謀略
「あ~昨日飲み過ぎた」
そう言った左近は、ソファーに横になり頭を押さえて、二日酔いに苦しんでいたのであった。
「調子にのって、飲むからですよ。お水と、ドクから貰っている二日酔いの薬です」
そう言ってクロエは水と薬を、苦しんでいる左近に、渡したのであった。
二日酔いの薬って、そんなのが有るのかよ。
しかし、昨日は楽しかったな、まさかラナが、あんなにも夏に敵意剥き出しで絡むなんて。
普段はあんなにも、無関心なのに、やっぱり兄貴を取られると思ったのだろうか?やっぱり兄妹だな。
そんな事を思いながら、左近は薬を飲んだのであった。
「失礼します、キース様が来られました」
そう言って入って来た蘭も、同じ様に二日酔いの様であった。
「そうか、入れてくれ。それと蘭、二日酔いの薬が有るから飲んでいけ」
「あ、ありがとう御座います」
そう言った蘭は、クロエから薬を飲むと、キースを執務室に招き入れたのであった。
だが、入って来たキースは、目の下に大きなクマを作り、げっそりと痩せていたのであった。
「どうしたキース?死にかけているぞ」
「それが仕事が山積みで、殆ど寝れていないので……」
あ、内政の事は、ほぼ全てキース1人に丸投げして忘れていた……こいつ、このままなら過労死しそうだな。
いかん、このままならルタイ皇国のヴァルキア地方は、ブラック企業になってしまう。
「キース何か内政で、問題点が有るのか?」
「人員が全く足りないのと、旧パナスの農地が、例の虐殺で人が居なくなってしまったので、税収減の問題。
そして、今までの領民の土地の権利保証や、各地の代官の選任……とにかくこのヴァルキア地方は、広すぎて、何処かの小国程の広さが在るので、管理が大変なんですよ」
サーセン、天眼で見て、その広さは存じております。
このヴァルキア地方は、西日本程の広さが在るのは、確認済みです……やっぱり内政の人数を増やすか。
そう言えば、パンドラが負傷して、復帰できない者の再就職先を、考えてくれって言ってたな。こっちに回すか。
適性の者以外の者は、フレイアの所の学校とかに回せば良いかな。
「そうか、では負傷して復帰できない者を、そっちに回すので、使えそうな者を使ってくれ」
「ありがとう御座います。で、今日はどうされました?」
「実はな、ルタイ皇国の俺の親戚達が、レイクシティに移住したいそうなのだが、何処かいい土地と仕事は無いか?」
「それならば、この左近衛府で良いのでは?」
「それが、少々特殊な者で人数も800名程いる……彼等の希望としては、何処か人里離れた場所が良いんだが。
それでいてレイクシティに近い場所……在るか?」
「それならば、ここは如何でしょうか?」
そう言って、キースはテーブルに地図を広げて、指差した場所は、レイクシティの巨大な湖に、流れ込む大河の巨大な三角州であった。
なるほどここならば、二ヶ所のこの橋を管理するだけで、里の秘密も守りやすい。
問題は、カモフラージュとなる仕事だが、税金が発生する仕事は、出身がバレる恐れが有るのでまずいし……思いきってここを、俺の土地にしようか。
「なぁキース、この場所に佐倉家の、農園を造っても良いかな?」
「それは、ありがたい話です。ちょうどこの三角州は、巨大な農園が在ったので、新たに農園を造るのは容易いでしょう」
「それと、例の虐殺で空いた農地だが、区画整理して希望者に与えるのはどうだろうか?
もちろん、タダでとは言わずに、10年間税金を以前の割合で徴収し、10年後には土地の権利を全て、その者に譲り渡し、通常の税率に戻すと言うのは、どうだろうか?」
「なるほど、予め区画整理しておけば、無理に広い土地を取って、税金を支払え無くなる者が出ないので、有効でしょうね。
それに統治が安定するまで、何かと入り用ですので、税金は多い方が良いですし。
では、ルタイ皇国の入植者の募集を、朝廷に話を通して調整しましょう」
「では頼む」
左近がそう言うと、扉が開いて、蘭が申し訳なさそうに言ったのであった。
「あの~、鬼島大佐が来られましたけど……」
「おお、もうそんな時間か」
「分かりました。では私は、もうそろそろ行きます」
そう言ったキースは、一礼し出ていき、代わりに入って来た鶴は、制服姿で制帽からはみ出ている、犬耳が左近の目を引いたのであった。
あのモフモフ触ったら、気持ち良さそうだな……ダメだ、それよりも金の話だな。
「クロエ、暫く鶴と二人っきりにしては、くれんか?内密な話だからだ。上の……今日は桔梗か?上の者も外してくれ」
そう言って左近は、人払いをし、天眼で確認していると、鶴は左近にひれ伏し言ったのである。
「この度は、我が母の命を救って頂き、誠にありがとう御座います。我が父の左馬允も、閣下に感謝しておりました。
鬼島家は何があっても、閣下に従う所存」
「そうか、それはありがたい申し出だ。
早速だが、鬼島大佐……いや、鬼島 鶴個人に聞きたいのだが、高野山から作られた金は、どうやって大陸に運搬される?」
「……!な、何故その事を?」
「俺はこの世の理を帝から聞いた。
そして偶然にも、理に根来衆と雑賀衆が関わっている事を知ってしまった。
だとするなら、帝の指示で通貨製造するのならば、帝がよく知っている高野山になる。
だがここで疑問が出た、いくら海の雑賀衆だと言っても、ルタイ皇国最大の水軍を率いる鬼島家が、その事に関わっていないのは、何か変だ。
何処かで関わっているに違いないと、俺は睨んでいるが……どうだ、当たりか?」
左近のその言葉に、鶴は冷や汗を出しながら言ったのであった。
「その通りで御座います。鬼島家は金と銀の運搬に関わっております……」
金と銀の運搬……だとすると海上ルートで運搬しているのか。
「教えてはくれんか?もちろん他言はしない」
「分かりました。
ルタイ皇国は、東は金が、西は銀が多く産出され、その全ての鉱山が朝廷の直轄になっております。
金は江戸に一度集められ、銀は境港に一度集められて、そこから海路で堺に集められます。
そこで通貨製造に使う物と、そのまま流通させる物に分け、製造分はそのまま高野山に送られます。
そして今は、製造された通貨は海路で伏見まで運ばれ、朝廷に納入される流れです」
そうか、ならば小次郎達が狙うのは、伏見から京までの陸路しか無いと言う事だな。
けっこう短いから難しいぞこれは……だから、警備しやすい海路を選んでいるので、当たり前なのだが。
これは、帝に内々で相談してみるか。
「そうか、ではここまで聞いて、そのままでは、お前も不安だろうし、後々に手伝ってもらう事もあるから、お前には話しておく。
忍の風間一族が我等の仲間になり、佐倉家と親戚になった」
その左近の言葉に鶴は驚き、とても信じられないと言った顔に、なっていたのであった。
「信じられんか?俺の妻の兄であるアデルが、風間 小次郎殿の娘の夏と、婚約した。
しかし、小次郎殿と話し合い、風間一族が我等の味方になった事は隠して、他の者にはむしろ、敵対している様に見せたい。
そこで帝に内々で相談して、左近衛府に送る金の強奪をさせる。彼等も金は必要だからな。
一族の移住先も、箱根山から、ここレイクシティの近くにする事にしたのだ」
左近がそう言うと、鶴は暫く考えて言ったのであった。
「その話、閣下を信じていない訳では御座いませんが、1つ腑に落ちない所が御座います。
何故、閣下は専属の忍を必要と、しているのでしょうか?忍ならば、連合軍にもいるはずですが」
こいつ、思ったより慎重な女だな。
自分が納得出来るまで、自分で調べるタイプの様だ。
こう言ったタイプは、部下として扱うには、要らぬ事まで自分で調べて、勝手に行動する厄介なタイプだが、全て任せる将として扱えば、納得すれば配下を動かし、行動する最適なタイプだな。
左馬允殿も、女でなければ、当主にしたかったであろう。
「お前には、俺の全てを正直に言った方が良さそうだな。今ルタイ皇国で、3つの派閥が在るのは、知っているな?」
「存じております。我が父も大陸派だと自負しており、私もそう思っております」
「そうか。
数週間前の話だ、俺が帝に言われて、奴隷を購入する為に、顔見知りの奴隷商人の所で、奴隷を購入した。
その夜に、俺の手の者が、その奴隷商人の元を訪ねると、その奴隷商人が殺され、中身が入れ代わっていた様だ」
「入れ代わっていた?」
「そうだ、その者の名はスカーフェイス。
暗殺目標に接触する様な者を殺して、顔の皮や頭皮を剥ぎ取り、その殺した者になり代わり、近付き暗殺する者だ」
「なるほど、そうなると目標は閣下で、依頼者は文治派か武断派の者だと、閣下は睨まれているのですね」
「そうだ」
「しかし、それは変な話ですね」
「何処が変な話だ?」
「確かに帝の命で奴隷購入の件を知るのは、ルタイ皇国の、それも上層部の者ですが、命まで狙うのは変です。
失脚等は、考えるかも知れませんが、今閣下を失えば、皇国の損失はとても大きく、皇国自体が痛手を被る事になり、最悪連合軍は崩壊して、皇国も滅びる可能性があります。
いくら文治派や武断派と言っても、そこは分かっているでしょう」
確かに、そう言われれば、鶴の言う事も一理ある。
「それでは、誰が?」
「それは分かりませんが、閣下専属の忍の話は、私もそれで良いと思います。
……ですがこの件は、どうもキナ臭いですね。皇国内部で皇国の滅亡を願う者か、もしくは連合国内部で閣下を邪魔に思っている者か。
……この件は、三好准将に話されましたか?」
「いや、清信には、未だ話してはいないが」
「でしたら、一度相談しておいた方が宜しいでしょう。
准将の父上の三好 久信様は、隠居なさっているとは言え、かなり皇国の裏にまで詳しい御方ですので、力になってくれるでしょう。
我等、水軍を中心にしている大名は、海賊大名と言われて、皇国内部で蔑まれておりますので、あまり詳しくありません。
ですが、名門の三好家ならば、そう言った情報にも、精通しておりますので」
なるほど、清信の父上か……そう言えば、内裏でパンドラがやらかした一件も、すぐに情報を仕入れて、清信に報告していたよな。
あの時は、文治派の者が流したと思っていたが、もしかすると、独自で仕入れた情報もかも知れない。
しかし、この鶴は的確に俺に助言をくれる、軍師タイプだな。
「分かった、お前の言うとおり、清信にも相談してみるとしよう。
そうだ、話は変わるのだが、一度鶴の父上の左馬允殿に会ってみたいな。もちろん、体調が良くなってからで良いし、何なら俺が境港に行っても良い」
「ありがとう御座います。父も喜びます」
そう言った鶴は、頭を下げて喜んだのであった。
――――――――――
左近が鶴と会っていた頃、ルタイ皇国関東の中心地である江戸城の奥では、ルタイ皇国では珍しく、でっぷりと肥えた、40代前半の男が薄暗い部屋で、女性の膝枕で横になり、優雅にキセルを吹かしていたのであった。
この男は、名を横瀬 武蔵守 保成と言い、ルタイ皇国の前内戦で、当初は反朝廷派に属していたのだが、朝廷派に武蔵一国と引き換えに内通した男であり、武断派に属していたのだが、他の者からは、自堕落な生活を、やっているかと思われていた。
そんな彼の元に、隻眼の白髪混じりの男が、大きな荷物を持って武蔵守の元にやって来たのであった。
「殿、大陸に行った木工から、御望みの物が届きましたぞ」
その言葉に反応した武蔵守は、膝枕から飛び起きると、その隻眼の男に近付くと、笑顔で言ったのである。
「やっと来たか!おい、お前はもう良い、下がれ」
そう言った武蔵守が、女に早く下がれと言わんばかりに、手で合図すると、女ははだけだ着物を正して、慌てて部屋から、出ていったのであった。
「殿、女性はもう少し丁重に扱うものですぞ。そもそもその年になっても、正妻を娶とらぬは、如何なものかと思いますぞ」
「図書はいつも煩いの、分かっておるわ。それよりは……」
「これで御座います……」
そう言った図書は、1つの豪華に装飾された小さな木箱を、武蔵守に渡したのであった。
「これこれ……」
そう言って武蔵守は、図書から渡された木箱の中をひっくり返し、中の宝石を外に出すと、木箱の底の板を外し、中に入っていた手紙を読んだのであった。
手紙を読んだ武蔵守は、内容を読むと、当初の笑顔から、みるみる内に不機嫌な顔に、なっていったのである。
その顔を見た図書は、ピクリと眉を動かせて聞いたのであった。
「どうやら失敗した様ですな」
「まぁな……しかしさすがは、木工だ。すかさず左近衛府の潜入に移行したようだ」
「しかし、何処の馬の骨か分からぬ、大陸の者を使うなど、私は今でも反対です」
「まぁそう言うな、図書は頭が固いの。そんな事より例の計画は、何処まで進んでおる?」
「はい、既に関東の大名の家臣は、全て掌握しました。次は東北の大名に、手を伸ばす予定です」
「そうか、ここまで来て朝廷にバレるとまずい、事は慎重にな」
「分かっております。あの時に殿が朝廷軍に頭を下げた屈辱、私は今でも忘れる事が出来ません……必ずや腐りきった朝廷に、正義の鉄槌を下し、殿がこの国を統べるのが、我が夢で御座います」
「図書よ、その気持ちはありがたいが、何処に耳が有るのか分からぬ……分かっておるな?」
「はい」
そう言った図書は、頭を下げて言ったのであった。
――――――――――――
数日後、小次郎はジャックと共に、里に戻り移住の準備にかかり、左近は関白に頼んだ、帝との極秘会談の為に、関白の邸宅に一人でやって来ていたのであった。
「すみません明里様、殿下の御不在の時に来まして」
「そんなに、他人行儀にならなくても良いですよ。貴方はラナの夫なのですから、私の息子と同じです。
息子が家に来て、不都合なんてありませんよ」
「そう言って頂けると助かります。所であの御方は?」
「あの御方は先程来られて、離れで待っておられますよ」
「すみません」
そう言って左近は明里に一礼し、離れに向かったのであった。
前回と同じ様に人払いを既に済ませてあるか……いつまでも殿下の邸宅では都合が悪いな。
そう言った意味では、京屋敷が完成すれば何かと都合が良いかもしれない。
問題は通信手段だが、これは帝と話し合って何とかするか。
そう思いながら左近が廊下を曲がると、離れの縁側に座って、月を眺める帝の姿があったのである。
「こんな所にいらっしゃいましたら、お風邪をひきますよ」
「左大将か……見てみろあの月を」
「月を?」
帝に言われて左近は月を見ると、美しい夜空に浮かぶ満月であった。
「なぁ左大将、こんな世界に来ても月の美しさは、我等の故郷と同じなのだな」
「そうですね……何かありましたか?」
「分かるか……まぁここではなんだ、中で話そう」
そう言って立ち上がった帝の表情は、何処か寂しそうであった。
何か本当にあった様だな。
そう思いながらも、左近は帝に促され、離れの中に入って来たのであった。
左近が中に入ると、帝は憂鬱な顔で言ったのである。
「左大将、お前は私が怖くはないのか?」
「怖い?何故でしょうか?」
「このスキルのせいで、私と話す者の意思をねじ曲げて、私に逆らわない様にする。
言うなれば、私の傀儡になってしまうのだぞ?」
「傀儡に?そうでしょうか?
帝への忠誠は、前から私は、持っていますよ、あの時の御恩は一生忘れません。
それにスキルですが、会話に気を付ければ、何も恐れる事は御座いませんし、帝もそんなお人では無い事は、知っております」
「そうか……今日は左大将に会えて良かったよ、あの時の謝罪も出来るからな。
少し私も浮かれていたようだ、すまなかった。これからも友として付き合ってくれ」
そう言って帝は、左近に頭を下げたのである。
「お止めください、私は何も思ってはおりません。それに帝は、我が願いを、聞き届けてくれたでは、ありませんか。
こちらこそ感謝致します」
「そう言ってくれると助かる」
「それでですが、今日は帝にご相談があって、この場を用意いたしました」
「相談?」
「はい……実はつい先日、誰かに我が命を狙われました」
その言葉を聞いた帝は、目を細め明らかに、嫌悪感をその表情に浮かべたのであった。
「暗殺か……」
「そうです。私が狙われるのは良いのですが、家族まで被害が及ぶのは、何としてでも、防ぎたい。
しかし、我が手勢で信用のおける者は少ない……そこで忍の風間一族を。私の配下にする事に、成功しました。
そこで、頭の小次郎と話し合った結果、風間一族が私の配下になった事を隠し、むしろ敵対している様に、見せかけた方が、犯人を炙り出すのに使えるかと。
その為に、佐倉家に輸送される資金の強奪を考えました……」
「その強奪の手助けをせよと?」
「そうです」
「……ふむ、分かった。左大将、お主は今度、結婚式をするそうだな?」
「はい、12月の頭に予定しております」
「では、少し早いが、御所からお主の京屋敷に、結婚祝いを送ろう。警護を手薄にし、夜に送るので、そこで強奪するのが良かろう」
さすがは帝だ、頭の回転が早い。
「ありがとう御座います。で、帝の方はどうされましたか?」
「運命とは皮肉な物だな……フレイアや左大将の様な、友に出会えたのに、私の寿命が尽きようとしている」
「……!」
その帝の言葉は、左近には衝撃的な言葉であった。
今帝に倒れられたら、ルタイ皇国が不安定になる、そこをパーヴェルに利用されれば、まずい……待てよ、その前に、帝の後継者っているのか?
いなければ、確実にルタイ皇国は、再び内乱に突入する。
そう思い、左近が不安に思っていると、帝が左近の手を取り言ったのであった。
「左大将、すまない、私の言い方が悪かったな。残り50年を切ったらしい、と言う事だ」
「ご、50年……」
思わず左近は、胸を撫で下ろしたのであった。
「だがな、50年以内に寿命が尽きると言う事だ……つまり、いつかは、分からんのだ。
そこでだ、不本意だが、大政大臣の話を受けようと思う」
「大政大臣の話?」
「大政大臣の娘との結婚じゃ」
大政大臣め、帝との婚姻関係を結ぼうと言うのか……ちょっと待て、何で俺はムカついている?派閥争いは気にしないはずだ。
俺も知らん間に、派閥争いにドップリと浸かっていたって事か。
「良い話だと思います、ですが帝のお気持ちは、不本意だと思いますが」
「このまま己を通すよりも、民の安寧と平和を取れと言うのか?」
「その通りかと……帝は、その全てを皇国に捧げてこそ、帝だと思います」
「全く、お主はハッキリと言いよるわ……しかし、お主に言われて、覚悟が決まった、ありがとう」
この後、帝と左近は、夜遅くまで雑談で盛り上がり、その中で内密での手紙の受け渡しと、次回からの会う場所は、佐倉家の京屋敷に、決めたのであった。
この会談の数日後、帝からの、佐倉家の結婚祝いの品が、強奪されると言った事件が京で起こった。
犯行現場に残されていた、痕跡から犯人は、風間一族が関係している事が発覚し、ルタイ皇国の帝と佐倉 左近衛大将 清興は烈火の如く怒り、弾正府に風間一族を捕まえる様に、要請したのである。
だが、弾正府のトップである蒲生 弾正尹 忠輝は本腰に取り締まりする事は、無かったのであった。
風間一族と言えば、箱根山に里が在ると言う事は、知られている事であったが、捜索隊を数回出すのみであったのである。
「あの~本当に宜しいのでしょうか?左近衛府からは、どうなったのかと、矢のような問い合わせが届いておりまして……」
「捨てておけ」
「は?」
「無視しておけと、言っているのだ」
そう言った忠輝は、その仮面の下から分かるほどに、明らかに不機嫌そうに言ったのであった。
せっかく気分が良かったのに、邪魔しおってからに……しかし、左大将の奴は、いい気味だ、帝からの祝い品を強奪されるとは。
そう思いながら、弾正府の廊下を、軽快な歩みで歩く忠輝の背後に、黒い影が現れ、忠輝に話し掛けて来たのであった。
「弾正尹様……」
「忍か……何だ、左大将に何か動きが有ったのか?」
「それが、レイクシティの近くの三角州に、左近衛大将殿の親類を集めて、農園を作り村も建設する様です」
「ふう~ん……燃やせ」
「は?」
「燃やせと言ったんだよ。ああそうだお前、風間一族に連絡は取れるか?」
「取り締まりですか?」
不安そうに言った忍に、忠輝はクルリと振り返り、ツカツカと忍の元に行くと、胸ぐらを掴み上げて言ったのであった。
「バカかお前は?何で俺達が、左大将の尻拭いをしなければ、ならない?
何が有ったのかは知らんが、その風間一族は左大将を敵として認識している様だ。
ならば、その左大将の親類の村を焼くのに、使ってやれと言っているのだよ。
仮に奴等が捕まっても、此方としても痛くも何とも無いので、ちょうど良いでは無いか」
「も、もしこの誘いに乗らなかった場合は?」
「そこはお主達、甲賀者がやれば良いだろう」
「……っく!分かりましたよ」
そう言った忍は、忠輝の腕を振り払い、姿を消したのであった。
「たかが忍風情が私に意見しおって……まぁ良い、左大将の絶望する顔を見れば、少しは気分が良くなるだろう」
そう言った忠輝は、その仮面の下で、笑みを溢して去って行ったのであった。
―――――――――
忠輝が良からぬ事を画策していた頃、バッシュはナッソーの親父さんの店で、1人テーブル席で飲んでいた。
店内は、ヨラム達いつもの常連客が、いつもの様に飲んで、ばか騒ぎしている中、1人の制服姿のエルフが入って来たのであった。
そうクロエである。
クロエは店内に入ると、店の隅で1人飲んでいるバッシュを見つけると、店員のイエッタにエールを注文し、ジョッキを片手にバッシュの前に座ったのであった。
「クロエお前、仕事帰りか?」
「ああそうだよ、今日も残業だ。御館様の秘書って、あんなにも忙しいとは、思ってもいなかったよ。
正直、蘭やヴィオラが居なかったらと思うとゾッとするよ」
そう言ったクロエは、エールを一気に飲み干すと、力尽きたかの様に、テーブルに倒れたのであった。
「すまなかったな、忙しいのに、こんな所に呼び出して」
「いや、良いんだよ。どうせ父上に届ける物もあったしな……でもここは、お前持ちな」
そう言ったクロエは、顔だけ上げて、バッシュに言ったのであった。
「ああ分かってるよ。それより、例の事は分かったのか?」
「ああそれな。佐之助だっけ……お前の知り合いか?」
「いや……俺の知り合いの、恋人だった奴だ」
「……そうか、辛いな…」
そう言ったクロエは、言いにくそうに、そのままテーブルに顔を伏せたのであった。
まさか……そう言う事か?俺は……俺は、ティナに何て言えば……
そう思ったバッシュは、目を瞑って力を込めて言ったのであった。
「クロエ、教えてくれ」
「……分かった。
佐之助と言う名前の者は、あの戦に参戦した者で6名いた。
その中で、このナッソーに駐屯していた者は、最初のナッソー防衛戦の時にいた者だろうと思い、調べると、1人だけだった。
その男は、名前を赤堀 佐之助 文泰と言って、三好准将の元家臣だそうだ……おそらくその佐之助は、その赤堀殿で間違いないだろう。
その赤堀殿は、パナス攻略戦の後で、元三好家の者を中心に編成された、東部方面隊に配属され、あのルゴーニュ村から出た斥候隊にいたそうだ」
「おい、それって……」
「ああ、三好准将の斥候隊が、マクレガー大佐率いる魔女騎士団の伏兵にあって、壊滅した戦だよ。
あの時の斥候隊は、全員が戦死した様だな」
バッシュは、覚悟はしていたが、いざクロエからその話を聞いて、背中に何か冷たく重い物が、乗りかった様な感じがし、騒がしい店内なのに、音が全く聞こえず、ただ自分の心臓の音が大きく聞こえていたのであった。
「おい、バッシュ……このクソ蜥蜴!」
そう言ったクロエは、全く反応の無いバッシュの脛を、思いっきり蹴ったのだが、ただ自分の蹴った足が痛いだけであった。
「ん?どうした、クロエ?」
「どうした、じゃ無いよ、本当にお前達リザードマンは、硬すぎる……じゃなくて、大丈夫か?何なら私が一緒に言ってやろうか?」
一緒に言う?クロエが?……そうかティナに言わなきゃな。
「すまないな、それはさすがに、女のお前は無理だろう」
「女の私には無理?……まさか、その子って娼婦か?」
「そうだ」
「……本当に最低だなお前は」
「何がだ?」
「お前達リザードマンは、女を買うなんて事は、プライドがあってしないはずだ。
それをお前は、したって事だろ?私は、そこのプライドは、凄いと本当に認めていたんだよ……それが、情けない。
お前の親父さんが、この事を聞くと泣くぞ」
「何言ってやがる、俺はただ御館様に……」
しまった、口止めされているんだっけ……しょうがない、ここは俺が、汚名を被るしかないのか。
「御館様に?」
「いや間違いだ、間違い。俺が一人で興味があって行った。
でもな、何もしていないぞ、話をしていただけだ」
そう言ったバッシュであったが、クロエの目は完全に疑いの目であった。
「まぁそう言う事にしてやるよ……本当にあの御館様は……そんな所に行かなくても良いのに……」
バレたけど、こいつ前から御館様に惚れていたから、大丈夫だろう。
「まぁそう言う訳で、伝えるのは俺からにしておくよ。
所で遺体はどうなった?墓は在るのか?」
「ああ、その話な。遺体は、情報収集の為に、魔女騎士団が装備品を剥ぎ取り、放置してきたそうだ。
だが、戦が終わってから、御館様がそう言った者の為に、泉龍寺に慰霊碑と供養塔を今度建てるらしい」
「慰霊碑と供養塔?何だそれは?」
「私も詳しくは、知らないのだが、何でもルタイ皇国の宗教で、死んで遺体が無くても、墓の様な物になるみたいだな。
しかも1人じゃ無くて、この戦で亡くなった者全てを、そこの墓に入れるらしい。
まぁこう言った事は、院元和尚に聞けば良いんじゃないか?私達には分からない風習だよ」
「そうか……なぁクロエ、お前の父上は、お前が他種族と結婚しても、何も言わないのか?」
その唐突なバッシュの質問に、クロエは固まってしまい、そして耳まで真っ赤にして、言ったのであった。
「お、お、お、お、お前、何を言い出すんだよ」
「いや、俺とお前って境遇が似ているじゃないか。
お互いに、部族の族長の子供だし、他に兄弟もいない。
それに、お互い、御館様に仕えたのも、同じ時期だしな」
「そう言われればそうだが、私達エルフとリザードマンは違うだろ。
私達エルフは、人間とほとんど同じで、違うのは寿命と、この耳と魔力が違うだけなので、子供も生めるし問題がない。
それに、お前達リザードマンは、まず卵で子供を生むし、同じなのは、意思の疎通と二足歩行と食事だけだ。
無理な話だよ、結婚なんて」
「……クロエお前、自分が御館様と結婚する、前提になってないか?」
「ば、ば、ば、バカにするな!……相手は人間じゃ無いのか?」
「いや、人間だ……すまなかったな、変な事を聞いて」
「いや良いんだ。そんな事より今日は飲もう、私は明日は休みだから」
「おい、俺は明日は部隊に戻るんだぞ!それにお前の父上に、渡す物が有るんじゃ、なかったのか?」
「そんな細かい事は良いんだよ。おい、イエッタ!こっちにワインと何か食べ物を持ってきてくれ!」
そう言ったクロエは、陽気にカウンターにいる、イエッタに言ったのであった。
バカ野郎、落ち込んでいる俺を、無理矢理に励まそうとしているのが、見え見えなんだよ。
バッシュは、そんな事を思いながらも、クロエの優しさに感謝しながら、イエッタの持ってきたワインを飲み干したのであった。




