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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
78/464

謀略

 



「あ~昨日飲み過ぎた」

 そう言った左近は、ソファーに横になり頭を押さえて、二日酔いに苦しんでいたのであった。


「調子にのって、飲むからですよ。お水と、ドクから貰っている二日酔いの薬です」

 そう言ってクロエは水と薬を、苦しんでいる左近に、渡したのであった。


 二日酔いの薬って、そんなのが有るのかよ。

 しかし、昨日は楽しかったな、まさかラナが、あんなにも夏に敵意剥き出しで絡むなんて。

 普段はあんなにも、無関心なのに、やっぱり兄貴を取られると思ったのだろうか?やっぱり兄妹だな。

 そんな事を思いながら、左近は薬を飲んだのであった。


「失礼します、キース様が来られました」

 そう言って入って来た蘭も、同じ様に二日酔いの様であった。


「そうか、入れてくれ。それと蘭、二日酔いの薬が有るから飲んでいけ」


「あ、ありがとう御座います」

 そう言った蘭は、クロエから薬を飲むと、キースを執務室に招き入れたのであった。



 だが、入って来たキースは、目の下に大きなクマを作り、げっそりと痩せていたのであった。

「どうしたキース?死にかけているぞ」


「それが仕事が山積みで、殆ど寝れていないので……」


 あ、内政の事は、ほぼ全てキース1人に丸投げして忘れていた……こいつ、このままなら過労死しそうだな。

 いかん、このままならルタイ皇国のヴァルキア地方は、ブラック企業になってしまう。

「キース何か内政で、問題点が有るのか?」


「人員が全く足りないのと、旧パナスの農地が、例の虐殺で人が居なくなってしまったので、税収減の問題。

 そして、今までの領民の土地の権利保証や、各地の代官の選任……とにかくこのヴァルキア地方は、広すぎて、何処かの小国程の広さが在るので、管理が大変なんですよ」


 サーセン、天眼で見て、その広さは存じております。

 このヴァルキア地方は、西日本程の広さが在るのは、確認済みです……やっぱり内政の人数を増やすか。

 そう言えば、パンドラが負傷して、復帰できない者の再就職先を、考えてくれって言ってたな。こっちに回すか。

 適性の者以外の者は、フレイアの所の学校とかに回せば良いかな。

「そうか、では負傷して復帰できない者を、そっちに回すので、使えそうな者を使ってくれ」


「ありがとう御座います。で、今日はどうされました?」


「実はな、ルタイ皇国の俺の親戚達が、レイクシティに移住したいそうなのだが、何処かいい土地と仕事は無いか?」


「それならば、この左近衛府で良いのでは?」


「それが、少々特殊な者で人数も800名程いる……彼等の希望としては、何処か人里離れた場所が良いんだが。

 それでいてレイクシティに近い場所……在るか?」


「それならば、ここは如何でしょうか?」

 そう言って、キースはテーブルに地図を広げて、指差した場所は、レイクシティの巨大な湖に、流れ込む大河の巨大な三角州であった。


 なるほどここならば、二ヶ所のこの橋を管理するだけで、里の秘密も守りやすい。

 問題は、カモフラージュとなる仕事だが、税金が発生する仕事は、出身がバレる恐れが有るのでまずいし……思いきってここを、俺の土地にしようか。

「なぁキース、この場所に佐倉家の、農園を造っても良いかな?」


「それは、ありがたい話です。ちょうどこの三角州は、巨大な農園が在ったので、新たに農園を造るのは容易いでしょう」


「それと、例の虐殺で空いた農地だが、区画整理して希望者に与えるのはどうだろうか?

 もちろん、タダでとは言わずに、10年間税金を以前の割合で徴収し、10年後には土地の権利を全て、その者に譲り渡し、通常の税率に戻すと言うのは、どうだろうか?」


「なるほど、予め区画整理しておけば、無理に広い土地を取って、税金を支払え無くなる者が出ないので、有効でしょうね。

 それに統治が安定するまで、何かと入り用ですので、税金は多い方が良いですし。

 では、ルタイ皇国の入植者の募集を、朝廷に話を通して調整しましょう」


「では頼む」

 左近がそう言うと、扉が開いて、蘭が申し訳なさそうに言ったのであった。


「あの~、鬼島大佐が来られましたけど……」


「おお、もうそんな時間か」


「分かりました。では私は、もうそろそろ行きます」

 そう言ったキースは、一礼し出ていき、代わりに入って来た鶴は、制服姿で制帽からはみ出ている、犬耳が左近の目を引いたのであった。


 あのモフモフ触ったら、気持ち良さそうだな……ダメだ、それよりも金の話だな。

「クロエ、暫く鶴と二人っきりにしては、くれんか?内密な話だからだ。上の……今日は桔梗か?上の者も外してくれ」


 そう言って左近は、人払いをし、天眼で確認していると、鶴は左近にひれ伏し言ったのである。

「この度は、我が母の命を救って頂き、誠にありがとう御座います。我が父の左馬允も、閣下に感謝しておりました。

 鬼島家は何があっても、閣下に従う所存」


「そうか、それはありがたい申し出だ。

 早速だが、鬼島大佐……いや、鬼島 鶴個人に聞きたいのだが、高野山から作られた金は、どうやって大陸に運搬される?」


「……!な、何故その事を?」


「俺はこの世の理を帝から聞いた。

 そして偶然にも、理に根来衆と雑賀衆が関わっている事を知ってしまった。

 だとするなら、帝の指示で通貨製造するのならば、帝がよく知っている高野山になる。

 だがここで疑問が出た、いくら海の雑賀衆だと言っても、ルタイ皇国最大の水軍を率いる鬼島家が、その事に関わっていないのは、何か変だ。

 何処かで関わっているに違いないと、俺は睨んでいるが……どうだ、当たりか?」


 左近のその言葉に、鶴は冷や汗を出しながら言ったのであった。

「その通りで御座います。鬼島家は金と銀の運搬に関わっております……」


 金と銀の運搬……だとすると海上ルートで運搬しているのか。

「教えてはくれんか?もちろん他言はしない」


「分かりました。

 ルタイ皇国は、東は金が、西は銀が多く産出され、その全ての鉱山が朝廷の直轄になっております。

 金は江戸に一度集められ、銀は境港に一度集められて、そこから海路で堺に集められます。

 そこで通貨製造に使う物と、そのまま流通させる物に分け、製造分はそのまま高野山に送られます。

 そして今は、製造された通貨は海路で伏見まで運ばれ、朝廷に納入される流れです」


 そうか、ならば小次郎達が狙うのは、伏見から京までの陸路しか無いと言う事だな。

 けっこう短いから難しいぞこれは……だから、警備しやすい海路を選んでいるので、当たり前なのだが。

 これは、帝に内々で相談してみるか。

「そうか、ではここまで聞いて、そのままでは、お前も不安だろうし、後々に手伝ってもらう事もあるから、お前には話しておく。

 忍の風間一族が我等の仲間になり、佐倉家と親戚になった」


 その左近の言葉に鶴は驚き、とても信じられないと言った顔に、なっていたのであった。

「信じられんか?俺の妻の兄であるアデルが、風間 小次郎殿の娘の夏と、婚約した。

 しかし、小次郎殿と話し合い、風間一族が我等の味方になった事は隠して、他の者にはむしろ、敵対している様に見せたい。

 そこで帝に内々で相談して、左近衛府に送る金の強奪をさせる。彼等も金は必要だからな。

 一族の移住先も、箱根山から、ここレイクシティの近くにする事にしたのだ」


 左近がそう言うと、鶴は暫く考えて言ったのであった。

「その話、閣下を信じていない訳では御座いませんが、1つ腑に落ちない所が御座います。

 何故、閣下は専属の忍を必要と、しているのでしょうか?忍ならば、連合軍にもいるはずですが」


 こいつ、思ったより慎重な女だな。

 自分が納得出来るまで、自分で調べるタイプの様だ。

 こう言ったタイプは、部下として扱うには、要らぬ事まで自分で調べて、勝手に行動する厄介なタイプだが、全て任せる将として扱えば、納得すれば配下を動かし、行動する最適なタイプだな。

 左馬允殿も、女でなければ、当主にしたかったであろう。

「お前には、俺の全てを正直に言った方が良さそうだな。今ルタイ皇国で、3つの派閥が在るのは、知っているな?」


「存じております。我が父も大陸派だと自負しており、私もそう思っております」


「そうか。

 数週間前の話だ、俺が帝に言われて、奴隷を購入する為に、顔見知りの奴隷商人の所で、奴隷を購入した。

 その夜に、俺の手の者が、その奴隷商人の元を訪ねると、その奴隷商人が殺され、中身が入れ代わっていた様だ」


「入れ代わっていた?」


「そうだ、その者の名はスカーフェイス。

 暗殺目標に接触する様な者を殺して、顔の皮や頭皮を剥ぎ取り、その殺した者になり代わり、近付き暗殺する者だ」


「なるほど、そうなると目標は閣下で、依頼者は文治派か武断派の者だと、閣下は睨まれているのですね」


「そうだ」


「しかし、それは変な話ですね」


「何処が変な話だ?」


「確かに帝の命で奴隷購入の件を知るのは、ルタイ皇国の、それも上層部の者ですが、命まで狙うのは変です。

 失脚等は、考えるかも知れませんが、今閣下を失えば、皇国の損失はとても大きく、皇国自体が痛手を被る事になり、最悪連合軍は崩壊して、皇国も滅びる可能性があります。

 いくら文治派や武断派と言っても、そこは分かっているでしょう」


 確かに、そう言われれば、鶴の言う事も一理ある。

「それでは、誰が?」


「それは分かりませんが、閣下専属の忍の話は、私もそれで良いと思います。

 ……ですがこの件は、どうもキナ臭いですね。皇国内部で皇国の滅亡を願う者か、もしくは連合国内部で閣下を邪魔に思っている者か。

 ……この件は、三好准将に話されましたか?」


「いや、清信には、未だ話してはいないが」


「でしたら、一度相談しておいた方が宜しいでしょう。

 准将の父上の三好 久信様は、隠居なさっているとは言え、かなり皇国の裏にまで詳しい御方ですので、力になってくれるでしょう。

 我等、水軍を中心にしている大名は、海賊大名と言われて、皇国内部で蔑まれておりますので、あまり詳しくありません。

 ですが、名門の三好家ならば、そう言った情報にも、精通しておりますので」


 なるほど、清信の父上か……そう言えば、内裏でパンドラがやらかした一件も、すぐに情報を仕入れて、清信に報告していたよな。

 あの時は、文治派の者が流したと思っていたが、もしかすると、独自で仕入れた情報もかも知れない。

 しかし、この鶴は的確に俺に助言をくれる、軍師タイプだな。

「分かった、お前の言うとおり、清信にも相談してみるとしよう。

 そうだ、話は変わるのだが、一度鶴の父上の左馬允殿に会ってみたいな。もちろん、体調が良くなってからで良いし、何なら俺が境港に行っても良い」


「ありがとう御座います。父も喜びます」

 そう言った鶴は、頭を下げて喜んだのであった。





 ――――――――――





 左近が鶴と会っていた頃、ルタイ皇国関東の中心地である江戸城の奥では、ルタイ皇国では珍しく、でっぷりと肥えた、40代前半の男が薄暗い部屋で、女性の膝枕で横になり、優雅にキセルを吹かしていたのであった。


 この男は、名を横瀬 武蔵守 保成と言い、ルタイ皇国の前内戦で、当初は反朝廷派に属していたのだが、朝廷派に武蔵一国と引き換えに内通した男であり、武断派に属していたのだが、他の者からは、自堕落な生活を、やっているかと思われていた。


 そんな彼の元に、隻眼の白髪混じりの男が、大きな荷物を持って武蔵守の元にやって来たのであった。

「殿、大陸に行った木工から、御望みの物が届きましたぞ」


 その言葉に反応した武蔵守は、膝枕から飛び起きると、その隻眼の男に近付くと、笑顔で言ったのである。

「やっと来たか!おい、お前はもう良い、下がれ」

 そう言った武蔵守が、女に早く下がれと言わんばかりに、手で合図すると、女ははだけだ着物を正して、慌てて部屋から、出ていったのであった。


「殿、女性はもう少し丁重に扱うものですぞ。そもそもその年になっても、正妻を娶とらぬは、如何なものかと思いますぞ」


「図書はいつも煩いの、分かっておるわ。それよりは……」


「これで御座います……」

 そう言った図書は、1つの豪華に装飾された小さな木箱を、武蔵守に渡したのであった。


「これこれ……」

 そう言って武蔵守は、図書から渡された木箱の中をひっくり返し、中の宝石を外に出すと、木箱の底の板を外し、中に入っていた手紙を読んだのであった。


 手紙を読んだ武蔵守は、内容を読むと、当初の笑顔から、みるみる内に不機嫌な顔に、なっていったのである。

 その顔を見た図書は、ピクリと眉を動かせて聞いたのであった。

「どうやら失敗した様ですな」


「まぁな……しかしさすがは、木工だ。すかさず左近衛府の潜入に移行したようだ」


「しかし、何処の馬の骨か分からぬ、大陸の者を使うなど、私は今でも反対です」


「まぁそう言うな、図書は頭が固いの。そんな事より例の計画は、何処まで進んでおる?」


「はい、既に関東の大名の家臣は、全て掌握しました。次は東北の大名に、手を伸ばす予定です」


「そうか、ここまで来て朝廷にバレるとまずい、事は慎重にな」


「分かっております。あの時に殿が朝廷軍に頭を下げた屈辱、私は今でも忘れる事が出来ません……必ずや腐りきった朝廷に、正義の鉄槌を下し、殿がこの国を統べるのが、我が夢で御座います」


「図書よ、その気持ちはありがたいが、何処に耳が有るのか分からぬ……分かっておるな?」


「はい」

 そう言った図書は、頭を下げて言ったのであった。




 ――――――――――――




 数日後、小次郎はジャックと共に、里に戻り移住の準備にかかり、左近は関白に頼んだ、帝との極秘会談の為に、関白の邸宅に一人でやって来ていたのであった。


「すみません明里様、殿下の御不在の時に来まして」


「そんなに、他人行儀にならなくても良いですよ。貴方はラナの夫なのですから、私の息子と同じです。

 息子が家に来て、不都合なんてありませんよ」


「そう言って頂けると助かります。所であの御方は?」


「あの御方は先程来られて、離れで待っておられますよ」


「すみません」

 そう言って左近は明里に一礼し、離れに向かったのであった。


 前回と同じ様に人払いを既に済ませてあるか……いつまでも殿下の邸宅では都合が悪いな。

 そう言った意味では、京屋敷が完成すれば何かと都合が良いかもしれない。

 問題は通信手段だが、これは帝と話し合って何とかするか。

 そう思いながら左近が廊下を曲がると、離れの縁側に座って、月を眺める帝の姿があったのである。


「こんな所にいらっしゃいましたら、お風邪をひきますよ」


「左大将か……見てみろあの月を」


「月を?」

 帝に言われて左近は月を見ると、美しい夜空に浮かぶ満月であった。


「なぁ左大将、こんな世界に来ても月の美しさは、我等の故郷と同じなのだな」


「そうですね……何かありましたか?」


「分かるか……まぁここではなんだ、中で話そう」

 そう言って立ち上がった帝の表情は、何処か寂しそうであった。


 何か本当にあった様だな。

 そう思いながらも、左近は帝に促され、離れの中に入って来たのであった。

 左近が中に入ると、帝は憂鬱な顔で言ったのである。

「左大将、お前は私が怖くはないのか?」


「怖い?何故でしょうか?」


「このスキルのせいで、私と話す者の意思をねじ曲げて、私に逆らわない様にする。

 言うなれば、私の傀儡になってしまうのだぞ?」


「傀儡に?そうでしょうか?

 帝への忠誠は、前から私は、持っていますよ、あの時の御恩は一生忘れません。

 それにスキルですが、会話に気を付ければ、何も恐れる事は御座いませんし、帝もそんなお人では無い事は、知っております」


「そうか……今日は左大将に会えて良かったよ、あの時の謝罪も出来るからな。

 少し私も浮かれていたようだ、すまなかった。これからも友として付き合ってくれ」

 そう言って帝は、左近に頭を下げたのである。


「お止めください、私は何も思ってはおりません。それに帝は、我が願いを、聞き届けてくれたでは、ありませんか。

 こちらこそ感謝致します」


「そう言ってくれると助かる」


「それでですが、今日は帝にご相談があって、この場を用意いたしました」


「相談?」


「はい……実はつい先日、誰かに我が命を狙われました」


 その言葉を聞いた帝は、目を細め明らかに、嫌悪感をその表情に浮かべたのであった。

「暗殺か……」


「そうです。私が狙われるのは良いのですが、家族まで被害が及ぶのは、何としてでも、防ぎたい。

 しかし、我が手勢で信用のおける者は少ない……そこで忍の風間一族を。私の配下にする事に、成功しました。

 そこで、頭の小次郎と話し合った結果、風間一族が私の配下になった事を隠し、むしろ敵対している様に、見せかけた方が、犯人を炙り出すのに使えるかと。

 その為に、佐倉家に輸送される資金の強奪を考えました……」

「その強奪の手助けをせよと?」


「そうです」


「……ふむ、分かった。左大将、お主は今度、結婚式をするそうだな?」


「はい、12月の頭に予定しております」


「では、少し早いが、御所からお主の京屋敷に、結婚祝いを送ろう。警護を手薄にし、夜に送るので、そこで強奪するのが良かろう」


 さすがは帝だ、頭の回転が早い。

「ありがとう御座います。で、帝の方はどうされましたか?」


「運命とは皮肉な物だな……フレイアや左大将の様な、友に出会えたのに、私の寿命が尽きようとしている」


「……!」

 その帝の言葉は、左近には衝撃的な言葉であった。


 今帝に倒れられたら、ルタイ皇国が不安定になる、そこをパーヴェルに利用されれば、まずい……待てよ、その前に、帝の後継者っているのか?

 いなければ、確実にルタイ皇国は、再び内乱に突入する。

 そう思い、左近が不安に思っていると、帝が左近の手を取り言ったのであった。

「左大将、すまない、私の言い方が悪かったな。残り50年を切ったらしい、と言う事だ」


「ご、50年……」

 思わず左近は、胸を撫で下ろしたのであった。


「だがな、50年以内に寿命が尽きると言う事だ……つまり、いつかは、分からんのだ。

 そこでだ、不本意だが、大政大臣の話を受けようと思う」


「大政大臣の話?」


「大政大臣の娘との結婚じゃ」


 大政大臣め、帝との婚姻関係を結ぼうと言うのか……ちょっと待て、何で俺はムカついている?派閥争いは気にしないはずだ。

 俺も知らん間に、派閥争いにドップリと浸かっていたって事か。

「良い話だと思います、ですが帝のお気持ちは、不本意だと思いますが」


「このまま己を通すよりも、民の安寧と平和を取れと言うのか?」


「その通りかと……帝は、その全てを皇国に捧げてこそ、帝だと思います」


「全く、お主はハッキリと言いよるわ……しかし、お主に言われて、覚悟が決まった、ありがとう」

 この後、帝と左近は、夜遅くまで雑談で盛り上がり、その中で内密での手紙の受け渡しと、次回からの会う場所は、佐倉家の京屋敷に、決めたのであった。



 この会談の数日後、帝からの、佐倉家の結婚祝いの品が、強奪されると言った事件が京で起こった。

 犯行現場に残されていた、痕跡から犯人は、風間一族が関係している事が発覚し、ルタイ皇国の帝と佐倉 左近衛大将 清興は烈火の如く怒り、弾正府に風間一族を捕まえる様に、要請したのである。


 だが、弾正府のトップである蒲生 弾正尹 忠輝は本腰に取り締まりする事は、無かったのであった。

 風間一族と言えば、箱根山に里が在ると言う事は、知られている事であったが、捜索隊を数回出すのみであったのである。


「あの~本当に宜しいのでしょうか?左近衛府からは、どうなったのかと、矢のような問い合わせが届いておりまして……」

「捨てておけ」


「は?」


「無視しておけと、言っているのだ」

 そう言った忠輝は、その仮面の下から分かるほどに、明らかに不機嫌そうに言ったのであった。


 せっかく気分が良かったのに、邪魔しおってからに……しかし、左大将の奴は、いい気味だ、帝からの祝い品を強奪されるとは。

 そう思いながら、弾正府の廊下を、軽快な歩みで歩く忠輝の背後に、黒い影が現れ、忠輝に話し掛けて来たのであった。

「弾正尹様……」


「忍か……何だ、左大将に何か動きが有ったのか?」


「それが、レイクシティの近くの三角州に、左近衛大将殿の親類を集めて、農園を作り村も建設する様です」


「ふう~ん……燃やせ」


「は?」


「燃やせと言ったんだよ。ああそうだお前、風間一族に連絡は取れるか?」


「取り締まりですか?」

 不安そうに言った忍に、忠輝はクルリと振り返り、ツカツカと忍の元に行くと、胸ぐらを掴み上げて言ったのであった。


「バカかお前は?何で俺達が、左大将の尻拭いをしなければ、ならない?

 何が有ったのかは知らんが、その風間一族は左大将を敵として認識している様だ。

 ならば、その左大将の親類の村を焼くのに、使ってやれと言っているのだよ。

 仮に奴等が捕まっても、此方としても痛くも何とも無いので、ちょうど良いでは無いか」


「も、もしこの誘いに乗らなかった場合は?」


「そこはお主達、甲賀者がやれば良いだろう」


「……っく!分かりましたよ」

 そう言った忍は、忠輝の腕を振り払い、姿を消したのであった。


「たかが忍風情が私に意見しおって……まぁ良い、左大将の絶望する顔を見れば、少しは気分が良くなるだろう」

 そう言った忠輝は、その仮面の下で、笑みを溢して去って行ったのであった。





 ―――――――――




 忠輝が良からぬ事を画策していた頃、バッシュはナッソーの親父さんの店で、1人テーブル席で飲んでいた。

 店内は、ヨラム達いつもの常連客が、いつもの様に飲んで、ばか騒ぎしている中、1人の制服姿のエルフが入って来たのであった。

 そうクロエである。


 クロエは店内に入ると、店の隅で1人飲んでいるバッシュを見つけると、店員のイエッタにエールを注文し、ジョッキを片手にバッシュの前に座ったのであった。

「クロエお前、仕事帰りか?」


「ああそうだよ、今日も残業だ。御館様の秘書って、あんなにも忙しいとは、思ってもいなかったよ。

 正直、蘭やヴィオラが居なかったらと思うとゾッとするよ」

 そう言ったクロエは、エールを一気に飲み干すと、力尽きたかの様に、テーブルに倒れたのであった。


「すまなかったな、忙しいのに、こんな所に呼び出して」


「いや、良いんだよ。どうせ父上に届ける物もあったしな……でもここは、お前持ちな」

 そう言ったクロエは、顔だけ上げて、バッシュに言ったのであった。


「ああ分かってるよ。それより、例の事は分かったのか?」


「ああそれな。佐之助だっけ……お前の知り合いか?」


「いや……俺の知り合いの、恋人だった奴だ」


「……そうか、辛いな…」

 そう言ったクロエは、言いにくそうに、そのままテーブルに顔を伏せたのであった。


 まさか……そう言う事か?俺は……俺は、ティナに何て言えば……

 そう思ったバッシュは、目を瞑って力を込めて言ったのであった。

「クロエ、教えてくれ」


「……分かった。

 佐之助と言う名前の者は、あの戦に参戦した者で6名いた。

 その中で、このナッソーに駐屯していた者は、最初のナッソー防衛戦の時にいた者だろうと思い、調べると、1人だけだった。

 その男は、名前を赤堀 佐之助 文泰と言って、三好准将の元家臣だそうだ……おそらくその佐之助は、その赤堀殿で間違いないだろう。

 その赤堀殿は、パナス攻略戦の後で、元三好家の者を中心に編成された、東部方面隊に配属され、あのルゴーニュ村から出た斥候隊にいたそうだ」


「おい、それって……」


「ああ、三好准将の斥候隊が、マクレガー大佐率いる魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)の伏兵にあって、壊滅した戦だよ。

 あの時の斥候隊は、全員が戦死した様だな」


 バッシュは、覚悟はしていたが、いざクロエからその話を聞いて、背中に何か冷たく重い物が、乗りかった様な感じがし、騒がしい店内なのに、音が全く聞こえず、ただ自分の心臓の音が大きく聞こえていたのであった。


「おい、バッシュ……このクソ蜥蜴!」

 そう言ったクロエは、全く反応の無いバッシュの脛を、思いっきり蹴ったのだが、ただ自分の蹴った足が痛いだけであった。


「ん?どうした、クロエ?」


「どうした、じゃ無いよ、本当にお前達リザードマンは、硬すぎる……じゃなくて、大丈夫か?何なら私が一緒に言ってやろうか?」


 一緒に言う?クロエが?……そうかティナに言わなきゃな。

「すまないな、それはさすがに、女のお前は無理だろう」


「女の私には無理?……まさか、その子って娼婦か?」


「そうだ」


「……本当に最低だなお前は」


「何がだ?」


「お前達リザードマンは、女を買うなんて事は、プライドがあってしないはずだ。

 それをお前は、したって事だろ?私は、そこのプライドは、凄いと本当に認めていたんだよ……それが、情けない。

 お前の親父さんが、この事を聞くと泣くぞ」


「何言ってやがる、俺はただ御館様に……」

 しまった、口止めされているんだっけ……しょうがない、ここは俺が、汚名を被るしかないのか。


「御館様に?」


「いや間違いだ、間違い。俺が一人で興味があって行った。

 でもな、何もしていないぞ、話をしていただけだ」

 そう言ったバッシュであったが、クロエの目は完全に疑いの目であった。


「まぁそう言う事にしてやるよ……本当にあの御館様は……そんな所に行かなくても良いのに……」


 バレたけど、こいつ前から御館様に惚れていたから、大丈夫だろう。

「まぁそう言う訳で、伝えるのは俺からにしておくよ。

 所で遺体はどうなった?墓は在るのか?」


「ああ、その話な。遺体は、情報収集の為に、魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)が装備品を剥ぎ取り、放置してきたそうだ。

 だが、戦が終わってから、御館様がそう言った者の為に、泉龍寺に慰霊碑と供養塔を今度建てるらしい」


「慰霊碑と供養塔?何だそれは?」


「私も詳しくは、知らないのだが、何でもルタイ皇国の宗教で、死んで遺体が無くても、墓の様な物になるみたいだな。

 しかも1人じゃ無くて、この戦で亡くなった者全てを、そこの墓に入れるらしい。

 まぁこう言った事は、院元和尚に聞けば良いんじゃないか?私達には分からない風習だよ」


「そうか……なぁクロエ、お前の父上は、お前が他種族と結婚しても、何も言わないのか?」


 その唐突なバッシュの質問に、クロエは固まってしまい、そして耳まで真っ赤にして、言ったのであった。

「お、お、お、お、お前、何を言い出すんだよ」


「いや、俺とお前って境遇が似ているじゃないか。

 お互いに、部族の族長の子供だし、他に兄弟もいない。

 それに、お互い、御館様に仕えたのも、同じ時期だしな」


「そう言われればそうだが、私達エルフとリザードマンは違うだろ。

 私達エルフは、人間とほとんど同じで、違うのは寿命と、この耳と魔力が違うだけなので、子供も生めるし問題がない。

 それに、お前達リザードマンは、まず卵で子供を生むし、同じなのは、意思の疎通と二足歩行と食事だけだ。

 無理な話だよ、結婚なんて」


「……クロエお前、自分が御館様と結婚する、前提になってないか?」


「ば、ば、ば、バカにするな!……相手は人間じゃ無いのか?」


「いや、人間だ……すまなかったな、変な事を聞いて」


「いや良いんだ。そんな事より今日は飲もう、私は明日は休みだから」


「おい、俺は明日は部隊に戻るんだぞ!それにお前の父上に、渡す物が有るんじゃ、なかったのか?」


「そんな細かい事は良いんだよ。おい、イエッタ!こっちにワインと何か食べ物を持ってきてくれ!」

 そう言ったクロエは、陽気にカウンターにいる、イエッタに言ったのであった。


 バカ野郎、落ち込んでいる俺を、無理矢理に励まそうとしているのが、見え見えなんだよ。

 バッシュは、そんな事を思いながらも、クロエの優しさに感謝しながら、イエッタの持ってきたワインを飲み干したのであった。


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