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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
77/464

箱根の忍

 



 東暦1年9月3日、連合国内の反乱鎮圧に向けて、連合軍は一斉に動きだし、左近はイザナ村に向けて、十字軍200名を率いてナッソーより出陣したのであった。


 そして9月13日、イザナ村付近に布陣した左近は、ラナとセシルとセシリーの四人で、イザナ村の偵察に出て、山の上から村を見ていたのである。


 山間に在る、ひっそりとした村って所か。しかし、この山に城や砦を築城されたら、これは厄介だな。

 封鎖するにしても、この山に城を築かせるのは防がないと、攻めるのが難しい。

 そう考えていると、セシルが話し掛けて来たのであった。

「……方針はどうするの?最悪は皆殺し?」


 セシルって、たまに平気で非情な事を言うよな、まぁ俺もだけど。

「今回は、まぁ話し合いだな。

 それに領民をすぐに殺すのは、領主としては下策中の下策だが、最悪はその手段を、取らなければ、ならないがな。

 まず、バッシュとミリアに、この周辺を封鎖させよう、フンメルは俺達と、50名ほど連れて一緒に行く、って感じだな」

 そう言うと左近は、青葉を駆けて山を降りて本隊と合流したのであった。



 ――――――――――




 なんだあれは……馬防柵か?それにしても、あんな簡単な柵で、防げると思っているのか?

 そう思って見ている左近の目の前には、あまりにも不出来な柵が数個あるだけで、配置もド素人が考えた配置であったのである。


「御館様、驚いたでしょう?」

 そう言って左近の隣に来たフンメルは言ったのであった。


「ああ。しかし帝国は、ザルツ王国と100年は戦争を、していたんだよな。

 ならば村人も徴兵されて、柵の設置もやらされているはずなのに、これは余りにも酷いだろう」


「そりゃそうですよ。この村は別名、生け贄の村って言われてましてね」


「生け贄の村?」


「そうです生け贄の村。

 ここは、セブンス連邦との国境に在る村なので、わざと兵も置かずに、村人も徴兵されずに、放置されているんですよ。

 連邦が帝国に攻めて来れば、ここは真っ先に襲われ、略奪されます。

 その間に、近くの帝国軍が、攻めて略奪に夢中になっている連邦軍を、攻撃するって流れです。

 言うなれば、囮ですね……ただ村人は、そんな事を知らずに、自分達は優遇されているって、勘違いしていますがね。

 それに、ここは近くに砂漠も在りますので、砂漠と山林の魔物が、お互いに牽制しているので、この村の周辺は、魔物が殆ど出没しないんですよ」


 なるほど、平和ボケってやつか。

 だが、その方がこちらとしても、何かと都合がいい、現実が見えていない奴等は、ハメるのが楽だ。

 そう思っていると、ラナが左近に耳打ちしてきたのであった。

「旦那様、また悪人の様な顔になっているよ」


「マジかよ……気を付けよう」

 そう言いながら、左近達は村の入り口まで行くと、そこには武器を持った村人が、30名ほど待ち構えていたのであった。


 櫓も無くて、村を守る壁も無い……本当に、今まで魔物も襲っては、来なかったのか。

 そんな事を思いながら左近は、先頭に出ると、村人達に言ったのであった。

「私は、連合国軍元帥の佐倉 左近衛大将 清興である。村長もしくは、代表の者は誰だ?」


 左近がそう言うと、武器を持った村人の中から、一人の老人が左近の前にやって来たのであった。

「いきなり左近衛大将様のお出ましか、これは話が早くて楽ですな。

 私はこの村の村長で、リブスと言います。今日は話し合いに、来られたのですかな?それとも……」


「もちろん話し合いに決まっている。

 この兵士達は俺の護衛だ……何処か話せる場所に案内してくれるかな?」


「……ついて来なされ。ただし、あんたと数名だけだ」

 そう言ったリブスは、振り返り村の中心部の方に、歩いていったのであった。


「御館様、どうしますか?」


「そうだな、俺とラナとフンメルの3人で行く、セシルとセシリーは、ある程度距離を取って、万が一戦闘になったら、容赦なく例の魔法を頼む」


「……了解」


「分かりました。でも例の魔法って分かりにくいし、後で魔導書にも登録したいから、旦那様が名前つけて下さいね」


 名前か、確かに例の魔法じゃ言いにくいよな。

 威力は、ミサイルの様だったし、あれにするか。

「じゃあ、トマホークにしよう」


「分かった、トマホークか…この魔法、私とお姉ちゃんと旦那様の3人で作り出した、子供みたいな物だね。

 でも気を付けてよ、戻ったら3人で、この魔法を魔導書に、登録するんだから」

 そう言ったセシリーは、笑顔を左近に向けて、後方に下がって行ったのであった。


 これ、死亡フラグだろ完璧に。

 そんな事を思いながら左近は、ラナとフンメルを引き連れて村長について行ったのであった。




 村長に案内された左近達は、村の広場に面した一軒の家の中に、入っていったのであった。


 しかし、何だよこの状況。

 俺達を怖れているのは分かるが、これは無いよなぁ。

 そう左近が思うのも無理は無かった。

 テーブルを挟んだ向かい側には、村長が座っており、その後方に10名の武装した男が、並んでいたのであった。

 更に左近達のいる家の外には、数十名の者が武装し、建物を囲っていたのである。

 これは明らかに、交渉が決裂した場合、左近達を人質に取る狙いが、あからさまであった。


「なぁ村長さん、これは、あからさまじゃないか?」


「すまんの、左近衛大将様の武力は有名でな、これでも不安なぐらいじゃて」


 ん?俺ってそんなに有名なの?

 そう思った左近がフンメルを見ると、左近の方にまるで「今更、何を言っているんですか?」と言う様な顔をして見ていたのであった。

「そうか……じゃあ話を本題に戻そうか。

 村長さん、あんた達に反乱の兆しが有るって情報が入った。

 この村は、まだ代官を赴任させていないので、情報が正確じゃ無いので分からなかったが、どうやら本当の様だな。

 ……何が望みだ?」


「もちろん、ルタイ皇国からの分離独立」


「本気で言っているのか?」


「もちろん本気です。我等は最早、ルタイ皇国の支配は受けません。

 帝国は、私達を搾取するだけでした、どうせルタイ皇国も同じでしょう」


 バカかこいつらは?確かに税を取るだけの領主もいるが、本来税とはインフラの整備とか、領土の防衛の為に徴収するものだ。

 確かに、すぐに必要な物は少ないかも知れないが、万が一の為には必ず必要な物を作ったりする。

 それを、こいつらは何も分かってはいない。

「お前達は、独立してどうする?」


「ただ、普通に生活するだけです」


「バカな!今の情勢を知っているのか?連合国内の各地で反乱が起こり、鎮圧部隊が出ている。

 独立して、この村の話が出回れば、一気に敗残兵が集まって来るぞ!」

 そう言って声を荒らげたのは、フンメルであった。


 フンメルの奴、余計な事を言いやがって……

「で、どうする?このフンメルの話を聞いて、考え直す気はないか?」


「無い。要求が通らない場合は、一戦もやむ無しだと思っている。これは村の総意だ」


 頑固で助かった。

 左近がそう思っていると、ラナが左近に、耳打ちしてきたのであった。

「旦那様、外の奴等の人数が増えてる。もしかしたら、私達を襲撃する気かも知れないよ」


 襲撃か……だとするなら、少々まずいぞ。

 ここで戦えば、外の部隊が一気に、村になだれ込み鎮圧してしまう。となれば予定は全て水泡に帰する。

「分かった、独立を認めよう」


「御館様!」


「良いんだフンメル。ここで戦になれば、死人が出てしまう……自国の領民を殺すのは、避けたい。

 ……自国の領民はな」

 左近がそう言うと、その最後の言葉にフンメルは、何かに気が付いた様であり、顔色が変わったのであった。


「何とも、おめでたい考えの領主様ですな。だが、この好意は受け取っておきましょう」


 おめでたい考えなのは、お前達の方だよバ~カ。

 だがこの村長、もしかして自分が領主になりたい、野心家じゃ無いのか?まぁどちらにせよ、この状況じゃ、いつかは食われるだけだろうけど。

「好きな様に思えばいいさ。ただし、こちらとしても、連合に面する全ての街道等を封鎖させてもらう」


「かまわんよ。こちらは、セブンス連邦との交易のルートがあるのでな」


 バカか、その唯一残っているルートから、敗残兵が入ってくるっちゅうの。

 しかも、敗残兵はそこを塞ぐだけで、お前達は逃げる事も出来ない牢獄の様な状態になる……そう考えると、他の村人はチョッとは可哀想になるよな。

 そう左近が哀れんでいると、フンメルが焦りながら言ったのであった。

「な、なぁ、せめて女子供だけでもレイクシティに……」

「止めろフンメル」


「しかし、御館様!」


「この状況で、それを言うのは、彼等に人質を寄越せと、言っている様に受け止められる」

 左近がそう言うと、フンメルは悔しそうに、ただ拳を握りしめたのであった。


「どうやら、分かってらっしゃるようで」

 そう言った村長は、ニヤリと笑みをこぼしたのであった。


 このタヌキめ、俺の予想が当たりって所だな。

「では、これにて我等は退散するとしよう」


「退散する?あなた達は、ここから帰れませんよ、身代金を頂ける迄はね。

 何しろこちらは、独立したてで、何かと物入りですのでな」

 村長がそう言うと、背後にいた男達が剣を抜いたのであった。


「やれやれ、穏便に終わらせたかったのだが……」


「どうします?この人数を相手に戦う気ですか?」

 そう言った村長は、悪人の様な笑みを浮かべたのであった。


 アホかこいつらは?しょうがない、ちょっと痛い目を見てもらうか。

 時間停止(タイム・アクター)


 左近は時間を止めた瞬間、村長の背後の男達を瞬時に斬り殺すと、村長の背後から刀を首筋に置いた瞬間、時間は再び動き出したのであった。

「何処にそんな人数がいる?」


 そう左近が言うと、斬り殺した者達の血飛沫が、左近と村長に降りかかり、暫く村長は何が起こったのか、理解出来ずにいたのであった。

 だが理解できていないのは、フンメルも同じの様で、左近の動きを見て、驚きを隠せずにいたのであった。


 だが、そんなフンメルは放置して、ラナはすかさずテーブルの上に乗り、村長の手を踏みつけると、顔を覗き込み言ったのである。

「ねえ村長さん、せっかく私の夫が、皆を生かしてやろうって言うのに、それを自ら放棄するなんてバカだね。

 で、どうするの、このまま続ける?それなら、私達は容赦なく、この村の村人全員を、皆殺しにするけどね。

 知ってる?私達は、パナスの住民を容赦なく虐殺したんだ。

 この村の村人全員殺すのは、簡単だよ……」


 ラナさん、貴女どうみても、悪の女王みたいな感じに、なっていますよ……オヤジさん、アデルすまない、うちの爆乳妻は不良になってしまいました。

 左近はそう思っていると、村長はその手の痛みで我に戻り、恐怖でただ頷くしかなかったのであった。


「良い子だね、じゃあこれから、どうするか分かるよね?」

 ラナがそう言って足を退けると、村長は恐怖に取り付かれながら言ったのであった。


「は、はい…ど、どうぞお帰りを……すみませんでした」


「分かれば宜しい」

 そう言ったラナは、テーブルから降りて、村長の頬を軽く叩いて言ったのであった。


 何だかラナが、ママの様になっている……将来が不安だ、あんなガチのマフィアになったら嫌だな。

 そんな事を思いながら左近達は、恐怖で脅えた村長の先導で村を後にしたのであった。


 そして、バッシュ達と合流した左近は、バッシュとフンメルに十字軍で村の封鎖を命じ、自身はレイクシティに戻って行ったのであった。




 ―――――――――





 その頃、左近の命で箱根の忍、風間一族に会いに向かっている、アデルと桐の二人は、船で紀伊の国を出て、小田原に到着していたのであった。


「あ~久々の陸地、何だか落ち着くね、あなた」

 そう言った旅の着物姿の桐の目線の先には、編笠を被り顔を隠した、桐と同じく旅の侍姿のアデルがいたのであった。


 陽気に話す桐とは対照的に、アデルは終始無言で、無愛想なふりをしていたのである。

 そんなアデルの元に、桐は近付くと、他の者に分からない様に、アデルの腹に1発パンチを入れると、小声で言ったのであった。

「ほら、そんなに無言だと、逆に怪しまれるでしょうが。今の私達は、夫婦で旅行に来ているの、分かる?」


「す、すまない。だが俺のルタイ語は、何処か変ではないか?」


「小心者かよ……大丈夫、それより今日は、日が暮れるまでに、箱根の温泉町に行くよ」


「ああ、分かった」

 そう言った二人は、一路箱根の温泉町を目指したのであった。



 小田原の町を抜けて、温泉町を目指し歩いていると、人がいなくなった所で、桐がアデルに話し掛けてきたのであった。

「どう、ルタイ皇国は?思ったより皆、痩せているでしょ?」


 それは、アデルがルタイ皇国に到着して、最初に思った事であった。

 空間転移で移動した京から、ここまで姿を見る民は、皆が痩せていたのである。

 これを意味するのは、ルタイ皇国は、食糧難に陥っていると言うことであった。

「あぁ……」

 アデルは、頭の中では、そう思っていながらも、ただ一言だけ言ったのであった。


 だが桐も、ここまで夫婦として旅をしてきたせいか、少しはアデルの事が、分かって来たのであった。

 このアデルと言う男は、頭の中で自分で、色々と考えてはいるが、口に出すのは少なく、腕の立つ男ではあるのだが、天然な一面もある。

 そんなアデルを桐は、何処か面白い奴だと思えてきたのであった。

 だからか、桐はアデルの「あぁ……」の一言に、色々と聞きたいのだが、その一言しか言えないと、分かっていたのであり、それが何か可愛く思えていたのであった。


「食料不足なのルタイ皇国は……今回の連合を作ったのはその為。どう、ガッカリした?」


「……いや、何で?」


「何でってあんた、左近衛大将様の行動に裏あるって、知っていたのか?」


「俺なんかが、知るわけ無いだろう。ただ俺は最初に御館様から、お前には、意味は教えないが良いか?と聞かれて、俺は良いと答えた…それが全てだ」


「何それ、左近衛大将様も無茶苦茶だけど、あんたも無茶苦茶じゃないか……変な関係。

 おっ!あんな所に茶屋が在る、ちょっと寄って行こうよ」

 そう言った桐は、アデルの腕を引っ張り、茶屋の方向に向かって行ったのであった。



 二人は小さな茶屋に入った瞬間、二人は一瞬だが、何処か違和感を感じたのであった。

 一見普通の茶屋の様だが、入った瞬間まで、全く人の気配がしなかったのである。

 それが中に入ると、ワンテンポ遅れて、気配を感じたのであった。


 これを意味するのは、茶屋の擬装である。つまり中にいるのは、何処かの忍であると言う事になる。

 そして、この場合一番考えられるのは、風間一族であったのだ。

 二人は、警戒しながらそれでいて自然に、桐は声を出したのである。

「すみません、誰かいませんか?」


「はい、はぁ~い」

 そう言って中から出てきたのは、一人の幼い少女であった。


「お団子二人前と、お茶下さい」


「はぁい。お爺ちゃんお団子二人前とお茶だって」

 そう言った少女は、パタパタと奥に走って行ったのであった。


 アデルと桐は、お互いに目を合わせ、懐の武器をいつでも取り出せる様にすると、奥から一人の目の細い老人が、団子とお茶の乗ったお盆を運んできたのであった。

「団子二人前にお茶だったね。

 そう言えば、見ない顔だが、お前さん達、何処から来なすった?」


「紀州からですよ」


「ほう、紀州からね……そっちのお前さんは、お侍さんかね?」


「…そうだ」


「そうですか、私はてっきり、大陸から来た、左近衛大将の使いかと思いましたよ」

 そう老人が言った瞬間、アデルと桐は、刀と懐の武器に手を掛けた瞬間、ここで初めて茶屋を囲んでいる気配に、気が付いたのであった。


 これは罠だったのか、あの気配も私達をここに誘き寄せる為に、わざとだったのか?だとするなら、根来の里に潜入されていると言う事だし、今まで自分達は、尾行もされていたって事だ。

 しかし、これはまずいぞ、流石にこの人数の忍を相手に、私とアデルの二人はキツイ。

 そして何より、目の前にいるこの老人…かなりの手練れの様だ、先程からわざと、私達に分かる様に、目の前で気配を消している。

 ここは戦わずに、話し合いに持っていきたいのだが。

 そう思った桐はアデルの方向を見ると、アデルも同じ考えの様で、目で桐に合図をしてきたのであった。


 そうかい、んじゃ腹を括るしか無い様だね。

 そう思った桐は、老人に話しかけたのである。

「いいか、私達はあんた達と、殺し合う為に来た訳じゃ無い……その証拠に、両手を上げて、武器を待たない事を証明するけど、攻撃はするなよ」

 そう桐が言うと、アデルもゆっくりと両手を上げたのであった。


「……そちらのお嬢さんは、先程あんた達と申されたが、何であんた達と言ったのかね?」


 こいつは、一体何を言っている?もちろん、茶屋の外に居る者に、決まっているだろうが。

 変な事を聞く奴だ。

 そんな事を考えながら、桐は答えたのであった。

「外に居る者を含めて、あんた達と言った。ただそれだけだ」


 桐がそう言った瞬間、老人は笑顔になり、言ったのであった。

「ほう、気が付いたか…どうやらそちらの、お侍様も同じようじゃな。

 ワシらが風間一族じゃ、用件を聞こうかの」


 やはり風間一族だったか。

 しかし、ここで言う話では無いしどうしようか?

 そう桐が考えていると、アデルが老人に言ったのであった。

「ここで出来るわけ無かろう」


 バカかこいつは!そんな事を言って、相手の機嫌を損ねたら、私達は殺されるぞ。

 そう思い肝を冷やしている、桐を横目に老人は、顎に手を当てて暫く考えると、アデルに向かって言ったのであった。

「確かに、それもそうじゃの。だが、ハイそうですかと里に連れて行けば、里の場所を知られてしまう。

 そこでじゃ、今からお主達に目隠しをし、背負って里に連れていく、それで良いかな?」


「仕方がない」

 アデルはぶっきらぼうにそう言うと、桐も頷き了承したのであった。


 そしてアデルが、編笠を取って顔を見せた時であった、明らかにアデルの、髪の毛の色を見て、大きく見開き驚いたのであった。

「何とも……大陸の者は、そうであったか……」


「早くしろ」


「すまなかった」

 そう言った老人は、アデルと桐に目隠しをして、両手を縛ったのである。


「少し不自由じゃが、我慢してくれ」

 そう言うと、明らかに老人では無い者の背中に二人は背負われ、山の中に消えて行ったのであった。





 それから1日中アデルと桐は誰かに背負われ、山中を動き回ると、やがてアデルと桐に、聞き覚えのある言語が聞こえてきたのであった

「止まれ、その者達はどうした?」


「おじじ様が、お頭の所に連れていく様だ」


「分かった、入れ」

 そう言うと、また二人を背負った者は動き出したのであった。


 今のはキリバ語であったが、ここはルタイ皇国じゃ無いのか?

 アデルが、そう思いながら暫く背負われていると、二人を背負っていた者達は立ち止まり、二人はその場所に下ろされたのであった。


 足の裏には、土では無く板の感触がする。と言うことは、ここは建物の中だと言うことだ。

 二人はそう思っていると、ルタイ語で話し掛けられたのであった。

「今から目隠しを外すが、両手はそのままだ。分かったな?」


 誰か男の声でそう言われると、二人はそのまま頷いたのであった。

 そして、二人の目隠しは、外されたのであったが、そこは予想通り建物の中で、目の前にはルタイ皇国には珍しい、赤毛の人間の男が座っていたのである。


 その男は、優しい笑みを浮かべながら、二人に言ったのであった。

「ようこそ参られた、俺が風間 小次郎だ。まぁ座ってくれ」


「根来衆、桐です」


「佐倉家のアデルです。懐に根来衆の土橋様からの書状が入っていますが、出しても宜しいかな?」

 そう言って、二人は警戒しながら、座ったのであった。


「別にそんな書状を貰わなくても、内容は既に知っている。

 所で、そんな事より、そっちのアデルだったか?その髪の毛は本物か?」


「本物だが」


「すまないね。俺も大陸の者を見るのは初めてで、黒い髪の毛のダークエルフしか、知らないんだよ」


「そのわりには、そちらもルタイ人らしからぬ、赤毛の様だが」


「ああこれね。実は我等はルタイ人とは少し違ってね、この様な髪の毛の色で生まれるんだよ。

 そして里の言葉も特殊でね……」

「それは、この様な言語では無いか?」

 そう言ったアデルは、キリバ語で小次郎に話しかけたのであった。


「こりゃ驚いた……これはますます、言い伝えの信憑性が、高くなってきたねぇ」

 小次郎がそう言うと、回りの者が何かを言おうとしたのだが、小次郎はそれを制したのであった。


「言い伝え?」


「俺達、風間の者は、その昔の超帝国が、ルタイ皇国に攻めてきた時に、ルタイ皇国に取り残された兵士の末裔だって話だ。

 だから、一族じゃさっきの言葉で話している」


 その言葉で、桐は今まで風間一族が他の忍の潜入を、許さなかった事が納得出来たのであった。

 髪の毛の色も、言語も違えば、その里の者では無いのが、一目瞭然だったからである。

 でもどうして小次郎は、自分達にその事を話したのだろうか?

 桐は疑問に思っていると、それを察したのか、小次郎が桐に話し掛けてきたのであった。

「どうした、不思議そうだな?」


「ええ、まぁ……」


「考えてもみろ、今まで俺達が優位だったのは、髪の毛の色や言語が違ったからで、開国し連合になったからには、大陸の者が来て、その優位性が無くなる。

 遅かれ早かれ、こんな事はバレるんだから、別に秘密にしなくても、良いじゃねえか」


「それよりは、友好的にしようとしている、御館様を引き込もうと言うことだな?」


「そっちの兄ちゃんは、話が早くて楽だね。そうだよその通りだ。

 俺達は左近衛大将の願いを叶える、その代わりに、こちらの要求も叶えて貰う。お互いに良い話だと思うがな」


「……条件は?」


「条件は4つ。

 金と、俺達が住む土地と、新しい血と戦だ」


「金は分かるが、住むのは、ここではダメなのか?それに新しい血とは?」


「先ずは住む土地だが、ルタイ皇国が開国した以上、俺達の秘密がバレるのは時間の問題だ。

 多分……いや絶対だな、バレると他の忍が、こぞって、この里に潜入してくるだろう。そうなると戦になり、子供達や戦えない者が命を落とす。

 俺はこの一族の頭だ、頭は一族全ての者の事を、考えなくてはいけない。

 そうなると、考えられるのは、大陸に移住する事だ」


「なるほど、大陸だと御館様が目を光らせているので、手は出せないからな。

 では、新しい血とは?」


「見ての通り、この里の者は、その外見の為に、外から人を入れてはおらん……そうなると徐々に血は濃くなり、まともに生まれて来る者は少ないのだよ。

 だが、こちらとしても、誰でも良いって訳では無い。強い者、大陸の者に限定される。

 そうでなければ、我等のルタイ皇国での優位性は、無くなってしまうからな……で、お前さん、俺の娘と結婚しないか?」


「何でそこに、話が行くんだよ!」


 思わず桐がツッコんだのだが、アデルは無表情で返答したのであった。

「良いだろう」


「良いのかよ、そこは断れよ!」


「ただし、御館様の許可が必要だ」


「姉ちゃん、諦めな。良いだろう兄ちゃん、此方としてもそれでかまわない」


「それで、里の者は何名ほどいる?」


「800って所だな、土地は在るのか?」


「何とか聞いてみよう。

 では、俺達と誰かがレイクシティに一緒に来て、御館様と正式に交渉して欲しいのだが、誰が来る?」


「そこは、頭の俺が行かねばなるまい。ただし、姉ちゃんはこの里に置いていく、意味はあんまり無いかも知れないが、一応人質って事だ」


「分かった、それで良いだろう。

 だが此方もルタイ皇国に不馴れだから、何かと迷惑をかけるかも知れない、それでも良いかな?」


「そう言う事なら、娘の夏を連れていこう。誰か夏を呼んできてくれ」

 そう言って話がトントン拍子で決まっていく様子を、桐はただ見ているだけしか、出来なかったのである。


 やがて、部屋に入って来た女性は、とても綺麗とは言い難いが、人懐っこそうな、10代後半の赤毛の女性であった。

「夏です、以後お見知りおきを」


「兄ちゃん、良いか?」


「良い」

 この一言で、アデルの婚約が決まったのであった。


 本当に男って何だよ、女を道具としてしか見ていないじゃないか!これなら左近衛大将様の方がよっぽど女性の事を考えているし。

 そう思った桐は、明らかに不機嫌になっていたのであった。




 ――――――――――――




 アデルと桐が、風間の里に来たその日の夜は、アデル達は小次郎達に熱烈な歓迎を受けて、その翌日の早朝には旅支度を終えた、アデルと小次郎と夏がいたのであった。

 二人の髪の毛の色は、どうやったのか既に黒く染まっており、何処からどう見ても、ルタイ人になっていたのである。


 髪の毛の色を変えるとは、凄い術だな。

 思わずそう思い夏を見ているアデルに、小次郎が話し掛けてきたのであった。

「兄ちゃん、これから何処に向かうんだい?」


「先ずは京の都だな。そこから一気に、レイクシティに空間転移で飛ぶ」


「了解した。兄ちゃん、遠駆けは出来るかい?京なら船より俺達は、遠駆けの方が早いんでな。

 もちろん人の少ない道を行く」


 遠駆け?何だろうか?

「遠駆けの意味は分からないが、足の早さには自信がある」


「それだけで十分だ。じゃあ皆、おじじ様の指示に従い、この姉ちゃんを客人として扱う様に。

 じゃあ大陸までちょっと行ってくるわ」

 そう言った小次郎が走りだすと、アデルと夏も走り、みるみるうちに姿が消えたのであった。





 ―――――――――





「兄ちゃん、ここが空間転移の建物か?」

 そう言ったアデル達の目の前には、ルタイ皇国に似つかわしく無い、西洋風の教会の様な建物が、夕焼けに輝いて、建っていたのであった。


 アデル達三人は、通常陸路だと12日はかかる道程を、たったの7日でここ京まで来たのである。

 そして京に到着し、アデルの案内で、建築中である佐倉家、京屋敷の隣に建っている、空間転移専用建築、通称(ゲート)にやって来たのであった。

 もちろんこれは、フレイアが趣味全開でスキルで建てた建物である。

 だが京屋敷の方は、珠が少しでも家族と一緒にいれる様に、大工に任せて、そこは放置していたのであった。


「そうだ、ここが通称(ゲート)と呼ばれる空間転移専用の建物だ。行くぞ」

 そう言ったアデルを先頭に、三人は中に入ると、1つのカウンターがあり、そこにルタイ皇国の侍が座っていたのであった。


 アデルは、そのカウンターまで、何も気にせずに編笠を取り近付くと、侍に言ったのである。

「佐倉 左近衛大将 清興様の配下で血盟十字軍クラン・オブ・クルセイダースのアデルだ。

 御館様の命令で、御客人を連れてきた、まだ午後の便は行けるか?」


「アデルさんですね、お聞きしています。ええ、まだ行けますよ。

 それと来年からIDカードが必要になるので、左近衛府で発行してもらって下さいね」


「IDカード?」


「ええ、IDカードです。元帥閣下は、身分証明書のカードを作られたそうですので、これからは連合の全ての者が持つカードになるそうです。

 これで税金や警備を強化しようと言う狙いでしょう」


 そうか、御館様は連合全体の警備を強化しようとしているのか。

 そう思いながらもアデルは二人を連れて、レイクシティに向かったのであった。


 空間転移を抜けると、そこは豪華に装飾された、セントラル城のエントランスであった。

 アデルがエントランスに出ると、黒く全身を包む大きな鎧姿のリンが立っており、まさにセントラル城の象徴とも言うべき威厳を、放っていたのである。


「お、おい兄ちゃん、あの御方は何者だい?かなりの手練れの様だが」


 小次郎は、エントランスの中央に立っている、リンの姿を見て、自身がかなりの手練れだからか、リンの強さを正確に理解し、恐れていたのであった。

「あの御方は、御館様の娘のパンドラ様の騎士団のお人でリン様だ。

 大丈夫、無口だが、ああ見えてかなりの腰の低い御方なので、誰にでもペコペコされる……そう言えば前に野良猫に頭を下げて謝っていたな」


「へ、変な奴だな」

 そう言った小次郎であったが、明らかにその場の空気に、のまれている様であった。

 そしてそのまま外に出ると、ルタイ皇国と全く違うその景色に、小次郎は圧倒されたのである。


「お、おい兄ちゃん、本当に髪の毛の色が、俺達の様な人が歩いているぞ」


「最近は人が増えましたからね、はぐれないで下さいよ。こっちです」

 そう言うと、アデルは左近衛府に向けて、歩き出したのであった。



 そう言えば、この夏と言う娘は、父親はこんなにもはしゃいでいるのに、表情に全く変化が無い。

 京までの道程もそうだ、俺と小次郎殿の速度に平気でついてきていた……一体何者なんだ?

 そう思っていたアデルに、小次郎は緊張を隠すかの様に、話し掛けてきたのであった。

「なぁ兄ちゃん、あんた家族はいるかい?」


「何故だ?」


「左近衛大将殿が、夏と兄ちゃんの結婚を了承したら、俺達は親戚だ。つまり、兄ちゃんの家族は、俺の親戚になるから、挨拶だけはしておかないとな」


 ……なるほど、それがルタイ人の考えか。

「妹が1人いる、もう結婚しているが」


「そうかい、じゃあ認めてもらったら、挨拶に行こうか?」


「挨拶ね……レイクシティに住んでいるから、すぐに会えるさ」

 そう言って、クスリとアデルは笑って、先に進んだのであった。





「何じゃこりゃ!」

 思わず小次郎が言ったのも、無理は無かった。

 小次郎達の目の前に在るのは、二人が今までに見た事も無い、宮殿だったのである。


「さぁ行こうか。まだ執務室に、いらっしゃると良いのだが」

 そう言ってアデルは、先に進んでいき、小次郎と夏は、慌ててアデルについて行ったのであった。



 アデルは左近衛府の中に入ると、受付の様なカウンターに座っている、エルフの女性に話しかけた。

「アデルだが、佐倉元帥閣下は、まだいらっしゃるか?」


「ご用件は?」


「前に言われていた、客人を連れてきた、そう言えば分かる」


「分かりました、少々お待ち下さい」

 そう言うと、受付のエルフは小次郎達に、聞こえるか聞こえないかの声で話し出すと、暫くしてアデルに言ったのであった。


「お待たせしました、只今元帥閣下は、来客中ですが、会われるそうです。

 このまま執務室に、お進み下さい」


「ありがとう。じゃあ二人とも、行こうか」

 そう言うとアデル達は階段を上がって行ったのであった。


「おい兄ちゃん、ここは何だよ?」


「ここは、連合軍の本部の左近衛府だ。向こうに見える建物が、御館様の邸宅だ。

 これから御館様に会いに、執務室と言う仕事をする部屋に行く」


「マジかよ、左近衛大将殿って、何処まで金を持っているんだよ。

 それに何だか皆、同じ服を着ているし……何だか俺達は場違いの様な気がする」


「気にするな、連合軍は戦場以外の職務中は、制服を着る事になっている。

 これは、様々な国が集まっている連合軍だから、一体感を出すように御館様が考えた事なのだ。

 そう言っているうちに到着したな、ここだ」

 そう言ってアデルは扉をノックすると、中から制服姿の蘭が出てきたのであった。


「アデルさん、っと……あぁ御館様のお客様ね。今はちょっと来客中なので、中で待っててもらえますか?」


「分かった」

 アデルはそう言って中に入ると、もう1人軍服姿のギャルの様な、女の子がいたのであった。


 誰だろうか?そう思っているアデルを察したのか、蘭が説明してきたのであった。

「アデルさんは初めてだったよね。こちらは、元帥専属第三秘書のヴィオラ伍長です」


「ヴィオラ伍長でぇす、宜しくねん」

 そう言ったヴィオラは、見たまんまのギャルの様なノリで、アデルに挨拶したのであった。


「見ての通り、内局も何でこんな人を秘書に寄越したのか、頭が痛いです」

 そう言った蘭は、頭に手を当てて嘆いたのであった。


「ちょっと少尉、人じゃ無くて、サキュバスですから、そこん所は御間違えなく。

 それに自分はここに志願したんスよ。

 ここに居れば、元帥閣下とお近づきになれるし、あわよくば玉の輿も有り得るっしょ」


「私は本当に頭が痛いです……

 そうだ、アデルさん、さっき内局から連絡があって、これが終わったら、制服と階級章を取りに来いって言ってましたよ。

 因みに階級は、私と同じ少尉です」


「……すまん、全く階級の事は分からんのだ」


「そう言うと思って、これが階級と組織図です。後でちゃんと確認しておいて下さいね」

 そう言ってアデルは、蘭から紙を受け取ると、奥の扉が開いて、マーティが出てきたのであった。


「では閣下、時計塔の件は、その様にお願いしますね」

 そう言ったマーティは、そのまま一礼すると、アデル達に軽く会釈をして、出ていったのであった。


 あれは、グレゴール商会の会頭だ……商談か何かかな?

 そう思っていると、クロエが書類を持って出て来て、言ったのであった。

「少尉、伍長、この書類をキリバ語と魔族語に翻訳して、内局に持って行って。

 アデル少尉と御客人は、こちらにどうぞ」


 夕方なのに仕事を押し付けられて、泣きそうになっている、蘭とヴィオラを横目に、三人は執務室に入ったのであった。



「ようこそ参られた、私が佐倉 左近衛大将 清興です、まぁ座って下され」

 そう言って、左近が笑顔で小次郎と夏に話してきた事で、二人は毒気が抜かれた様に、ただ頷き座ったのであった。


「アデル、そう言えば桐の姿が見えないが、どうした?」


「はい、桐は一応人質として、風間の里に残っております」


 アデルのその言葉で、小次郎は我に戻ったのであった。

 エントランスにいた、リンの様な猛者を配下にしている、左近衛大将の機嫌を損ねると、自分の命が危ない。

 今は友好的になっているとは言うものの、いつ自分達に牙を向けるかもしれない、そんな恐ろしさを小次郎は、感じ慌てて言ったのであった。

「私は風間 小次郎で、これは娘の夏にございます。桐殿は人質とは言え、客人の様に扱っておりますのでご心配なく」

 そう言った小次郎は、頭を下げて釈明したのであった。


「それは良かった。で、アデルよ、何処まで小次郎殿に話したのだ?」


「ある程度の事は、道中に言いました。そこで小次郎殿からも条件があるそうです」


「条件ね……何だ?」


「それは、私から説明しましょう。こちらの条件としては4つ、金と移住する土地、そして新しい血と戦に御座います」


 金と土地は分かる、だが新しい血と戦って何だろうか?

「新しい血と戦とは?」


「新しい血とは、我等は見ての通り、ルタイ人の容姿では無く、どちらかと言うと大陸の容姿に近く、その為に里の内部で長い間、子を作り育ててきました。

 ですが、それも最早限界で、外からの新しい血を入れねば、血が濃すぎて、まともに生まれてくる者は少なく、我等は滅びるしか御座いません。

 しかし、外からの新しい血を言いましても、誰でも良い訳では御座いません。

 忍の術に長けた者で、なければなりません……そこでこのアデル殿を我が娘、夏の婿に頂きたいのですが宜しいでしょうか?」


 …………

 ……

 …

 ……ハッ!しまった、話が急過ぎてフリーズしてしまった。

「話の内容は分かったが、俺は当人同士の問題だと思っている。アデル、本当に良いのか?」


「問題ありません」


「夏殿はどうだ?嫌なら、俺が助けてやるが……こいつ無口だぞ、多分結婚しても会話が無いぞ、それでも良いのか?」

 しかし、左近の説得は虚しく、夏はただ頷くのみであった。


 何だよ、この子も無口なのか……最初から完全に、会話の無い夫婦じゃ無いかよ。

 まぁ当人同士が良いなら、良いんだが。

「じゃあ、俺も文句は無いな。これからは、親戚同士になるわけだし、宜しくな」

 左近がそう言うと、二人は理解できない様で、キョトンとしていたのであった。


「まぁ少々複雑な関係なのだが、アデルの実の妹は俺の妻なんだよ。アデル言ってなかったのか?」


「少々めんどくさくて、未だ言っていませんでした」

 そう言ったアデルは、笑顔で言っていたのであった。


 あれ?アデルって笑顔になる事もあるんだ。

 それほどこの二人に、気を許しているって事かな?まぁどちらにせよ良いことだ。

「では、次に戦の事だが……小次郎殿?」


「え?ああ、すみません呆然としてしまいました。

 戦の事ですが、我等の忍の術は使わなければ、それは徐々にでしょうが、衰退するものと心得ております。

 ですので、忍の術を使える様な仕事を私達に頂きたいのです。

 ただ、我等は今更どの派閥に属しても、何処かの里の下に属さねばならぬでしょう、それよりは……」

「それよりは、決まった忍の一族を持たない、俺の所なら主導権を取れる」


 左近がそう言うと小次郎は、ニヤリと笑みを浮かべて言ったのである。

「此方としても、けっこう、切羽詰まっているんでね」


「その前に、聞きたいのだが、小次郎殿の言われる、忍の術とは何だ?」


「何だと言われましても、言うのは難しいですが、強いて言うなら、殺しをしないって事でしょうか。

 忍の仕事は、暗殺も有りましょうが、その殆どは、敵の情報を奪い、出来れば操作する諜報活動です。

 諜報で殺しをするのは、下策中の下策って事でさぁ」


 この小次郎、俺と同じ事を考えていやがる。

「気に入った。小次郎、あんたは俺の欲している忍だ。里の者は何れ程いる?」


「約800」


 800か、ちょっとした村になるな、まぁ里って言ってたから、それぐらいか。

「クロエ、明日か明後日にでも、キースと会う予定を入れてくれ」


「かしこまりました」


「次に金の事だが……」

「その前に、アデルに聞いて考えたのだが、俺達が左近衛大将殿の派閥に属したのは、あまり知られない方が、何かと都合が良いかもしれない。

 むしろ、俺達が左近衛大将殿と、敵対していると見せかけた方が、対抗勢力が接触してきて、情報も聞き出せるだろうし、何かあっても、我等と左近衛大将殿が、繋がっているとは考えますまい」


 なるほどな、確かに言われてみれば、有効だ……よし、良い事を考えたぞ。

「ではこうしよう。左近衛府に送る予定の、金の運搬ルートを襲ってくれ。

 もちろん場所は、ルタイ皇国で、金額は……そうだな200万シリングだ。」


「おいおい、さすがにそんなには、頂けませんよ」


「貰っておけ、金はあるに越したことはない。

 クロエ、鬼島 大佐に面会予定も作ってくれ」


「かしこまりました」


「さて、今夜はアデルの婚約パーティだ、皆喜ぶぞ。そうだな……クロエ、秘書の皆も来て、今夜は飲もう。

 小次郎殿、暫くの滞在は、俺の屋敷に泊まるといい」


「ありがとう御座います」

 こうしてその夜は、左近の邸宅でアデルと夏の婚約パーティが、開かれたのであった。


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