かるが認めたくはない。


「ですから、貴女の店の商品全て買いましょう」


 やっぱりそう来たかぁ!この姫様、父親が左近衛大将だもんな。金持っているもんな。

「い、いやほら、左近衛大将様にも悪いですし……」

「大丈夫です私のお金です」


「え?」


「私は、これでも軍属で階級も大佐ですが、実家で暮らしているために、給料で入ってくるお金を、使う事が無いのです。

 ですので、お父様には、何の迷惑もかけません」


 左近衛大将様、会った事は無いですが、こんな危険な人に大金を持たせては、いけませんよ。

 てか、逃げ道を完全に防がれた。

「わ、分かりました」

 そう言ったスカーフェイスは、渋々と馬車に乗ったのであった。




「あの~これから、何処まで行くのでしょうか?」

 そうスカーフェイスは、恐る恐る聞いたのであった。


「良い所です。

 そうだ、紹介しましょう、その隣の女性は、ソニア・ヴィシク少佐です。

 ソニア、こちらは私のオモチ……友人のケニーです」


「今、絶対にオモチャって言いかけたでしょ!それに私はケイティです!さっきからケ、しか合っていないじゃ、ないですか!

 ……すみません!生意気な事を言ってすみません!」

 そう言ってスカーフェイスは、パンドラに全力で、謝罪したのである。


「ハハハ、面白い気に入った。

 ソニア・ヴィシク少佐だ、騎士団以外の者には、ママと呼ばれている。宜しくなケイティ」


 よ、良かった。この人は比較的まともそうだ。

「宜しく御願いします。所で今日は姫様の護衛ですか?」


「……お前、この姫さんの正体を、知っているんだろ?この姫さん護衛が必要に思えるか?

 私は、姫さんが暴れた時に、関係の無い者を守る役目だよ」


 あ~そう言うことね、納得出来るわぁ。

 スカーフェイスが納得していると、パンドラは外を見ながら、ママに言ったのであった。

「ソニア、昨日のあの者達は、どうしましたか?」


「ああそれね、情報を吸出した後で……お、ちょうど見えてきた、彼処に飾っておいたよ」


 そうママが言った先には、何やら大通りに人垣が出来ており、弾正府の侍が、人を遠ざけ様としている光景が、あったのである。


 何だろうか?

 スカーフェイスは、そう思っていると、パンドラが馬車を停止させた時に、ふと上を見たのであった。

「……!」


 スカーフェイスは思わず絶句してしまったのであった。

 三階程の高さに、吊るされている物体は、明らかに昨夜自分を襲った、二人組であったのである。

 更にあの細い男の、死に顔がその全てを物語っていた。

 明らかに血の涙を流し、苦悶の表情で、吊るされており、それは壮絶な拷問が行われた事を意味していたのである。


 ひ、酷い……ここまでするのか?

 もしかして、このまま連れて行かれて、私もあの様になるのでは?

 そう思ったスカーフェイスは、恐怖で全身の震えが、止まらなくなっていたのであった。


 その時に、その恐怖を嘲笑うかの様に、馬車の窓がノックされたのであった。

 一瞬、ビクッとしたスカーフェイスであったが、そんな事はお構いなしに、パンドラは窓を開けて話し出したのであった。


「弾正どうしましたか?」

 そう、窓をノックしたのは、藤永 弾正であった。


「あの死体は、姫様の騎士団の者がやったので?」


「それが、どうかしましたか弾正?」


「いえ、それならば不問となりますが、次回より弾正府に一声かけて頂けますと、有り難いのですが」


「弾正、私に意見するので?」

 そう言ったパンドラの目は、明らかに冷血な目と、変貌していたのであった。


「い、いえ、滅相もございません」


 ほ、本当だった……レイヴンの者は、何をやっても罪にならないって言うのは。

 その事を目の当たりにして、驚いているスカーフェイスの横では、ママが必死で笑いをこらえて、いたのであった。


「……しかし、まぁ弾正も職務上、こんな小言も言わなくては、ならないのでしょう。

 分かりました、次回より弾正府の方に、一声かけさせて、いただきます」


「ありがとう御座います、姫様なら分かって下さると、思っておりました」

 弾正がそう言うと、再び馬車が動きだし、その中でママは腹を抱えて、笑いだしたのであった。


「ハハハ!藤永の爺が、あんなにビビっているのを、初めて見たよ」


「ソニア、あまり弾正の事を、悪く言わないであげて下さいね。

 まぁお父様とは、犬猿の仲ですが、私にはちゃんと、敬意を持って接して下さるのですから」


 藤永の爺?弾正府の?もしかして、レイクシティの弾正府の総責任者の藤永 弾正大弼 久道様か。

 そうか、左近衛大将様と仲が悪いのか……これは言い情報だ。

 って私は、こんな時にまで、何で律儀に仕事をしているんだよ。

 今はこの場から逃げること、生き延びる事が第一だ。

 しかし、唯一まともな人が来たと、思っていたのだが、この少佐は残虐性では、姫様と良い勝負している。

 何とか何とかしないと。


 そう考えている内に一行は、レイクシティの政庁にやって来たのであった。


「え?ここは?」

 政庁を見てスカーフェイスは、思わず変な声になりながら言ったのであった。


「昨夜、約束をしたでしょう、報酬でIDカードを作らせると」


 し、しまった!命は助かったが、これはこれで、ヤバイだろ。

 システムが分からない以上、下手に動く事が出来ない、一体どうすれば良いんだ。



「では、私は馬車を停めて来ますので」


「じゃあ、その間に、私は御手洗いに行って来ますので。ソニア、後はお願いしますね」


「あいよ。んじゃケイティと、ここで待っているよ」

 ママがそう言うと、パンドラとテスタは行ってしまい、スカーフェイスとママは、政庁前で二人っきりになったのであった。


 二人きりになってしまった……ここで逃げれないかな?

 そう思っていると、話し掛けて来たのであった。

「なぁケイティ、お前このままなら、姫さんのオモチャになって死ぬぞ」


「や、やっぱり、そうですよね……このまま逃げても……」

「それは、止めとけ。その瞬間、私がお前を殺す。

 因みに私の最大攻撃範囲は、この区画位の広さだ。いくらお前の足が早くても、この区画の者を一瞬で、皆殺しに出来るから、無駄だ。

 でも……助けてやろうか?」


「で、では、逃がして頂けるのですか?」


「バカ、私だって自分の命は、大事だ。でもな、明日からお前が消えれば、話は別だ。

 ……お前、このレイクシティから、出れなくなっても、我慢できるか?」


「それで、命が助かるなら……」


「そうか。先ずはIDカードの発行だが、これはルタイ人の習慣の関係上、一度名前の変更が出来る様に、なっている。

 ルタイ人の侍は、子供の時の名前と、成人した時の名前が、変わるらしいんでな。今回は、それを利用する。

 そこでだ、今の名前でIDカードを作り、私達と別れた後で、もう一度名前を変更する。

 それで変更したら、何処かに雲隠れしたら、大丈夫だろう」


「名前の変更って、好きなので、良いのでしょうか?」


「名前は、自由に登録できるが、2回しか登録できないし、作ってから、姫さんにIDカードの名前を、見られると、ややこしいから、それは止めておきな」


「でも、名前の変更が出来たら、レイクシティから、逃げれるのでは?」


「そいつは無理だな。

 この世の生物は、人によって強さは違うのだが、身体に魔力を帯びていて、1人づつ波長が違うらしい。

 そのIDカードは、その魔力の波長を登録するから、偽造は不可能だし、お前が消えれば、姫さんは城門に手を回すだろう。

 このレイクシティは、島から出るには、1ヶ所の城門しか無いから、そこを封鎖すれば、簡単だ」


「でも、行き先が……」


「しょうがねえな、住み込みで働ける所を、紹介してやるよ……その代わり死んでも、口を割るなよ。

 死んだら、その頭から情報を吸出すのは、どうせ私だから、大丈夫だしな」


 情報を吸出す?そんな事が出来るのか……この人は、ヤバすぎるが、今はこの話に乗るしかない。

 だが、名前を自由に登録出来るって情報は、有りがたい。

「有難うございます」


「じゃあ、明日に名前の変更をして、一般区画のノース駅前に在る、今度オープンする、ラビットショットって言うバーにいる、ジャックと言う男に会いに行きな。

 看板は出ているから、分かるだろう、話は通しておいてやる。

 まぁ一応は、出来る限りの変装もしておけ」


「あ、有難うございます。……でも何で私を助けて下さるので?」


「あの姫さんは、何でも思い通りになるって考えがある。

 これを機会に、その考えを改めてくれれば、良いのだが……それに今回は1つ貸しだ、またいつか返してくれれば良い」


「分かりました。またいつか、お返し致しますので」

 そう言うとスカーフェイスは、ママに頭を下げて感謝したのであった。


 念のために、顔の皮も変えておこう。

 この人なら、バレても、変装したと言えば、納得してくれるだろう。

 だが、変わりすぎは良くない……帰ってストックを見て考えるか。

 そう思っていると、パンドラとテスタが、戻って来て四人は政庁の中に、入って行ったのであった。


 政庁の中は、IDカードの発行や土地の登録等の為に、人が溢れていたのだが、テスタが受付の女性と何やら話していると、一行は別室に通されたのであった。


 別室に移動したパンドラ達の目の前のテーブルには、水色の水晶とキーボードが一体になった、初めて目にする魔導機が置かれており、ダークエルフの男性が座っていたのであった。

「初めまして、今回皆様にIDカードを発行する担当の、ウルバと申します。

 今回は黒騎士団(ブラックナイツ)の皆様は、特別なIDカードになりますので、今回は別室にさせて頂きました。

 では先ずは、一般の方からやりましょうか……ええっと、そちらの女性ですね。

 こちらに来て、この水晶に、両手で触れて下さい」


「わ、分かりました」

 そう言ったスカーフェイスは、恐る恐る水晶に触れると、ウルバが質問してきたのであった。


「それでは、幾つか質問させて頂きます。お名前は?」


 来た!少佐は、ああ言っていたけど、大丈夫だろうか?……予定通りに、言うしかないか。

「ケイティです」


「はい、ケイティさんね。次は種族と性別ですが、人間の女性で宜しいでしょうか?」

 そう言いながらウルバは、カチャカチャとキーボードを打っていたのであった。


「そうです、人間の女性です」


「では、軍属では無く、一般人ですか?」


「そうです」


「では最後に、今はレイクシティに、住んでおられるのですか?」


「はい」


「それでしたら、ルタイ皇国の国民になりますが、宜しいでしょうか?」


 これ、拒否したら、どうなるんだろうか?

 でも、今は拒否するのは、何かと怪しまれそうだな。

「はい、お願いします」


「では、ルタイ人ですね……では、これからカードの作成に入りますので、そのままでお待ち下さい」

 そう言いながら、ウルバがカチャカチャとキーボードを打って、カードを水晶の中に入れた瞬間、スカーフェイスの身体に、何とも言えない脱力感が襲って来たのであった。


 これが魔力を使うって事なのか?

 そう思っていると、チンと鳴って水晶から、白色のカードが出てきたのであった。


「それが、ケイティ様のIDカードになります。

 そこに書かれている、賞罰と言う所は、犯罪を犯し弾正府に捕まりますと、記載され、様々なペナルティが課される事になりますので……まぁ犯罪を犯さなければ、良い話ですので、必要無いでしょう。

 そのカードを紛失されますと、紛失届を提出して頂き、再発行料として、5シリングかかります。

 では最後に、動作確認の為に、そちらの箱の青く光っている所に、カードを置いて頂けますか?」


 ウルバに言われて、スカーフェイスは、IDカードを置くと、ピッと言う音がしただけであった。

「正常に動作しております。

 今後は確認の為に、この箱にカードを、置いて頂く事がありますので。

 もしも違うカードを置かれますと、警報音が鳴り、取り調べを受けますのでご注意下さい」


「わ、分かりました」

 これでは、入れ代わりが不可能になってしまう……これはもう、廃業だな。


 そう思いながら、ガッカリしていると、ウルバはパンドラを呼んだのであった。

「次は姫様ですね、ではケイティ様と同じく、この水晶に手を置いて下さい。

 羽付の皆様は、軍の方から、この様に登録しろとの通達が、来ておりますので、質疑応答は不要です」


「あら、楽で良いですわね」

 そう言ったパンドラは、そのまま水晶に手を置くと、ウルバは書類を見ながら、打ち込んだのである。


「ええっと、名前は佐倉 パンドラで、人間の女性。ルタイ皇国所属で階級は大佐……か、官位は従六位上の左衛門尉それに、黒騎士団(ブラックナイツ)団長っと。

 ……では、これよりカードの作成に入ります」

 そう言ったウルバは、黒いカードを水晶に入れると、暫くしてチンと鳴って、カードが出てきたのであった。


「このカード、裏側に騎士団の紋章が入っている」


「ええその通りです、各騎士団には、紋章付きの特注IDカードになっており、こう言った、革のパスケースと言った物に、入れられます」


 やっぱり騎士団は、一般市民と扱いが違うよな。

 でも、新しい名前か……何にしようかな。

 そんな事を考えながら、残る二人も、IDカードを、登録していったのであった。



「では、この後は、食事でもしましょうか?」

 政庁から出ると、そう言ったパンドラは、スカーフェイスに笑顔で言ったのであった。


 ヤバい、このままなら、帰れずに、そのまま監禁の可能性もある。

 そうだ、アレを利用しよう。

「すみません姫様。

 今日テスタ中佐が、私の家の扉を壊されましたので、大家さんに謝罪に行かないと、いけませんので、私はこの辺りで……」


「そんな事が……」

 そう言ったパンドラは、テスタを睨み付けると、テスタの目は明らかに、泳いでいたのであった。


「それは、仕方がないですね。では自宅に送って差し上げましょう。

 テスタ、馬車を……それと帰ったらお仕置きです」


「はい、有り難う御座います姫様!」

 そう言ったテスタは、笑顔で馬車を取りに行ったのである。


 テスタさんって、何で姫様のお仕置きで、あんなにも、嬉しそうなんだろうか?

 何か見ては、いけない光景を、見てしまった気がする。

 そんな事を考えながら、一行は馬車に乗りスカーフェイスの家のある、一般区画の中央地区に向かったのであった。



 ――――――――――



「では、有り難う御座いました」

 そう言ったスカーフェイスは、自分のアパートの前で馬車から降りると、テスタから報酬を受け取ると、自宅に戻って行ったのであった。


 そのスカーフェイスの背中を見ながら、パンドラはママに話しかけたのであった。

「ソニア、例の首尾はどうでしたか?」


「もちろんバッチリ、ジャックの店に誘導しといたよ。

 散々ビビらせたから、絶対に行くだろうよ」


「そうですか。ならばここからは、忍の風間一族に任せるとしましょうか。

 でもこの作戦で、不満なのは、私が酷い女になっている事だけですが」


「でも姫さん、どう見ても、演技している様には、見えなかったぞ」


「あら、そうでしょうか?」

 そう言った談笑の中、パンドラ達を乗せた馬車は、左近衛府に戻って行ったのであった。




 ――――――――――――




 次の日の昼間、スカーフェイスは、ジャックの地下にある店の前で、夜も明けぬ間に出発して、店の前に踞っていたのであった。

 既にパンドラ達の馬車が離れた瞬間に、もう一度政庁まで行き、ママに言われた様に、名前の変更は済ませてある。

 そして顔も、元のケイティの顔に近い顔へと、交換していたのであった。


 確かにラビットショットって言う店は、本当に在った。

 でも、いつそのジャックさんが、来るのか聞いて無かった……失敗したな。

 このまま誰も来なかったら、どうしよう……何で、こうなったんだろう?

 そうだ、元々は私には、潜入する絶対の自信があった。

 でも、ここに来て、本当に自分の技術の無さを、思い知らされた。

 力にも自信はあった……でも、あの姫様の強さを見たら、自分が何れ程、弱いのか思いしった。

 私は今まで、背後から殺してきた、臆病者だったんだ。

 ちょっと、自分の命が危険になったからって、ビビってしまった、臆病者なんだ私は。

 そう思いながら、座って塞ぎ込んでいると、頭上から声が、聞こえて来たのであった。


「すまんが、そこに座られると、中に入れないんだが」


 その声を聞いた瞬間、スカーフェイスは思わず顔を上げると、いつの間か、何とも存在感の無い男が立っていたのであった。

「ジャックさん?」


「ああ、確かにジャックだが……ああ、ソニアの言っていた、ケイティさんか?」


「そうです!」


「……そうか。まぁここでは何だから、中に入ってくれ」

 そう言ったジャックは、店を開けて、スカーフェイスを中に入れたのであった。



「内装は出来ているんだが、酒とかはまだなんだよ。あ、適当に座ってくれ」

 ジャックに促されて、スカーフェイスは座ると、ジャックは水の入ったグラスを置いて、驚く事を言ったのであった。


「……ケイティさん、顔がずれているぞ」


「……!」

 しまった!交換したばかりなのに、座って塞ぎ込んだ時に、顔に当たっていたんだ。

 どうする?こんな所を見られたら、殺すしか無い。

 そう思ったスカーフェイスは、さりげなく太股のナイフを掴んだ時に、ジャックが話し出したのであった。


「俺はな、ソニアとは戦友だったんだよ。

 まぁあっちは戦場で、華々しく戦っていたが、俺は諜報員だったんで、部署は違うんだがな。

 その時に聞いた事がある、顔の皮でその者に成り代わり、ターゲットに近付き暗殺する、スカーフェイスの名前を。

 ……スカーフェイスか?」


 バレた!ここは殺すしか……でも、殺してどうする?入れ代わるにしても、リサーチも何もしていない。

 それは、こないだの失敗で、思いしったじゃないか……よし!

「そうです、スカーフェイスです……弾正府に通報しますか?」


「ん?意味が分からんな。殺人や暗殺なんて、俺も数えきれない程の者を殺している。

 今さらお前が、暗殺者と分かった所で、俺は戦友の頼みを、反故にしたりはせんよ」


 良かった、話の通じる人で。

 そう思っていると、ジャックが思わぬ事を、言ったのであった。

「ケイティよ、取り敢えずその顔の皮は、取るんだ。あの姫様は、犬の様な嗅覚がある。

 もしもこの店に来たら、すぐにバレるぞ。

 でも鼻とかを、削ぎ落としているなら、別の方法を考えねばならんが」


「その姫様の嗅覚の話、分かります。実際に体験しましたから。

 鼻とかは、大丈夫ですが、髪の毛等は全て剃っています……暫くしたら、生えて来ると思うのですが」


「では、生える間は、帽子を深く被って、奥で仕事をすれば良い。

 住む所は、ここの2階に空き部屋があるので、そこを使うと良いだろう。

 そして給料だが、1日80シリングで良いか?」


「何から何まで、有り難う御座います。それで御願いします」


「そうか、今日の所は、荷物を部屋に置いて、皮を剥がして風呂に行き、その血を洗うと良い

 拭くだけなら、その臭いは取れないからな。

 一応、カツラがあるか、市場に行った時に、探しておいてやる」


「何から何まで、本当に有り難う御座います」

 そう言った、スカーフェイスが出ていこうとした時に、ジャックが鍵を投げて、聞いたのであった。


「2階の203だ。そうだ、名前を変更したと、聞いているが、何にしたんだ?」


「メリッサです」

 そう言ったスカーフェイスは、憑き物が取れた様な笑顔で、ジャックに言って出ていったのであった。



 そして、暫くすると、店の扉が開き、ママが入って来たのであった。

「いらっしゃ……なんだ、ソニアか」


「なんだは、無いだろう。所で首尾の方は?」


「全て順調、だが風間一族の者を雇うのは、まだ先だな。

 それに、自分で俺に、スカーフェイスだとばらしたぞ。まぁ偶然だったがな。

 ……なぁソニア、あの子は今希望に満ち溢れている。

 そこから、絶望に落として殺したら、絶対に良い顔すると思うんだが……ダメかな?」


「……それは、止めとけ。姫さんだけじゃ無くて、左近にまでぶっ殺されるぞ」


「そっかぁ、やっぱりダメかぁ」


「全く、お前と言い、テスタと言い……本当に、ここの騎士団は、変人ばかりで、楽しいよ」

 そう言ったママも、笑顔で出ていったのであった。




 ―――――――――




 その夜、左近の邸宅のリビングで、ママが左近に、スカーフェイスの事を、報告していたのであった。

「そうか、自分でスカーフェイスって、ジャックに言ったのか……足を洗うつもりかな?」


「さあね、取り敢えずホレ」

 そう言ったママは、左近に手を差し出して、何か寄越せと言わんばかりの、ポーズをしていたのである。


「ママ、なにこれ?」


「決まってるだろ、今回の報酬だよ。

 私もタダで動くほど、お人好しじゃないんだよ」


「給料も渡してるし、ナッソーの邸宅が完成するまで、タダで居候させてるじゃねえかよ。

 本当なら、ハンザの所で良いと思うんだが……」


「ケチ臭い事を、言ってるねぇ。そんな事を言っていると、ナッソーの片目のオヤジの様に、1人寂しく暮らす事になるよ。

 まぁ良いや。今回は、サービスだからな」


 今回はって、次回から金取るのかよ。

 そう思っていると、パンドラが左近に、話し掛けて来たのであった。

「そう言えばお父様、スキルの実験とか、やっています?」


「全然、全くやってない」


「私、1つ面白い事を発見しましたの。まぁ見てください。」

 そう言ったパンドラは、アイテムボックスを開いて、手を入れると、残った手で何やら空中を、タッチしたり、スライドさせたりする動きを、やっていたのであった。


 何をやっているんだ?何やらスマホを、操作している様だが。

 そう思っていると、パンドラがアイテムボックスから、グレープフルーツの様な果実を取りだし、珠に言ったのである。

「お姉様、居合い抜き見せて下さいませ」


 そう言って、パンドラに差し出された刀を珠は受け取ると、居合い抜きの構えをやったのであった。

「では、いきます」


 その合図で、パンドラは珠の方向に、その果実をポンと投げると、珠は綺麗に果実を真っ二つに、斬ったのであった。

「パンドラ、これが、どうかしましたか?」


 刀を鞘に納めた珠は、不思議そうに、パンドラに聞いたのであった。

「では、このグレーツの実を食べて下さい」


 食べても良いのだが、元々の味も知らないしな。

 そうだ、食い意地なら、誰にも負けないのが、1人いた。

「……ラナ食べてみるか?」


「え?良いの?」


「ああ、俺は元々の味を知らないしな」


「やったね。では、いただきます」

 そう言ったラナは、グレーツの果肉を口に入れた瞬間、不思議そうに言ったのである。


「あれ?全然、酸っぱくない……何で?ってそんなに、美味しくないし」


「パンドラ、これはどう言う事だ?」


「それはですね、そのグレーツの実の、クエン酸を抜いたのですよ」


『クエン酸?』

 その言葉に、左近以外の者の頭の上に、クエスチョンマークが付いたのであった。


「クエン酸とは……お父様、ご説明宜しく」


 お、俺かよ……絶対にパンドラの奴、めんどくさくなったな。

「クエン酸ってのはだな、果実等に入っている酸っぱさの成分だ。でも、それを抜いたって事は……」


「はい、お父様のお察しの通り、アイテムボックスの中で、その成分を抜きました。

 これはあくまでも、仮定の話ですが、職業の覚醒勇者と発明家が、関係しているのでは、無いでしょうか。

 ただ、今のところ出来るのは、成分を調べて、その成分を抜く事と、成分を入れる事のみですが」


 それって、かなり凄いスキルじゃないか。

 これで、アイテムボックスで、科学物質が出来るかも知れない……でも、大量生産は無理か。

 そう思っていると珠が、ある事に気が付いて、パンドラに言ったのであった。

「ちょっと待って、今の居合い抜きって、まさか包丁の代わりに、斬らせたの?」


「正解です」


「……次にやったら、殺すわよ」


「あら、いつでもお父様の許可があれば、お相手しますわよ」


「ほう、表に出る?」


「望むところです」


 ヤバい、こんな所でケンカされれば、レイクシティが吹っ飛ぶじゃないかよ。

「もういい止めろ、こんな所でケンカなんて、見苦しいわ!

 取り敢えずパンドラは、明日からスキルの実験と研究に付き合え」


「分かりました。少し私からも、お願いがあるのですが」


「何だ?」


「4月より始まる、フレイア陛下が理事長を勤める、学校と言う所に行ってみたいのですが」


 学校に?何か目的があるのか?でも、学校に行けば、友達も出来るかも知れないな。

「分かった、手配しよう。だが、いくら俺の娘だと言っても、特別扱いはしないように、フレイアに言っておくが、良いか?」


「もちろんでございます」

 そう言ったパンドラは、学校に行ける為か、笑顔になっていたのであった。


 だが、ここで小次郎が、左近に悪人の様な笑みを浮かべながら、やって来て、左近に言ってきたのである。

「左近衛大将殿、里に残っている者から、連絡があったのですが、どうやら魚がかかった様ですぜ」


「何?……本命か?」


「分かりませんが、おそらく違うかと思います。

 甲賀者から風間一族に接触がありまして、レイクシティの我等の里に、放火する様です。

 今は人数がいないので、甲賀と合同なら、引き受けると言いましたが、宜しいでしょうか?」


「もちろんだとも。その方が情報が筒抜けだしな」


「レイクシティの里で、全員殺しますが、1つ問題がありまして……川に逃げ込まれたら、我等には手は出せないんでさぁ。

 甲賀者は、水中の戦いが得意ですし、長く潜れる術がある様ですね」


 水中の戦いか……そうだ、こっちも、鶴がいるじゃないか。

 鶴の戦いを間近で、一度見てみたいし、まさに一石二鳥だ。

「それについては、こちらで手を打っておこう」


「ではお願いします。

 攻撃は12月だそうで、詳しい日程が分かれば、また報告します。

 地上の者は、私達にお任せ下さい」

 そう言った小次郎は、圧倒的な自信を見せていたのであった。


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